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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】情報処理装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/3206 20190101AFI20240930BHJP
   G06F 1/3212 20190101ALI20240930BHJP
   G06F 1/3228 20190101ALI20240930BHJP
   G06F 1/3287 20190101ALI20240930BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
G06F1/3206
G06F1/3212
G06F1/3228
G06F1/3287
H02J1/00 307F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023185941
(22)【出願日】2023-10-30
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】牧 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】大澤 治武
【審査官】佐賀野 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-046391(JP,A)
【文献】特開平11-085301(JP,A)
【文献】特開2023-047293(JP,A)
【文献】特開2021-111094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/26- 1/3296
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシステムと、
電源回路と、を備え、
前記電源回路は、
外部電源またはバッテリから供給される電力を前記コンピュータシステムに供給し、 前記コンピュータシステムは、
システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、
前記第1低電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、
前記第2低電力状態は、前記第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である情報処理装置であって、
前記コンピュータシステムは、
前記第1低電力状態の開始時からの経過時間が長いほど、小さくなるように消費電力の基準値を定め、
前記システム状態が前記第1低電力状態であって、
消費電力の実測値が前記基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更する
情報処理装置。
【請求項2】
コンピュータシステムと、
電源回路と、を備え、
前記電源回路は、
外部電源またはバッテリから供給される電力を前記コンピュータシステムに供給し、 前記コンピュータシステムは、
システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、
前記第1低電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、
前記第2低電力状態は、前記第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である情報処理装置であって、
前記コンピュータシステムは、
複数時刻間における前記バッテリの残量に基づいて消費電力の実測値を定め、
前記システム状態が前記第1低電力状態であって、
前記消費電力の実測値が所定の基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更する
情報処理装置。
【請求項3】
前記コンピュータシステムは、
前記第1低電力状態の開始時からの経過時間と、前記第1低電力状態の開始時からの前記バッテリの残量の減少量に基づいて前記消費電力の実測値を定める
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記消費電力の基準値は、前記第1低電力状態における前記消費電力の標準値よりも大きい
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1低電力状態は、モダン・スタンバイであって、
前記第2低電力状態は、ハイバネーションである
請求項1または請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
外部電源またはバッテリから供給される電力をコンピュータシステムに供給する電源回路を備え、
前記コンピュータシステムが、
システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、
前記第1低電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、
前記第2低電力状態は、前記第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である情報処理装置の制御方法であって、
前記コンピュータシステムが、
前記第1低電力状態の開始時からの経過時間が長いほど、小さくなるように消費電力の基準値を定めるステップと、
前記システム状態が前記第1低電力状態であって、
消費電力の実測値が前記基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更するステップと、を実行する
制御方法。
【請求項7】
外部電源またはバッテリから供給される電力をコンピュータシステムに供給する電源回路を備え、
前記コンピュータシステムが、
システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、
前記第1低電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、
前記第2低電力状態は、前記第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である情報処理装置の制御方法であって、
前記コンピュータシステムが、
複数時刻間における前記バッテリの残量に基づいて前記消費電力の実測値を定めるステップと、
前記システム状態が前記第1低電力状態であって、
前記消費電力の実測値が所定の基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更するステップと、を実行する
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、PC(Personal Computer)などの情報処理装置の使われ方が変化している。例えば、従業員が業務目的で作業を行うとき、オフィス内に設置されたPCを使用することが一般的であった。しかしながら、リモートワークまたはハイブリッドワークの普及に伴い、家庭、レンタルオフィス、飲食店、交通機関など様々な場所でPCが使用されることが多くなっている。これに伴い、PCが使用される時間帯が多様化し、所定の勤務時間内に限られないことが一般的になりつつある。
【0003】
情報処理装置は、商用電源を利用できる環境で使用されるとは限らず、予めバッテリに蓄電された電力を消費することがある。継続的に使用できる状態を長く保つため、消費電力の低下が期待されている。他方、情報処理装置には通常の稼働状態よりも消費電力が低い低電力状態が2段階以上設けられることがある。一般に、消費電力が低いシステム状態ほど、通常の稼働状態への復帰時間が長い。そのため、復帰時間の短縮と消費電力の低減のいずれを重視するかにより2段階以上の低電力状態が使い分けられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1では、バッテリから電力が供給され、バッテリの残量が所定の閾値以下である電力低残量状態であるとき、メモリの一部を低消費電力の状態であって、使用不可能な待機モードに設定し、電力低残量状態でなくなった場合に、メモリの待機モードを解除する情報処理装置について記載されている。特許文献2には、アクティブ状態からアイドル状態に第1スリープ状態になり、予め設定された使用開始予定時刻後であって使用終了予定時刻前に第1スリープ状態になった場合、ユーザの操作が第1アイドル時間なければ第1スリープ状態よりアクティブ状態までの復帰時間が長い第2スリープ状態に遷移し、使用終了予定時刻後であって使用開始予定時刻前に第1スリープ状態になった場合、ユーザからの操作が第1アイドル時間より短い第2アイドル時間なければ第2スリープ状態に遷移するように構成される。例えば、第1スリープ状態、第2スリープ状態として、モダン・スタンバイ(Modern Standby)、ハイバネーション(Hibernation)がそれぞれ適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-49808号公報
【文献】特開2019-220101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今では、情報処理装置の中核をなすチップセットの低消費電力化が進んでいる。ある程度のバッテリ残量があればハイバネーションよりも消費電力が多いモダン・スタンバイの状態を長時間維持することが可能になっている。または、バッテリの残量が満充電状態でなくても、ある程度の継続時間にわたりアクティブ状態を維持できることがある。一例として、本願から4年前にリリースされたベンチマーク機種と同様な性能を有し、同等の容量を有するバッテリを搭載した最新機種との間でアクティブ状態を維持できる稼働時間とモダン・スタンバイを維持できる継続時間が長くなる。
【0007】
しかしながら、モダン・スタンバイでは、ホストシステムにおける演算処理は完全に停止されない。例えば、特定の機能(例えば、通信、操作入力の待ち受けなど)を提供するためのアプリケーションプログラムまたはドライバソフトウェアが実行されることや、これらの演算処理に関連する一部のデバイスが動作することがある。このとき、消費電力が予期せずに増加し、想定以上にバッテリの残量が減少することがある。そのため、モダン・スタンバイの状態を維持できる継続時間やアクティブ状態を維持できる稼働時間が短くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記の課題を解決するためになされたものであり、本願の一態様に係る情報処理装置は、コンピュータシステムと、電源から供給される電力を動作電力に変換し、前記動作電力を前記コンピュータシステムに供給する電源回路と、を備え、前記コンピュータシステムは、稼働状態を通常状態、第1低消費電力状態および第2低消費電力状態の間で、切り替え可能とし、前記第1低消費電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、前記第2低消費電力状態は、前記第1低消費電力状態よりも消費電力が少ない状態であり、前記通常状態と前記第1低消費電力状態との間で稼働状態を変更可能とする稼働時間に基づいて、前記稼働状態を制御する情報処理装置であって、前記稼働時間は、第1稼働時間と第2稼働時間を有し、前記第2稼働時間は、前記第1稼働時間を含み、かつ、前記第1稼働時間よりも長く、前記コンピュータシステムは、前記システム状態が前記第1低電力状態であって、消費電力の実測値が所定の基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更する。
【0009】
上記の情報処理装置において、前記コンピュータシステムは、前記第1低電力状態の開始時からの経過時間が長いほど、小さくなるように前記基準値を定めてもよい。
【0010】
上記の情報処理装置において、前記コンピュータシステムは、複数時刻間における前記バッテリの残量に基づいて前記消費電力の実測値を定めてもよい。
【0011】
上記の情報処理装置において、前記コンピュータシステムは、前記第1低電力状態の開始時からの経過時間と、前記第1低電力状態の開始時からの前記バッテリの残量の減少量に基づいて前記消費電力の実測値を定めてもよい。
【0012】
上記の情報処理装置において、前記消費電力の基準値は、前記第1低電力状態における前記消費電力の標準値よりも大きくてもよい。
【0013】
本願の他の態様に係る制御方法は、外部電源またはバッテリから供給される電力をコンピュータシステムに供給する電源回路を備え、前記コンピュータシステムが、システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、前記第1低電力状態は、前記通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、前記第2低電力状態は、前記第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である情報処理装置の制御方法であって、前記情報処理装置が、前記システム状態が前記第1低電力状態であって、消費電力の実測値が所定の基準値よりも大きいとき、前記システム状態を前記第2低電力状態に変更するステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0014】
本願の実施形態によれば、バッテリの残量を維持して使用できる機会を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る情報処理装置の外観構成例を示す外観図である。
図2】本実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成例を示す概略ブロック図である。
図3】本実施形態に係る情報処理装置の機能構成例を示す概略ブロック図である。
図4】本実施形態に係る消費電力基準値の設定例を示す説明図である。
図5】モダン・スタンバイの開始時からハイバネーションへの遷移までの経過時間を例示する図である。
図6】モダン・スタンバイの開始時からハイバネーションへの遷移までの経過時間ごとの消費電力基準値と累積消費電力量を例示する図である。
図7】本実施形態に係るシステム状態制御の一例を示すフローチャートである。
図8】スタンバイ・バジェットとシステム状態との関係を示す説明図である。
図9】本実施形態に係るスタンバイ・バジェット設定値を例示する表である。
図10】本実施形態に係るスタンバイ・バジェット設定値とバッテリ残量との関係を例示する図である。
図11】本実施形態に係るシステム状態制御の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本願の実施形態に係る情報処理装置1のハードウェア構成例について、図面を参照して説明する。以下の説明では、情報処理装置1が主にノートブック型PC(本願では、「ノートPC」と呼ぶことがある)である場合を例にする。
【0017】
図1は、本実施形態に係る情報処理装置1の外観構成例を示す外観図である。
情報処理装置1は、2個の筐体102、104を備える。筐体102、104は、それぞれ高さよりも幅の方が広い横長の表面を有し、高さよりも厚みの方が薄い平べったい形状を有する。筐体102、104それぞれの一側面は、幅方向に向けて並列され、相互にヒンジ108a、108bを用いて係合される。筐体102、104の一方は、他方に対して回転軸A周りに回動可能に接続される。即ち、筐体102、104それぞれの表面のなす角度(以下、「開き角」と呼ぶことがある)を可変とすることで、両者が開閉する。開き角が0°または0°に近い角度(例えば、45°~60°以下)が、筐体102、104が閉じた状態に相当する。開き角が十分に大きい角度(例えば、45°~60°よりも大きい角度)が、筐体102、104が開いた状態に相当する。筐体102、104に外力が加わらない状態では、開き角が一定に維持される。
【0018】
筐体102は回転軸Aから離れた部位においてリッドセンサ44を備える。リッドセンサ44は、筐体102、104の開閉状態を検出する。図1の例では、リッドセンサ44は、磁気センサを備える。筐体104には、筐体102と閉じた状態でリッドセンサ44と対面する位置に永久磁石46が設置される。筐体102、104が閉じた状態では、磁気センサは永久磁石に接近しているため比較的強い磁場を検出する。筐体102、104が開いた状態では、磁気センサは永久磁石から離れているため検出される磁場は、より微弱になる。従って、検出される磁場の強さに基づいて筐体102、104の開閉状態が判定されうる。
【0019】
筐体102の表面には、キーボード32k、タッチパッド32tおよび電源ボタン38が配置される。筐体102の幅方向の側面には、差込口(アウトレット)42oが設置されている。差込口42oは、ACアダプタ42のプラグを挿入可能とする空洞部を有し、挿入されたプラグと嵌合することで、空洞部の内面に設置された電極と接した状態でプラグの位置を固定する。差込口42oに挿入されたプラグを経由して、ACアダプタ42から直流電力が情報処理装置1に供給される。
ACアダプタ42には、商用電源から交流電力が供給され、供給される交流電力を一定の電圧(例えば、3V~12V)を有する直流電力に変換する。
【0020】
図2は、本実施形態に係る情報処理装置1のハードウェア構成例を示す概略ブロック図である。情報処理装置1は、プロセッサ11、メインメモリ12、ビデオサブシステム13、ディスプレイ14、チップセット21、BIOS(Basic Input-Output System)メモリ22、ストレージ23、オーディオシステム24、WLAN(Wireless Local Area Network)カード25、USB(Universal Serial Bus)コネクタ26、EC(Embedded Controller)31、入力デバイス32、電源回路33、バッテリ34、電源ボタン38およびリッドセンサ44を含んで構成される。
【0021】
プロセッサ11は、プログラムに記述された各種の命令に従って演算処理を実行し、情報処理装置1全体の動作を制御する。プロセッサ11として、例えば、1個または2個以上のCPU(Central Processing Unit)が含まれうる。
メインメモリ12は、プロセッサ11で実行されるプログラムの読み込み領域、または実行プログラムの処理データを書き込む作業領域として利用される書き込み可能メモリである。メインメモリ12は、例えば、1個または2個以上のDRAM(Dynamic Random Access Memory)チップを含んで構成される。プログラムには、例えば、OS(Operating System)、周辺機器の動作を制御するためのドライバ、各種サービス/ユーティリティプログラム(本願では、「ユーティリティ」と呼ぶことがある)、アプリケーションプログラム(本願では、「アプリ」と呼ぶことがある)などが含まれる。
【0022】
プロセッサ11、メインメモリ12およびチップセット21は、ホストシステム110(図3)を構成する最小限のハードウェアである。本願では、ホストシステム110を構成するデバイスを「システムデバイス10」と総称することがある。ホストシステム110は、情報処理装置1の中核となるコンピュータシステムである。プロセッサ11は、所定のプログラムを実行し、メインメモリ12とその他のハードウェアと協働してホストシステム110の機能を実現する。本願では、「プログラムを実行する」または「プログラムの実行」とは、プログラムに記述された指令で指示される処理を行うという意味を含む。
【0023】
ビデオサブシステム13は、画像表示に関連する機能を実現するためのサブシステムである。ビデオサブシステム13は、ビデオコントローラ(図示せず)を含んで構成される。ビデオコントローラは、プロセッサ11から入力される描画命令で指示される処理を行い、処理により得られる表示データを自部に備わるビデオメモリ(図示せず)に書き込む。ビデオコントローラは、ビデオメモリから書き込んだ表示データを読み出し、読み出した表示データをディスプレイ14に出力する。
【0024】
ディスプレイ14は、ビデオサブシステム13から入力される表示データに基づいて各種の表示画面を表示する。ディスプレイ14は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display、液晶ディスプレイ)、OLED(Organic Light Emitting Diode、有機発光ダイオード)ディスプレイなど、いかなる種類のディスプレイであってもよい。
【0025】
チップセット21は、1個または複数の周辺デバイスと接続し、各種のデータの入出力を制御する。チップセット21は、各種の入出力インタフェースを備え、それらに対応したデバイスを接続する。チップセット21は、各種の入出力方式に対応したコントローラを備える。チップセット21は、例えば、USB(Universal Serial Bus)、シリアルATA(Advanced Technology Attachment)、SPI(Serial Peripheral Interface)バス、PCI(Peripheral Component Interconnect)バス、PCI-Expressバス、およびLPC(Low Pin Connect)バスなどのいずれか、または、いずれかの組み合わせに係るコントローラを備える。図1では、チップセット21に接続される周辺デバイスとして、BIOSメモリ22、ストレージ23、オーディオシステム24、WLANカード25、USBコネクタ26およびEC31が例示されている。
【0026】
BIOSメモリ22には、BIOSなどのシステムファームウェアが予め記憶される。BIOSメモリ22には、EC31、その他のデバイスの動作を制御するためのファームウェアを記憶させておいてもよい。BIOSメモリ22は、書き換え可能とする不揮発性メモリ(例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROMなど)を含んで構成される。
【0027】
ストレージ23は、プロセッサ11で実行される各種のプログラムやデータを記憶する補助記憶装置である。ストレージ23は、書き換え可能とする不揮発性メモリを含んで構成される。ストレージ23は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などのいずれであってもよい。
オーディオシステム24は、音声データの入力、出力、および、記録を実行する。オーディオシステム24は、スピーカを備え、自部に入力される音声データに基づく音を放音する。オーディオシステム24は、マイクロホンを備え、自部に到来する音を収音し、収音した音を示す音声データを取得する。
【0028】
WLAN(Wireless Local Area Network、無線LAN)カード25は、無線LANに接続し、無線LANに直接または間接的に接続された他の機器との間でデータ通信を行う。無線LANは、所定の無線通信方式(例えば、IEEE802.11)に従って機器間で各種のデータを送受信可能とする。
USBコネクタ26は、USB(Universal Serial Bus)規格に従って周辺デバイスとデータを入出力可能に接続するためのコネクタである。
【0029】
EC31は、ホストシステムのシステム状態に関わらず、動作環境を監視し、各種デバイス(周辺装置やセンサ等)の状態を監視して制御する。EC31には、独自にプロセッサ、メモリおよび入出力端子を備え、マイクロコンピュータとして構成される。EC31には、その入出力端子を用いて入力デバイス32、電源回路33、電源ボタン38、リッドセンサ44などが接続される。
【0030】
EC31は、電源管理機能を有し、電源回路33の動作状態を制御する。EC31は、例えば、ホストシステム110から通知されるシステム状態に基づいて電源回路33を制御する。ホストシステム110がとりうるシステム状態は、例えば、通常の稼働状態(本願では、「アクティブ状態」または「通常状態」と呼ぶことがある)と2段階の低電力状態である。通常モードは、ACPI(Advanced Configuration and Power Interface)で規定された複数段階のシステム状態のうち最も活発な状態(S0状態と呼ぶ)である。低電力状態は、通常モードよりも消費電力が少ないシステム状態である。低電力状態では、少なくとも一部のデバイス(例えば、ビデオサブシステム13とディスプレイ14)の動作もしくは機能が停止される。低電力状態では、ユーザインタフェースに係るデバイス、例えば、オーディオシステム24、入力デバイス32などの動作もしくは機能が停止されてもよい。
【0031】
2段階の低電力状態には、例えば、モダン・スタンバイとハイバネーションがある。モダン・スタンバイは、S0状態の拡張状態であり、ハイバネーションよりも迅速に通常モードに復帰可能とする。モダン・スタンバイは、S0ix状態と呼ばれることもある。ハイバネーションは、モダン・スタンバイよりも消費電力がさらに少ないシステム状態である。ハイバネーションは、プロセッサ11とメインメモリ12への電力供給が停止され、ホストシステム110の動作が停止した休止状態であり、ACPIに規定されたS4状態に相当する。ハイバネーションでは、モダン・スタンバイよりもさらに多くの周辺デバイス、例えば、チップセット21に接続される全ての周辺デバイスの動作が停止する。モダン・スタンバイ、ハイバネーションは、それぞれ第1低電力状態、第2低電力状態の例に相当する。
【0032】
入力デバイス32は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた操作信号を生成し、生成した操作信号をEC31に出力する。入力デバイス32は、例えば、キーボード、タッチパッド、マウス等のポインティングデバイスのいずれか、またはそれらの任意の組み合わせを含む。EC31は、入力デバイス32から入力される操作信号をホストシステム110にチップセット21を経由して出力する。
【0033】
電源回路33には、AC(Alternating Current)アダプタ(図示せず)から差込口42oを経由して、または、バッテリ34から直流電力が供給される。電源回路33は、供給される直流電力の電圧を、情報処理装置1を構成する各デバイスの動作に要する電圧に変換し、変換した電圧を有する電力を供給先のデバイスに供給する。電源回路33は、ACアダプタから供給される電力の電圧を計測する電圧計を備え、計測した電圧を供給電圧としてEC31に通知する。EC31は、電源回路33から通知された供給電圧に基づいてACアダプタからの電力の供給の有無を判定する。EC31は、電源回路33から通知される供給電圧が所定の供給電圧の閾値以上であるか否かに応じてACモードであるか、DCモードであるかを判定することができる。ACモードは、主にACアダプタから供給される電力を消費する電源モードである。DCモードは、主にバッテリ34から放電される電力を消費する電源モードである。EC31は、判定した電源モードをホストシステム110にチップセット21を経由して通知する。
【0034】
電源回路33は、例えば、DC/DC(Direct Current)コンバータおよび充放電ユニットなどを含んで構成される。電源回路33は、EC31からの制御に従い、情報処理装置1の各デバイスへの電力供給の要否を制御する。電源回路33は、電力供給要とするデバイスのうち、所定のデバイス(例えば、プロセッサ11)に対しては、動作電力の供給量を調整する。
【0035】
充放電ユニットは、ACアダプタから電力が供給されているとき、各デバイスにおいて消費されずに残された電力をバッテリ34に供給する。充放電ユニットは、ACアダプタ42から電力が供給されない場合、または、ACアダプタ42から供給される電力が要求される電力に不足する場合には、バッテリ34から放電される電力をDC/DCコンバータを経由して各デバイスに供給する。電源回路33は、EC31からの指令に基づいて、動作させるデバイスを特定し、特定したデバイスに動作に要する電力を供給する。
【0036】
また、電源回路33は、バッテリ34の起電力を計測する電圧計を備え、充電を行わない状態で計測した起電力をEC31に通知する。EC31には、予め起電力と残量との関係を示す情報を設定しておき、電源回路33から通知された起電力に基づいてバッテリ34に蓄えられた電荷の量を残量として推定する。EC31は、推定したバッテリ34の残量をシステムデバイス10にチップセット21を経由して通知する。EC31は、一定期間(例えば、1~15分)ごとに推定したバッテリ34の残量をシステムデバイス10に通知してもよいし、推定したバッテリ34の残量が予め定めた値幅(例えば、1%刻み)
に離散化した新たな残量に異動する都度、その異動により得られる残量をシステムデバイス10に通知してもよい。後述するように、システムデバイス10に通知される残量は、システム状態の制御に用いられる。
【0037】
バッテリ34として二次電池が用いられる。二次電池は、充電および放電とも可能な蓄電池である。二次電池として、例えば、リチウムイオン電池である。
電源ボタン38は、押下操作が受け付けられる都度、情報処理装置1のホストシステム110に対する電力の供給状態として、電源投入(Power ON)および電源断(Power OFF)のいずれかに制御する。押下操作が受け付けられるとき、電源ボタン38は、押下を示す押下信号をEC31に出力する。
【0038】
リッドセンサ44は、筐体102、104の開閉状態を検出する。リッドセンサ44は、検出した開閉状態を示す検出信号を生成し、EC31に出力する。EC31は、リッドセンサ44から入力される検出信号に基づいて開閉状態を特定する。例えば、リッドセンサ44が磁気センサである場合、EC31は、検出信号に示される磁場の強度が所定の強度閾値以上となるか否かにより、筐体102、104が閉じているか否かを判定することができる。
【0039】
以下の説明では、筐体102、104が開いた状態を「開状態」(リッドオープン)、筐体102、104が閉じた状態を「閉状態」(リッドクローズ)と呼ぶことがある。EC31は、判定した開閉状態をシステムデバイス10にチップセット21を経由して通知する。システムデバイス10に通知される開閉状態は、システム状態の制御に用いられることがある。
【0040】
次に、本実施形態に係る情報処理装置1の機能構成例について説明する。図3は、本実施形態に係る情報処理装置1の機能構成例を示す概略ブロック図である。
情報処理装置1のホストシステム110は、イベント処理部114およびモード制御部116を備える。
【0041】
イベント処理部114は、ホストシステム110のシステム状態の制御に係るイベントを取得する。イベント処理部114は、例えば、EC31からの通知情報を取得する。EC31からの通知情報には、電源モード、バッテリ34の残量、筐体102、104の開閉状態、入力デバイス32から入力される操作信号の入力などがある。イベント処理部114は、ホストシステム110の動作状況を検出する。動作状況の要素として、個々のプログラムの実行状態、プロセッサ11の消費電力などがある。イベント処理部114は、取得したイベントをモード制御部116に通知する。
【0042】
モード制御部116は、情報処理装置1の動作状況と使用環境の一方または両方に基づいてシステム状態(動作モード)を制御する。モード制御部116には、あるシステム状態1と他のシステム状態2の組ごとに遷移元のシステム状態1から遷移先のシステム状態2への遷移条件を予め設定しておく。モード制御部116は、現時点のシステム状態1からシステム状態2への遷移条件を参照し、イベント処理部114から通知されるイベントに基づいて現時点における動作状態または使用環境がシステム状態2への遷移条件を満たすとき、現時点におけるシステム状態1をシステム状態2に遷移させる。モード制御部116は、制御により定めたシステム状態をEC31にチップセット21を経由して通知する。ホストシステム110のシステム状態の具体例については、後述する。
【0043】
モード制御部116には、システム状態がモダン・スタンバイである場合における消費電力の基準値(以下、「消費電力基準値」と呼ぶことがある)を予め設定しておく。残量基準値は、モダン・スタンバイからハイバネーションへの遷移条件の要素をなすパラメータである。消費電力基準値は、システム状態がモダン・スタンバイである場合における標準的な消費電力(以下、「消費電力標準値」と呼ぶことがある)よりも有意に大きい値となる。モード制御部116は、システム状態がモダン・スタンバイであるとき、情報処理装置1の消費電力の実測値(以下、「消費電力実測値」と呼ぶことがある)を取得し、取得した消費電力実測値と消費電力基準値とを比較する。
【0044】
モード制御部116は、消費電力実測値が消費基準値よりも大きいとき、システム状態をモダン・スタンバイからハイバネーションに遷移させる。モード制御部116は、消費電力実測値が消費電力基準値以下となるとき、システム状態をモダン・スタンバイのまま維持する。モダン・スタンバイでは、一部のプログラムが実行され、デバイスが動作する。情報処理装置1の消費電力が予期せずに想定以上に多くなることがある。そのような場合に、システム状態をハイバネーションに遷移させることで、バッテリ34の残量の減少を抑制することができる。
【0045】
モード制御部116は、複数の異なる時刻ごとにイベント処理部114から通知されるバッテリ34の残量に基づいて消費電力実測値を算出することができる。モード制御部116は、例えば、モダン・スタンバイの開始(エントリ)時から最新の時刻までの経過時間に対するバッテリ34の残量の減少量の比を消費電力実測値として算出することができる。バッテリ34の残量の減少量は、モダン・スタンバイの開始時におけるバッテリ34の残量から最新の時刻におけるバッテリ34の残量を差し引いて得られる。なお、モード制御部116は、バッテリ34の残量に基づいて消費電力実測値を算出することに代え、イベント処理部114から通知されるプロセッサ11の消費電力と動作中のデバイスの予め設定された定格消費電力のとの和を、近似的に消費電力実測値として採用してもよい。
【0046】
次に、本実施形態に係るシステム状態の例について説明する。
電源断(power off)は、外部電源またはバッテリ34から供給される電力を消費しない状態である。電源断の状態では、一部の消費電力が少ないデバイスを除き、ほとんどの周辺デバイスの動作が停止する。EC31は、電源断の状態において電源ボタン38から押下信号が入力されるとき、電源回路33に対し、情報処理装置1の各デバイスへの電力供給を開始させる(電源投入)。プロセッサ11は、自部への電力供給の開始を検出するとき、BIOSメモリ22からBIOSを読み取り、読み取ったBIOSをメインメモリ12にロードし、BIOSに従って起動処理(ブート)を実行する。起動処理において、プロセッサ11は、ストレージ23に退避させていたデータをメインメモリ12にロードする。その後、プロセッサ11は、OSを起動し、OSの起動が完了した後、他のデバイスの制御に係るデバイスドライバの実行を開始する。この段階では、システム状態が通常モード(S0状態)に遷移する。
【0047】
ハイバネーション(S4状態)は、システムデバイス10の動作が停止した休止状態である。ハイバネーションでは、ハイバネーションへの遷移直前におけるプログラムの実行状態を示すイメージデータがストレージ23に退避される。ハイバネーションでも、一部の消費電力が少ないデバイスを除き、ほとんどの周辺デバイスの動作が停止する。EC31は、ハイバネーションの状態において電源ボタン38から押下信号が入力されるとき、電源断の状態と同様にシステム状態を通常モードに遷移させる。このとき、プロセッサ11は、退避させていたイメージデータを用いてハイバネーションへの遷移直前における実行状態からプログラムの実行を再開する。
【0048】
EC31は、システム状態が通常モードまたはモダン・スタンバイであり、かつ、OSからのリクエストもしくは電源ボタン38から押下信号が入力されるとき、システムデバイス10に停止処理(シャットダウン)を実行させる。モード制御部116は、停止処理において、その時点で作業領域としてメインメモリ12に存在するデータをストレージ23に退避させる。モード制御部116は、データの退避を終了した後、その時点で実行しているアプリ、デバイスドライバ、その他のプログラムによる処理を停止する。その後、プロセッサ11は、停止処理の完了をEC31に通知する。EC31は、電源回路33に各デバイスへの電力供給を停止させる。このとき、システム状態が電源断となる。
【0049】
モード制御部116は、通常モードにおいてモダン・スタンバイへの所定の遷移条件を満たすとき、システム状態をモダン・スタンバイ(S0ix状態)に遷移する。通常モードからモダン・スタンバイへの遷移条件は、例えば、一定時間(例えば、3~10分)以上表示画面が変化せずに入力デバイス32からの操作信号が検出されないとき、操作に応じて実行が指示されるアプリが存在しないとき、筐体102、104の開閉状態が開状態から閉状態に変化したとき、などのイベントがある。モダン・スタンバイでは、EC31の他、ストレージ23、WLANカード25など、一部の周辺デバイスは動作を継続してもよい。また、入力デバイス32を動作させ、イベント処理部114は、入力デバイス32からの操作信号をEC31とチップセット21を経由して待ち受けてもよい。
【0050】
モード制御部116は、モダン・スタンバイにおいてハイバネーションへの所定の遷移条件を満たすとき、システム状態をハイバネーション(S4状態)に遷移する。このとき、モード制御部116は、その時点で作業領域としてメインメモリ12に存在するデータをストレージ23に退避させる。モード制御部116は、データの退避を終了した後、その時点で実行しているアプリ、デバイスドライバ、その他のプログラムによる処理を停止する。その後、プロセッサ11は、停止処理の完了をEC31に通知する。EC31は、電源回路33に各デバイスへの電力供給を停止させる。
【0051】
モダン・スタンバイからハイバネーションへの遷移条件には、上記のように消費電力実測値が消費電力基準値以下となる場合が含まれる。その他、モダン・スタンバイの開始時からのバッテリの残量の低下量がスタンバイ・バジェット設定値以上となるとき、一定時間(例えば、10~30分)以上モダン・スタンバイが継続するとき、その時点の時刻が予め設定した休止時間に達するとき、操作信号によりスリープが指示されるとき、バッテリ34の残量が所定の限界値以下になるとき、などのいずれか1項目、または、いずれかの組がモダン・スタンバイからハイバネーションへの遷移条件として適用されてもよい。
【0052】
モード制御部116は、モダン・スタンバイにおいて通常モードへの所定の遷移状態を満たすとき、システム状態を通常モードに遷移する。モダン・スタンバイから通常モードへの遷移条件は、例えば、入力デバイス32から操作信号が入力されるとき、電源ボタン38から押下信号が入力されるとき、筐体102、104の開閉状態が閉状態から開状態に変化したとき、などのイベントがある。
モード制御部116は、予めOSその他のプログラムにおいて規定されている遷移条件を適用してもよい。
【0053】
次に、消費電力基準値の設定例について説明する。消費電力基準値は、図4に例示されるようにモダン・スタンバイの開始時からの経過時間が長くなるほど減少するように設定されてもよい。言い換えれば、消費電力基準値としてモダン・スタンバイの開始時からの経過時間が短くなるほど大きい値が設定されてもよい。これにより、図5図6に例示されるように、消費電力が多い場合には、より早期にシステム状態をハイバネーションに遷移させることで、バッテリ34の残量の減少を抑制することができる。
【0054】
図5は、消費電力実測値1、2、3のそれぞれについて、モダン・スタンバイの開始時からハイバネーションへの遷移までの経過時間t、t、tを例示する。消費電力実測値1、2、3は、いずれも消費電力標準値よりも大きいため、バッテリ34の残量が早期に減少する。本実施形態によれば、消費電力標準値よりも有意に大きい消費電力基準値と消費電力実測値が比較され、より早期にハイバネーションへの遷移が判定される。消費電力実測値3、2、1の順に大きくなるほど、経過時間t、t、tが短くなる。
【0055】
図6の例では、モダン・スタンバイの開始時からハイバネーションへの遷移までの経過時間が1、3、5時間の場合、消費電力基準値を消費電力標準値のそれぞれ10、5、3倍と設定しておく。バッテリ34の容量を50Wh、モダン・スタンバイにおける消費電力標準値を200mWと仮定すると、モダン・スタンバイからハイバネーションに遷移するまでの累積消費電力量は、それぞれ4%、6%、6%に抑えられる。このとき、電力の消費による発熱を抑制することで情報処理装置1の温度上昇を防止することができる。
【0056】
なお、消費電力基準値は、式(1)に示すように、あらかじめ製品モデルや個体について算出しておいた消費電力標準値Wと倍率nの積で表現されてもよい。モード制御部116は、式(1)に示される遷移条件を満たすとき、システム状態をモダン・スタンバイからハイバネーションに遷移させる。式(1)において倍率ntは、モダン・スタンバイの開始時からの経過時間tの増加により単調に減少する1より大きい関数値を与える関数f(t)によって求められる。Aは、モダン・スタンバイの開始時におけるバッテリ34の残量を示す。Bは、最新の時刻tにおけるバッテリ34の残量を示す。
【0057】
【数1】
【0058】
モード制御部116に予め設定しておく経過時間と消費電力基準値もしくは倍率を示す設定情報は、経過時間ごとの消費電力基準値もしくは倍率を示すデータテーブルとして表されてもよいし、経過時間から消費電力基準値もしくは倍率を算出するための関数として表されてもよい。
【0059】
次に、本実施形態に係るシステム状態制御の一例について説明する。図7は、本実施形態に係るシステム状態制御の一例を示すフローチャートである。図7に例示される処理は、ホストシステム110のシステム状態がアクティブ状態であるときに開始され、ハイバネーションに遷移するまでの過程を含む。
【0060】
(ステップS102)モード制御部116は、現時点における動作状態または使用環境がアクティブ状態からモダン・スタンバイへの遷移条件を満たすか否かを判定する。満たすと判定されるとき(ステップS102 YES)、ステップS104の処理に進む。満たさないと判定されるとき(ステップS102 NO)、ステップS102の処理を繰り返す。
(ステップS104)モード制御部116は、EC31からチップセット21とイベント処理部114を経由して通知されるバッテリ残量の情報を取得する。この時点で通知されるバッテリ残量が開始時残量に相当する。
【0061】
(ステップS106)モード制御部116は、現時点における動作状態または使用環境がモダン・スタンバイからアクティブ状態への遷移条件を満たすか否かを判定する。満たすと判定されるとき(ステップS106 YES)、ステップS102の処理に戻る。満たさないと判定されるとき(ステップS106 NO)、ステップS108の処理に進む。
(ステップS108)モード制御部116は、EC31からチップセット21とイベント処理部114を経由して通知されるバッテリ残量の情報を取得する。
【0062】
(ステップS110)モード制御部116は、開始時残量から最新のバッテリ残量を差し引いてバッテリ残量の低下量を算出し、バッテリ残量の低下量をモダン・スタンバイの開始時から最新のバッテリ残量の取得時刻までの経過時間で除算して消費電力実測値を算出する。モード制御部116は、予め設定された消費電力基準値の設定情報を参照して経過時間に対応する消費電力基準値を定め、消費電力実測値と比較する。消費電力実測値の方が消費電力基準値よりも大きいとき(ステップS110 YES)、ステップS112の処理に進む。消費電力実測値の方が消費電力基準値以下となるとき(ステップS110 NO)、ステップS108の処理に戻る。
【0063】
(ステップS112)モード制御部116は、ホストシステム110のシステム状態をモダン・スタンバイからハイバネーションに遷移させる。ここで、モード制御部116は、その時点でメインメモリ12に存在するデータをストレージ23に退避させ、データの退避を終了した後、その時点で実行しているアプリ、デバイスドライバ、その他のプログラムによる処理を停止する。その後、プロセッサ11は、停止処理の完了をEC31に通知する。EC31は、電源回路33に各デバイスへの電力供給を停止させる。その後、図7の処理が終了する。
【0064】
モダン・スタンバイからハイバネーションへの遷移条件として、モダン・スタンバイの開始時からのバッテリの残量の低下量がスタンバイ・バジェット設定値以上となることが適用される場合、スタンバイ・バジェット設定値は、一定値であってもよいが、モダン・スタンバイの開始時におけるバッテリ34の残量(以下の説明では、「開始時残量」と呼ぶことがある)が多いほど、多くなるように設定されてもよい。
【0065】
一般に、スタンバイ・バジェットの設定値が小さいほどハイバネーションに頻繁に遷移する可能性が高くなり、スタンバイ・バジェットの設定値が大きいほどモダン・スタンバイが維持される可能性が高くなる傾向がある(図8参照)。システム状態がハイバネーションに遷移すると、バッテリ34の残量が枯渇する(バッテリ切れ)リスクが低下する反面、通常モードへの復帰時間が大きくなるデメリットが大きくなる。よって、バッテリ34の残量が少ないために消費電力を節約する必要性が高いときにハイバネーションへの遷移が促される。他方、バッテリ34の残量が多いために消費電力が多い状態が許容されるときにはスタンバイ・バジェットの設定を大きくすることでモダン・スタンバイが維持される可能性を高くし、通常モードへの迅速な復帰が図られる。
【0066】
次に、スタンバイ・バジェットの設定例について説明する。図9は、本実施形態に係るスタンバイ・バジェット設定値を示す表である。図9は、モダン・スタンバイの開始時におけるバッテリ残量ごとにスタンバイ・バジェット設定値と継続時間を示す。バッテリ残量とスタンバイ・バジェット設定値は、バッテリ34の容量に対する比率(%)で表されている。継続時間は、システム状態としてモダン・スタンバイが継続しながら、開始時残量からのバッテリ残量の低下量がスタンバイ・バジェット設定値に達するまでの経過時間である。但し、図9の例では、バッテリ34の容量を50Wh、モダン・スタンバイにおける情報処理装置1の消費電力を200mWと仮定している。
【0067】
図9に例示されるスタンバイ・バジェット設定値は、全体としてモダン・スタンバイの開始時におけるバッテリ残量が多いほど、多くなるように設定されている。例えば、バッテリ残量80%、90%、100%に対して、スタンバイ・バジェット設定値は、それぞれ20%、30%、40%と設定されている。バッテリ34の容量を50Wh、モダン・スタンバイにおける消費電力を200mWと仮定すると、これらのスタンバイ・バジェット設定値に対して、継続時間は、それぞれ100h(約4日)、75h(約3日)、50h(約2日)となる。
【0068】
スタンバイ・バジェット設定値には、下限(Lower Limit)が設けられてもよい。図9の例では、バッテリ残量70%以下に対して、スタンバイ・バジェット設定値の下限として10%と設定されている。スタンバイ・バジェット設定値に下限を設けることで、バッテリ残量が少ない場合でも、モダン・スタンバイの開始後、直ちにハイバネーションへの遷移が回避されるので、通常モードに迅速に復帰する機会が確保される。
【0069】
もっとも、所定の下位限界値を下回る場合には、バッテリ34から供給される電力を消費して情報処理装置1を通常モードで継続して動作させることは現実的ではない。バッテリ残量の下位限界値は、スタンバイ・バジェットの下限よりも小さい値(例えば、3~8%)に設定される。
そこで、モード制御部116は、システム状態が通常モードまたはモダン・スタンバイであり、かつ、バッテリ残量が限界値未満となるとき、システム状態をハイバネーションに遷移させる。
【0070】
バッテリ残量ごとにスタンバイ・バジェット設定値を示す設定情報は、モダン・スタンバイからハイバネーションへの状態遷移に係る遷移条件を示す情報として、モード制御部116に設定される。設定情報は、図9に例示されるように、データテーブルで表現されてもよいし、バッテリ残量からスタンバイ・バジェット設定値を導出するための関数のパラメータとして表現されてもよい。図10に例示されるバッテリ残量Xとスタンバイ・バジェット設定値Yとの関係は、XがT+M以上100%以下の場合、Y=X-Tと表され、Xが0%以上T+M以下の場合、T=Mと表される。その場合、目標値(Target)Tと下限(Lower Limit)Mがパラメータとなる。目標値は、バッテリ残量XがT+M以上となるとき、モダン・スタンバイからハイバネーションにシステム状態を遷移させる際のバッテリ残量の基準値に相当する。
【0071】
なお、図9図10の例では、目標値T、下限Mは、それぞれ60%、10%であるが、これには限られない。目標値T、下限Mは、設計上のバッテリ持続時間、ユーザの心理に応じて適宜変更されてもよい。典型的には、目標値T、下限Mは、それぞれ50~70%、5~15%程度となりうる。
バッテリ残量が第2の閾値以上となるときスタンバイ・バジェットに上限(Upper Limit)が設けられてもよい。第2の閾値は、スタンバイ・バジェットの下限を与えるバッテリ残量の閾値(図9図10の例では、70%)よりも大きい値(第1の例えば、85~95%)に設定される。その場合には、モダン・スタンバイの継続時間が、バッテリ残量の低下量がスタンバイ・バジェットの上限の範囲内に収まるように統制される。
【0072】
上記の例では、モダン・スタンバイの開始時と、最新の時刻のそれぞれにおけるバッテリの残量の差分と、モダン・スタンバイの開始から最新の時刻までの経過時間に基づいて情報処理装置1の消費電力の実測値を定める場合を主としたが、これには限られない。モード制御部116は、時間的により細分化された時刻間のバッテリの残量の時間変化に基づいて消費電力の実測値を定めてもよい。モード制御部116は、例えば、最新のサンプル時刻と、その直前のサンプル時刻のそれぞれのバッテリの残量の差分をサンプリング時間間隔で除算して消費電力の実測値を定めてもよい。これにより、消費電力が急激に変動する事象が発生する場合、モード制御部116は、直ちにシステム状態をハイバネーションに遷移させることができる。また、モード制御部116は、サンプル時刻ごとに隣接するサンプル時刻間のバッテリ残量の差分を定め、定めたバッテリ残量の差分から現時点におけるバッテリ残量の差分を予測し、予測した変化量をサンプリング時間間隔で除算して得られる消費電力の予測値を消費電力の実測値として算出してもよい。これにより、直近のバッテリ残量に基づく消費電力が予測される。また、一時的にバッテリ残量に欠測が生じても、既知のバッテリ残量から予測される消費電力に基づいてシステム状態が安定的に制御される。
【0073】
次に、本実施形態に係るシステム状態制御の他の例について説明する。図11は、本実施形態に係るシステム状態制御の他の例を示すフローチャートである。図11に例示される処理も、ホストシステム110のシステム状態がアクティブ状態であるときに開始され、ハイバネーションに遷移するまでの過程を含む。
(ステップS202)モード制御部116は、現時点における動作状態または使用環境がアクティブ状態からモダン・スタンバイへの遷移条件を満たすか否かを判定する。満たすと判定されるとき(ステップS202 YES)、ステップS204の処理に進む。満たさないと判定されるとき(ステップS202 NO)、ステップS202の処理を繰り返す。
【0074】
(ステップS204)モード制御部116は、EC31からチップセット21とイベント処理部114を経由して通知されるバッテリ残量の情報を取得する。この時点で通知されるバッテリ残量が開始時残量に相当する。
(ステップS206)モード制御部116は、予め設定されたスタンバイ・ジェットの設定情報を参照し、取得したバッテリ残量に対応するスタンバイ・バジェット設定値を特定する。
【0075】
(ステップS208)モード制御部116は、現時点における動作状態または使用環境がモダン・スタンバイからアクティブ状態への遷移条件を満たすか否かを判定する。満たすと判定されるとき(ステップS208 YES)、ステップS202の処理に戻る。満たさないと判定されるとき(ステップS208 NO)、ステップS210の処理に進む。
(ステップS210)モード制御部116は、EC31からチップセット21とイベント処理部114を経由して通知されるバッテリ残量の情報を取得する。
【0076】
(ステップS212)モード制御部116は、開始時残量から最新のバッテリ残量を差し引いてバッテリ残量の低下量を算出し、バッテリ残量の低下量をモダン・スタンバイの開始時から最新のバッテリ残量の取得時刻までの経過時間で除算して消費電力実測値を算出する。モード制御部116は、予め設定された消費電力基準値の設定情報を参照して経過時間に対応する消費電力基準値を定め、消費電力実測値と比較する。消費電力実測値の方が消費電力基準値よりも大きいとき(ステップS212 YES)、ステップS216の処理に進む。消費電力実測値の方が消費電力基準値以下となるとき(ステップS212 NO)、ステップS214の処理に進む。
【0077】
(ステップS214)モード制御部116は、バッテリ残量の低下量が特定したスタンバイ・バジェット設定値に達したか否かを判定する。達したと判定されるとき(ステップS214 YES)、ステップS216の処理に進む。達していないと判定されるとき(ステップS214 NO)、ステップS210の処理に戻る。
【0078】
(ステップS216)モード制御部116は、ホストシステム110のシステム状態をモダン・スタンバイからハイバネーションに遷移させる。ここで、モード制御部116は、その時点でメインメモリ12に存在するデータをストレージ23に退避させ、データの退避を終了した後、その時点で実行しているアプリ、デバイスドライバ、その他のプログラムによる処理を停止する。その後、プロセッサ11は、停止処理の完了をEC31に通知する。EC31は、電源回路33に各デバイスへの電力供給を停止させる。その後、図11の処理が終了する。
【0079】
なお、上記の説明では、情報処理装置1は、ノートPCに限られず、タブレットPC、2in1PCなど、形態が異なる可搬型の電子機器として実現されてもよい。
また、第1低電力状態、第2低電力状態は、それぞれモダン・スタンバイ、ハイバネーションに限られない。第2低電力状態は、第1低電力状態よりもホストシステム110の消費電力が少ないシステム状態であればよい。例えば、第1低電力状態、第2低電力状態は、それぞれACPIに規定されたS3状態、S4状態であってもよい。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態に係る情報処理装置1は、コンピュータシステム(例えば、ホストシステム110)と、電源回路33と、を備える。電源回路33は、外部電源またはバッテリ34から供給される電力をコンピュータシステムに供給する。コンピュータシステムは、システム状態を通常状態、第1低電力状態および第2低電力状態の間で切り替え可能とし、第1低電力状態は、通常状態よりも消費電力が少ない状態であり、第2低電力状態は、第1低電力状態よりも消費電力が少ない状態である。コンピュータシステムは、システム状態が第1低電力状態であって、消費電力の実測値(例えば、消費電力実測値)が所定の基準値(例えば、消費電力基準値)よりも大きいとき、システム状態を第2低電力状態に変更する。
第1低電力状態は、モダン・スタンバイであって、第2低電力状態は、ハイバネーションモードであってもよい。
この構成によれば、システム状態が第1低電力状態であるとき、消費電力の実測値がその基準値よりも大きいとき、システム状態が第1低電力状態よりも消費電力が少ない第2低電力状態に変更される。現実の消費電力が大きいときに第2低電力状態に変更することで消費電力を低減し、バッテリ34の維持時間を延長することができる。また、消費電力の低減により発熱を抑制することができる。
【0081】
コンピュータシステムは、第1低電力状態の開始時からの経過時間が長いほど、小さくなるように基準値を定めてもよい。
この構成によれば、第1低電力状態の開始時からの経過時間が長いほど小さくなるように基準値が定まるので、消費電力の実測値が大きいほど早期にシステム状態が第2低電力状態に変更される。早期にシステム状態を第2低電力状態に変更することで、消費電力を低減し、発熱を抑制することができる。
【0082】
コンピュータシステムは、複数時刻間におけるバッテリ34の残量に基づいて消費電力の実測値を定めてもよい。
ここで、コンピュータシステムは、第1低電力状態の開始時からの経過時間と、第1低電力状態の開始時からのバッテリ34の残量の減少量に基づいて消費電力の実測値を定めてもよい。
この構成によれば、バッテリ34の残量の時間経過による変化率が消費電力の実測値として定まる。そのため、コンピュータシステムは、情報処理装置1に備わる個々のデバイスの動作状態を参照しなくても、情報処理装置1全体の消費電力を知得することができる。
【0083】
消費電力の基準値は、第1低電力状態における消費電力の標準値よりも大きくてもよい。
この構成によれば、第1低電力状態における現実の消費電力が、標準的な消費電力よりも大きいときに、システム状態が第2低電力状態に変化する。システム状態を第2低電力状態に変化させることで、情報処理装置1の消費電力を低減するとともに、発熱を抑制することができる。
【0084】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。上述の実施形態において説明した各構成は、任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0085】
1…情報処理装置、10…システムデバイス、11…プロセッサ、12…メインメモリ、13…ビデオサブシステム、14…ディスプレイ、21…チップセット、22…BIOSメモリ、23…ストレージ、24…オーディオシステム、25…WLANカード、26…USBコネクタ、31…EC、32…入力デバイス、32k…キーボード、32t…タッチパッド、33…電源回路、34…バッテリ、38…電源ボタン、42o…差込口、44…リッドセンサ、102、104…筐体、108a、108b…ヒンジ、110…ホストシステム、114…イベント処理部、116…モード制御部
【要約】
【課題】バッテリの残量を維持して使用できる機会を確保する。
【解決手段】電源回路は、電源から供給される電力を動作電力に変換し、動作電力をコンピュータシステムに供給し、コンピュータシステムは、稼働状態を通常状態、通常状態よりも消費電力が少ない第1低消費電力状態および第1低消費電力状態よりも消費電力が少ない第2低消費電力状態の間で切り替え可能とし、システム状態が第1低電力状態であって、消費電力の実測値が所定の基準値よりも大きいとき、システム状態を第2低電力状態に変更する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11