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特許7562870リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体及びその製造方法と使用
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  • 特許-リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体及びその製造方法と使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20240930BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20240930BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240930BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240930BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
H01M4/1397
H01M4/36 A
H01M4/58
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023544616
(86)(22)【出願日】2020-12-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 CN2020142036
(87)【国際公開番号】W WO2022088495
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】202011171827.0
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523124740
【氏名又は名称】湖北融通高科先進材料集団股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【弁理士】
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】程 光春
(72)【発明者】
【氏名】孫 傑
(72)【発明者】
【氏名】何 中林
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-226741(JP,A)
【文献】特開2015-095455(JP,A)
【文献】特開2018-098161(JP,A)
【文献】特開2013-258130(JP,A)
【文献】特開2019-046689(JP,A)
【文献】特開2019-036455(JP,A)
【文献】特開2015-002170(JP,A)
【文献】特開2009-087562(JP,A)
【文献】特開2007-076929(JP,A)
【文献】特開2018-150217(JP,A)
【文献】特開2019-220350(JP,A)
【文献】特開平11-283623(JP,A)
【文献】特表2017-526118(JP,A)
【文献】特表2007-515762(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107910197(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108682894(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
H01M 4/1397
H01M 4/36
H01M 4/58
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウム-リチウム酸化物複合体を製造する方法であって、
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョン(登録商標)するステップ(1)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、前記リン酸鉄リチウム-リチウム酸化物複合体を得るステップ(2)とを含
前記リチウムリッチ酸化物は、Li FeO 及び/又はLi CoO である、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ(1)では、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物の重量比は、100:2~10である、
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(1)では、前記メカノフュージョンの条件は、フュージョン速度が300~2500rpmとし、フュージョン時間が3~60minとすることである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)では、前記保護ガスは、窒素ガス及び/又は不活性ガスである、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(2)では、前記篩は、振動篩であり、前記篩のメッシュ数は、200~500メッシュであり、
ステップ(2)では、前記脱磁のための脱鉄器の磁力は、5000~12000GSである、
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョン(登録商標)するステップ(a)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウム酸化物複合体を得るステップ(b)と、
溶媒の存在下で、前記リン酸鉄リチウム-リチウム酸化物複合体、導電剤及び粘着剤を混合して、正極スラリーを得るステップ(c)と、
前記正極スラリーを集電体の箔材に塗布し、その後に乾燥させて、リチウムイオン電池の正極シートを得るステップ(d)とを含
前記リチウムリッチ酸化物は、Li FeO 及び/又はLi CoO である、
ことを特徴とするリチウムイオン電池の正極シートを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の分野に関し、具体的には、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体及びその製造方法と使用に関する。
【0002】
本願は、2020年10月28日に出願された中国特許出願第202011171827.0号の優先権を主張し、当該出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
市販されているリチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、作動電圧が高く、サイクル寿命が長く、メモリイフェクトがなく、環境汚染が少ないなどの特徴を有し、電子製品、動力電池及びエネルギー貯蔵などの分野にいずれも広く応用され、そしてその応用範囲が相変わらず絶え間なく拡大し、生活の様々な方面に関する。リチウムイオン電池の正極材料は、リチウムイオン電池の中核材料のうちの1つであり、電池のコストの30%程度を占め、また正極材料は、リチウムイオン電池のエネルギー密度に直接的に影響し、リチウムイオン電池の総合的な性能を決定する。
【0004】
1997年にGoodenough様が最初にオリビン型構造リン酸鉄リチウム(LiFePO)材料がリチウムを放出するという機能を有することを報告して以来、LiFePOは、学界及び産業界の関心を共に引き起こした。炭素被覆及びイオンドーピング技術を用いることによりLiFePOの真性導電性が低いという欠点を克服することができ、ナノ化などの技術によりLiFePOのリチウムイオンの拡散速度が遅いなどの欠点を克服することにより、その性能を大幅に向上させることができ、その供給源が広く、コストが低く、環境に対する影響が小さく、サイクル寿命が長くて安全性能が高いなどの利点を合わせて、LiFePOは、現在主流となるリチウムイオン電池の正極材料のうちの1つとなる。
【0005】
市場においてLiFePOの総合的な性能、例えば比容量、圧縮密度、レート特性、サイクル寿命及びBOMコストなどに対する要求が絶え間なく高まることに伴い、従来技術ではLiFePOの比容量が理論比容量の限界に近づき、LiFePOリチウムイオン電池の比容量及びエネルギー密度をどのように向上させるかは、早急に解決すべき問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術におけるLiFePO材料に存在する比容量が理論比容量の限界に近づき、さらに向上できないという欠陥を克服するために、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体及びその製造方法を提供することにより、LiFePOリチウムイオン電池の比容量及びエネルギー密度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様によれば、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を製造する方法が提供され、当該方法は、
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョンするステップ(1)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るステップ(2)とを含む。
【0008】
本発明の第2態様によれば、前述の方法で製造されたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体が提供される。
【0009】
本発明の第3態様によれば、リン酸鉄リチウム及びリチウムリッチ酸化物を含み、
前記リン酸鉄リチウムと前記リチウムリッチ酸化物の含有量の重量比は、100:2~15であるリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体が提供される。
【0010】
本発明の第4態様によれば、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体のリチウムイオン電池における応用が提供される。
【0011】
本発明の第5態様によれば、リチウムイオン電池の正極シートを製造する方法が提供され、当該方法は、
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョンするステップ(a)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るステップ(b)と、
溶媒の存在下で、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体、導電剤及び粘着剤を混合して、正極スラリーを得るステップ(c)と、
前記正極スラリーを集電体の箔材に塗布し、その後に乾燥させて、リチウムイオン電池の正極シートを得るステップ(d)とを含む。
【0012】
本発明の第6態様によれば、前述の第5態様に記載の方法で製造されたリチウムイオン電池の正極シートを含むリチウムイオン電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
従来技術に比べて、本発明は、少なくとも以下の利点を有する。
【0014】
本発明に係る方法では、特定の割合のリチウムリッチ酸化物とLiFePOをメカノフュージョンすることにより、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得て、LiFePOリチウムイオン電池の比容量及びエネルギー密度を向上させる。同時に当該方法は、製造プロセスが簡単であり、使用される原料の種類が少なく、製造コストを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体で製造されたコイン形半電池の充放電曲線である。
図2】比較例1のLiFePOで製造されたコイン形半電池の充放電曲線である。
図3】実施例2のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体で製造されたコイン形全電池の充放電曲線である。
図4】比較例1のLiFePOで製造されたコイン形全電池の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態を説明する。ここで記述される具体的な実施形態は、本発明を説明し解釈するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0017】
本明細書に開示されている範囲の端点及び任意の値は、当該正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近似する値を含むものとして理解されるべきである。数値の範囲に対して、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値との間、及び単独の点値同士を互いに組み合わせて1つ以上の新たな数値の範囲を得ることができ、これらの数値の範囲は、本明細書において具体的に開示されているものと見なされるべきである。
【0018】
前述したように、本発明の第1態様によれば、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を製造する方法が提供され、当該方法は、
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョンするステップ(1)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るステップ(2)とを含む。
【0019】
本発明の前記方法では、物理的加工方式で特定の割合のリチウムリッチ酸化物とLiFePOをメカノフュージョンしてリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得て、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体の2種類の酸化物の結合が優れ、リン酸鉄リチウムとリチウムリッチ酸化物の複合がリン酸鉄リチウムの結晶構造に影響を与えず、複合されたリチウムリッチ酸化物は、リン酸鉄リチウムに余分な活性リチウムイオンを提供し、リン酸鉄リチウムの最初の充放電過程で損失した活性リチウムを補うことができることにより、リチウムイオン電池の比容量及びエネルギー密度を向上させることができる。
【0020】
本発明によれば、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物をメカノフュージョンする方式及びメカノフュージョンに使用される装置は、特に制限されず、従来の物理的加工方式でありかつ本発明の優れた電気化学的性能を有する複合体を得ることができるものであればよい。
【0021】
本発明の好ましい具体的な実施形態によれば、ステップ(1)では、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物に対して効率的なフュージョン装置で前記メカノフュージョンを行う。
【0022】
本発明によれば、前記LiFePOの供給源は、特に制限されず、市販で入手されてもよく、本分野の従来のLiFePOの製造方法、例えばシュウ酸第一鉄プロセス、赤色酸化鉄プロセス、リン酸鉄プロセス、液相プロセスなどを用いて製造されてもよく、また、前記LiFePOは、高容量型、高圧縮度型、高倍率、長寿命などのタイプであってもよく、これに対して特に限定されない。
【0023】
本発明によれば、前記リチウムリッチ酸化物は、単位分子量においてリチウムのモル数が1より大きい酸化物を指す。
【0024】
好ましくは、前記リチウムリッチ酸化物は、LiFeO及び/又はLiCoOであり、更に好ましくはLiCoOである。発明者らは、特にLiFeO及び/又はLiCoOを選択し、とりわけLiCoOとLiFePOを選択してメカノフュージョンして得られたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、より優れた電気化学的性能、例えば比容量を有する。
【0025】
本発明によれば、前記リチウムリッチ酸化物、例えばLiFeO及びLiCoOの供給源は、特に制限されず、市販されている製品であってもよく、本分野の従来のリチウムリッチ酸化物、例えばLiFeO及びLiCoOを製造する方法で製造されてもよく、LiFePOとメカノフュージョンして高い比容量を有するリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得ることを満たすことができればよい。
【0026】
本発明によれば、優れた電気化学的性能を有するリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るために、LiFePOとリチウムリッチ酸化物の重量比を100:2~15の範囲内に制御する必要がある。具体的な実施形態において、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物の重量比は、例えば100:2、100:3、100:4、100:5、100:6、100:7、100:8、100:9、100:10、100:11、100:12、100:13、100:14、100:15及びこれらの点値のうちの任意の2つで構成される範囲のうちの任意の値である。
【0027】
電気化学的性能がより優れたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るために、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物の重量比は、100:2~10である。
【0028】
好ましくは、ステップ(1)では、前記メカノフュージョンの条件は、フュージョン速度が300~2500rpmとし、フュージョン時間が3~60minとすることである。前記フュージョン速度は、300~2500rpmであり、例えば500rpm、600rpm、700rpm、800rpm、900rpm、1000rpm、1100rpm、1200rpm、1300rpm、1400rpm、1500rpm、1600rpm、1700rpm、1800rpm、1900rpm、2000rpm、2100rpm、2200rpm、2300rpm、2400rpm又は2500rpmであり、前記フュージョン時間は、3~60minであり、例えば5min、10min、15min、20min、25min、30min、35min、40min、45min、50min、55min又は60minである。
【0029】
好ましくは、ステップ(1)では、LiFePOをリチウムリッチ酸化物とメカノフュージョンする場合、フュージョン速度が1000~1500rpmとし、フュージョン時間が10~30minとする。
【0030】
本発明の前記方法によれば、前記保護ガスは、本分野の従来の使用されている様々な保護雰囲気を提供することができるガスであってもよい。
【0031】
好ましくは、ステップ(1)では、前記保護ガスは、窒素ガス及び/又は不活性ガスである。
【0032】
より好ましくは、ステップ(1)では、前記保護ガスは、窒素ガス及び/又はアルゴンガスである。
【0033】
好ましくは、ステップ(2)では、前記篩は、振動篩であり、前記篩のメッシュ数は、200~500メッシュであり、例えば200メッシュ、250メッシュ、300メッシュ、350メッシュ、400メッシュ、450メッシュ又は500メッシュである。
【0034】
より好ましくは、前記篩のメッシュ数は、300メッシュであり、篩にかけた後に篩下を取る。
【0035】
好ましくは、ステップ(2)では、前記脱磁のための脱鉄器の磁力は、5000~12000GSであり、例えば5000GS、5500GS、6000GS、6500GS、7000GS、7500GS、8000GS、8500GS、9000GS、9500GS、10000GS、10500GS、11000GS、11500GS又は12000GSである。
【0036】
より好ましくは、ステップ(2)では、前記脱磁のための脱鉄器の磁力は、8000~10000GSである。
【0037】
前述したように、本発明の第2態様によれば、前述の方法で製造されたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体が提供される。
【0038】
前述したように、本発明の第3態様によれば、リン酸鉄リチウム及びリチウムリッチ酸化物を含み、
前記リン酸鉄リチウムと前記リチウムリッチ酸化物の含有量の重量比は、100:2~15であるリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体が提供される。
【0039】
本発明の第3態様において、好ましくは、前記リチウムリッチ酸化物は、LiFeO及び/又はLiCoOであり、より好ましくはLiCoOである。
【0040】
本発明の第3態様において、好ましくは、前記LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物の含有量の重量比は、100:2~10である。
【0041】
本発明に係るリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、LiFePOとリチウムリッチ酸化物を含み、2種類の酸化物の結合が優れる。当該リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体材料は、優れた電気化学的性能、例えば高い比容量、高いエネルギー密度などを有する。
【0042】
前述したように、本発明の第4態様によれば、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体のリチウムイオン電池における応用が提供される。
【0043】
本発明では、前記応用の具体的な操作は、特に制限されず、例えば前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を正極活物質として用いて正極シートを製造してリチウムイオン電池を得ることなどである。
【0044】
前述したように、本発明の第5態様によれば、リチウムイオン電池の正極シートを製造する方法が提供され、当該方法は、
保護ガス雰囲気下で、重量比が100:2~15であるLiFePOとリチウムリッチ酸化物をメカノフュージョンするステップ(a)と、
前記メカノフュージョンして得られた物質を順に篩にかけ、脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得るステップ(b)と、
溶媒の存在下で、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体、導電剤及び粘着剤を混合して、正極スラリーを得るステップ(c)と、
前記正極スラリーを集電体の箔材に塗布し、その後に乾燥させて、リチウムイオン電池の正極シートを得るステップ(d)とを含む。
【0045】
本発明の第5態様において、ステップ(a)及びステップ(b)の好ましい具体的な実施形態では、例えばリチウムリッチ酸化物の種類の選択、LiFePOと前記リチウムリッチ酸化物の重量比、メカノフュージョンの条件、篩かけ及び脱磁の条件などは、前述の第1態様に記載の方法におけるステップ(1)及びステップ(2)の好ましい状況に対応して同じであり、重複した説明を回避するために、本発明においてここで詳述しない。
【0046】
本発明の第5態様において、得られたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、前述のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体と同じ性質を有し、本発明においてここでは説明を省略する。
【0047】
本発明の第5態様において、前記導電剤は、Super-P(SP)、アセチレンブラック、KS-6、カーボンナノチューブから選択される少なくとも1種である。
【0048】
本発明の第5態様において、前記粘着剤は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴムから選択される少なくとも1種である。
【0049】
本発明の第5態様において、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体、前記導電剤及び前記粘着剤の総重量を基準とし、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体の含有量は、80~90重量%であり、前記導電剤の含有量は、5~10重量%であり、前記粘着剤の含有量は、5~10重量%である。
【0050】
本発明の第5態様において、前記溶媒は、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン及びアルコール類分散剤のうちの少なくとも1種を含むが、それらに限定されない。
【0051】
好ましくは、前記正極スラリーにおいて、前記溶媒の使用量により正極スラリーの固形分が35~45重量%となり、前記固形分は、前記正極スラリーにおけるリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体、導電剤及び粘着剤の総重量を指す。
【0052】
本発明の第5態様において、好ましくは、ステップ(c)では、前記混合の条件は、温度が25±2℃であり、前記混合が撹拌しながら行われることである。
【0053】
本発明の第5態様において、好ましくは、ステップ(d)では、前記正極スラリーを集電体の箔材に塗布し、前記リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体の面密度(担持量)を8.5-9.5mg/cmにする。
【0054】
好ましくは、前記集電体の箔材は、アルミニウム箔である。
【0055】
本発明の第5態様において、ステップ(d)では、前記塗布の具体的な操作は、特に制限されず、本分野の従来の電極シートを製造する塗布操作を用いて行うことができる。
【0056】
本発明の第5態様において、ステップ(d)では、前記乾燥の具体的な条件は、特に制限されず、電極シートを完全に乾燥させることができればよい。
【0057】
前述したように、本発明の第6態様によれば、前述の第5態様に記載の方法で製造されたリチウムイオン電池の正極シートを含むリチウムイオン電池が提供される。
【0058】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明の保護範囲は、これに限定されない。
【0059】
本発明では、特に説明しない限り、使用される原料は、いずれも市販されるものである。
【0060】
本発明の実施例及び比較例で使用されたLiFePO、LiFeO 及びLi CoO は、いずれも湖北融通高科先進材料有限会社から購入される。
【0061】
(実施例1)
(1)300gのLiFePO及び9gのLiFeOを秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れ、窒素ガスの保護下で、主軸の回転速度を1000rpmに調節し、15minメカノフュージョンし、2種類の金属酸化物を物理的加工方式でメカノフュージョンし、
(2)その後にメカノフュージョンして得られた物質を順に325メッシュの振動篩にかけ、磁力が10000GSである脱鉄器で脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L1を得た。
【0062】
(実施例2)
(1)300gのLiFePO及び15gのLiFeOを秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れ、窒素ガスの保護下で、主軸の回転速度を1200rpmに調節し、20minメカノフュージョンし、2種類の金属酸化物を物理的加工方式でメカノフュージョンし、
(2)その後にメカノフュージョンして得られた物質を300メッシュの振動篩にかけ、磁力が8000GSである脱鉄器で脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L2を得た。
【0063】
(実施例3A)
(1)300gのLiFePO及び9gのLiCoOを秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れ、窒素ガスの保護下で、主軸の回転速度を1200rpmに調節し、30minメカノフュージョンし、2種類の金属酸化物を物理的加工方式でメカノフュージョンし、
(2)その後にメカノフュージョンして得られた物質を325メッシュの振動篩にかけ、磁力が9000GSである脱鉄器で脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L3Aを得た。
【0064】
(実施例3B)
実施例1と類似する方式を用い、異なるのは、実施例1におけるLiFeOの代わりにLiFeOと等重量のLiCoOを用い、その他は、いずれも実施例1と同様であり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L3Bを得た。
【0065】
(実施例4)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、300gのLiFePO及び45gのLiCoOをそれぞれ秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れてメカノフュージョンし、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L4を得た。
【0066】
(実施例5)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、主軸の回転速度を500rpmに調節することであり、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L5を得た。
【0067】
(実施例6)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、メカノフュージョン時間が5minであり、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L6を得た。
【0068】
(実施例7)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、主軸の回転速度を300rpmに調節することであり、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L7を得た。
【0069】
(実施例8)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、メカノフュージョン時間が3minであり、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L8を得た。
【0070】
(比較例1)
リン酸鉄リチウムLiFePOに対していかなる処理を行わず、後続に正極活性材料として直接配合する。
【0071】
(比較例2)
(1)300gのLiFePO及び3gのLiFeOをそれぞれ秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れ、窒素ガスの保護下で、主軸の回転速度を1000rpmに調節し、5minメカノフュージョンし、2種類の金属酸化物を物理的加工方式でメカノフュージョンし、
(2)メカノフュージョンして得られた物質を順に200メッシュの振動篩にかけ、磁力が9000GSである脱鉄器で脱磁して、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得た。
【0072】
(比較例3)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、300gのLiFePO及び1.5gのLiCoOをそれぞれ秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れてメカノフュージョンし、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得た。
【0073】
(比較例4)
実施例3Aと類似する方式を用い、異なるのは、300gのLiFePO及び54gのLiCoOをそれぞれ秤量して効率的なフュージョン装置のキャビティ内に入れてメカノフュージョンし、
その他は、いずれも実施例3Aと同じであり、リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体を得た。
【0074】
(試験例)
(1)本発明では、以上の実施例及び比較例で製造されたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体のXRDを試験した。XRDの試験結果から分かるように、本発明で製造して得られたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、リン酸鉄リチウムとリチウムリッチ酸化物という二相の複合であり、そしてリン酸鉄リチウムとリチウムリッチ酸化物との複合は、リン酸鉄リチウムの結晶構造に影響を与えない。
【0075】
(2)電気化学的性能の試験
以上の実施例及び比較例で製造された材料をリチウムイオン電池に製造し、新威試験システムを用いてリチウムイオン電池の電気化学的性能を試験する。
【0076】
(試験例1)
実施例1のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体をリチウムイオン電池に製造し、リチウムイオン電池の電気化学的性能を試験した。
【0077】
電池の製造過程は以下のとおりである。
正極シートを製造する。リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L1、導電剤Super-P及びPVDF(米国ソルベイ社から購入され、型番5130)を90:5:5の質量比でNMP溶媒に分散させ(固形分が42重量%である)、(回転速度1500rpmで、時間20min)ボールミリングして均一に分散させた後、アルミニウム箔上に塗布し(リン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L1の担持量が9.2mg/cmである)、真空乾燥させて、正極シートを製造した。
【0078】
コイン形半電池を組み立てる。上記正極シートを用い、アルゴンガスが充填されたグローブボックス中で2025コイン形半電池の組み立てを行い、金属リチウムシートを対極として用い、セパレータとしてCelgardポリプロピレンフィルムを用い、電解液として1mol/LのLiPF/EC+DMC+EMCを用い、EC:DMC:EM=1:1:1(体積比)とし、2025コイン形半電池に組み立てた。
【0079】
コイン形全電池を組み立てる。
上記製造された正極シートと黒鉛負極を2025コイン形全電池に組み立て、全電池のN/P比が1.5であり、セパレータ及び電解液が上記半電池の場合と同じである。
【0080】
電気化学的性能の試験
充放電性能の試験では、試験温度が25±2℃とし、試験電圧の範囲が2.5V~3.9Vとし、充放電レートが0.2Cとし、
上記半電池と全電池の充放電性能をそれぞれ試験し、具体的な結果は、それぞれ表1及び表2に示すとおりである。
【0081】
(試験例2~8)
試験例1と類似する方式を用い、異なるのは、試験例1のL1の代わりにそれぞれ試験例1のL1と同じ重量の実施例2~8の複合体を用いることである。
【0082】
その他は、いずれも試験例1と同じであり、具体的な試験結果は、それぞれ表1及び表2に示すとおりである。
【0083】
(比較試験例1~4)
試験例1と類似する方式を用い、異なるのは、試験例1のL1の代わりにそれぞれ試験例1のL1と同じ重量の比較例1~4の物質を用いることである。
【0084】
その他は、いずれも試験例1と同じであり、具体的な試験結果は、それぞれ表1及び表2に示すとおりである。
【0085】
(比較試験例5)
以下のように正極シートを製造する。リン酸鉄リチウム、LiFeO、導電剤Super-P及びPVDFを87:3:5:5の質量比でNMP溶媒に分散させ(固形分が42重量%である)、(回転速度1500rpmで、時間20min)ボールミリングして均一に分散させた後、アルミニウム箔上に塗布し(リン酸鉄リチウム及びLiFeOの総担持量が9.2mg/cmである)、真空乾燥させ、正極シートを製造した。
【0086】
その後に試験例1と同じ方式でコイン形半電池及びコイン形全電池を製造し、電池の電気化学的性能を試験し、具体的な結果は、それぞれ表1及び表2に示すとおりである。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
本発明では、実施例1のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体L1のコイン形半電池の充放電曲線が例示的に提供され、図1に示すように、リチウムリッチ酸化物とリン酸鉄リチウムを複合することにより電池の初回充電比容量を効果的に向上させることができることが分かる。
【0090】
本発明では、比較例1のリン酸鉄リチウムLiFePOで製造されたコイン形半電池の充放電曲線が例示的に提供され、図2に示すように、図2から分かるように、リン酸鉄リチウムは、初回充電比容量が約163mAh/gであり、初回放電比容量が約155mAh/gである。
【0091】
本発明では、実施例2のリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体で製造されたコイン形全電池の充放電曲線が例示的に提供され、図3に示すように、リチウムリッチ酸化物とリン酸鉄リチウムを複合することによりリン酸鉄リチウム全電池の初回充電比容量及び初回放電比容量を効果的に向上させることができることが分かる。
【0092】
本発明では、比較例1のリン酸鉄リチウムLiFePOで製造されたコイン形全電池の充放電曲線が例示的に提供され、図4に示すとおりである。
【0093】
上記結果から分かるように、本発明の方法で製造されたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、優れた電気化学的性能、例えば高い比容量を有する。
【0094】
特に、試験例1、試験例3B及び比較試験例1の結果から分かるように、リチウムリッチ酸化物とLiFePOを選択してメカノフュージョンして複合し、特にLiFeO、LiCoOリチウムリッチ酸化物を選択し、特にLiCoOとLiFePOを選択してメカノフュージョンして得られたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、電気化学的性能、例えば充放電比容量がより高い。
【0095】
特に、試験例3A、試験例4及び比較試験例2~4の結果から分かるように、特にLiFePOとリチウムリッチ酸化物、例えばLiFeO、LiCoOの複合割合が100:2~15であり、特に100:2~10であるように制御する場合に得られたリン酸鉄リチウム-リチウムリッチ酸化物複合体は、電気化学的性能、例えば充放電比容量がより高い。
【0096】
特に、試験例1、比較試験例1及び比較試験例5の結果から分かるように、本発明の方法を用いてリチウムリッチ酸化物とLiFePOをメカノフュージョンして複合体を得て、得られた電池は、電気化学的性能、例えば充放電比容量がより高い。また、比較試験例5の結果から分かるように、材料混合過程でLiFePO及びリチウムリッチ酸化物をそれぞれ加えて電極シートを製造する場合に比べて、本発明の複合体を用いて電極シートを製造する場合、得られた電池は、電気化学的性能、例えば比容量がより優れる。
図1
図2
図3
図4