(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20240930BHJP
A61F 2/16 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
G02C7/04
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2023536320
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021031062
(87)【国際公開番号】W WO2022039280
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-03-24
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シモノフ アレクセイ ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】カウル ヴァリンデルパル
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0022806(US,A1)
【文献】特表2015-514233(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0230299(US,A1)
【文献】特開2007-330478(JP,A)
【文献】特開2018-120040(JP,A)
【文献】特表2016-501650(JP,A)
【文献】特表2014-503274(JP,A)
【文献】特表2016-502430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能なレンズプロファイルを有するレンズ表面(2)を含む眼用レンズ(1)であって、
前記標準非球面プロファイルは円錐曲線の形式を有し、
前記偶数位数非球面プロファイルは、前記レンズ表面の頂点(3)までの半径距離に関して、偶数位の項のみを有する多項式関数によって与えられ、
前記頂点(3)までの前記半径距離は、前記レンズ(1)の中心軸に対して垂直に測定され、
前記レンズ表面の
前記頂点(3)を直ちに囲む領域内で、
前記頂点(3)までの前記半径距離が小さくなるにつれて、前記レンズプロファイルが前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に
、前記頂点(3)を囲む外側領域内で、
前記頂点(3)までの前記半径距離が大きくなるにつれて、前記レンズプロファイルが前記標準非球面プロファイルに収束する
ように、前記
標準非球面プロファイル
及び前記偶数位数非球面プロファイルが組み合わされる、前記眼用レンズ(1)。
【請求項2】
前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの前記組み合わせは、
一次導関数が前記頂点(3)から前記レンズ表面(2)の外側の境界までの前記半径距離の全範囲において連続的である、前記頂点(3)の前記半径距離の関数によって表すことが可能である、請求項1に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項3】
前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの前記組み合わせは、前記レンズ表面の前記頂点(3)におけるゼロの一次導関数を有する、
前記半径距離の関数によって表すことが可能である、請求項1及び2のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項4】
前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの前記組み合わせは
、前記頂点(3)までの前記半径距離が増加するにつれて二次導関数の符号が変化する、前記頂点(3)までの前記半径距離の関数によって表すことが可能である、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項5】
前記標準非球面プロファイルのサグ関数は、
【数6】
によって定義され、rは、前記レンズ表面(2)の前記頂点(3)
までの前記
半径距離を表し、cは、前記レンズ表面(2)の前記頂点(3)における
曲率を表し、kは、円錐定数を表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項6】
前記レンズ表面(2)の前記頂点における前記
曲率cは、a)0.005mm
-1以上であり、b)0.25mm
-1以下である、請求項5に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項7】
前記円錐定数kは、a)-800以上であり、b)5以下である、請求項5及び6のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項8】
前記偶数位数非球面プロファイルのサグ関数は、
【数7】
によって定義され、rは、前
記レンズ表面(2)の前記頂点(3)
までの前記
半径距離を表し、A
2nは、定数である、請求項1~7のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項9】
前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの前記組み合わせは、前記頂点
までの或る
半径距離における前記レンズプロファイルへの前記標準非球面プロファイルの貢献及び前記偶数位数非球面プロファイルの貢献が前記
半径距離に依存するように、前記頂点(3)への前記
半径距離に依存する組み合わせ関数によって定義可能であ
り、
前記レンズプロファイルを定義するためのサグ関数は、
【数8】
によって定義され、rは、前記レンズ表面(2)の前記頂点(3)までの前記半径距離を表し、S
1
(r)は、前記標準非球面プロファイルのサグ関数を表し、S
2
(r)は、前記偶数位数非球面プロファイルのサグ関数を表し、M(r)は、前記組み合わせ関数を表す、請求項1~8のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項10】
前記組み合わせ関数は、
一次導関数が前記頂点(3)から前記レンズ表面(2)の外側の境界までの前記半径距離の全範囲で連続である関数である、請求項
9に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項11】
前記組み合わせ関数は、
【数9】
によって定義され、A及びρは、定数である、請求項1
0に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項12】
前記定数Aは、2.0mm
-1よりも大きく、10.0mm
-1よりも小さく、前記定数ρは、0.3mmよりも大きく、2.5mmよりも小さい、請求項1
1に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項13】
前記眼用レンズ(1)は、眼内レンズである、請求項1~1
2のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)。
【請求項14】
請求項1~1
3のいずれか一項に記載の眼用レンズ(1)を製造する製造方法であって、前記製造方法は、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能であるように、前記眼用レンズ(1)のレンズ表面(2)のレンズプロファイルを形成すること(102)を含み、
前記標準非球面プロファイルは円錐曲線の形式を有し、
前記偶数位数非球面プロファイルは、前記レンズ表面の頂点(3)までの半径距離に関して、偶数位の項のみを有する多項式関数によって与えられ、
前記頂点(3)までの前記半径距離は、前記レンズ(1)の中心軸に対して垂直に測定され、
前記レンズ表面(2)の前記頂点(3)を直ちに囲む領域内で、
前記頂点(3)までの前記半径距離が小さくなるにつれて、前記レンズプロファイルが前記標準非球面プロファイル及び前記偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に
、前記頂点(3)を囲む外側領域内で、
前記頂点(3)までの前記半径距離が大きくなるにつれて、前記レンズプロファイルが前記標準非球面プロファイルに収束する
ように、前記
標準非球面プロファイル
及び前記偶数位数非球面プロファイルが組み合わされる、前記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズに関し、及び眼用レンズを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科の目的のために屈折レンズプロファイルを有する光学レンズを使用することが知られている。そのような屈折眼用レンズは、典型的には、実質的に1つの特定の距離において鮮明な視覚をもたらすように設計される。よって、そのようなレンズの焦点は、典型的には、著しく局所化されると共に、焦点深度が相対的に狭く、それは、それを通じて視覚が区別できる最良の焦点のいずれかの側での距離として理解することができる。狭い焦点深度は、他の距離における視覚能力が十分でないままであるという問題につながる。例えば、白内障手術の間に自然の結晶レンズを取り除かせ、典型的な屈折表面プロファイルを有する眼内眼用レンズと置き換えさせた患者は、通常、遠い距離、中間の距離、及び近い距離の1つのみにおいて鮮明な視覚を通常は取り戻すと共に、患者は、全ての他の距離に対してグラスを着用する必要がなおもある。
【0003】
焦点深度を拡張することを可能にする眼内レンズが最近利用可能になり、回折多焦点性、屈折多焦点性、及びピンホール設計を含む、様々な光学概念が探索されてきた。それらのアプローチは、1つよりも多い距離における視覚能力に関する改善につながると共に、遠視覚距離における視覚性能を落とすことなく、中間視覚距離に向かって、眼用レンズ、特に眼内レンズの焦点深度を拡張する必要性があるままである。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、良好な遠視覚性能及び改善された中間視覚性能を有する眼用レンズを提供することである。
【0005】
本発明の第1の態様では、眼用レンズは、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能なレンズプロファイルを有するレンズ表面を含み、レンズ表面の頂点を直ちに囲む領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に、頂点への放射距離が短くなり、頂点を囲む外側領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイルに収束すると共に、頂点への放射距離が長くなるように、非球面プロファイルが組み合わされる。
【0006】
組み合わせが、レンズ表面の頂点を直ちに囲む領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に、頂点への放射距離が短くなり、頂点を囲む外側領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイルに収束すると共に、頂点への放射距離が長くなるようである場合に、標準非球面プロファイルを偶数位数非球面プロファイルと組み合わせることによって、中間視覚距離に向かって焦点深度を拡張することを生じさせるレンズ表面プロファイルを提示することができることが発見されてきた。特に、そのような表面プロファイルを有する眼用レンズは、より高い屈折力に向かって拡張する焦点につながることができ、それによって、遠距離における視覚能力を落とすことなく、中間距離において視覚能力を改善することをもたらすことができる。提案される眼用レンズ表面プロファイルはまた、レンズの偏位に関するより高い無感覚につながることができる。
【0007】
半径方向は、眼用レンズの中心軸に垂直であり、中心軸は、レンズ表面の対称の軸であってもよく、好ましくは、回転対称であってもよい。頂点は、中心軸がレンズ表面を横断する位置である。
【0008】
非球面プロファイルは、非球面プロファイルである。よって、非球面プロファイルは好ましくは、レンズ表面にわたって屈折力の一定でない分散を生じさせる、半径方向におけるどこでも同一でない曲面を有するプロファイルである。標準非球面プロファイルは好ましくは、特に放物線の円錐曲線の形式を有する。より具体的に、標準非球面プロファイルは、例えば、テキストブック「Modern Optical Engineering」 by W.J.Smith(McGraw-Hill,2000)またはray-tracing software Zemax OpticStudio,version 19.4(Zemax LLC,2019)のユーザマニュアルにおいて開示されるような円錐曲線に対応してもよい。
【0009】
偶数位数非球面プロファイルは好ましくは、偶数位数項のみを有する放射距離の多項式関数によって与えられる。よって、例えば、標準非球面プロファイルは、標準非球面プロファイルを多項式関数によっては正確に記述できず、特に、有理関数によってさえも記述できないという点で、偶数位数非球面プロファイルとは異なる。
【0010】
非球面プロファイルの組み合わせは、レンズプロファイル全体に好ましくは適用される組み合わせを指す。つまり、レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表される場合、例えば、レンズプロファイルのポイントごとのサグを、標準非球面プロファイルの対応するポイントサグ及び偶数位数非球面プロファイルの対応するポイントサグの組み合わせとして表すことができる。実施形態では、レンズプロファイルは、頂点への放射距離の関数によって表されてもよく、関数は、標準非球面プロファイルを記述した第1の非球面関数及び偶数位数非球面プロファイルを記述した第2の非球面関数に依存し、その結果、いずれかの放射距離におけるレンズプロファイルを記述した関数の値は、その放射距離における第1の非球面関数の値及び第2の非球面関数の値の線形組み合わせによって与えられる。レンズプロファイルを表す関数は、例えば、サグ関数であってもよい。
【0011】
したがって、好ましくは、眼用レンズのレンズ表面のレンズプロファイルを、単一の屈折ゾーンを定めるとして理解することができ、屈折力は、ゾーンにわたって可変である。
【0012】
レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に、頂点への放射距離が短くなることは好ましくは、頂点を囲む内側の領域内で、特に、頂点の近隣内で収束することである。よって、レンズプロファイルは、頂点を囲む内側の領域内で、特に、頂点の近隣内で標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計によっておおよそ記述されることと、頂点を囲む外側領域内で標準非球面プロファイルによっておおよそ記述されることとの間で可変であると見なされてもよい。頂点を囲む外側領域は好ましくは、レンズ表面の外側境界の近隣である。レンズプロファイルの収束は、例えば、レンズ表面のa)頂点及びb)外側境界における放射距離内の冪級数における関数を拡大し、冪級数における項を標準非球面プロファイル関数の冪級数における対応する項と、特に、少なくとも最初の2つの非定数項と比較することによって、レンズプロファイルを表す放射距離の所与の関数に対して試験されてもよい。代わりに、所与の関数は、標準非球面プロファイル関数及び残りの部分に関して表現されてもよく、残りの部分の限界は、レンズ表面のa)頂点及びb)外側境界に対して決定されてもよい。
【0013】
実施形態では、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせは、放射位置の平坦関数、すなわち、頂点への放射距離の平坦関数によって表すことが可能である。これは、光現象を生じさせることがある、光学収差を低減させることにつながることができる。平坦関数は、その第2の導関数がいずれの欠陥をも含まない関数、またはその第3の導関数が連続する関数として本明細書で理解される。特に、平坦関数は、その導関数が全て連続である、すなわち、無限に区別可能である関数として理解されてもよい。
【0014】
実施形態では、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせは、レンズ表面の頂点におけるゼロの一次導関数を有する、放射位置の関数によって表すことが可能である。これは、頂点における欠陥から起こる負の光学効果を回避することができる。
【0015】
実施形態では、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせは、二次導関数の符号を変化させると共に放射位置を高める、放射位置の関数によって表すことが可能である。眼用レンズは、このようにして、偏位、すなわち、光学軸からのその中心軸の逸脱に対して特に無感覚であることができる。また、このようにして、光学軸に関するレンズの傾きに対する無感覚さを達成することができる。偏位及び傾きに対する無感覚さは、例えば、レンズの焦点位置及び焦点深度など、レンズの光学特性の無感覚さを指す。光学特性は、変調伝達関数に関して、特に、焦点変調伝達関数を通じて測定されてもよい。
【0016】
レンズプロファイルと関連付けられた屈折力が、レンズを通じて伝播する光波の位相を表す関数の二次導関数に関連するので、レンズ材料の屈折率が一定であることを想定して、位相は、レンズの表面プロファイルによって唯一定められる。表面プロファイルの二次導関数の符号を変化させると共に放射位置を高めることは、放射位置に沿って、すなわち、屈折力を変化させると共に頂点への半径距離を長くさせることにつながると結論付けることができる。
【0017】
好ましくは、レンズプロファイルを表す関数の二次導関数は、その符号を変化させると共に放射位置を高め、その結果、レンズプロファイルと関連付けられた屈折力は、正の値から負の値に変化し、次いで、正の値に戻ると共に放射位置を高める。更に、レンズプロファイルを表す関数の二次導関数の符号が変化すると共に放射位置が高まり、その結果、レンズプロファイルと関連付けられた屈折力は、非偶数倍で符号を変化させ、数は、例えば、3または5である。レンズプロファイルと関連付けられた屈折力は、頂点におけるその値に対して特に測定されてもよい。
【0018】
レンズプロファイルを表す関数の二次導関数は、放射距離への頂点から、レンズ表面の全放射範囲の3分の2以下、好ましくは、レンズ表面の全放射範囲の半分以下の頂点まで拡張する、レンズ表面の内側領域内でのみその符号を変化させる。レンズが眼内レンズである場合、レンズ表面の全放射範囲は、例えば、おおよそ3mmに到達することができる。
【0019】
好ましい実施形態では、標準非球面プロファイルのサグ関数は、
【数1】
によって定義され、rは、レンズ表面の頂点への放射距離を表し、cは、レンズ表面の頂点における曲面を表し、kは、円錐定数を表す。円錐定数kは、好ましくは、負である。レンズ表面の頂点における曲面cは、好ましくは、正である。実施形態では、レンズ表面の頂点における曲面cは、a)0.005mm
-1以上であり、b)0.25mm
-1以下である。好ましい実施形態では、レンズ表面の頂点における曲面cは、a)0.005mm
-1以上であり、b)0.08mm
-1以下である。その上、円錐定数kは、好ましくは、a)-800以上であり、b)5以下である。好ましい実施形態では、円錐定数kは、a)-800以上であり、b)-5以下である。そのような標準非球面プロファイルを使用することによって、眼用レンズの光学性能が更に改善することが可能になることが発見されてきた。
【0020】
本明細書では、レンズプロファイルを表すサグ関数は、レンズプロファイルを含むレンズ表面の頂点の角度位置によって与えられる一定の高さに関するレンズプロファイルの深度の測定として理解される。同一のレンズプロファイルも、例えば、レンズの中心軸及び/または光学軸に直交するレンズに事実上に交差する平面に関してレンズ表面の高さを測定する関数によって表されてもよく、この代替的な関数は、例えば、レンズプロファイルの定数とサグ関数との間の差によって与えられてもよい。
【0021】
実施形態では、偶数位数非球面プロファイルのサグ関数は、
【数2】
によって定義され、rは、眼用レンズ表面の頂点への放射距離を表し、A
2nは、定数である。好ましくは、レンズプロファイルを表す関数の二次導関数の符号を変化させると共に放射位置を高めることは、定数A
2nの間の1つ以上の比率に対応する。定数A
2nの値は、好ましくは、それぞれがmm
-2n+1の単位にあるとき、-10
-2の次数にある値から10
-2の次数にある値までの範囲に及ぶ。そのような偶数位数非球面プロファイルを使用することによっても、眼用レンズの光学性能を更に改善することが可能になることが発見されてきた。
【0022】
好ましい実施形態では、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせは、頂点への或る放射距離におけるレンズプロファイルへの、標準非球面プロファイルの貢献及び偶数位数非球面プロファイルの貢献が放射距離に依存するように、頂点への放射距離に依存する組み合わせ関数によって定義される。よって、例えば、標準非球面プロファイルのサグ関数及び偶数位数非球面プロファイルのサグ関数は、相互に単純に比例せず、その結果、レンズプロファイルを表す関数は、単純に2つのサグ関数の線形組み合わせではない。
【0023】
実施形態では、レンズプロファイルのサグ関数は、
【数3】
によって定義され、rは、レンズ表面の頂点への放射距離を表し、S
1(r)は、標準非球面プロファイルのサグ関数を表し、S
2(r)は、偶数位数非球面プロファイルのサグ関数を表し、M(r)は、組み合わせ関数を表す。特に、S
1(r)及びS
2(r)は、上記式(1)及び(2)において与えられるサグ関数を表してもよい。上記式(3)は、
【数4】
として等しく表現されてもよい。
【0024】
組み合わせ関数は、好ましくは、レンズ表面の頂点に向かって0に傾き、好ましくは、レンズ表面の外側境界に向かって1に傾く。また、組み合わせ関数M(r)は、半径方向において単調に増大し、すなわち、半径方向においては全く増大しないことが好ましい。そのような組み合わせ関数を使用することによっても、眼用レンズの光学性能を更に改善することが可能になることが発見されてきた。
【0025】
実施形態では、組み合わせ関数は、平坦関数である。好ましくは、組み合わせ関数は、
【数5】
によって定義され、A及びρは、定数である。より一般的に、組み合わせ関数は、内側放射領域及び外側放射領域内でよりも放射状に中間放射領域内で増大することが好ましい。実施形態では、定数Aは、2.0mm
-1以上であり、10.0mm
-1以下であり、定数ρは、0.3mm以上であり、2.5mm以下である。好ましい実施形態では、定数Aは、4.0mm
-1以上であり、7.0mm
-1以下であり、定数ρは、0.3mm以上であり、2.0mm以下である。また、それらのパラメータは、眼用レンズの光学性能を更に改善することにつながる。
【0026】
優先的に、レンズプロファイルのサグ関数s(r)は、以下のパラメータ範囲の組、-800<=k<=5、0.005mm-1<=c<=0.25mm-1、2.0mm-1<A<10.0mm-1、0.3mm<ρ<2.5mm、-1.5×10-2mm-1<A2<1.5×10-2mm-1、-1.5×10-2mm-3<A4<1.5×10-2mm-3、-9.0×10-3mm-5<A6<9.0×10-3mm-5、-2.9×10-2mm-7<A8<2.9×10-2mm-7、-3.0×10-2mm-9<A10<3.0×10-2mm-9、-1.2×10-4mm-11<A12<1.2×10-4mm-11、-1.2×10-4mm-11<A14<1.2×10-4mm-11、-1.2×10-4mm-11<A16<1.2×10-4mm-11、によって決定される。特定の実施形態では、レンズプロファイルのサグ関数s(r)は、以下のパラメータ範囲の組、-800<=k<=-5、0.005mm-1<=c<=0.08mm-1、4.0mm-1<A<7.0mm-1、0.3mm<ρ<2.0mm、8.9×10-5mm-1<A2<3.0×10-4mm-1、8.9×10-3mm-3<A4<1.2×10-4mm-3、-9.0×10-3mm-5<A6<-4.0×10-3mm-5、-2.9×10-2mm-7<A8<-2.0×10-2mm-7、2.0×10-2mm-9<A10<2.8×10-2mm-9、-1.0×10-4mm-11<A12<1.2×10-4mm-11、A14=0、A16=0、によって決定される。
【0027】
好ましい実施形態では、レンズプロファイルを有するレンズ表面は、屈折レンズ表面である。よって、レンズプロファイルを有するレンズ表面は、好ましくは、いずれの屈折素子をも含まない。このようにして、眼用レンズの単焦点性が増大することができる。
【0028】
好ましい実施形態では、眼用レンズは、眼内レンズである。眼内レンズとして、眼用レンズは、眼の自然の結晶レンズを置き換える屈折媒体として機能するように、嚢外白内障摘出の後の患者の眼の水晶体嚢内に配置されることを意図する。しかしながら、眼用レンズは、コンタクトレンズ、またはグラスのレンズ、すなわち、更にはメガネなど、別の種類の接眼レンズでもあってもよい。
【0029】
本発明の更なる態様では、眼用レンズを製造する方法が提示され、製造方法は、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能であるように、眼用レンズのレンズ表面のレンズプロファイルを形成することを含み、レンズ表面の頂点を直ちに囲む領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に、頂点への放射距離が短くなり、頂点を囲む外側の領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイルに収束すると共に、頂点への放射距離が長くなるように、非球面プロファイルが組み合わされる。
【0030】
レンズプロファイルは、例えば、既知の鋳造手順を使用することによって、またはレンズを製造するために一般的に使用される別の技術によって形成されてもよい。特に、レンズプロファイルは、鋳型法によって形成されてもよい。
【0031】
本発明の別の態様では、製造方法によって製造可能な眼用レンズが提示される。
【0032】
請求項1に記載の眼用レンズ及び請求項15に記載の製造方法は、従属請求項に記載された類似及び/または同一の好ましい実施形態を有することが理解されよう。
【0033】
本発明の好ましい実施形態は、それぞれの独立項との従属項のいずれかの組み合わせでもあってもよいことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】眼用レンズの実施形態を概略的且つ例示的に示す。
【
図2】レンズプロファイルのサグ関数及び標準非球面のサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図3】偶数位数非球面プロファイルのサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図5】レンズプロファイルのサグ関数と標準非球面プロファイルのサグ関数との間の差を概略的且つ例示的に示す。
【
図7】スルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図8】レンズ偏位に応じた特定の空間周波数における遠変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図9】レンズ偏位に応じた別の特定の空間周波数における遠変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図10】
図2に示されたサグ関数とは異なるタイプのサグ関数であるレンズプロファイルサグ関数及び標準非球面プロファイルのサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図11】
図6に示された1つとは異なるタイプの遠変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図12】
図7に示された1つとは異なるタイプのスルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図13】眼用レンズ表面の屈折力プロファイルを概略的且つ例示的に示す。
【
図14】更なる実施形態のレンズプロファイルのサグ関数及び標準非球面プロファイルのサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図15】更なる実施形態の偶数位数非球面プロファイルのサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図16】更なる実施形態の組み合わせ関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図17】更なる実施形態のレンズプロファイルのサグ関数と標準非球面プロファイルのサグ関数との間の差を概略的且つ例示的に示す。
【
図18】更なる実施形態のための遠変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図19】更なる実施形態のためのスルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
【
図20】更なる実施形態の眼用レンズ表面の屈折力プロファイルを概略的且つ例示的に示す。
【
図21】眼用レンズを製造する製造方法の実施形態を例示的に表すフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、平坦レンズ表面2を有する眼用レンズ1の実施形態を概略的且つ例示的に示す。レンズ表面2は、この実施形態では、放射状に対称であり、すなわち、中心軸の周りの回転に対して対称である。中心軸は事実上、レンズ表面2の中心3においてレンズ表面2を貫通し、中心3は、
図1において点によって概略的に示される。レンズ1は、取り除かれた自然レンズをレンズ1と置き換えるために、眼内でレンズ1を固定するための固定要素4に取り付けられる。よって、レンズ1は、眼内レンズである。
【0036】
レンズ表面2が放射状に対称であるので、レンズ表面2の頂点は中心3にある。レンズ1のレンズ表面2の曲面を、レンズプロファイルによって特徴付けることができ、レンズプロファイルは、レンズ表面2の中心を含み、
図1の平面図に直交する、仮想平面とのレンズ表面2の交差の線に対応する。
図1に示されるレンズ表面2が放射状に対称であるので、そのように得られたレンズプロファイルは、この仮想平面の角度方位とは独立する。他の実施形態では、レンズ表面2は、異なる半径方向において異なるレンズプロファイルを含んでもよい。
【0037】
レンズ表面2は、6mmの、中心軸に垂直に測定された、すなわち、半径方向における直径を有するレンズ1の前表面である。しかしながら、他の実施形態では、直径はまた、より小さくてもよく、またはより大きくてもよい。前表面2は、非球面状に湾曲し、すなわち、非球面表面である。レンズ1はまた、前表面2とは反対の、
図1には示されない後表面を有する。レンズ1の後表面も、非球面表面であってもよく、またはそれは、球面表面であってもよい。
【0038】
それらの曲面に起因して、レンズ表面は屈折表面であり、2つの屈折表面は連帯して、眼用レンズ1に屈折力を与える。レンズ1の材料は、モノメチンのような紫外線光及び青色光フィルタリング発色団を吸収するためのベンゾトリアゾールのようなエージェントを含む疎水性アクリル材料であり、材料は、生体適合性を有し、且つ折り畳み可能である。好ましいレンズ材料に関する更なる詳細については、米国特許第8,647,383号及び米国特許第9,265,603号への参照が行われる。レンズ材料の屈折率は、例えば、1.544であってもよい。
【0039】
図2は、レンズ表面2のレンズプロファイルを表すサグ関数S(r)のグラフを概略的且つ例示的に示す。
図2は、標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)のグラフを概略的且つ例示的に示し、
図3は、偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)のグラフを概略的且つ例示的に示し、そのサグ関数S(r)が
図2に示されるレンズプロファイルは、そのサグ関数S
1(r)が
図2に示される標準非球面プロファイル及びそのサグ関数S
2(r)が
図3に示される偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表されてもよい。それぞれのサグ関数S
1(r)及びS
2(r)の組み合わせに対応する、2つの非球面プロファイルの組み合わせは、組み合わせ関数M(r)によって表されてもよい。
図2及び3に示されるグラフの水平軸は、放射座標、すなわち、レンズ1の中心軸に垂直に測定されるような、頂点へのレンズ表面2のそれぞれの位置の放射距離rを定める座標を示す。
【0040】
図2において見ることができるように、レンズ表面サグ関数S(r)は、放射位置の全範囲において特にS(r)の第1の導関数が連続することを意味する、放射位置rの平坦関数である。関数S(r)は、レンズ中心r=0における0から半径r
B=3mmにおけるレンズ表面の外側境界における約0.175mmまでの範囲に及ぶ正の値を取る。レンズ中心r=0に位置する頂点において、レンズ表面サグ関数S(r)は、消えている一次導関数を有する。実際に、
図2では、レンズ表面サグ関数S(r)と標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)との間の差は、表されたグラフの軸の分解能に起因してほとんど視認可能でない。標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)は、上記式(1)によって定義され、レンズ表面の頂点における曲面cは、凸形状に対応し、円錐定数kは、負であり、それは、示された標準非球面プロファイルが放物線であることを意味する。
【0041】
cの値は、レンズ1の参照屈折力に対応する参照曲面として見なされてもよく、参照屈折力は、臨床コンテキストにおいて処方箋に基づいて選択されてもよい。
【0042】
そのような標準非球面プロファイルを有する表面を有するレンズが、単一の、実質的に局所化された焦点を必然的に生じさせることを理由に、標準非球面プロファイルも、標準単焦点プロファイルとして見なされてもよい。そのサグ関数S(r)が
図2に示されるレンズ1の参照屈折力がおおよそ20ジオプタであり、円錐定数kは、適切に選択される。参照屈折力は、レンズ表面2の頂点における曲面の値cに対応する。
【0043】
図3のグラフに示される偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)は、上記(2)によって定義され、示されたグラフの水平軸は、その絶対値がレンズ表面2の頂点への放射距離rに対応する放射座標を示し、定数A
2nは、適切に選択される。
図2に表されるグラフと比較して、
図3に表されるグラフの垂直軸の非常に異なる分解能に起因して、偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)は、レンズ表面2の放射範囲の半分にわたって実質的に0であるように見える。しかしながら、既にレンズ表面2のこの内側領域内で、偶数位数非球面プロファイルは、そのサグ関数S
1(r)が
図2に示される標準非球面プロファイルに関して無視できない。
【0044】
例示的なレンズ1に対応する組み合わせ関数M(r)は、
図4に示される。それは、放射位置rの平坦関数によって定義され、上記式(5)において与えられる形式のものであり、定数A及びρは、適切に選択される。
図2に示されるレンズ表面2に対するレンズ表面サグ関数は、
図2に示される標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)及び
図3に示される偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)の組み合わせであり、2つのサグ関数の組み合わせは、
図4に示される組み合わせ関数M(r)によって定義される。この実施形態では、組み合わせ関数M(r)は、頂点への放射距離に依存し、その結果、頂点への或る放射距離におけるレンズ1のレンズプロファイルサグ関数S(r)への、標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)の貢献及び偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)の貢献は、放射距離rに依存する。したがって、組み合わせ関数M(r)も、2つの異なる非球面プロファイルからの貢献をマスクするマスク関数として見なされてもよく、マスクすることの程度は、放射位置rに依存する。
【0045】
レンズ表面2の頂点を直ちに囲む領域内で、S1(r)によって記述された標準非球面プロファイル及びS2(r)によって記述された偶数位数非球面プロファイルの合計にレンズプロファイルが収束すると共に、頂点への放射距離rが短くなり、頂点を囲む外側領域内で、標準非球面プロファイルにレンズプロファイルが収束すると共に、頂点への放射距離rが長くなるように、結果として生じるレンズプロファイルサグ関数S(r)によって記述されたレンズ表面2が形状付けられる。
【0046】
この実施形態では、標準非球面プロファイサグ関数S1(r)、偶数位数非球面プロファイルサグ関数S2(r)、及び組み合わせ関数M(r)が全て平坦関数であるので、組み合わされたサグ関数、すなわち、レンズプロファイルサグ関数S(r)も、平坦である。
【0047】
組み合わせによってレンズプロファイルサグ関数S(r)を結果としてもたらす、非球面プロファイルサグ関数S1(r)及びS2(r)は、この実施形態では、レンズプロファイルサグ関数S(r)の二次導関数がその符号を変化させると共に放射位置を高めるように設計され、放射位置は、レンズ表面2と関連付けられた屈折力が負になる中間放射領域によって反射される。この領域は、おおよそ0.7mmの放射位置の周りを延びるレンズ表面2の環状領域である。レンズ1のレンズプロファイルサグ関数S(r)は、上記式(4)に等しい、上記式(3)によって定義される。
【0048】
レンズプロファイルサグ関数S(r)と標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)との間の差(1-M(r))S
2(r)に対応する、式(4)の第2の項は、
図1~4にも表された実施形態に対して
図5に示される。
図5に表されるグラフの垂直軸上で見られるようなこの関数の差(1-M(r))S
2(r)の値から、レンズプロファイルサグ関数S(r)と標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)との間の差が
図2においてなぜほとんど視認可能でないかが明らかである。
【0049】
以下に表されるように、
図5に示される関数の差(1-M(r))S
2(r)によって想定される値は小さく見え、標準非球面表面からのレンズ表面2の外見的には小さな逸脱に対応するにすぎずないのに対し、外見的には小さな逸脱によって生じる光学的効果は、驚くほど大きい。実際に、標準非球面表面からのレンズ表面2の逸脱は、まさに十分に大きく、まさに正しく位置付けられるように設計されてもよく、その結果、レンズ1の焦点深度を、より小さな焦点距離に向かって広げることができる。その上、逸脱は、なおも十分に小さく、まさに正しく位置付けられるように設計されてもよく、その結果、レンズ表面2によって生じる望ましくない光現象を回避することができる。
【0050】
図6は、それぞれ3.0mm及び4.5mmの開口を有する、眼用レンズがその中に配置された人間の眼に対して計算される変調伝達関数(MTF)を概略的且つ例示的に示し、計算は、遠視覚距離に対して実行されている。
図6では、撮像品質の測定と見なされ得る変調伝達関数は、開口に関わらず、より高い空間周波数に向かって相対的に低速に下落することを理解することができる。
【0051】
図7は、ミリメートルごとに50ラインペアの空間周波数において、レンズ1がその中に配置された人間の眼に対して計算されるスルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。スルーフォーカス変調伝達関数は、スルーフォーカス応答曲線とも称されてもよい。
図7では、スルーフォーカス変調伝達関数は、3.0mmの開口及び4.5mmの開口に対して示される。水平軸は、焦点シフト、すなわち、レンズ1の参照屈折力に対応する焦点距離に対して測定された焦点距離を示し、負の焦点シフトは、参照屈折力に関してより高い屈折力に対応する。
図7に示される両方の開口サイズについて、主となる、遠焦点ピークの幅は、特に負の焦点シフト方向において、対応する標準非球面レンズに関して広くなる。よって、
図7は、中間視覚距離において人間の眼の視覚能力を改善することができることを表す。
【0052】
図8は、レンズの偏位へのその依存、すなわち、光学軸からのレンズ表面の中心軸の逸脱において、標準非球面レンズの1つと比較して、遠視覚距離に対して計算され、33mmの開口を有する、ミリメートルごとに50ラインペアの空間分解能において、強化された非球面レンズとして見なされ得る、レンズ1に対応する変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
図8では、変調伝達関数の値は、標準非球面レンズに対応する1つと比較して相対的に小さく減少するにすぎないことを理解することができる。この振る舞いは、空間分解能がミリメートルごとに100ラインペアになるように選択されることを除き、
図8に対応する
図9でも見ることができる。おおよそ0.6mmを上回る偏位について、ミリメートルごとに50ラインペア及びミリメートルごとに100ラインペアの両方における変調伝達関数は、標準非球面レンズと比較してレンズ1に対して一層高い。
【0053】
図10は、6ジオプタの屈折力、すなわち、
図1に示されたレンズ表面2によってもたらされ、
図2に示されたサグ関数によって表すことが可能な屈折力よりも小さい屈折力をもたらすレンズ表面に対するレンズプロファイルサグ関数及び対応する標準非球面プロファイルサグ関数を概略的且つ例示的に示す。
図10では、対応する標準非球面プロファイルサグ関数から、そのようなより小さな屈折力をもたらすのレンズ表面のサグ関数の逸脱は、レンズ表面2に対する対応する逸脱よりも高いことを理解することができる。
【0054】
図11では、遠視覚距離に対して計算され、それぞれ3.0mm及び4.5mmの開口を有する変調伝達関数は、人間の眼の中に配置された、
図10によって表されるようなレンズ表面を有するレンズに対して概略的且つ例示的に示される。
図11から、
図10に表される1つのようなレンズ表面に対しても、変調伝達関数は、開口に関わらず、より高い空間周波数に向かって相対的に低速に下落することを理解することができる。
【0055】
図12は、ミリメートルごとに50ラインペアの空間周波数において、その表面が
図10に表されるレンズがその中に配置された人間の眼に対して計算されたスルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。スルーフォーカス変調伝達関数は、3.0mmの開口及び4.5mmの開口に対して示される。水平軸は、焦点シフト、すなわち、レンズの参照屈折力に対応する焦点距離に対して測定された焦点距離を示し、負の焦点シフトは、参照屈折力に関してより高い屈折力に対応する。
図12に示される両方の開口サイズについて、主となる、遠焦点ピークの幅は、特に負の焦点シフト方向において、対応する標準非球面レンズに関して広くなる。よって、
図12は、中間視覚距離において、
図10に表される表面を有するレンズによっても、人間の眼の視覚能力を改善することができることを表す。
【0056】
図13は、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能なレンズプロファイルに対応する屈折力プロファイルを概略的且つ例示的に示す。レンズ中心における参照屈折力に対して測定された屈折力を指す、示される力プロファイルは、対応するレンズプロファイルを表す関数、すなわち、例えば、レンズの対応するサグ関数の二次導関数の極値点に対応する極値を含む。レンズ表面の外側境界に向かって、屈折力は、定数に傾く。
図13に示される屈折力プロファイルは、相対的球面力を表し、
図2~5によって表されたレンズプロファイルに対応する。
【0057】
図14は、レンズ表面2のレンズプロファイル表すことができる、サグ関数S(r)の更なる実施形態のグラフを概略的且つ例示的に示す。また、
図14は、
図2のように、標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)のグラフを更に概略的且つ例示的に示し、
図15は、更なる実施形態に対応する偶数位数非球面プロファイルサグ関数関数S
2(r)のグラフを概略的且つ例示的に示し、そのサグ関数S(r)が
図14に示されるレンズプロファイルは、そのサグ関数S
1(r)が
図14に示される標準非球面プロファイル及びそのサグ関数S
2(r)が
図15に示される偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表されてもよい。それぞれのサグ関数S
1(r)及びS
2(r)の組み合わせに対応する、2つの非球面プロファイルの組み合わせは、組み合わせ関数M(r)によって表されてもよい。
図14及び15に示されるグラフの水平軸は、放射座標、すなわち、レンズ1の中心軸に垂直に測定されるような、頂点へのレンズ表面2上のそれぞれの位置の放射距離rを定める座標を示す。
【0058】
図14において見ることができるように、レンズ表面サグ関数S(r)は、特にS(r)の第1の導関数が、放射位置の全範囲において連続することを意味する、放射位置rの平坦関数である。関数S(r)は、レンズ中心r=0における0から半径r
B=3mmにおけるレンズ表面の外側境界における約0.40mmまでの範囲に及ぶ正の値を取る。レンズ中心r=0に位置する頂点において、レンズ表面サグ関数S(r)は、消えている一次導関数を有する。実際に、
図14では、レンズ表面サグ関数S(r)と標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)との間の差は、表されたグラフの軸の分解能に起因してほとんど視認可能でない。標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)は、上記式(1)によって定義され、レンズ表面の頂点における曲面cは、凸形状に対応し、円錐定数kは、負であり、それは、示された標準非球面プロファイルが放物線であることを意味する。また、この実施形態では、cの値は、レンズ1の参照屈折力に対応する参照曲面として見なされてもよく、参照屈折力は、臨床コンテキストにおいて処方箋に基づいて選択されてもよい。その上、また、この実施形態では、標準非球面プロファイルを有する表面を有するレンズが、単一の、実質的に局所化された焦点を必然的に生じさせることを理由に、そのような標準非球面プロファイルも、標準単焦点プロファイルとして見なされてもよい。そのサグ関数S(r)が
図14に示されるレンズ1の参照屈折力は、相対的に高いことができ、円錐定数kは、適切に選択されてもよい。特に、円錐定数kは、この実施形態では、-6であってもよい。参照屈折力は、レンズ表面2の頂点における曲面の値cに対応する。
【0059】
図15のグラフに示される偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)は、上記(2)によって定義され、示されたグラフの水平軸は、その絶対値がレンズ表面2の頂点への放射距離rに対応する放射座標を示し、定数A
2nは、適切に選択される。特に、この実施形態では、以下の定数が適用される、A
2=1.2×10
-3mm
-1、A
4=1.3×10
-2mm
-3、A
6=-6.0×10
-3mm
-5、A
8=-1.8×10
-2mm
-7、A
10=2.2×10
-2mm
-9、A
12=0、A
14=0、A
16=0。
【0060】
図14に表されるグラフと比較して、
図15に表されるグラフの垂直軸の非常に異なる分解能に起因して、偶数位数非球面プロファイルサグ関数A
2nは、レンズ表面2の放射範囲にわたって実質的に0であるように見える。しかしながら、既にレンズ表面2のこの内側領域内で、偶数位数非球面プロファイルは、そのサグ関数S
1(r)が
図14に示される標準非球面プロファイルに関して無視できない。
【0061】
例示的なレンズ1に対応する組み合わせ関数M(r)の更なる実施形態は、
図16に示される。それは、放射位置rの平坦関数によって定義され、上記式(5)において与えられる形式のものであり、定数A及びρは、適切に選択される。特に、この実施形態では、定数Aは、4.0mm
-1であり、定数ρは、0.74mmである。
【0062】
図14に示されるレンズ表面2に対するレンズ表面サグ関数は、
図14に示される標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)及び
図15に示される偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)の組み合わせであり、2つのサグ関数の組み合わせは、
図16に示される組み合わせ関数M(r)によって定義される。また、この実施形態では、組み合わせ関数M(r)は、頂点への放射距離に依存し、その結果、頂点への或る放射距離におけるレンズ1のレンズプロファイルサグ関数S(r)への、標準非球面プロファイルサグ関数S
1(r)の貢献及び偶数位数非球面プロファイルサグ関数S
2(r)の貢献は、放射距離rに依存する。したがって、組み合わせ関数M(r)も、2つの異なる非球面プロファイルからの貢献をマスクするマスク関数として見なされてもよく、マスクすることの程度は、放射位置rに依存する。
【0063】
また、この実施形態では、レンズ表面2の頂点を直ちに囲む領域内で、S1(r)によって記述された標準非球面プロファイル及びS2(r)によって記述された偶数位数非球面プロファイルの合計にレンズプロファイルが収束すると共に、頂点への放射距離rが短くなり、頂点を囲む外側領域内で、標準非球面プロファイルにレンズプロファイルが収束すると共に、頂点への放射距離rが長くなるように、結果として生じるレンズプロファイルのサグ関数S(r)によって記述されたレンズ表面2が形状付けられる。その上、また、この実施形態では、標準非球面プロファイのサグ関数S1(r)、偶数位数非球面プロファイルのサグ関数S2(r)、及び組み合わせ関数M(r)が全て平坦関数であるので、この実施形態では、組み合わされたサグ関数、すなわち、レンズプロファイルのサグ関数S(r)も、平坦である。
【0064】
レンズプロファイルのサグ関数S(r)と標準非球面プロファイルのサグ関数S
1(r)との間の差(1-M(r))S
2(r)に対応する、式(4)の第2の項は、
図14~16に表された実施形態に対して
図17に示される。
図17に表されるグラフの垂直軸上で見られるようなこの関数の差(1-M(r))S
2(r)から、レンズプロファイルのサグ関数S(r)と標準非球面プロファイルのサグ関数S
1(r)との間の差が
図14においてなぜほとんど視認可能でないかが明らかである。
【0065】
以下に表されるように、
図17に示される関数の差(1-M(r))S
2(r)によって想定される値は小さく見え、標準非球面表面からのレンズ表面2の外見的には小さな逸脱に対応するにすぎず、また、この実施形態では、外見的には小さな逸脱によって生じる光学的効果は、驚くほど大きい。
【0066】
図18は、それぞれ3.0mm及び4.5mmの開口を有する、眼用レンズ1がその中に配置された人間の眼に対して計算されたMTFを概略的且つ例示的に示し、計算は、遠視覚距離に対して実行されている。
図18では、撮像品質の測定と見なされてもよい、変調伝達関数は、開口に関わらず、より高い空間周波数に向かって相対的に低速に下落することを理解することができる。
【0067】
図19は、ミリメートルごとに50ラインペアの空間周波数において、
図14~17に表された更なる実施形態のレンズプロファイルを有するレンズ1がその中に配置された人間の眼に対して計算されたスルーフォーカス変調伝達関数を概略的且つ例示的に示す。
図19では、スルーフォーカス変調伝達関数は、3.0mmの開口及び4.5mmの開口に対して示される。水平軸は、焦点シフト、すなわち、レンズ1の参照屈折力に対応する焦点距離に対して測定された焦点距離を示し、負の焦点シフトは、参照屈折力に関してより高い屈折力に対応する。
図19に示される両方の開口サイズについて、主となる、遠焦点ピークの幅は、特に負の焦点シフト方向において、対応する標準非球面レンズに関して広くなる。よって、
図19は、中間視覚距離において人間の眼の視覚能力を改善することができることを表す。
【0068】
図20は、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの組み合わせによって表すことが可能なレンズプロファイルに対応する屈折力プロファイルを概略的且つ例示的に示す。レンズ中心における参照屈折力に対して測定された屈折力を指す、示される力プロファイルは、対応するレンズプロファイルを表す関数、すなわち、例えば、レンズの対応するサグ関数の二次導関数の極値点に対応する極値を含む。レンズ表面の外側境界に向かって、屈折力は、定数に傾く。
図20に示される屈折力プロファイルは、相対的球面力を表し、
図14~17によって表されたレンズプロファイルに対応する。
【0069】
以下では、眼用レンズを製造する製造方法の実施形態が、
図21に示されるフローチャートを参照して例示的に説明される。
【0070】
ステップ101では、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの数学的組み合わせが提供され、レンズ表面の頂点を直ちに囲む領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの合計に収束すると共に、頂点への放射距離が短くなり、頂点を囲む外側領域内で、レンズプロファイルが標準非球面プロファイルに収束すると共に、頂点への放射距離が長くなるように、非球面プロファイルが組み合わされる。
【0071】
ステップ102では、眼用レンズは、標準非球面プロファイル及び偶数位数非球面プロファイルの提供された組み合わせにレンズの表面が一致するように形状付けられる。レンズは、例えば、既知の鋳造手順及び既知のラッチ切断手順を使用することによって、またはレンズを製造するために一般的に使用される別の技術によって形成されてもよい。
【0072】
上記説明された実施形態では、レンズは、回転対称であるが、レンズは、円環形状を有するレンズ表面をも有してもよい。そのケースでは、第1のレンズプロファイルは、レンズ表面の第1の半径方向において設けられてもよく、第2のレンズプロファイルは、レンズ表面の第2の半径方向に対して設けられてもよく、第1の半径方向及び第2の半径方向は、相互に垂直であってもよい。
【0073】
図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の学習から、特許請求の範囲請求される発明を実践する際に、当業者によって、開示される実施形態への他の変形例を理解及び達成することができる。
【0074】
特許請求の範囲では、用語「comprising」は、他の要素またはステップを排除せず、不定冠詞「a」または「an」は、複数を排除しない。
【0075】
特許請求の範囲におけるいずれかの参照符号は、範囲を限定するとして解釈されるべきではない。