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特許7562889電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法
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  • 特許-電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20240930BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20240930BHJP
   C25B 9/01 20210101ALI20240930BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240930BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240930BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B9/70
C25B9/01
C25B1/042
C25B9/23
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024010231
(22)【出願日】2024-01-26
【審査請求日】2024-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 研一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎
(72)【発明者】
【氏名】武信 弘一
(72)【発明者】
【氏名】末森 重徳
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-175306(JP,A)
【文献】特開平06-096780(JP,A)
【文献】実開平02-115566(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを含む水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に挟まれた固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セルと、
前記基体管の軸方向に並べられた複数の前記電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、
を備え、1つの前記電解単セルにおいて前記基体管の軸方向を向く、前記酸素極の端から端までの距離を前記電解単セルの幅と定義し、前記複数の電解単セルが並べられている前記基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部、中央部および第2端部に区分けした場合に、
前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅が、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅よりも1.5~3倍大きい電解セルスタック。
【請求項2】
前記第1端部に位置する前記電解単セルの幅は、前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅と等しい請求項1に記載の電解セルスタック。
【請求項3】
前記第1端部が前記基体管内のガス流れ方向上流側の端部であり、
前記第2端部が前記基体管内のガス流れ方向下流側の端部であり、
前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅は、前記第1端部に位置する前記電解単セルの幅よりも大きい請求項1に記載の電解セルスタック。
【請求項4】
前記第1端部の軸方向の長さは、前記中央部、前記第1端部および前記第2端部の前記軸方向の長さの合計に対し、5%以上20%以下である請求項1に記載の電解セルスタック。
【請求項5】
前記第2端部の軸方向の長さは、前記中央部、前記第1端部および前記第2端部の前記軸方向の長さの合計に対し、5%以上20%以下である請求項1に記載の電解セルスタック。
【請求項6】
前記第1端部が前記基体管内のガス流れ方向上流側の端部であり、
前記第2端部が前記基体管内のガス流れ方向下流側の端部であり、
前記第2端部の軸方向長さは、前記第1端部の軸方向長さよりも大きい請求項1に記載の電解セルスタック。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の電解セルスタックを備えた電解セルカートリッジ。
【請求項8】
請求項に記載の電解セルカートリッジを備えた電解セルモジュール。
【請求項9】
Niを含む水素極、酸素極、および水素極と酸素極との間に配置される固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セルと、前記基体管の軸方向に並べられた複数の前記電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えた電解セルスタックの製造方法であって、
1つの前記電解単セルにおいて前記基体管の軸方向を向く、前記酸素極の端から端までの距離を前記電解単セルの幅と定義し、複数の前記電解単セルが並べられている前記基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部、中央部および第2端部に区分けし、
前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅を、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅よりも1.5~3倍大きく形成する電解セルスタックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を電気化学的に分解して水素および酸素を製造する電解セルは、二酸化炭素の排出を伴わない水素製造法であり、優れた環境特性を有している。このうち、固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)は、電解質としてイットリア安定化ジルコニアなどのセラミックスが用いられ、高温の水蒸気を原料とするため他の電解セルに比べ高い効率で水素の製造が可能である。また、脱炭素化を目的として二酸化炭素(CO)を原料とし電解水素を還元剤として利用し、直接一酸化炭素(CO)を製造する共電解も可能である。
【0003】
特許文献1では、水素極、固体電解質膜および酸素極を有する電解セルが基体管上に複数並べられたセルスタックを備えた水素生成システムが開示されている。この水素生成システムにおいて、特許文献1に記載のSOECでは、水素極がNiとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7282968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SOECに流す電流を増やすと、水の電気化学的な分解(電解)が促進され、生成される水素量を増やすことができる。しかしながら、SOECに流す電流を単純に上げることはできない。
【0006】
水の電解は、吸熱反応である。一方、SOECに電流を流すと、ジュール熱が発生する。低電流であれば、吸熱反応が優位になるため問題ない。しかしながら、高電流で運転しようとすると、SOEC自身のジュール熱による発熱で温度上昇が生じる。SOECが高温に曝されると、水素極のNiがシンタリングし、SOECの内部抵抗が上がり、長時間の安定した電解が難しくなる。
【0007】
複数の電解セルを備えたセルスタックを高電流で運転した場合、高電流による発熱に応じた放熱ができないため、原料ガス(水蒸気等)流れの出口側で温度が高くなる。通常、セルスタックの両端は高温耐久性のある金属材料で構成された保持部材で保持されている。しかしながら、この保持部材が高温に曝されることで耐久性が低下する。そのため、SOECに流す電流密度は、この保持部材が許容温度を超えないような範囲に制限される。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、セルスタックの温度上昇を抑えつつ、電解による生成物量を増やすことのできる電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法は以下の手段を採用する。
【0010】
本開示は、Niを含む水素極、酸素極、および前記水素極と前記酸素極との間に挟まれた固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セルと、前記基体管の軸方向に並べられた複数の前記電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備え、1つの前記電解単セルにおいて前記基体管の軸方向を向く、前記酸素極の端から端までの距離を前記電解単セルの幅と定義し、前記複数の電解単セルが並べられている前記基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部、中央部および第2端部に区分けした場合に、前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅が、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅よりも1.5~3倍大きい電解セルスタックを提供する。
【0011】
本開示は、上記に記載の電解セルスタックを備えた電解セルカートリッジを提供する。
【0012】
本開示は、上記に記載の電解セルカートリッジを備えた電解セルモジュールを提供する。
【0013】
本開示は、Niを含む水素極、酸素極、および水素極と酸素極との間に配置される固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セルと、前記基体管の軸方向に並べられた複数の前記電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えた電解セルスタックの製造方法であって、1つの前記電解単セルにおいて前記基体管の軸方向を向く、前記酸素極の端から端までの距離を前記電解単セルの幅と定義し、前記複数の電解単セルが並べられている前記基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部、中央部および第2端部に区分けし、前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅を、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅よりも1.5~3倍大きく形成する電解セルスタックの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、基体管上に並べた複数の電解単セルのうち、端の方(第1端部および/または第2端部)に、中央部よりも幅の大きな電解セルを配置することで、電解セルスタックの温度上昇を抑えつつ、電解による生成物量を増やすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施形態に係る電解セルスタックの一態様を示す図である。
図2】セルスタックの第1端部の拡大断面模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係る電解セルモジュールの一態様を示す図である。
図4】本開示の一実施形態に係る電解セルカートリッジの断面の一態様を示す図である。
図5】(A)実施例2のセルスタックの模式図と、(B)(A)に記載のセルスタックの軸方向の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
図6】実施例3~5および比較例3,4における電解単セルの幅条件およびシミュレーション結果を示す図である。
図7】実施例5~11における電解単セルの幅条件およびシミュレーション結果を示す図である。
図8】実施例5,11~16におけるセル部長さの構成条件およびシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本開示に係る電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
本開示において「電解」は、「水電解」または「共電解」を意味する。
【0018】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」および「下」の表現を用いて説明した各構成要素の位置関係は、各々鉛直上方側、鉛直下方側を示すものである。また、本実施形態では、上下方向と水平方向で同様な効果を得られるものは、紙面における上下方向が必ずしも鉛直上下方向に限定することなく、例えば鉛直方向に直交する水平方向に対応してもよい。
【0019】
〔第1実施形態〕
(セルスタック)
まず、図1,2を参照して本実施形態に係る一例として、基体管を用いる円筒形セルスタックについて説明する。基体管を用いない場合は、例えば水素極を厚く形成して基体管を兼用してもよく、基体管の使用に限定されることはない。また、本実施形態での基体管は円筒形状を用いたもので説明するが、基体管は筒状であればよく、必ずしも断面が円形に限定されなく、例えば楕円形状でもよい。円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒(Flat tubular)等のセルスタックでもよい。
【0020】
ここで、図1は、実施形態に係るセルスタック(電解セルスタック)の一態様を示すものである。図2は、セルスタックの第1端部の拡大断面模式図である。セルスタック101は、一例として円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に形成され、基体管103の軸方向に複数並べられた電解単セル105と、隣り合う電解単セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを備える。
【0021】
電解単セル105は、水素極109と固体電解質膜111と酸素極113とが積層されてなる。固体電解質膜111は、水素極109と酸素極113との間に挟まれている。電解単セル105は、基体管の周方向に形成されている。基体管の外径は、10~50mm。基体管の全長は、500~3000mm。
【0022】
セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の電解単セル105の内、基体管103の軸方向において最も端の一端に形成された電解単セル105の酸素極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を備え、最も端の他端に形成された電解単セル105の水素極109に電気的に接続されたリード膜115を備える。
【0023】
本実施形態では、複数の電解単セル105が並べられている基体管103上の領域をセル部104と呼ぶ。セル部104には、例えば50~350個の電解単セル105が配置され得る。セル部104は、第1端部10、中央部11および第2端部12の3つの領域に区分けされる。第1端部10、中央部11および第2端部12は、基体管103の軸方向に沿って順に並んでいる。図1では、第1端部10が原料ガス流れの上流側、第2端部12が原料ガス流れの下流側に位置する。
【0024】
第1端部10、中央部11、第2端部12の領域には、それぞれ複数の電解単セル105が含まれる。中央部11に位置する電解単セル105aの幅は、例えば3~20mmであってよい。隣り合う電解単セル105間の距離は、例えば、0.3~2mmであってよい。
【0025】
第1端部10および第2端部12に位置する電解単セル105b,105cの幅は、中央部11に位置する電解単セル105aの幅よりも1.5~3倍大きい。「電解単セルの幅」(W)は、基体管103の軸方向を向く、1つの電解単セル105における酸素極113の端から端までの距離(幅)に対応する。
【0026】
第1端部10に位置する電解単セル105bの幅(W1)は、第2端部12に位置する電解単セル105cの幅(W3)と等しくてもよい。第1端部10に位置する複数の電解単セル105bのそれぞれの幅(W1)は、同じであってもよいし、中央部11側に向けて段階的に狭くなるようにしてもよい。
【0027】
第2端部12に位置する電解単セル105cの幅は、第1端部10に位置する電解単セル105bの幅よりも大きくしてもよい。第2端部12に位置する複数の電解単セル105cのそれぞれの幅(W3)は、同じであってもよいし、中央部11側に向けて段階的に狭くなるようにしてもよい。
【0028】
セル部104は、基体管103の軸方向に沿って延びる長さLを有する。セル部の長さLは、基体管103の全長の50~90%程度にするとよい。セル部の長さLは、例えば、300~2500mmであってよい。
【0029】
セル部の長さLは、第1端部長さ(L1)、中央部長さ(L2)および第2端部長さ(L3)の3つに区分けされる。
【0030】
長さLは基体管上で長手方向に並べられた電解単セルのうち、両端に配置された電解単セル105の間の距離であり、具体的には、図1で示されるように原料ガス流れで最も上流側に配置された電解単セル105の酸素極113の外端(図1で上方側)から原料ガス流れで最も下流側に配置された電解単セル105の酸素極113の外端(図1で下方側)までの距離である。
【0031】
長さL1は、部内(区内)における最も端(例えば、図1では原料ガス流れの最も上流側)に位置する電解単セル105の酸素極113の外端(図1で上方側)から、部内の逆端(例えば、図1では原料ガス流れの最も下流側)に位置する電解単セル105の酸素極113の外端(図1で下方側)までの距離である。
【0032】
長さL3は、部内(区内)における最も端(例えば図1では原料ガス流れの最も下流側)に位置する電解単セル105の酸素極113の外端(図1で下方側)から、部内の逆端(例えば、図1では原料ガス流れの上流側)に位置する電解単セル105の酸素極113の外端(図1で上方側)までの距離である。
【0033】
長さL2は、セル部の長さLからL1とL3を除いた残りの部分である。
【0034】
第1端部長さL1は、セル部長さLに対して5%以上20%以下であってよい。
中央部長さL2は、セル部長さLに対して60%以上90%以下であってよい。
第2端部長さL2は、セル部長さLに対して5%以上20%以下であってよい。第2端部長さL2は、第1端部長さL1よりも大きくしてもよい。
【0035】
次に、電解単セル105の各構成について説明する。
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO(CSZ)、CSZと酸化ニッケル(NiO)との混合物(CSZ+NiO)、又はY安定化ZrO(YSZ)、又はMgAlなどを主成分とされる。この基体管103は、電解単セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体管103の内周面に供給される原料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される水素極109に拡散させるものである。
【0036】
水素極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。水素極109の厚さは50μm~250μmであり、水素極109はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。
【0037】
セルスタック101の水素極109に供給し利用できる原料ガスとしては、水蒸気、水蒸気および二酸化炭素、水素、窒素および水素などが挙げられる。
【0038】
固体電解質膜111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを備えるYSZが主として用いられる。水素極109の表面上に位置する固体電解質膜111の膜厚は10μm~100μmであり固体電解質膜111はスラリーをスクリーン印刷して形成されてもよい。
【0039】
酸素極113は、例えば、LaSrMnO系酸化物、又はLaCoO系酸化物で構成される。酸素極113はスラリーをスクリーン印刷またはディスペンサを用いて塗布される。
【0040】
酸素極113は2層構成とすることもできる。この場合、固体電解質膜111側の酸素極層(酸素極中間層)は高いイオン導電性を示し、触媒活性に優れる材料で構成される。固体電解質膜111側の酸素極層(酸素極中間層)はSmをドープしたセリア、酸素極中間層上の酸素極層(酸素極導電層)はSrおよびCaドープLaMnOで表されるペロブスカイト型酸化物で構成されても良い。酸素極113は2層構成とした場合、電解単セルの幅は、酸素極導電層を基準とする。
【0041】
インターコネクタ107は、SrTiO系などのM1-xLxTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、スラリーをスクリーン印刷する。インターコネクタ107は、水素極109に供給される原料ガスと、酸素極113に供給される酸化性ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した耐久性と電気導電性を備える。このインターコネクタ107は、隣り合う電解単セル105において、一方の電解単セル105の酸素極113と他方の電解単セル105の水素極109とを電気的に接続し、隣り合う電解単セル105同士を直列に接続するものである。
【0042】
酸化性ガスとは、酸素を略15%~30%含むガスであり、代表的には空気が挙げられる。
【0043】
リード膜115は、電子伝導性を備えること、およびセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材やSrTiO系などのM1-xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で構成されている。このリード膜115は、インターコネクタ107により直列に接続される複数の電解単セル105に直流電力を供給するものである。
【0044】
リード膜115を介して、水素極109と酸素極113との間に外部から電力を供給すると、水素極109に供給された高温の原料ガス(例えば水蒸気)の一部が電子を受けて水素と酸素イオンに分離され水素を生成する。分離された酸素イオンは固体電解質膜111の内部を通って酸素極113へ移動し、電子を放出して酸素となる。
【0045】
次に、セルスタックの製造方法について説明する。
基体管103は、例えば、押出成形法により形成される。
基体管103上に水素極用スラリーを塗布する。塗布される位置(第1端部10、中央部11または第2端部12)に応じて、水素極用スラリーの塗布幅は、適宜変える。第1端部10および/または第2端部12での塗布幅は、中央部11での塗布幅よりも大きくする。水素極用スラリーの塗布幅は、セルスタックになった後の第1端部10および/または第2端部12に位置する電解単セル105b、105cの幅(W1,W3)が、中央部11に位置する電解単セル105aの幅(W2)の1.5~3倍となるように調整するとよい。
【0046】
水素極用スラリーを塗布後、固体電解質膜用スラリーおよびインターコネクタ用スラリーを順に塗布する。塗布幅は、水素極用スラリーの塗布幅に合わせて調整する。
【0047】
水素極109、固体電解質膜111およびインターコネクタ107のスラリーの膜が形成された基体管103を、大気中にて共焼結する。焼結温度は、例えば1350℃~1450℃とされる。
【0048】
つぎに、共焼結された基体管103上に、酸素極用スラリーを塗布する。塗布幅は、水素極用スラリーの塗布幅に合わせて調整する。
【0049】
酸素極113のスラリーの膜が形成された基体管103が、大気中にて焼結される。焼結温度は、例えば1100℃~1250℃とされる。ここでの焼結温度は、基体管103~インターコネクタ107を形成した後の共焼結温度よりも低温とされる。
【0050】
これにより、第1端部10および/または第2端部12に位置する電解単セル105b、105cの幅が、中央部11に位置する電解単セル105aの幅(W2)の1.5~3倍の大きさのセルスタック101が得られる。
【0051】
(SOECモジュール)
次に、図3図4とを参照して本実施形態に係る電解セルカートリッジおよび電解セルモジュールについて説明する。ここで、図3は、本実施形態に係る固体酸化物形電解(SOEC)モジュールの一態様を示すものである。また、図4は、本実施形態に係る固体酸化物形電解(SOEC)カートリッジの一態様の断面図を示すものである。
【0052】
電解セルモジュール201は、図3に示すように、例えば、複数のSOECカートリッジ203と、これら複数のSOECカートリッジ203を収納するモジュール容器205とを備える。また、SOECモジュール201は、原料ガス供給管207と複数の原料ガス供給枝管207aおよび原料ガス排出管209と複数の原料ガス排出枝管209aとを備える。また、SOECモジュール201は、酸化性ガス供給管(不図示)と酸化性ガス供給枝管(不図示)および酸化性ガス排出管(不図示)と複数の酸化性ガス排出枝管(不図示)とを備える。
【0053】
原料ガス供給管207は、モジュール容器205の内部に設けられ、SOECモジュール201の水素生成量に対応して所定ガス組成と所定流量の原料ガスを供給する原料ガス供給部に接続されると共に、複数の原料ガス供給枝管207aに接続されている。この原料ガス供給管207は、上述の原料ガス供給部から供給される所定流量の原料ガスを、複数の原料ガス供給枝管207aに分岐して導くものである。また、原料ガス供給枝管207aは、原料ガス供給管207に接続されると共に、複数のSOECカートリッジ203に接続されている。この原料ガス供給枝管207aは、原料ガス供給管207から供給される原料ガスを複数のSOECカートリッジ203に略均等の流量で導き、複数のSOECカートリッジ203の水素生成能を略均一化させるものである。
【0054】
原料ガス排出枝管209aは、複数のSOECカートリッジ203に接続されると共に、原料ガス排出管209に接続されている。この原料ガス排出枝管209aは、SOECカートリッジ203から排出される排原料ガスを原料ガス排出管209に導くものである。また、原料ガス排出管209は、複数の原料ガス排出枝管209aに接続されると共に、一部がモジュール容器205の外部に配置されている。この原料ガス排出管209は、原料ガス排出枝管209aから略均等の流量で導出される排原料ガスをモジュール容器205の外部に導くものである。
【0055】
モジュール容器205は、耐圧性と酸化性ガス中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性を保有する材質が利用される。例えばSUS304などのステンレス系材が好適である。
【0056】
ここで、本実施形態においては、複数のSOECカートリッジ203が集合化されてモジュール容器205に収納される態様について説明しているが、これに限られず例えば、SOECカートリッジ203が集合化されずにモジュール容器205内に収納される態様とすることもできる。
【0057】
(SOECカートリッジ)
SOECカートリッジ203は、図4に示す通り、複数のセルスタック101と、電解室215と、原料ガス供給ヘッダ217と、原料ガス排出ヘッダ219と、酸化性ガス(空気)供給ヘッダ221と、酸化性ガス排出ヘッダ223とを備える。また、SOECカートリッジ203は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bとを備える。なお、本実施形態においては、SOECカートリッジ203は、原料ガス供給ヘッダ217と原料ガス排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221と酸化性ガス排出ヘッダ223とが図4のように配置されることで、原料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタック101の内側と外側とを平行して流れる、または酸化性ガスがセルスタック101の長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0058】
電解室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bとの間に形成された領域である。この電解室215は、セルスタック101の電解単セル105が配置された領域であり、原料ガスと酸化性ガスとを電気化学的に反応させて水素生成を行う領域である。また、この電解室215のセルスタック101長手方向の中央部付近での温度を、温度計測部(温度センサや熱電対など)で監視してもよく、電解セルモジュール201の定常運転時に、およそ700℃~1000℃の高温雰囲気となる。
【0059】
原料ガス供給ヘッダ217は、SOECカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの上部に設けられた原料ガス供給孔231aによって、原料ガス供給枝管207aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、上部管板225aとシール部材237aにより接合されており、原料ガス供給ヘッダ217は、原料ガス供給枝管207aから原料ガス供給孔231aを介して供給される原料ガスを、複数のセルスタック101の基体管103の内部に略均一流量で導き、複数のセルスタック101の水素生成量を略均一化させるものである。
【0060】
原料ガス排出ヘッダ219は、SOECカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bに備えられた原料ガス排出孔231bによって、図示しない原料ガス排出枝管209aと連通されている。また、複数のセルスタック101は、下部管板225bとシール部材237bにより接合されており、原料ガス排出ヘッダ219は、複数のセルスタック101の基体管103の内部を通過して原料ガス排出ヘッダ219に供給される排原料ガスを集合して、原料ガス排出孔231bを介して原料ガス排出枝管209aに導くものである。
【0061】
SOECモジュール201の水素生成量に対応して所定ガス組成と所定流量の酸化性ガスを酸化性ガス供給枝管へと分岐して、複数のSOECカートリッジ203へ供給する。酸化性ガス供給ヘッダ221は、SOECカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域であり、下部ケーシング229bの側面に設けられた酸化性ガス供給孔233aによって、図示しない酸化性ガス供給枝管と連通されている。この酸化性ガス供給ヘッダ221は、図示しない酸化性ガス供給枝管から酸化性ガス供給孔233aを介して供給される所定流量の酸化性ガスを、後述する酸化性ガス供給隙間235aを介して電解室215に導くものである。
【0062】
酸化性ガス排出ヘッダ223は、SOECカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域であり、上部ケーシング229aの側面に設けられた酸化性ガス排出孔233bによって、図示しない酸化性ガス排出枝管と連通されている。この酸化性ガス排出ヘッダ223は、電解室215から、後述する酸化性ガス排出隙間235bを介して酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される排酸化性ガスを、酸化性ガス排出孔233bを介して図示しない酸化性ガス排出枝管に導くものである。
【0063】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また上部管板225aは、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101がそれぞれ挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタック101の一方の端部をシール部材237aおよび接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、原料ガス供給ヘッダ217と酸化性ガス排出ヘッダ223とを隔離するものである。
【0064】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス排出隙間235bを備える。
【0065】
この上部断熱体227aは、電解室215と酸化性ガス排出ヘッダ223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。また、上部管板225a等が電解室215内の高温に晒されて温度差による上部管板225a等の熱変形を抑制するために、Ni基合金などの高温耐久性のある金属材料を用いてもよい。また、上部断熱体227aは、電解室215を通過して高温に晒された排酸化性ガスを、酸化性ガス排出隙間235bを通過させて酸化性ガス排出ヘッダ223に導くものである。
【0066】
本実施形態によれば、上述したSOECカートリッジ203の構造により、原料ガスと排酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、排酸化性ガスは、基体管103の内部を通って電解室215に供給される原料ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸化性ガス排出ヘッダ223に供給される。また、原料ガスは、電解室215から排出される排酸化性ガスとの熱交換により昇温され、電解室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく水素生成に適した温度に予熱昇温された原料ガスを電解室215に供給することができる。
【0067】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101がそれぞれ挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタック101の他方の端部をシール部材237bおよび接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、原料ガス排出ヘッダ219と酸化性ガス供給ヘッダ221とを隔離するものである。
【0068】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、下部ケーシング229bの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、SOECカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス供給隙間235aを備える。
【0069】
この下部断熱体227bは、電解室215と酸化性ガス供給ヘッダ221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、酸化性ガス供給ヘッダ221に供給される酸化性ガスを、酸化性ガス供給隙間235aを通過させて電解室215に導くものである。
【0070】
本実施形態によれば、上述したSOECカートリッジ203の構造により、排原料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、基体管103の内部を通って電解室215を通過した排原料ガスは、電解室215に供給される酸化性ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて原料ガス排出ヘッダ219に供給される。また、酸化性ガスは排原料ガスとの熱交換により昇温され、電解室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく水素生成に必要な温度に昇温された酸化性ガスを電解室215に供給することができる。
【0071】
次に、電解単セル105の幅、第1端部10と第2端部12の長さ(L1,L3)の設定根拠について説明する。
【0072】
(試験1)
第1端部10または第1端部10および第2端部12に位置する電解単セル105b、105cの幅を、中央部11に位置する電解単セル105aよりも大きくしたセルスタック(実施例1,2)における、軸方向の温度分布をシミュレートした。対照として、第1端部10、中央部11および第2端部12に位置する電解単セル105の幅がすべて同じである従来のセルスタックについても、同様にシミュレートした(比較例1,2)。シミュレートは、電解セル幅変更による電極面積の違いからセル抵抗変化を計算し、抵抗値及び電流による発熱量に基づくヒートバランス変化により計算した。また、セルスタック長さは一定とし、セル寸法の変化によりセル数が変化することを考慮し、水素生成量は電流値とセル数から算出した。
【0073】
第1端部10、中央部11および第2端部12に位置する電解単セルの幅(W1,W2,W3)は、以下の通りとした。
比較例1:W1=W2=W3(基準電流)
比較例2:W1=W2=W3(高電流)
実施例1:W1>W2=W3(高電流)
実施例2:W1=W3>W2(高電流)
【0074】
比較例1,2および実施例1,2において、同一部内に位置する電解単セルの幅は同じとした。基体管103のサイズ、セル部104の軸方向の長さ(L)、長さ(L)に対する第1端部10、中央部11および第2端部12の軸方向の長さ(L1,L2,L3)はすべて同じとした。比較例2および実施例1,2に流す電流は、比較例1より高い電流とした。
【0075】
図5は、(A)実施例2のセルスタックの模式図と、(B)(A)に記載のセルスタックの軸方向の温度分布のシミュレーション結果である。図5には、実施例1,2および比較例1,2の温度分布も記載した。図5において、横軸はセルスタックの温度(℃)、縦軸はセルスタック(基体管)の軸方向長さ(mm)である。縦軸の長さは、第2端部の最下部(中央部側とは逆の端部)を0とした。原料ガスは、セルスタックの第1端部側から第2端部側へと流れるものとする。なお、セルスタックの温度とは、セルスタックの軸方向長さと同じ位置となる電解室215内部の温度でもよい。
【0076】
比較例1,2および実施例1,2は、いずれも、セルスタックの軸方向端部で温度が低く、中央部分の温度が最も高くなる傾向を示した。比較例1,2を比べると、電流を高くした比較例2の方がセルスタックの最高温度は高かった。セルスタックに電流を流すと、ジュール熱が発生し、セルスタックの温度が上昇する。ジュール熱は(電流)×抵抗で定義されるため、流す電流を増やすと、ジュール熱も多く発生する。
【0077】
同等の電流を流した比較例2と実施例1,2を比べると、幅広の電解単セルを含む実施例1,2の最高温度は、比較例2よりも低くかった。中央部11に位置する電解単セル105aの幅よりも、幅の大きな(広い)電解単セルを第1端部10および/または第2端部12に配置することで、セルスタックの最高温度を低くできることが確認された。セルスタックの温度が高くなりすぎると、水素極のNiがシンタリングして電解単セルの内部抵抗が増加することになり、セルスタック自身の耐久性の悪化につながる。よって、最高温度を低くできることは有益である。
【0078】
セルスタックの両端は管板で保持されている。セルスタックの温度が高くなりすぎると、管板の劣化につながる。図5の結果によれば、中央部11に位置する電解単セル105aの幅よりも、幅の大きな(広い)電解単セルを第1端部10および/または第2端部12に配置することで、セルスタックを支える管板の劣化も抑制できることが示唆された。
【0079】
実施例1,2を比べると、セル部104の両端に幅広の電解単セルを含む実施例2の最高温度の方が低かった。この結果から、幅広の電解単セルを第1端部10と第2端部12の両方に配置する、または、幅広の電解単セルを増やすことで、温度抑制の効果が大きくなることが示唆された。
【0080】
セルスタックに流す電流密度を増やすと、それに応じて原料ガスが多く分解され、水素生成量が増える。実施例1,2では、従来よりも多く電流を流しても、セルスタックの最高温度を従来よりも低く抑えられる。実施例2の最高温度は、電流密度が低い比較例1と同程度であった。
【0081】
(試験2)
第1端部、中央部、第2端部に位置する電解単セルの幅を変えたセルスタック(実施例3~11)について、平均電圧:1.5V、最高温度設定値:950℃での使用をシミュレートし、電流密度、セルスタック(基体管)の最高温度(℃)、下部管板温度(℃)および水素生成量を算出した。水素生成量は、比較例1の水素生成量を1とした比で記載した。シミュレートは電解セル幅変更による電極面積の違いからセル抵抗変化を計算し、抵抗値及び電流による発熱量に基づくヒートバランス変化により計算した。また、セルスタック長さは一定とし、セル寸法の変化によりセル数が変化することを考慮し、水素生成量は電流値とセル数から算出した。セル部長さ100%に対する第1端部長さ(L1)、中央部長さ(L2)、第2端部長さ(L3)のパーセンテージは、それぞれ10%,80%,10%とした。
【0082】
図6,7は、各実施例における電解単セルの幅条件およびシミュレーション結果である。
【0083】
本試験では、セルスタックの最高温度が950℃になるように電流密度を設定した。図6によれば、セル部に含まれるすべての電解単セルの幅が等しい比較例3,4に比べ、第1端部および/または第2端部に、中央部よりも幅広の電解単セルが配置された実施例3~5の方が電流を多く流すことができ、水素生成量も多くなるとの結果が示された。実施例3~5を比べると、第1端部および第2端部の両方に幅広の電解単セルが配置された実施例5で、最も多く電流を流すことができ、水素も多く生成できることが示唆された。
【0084】
図7によれば、第1端部および第2端部に位置する電解単セルの幅を、中央部に位置する電解単セルの幅に対して1.5~3倍大きくした実施例5~9において、電流密度および水素生成量をより高くできることが確認された。実施例5~9は、下部管板温度も比較例3より低かった。
【0085】
実施例5と実施例7を比べると、第1端部と第2端部の両方で電解単セルの幅を2倍にした実施例5よりも、第2端部に位置する電解単セルの幅(W)を倍にし、かつ、第1端部に位置する電解単セル(W1)よりも大きくした実施例7の方が、電流密度および水素生成量が多かった。これにより、第2端部に位置する電解単セルの幅の方が、電流密度および水素生成量への影響が大きいことが示唆された。
【0086】
第1端部および第2端部に位置する電解単セルの幅が中央部のそれに対して1.3倍大きい実施例10は、実施例5~11の中で最も流せる電流密度が低かった。実施例11は、実施例5,6と同じ電流密度であったが、水素生成量は低くかった。
【0087】
実施例5~11において、第1端部および第2端部の軸方向の長さ(L1,L3)は共通である。電解単セルの幅を大きくすると、第1端部および第2端部内に配置できる電解単セルの個数が少なくなり、結果としてセル部全体の電解単セル数が減る。電解単セルの個数は、水素生成量に影響する。実施例11では、電解単セルの幅を大きくしすぎた結果、電解単セルの個数が減り、それが水素生成量に影響したと考えられる。実施例8,9でも実施例7と同様にセル部の電解単セル数が減少しているが、流せる電流密度の増加分が、電解単セル数の減少による水素生成量への影響を補った結果、水素生成量が多くなったと考えられる。
【0088】
図6,7によれば、第1端部および第2端部に配置する電解単セルの幅を大きくするほど、下部管板温度は低くなる傾向が示された。
【0089】
(試験3)
セル部における第1端部、中央部、第2端部の長さ(基体管の軸方向を向く長さ)を変えたセルスタックについて、平均電圧:1.5V、最高温度設定値:950℃での使用をシミュレートし、電流密度、セルスタック(基体管)の最高温度(℃)、下部管板温度(℃)および水素生成量を算出した。各実施例におけるセルスタックのサイズおよびセル部の全長は共通である。水素生成量は、比較例1の水素生成量を1とした比で記載した。シミュレートは電解セル幅変更による電極面積の違いからセル抵抗変化を計算し、抵抗値及び電流による発熱量に基づくヒートバランス変化により計算した。また、セルスタック長さは一定とし、セル寸法の変化によりセル数が変化することを考慮し、水素生成量は電流値とセル数から算出した。第1端部および第2端部に位置する電解単セルの幅(W1,W3)は、中央部のそれ(W2)に対して2倍大きいものとした。
【0090】
図8は、各実施例におけるセル部長さの構成条件およびシミュレーション結果である。
【0091】
第1端部および第2端部に位置する電解単セルの幅を中央部のそれに対して2倍大きくした実施例5,11~16では、セル部に流せる電流密度およびセル部での水素生成量が比較例3,4よりも多くなるとの結果が示された。実施例5,11~16は、下部管板温度も比較例3,4より低かった。
【0092】
セル部の全長(100%)に対して、第1端部長さおよび第2端部長さをそれぞれ5~20%にした実施例5,11~14、中でも第1端部長さおよび第2端部長さをそれぞれ5~10%にした実施例5,11,12において、水素生成量が特に多くなった。
【0093】
セル部全長に対する第1端部および第2端部の長さ割合が少ない実施例15では、セル部に配置できる電解単セル数は多くなるが、セル部に流せる電流密度を他の実施例ほどは上げられなかった。セル部全長に対する第1端部および第2端部の長さ割合が大きい実施例16では、セル部に流せる電流密度は増えるが、セル部に配置できる電解単セル数は少なくなった。この電解単セル数の減少が、実施例16での水素生成量が他の実施例よりも低くなった要因であると考えられる。
【0094】
実施例11は、第1端部長さが実施例5と同じであるが、第2端部長さは実施例5よりも長い。第2端部長さが長くなれば、第2端部内に配置できる電解単セル数が増える。すなわち、実施例11は実施例5よりも第2端部内に配置された幅広の電解単セル数が多い。実施例11は、実施例5よりも水素生成量が多かった。
【0095】
一方、実施例11は、第2端部長さが実施例13と同じであるが、第1端部長さは実施例5よりも短い。実施例11は、第1端部に配置された幅広の電解単セル数が少ないにも関わらず、実施例13よりも水素生成量が多かった。
【0096】
図8によれば、第1端部長さおよび第2端部長さを長くすると、下部管板温度は低くなる傾向が示された。
【0097】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の電解セルスタック、電解セルカートリッジ、電解セルモジュールおよび電解セルスタックの製造方法は、例えば以下のように把握される。
【0098】
本開示の第1態様に係る電解セルスタック(101)は、Niを含む水素極(109)、酸素極(113)、固体電解質膜(111)を有し、基体管(103)の周方向に形成された電解単セル(105)と、基体管の軸方向に並べられた複数の電解単セルを電気的に接続するインターコネクタ(107)と、を備え、1つの前記電解単セルにおいて基体管の軸方向を向く、酸素極の端から端までの距離を電解単セルの幅(W)と定義し、複数の電解単セルが並べられている基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部(10)、中央部(11)および第2端部(12)に区分けした場合に、第1端部および/または第2端部に位置する電解単セルの幅(W1,W3)が、中央部に位置する電解単セルの幅(W2)よりも大きい。
【0099】
電解単セルの幅が大きい(広い)と、電解単セル当たりの発熱量(ジュール熱)は低くなるが、電解単セル毎のイオン移動量および電流密度は変わらない。そのため、基体管上に並べた複数の電解単セルのうち、端の方(第1端部および/または第2端部)に、中央部よりも幅の大きな電解セルを配置することで、電解セルスタックの温度上昇を抑えつつ、1本当たりの電解セルスタックで電解による生成物量を増やすことが可能となる。
【0100】
本開示の第2態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様において、前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅が、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅の1.5~3倍である。
【0101】
電解単セルの幅が小さすぎるとセルスタックの温度が上がりやすくなり、大きすぎると電解能力が低下する。第1端部および/または第2端部に位置する電解単セルの幅が、中央部のそれに対して1.5~3倍大きいサイズとすることで、温度上昇抑制能力と電解能力をバランスよく発揮し、多くの電解生成物量を得ることができる。
【0102】
本開示の第3態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様または第2態様において、前記第1端部に位置する前記電解単セルの幅が、前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅と等しい。
【0103】
第1端部と第2端部の電解単セルの幅を揃えることで、製造が容易となる。
【0104】
本開示の第4態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様または第2態様において、前記第1端部が前記基体管内のガス流れ方向上流側の端部であり、前記第2端部が前記基体管内のガス流れ方向下流側の端部であり、前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅は、前記第1端部に位置する前記電解単セルの幅よりも大きい。
【0105】
電解セルスタックは、中央部が最も高温となり、両端部は中央部よりも温度が低くなる。しかしながら、中央部を通過する際に原料ガスの温度が高くなるため、ガス流れ方向下流側の第2端部は、上流側の第1端部よりも温度が下がりにくい。第2端部に位置する前記電解単セルの幅を第1端部のそれよりも大きくし、第2端部におけるジュール熱の発生を抑制することで、最高温度を高く設定した場合でも電解セルスタックを保持する部材の許容温度を担保しやすくなる。
【0106】
本開示の第5態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様~第4態様のいずれかにおいて、前記第1端部の軸方向の長さ(L1)が、前記中央部、前記第1端部および前記第2端部の前記軸方向の長さの合計(L)に対し、5%以上20%以下である。
【0107】
幅広の電解単セルを含む領域を大きく(長く)すると、電解セルスタック全体に配置される電解単セル数が少なくなる。全体の電解単セル数が減れば、その分、トータルの電解生成物量も減る。第1端部の長さを上記範囲とすることで、電解単セル数の減少による影響を補い、電解生成物量の増加させることができる。
【0108】
本開示の第6態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様~第5態様のいずれかにおいて、前記第2端部の軸方向の長さ(L3)が、前記中央部、前記第1端部および前記第2端部の前記軸方向の長さ(L)の合計に対し、5%以上20%以下である。
【0109】
第2端部の長さを上記範囲とすることで、電解単セル数の減少による影響を補い、電解生成物量の増加させることができる。
【0110】
本開示の第7態様に係る電解セルスタックは、上記第1態様~第6態様のいずれかにおいて、前記第1端部が前記基体管内のガス流れ方向上流側の端部であり、前記第2端部が前記基体管内のガス流れ方向下流側の端部であり、前記第2端部の軸方向長さは、前記第1端部の軸方向長さよりも大きい。
【0111】
第2端部の長さを第1端部の長さよりも大きくすることで、第2端部におけるジュール熱の発生をより強く抑制できる。
【0112】
本開示の第8態様に係る電解セルカートリッジは、上記第1態様~第7態様のいずれかに記載の電解セルスタックを備えている。
【0113】
本開示の第9態様に係る電解セルモジュールは、上記第8態様に記載の電解セルカートリッジを備えている。
【0114】
本開示の第9態様に係る電解セルスタックの製造方法は、Niを含む水素極、酸素極、および水素極と酸素極との間に配置される固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セルと、前記基体管の軸方向に並べられた複数の前記電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えた電解セルスタックの製造方法であって、1つの前記電解単セルにおいて前記基体管の軸方向を向く、前記酸素極の端から端までの距離を前記電解単セルの幅と定義し、複数の前記電解単セルが並べられている前記基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部、中央部および第2端部に区分けし、前記第1端部および/または前記第2端部に位置する前記電解単セルの幅を、前記中央部に位置する前記電解単セルの幅よりも大きく形成する。
【符号の説明】
【0115】
10 第1端部
11 中央部
12 第2端部
101 セルスタック(電解セルスタック)
103 基体管
105 電解単セル
107 インターコネクタ
109 水素極
111 固体電解質膜
113 酸素極
115 リード膜
201 電解セルモジュール(SOECモジュール)
203 電解セルカートリッジ(SOECカートリッジ)
207 原料ガス供給管
209 原料ガス排出管
215 電解室
217 原料ガス供給ヘッダ
219 原料ガス排出ヘッダ
225a 上部管板
225b 下部管板
【要約】
【課題】本開示は、セルスタックの温度上昇を抑えつつ、電解による生成物量を増やすことのできる電解セルスタックを提供することを目的とする。
【解決手段】本開示に係る電解セルスタック101は、Niを含む水素極、酸素極、固体電解質膜を有し、基体管の周方向に形成された電解単セル105と、基体管の軸方向に並べられた複数の電解単セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備え、1つの電解単セルにおいて基体管の軸方向を向く、酸素極の端から端までの距離を電解単セルの幅Wと定義し、複数の電解単セルが並べられている基体管上の領域を、軸方向に沿って第1端部10、中央部11および第2端部12に区分けした場合に、第1端部および/または第2端部に位置する電解単セル105b,105cの幅W1,W3が、中央部に位置する電解単セル105aの幅W2よりも大きい。
【選択図】図1
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図8