(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/24 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
B62D5/24
(21)【出願番号】P 2023529809
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2022023067
(87)【国際公開番号】W WO2022264890
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021098408
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596148478
【氏名又は名称】クノールブレムゼ商用車システムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】石川 正吾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敬
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-031132(JP,A)
【文献】実開平05-086754(JP,U)
【文献】実開平06-047079(JP,U)
【文献】特開2019-156082(JP,A)
【文献】米国特許第04217811(US,A)
【文献】米国特許第06070483(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00-5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに連係する操舵軸に螺合するボールナットの外側に形成されたラック歯と、
転舵輪に連係するセクタシャフトに設けられ、直進操舵状態に相当する前記セクタシャフトの中立位置において前記ラック歯と最も深く噛み合う中央歯を含み、前記セクタシャフトの周方向に設けられた複数のセクタ歯をもって前記ラック歯と噛み合うセクタ歯車と、
前記セクタシャフトの中立位置付近における前記ラック歯と前記セクタ歯車との噛み合いを調整する予圧付与機構と、
を備え、
前記予圧付与機構は、前記セクタシャフトの中立位置付近において前記中央歯の歯先と対向する前記ラック歯の特定歯底の歯幅方向の一端部に設けられ、前記中央歯の歯先に弾接することによって発生する反力に基づき、前記ボールナットの回転方向の一方側へ前記ボールナットを付勢する
ものであって、
前記予圧付与機構は、
前記特定歯底に形成されたプランジャ受容穴と、
前記プランジャ受容穴に進退可能に収容され、前記プランジャ受容穴の前記セクタ歯車に臨む開口部から先端側が突出可能に設けられたプランジャと、
前記プランジャ受容穴の底部と前記プランジャとの間に介在し、前記中央歯に向けて前記プランジャを付勢する付勢部材と、
を備えており、
前記セクタシャフトは、ピットマンアームに接続される、前記セクタ歯車を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、前記セクタ歯車を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、
前記プランジャ受容穴は、前記特定歯底の歯幅方向の端部のうち、前記セクタシャフトの軸方向他端側に対応する端部に設けられている、
ことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記プランジャは、前記プランジャ受容穴の内部を摺動する大径部と、前記大径部に対して段差状に縮径形成され、前記開口部から突出可能に設けられた小径部と、を有し、
前記プランジャ受容穴は、前記開口部を前記大径部の外径よりも小さい内径となるように縮径してなり、前記大径部と当接することによって前記小径部の突出量を規制するストッパを有し、
前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近の状態では、前記大径部は前記ストッパに当接することなく、前記プランジャと前記中央歯との当接が許容される一方、
前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、前記大径部が前記ストッパに当接して、前記プランジャと前記中央歯との当接を規制する、
ことを特徴とする請求項
1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記セクタ歯車の歯底が、前記セクタシャフトの軸線に平行な平坦面となっている、ことを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記セクタ歯車の歯底は、前記セクタシャフトの軸方向の一端側に向かって前記セクタ歯車の歯たけが徐々に大きくなるテーパ面を有し、
前記セクタシャフトは、前記セクタシャフトを収容するハウジングの端壁に形成された雌ねじ孔を介して前記セクタシャフトの軸方向他端部からねじ込まれたアジャストスクリュによって、前記セクタシャフトの軸方向一端側へ移動可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項5】
ステアリングホイールに連係する操舵軸に螺合するボールナットの外側に形成されたラック歯と、
転舵輪に連係するセクタシャフトに設けられ、直進操舵状態に相当する前記セクタシャフトの中立位置において前記ラック歯と最も深く噛み合う中央歯を含み、前記セクタシャフトの周方向に設けられた複数のセクタ歯をもって前記ラック歯と噛み合うセクタ歯車と、
前記セクタシャフトの中立位置付近における前記ラック歯と前記セクタ歯車との噛み合いを調整する予圧付与機構と、
を備え、
前記予圧付与機構は、前記中央歯の歯幅方向の一端部に設けられ、前記セクタシャフトの中立位置付近において前記中央歯の歯先と対向する前記ラック歯の特定歯底に弾接することにより発生する付勢力に基づき、前記ボールナットの回転方向の一方側へ前記ボールナットを付勢する、
ことを特徴とするステアリング装置。
【請求項6】
前記予圧付与機構は、
前記中央歯に形成されたプランジャ受容穴と、
前記プランジャ受容穴に進退可能に収容され、前記プランジャ受容穴の前記セクタ歯車に臨む開口部から先端側が突出可能に設けられたプランジャと、
前記プランジャ受容穴の底部と前記プランジャとの間に介在し、前記特定歯底に向けて前記プランジャを付勢する付勢部材と、
を備えている、
ことを特徴とする請求項
5に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記プランジャは、前記プランジャ受容穴の内部を摺動する大径部と、前記大径部に対して段差状に縮径形成され、前記開口部から突出可能に設けられた小径部と、を有し、
前記プランジャ受容穴は、前記開口部を前記大径部の外径よりも小さい内径となるように縮径してなり、前記大径部と当接することによって前記小径部の突出量を規制するストッパを有し、
前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近の状態では、前記大径部は前記ストッパに当接することなく、前記プランジャと前記特定歯底との当接が許容される一方、
前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、前記大径部が前記ストッパに当接して、前記プランジャと前記特定歯底との当接を規制する、
ことを特徴とする請求項
6に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記セクタ歯車の歯底が、前記セクタシャフトの軸線に平行な平坦面となっている、ことを特徴とする請求項
5に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記セクタ歯車の歯底は、前記セクタシャフトの軸方向の一端側に向かって前記セクタ歯車の歯たけが徐々に大きくなるテーパ面を有し、
前記セクタシャフトは、前記セクタシャフトを収容するハウジングの端壁に形成された雌ねじ孔を介して前記セクタシャフトの軸方向他端部からねじ込まれたアジャストスクリュによって、前記セクタシャフトの軸方向一端側へ移動可能に構成されている、
ことを特徴とする請求項
5に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記セクタシャフトは、ピットマンアームに接続される、前記セクタ歯車を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、前記セクタ歯車を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、
前記プランジャ受容穴は、前記中央歯の歯幅方向の端部のうち、前記セクタシャフトの軸方向他端側に対応する端部に設けられている、
ことを特徴とする請求項
6に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
すなわち、下記の特許文献1に係るステアリング装置は、ステアリングホイールと連係する操舵軸と、転舵輪と連係するセクタシャフトとが交差状に配置されていて、操舵軸に螺合するボールナットに形成されたラック歯と、セクタシャフトに設けられたセクタ歯車とが噛み合うことによって構成される。
【0004】
そして、ボールナットとセクタシャフトとの間には、セクタシャフトの中立位置におけるラック歯とセクタ歯車とのバックラッシュを調整するプリロード機構が設けられている。このプリロード機構は、セクタギヤの軸方向端部と対向する位置においてボールナットの内部に付勢部材と共に埋設され、付勢部材を介してセクタ歯車側へ付勢されるプランジャと、セクタシャフトに設けられ、セクタシャフトの中立位置を中心として所定の回動範囲においてプランジャと弾接可能なカムプロファイルをもって構成されたプランジャ摺接部と、を含む。すなわち、プリロード機構は、セクタシャフトの中立位置を中心として所定の範囲おいて、プランジャがプランジャ摺接部に弾接することによって発生するプランジャ摺接部からの反力に基づき、ボールナットを回動方向一方側に付勢する。これにより、プリロード機構は、前記セクタシャフトの中立位置付近におけるラック歯とセクタ歯車のバックラッシュを低減することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来のステアリング装置では、セクタ歯車とは別にプランジャ摺接部を設ける必要がある。このため、当該プランジャ摺接部の分だけセクタシャフトの軸方向の大型化を招来してしまう、という点で、なおも改善の余地を残していた。
【0007】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたもので、セクタシャフトの大型化を抑制できるステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一態様として、ステアリングホイールに連係する操舵軸に螺合するボールナットの外側に形成されたラック歯と、転舵輪に連係するセクタシャフトに設けられ、直進操舵状態に相当する前記セクタシャフトの中立位置において前記ラック歯と最も深く噛み合う中央歯を含み、前記セクタシャフトの周方向に設けられた複数のセクタ歯をもって前記ラック歯と噛み合うセクタ歯車と、前記セクタシャフトの中立位置付近における前記ラック歯と前記セクタ歯車との噛み合いを調整する予圧付与機構と、を備え、前記予圧付与機構は、前記セクタシャフトの中立位置付近において前記中央歯の歯先と対向する前記ラック歯の特定歯底の歯幅方向の一端部に設けられ、前記中央歯の歯先に弾接することによって発生する反力に基づき、前記ボールナットの回転方向の一方側へ前記ボールナットを付勢する。
【0009】
このように、本発明では、予圧付与機構が、セクタ歯車の中央歯の歯先に弾接することをもって、ボールナットに回転トルクを付与する構成となっている。このため、本発明では、前記従来のステアリング装置のように、セクタ歯車とは別に、予圧付与機構の押圧に供する被押圧部を設ける必要がなくなる。これにより、当該被押圧部の形成に伴うセクタシャフトの大型化を抑制することができる。
【0010】
また、前記ステアリング装置の別の態様として、前記予圧付与機構は、前記特定歯底に形成されたプランジャ受容穴と、前記プランジャ受容穴に進退可能に収容され、前記プランジャ受容穴の前記セクタ歯車に臨む開口部から先端側が突出可能に設けられたプランジャと、前記プランジャ受容穴の底部と前記プランジャとの間に介在し、前記中央歯に向けて前記プランジャを付勢する付勢部材と、を備えている、ことが望ましい。
【0011】
すなわち、本発明では、予圧付与機構が、ボールナットに形成されたプランジャ受容穴と、プランジャ受容穴に収容される付勢部材及びプランジャのみで構成されていて、プランジャによりセクタ歯車の中央歯の歯先を押圧することにより、ボールナットに対する回転トルクを発生させている。
【0012】
このように、本発明は、プランジャと付勢部材、及びこれらを収容するプランジャ受容穴のみからなる簡素な構成を有するため、前記従来のステアリング装置のように、プランジャの被押圧部を加工又は形成する必要がない。これにより、予圧付与機構を比較的安価に構成することが可能となり、ステアリング装置の製造コストの低減化を図ることができる。
【0013】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記プランジャは、前記プランジャ受容穴の内部を摺動する大径部と、前記大径部に対して段差状に縮径形成され、前記開口部から突出可能に設けられた小径部と、を有し、前記プランジャ受容穴は、前記開口部を前記大径部の外径よりも小さい内径となるように縮径してなり、前記大径部と当接することによって前記小径部の突出量を規制するストッパを有し、前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近の状態では、前記大径部は前記ストッパに当接することなく、前記プランジャと前記中央歯との当接が許容される一方、前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、前記大径部が前記ストッパに当接して、前記プランジャと前記中央歯との当接を規制する、ことが望ましい。
【0014】
すなわち、本発明では、セクタシャフトの回動位相が中立位置付近にあるときはプランジャと中央歯との当接を許容し、セクタシャフトの回動位相が中立位置付近を超えたときはストッパによってプランジャと中央歯との当接を規制する構成となっている。
【0015】
このように、ストッパによってプランジャの突出量を規制することにより、剛性感が必要となるセクタシャフトの中立位置付近についてのみ、ラック歯とセクタ歯車の噛み合いを調整することができる。換言すれば、剛性感を特に必要としないセクタシャフトの中立位置付近以外では、プランジャと中央歯との当接を規制することにより、プランジャが中央歯に摺接することよって生じる、いわゆるゴリゴリ感など、操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0016】
また、本発明では、プランジャ受容穴の開口部を狭めるのみでストッパが構成されている。このため、例えば前記従来のステアリング装置のように、複雑なカムプロファイルを形成することなく、比較的簡素な構成でもって、プランジャの突出量を規制することができる。これにより、ステアリング装置の製造コストの低減化に寄与することができる。
【0017】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記セクタ歯車の歯底が、前記セクタシャフトの軸線に平行な平坦面となっている、ことが望ましい。
【0018】
このように、本発明では、セクタ歯の歯底がセクタシャフトの軸線に平行なストレート形状を有しており、前記従来のステアリング装置のように、セクタ歯の歯底をテーパ形状とせず、予圧付与機構のほかにラック歯とセクタ歯車の噛み合いを調整する機構を設けることなく、予圧付与機構のみによってラック歯とセクタ歯車の噛み合いを調整する構成となっている。これにより、ステアリング装置の構造が簡素化され、当該ステアリング装置の生産性の向上、及び製造コストの低減化に寄与することができる。
【0019】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記セクタ歯車の歯底は、前記セクタシャフトの軸方向の一端側に向かって前記セクタ歯車の歯たけが徐々に大きくなるテーパ面を有し、前記セクタシャフトは、前記セクタシャフトを収容するハウジングの端壁に形成された雌ねじ孔を介して前記セクタシャフトの軸方向他端部からねじ込まれたアジャストスクリュによって、前記セクタシャフトの軸方向一端側へ移動可能に構成されている、ことが望ましい。
【0020】
このように、本発明では、セクタ歯の歯底がテーパ面となるテーパギヤ形状を有しており、アジャストスクリュによってセクタシャフトを軸方向一端側に移動させることで、ラック歯とセクタ歯車の噛み合いを調整することが可能となっている。これにより、セクタシャフトの中立位置付近のみならず、セクタシャフトの回動範囲の全域において、ラック歯とセクタ歯車の適切な噛み合いを確保することができる。
【0021】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記セクタシャフトは、ピットマンアームに接続される、前記セクタ歯車を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、前記セクタ歯車を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、前記プランジャ受容穴は、前記特定歯底の歯幅方向の端部のうち、前記セクタシャフトの軸方向他端側に対応する端部に設けられている、ことが望ましい。
【0022】
このように、本発明では、予圧付与機構を構成するプランジャ受容穴が、セクタシャフトが比較的小径となる側に配置されている。このため、かかる小径の分だけ、ボールナットの回転中心からさらに遠い位置に予圧付与機構を配置することができる。これにより、ボールナットに対してより大きな回転トルクを付与することが可能となり、ラック歯とセクタ歯車の噛み合いをより効果的に調整することができる。
【0023】
また、別の観点から、本発明は、その一態様として、ステアリングホイールに連係する操舵軸に螺合するボールナットの外側に形成されたラック歯と、転舵輪に連係するセクタシャフトに設けられ、直進操舵状態に相当する前記セクタシャフトの中立位置において前記ラック歯と最も深く噛み合う中央歯を含み、前記セクタシャフトの周方向に設けられた複数のセクタ歯をもって前記ラック歯と噛み合うセクタ歯車と、前記セクタシャフトの中立位置付近における前記ラック歯と前記セクタ歯車との噛み合いを調整する予圧付与機構と、を備え、前記予圧付与機構は、前記中央歯の歯幅方向の一端部に設けられ、前記セクタシャフトの中立位置付近において前記中央歯の歯先と対向する前記ラック歯の特定歯底に弾接することにより発生する付勢力に基づき、前記ボールナットの回転方向の一方側へ前記ボールナットを付勢する。
【0024】
すなわち、本発明では、予圧付与機構がラック歯の特定歯底に弾接することをもって、ボールナットに回転トルクを付与する構成となっている。このように、予圧付与機構をセクタ歯車側に配置した場合でも、セクタ歯車とは別に、予圧付与機構の押圧に供する被押圧部を設ける必要がなくなる。これにより、当該被押圧部の形成に伴うセクタシャフトの大型化を抑制することができる。
【0025】
また、前記ステアリング装置の別の態様として、前記予圧付与機構は、前記中央歯に形成されたプランジャ受容穴と、前記プランジャ受容穴に進退可能に収容され、前記プランジャ受容穴の前記セクタ歯車に臨む開口部から先端側が突出可能に設けられたプランジャと、前記プランジャ受容穴の底部と前記プランジャとの間に介在し、前記特定歯底に向けて前記プランジャを付勢する付勢部材と、を備えている、ことが望ましい。
【0026】
このように、予圧付与機構をセクタ歯車側に設けた場合であっても、当該予圧付与機構を、プランジャと付勢部材、及びこれらを収容するプランジャ受容穴のみからなる簡素な構成とすることで、前記従来のステアリング装置のように、プランジャの被押圧部を加工又は形成する必要がなくなる。これにより、予圧付与機構を比較的安価に構成することが可能となり、ステアリング装置の製造コストの低減化を図ることができる。
【0027】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記プランジャは、前記プランジャ受容穴の内部を摺動する大径部と、前記大径部に対して段差状に縮径形成され、前記開口部から突出可能に設けられた小径部と、を有し、前記プランジャ受容穴は、前記開口部を前記大径部の外径よりも小さい内径となるように縮径してなり、前記大径部と当接することによって前記小径部の突出量を規制するストッパを有し、前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近の状態では、前記大径部は前記ストッパに当接することなく、前記プランジャと前記特定歯底との当接が許容される一方、前記セクタシャフトの回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、前記大径部が前記ストッパに当接して、前記プランジャと前記特定歯底との当接を規制する、ことが望ましい。
【0028】
このように、予圧付与機構をセクタ歯車側に設けた場合であっても、ストッパによりプランジャの突出量を規制することで、剛性感が必要となるセクタシャフトの中立位置付近についてのみ、ラック歯とセクタ歯車の噛み合いを調整することができる。換言すれば、剛性感を特に必要としないセクタシャフトの中立位置付近以外では、プランジャと特定歯底との当接を規制することで、プランジャが特定歯底に摺接することよって生じる、いわゆるゴリゴリ感など、操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0029】
また、本発明では、プランジャ受容穴の開口部を狭めるのみでストッパが構成されているため、例えば前記従来のステアリング装置のように、複雑なカムプロファイルを形成することなく、比較的簡素な構成でもって、プランジャの突出量を規制することができる。これにより、ステアリング装置の製造コストの低減化に寄与することができる。
【0030】
また、前記ステアリング装置のさらに別の態様として、前記セクタシャフトは、ピットマンアームに接続される、前記セクタ歯車を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、前記セクタ歯車を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、前記プランジャ受容穴は、前記中央歯の歯幅方向の端部のうち、前記セクタシャフトの軸方向他端側に対応する端部に設けられている、ことが望ましい。
【0031】
このように、予圧付与機構をセクタ歯車側に設けた場合であっても、予圧付与機構を構成するプランジャ受容穴が、セクタシャフトが比較的小径となる側に配置されていることで、かかる小径の分だけ、ボールナットの回転中心からさらに遠い位置に予圧付与機構を配置することができる。これにより、ボールナットに対してより大きな回転トルクを付与することが可能となり、ラック歯とセクタ歯車の噛み合いをより効果的に調整することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、予圧付与機構が、セクタ歯車の中央歯の歯先、又はラック歯の特定歯底に弾接することをもって、ボールナットに回転トルクを付与する構成となっている。このため、セクタ歯車とは別に予圧付与機構に押圧される被押圧部を設ける必要がなく、かかる被押圧部の形成に伴うセクタシャフトの大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の縦断面図である。
【
図4】操舵状態に応じたプランジャの突出量の変遷を示す図であって、(a)は操舵角が0度の中立状態、(b)は操舵角が12度の操舵状態、(c)は操舵角が25度の操舵状態を示している。
【
図5】本発明に係るステアリング装置の第1実施形態の変形例を示し、
図1のA-A線断面図に相当するステアリング装置の横断面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るステアリング装置の縦断面図である。
【
図9】本発明に係るステアリング装置の第2実施形態の変形例を示し、
図6のB-B線断面図に相当するステアリング装置の横断面図である。
【
図10】本発明に係るステアリング装置の第3実施形態を示し、
図1のA-A線断面図に相当するステアリング装置の横断面図である。
【
図11】本発明に係るステアリング装置の第4実施形態を示し、
図6のB-B線断面図に相当するステアリング装置の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係るステアリング装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、下記の実施形態では、このステアリング装置を、トラックなど大型自動車等に用いられるインテグラル型のパワーステアリング装置として適用した例を示している。
【0035】
[第1実施形態]
(ステアリング装置の構成)
図1は、本発明に係るステアリング装置の第1実施形態を示し、操舵軸2の回転中心に沿って切断したステアリング装置PS1の縦断面図を示している。
図2は、
図1のA-A線に沿って切断したステアリング装置PS1の横断面図を示している。なお、以下では、
図1における操舵軸2の回転軸X方向のうち、ステアリングホイール(図示外)に連係する側を「一端側」、ボールナット4に連係する側を「他端側」として説明する。また、
図2におけるセクタシャフト3の回転軸Y方向のうち、転舵輪(図示外)に連係する側を「一端側」、ボールナット4に連係する側を「他端側」として説明する。
【0036】
図1、
図2に示すように、ステアリング装置PS1は、周知のボールナット式ステアリング装置であって、図示外のステアリングホイールに連係する操舵軸2と、図示外の転舵輪に連係するセクタシャフト3と、を有する。この操舵軸2とセクタシャフト3は、ハウジング1の内部に収容される。また、操舵軸2とセクタシャフト3との間にはボールナット4が介在しており、当該ボールナット4を介して操舵軸2の回転がセクタシャフト3の回動に変換される。
【0037】
ハウジング1は、第1ハウジング11、第2ハウジング12及び第3ハウジング13を有する。第1ハウジング11は、操舵軸2、セクタシャフト3及びボールナット4を内部に収容するハウジング本体として機能する。すなわち、第1ハウジング11は、回転軸Xの方向に延びて、操舵軸2及びボールナット4を収容する概ね円筒状の操舵軸収容部111と、回転軸Xに直交する回転軸Yの方向に延びて、セクタシャフト3を収容する概ね円筒状のセクタシャフト収容部112と、を有する。
【0038】
操舵軸収容部111は、
図1に示すように、回転軸Xの方向の一端側が第1開口部111aを介して外部に開口すると共に、他端側が端壁111bにより閉塞された、有底円筒状を呈している。第1開口部111aは、当該第1開口部111aに嵌合する第2ハウジング12によって閉塞される。
【0039】
第2ハウジング12は、他端側に向かって外径を段差状に縮小してなる円筒状を呈しており、第1開口部111aの端面に当接する第2ハウジング本体部121と、第2ハウジング本体部121に対して段差状に縮径し、第1開口部111aに嵌合する第2ハウジング嵌合部122と、を有する。そして、第2ハウジング嵌合部122の外周側には、第1開口部111aの内周面と弾性的に当接可能な第1シール部材S1が取り付けられており、この第1シール部材S1が第1開口部111aの内周面に弾性的に当接することによって、操舵軸収容部111内が液密に保持されている。
【0040】
また、第2ハウジング12は、中央部を貫通する操舵軸挿入孔123を有し、この操舵軸挿入孔123を介して、外部から操舵軸収容部111内に操舵軸2が挿入されている。操舵軸挿入孔123は、一端側から他端側に向かって内径が段差状に縮小するように構成されていて、一端側に比較的大径状の大径孔部123aを有すると共に、他端側に比較的小径状の小径孔部123bを有する。また、操舵軸挿入孔123の大径孔部123aには、例えばボールベアリングからなる操舵軸受113が収容されていて、この操舵軸受113によって操舵軸2が回転可能に支持されている。
【0041】
なお、操舵軸受113は、第2操舵軸22に一体に形成されたインナレース113aと、大径孔部123aに挿入されるアウタレース113bと、インナレース113aとアウタレース113bの間に介在する複数のボール部材113cと、を有する。また、アウタレース113bは、大径孔部123aにねじ込まれるロックナット114によって、軸方向の移動が規制された状態で保持されている。
【0042】
セクタシャフト収容部112は、
図2に示すように、操舵軸収容部111に対して概ね接線状に配置されていて、周方向の一部を操舵軸収容部111と共有することにより、操舵軸収容部111と連通可能に構成されている。また、セクタシャフト収容部112は、回転軸Yの方向の一端側が第2開口部112aを介して外部に開口すると共に、他端側が第3開口部112bを介して外部に開口している。
【0043】
すなわち、セクタシャフト収容部112では、第3開口部112bを介してセクタシャフト収容部112に挿入されたセクタシャフト3の一端部が、第2開口部112aを介して外部に臨んでいて、ハウジング1の外部において前記図示外のピットマンアームに接続される。一方、第3開口部112bは、当該第3開口部112bを介してセクタシャフト3をセクタシャフト収容部112内に挿入後、第3開口部112bに嵌合する第3ハウジング13によって閉塞される。
【0044】
第3ハウジング13は、一端側に向かって外径を段差状に縮小してなる円筒状を呈しており、第3開口部112bの端面に当接する第3ハウジング本体部131と、第3ハウジング本体部131に対して段差状に縮径し、第3開口部112bに嵌合する第3ハウジング嵌合部132と、を有する。そして、第3ハウジング嵌合部132の外周側には、第3開口部112bの内周面と弾性的に当接可能な第2シール部材S2が取り付けられており、この第2シール部材S2が第3開口部112bの内周面に弾性的に当接することによって、セクタシャフト収容部112内が液密に保持されている。
【0045】
また、第3ハウジング嵌合部132の内周側には、セクタシャフト3の他端部の回転支持に供する有底円筒状のシャフト支持部133を有する。シャフト支持部133は、一端側に開口する第3ハウジング筒状部134と、この第3ハウジング筒状部134の他端側を閉塞する第3ハウジング端壁135と、を有する。
【0046】
操舵軸2は、
図1に示すように、一端側が図示外のステアリングホイールに接続される第1操舵軸21と、一部が第1操舵軸21と径方向に重なるように、トーションバー23を介して第1操舵軸21の他端側に相対回転可能に接続される第2操舵軸22と、を有する。第1操舵軸21は、当該第1操舵軸21の他端部において径方向に貫通された第1ピン部材241を介して、トーションバー23と接続されている。同様に、第2操舵軸22は、当該第2操舵軸22の他端部において径方向に貫通された第2ピン部材242を介して、トーションバー23と接続されている。
【0047】
なお、本実施形態では図示を省略するが、操舵軸2は、前記図示外のステアリングホイールに対して機械的に接続されていてもよく、また、周知のステア・バイ・ワイヤのように前記図示外のステアリングホイールに電気的に接続されていてもよい。さらに、操舵軸2は、前記図示外のステアリングホイールに接続され、手動運転により当該ステアリングホイールを介して操舵トルクが入力される態様のほか、図示外のモータに接続され、自動運転により当該モータを介して操舵トルクが入力される態様にも適用可能である。また、前記手動運転の態様には、前記図示外のステアリングホイールから操舵トルクが入力され、前記図示外のモータから操舵アシストトルクが入力される態様が含まれる。
【0048】
セクタシャフト3は、
図2に示すように、操舵軸2の回転軸Xに概ね直角に交差する回転軸Yの方向に沿って延びるセクタ軸部31と、セクタ軸部31の他端部にボールナット4と対向して配置されるセクタ歯車32と、を有する。セクタ軸部31とセクタ歯車32とは一体に形成されていて、セクタ歯車32が回動することによって、当該セクタ歯車32と一体となってセクタ軸部31が回動する。
【0049】
セクタ軸部31は、セクタ歯車32よりも一端側が、比較的大径な大径軸部311として構成されていて、セクタ歯車32よりも他端側が、比較的小径な小径軸部312として構成されている。大径軸部311は、一端側が前記図示外のピットマンアームに接続され、他端側が第2開口部112aの内周側に収容された大径軸受331によって回転可能に支持される。すなわち、大径軸部311は、当該大径軸部311の一端部に接続される前記図示外のピットマンアームを介して前記図示外の転舵輪に大きなトルクを付与する関係上、かかる大きなトルクに対抗可能な剛性を確保するため、比較的大径に形成されている。
【0050】
また、大径軸受331の一端側には、大径軸部311の外周面と第2開口部112aの内周面との間を液密にシール可能な大径シール部材341が設けられている。これにより、ハウジング1(シャフト収容部112)の内部に充填された作動液が第2開口部112aを通じて外部へ流出することが抑制されている。
【0051】
一方、小径軸部312は、第3ハウジング筒状部134の内周側に収容された小径軸受332によって回転可能に支持される。すなわち、小径軸部312は、セクタシャフト3の他端側の回転支持に供するものであり、前記大径軸部311のような大きなトルクが作用しない関係上、かかる大きなトルクに対抗可能な高い剛性は必要ないため、比較的小径に形成されている。
【0052】
また、小径軸受332の他端側には、小径軸部312の外周面と第3ハウジング筒状部134の内周面との間を液密にシール可能な小径シール部材342が設けられている。これにより、ハウジング1(シャフト収容部112)の内部に充填された作動液が後述する雌ねじ孔136を通じて外部へ流出することが抑制されている。
【0053】
セクタ歯車32は、
図1、
図2に示すように、大径軸部311と小径軸部312の間に設けられ、大径軸部311と小径軸部312に接続される接続基部320と、接続基部320の側部においてボールナット4のラック歯42と対向するように設けられた、第1セクタ歯321、第2セクタ歯322及び第3セクタ歯323と、を有する。第1セクタ歯321は、セクタ歯車32の中立状態において、回転軸X及び回転軸Yに直交するZ軸の方向に沿って突出する。第2セクタ歯322は、回転軸Xの一端側に向かって、第1セクタ歯321の右斜め方向に突出する。第3セクタ歯323は、回転軸Xの他端側に向かって、第1セクタ歯321の左斜め方向に突出する。
【0054】
また、セクタ歯車32は、いわゆるテーパギヤとして構成されている。すなわち、このセクタ歯車32は、
図2に示すように、第1セクタ歯321と第2セクタ歯322の間に位置する第1セクタ歯底325と、第1セクタ歯321と第3セクタ歯323の間に位置する第2セクタ歯底326とが、セクタシャフト3の一端側に向かって第1~第3セクタ歯321~323の歯たけTが徐々に大きくなるテーパ面によって構成されている。
【0055】
また、上記テーパギヤの構成に伴い、第3ハウジング端壁135には、回転軸Yに沿って貫通する雌ねじ孔136が形成されていて、この雌ねじ孔136を介して、第3ハウジング13の他端側(外部)からアジャストスクリュ5がねじ込まれている。このアジャストスクリュ5は、セクタシャフト3の他端部(小径軸部312)に当接した状態でねじ込まれることにより、一端側へ進出してセクタシャフト3を一端側へと付勢する。すなわち、アジャストスクリュ5がねじ込まれてセクタシャフト3が一端側へと移動することによって、第1セクタ歯底325及び第2セクタ歯底326と、第2ラック歯422及び第3ラック歯423との間の隙間が減少し、ラック歯42に対するセクタ歯車32のバックラッシュを低減することが可能となっている。
【0056】
このように、本実施形態では、前記テーパギヤにより構成されたセクタ歯車32と、セクタシャフト3を付勢するアジャストスクリュ5と、によって構成され、アジャストスクリュ5を回転させる(ねじ込む)という手動作業によりセクタ歯車32とラック歯42のバックラッシュを調整可能なバックラッシュ調整機構が設けられている。これにより、車両を整備する際、セクタ歯車32及びラック歯42の摩耗等によって増大するセクタ歯車32とラック歯42のバックラッシュを調整することが可能となっている。
【0057】
ボールナット4は、
図1、
図2に示すように、円筒状を呈し、回転軸Xの方向に沿って軸孔41が形成されている。すなわち、ボールナット4は、操舵軸収容部111に収容される第2操舵軸22の外周側に設けられた軸側ボール溝401と、ボールナット4の内周側(軸孔41)に設けられたナット側ボール溝402との間に介在する複数のボール43を介して、回転軸Xの方向に進退移動可能に設けられている。また、ボールナット4における回転軸Xの方向の外側部には、セクタ歯車32と対向する所定の範囲に、セクタ歯車32と噛み合うラック歯42(後述する第1~第4ラック歯421~424)が形成されている。また、ボールナット4における回転軸Xの方向の外側部には、ラック歯42の背面側、すなわち回転軸Xを挟んでラック歯42の反対側に、ナット側ボール溝402の一端部と他端部とを繋いで前記複数のボール43の循環に供する円筒状のチューブ部材44が配置されている。
【0058】
ラック歯42は、
図1に示すように、ボールナット4のセクタ歯車32と対向する側部に回転軸Xの方向に沿って並列に設けられた第1ラック歯421、第2ラック歯422、第3ラック歯423及び第4ラック歯424を有する。第2ラック歯422と第3ラック歯423との間には、中央歯である前記第1セクタ歯321と対向する特定歯底である第1ラック歯底425が形成されている。第1ラック歯421と第2ラック歯422との間には、第2セクタ歯322と対向する第2ラック歯底426が形成されている。第3ラック歯423と第4ラック歯424との間には、第3セクタ歯323と対向する第3ラック歯底427が形成されている。
【0059】
また、ボールナット4は、操舵軸収容部111に充填された作動液の液圧によって作動するパワーシリンダのピストンとして機能するものであり、操舵軸収容部111内において摺動可能に設けられている。すなわち、ボールナット4により、操舵軸収容部111の内部に、ボールナット4を挟んで回転軸Xの方向に対向する2つの液圧室である、第1液圧室P1と第2液圧室P2が画定されている。なお、第2液圧室P2は、第1ハウジング11に設けられた連通孔115を介して、セクタシャフト収容部112と連通可能に構成されていて、第2液圧室P2の作動液がセクタシャフト収容部112内へと導かれることによって、セクタ歯車32とラック歯42との間の潤滑が可能となっている。
【0060】
また、第2ハウジング12の内部には、第1操舵軸21と第2操舵軸22の相対回転に応じて図示外の液圧源(例えばポンプ)により供給される作動液を前記パワーシリンダの第1液圧室P1又は第2液圧室P2へ選択的に供給可能なコントロールバルブとしての、周知のロータリバルブRVが構成されている。ロータリバルブRVは、第1操舵軸21の他端部に一体に形成されたロータ210と、ロータ210の外周側に設けられ、第2操舵軸22の一端部に一体に設けられたスリーブ220と、を有する。
【0061】
第2ハウジング12の内周側には、回転軸Xの周方向に沿って延びる周方向溝である、導入ポート124aと、供給ポート124bと、排出ポート124cとが、回転軸Xの方向に並列に設けられている。また、第2ハウジング12の内部には、図示外の導入用配管と導入ポート124aとを接続する導入通路124dと、排出ポート124cと図示外の排出用配管とを接続する排出通路124eと、が設けられている。また、第1ハウジング11と第2ハウジング12の内部には、供給ポート124bと第1液圧室P1とを接続する供給通路Lが、第1ハウジング11と第2ハウジング12とに跨って設けられている。具体的には、供給通路Lは、第1ハウジング11の内部に設けられる第1ハウジング供給通路116と、第2ハウジング12の内部に設けられ、供給ポート124bと第1ハウジング供給通路116とを接続する第2ハウジング供給通路126と、で構成される。導入ポート124aは、導入通路124dと前記図示外の導入用配管を介して、前記図示外の油圧源と接続される。供給ポート124bは、供給通路Lを介して、第1液圧室P1と接続される。排出ポート124cは、排出通路124eと前記図示外の排出用配管を介して、図示外のリザーバタンクと接続される。
【0062】
ロータ210の外周側には、回転軸Xの方向に沿って縦溝状に延びる、供給用凹部210aと排出用凹部(図示外)とが、周方向に交互に並列に設けられている。同様に、スリーブ220の内周側には、回転軸Xの方向に沿って縦溝状に延びる、右操舵用凹部220aと左操舵用凹部(図示外)とが、周方向に交互に並列に設けられている。また、スリーブ220には、当該スリーブ220の内周と外周とを連通するように、第1連通路221と、第2連通路222と、供給連通路223と、排出連通路224と、が設けられている。第1連通路221は、右操舵用凹部220aに開口し、第2連通路222は、図示外の左操舵用凹部に開口する。また、周方向において右操舵用凹部220aと前記図示外の左操舵用凹部との間に挟まれた図示外の凸部には、供給連通路223又は排出連通路224が開口していて、供給連通路223と排出連通路224とが周方向に交互に配置される。
【0063】
また、
図1、
図2に示すように、セクタ歯車32とラック歯42との間には、直進操舵状態に相当するセクタシャフト3の中立位置(
図1に示す位置)の付近におけるセクタ歯車32とラック歯42の噛み合いを調整する予圧付与機構6が設けられている。なお、本実施形態では、
図1、
図2に示すように、予圧付与機構6をボールナット4側に配置した態様を例示して説明する。また、本実施形態に係る予圧付与機構6は、特に
図2に示すように、中央歯である第1セクタ歯321と噛み合う特定歯底である第1ラック歯底425の歯幅方向の一端側の位置であって、大径軸部311寄りの第1セクタ歯321の一端側と対向する側の位置に設けられている。
【0064】
(予圧付与機構の構成)
図3は、
図1の要部である予圧付与機構6の近傍を拡大して表示した、
図1の要部拡大図を示している。
【0065】
図3に示すように、予圧付与機構6は、第1ラック歯底425に形成されたプランジャ受容穴60と、プランジャ受容穴60に進退移動可能に収容されたプランジャ61と、プランジャ受容穴60の底部とプランジャ61の底部との間に介在し、第1セクタ歯321に向けてプランジャ61を付勢する付勢部材62と、を備える。
【0066】
プランジャ受容穴60は、横断面がほぼ円形を呈し、一端が第1ラック歯底425に開口すると共に、他端が底壁600によって閉塞されている。さらに、プランジャ受容穴60は、軸方向において一定の内径を有する丸穴であって、開口部側から円環状の環状部材63が圧入されることによって、先細りの段差径状に形成されている。すなわち、プランジャ受容穴60は、底壁600側に設けられ、比較的大径状の大径穴部601と、開口部側に設けられ、環状部材63の内周側に形成された比較的小径状の小径穴部602と、を有する。また、大径穴部601と小径穴部602との間には、環状部材63によって、プランジャ61の大径部611と当接してプランジャ61の進出量、すなわち小径穴部602から突出するプランジャ61の突出量を規制するストッパ630が形成されている。
【0067】
ストッパ630は、セクタシャフト3の回動位相が中立位置付近の状態では、プランジャ大径部611と当接することなく、プランジャ61と第1セクタ歯321の当接を許容する(
図4(a)参照)。一方、ストッパ630は、セクタシャフト3の回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、プランジャ大径部611と当接し、プランジャ61と第1セクタ歯321との当接を規制する(
図4(c)参照)。
【0068】
プランジャ61は、樹脂材料によって一体に形成されたものであって、先端に向かって外径が段差状に縮小する先細り状に形成されている。具体的には、プランジャ61は、プランジャ受容穴60の大径穴部601に受容されるプランジャ大径部611と、プランジャ受容穴60の小径穴部602を摺動可能に設けられたプランジャ小径部612と、を有する。プランジャ大径部611は、プランジャ受容穴60の底壁600と対向し、付勢部材62の着座面として機能する。一方、プランジャ小径部612は、プランジャ受容穴60の小径穴部602から突出して外部へ臨み、第1セクタ歯321と対峙する。また、プランジャ小径部612は、先端部が緩やかな曲面状をなし、セクタシャフト3の回動時において、第1セクタ歯321の歯面と滑らかに摺接することが可能となっている。
【0069】
付勢部材62は、一端部がプランジャ受容穴60の底壁600に着座すると共に、他端部がプランジャ大径部611に着座し、プランジャ受容穴60の底壁600とプランジャ大径部611との間に所定の与圧をもって収容される。すなわち、付勢部材62は、プランジャ大径部611がストッパ630に当接した状態でもプランジャ61に対して付勢部材62の付勢力が作用するように前記所定の与圧が付与されていて、プランジャ61に対して付勢力を常時作用させている。また、本実施形態では、付勢部材62は、周知の皿ばねを直列に複数重ねることによって構成されている。なお、付勢部材62は、本実施形態のように複数の皿ばねを重ね合わせたものに限定されず、例えばコイルスプリングなど、プランジャ61を継続的に付勢可能なものであれば、材質や形態は任意に変更可能である。
【0070】
(予圧付与機構の作動説明)
図4は、操舵状態に応じたプランジャ61の突出量の変遷を示す図であって、(a)は操舵角が0度の中立状態、(b)は操舵角が12度の操舵状態、(c)は操舵角が25度の操舵状態を示している。
【0071】
図4(a)に示すように、操舵角が0度の中立状態では、プランジャ61は後退した状態にあり、プランジャ大径部611がストッパ630から離間した状態であって、付勢部材62の付勢力に基づきプランジャ小径部612の先端面が第1セクタ歯321の歯先に弾性的に当接した状態となる。この状態では、プランジャ61が第1セクタ歯321の歯先と弾性的に当接することによって発生する反力により、ボールナット4が回転方向の一方側へ付勢される。その結果、セクタ歯車32の他端側において、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cが小さくなる。これにより、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423との噛み合いが深くなり、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュが減少する。
【0072】
図4(b)に示すように、操舵角が12度の操舵状態では、プランジャ61は前進した状態にあり、プランジャ大径部611がストッパ630に当接する直前の状態であって、付勢部材62の付勢力に基づきプランジャ小径部612の先端が第1セクタ歯321の歯先に弾性的に当接した状態となる。この状態では、プランジャ61の進出に伴い付勢部材62が伸長した分、前記中立状態と比べて比較的小さい付勢力が、プランジャ61に作用する。すなわち、前記中立状態よりも小さい付勢力に基づきプランジャ61が第1セクタ歯321の歯先と弾性的に当接することによって発生する反力により、ボールナット4が回転方向の一方側へ付勢される。その結果、セクタ歯車32の他端側において、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cが減少し、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュが減少する。
【0073】
図4(c)に示すように、操舵角が25度の操舵状態では、プランジャ61が最も前進した状態にあり、プランジャ大径部611がストッパ630に当接してプランジャ61の進出移動が規制された状態であって、プランジャ小径部612の先端が第1セクタ歯321の歯先から離間した状態となる。この状態では、ボールナット4に対して付勢力が作用しないため、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cは変化せず、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュは調整されない。
【0074】
(本実施形態の作用効果)
従来のステアリング装置では、予圧付与機構が、ボールナット内部にセクタ歯車側へ付勢可能に設けられたプランジャが、セクタ歯車に隣接された、所定のカムプロファイルを有するプランジャ摺接部に弾性的に当接することにより発生するプランジャ摺接部からの反力に基づき、ボールナットを回動方向の一方側に付勢することによって、セクタシャフトの中立位置付近におけるラック歯とセクタ歯車のバックラッシュを低減していた。しかしながら、前記従来のステアリング装置では、セクタ歯車とは別にプランジャ摺接部を設ける必要があった。このため、前記プランジャ摺接部の分だけセクタシャフトの軸方向の大型化を招来しまう、という点で、改善の余地を残していた。
【0075】
これに対して、本実施形態に係るステアリング装置PS1は、ステアリングホイール(図示外)に連係する操舵軸2(第2操舵軸22)に螺合するボールナット4の外側に形成されたラック歯42と、転舵輪(図示外)に連係するセクタシャフト3に設けられ、直進操舵状態に相当するセクタシャフト3の中立位置においてラック歯42と最も深く噛み合う中央歯(第1セクタ歯321)を含み、セクタシャフト3の周方向に設けられた複数のセクタ歯(第1セクタ歯321、第2セクタ歯322及び第3セクタ歯323)をもってラック歯42と噛み合うセクタ歯車32と、セクタシャフト3の中立位置付近におけるラック歯42とセクタ歯車32との噛み合いを調整する予圧付与機構6と、を備え、予圧付与機構6は、セクタシャフト3の中立位置付近において中央歯(第1セクタ歯321)の歯先と対向するラック歯42の特定歯底(第1ラック歯底425)の歯幅方向の一端部に設けられ、中央歯(第1セクタ歯321)の歯先に弾接することによって発生する反力に基づき、ボールナット4の回転方向の一方側へボールナット4を付勢する。
【0076】
このように、本実施形態では、プランジャ61がセクタ歯車32の第1セクタ歯321の歯先に弾接することにより発生する反力に基づき、ボールナット4の回転方向の一方側へ回転トルクを付与する構成となっている。このため、本実施形態では、前記従来のステアリング装置のように、セクタ歯車32とは別にプランジャ61に押圧される被押圧部を設ける必要がない。これにより、当該被押圧部の形成に伴うセクタシャフト3の大型化を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態では、予圧付与機構6が、特定歯底(第1ラック歯底425)に形成されたプランジャ受容穴60と、プランジャ受容穴60に進退可能に収容され、プランジャ受容穴60のセクタ歯車32に臨む開口部から先端側が突出可能に設けられたプランジャ61と、プランジャ受容穴60の底部(底壁600)とプランジャ61との間に介在し、中央歯(第1セクタ歯321)に向けてプランジャ61を付勢する付勢部材62と、を備えている。
【0078】
すなわち、本実施形態では、予圧付与機構6が、ボールナット4に形成されたプランジャ受容穴60と、プランジャ受容穴60に収容される付勢部材62及びプランジャ61のみで構成されていて、プランジャ61によりセクタ歯車32の第1セクタ歯321の歯先を押圧することによって、ボールナット4に対する回転トルクを発生させている。
【0079】
このように、本実施形態では、予圧付与機構6が、プランジャ61と付勢部材62、及びこれらを収容するプランジャ受容穴60のみからなる簡素な構成を有する。このため、本実施形態では、前記従来のステアリング装置のように、プランジャ61の被押圧部を加工又は形成する必要がない。これにより、予圧付与機構6を比較的安価に構成することが可能となり、ステアリング装置PS1の製造コストの低減化を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態では、プランジャ61は、プランジャ受容穴60の内部を摺動する大径部(プランジャ大径部611)と、大径部(プランジャ大径部611)に対して段差状に縮径形成され、前記開口部から突出可能に設けられた小径部(プランジャ小径部612)と、を有し、プランジャ受容穴60は、前記開口部を大径部(プランジャ大径部611)の外径よりも小さい内径となるように縮径してなり、大径部(プランジャ大径部611)と当接することによって小径部(プランジャ小径部612)の突出量を規制するストッパ630を有し、セクタシャフト3の回動位相が前記中立位置付近の状態では、大径部(プランジャ大径部611)はストッパ630に当接することなく、プランジャ61と中央歯(第1セクタ歯321)との当接が許容される一方、セクタシャフト3の回動位相が前記中立位置付近を超えた状態では、大径部(プランジャ大径部611)がストッパ630に当接して、プランジャ61と中央歯(第1セクタ歯321)との当接を規制する。
【0081】
すなわち、本実施形態では、セクタシャフト3の回動位相がステアリングの中立位置付近にあるときは、プランジャ61と第1セクタ歯321との当接を許容する一方、セクタシャフト3の回動位相が前記中立位置付近を超えたときは、ストッパ630によってプランジャ61と第1セクタ歯321との当接を規制する構成となっている。
【0082】
このように、本実施形態では、ストッパ630によりプランジャ61の突出量を規制することによって、剛性感が必要となるセクタシャフト3の中立位置付近についてのみ、ラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整することができる。換言すれば、剛性感を特に必要としない前記中立位置付近以外では、プランジャ61と第1セクタ歯321の当接を規制することによって、プランジャ61が第1セクタ歯321に摺接することより生じる、いわゆるゴリゴリ感など、操舵フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態では、環状部材63によってプランジャ受容穴60の開口部を狭めるのみで、ストッパ630が構成されている。このため、本実施形態では、例えば前記従来のステアリング装置のように、複雑なカムプロファイルを形成することなく、比較的簡素な構成でもって、プランジャ61の突出量を規制することができる。これにより、ステアリング装置PS1の製造コストの低減化に寄与することができる。
【0084】
また、本実施形態では、セクタ歯車32の歯底(第1セクタ歯底325及び第2セクタ歯底326)は、セクタシャフト3の軸方向の一端側に向かってセクタ歯車32の歯たけTが徐々に大きくなるテーパ面を有し、セクタシャフト3は、セクタシャフト3を収容するハウジング1(第1ハウジング11)の端壁(第3ハウジング13)に形成された雌ねじ孔136を介してセクタシャフト3の軸方向他端部からねじ込まれたアジャストスクリュ5によって、セクタシャフト3の軸方向一端側へ移動可能に構成されている。
【0085】
このように、本実施形態では、セクタ歯車32の第1セクタ歯底325及び第2セクタ歯底326がテーパ面となるテーパギヤ形状を有しており、アジャストスクリュ5によってセクタシャフト3を軸方向一端側に移動させることで、ラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整することが可能となっている。これにより、セクタシャフト3の中立位置付近のみならず、セクタシャフト3の回動範囲の全域において、ラック歯42とセクタ歯車32の適切な噛み合いを確保することができる。
【0086】
(変形例)
図5は、本発明の第1実施形態の変形例を示す。なお、本変形例は、前記第1実施形態における予圧付与機構6の配置を変更したものであって、他の構成については、前記第1実施形態と同様である。このため、前記第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付すことにより、具体的な説明を省略する。
【0087】
図5は、本発明の第1実施形態の変形例に係るステアリング装置PS1´を示し、
図1のA-A線断面図に相当するステアリング装置PS1´の横断面図を示している。
【0088】
図5に示すように、本変形例に係るステアリング装置PS1´では、プランジャ受容穴60が、第1ラック歯底425の歯幅方向の他端側の位置に設けられていて、プランジャ61が、小径軸部312寄りの第1セクタ歯321の他端側と対向する側の位置に設けられている。
【0089】
このような構成により、本変形例に係るステアリング装置PS1´の予圧付与機構6では、セクタシャフト3の中立位置付近において、第1ラック歯底425における歯幅方向の他端側に配置されたプランジャ61が、付勢部材62の付勢力に基づき、セクタ歯車32の第1セクタ歯321の歯先に弾性的に当接した状態となる。この状態では、付勢部材62の付勢力に基づきプランジャ61が第1セクタ歯321に弾性的に当接して発生する反力によって、ボールナット4が回転方向の他方側へ付勢される。その結果、セクタ歯車32の一端側において、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cが減少し、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュが減少する。
【0090】
以上のように、本変形例に係るステアリング装置PS1´では、セクタシャフト3は、ピットマンアーム(図示外)に接続される、セクタ歯車32を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、セクタ歯車32を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、プランジャ受容穴60は、特定歯底(第1ラック歯底425)の歯幅方向の端部のうち、セクタシャフト3の軸方向他端側に対応する端部に設けられている。
【0091】
すなわち、本変形例では、予圧付与機構6を構成するプランジャ受容穴60が、セクタシャフト3が比較的小径となる小径軸部312側に配置されている。このため、当該小径軸部312のようにセクタ軸部31が小径化されている分だけ、予圧付与機構6を配置可能なスペースが拡大されて、ボールナット4の回転中心からさらに遠い位置に予圧付与機構6を配置することができる。これにより、ボールナット4に対してより大きな回転トルクを付与することが可能となり、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423の噛み合いを、より効果的に調整することができる。
【0092】
[第2実施形態]
図6~
図8は、本発明に係るステアリング装置の第2実施形態を示している。なお、本実施形態は、前記第1実施形態における予圧付与機構6の配置を変更したものであり、他の構成については、前記第1実施形態と同様である。このため、前記第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付すことにより、その説明を省略する。
【0093】
図6は、本発明に係るステアリング装置の第2実施形態を示し、操舵軸2の回転中心に沿って切断したステアリング装置PS2の縦断面図を示している。
図7は、
図6のB-B線に沿って切断したステアリング装置PS2の横断面図を示している。
図8は、
図6の要部である予圧付与機構6の近傍を拡大して表示した、
図6の要部拡大図を示している。
【0094】
図6~
図8に示すように、本実施形態に係るステアリング装置PS2では、予圧付与機構6が、前記第1実施形態のようなラック歯42側はなく、セクタ歯車32側に設けられている。具体的には、本実施形態に係る予圧付与機構6は、プランジャ受容穴60が、中央歯である第1セクタ歯321の歯幅方向の一端部(大径軸部311寄りの端部)における当該第1セクタ歯321の歯先に設けられている。そして、セクタシャフト3の中立位置付近において、付勢部材62の付勢力により付勢されたプランジャ61が、第1ラック歯底425の歯幅方向の他端側と弾性的に当接可能に構成されている。
【0095】
このような構成により、本実施形態に係るステアリング装置PS2の予圧付与機構6では、セクタシャフト3の中立位置付近において、第1セクタ歯321の歯幅方向の他端側に配置されたプランジャ61が、付勢部材62の付勢力により、第1ラック歯底425に弾性的に当接した状態となる。この状態では、付勢部材62の付勢力に基づきプランジャ61が第1ラック歯底425に弾接することで発生する反力により、ボールナット4が回転方向の一方側へと付勢される。その結果、セクタ歯車32の他端側において、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cが減少し、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュが減少することとなる。
【0096】
以上のように、本実施形態に係るステアリング装置PS2では、とりわけ、予圧付与機構6が、中央歯(第1セクタ歯321)の歯幅方向の一端部に設けられ、セクタシャフト3の中立位置付近において中央歯(第1セクタ歯321)の歯先と対向するラック歯42の特定歯底(第1ラック歯底425)に弾接することにより発生する付勢力に基づき、ボールナット4の回転方向の一方側へボールナット4を付勢する。
【0097】
したがって、本実施形態でも、前記第1実施形態と同様に、プランジャ61が第1ラック歯底425の歯先に弾接することにより発生する付勢力に基づき、ボールナット4の回転方向の一方側へ回転トルクを付与することができ、前記従来のステアリング装置のように、セクタ歯車32とは別にプランジャ61に押圧される被押圧部を設ける必要がなくなる。その結果、当該被押圧部の形成に伴うセクタシャフト3の大型化を抑制することができる。
【0098】
(変形例)
図9は、本発明の第2実施形態の変形例を示す。なお、本変形例は、前記第2実施形態における予圧付与機構6の配置を変更したものであって、他の構成については、前記第2実施形態と同様である。このため、前記第2実施形態と同じ構成については、同一の符号を付すことにより、具体的な説明を省略する。
【0099】
図9は、本発明の第2実施形態の変形例に係るステアリング装置PS2´を示し、
図6のB-B線断面図に相当するステアリング装置PS2´の横断面図を示している。
【0100】
図9に示すように、本変形例に係るステアリング装置PS2´では、プランジャ受容穴60が、第1セクタ歯321の歯幅方向の他端側の位置に設けられていて、予圧付与機構6が、小径軸部312寄りの第1ラック歯底425の他端側と対向する側の位置に設けられている。
【0101】
このような構成により、本変形例に係るステアリング装置PS2´の予圧付与機構6では、セクタシャフト3の中立位置付近において、第1セクタ歯321の歯幅方向の他端側に配置されたプランジャ61が、付勢部材62の付勢力に基づいて、第1ラック歯底425に弾性的に当接した状態となる。この状態では、付勢部材62の付勢力に基づきプランジャ61が第1ラック歯底425に弾性的に当接して発生する付勢力によって、ボールナット4が回転方向の他方側へ付勢される。その結果、セクタ歯車32の一端側において、第1セクタ歯321と第1ラック歯底425との隙間Cが減少し、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423とのバックラッシュが減少することとなる。
【0102】
以上のように、本変形例に係るステアリング装置PS2´では、セクタシャフト3は、ピットマンアーム(図示外)に接続される、セクタ歯車32を挟んで軸方向一端側が比較的大径に形成され、セクタ歯車32を挟んで軸方向他端側が前記軸方向一端側よりも比較的小径に形成されていて、プランジャ受容穴60は、中央歯(第1セクタ歯321)の歯幅方向の端部のうち、セクタシャフト3の軸方向他端側に対応する端部に設けられている。
【0103】
すなわち、本変形例では、予圧付与機構6を構成するプランジャ受容穴60が、セクタシャフト3が比較的小径となる小径軸部312側に配置されている。このため、当該小径軸部312のようにセクタ軸部31が小径化されている分だけ、予圧付与機構6を配置可能なスペースが拡大されて、ボールナット4の回転中心からさらに遠い位置に予圧付与機構6を配置することができる。これにより、ボールナット4に対してより大きな回転トルクを付与することが可能となり、第1セクタ歯321と第2、第3ラック歯422,423の噛み合いを、より効果的に調整することができる。
【0104】
[第3実施形態]
図10は、本発明に係るステアリング装置の第3実施形態を示している。なお、本実施形態は、前記第1実施形態の変形例におけるセクタ歯車32の形態を変更したものであり、他の構成については、前記第1実施形態と同様である。このため、前記第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付すことにより、その説明を省略する。
【0105】
図10は、本発明に係るステアリング装置の第3実施形態を示し、
図1のA-A線断面図に相当するステアリング装置PS3の横断面図を示している。
【0106】
図10に示すように、本実施形態に係るステアリング装置PS3では、前記バックラッシュ調整機構が廃止されていて、セクタ歯車32の歯たけTが概ね一定となるように、セクタ歯車32の歯底がセクタシャフト3の回転軸Yに平行な平坦面となっている。
【0107】
このように、本実施形態では、セクタ歯車32の歯底が、セクタシャフト3の回転軸Yに平行なストレート形状を有している。すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態のように、セクタ歯車32の歯底をテーパ形状とせず、予圧付与機構6のほかにラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整する機構(バックラッシュ調整機構)を設けることなく、予圧付与機構6のみによってラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整する構成となっている。このため、ステアリング装置PS3の構造が簡素化され、ステアリング装置PS3の生産性の向上や、製造コストの低減化に寄与することができる。
【0108】
また、本実施形態では、前記バックラッシュ調整機構が廃止されたことで、第3ハウジング13の雌ねじ孔136を省略することが可能となる。その結果、セクタシャフト収容部112内の作動液が雌ねじ孔136を通じて外部へ漏出してしまう不具合を抑制することができる。
【0109】
[第4実施形態]
図11は、本発明に係るステアリング装置の第4実施形態を示している。なお、本実施形態は、前記第2実施形態の変形例におけるセクタ歯車32の形態を変更したものであり、他の構成については、前記第1実施形態と同様である。このため、前記第2実施形態と同じ構成については、同一の符号を付すことにより、その説明を省略する。
【0110】
図11は、本発明に係るステアリング装置の第4実施形態を示し、
図6のB-B線断面図に相当するステアリング装置PS4の横断面図を示している。
【0111】
図11に示すように、本実施形態に係るステアリング装置PS4では、前記バックラッシュ調整機構が廃止されていて、セクタ歯車32の歯たけTが概ね一定となるように、セクタ歯車32の歯底がセクタシャフト3の回転軸Yに平行な平坦面となっている。
【0112】
このように、本実施形態でも、前記第3実施形態と同様に、セクタ歯車32の歯底がセクタシャフト3の回転軸Yに平行なストレート形状を有し、予圧付与機構6のほかにラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整する機構(バックラッシュ調整機構)を設けることなく、予圧付与機構6のみによってラック歯42とセクタ歯車32の噛み合いを調整する構成となっている。このため、ステアリング装置PS4の構造が簡素化され、ステアリング装置PS4の生産性の向上や、製造コストの低減化に寄与することができる。
【0113】
また、前記第3実施形態と同様、前記バックラッシュ調整機構が廃止されたことにより、第3ハウジング13における雌ねじ孔136を省略可能となり、セクタシャフト収容部112内の作動液が雌ねじ孔136を通じて外部へ漏出してしまう不具合を抑制することができる。
【0114】
本発明は、前記各実施形態や前記各変形例に例示の構成に限定されるものではなく、ステアリング装置の細部の構成、例えば操舵軸2の構成や操舵軸2に対する入力態様、セクタ歯車32及びラック歯42の形状など、本発明の構成と直接関係しない細部の構成は勿論、予圧付与機構6など本発明の構成と直接関係する部分であっても、例えばプランジャ61や付勢部材62の形態など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、適用対象であるステアリング装置や車両の仕様等に応じて自由に変更することができる。