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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】白マイタケ新品種及びその栽培方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20240930BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240930BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20240930BHJP
   A61K 36/07 20060101ALI20240930BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20240930BHJP
   A01G 18/00 20180101ALI20240930BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20240930BHJP
   A61P 39/06 20060101ALN20240930BHJP
   A61P 31/12 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C12N1/14 F ZNA
C12N1/14 G
A23L33/10
A23L31/00
A61K36/07
A61K8/9728
A01G18/00
A61P37/04
A61P39/06
A61P31/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023549529
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2022034813
(87)【国際公開番号】W WO2023048096
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021155669
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03509
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】321010830
【氏名又は名称】株式会社雪国まいたけ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】賈 俊業
(72)【発明者】
【氏名】清水 琢登
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真之
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】出澤 智輝 ほか,白マイタケの各種光刺激波長による形態形成特性,日本生物環境工学会大会講演要旨,2016年,pp.254-255, P50
【文献】村田 正幸,本マイタケの突然変異で生まれた白マイタケの特性と栽培方法,農耕と園芸,1995年,Vol. 50, No. 7,pp.206-207
【文献】KAWAGUCHI N. et al.,Genetic analyses of causal genes of albinism (white fruiting body) in Grifola frondosa,J. Wood Sci.,2019年,65:32
【文献】GARGANO M.L. et al.,Ecology, phylogeny, and potential nutritional and medicinal value of a rare white "maitake" collected in a mediterranean forest,Diversity,2020年,12(6), 230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE BP-03509を有する白マイタケ品種。
【請求項2】
白色光及び/又は紫外線照射後に菌さんが着色しないことを特徴とする、請求項1に記載の白マイタケ品種の子孫又は誘導株。
【請求項3】
請求項1に記載の白マイタケ品種又は請求項2に記載の子孫若しくは誘導株、あるいはその一部又は処理物を含む組成物。
【請求項4】
飲食品、サプリメント、医薬又は化粧品である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の白マイタケ品種又は請求項2に記載の子孫若しくは誘導株を培地に接種し、子実体又は菌糸体を生成することを含む、白マイタケの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な白マイタケ品種及びその栽培方法に関する。また本発明は、かかる白マイタケ品種を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイタケはタマチョレイタケ目(Polyporals)マイタケ科(Grifolaceae)マイタケ属(Grifola)に属する木材腐朽菌であり、アジア、ヨーロッパ、北米の温帯以北、及びオーストラリアに分布し、日本では初秋のころ、深山の尾根筋で、通風がよく、日当たりが比較的良いところにあるミズナラ、コナラやクリ(東北)、シイ(西日本)などの老大木の地表に出ている樹木の根際部やそれらの古い切り株や枯幹などに発生する。マイタケ(Grifola frondosa)や白マイタケ(Grifola albicans)などが知られているが、白マイタケはマイタケと同種とされており(非特許文献1)、本明細書では同種として扱う(学名はいずれもGrifola frondosaとして表記する)。マイタケ及び白マイタケは食用され、人工栽培法も確立されている。マイタケ子実体の特徴は、エノキタケやブナシメジ等の人工栽培で生産される食用キノコの多くが、柄と傘が明確に区別できる(いわゆるマッシュルーム型)のに対して、マイタケは柄と傘部とが明確に区別できない、淡黒褐色や濃褐色から茶褐色の傘が多数重なり合って大きな子実体を形成する(いわゆるサルノコシカケ型)(非特許文献2)。
【0003】
白マイタケは、マイタケ同様に食用とされているが、マイタケと異なり、白色~クリーム色を特徴とし、その煮汁などにマイタケの色がつかないことから、色を重視する料理などで重宝されている。マイタケの機能として、免疫賦活作用、抗酸化活性、抗ウイルス活性などが報告されており(例えば、特許文献1及び非特許文献2)、白マイタケも同等の機能を有することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-2052号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】新分類キノコ図鑑、第356頁、北隆館、2021年
【文献】生物工学、第92巻第10号、第572-575頁、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
白マイタケは、子実体の菌さんの一部が茶色に着色することがあるため、白マイタケとしての商品価値を落とす、又は商品化時に着色している部分を除く工程が発生する。そのため、菌さんが着色しにくい白マイタケ及びその栽培方法が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、子実体の菌さん全体に色むらがなく、均質な白色を示し、子実体中に着色する菌さんの発生率が著しく低いという特徴を有する新規な白マイタケ品種を得ることに成功した。またこの白マイタケ品種は、紫外線を含むブラックライト照射下においても着色しないという特徴を有するという知見も得た。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[1]受託番号NITE BP-03509を有する白マイタケ品種。
[2]白色光及び/又は紫外線照射後に菌さんが着色しないことを特徴とする、[1]に記載の白マイタケ品種の子孫又は誘導株。
[3][1]に記載の白マイタケ品種又は[2]に記載の子孫若しくは誘導株、あるいはその一部又は処理物を含む組成物。
[4]飲食品、サプリメント、医薬又は化粧品である、[3]に記載の組成物。
[5][1]に記載の白マイタケ品種又は[2]に記載の子孫若しくは誘導株を培地に接種し、子実体又は菌糸体を生成することを含む、白マイタケの栽培方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る白マイタケ品種は、子実体中に着色する菌さんの発生率が著しく低く、紫外線を含むブラックライト照射下においても着色しないことから、商業価値が高く、また商品化時に着色部分の除去工程も不要であり、商業上の有用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】種々のマイタケ品種由来のチロシナーゼ遺伝子の塩基配列の比較を示す。
図2】実施例6において使用したLED及びブラックライトの波長分布を示すグラフである。
図3】実施例6において使用したLED及びブラックライトの照射時間と強度を示すグラフである。
図4】LED区における着色菌さん発生率を示すグラフである。
図5】BL区における着色菌さん発生率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、2021年9月24日出願の日本国特許出願2021-155669号の優先権を主張するものであり、その内容を参照により本明細書に組み入れる。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る白マイタケ品種(本明細書中、「雪国舞14号」と称することもある)は、子実体の菌さん全体に色むらがなく、均質な白色を示し、子実体中に着色する菌さんの発生率が著しく低く、また、紫外線を含むブラックライト照射下においても、着色しないという特徴を有する。
【0013】
なお、この新規品種、雪国舞14号(Y14M)は、本出願人により、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約の規定に基づく国際寄託当局である独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、2021年8月11日(原寄託日)付で国際寄託されている(受託番号NITE BP-03509)。
【0014】
雪国舞14号の菌学的性質は以下の通りである:
(1)分類学的特徴:担子菌、マイタケ属(Grifola)、マイタケ(Grifola frondosa)。
遺伝的特性の異同を寒天培地上で判定する手法である対峙培養により、雪国舞14号は他の白マイタケ品種と遺伝的に相違し、新品種であると判定した(実施例3)。
培養条件例:
ポテトデキストロース寒天培地(PDA)
ポテトエキス0.4%w/v、ブドウ糖2%w/v、寒天1.5%w/v、pH5.6、滅菌121℃、15min
培養温度:25℃、期間:14-28日、静置培養
【0015】
(2)生理学的特性(実施例4及び5):
ポテトデキストロース寒天培地上にて25℃で14日間培養した際の生理学的特性として、従来品種の森M60号と比較して、菌糸密度は密、気中菌糸の発達程度は多、菌叢は厚である。また、菌叢の周縁部の形状は均質、菌叢の表面の着色は無、菌叢表面の形状は平滑であった。菌糸体の生長最適温度は28℃前後であり、子実体の生育最適温度は21℃前後である。
【0016】
雪国舞14号は、白色光及び/又は紫外線照射後に菌さんが着色しない特徴を有する。白色光照射後に菌さんが着色しない特徴は、子実体発生時に、紫外領域を含む白色光(自然光又は人工照明)を少なくとも12時間、好ましくは72時間、例えば1日当たり1~15時間、好ましくは1日当たり2~12時間照射して育成して得られた子実体の菌さんが着色するか否かにより判定することができる。また、紫外線照射後に菌さんが着色しない特徴は、子実体発生時に、0.05~0.2mW/cm2程度の紫外線を少なくとも7時間、好ましくは42時間、例えば1日当たり1~10時間、好ましくは1日当たり2~8時間照射して育成して得られた子実体の菌さんが着色するか否かにより判定することができる。着色の有無は、当業者であれば慣用的に判断することができるが、例えば、着色することがわかっている公知品種との比較により着色の有無を判定できる。好ましくは、雪国舞14号、又は後述するその子孫若しくは誘導株は、白色光照射後に菌さんが着色せず、かつ紫外線照射後にも菌さんが着色しない。
【0017】
雪国舞14号の子孫及び誘導株もまた、上記特性と同等の特性を保持している限り、本発明に包含される。子孫とは、雪国舞14号(受託番号NITE BP-03509)を交配親として得られた品種を指し、誘導株とは、雪国舞14号(受託番号NITE BP-03509)を培養中に自然に突然変異したもの、紫外線、薬品、放射線などで人為的に変異誘導を行ったもの、遺伝子組換えやゲノム編集で人為的に遺伝子改変して得られたものであって、雪国舞14号とは異なるが上記特性と同等の特性を保持する品種を指す。このような子孫及び誘導株は、当業者であれば理解することができ、上記特性と同等の特性を有することもまた理解されている。ある品種が、上記特性と同等の特性を有する子孫又は誘導株であるか否かは、本願明細書の記載内容及び当技術分野の技術常識に基づいて判断することができる。
【0018】
雪国舞14号、その子孫及び誘導株の栽培方法は、マイタケの栽培に使用される慣用的な方法により行うことができる(例えば、2002年度版きのこ年鑑、プランツワールドの「第7節 マイタケ」の項)。具体的には、雪国舞14号又はその子孫若しくは誘導株を培地に接種し、子実体又は菌糸体を生成することを含む。ここで、接種される対象は、雪国舞14号又はその子孫若しくは誘導株の種菌、菌糸体の全部若しくは一部、子実体の全部若しくは一部、栽培した培地の全部若しくは一部などが含まれ、当業者であれば理解することができる。
【0019】
マイタケの栽培方法は、空調栽培と自然栽培があり、空調栽培は、殺菌・接種した菌床を人工環境下で管理して子実体を発生させる方法であり、自然栽培は、自然環境下で菌床又は原木を用いて子実体を発生させる方法である。
空調栽培は、ポリプロピレン製、ポリエチレン製等の袋又はびんを栽培容器として使用して行われるが、袋栽培が最も一般的である。袋栽培の具体例は、オガコ(広葉樹)と栄養添加物を例えば、容積比で8:1程度の割合で混合し、水を加えて充分に練り合わせた培地を栽培容器に詰め、殺菌後、種菌の接種、培養、発生及び収穫の工程が行われる。接種から収穫までは60~90日程度である。
【0020】
栽培培地は、主にオガコ及び栄養添加物を含む。オガコは、ミズナラ、コナラ、クヌギ、ブナなどのブナ科の樹種、カバノキ科の樹種などを含む広葉樹のオガコであることが好ましく、適当な粒子径を選択することができる。栄養添加物は、例えばコーンブラン、フスマ、オカラなどが含まれる。栄養添加物は、採用する栽培方法、使用するオガコの種類などに応じて、適宜決定することができる。オガコと栄養添加物の配合比率は、例えば、乾物重量比率でおよそ3:1となるようにする。オガコと添加物を充分に攪拌した後、水を加えて含水率50~75%、好ましくは60~70%となるようにする。
【0021】
栽培用容器は、通気用のフィルターの付いたポリプロピレン製、ポリエチレン製等の袋又はびんを用いる。
【0022】
培地に目的の品種のみを繁殖させるため、元から存在する菌類を死滅させる必要がある。殺菌方法には、98~100℃の蒸気で殺菌を行う常圧殺菌と圧力容器を用いて100℃以上で行う加圧殺菌とがある。100℃以下では死滅しない菌を殺菌するためには、加圧殺菌が好ましい。殺菌後、培地は接種に備えて25℃以下になるまで冷却する。
【0023】
培地への菌株の接種は、できる限り清浄な部屋で行い、接種後は、袋の上部に原基を形成させる空間を確保するため、袋を折りたたむ。この空間は、例えば、高さ約5cm、面積はフィルター部を中心に培地上面の1/4程度とする。
【0024】
培養中は、主に温度、湿度、換気、光を調整して管理する。
一般的にマイタケは、菌糸の生長適温と子実体の形成適温とが近似しているため、通常は培養室で子実体原基を形成させてから発生室に移し、生育させるという手順で栽培を行う。マイタケ菌糸は、培養がすすみ、菌糸がまん延してくるにつれて呼吸作用も活発となり、それに伴って菌床内の温度も上昇して、培養14~20日目頃には室内温度より2~5℃高くなる。そのため、室内温度は菌糸生長適温より低めに設定しておく。菌糸が培地全体にまん延すると、培地内の発熱作用が収まり、室温と同等になる。この温度は原基の形成適温でもあるため、一定期間養分が蓄積された菌床には正常な原基形成が起こる。
【0025】
培養室内の湿度条件は、50~75%RH程度とする。
培養室の炭酸ガス濃度が高くなったら換気を行い、新鮮な空気を導入する。なお、炭酸ガス濃度は、2,500ppmを超えないようにする。
光の存在は、菌糸生長には必要ないが、子実体の形成には必要である。そのため、培養開始後から光を当てても良いが、好ましくは、菌糸伸長中(培養30~35日くらいまで)は光を当てないようにし、その後光照射を管理しながら培養する。
【0026】
適切な条件で培養すると、種菌を接種して35日目頃から培地上面の空間に菌糸が集合して、マット状に盛り上がってくる。この時期に光を照射すると、表面に水滴が発生し、さらにその一部が塊状に隆起し、その表面に褶曲が起こり水滴の発生箇所がくぼんでくる。このようになったら発生操作を行う。発生操作のために直接発生室に培地を移動してもよいが、必要に応じて、発生操作の前に、20℃前後で湿度60~95%RH、照度300~1500ルクス程度の環境にて、さらなる原基形成の誘導を行っても良い。
【0027】
発生室に移動後、子実体が生育する空間を確保する。その方法の一例として、原基の最も大きく育った部分をナイフで4~5cmほど十文字に切るか、又は袋をくり抜く。発生室の環境も子実体の形質や収量のために重要な要因であるため、主に温度、湿度、換気、光などの条件を管理する。
【0028】
マイタケの生育温度は12~21℃と広い範囲にあるが、雪国舞14号の生育最適温度はおよそ21℃であるため、この温度を目安に管理することが好ましい。
発生室の湿度は、90~95%RH程度で管理する。
発生室も、培養室と同様に、新鮮な空気を導入して、室内の炭酸ガス濃度が1,000ppm以下になるように管理する。
光条件は、照度が500ルクス以上を保つようにする。
【0029】
発生室に移動してから20日前後、発生前に原基誘導をおこなった場合10日前後で収穫できるまでに生育する。収穫は、菌さんの裏に管孔が形成され始めてから行う。好ましくは、管孔が菌さんの縁から3 mm程度から菌さん裏全体を覆う程度になった頃に行う。このようにして、本発明の雪国舞14号、その子孫及び誘導株を栽培することができる。
【0030】
また本発明は、雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株(の子実体及び/若しくは菌糸体)、その一部及び/又はその処理物を含む組成物を提供する。処理物としては、限定されるものではないが、乾燥物、破砕物、抽出物、発酵物、加熱処理物などが含まれる。
【0031】
雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を、公知の乾燥法、例えば加熱乾燥、真空乾燥、及び風乾、好ましくは加熱乾燥及び真空乾燥により乾燥することにより、乾燥物を調製することができる。
【0032】
雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を、破砕、細砕又は磨砕することによって、破砕物、抽出物を調製することができる。例えばそのような破砕は、物理的破砕(撹拌、フィルター濾過など)、酵素溶解処理、薬品処理などによって行うことができる。
【0033】
雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を、適当な水性溶媒又は有機溶媒を用いて抽出することによって、抽出物を得ることができる。抽出方法としては、水性溶媒又は有機溶媒を抽出溶媒として用いる抽出方法であれば特に制限されないが、水性又は有機溶媒(例えば水、メタノール、エタノールなど)中に浸漬、攪拌又は還流する方法など公知の方法を挙げることができる。
【0034】
雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を乳酸菌などで発酵することにより、発酵物を調製することができる。例えば、乳酸菌を、雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体の懸濁液などに接種し、当技術分野で公知の乳酸菌発酵条件にて発酵を行う。得られる発酵物は、そのまま使用してもよいし、又は濾過、滅菌、希釈、濃縮などの他の処理を行ってもよい。
【0035】
また、雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を加熱処理することにより、加熱処理物として調製することができる。加熱処理物を調製するには、雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体を、一定時間、例えば約10分~1時間(例えば約10~20分)にわたり、高温処理(例えば80~150℃)する。
【0036】
上述した処理は、単一の処理を行ってもよいし、あるいは複数を適宜組み合わせて行ってもよい。本発明においては、このような処理物も本発明の組成物に用いることができる。
【0037】
また本発明の組成物には、上述したものに加えて、添加剤、他の公知の薬剤、栄養補助剤などを単独又は複数組み合わせて添加してもよい。
【0038】
本発明の組成物の形態は特に制限されない。例えば医薬組成物である場合には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤などの経口剤、坐剤などの経腸製剤、点滴剤、注射剤などの剤形としてもよい。これらのうちでは、経口剤とするのが好ましい。このような剤形の組成物は、上述した成分に、通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、滑沢剤、保存剤、界面活性剤、甘味料、矯味剤、芳香剤、酸味料、着色剤などの添加剤を剤形に応じて配合し、常法に従って製造することができる。
【0039】
また、本発明の組成物は、安全性が高く長期間の継続的な摂取及び使用が容易である。そのため、本発明の組成物は、飲食品(飼料を含む)、サプリメント、及び化粧品にも使用できる。飲食品の具体例としては、経管経腸栄養剤などの流動食、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤及びドリンク剤などの製剤形態の健康飲食品及び栄養補助飲食品などが挙げられる。飲食品及びサプリメントは、上記の有効成分のほかに、その飲食品の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、食物繊維、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー)などを配合して、常法に従って製造することができる。化粧品もまた、化粧品分野で慣用的な形態とすることができ、化粧品に使用される賦形剤、添加剤を配合して常法に従って製造することができる。
【0040】
本発明の組成物において、雪国舞14号、その子孫及び/若しくは誘導株の子実体及び/若しくは菌糸体、その一部、並びに/又はその処理物の配合量は、当業者が適宜定めることができる。
【0041】
本発明の組成物を投与する又は組成物を摂取若しくは使用する対象としては、限定されるものではないが、哺乳動物(例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット及びマウス等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物が挙げられ、好ましくはヒト又はマウス、最も好ましくはヒト)、鳥類(ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ等の家禽類、インコ、オウム、ジュウシマツ等の愛玩鳥)、及び魚類(マグロ、タイ、ハマチ、ブリ等の養殖魚、ニシキゴイ、キンギョ等の観賞用魚)、好ましくは哺乳動物である。本発明の組成物の使用量、使用間隔、及び使用期間は、当業者であれば、使用する目的に応じて、対象の性別、体重、年齢を考慮して適宜定めることができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの具体的な例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1:本発明品種の作出・選抜]
本出願人の保有品種の突然変異株、野生株、及び市販マイタケ分離株の子実体から胞子を分離した後、それら胞子由来の数十系統に及ぶ一次菌糸を相互交配し、交配株の作出・選抜を行った。選抜した交配株を、広葉樹オガコと栄養物を混ぜた培地を充填した500ccびんで栽培試験を行い、白色のマイタケ子実体が発生した交配株を数十株選抜した。選抜された交配株は同様の培地とマイタケ栽培袋を用いた袋栽培にてさらに選抜を行い、子実体の菌さん全体に色むらなく、均質な白色を示す特性を持ち、栽培的特性及び形態的特性の優れた新品種(以下、「雪国舞14号」と称する)を選抜し、諸性質が安定していることを確認して、育成を完了した。
【0044】
[実施例2:遺伝的特性1]
本実施例では、実施例1で作出した雪国舞14号の遺伝的特性を調べた。
文献(Kawaguchi, N. et al., Genetic analyses of causal genes of albinism (white fruiting body) in Grifola frondosa, J Wood Sci 65:32, 2019)にて、白色変異マイタケであるIM-WM1-25の遺伝子tyr2は、野生型マイタケIM-BM11-P21のそれと比較して、coding DNA中617位の塩基Aが欠失しているとし、ここが白色変異の原因と報告している。雪国舞14号のゲノムDNA抽出後、次世代シークエンサーを用いてゲノム配列を調べ、該当する塩基配列を比較したところ、前述の変異は認められなかった(図1)。図1は、雪国舞14号、白マイタケの従来品種及びマイタケの従来品種(森M60号及び森M51号)、文献記載の野生型マイタケIM-BM11-P21及び白色変異マイタケIM-WM1-25のチロシナーゼ遺伝子の塩基配列の比較を示す。よって、雪国舞14号の白色形質の原因となる遺伝子変異は、上記文献記載の遺伝子変異とは異なることが示された。
【0045】
[実施例3:遺伝的特性2]
異なるキノコの菌糸体を寒天培地上で対峙培養した際に、両コロニー間で帯線形成が起こることは良く知られている。そこで、雪国舞14号と、森M60号及び市販されていた白マイタケ4品種とを、ポテトデキストロース寒天培地上で、25℃で28日間対峙培養して、帯線形成の有無を観察した。なお、培地の作成には直径9cmのシャーレを使用した。その結果を表1に示す。表1中、コロニー間に、帯線を形成する場合は帯線形成あり(+)、コロニー間に、帯線を形成しない場合は帯線形成なし(-)とした。
【0046】
【表1】
【0047】
雪国舞14号は、森M60号又は他社の白マイタケ品種と、すべて帯線形成を示したことから、森M60号及び他社の白マイタケ品種とは遺伝的に異なっていると判明した。
【0048】
[実施例4:生理学的特性]
ポテトデキストロース寒天培地上にて25℃で14日間培養した際の、菌糸密度、気中菌糸の発達状態、菌叢の周縁部の形状、菌叢の厚さ、菌叢の表面の着色の有無、及び菌叢の表面の形状を観察した。
【0049】
その結果、雪国舞14号は、森M60号と比較して、菌糸密度は密、気中菌糸の発達程度は多、菌叢は厚であった。また、菌叢の周縁部の形状は均質、菌叢の表面の着色は無、菌叢表面の形状は平滑であった。
【0050】
生長最適温度は、ポテトデキストロース寒天培地上に23±1℃で4日間予備培養して菌糸の再生(直径 10 mm程度)を揃えた後、22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃、及び34℃で16日間培養したときの菌糸生長距離を測定し、求めた。その結果、雪国舞14号の生長最適温度は28℃前後であり、森M60号より低いことが確認された。
以上の結果を表2にまとめる。
【0051】
【表2】
【0052】
また、温度別生長速度は、ポテトデキストロース寒天培地上に23±1℃で4日間予備培養して菌糸の再生(直径 10 mm程度)を揃えた後、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃の各温度帯で前培養し、10日間の菌糸生長速度を測定し、求めた。その結果を表3に示す。実験結果から、雪国舞14号は森M60号と比べ、10℃、15℃、20℃、30℃において菌糸体生長速度が速いことが確認された。
【0053】
【表3】
【0054】
[実施例5:栽培特性]
栽培特性試験は、ブナ材を主体とした広葉樹オガ屑とトウモロコシ糠を、乾燥重量比で75:25の割合で混合し、含水率を61%程度に調整した培地で行った。栽培容器は通気フィルター付きのポリプロピレン栽培袋(角型、8500cc、口径約200×120mm、高さ約440mm)のものを使用した。栽培充填量は1袋あたり2500±50gとし、培地高さ15cm程度となるように押し固め、下方に向かい直径約15mm程度の接種孔を2つ空け、高圧蒸気滅菌した。滅菌放冷後、1袋あたり約20~25mlオガ屑種菌を接種し、袋上部を折り込んで、フィルター面が表になるようにして形を整えた。温度22±1℃、湿度約70~75%RH、蛍光灯照度200~500ルクスで培養を行い、原基形成をもって培養完了とした。原基形成した菌床は、温度17±1℃、湿度90~95%RH、蛍光灯照度500~1500ルクスの発生室に移動し、10日間原基の形成を促した後、フィルター部分を取り去り、子実体への生育を促した。発生した子実体が十分に成長し、菌さん裏の管孔が縁から2~3mm程度まで形成した状態の時に子実体を収穫し、子実体の菌柄の基部に付着する培地を除去した後に子実体の収量を測定した。
【0055】
種菌接種から原基形成までの期間、発生最盛期までの期間、子実体収量は全ての個体を調査し、平均値を求めた。なお、本栽培試験は、1試験区最低18袋を3回繰り返し行った。
【0056】
子実体の形態的特性調査として、各反復でそれぞれ標準的な3株の子実体を選択し、計9株に関して、表4に示した形質について観察し、記録を行った。菌さん表面の色はRoyal Horticultural Society(RHS)カラーチャートを用いて識別した。子実体株径は、各子実体の中心で交差する十字線の長径と短径を計測し、平均値を求めた。菌さんの大きさと厚さは、各子実体株から標準的な形成をもつものを10枚選び、合計120枚以上に関して測定した。
【0057】
また、子実体の生育最適温度の調査は上記の栽培特性試験とは別途実施した。15℃、17℃、19℃、21℃、及び23℃で子実体への生育を促し、フィルター除去から収穫までの期間が最も短くなる温度を生育最適温度とした。本調査は1試験区最低17袋を1回行った。
【0058】
以上により得られた栽培特性を表4に示す。
その結果、森M60号と比較して、雪国舞14号の収量性は増加、菌さんは大きく、原基形成日数と収穫最盛期までの期間は長かった。一方で、子実体株径、菌さんの形状、切れ込み、断面の形状は森M60号と大きく変わらなかった。
【0059】
また、森M60号は、収穫された子実体株の約80%で菌さんの中に灰白色(RHS識別ではGREYED-WHITE GROUP)の菌さん(着色菌さん)を有していた。これに対して、雪国舞14号の子実体には着色菌さんは無く、子実体全体が色むらなく白色であった。よって、雪国舞14号は安定的に白色の菌さんを得られる性質を有していることが明らかとなった。
【0060】
【表4】
【0061】
なお、表4中、着色菌さんとは、菌さんの表面の色をRHSカラーチャートにより識別し、GREYED-WHITE GROUP又はGREY-BROWN GROUPに属する場合を着色菌さんとした。また、表4内の数値は平均値である。
【0062】
[実施例6:人工栽培のブラックライト照射による着色菌さんの有無]
雪国舞14号と森M60号及び市販されていた4品種(表1に示したものと同じ)とについて、菌さんが着色しやすい紫外線UV-A照射下で子実体を発生させ、菌さんの着色有無から、雪国舞14号の白色菌さんの安定性を調べた。
【0063】
培地は広葉樹オガ屑とフスマ等栄養物を混合したものを用いた。栽培容器は通気フィルター付きのポリプロピレン栽培袋を使用し、培地充填後高圧蒸気滅菌した。放冷後、オガ屑種菌を接種し、60日の培養(原基形成促進含む)後、フィルター部分を取り去り、温度約17~20℃、湿度80%RH以上の発生室に移動し、子実体への生育を促した。
【0064】
子実体発生時の光源として、白色発光ダイオード(以下、「LED」)のみを使用した試験区(LED区)と、LEDと紫外線UV-Aを放射するブラックライト(ホタルクス社FL40SBL、以下、「BL」)を併用した試験区(BL区)を設けた。それぞれの光源の波長分布を図2に示す。波長分布はspectroradiometer PS-200(Apogee instruments)を用いて、培地最上部の高さにおける光源の放射強度(μW/cm2)を、波長300~700nmにおいて0.5nm間隔で計測した。発生開始4日目から照射を開始し、LED区は12H/day(7:00 - 19:00)照射した。一方、BL区はLEDを12H/day(7:00 - 19:00)に加えてBLを7H/day(9:00 - 16:00)照射した。LED照射時の照度は培地の最上部で950ルクス以上、BL照射時の紫外線強度は培地の最上部で0.10~0.13 mW/cm2となるようにした(図3参照)。照度及び紫外線強度はTandD社のTR-74Ui(センサー:ISA-3151)により測定した。
【0065】
発生した子実体が十分に成長し、菌さん裏の管孔が縁から2~3mm程度まで形成した状態を収穫適期とし、収穫した子実体の菌さんの色をRHSカラーチャートにより識別した。表5にRHSカラーチャートの色票番号を示すが、GREYED-WHITE GROUP又はGREY-BROWN GROUPに着色した菌さんを着色菌さんとし、全子実体数に対する着色菌さんが認められた子実体数の割合を着色菌さん発生率とした(着色菌さん発生率=着色菌さんがあった子実体数÷収穫した全子実体数×100)。なお、本栽培試験は1試験区3袋で行った。
【0066】
【表5】
【0067】
その結果を図4及び5に示す。雪国舞14号以外の白マイタケ品種では、LED区で着色が認められたのは一つの品種だけであったのが、BL区ではすべての品種で着色菌さん発生率100%となった。これに対し、雪国舞14号はLED区及びBL区共に、すべての子実体で着色菌さんは認められなかった(着色菌さん発生率0%)。以上のことから、雪国舞14号は他に比べ安定的に白色の菌さんが得られる性質を持つ品種であることが示された(図4及び5)。
【0068】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【受託番号】
【0069】
受託番号NITE BP-03509(Y14M、2021年8月11日原寄託)
図1
図2
図3
図4
図5