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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ジオキサン分解菌粉末製剤の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20241001BHJP
   C12N 11/12 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 11/10 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 11/14 20060101ALI20241001BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N11/12
C12N11/10
C12N11/14
C12R1:01
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021048169
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147071
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-10
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02032
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】日下 潤
(72)【発明者】
【氏名】服部 新吾
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達也
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特許第6117450(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/082907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層中で分散している粉末状の基体に1,4-ジオキサン分解菌を含む懸濁液を噴霧、乾燥させることにより、1,4-ジオキサン分解菌が粉末状の基体に担持している粉末製剤を得て、
前記粉末製剤を、水蒸気バリア性容器内に密封し、1℃以上15℃以下で保存し、
前記粉末製剤の水分率を、7重量%以上13重量%以下に保つことを特徴とする粉末製剤の保存方法。
【請求項2】
前記水蒸気バリア性容器が、熱ラミネート可能であることを特徴とする請求項に記載の保存方法。
【請求項3】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、Pseudonocardia(シュードノカルディア)属であることを特徴とする請求項1または2に記載の保存方法。
【請求項4】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の保存方法。
【請求項5】
前記基体が、無機担体、セルロース、キチン、キトサンのいずれかであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジオキサン分解菌の粉末製剤の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
【0003】
【化1】
【0004】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。1,4-ジオキサンは、水溶性であるため、水環境中へ放出されると広域に拡散してしまう。また、揮発性、固体への吸着性、光分解性、加水分解性、生分解性がいずれも低いため、水中からの除去が困難である。1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。また、非特許文献1には、1,4-ジオキサンを含む産業廃水には、1,4-ジオキサンの他に1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランといった環状エーテルが含まれていることが報告されている。特に1,3-ジオキソランは、急性毒性等の毒性が確認されており、1,3-ジオキソランを含む汚染水等は適切に処理しなければならない。
【0005】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテルを含む水を処理する方法が求められており、特許文献1、非特許文献2では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。1,4-ジオキサン分解菌(以下、分解菌ともいう)は、1,4-ジオキサンを単一炭素源として分解する菌(資化菌)と、テトラヒドロフラン等の特定の基質の存在下にて1,4-ジオキサンを分解できる菌(共代謝菌)の2種類に大別される。資化菌は、さらに1,4-ジオキサン分解酵素の誘導の有無によって、誘導型と構成型に分けられる。誘導型1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンなどの誘導物質が存在することで分解酵素の生産・分泌がされるため、1,4-ジオキサン処理に用いる前に予め馴養する必要がある。一方、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、常時、分解酵素を生産しているため、馴養することなく、直ちに1,4-ジオキサン処理に用いることができる。
【0006】
1,4-ジオキサンを生分解処理する場合、分解菌の前準備が簡便であるため、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用することが好ましく、誘導の必要がない構成型1,4-ジオキサン分解菌を用いることがさらに好ましい。しかし、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して1,4-ジオキサン最大比分解速度が低いという問題点があった。
本発明者らは、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるPseudonocardia sp.N23(以下、N23株ともいう)を報告している。N23株は、ジオキサンのみならず、環状エーテル、有機塩素化合物を生分解することができ、また優れた分解能力を有する(特許文献2、3)。そのため、N23株は、多様な汚染状況に対して生分解処理が可能であることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-306939号公報
【文献】特許第6117450号公報
【文献】特開2020-110788号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】CD. Adams, PA. Scanlan and ND. Secrist: Oxidation and biodegradability enhancement of 1,4-dioxane using hydrogen peroxide and ozone, Environ. Sci. Technol., 28(11), pp.1812-1818, 1994.
【文献】清和成、池道彦:1,4-ジオキサン分解菌を用いた汚染地下水の生物処理・浄化の可能性,用水と廃水,Vol.53, No.7, 2011
【文献】K. Sei, K. Miyagaki, T. Kakinoki, K. Fukugasako, D. Inoue and M. Ike: Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as a sole carbon and energy source, Biodegradation, 24, 5, pp.665-674, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
汚染水処理施設等で、ジオキサン分解菌を用いて有機化合物処理を行う場合、菌体濃度を一定以上に維持する必要がある。しかし、運転操作ミスによる分解菌の流出(ウォッシュアウト)や、排水の水質性状の急な変化により分解菌が死滅する等、菌体濃度が著しく低減するリスクがある。汚染水処理施設でこのような事態が生じた場合、早急に分解菌を追加する必要があるが、1,4-ジオキサン分解菌は増殖が遅く、大量の菌体を得るには3週間程度の時間を要する。そのため、菌体補充の要求に迅速に対応するために、培養した分解菌を、長期的に安価に保存することが求められる。
そこで、本発明は、1,4-ジオキサン分解菌の粉末製剤の保存方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.1,4-ジオキサン分解菌が粉末状の基体に担持している粉末製剤を、水蒸気バリア性容器内に密封し、1℃以上15℃以下で保存することを特徴とする粉末製剤の保存方法。
2.前記粉末製剤の水分率を、7重量%以上13重量%以下に保つことを特徴とする1.に記載の保存方法。
3.前記水蒸気バリア性容器が、熱ラミネート可能であることを特徴とする1.または2.に記載の保存方法。
4.前記1,4-ジオキサン分解菌が、Pseudonocardia(シュードノカルディア)属であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の保存方法。
5.前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の保存方法。
6.前記基体が、無機担体、セルロース、キチン、キトサンのいずれかであることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の保存方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の保存方法により、90日後で60%以上、約2年(660日)後で40%以上の分解活性を保ったまま、粉末製剤を保存することができる。本発明の保存方法は、保存中に雑菌が繁殖しにくく、ジオキサン分解菌の活性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】異なる条件で87日保存した後の粉末製剤のジオキサン分解速度を示すグラフ。
図2】粉末製剤と菌体濃縮液を長期保存した際のジオキサン分解活性の経時変化を示すグラフ。
図3】粉末製剤を長期保存した際の水分率の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の粉末製剤の保存方法は、1,4-ジオキサン分解菌が粉末状の基体に担持している粉末製剤を、水蒸気バリア性容器内に密封し、1℃以上15℃以下で保存することを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
「粉末製剤」
本発明で保存する粉末製剤は、1,4-ジオキサン分解菌が粉末状の基体に担持されている。
・基体
本発明で使用する粉末状の基体の材質は特に制限されず、活性白土、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、パーライト、バーミキュライト、タルク、クレー、カオリン、珪砂、軽石、活性炭、カーボンブラック、グラファイト等の無機担体、セルロース、キチン、キトサン、米粉、小麦粉、コーンスターチ、澱粉、脱脂粉乳等の有機担体等を用いることができる。これらの中で、無機担体、セルロース、キチン、キトサンが、微生物が炭素源、窒素源として使用することが困難な材質であり、雑菌の繁殖を防ぐことができるため好ましい。
【0015】
本発明で使用する基体は、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過するものであることが好ましい。上記条件を満足する基体は、流動層乾燥装置を用いる粉末製剤の製造時に、流動層中で分散(気流に乗って浮かび上がること)でき、均一にジオキサン分解菌を担持することができる。基体は、公称目開き0.25mmの篩を80質量%以上通過するものであることが好ましく、公称目開き0.125mmの篩を80質量%以上通過するものであることがより好ましく、公称目開き0.053mmの篩を80質量%以上通過するものであることがさらに好ましい。
【0016】
基体の比表面積は、1m/g以上であることが好ましい。比表面積が1m/g以上であると、より多くの菌体を担持することができる。基体の比表面積は、2m/g以上であることがより好ましく、3m/g以上であることがさらに好ましい。また、基体の比表面積の上限値は、特に制限されない。
【0017】
・1,4-ジオキサン分解菌
本発明で使用する分解菌としては特に制限されず、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)、シュードノカルディア属(Pseudonocardia sp.)、アフピア属(Afipia sp.)、ロドコッカス属(Rhodococcus sp.)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium sp.)、メチロサイナス属(Methylosinus sp.)、バークホルデリア属(Burkholderia sp.)、ラルストニア属(Ralstonia sp.)、コルディセプス属(Cordyceps sp.)、キサントバクター属(Xanthobacter sp.)、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)等に属するものを用いることができる。これらの中で、マイコバクテリウム属またはシュードノカルディア属が好ましく、シュードノカルディア属がより好ましい。また、構成型資化菌、誘導型資化菌、共代謝菌のいずれも使用することができるが、誘導物質が不要なため資化菌が好ましく、馴養が不要なため構成型資化菌がより好ましい。
【0018】
具体的には、Pseudonocardia sp. N23、Mycobacterium sp. D11、Pseudonocardia sp. D17、Mycobacterium sp.D6、Pseudonocardia dioxanivorans CB1190、Afipia sp. D1、Mycobacterium sp. PH-06、Pseudonocardia benzenivorans B5、Flavobacterium sp.、Pseudonocardia sp. ENV478、Pseudonocardia tetrahydrofuranoxydans K1、Rhodococcus ruber T1、Rhodococcus ruber T5、Methylosinus trichosporium OB3b、Mycobacterium vaccae JOB5、Burkholderia cepacia G4、Pseudomonas mendocina KR1、Pseudonocardia tetrahydrofuranoxydans K1、Ralstonia pickettii PKO1、Rhodococcus sp. RR1、Acinetobacter Baumannii DD1、Rhodococcus sp. 219、Pseudonocardia antarctica DVS 5a1、Cordyceps sinensis A、Rhodococcus aetherivorans JCM14343等を挙げることができる。これらの中で、構成型資化菌であり、分解能に優れたPseudonocardia sp.N23(N23株)が最も好ましい。
【0019】
N23株は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。
N23株は、グラム染色性が陽性、カタラーゼ反応が陽性である。N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、その値は誘導型1,4-ジオキサン分解菌と同等以上である。また、N23株は、1,4-ジオキサンを0.017mg/L以下の極低濃度まで分解することができ、約5,200mg/Lという高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。また、1,4-ジオキサンのみならず、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物を分解することができる。
【0020】
・粉末製剤の製造方法
本発明の粉末製剤の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。これらの中で、流動層乾燥装置を用いて製造することが好ましい。具体的には、流動層乾燥装置を用いて、流動層中で分散している粉末状の基体に1,4-ジオキサン分解菌を含む懸濁液を噴霧し、ジオキサン分解活性を維持したまま乾燥させる工程により、製造することが好ましい。この際、粉末状の基体を流動層中で分散しながら高温に加熱して基体を殺菌した後に、懸濁液を噴霧することが好ましい。
【0021】
乾燥は、粉末製剤の水分率が7重量%以上13重量%以下となるように行うことが好ましい。粉末製剤の水分率がこの範囲内であると、ジオキサン分解活性を維持しながら、単位重量あたりのジオキサン分解菌の含有割合を多くすることができる。粉末製剤の水分率は、8重量%以上12重量%以下であることがより好ましい。なお、本明細書において水分率とは、粉末製剤を、105℃で4時間乾燥した後の、重量変化から求められる値を意味する。
乾燥温度は特に制限されないが、例えば、入り口温度50℃~95℃、出口温度20℃~60℃であることが好ましい。このような温度条件であれば、熱による菌体の減少を防ぎながらも、乾燥時間を短縮でき、また、所望の水分率を保った粉末製剤を得ることが容易となる。
【0022】
・保存方法
粉末製剤は、水蒸気バリア性容器内に密封し、1℃以上15℃以下で保存する。
水蒸気バリア性容器とは、温度25±0.5℃、相対湿度差90±2%における水蒸気透過率が0.1g/(m・day)以下である容器を意味する。水蒸気バリア性容器の材質は、上記した水蒸気透過率を満足するものであれば特に制限されないが、密封が容易なため熱ラミネートが可能であることが好ましく、水蒸気バリア性に優れているためアルミニウム等の金属蒸着層を有する金属蒸着フィルム、または酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物を蒸着したセラミック蒸着フィルムであることがより好ましい。水蒸気バリア性容器の水蒸気透過率は、0.05g/(m・day)以下であることが好ましく、0.01g/(m・day)以下であることがより好ましい。
【0023】
粉末製剤は、1℃以上15℃以下で保存する。この温度内で保存することにより、長期保存した後にも、分解活性を維持することができる。保存後の分解活性を高く保つために、保存する温度は低いほうが好ましく、12℃以下であることが好ましく、8℃以下であることがさらに好ましい。凍結を防ぐために、保存温度の下限は、2℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。
【0024】
保存中は、粉末製剤の水分率を、7重量%以上13重量%以下に保つことが好ましい。粉末製剤の水分率をこの範囲内に保つことにより、ジオキサン分解菌の減少と雑菌の増殖を防ぎ、分解活性を高く保つことができる。保存中の水分率は、7.5重量%以上であることがより好ましく、8重量%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
粉末製剤は、ジオキサン分解菌が生存しているため、酸素(空気)とともに密封して保存する。本発明の保存方法は、1℃以上15℃以下の低温で保存するため、保存中のジオキサン分解菌の代謝は抑制される。保存中に容器内で消費される酸素量は非常に少なく、当初に密封された気体中の酸素で十分に足りるため、水蒸気バリア性容器の酸素バリア性は特に制限されない。
【実施例
【0026】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
・ジオキサン分解菌
2kL容培養槽に1200Lの改変No.2培地(酵母エキス7.5g/L、ジエチレングリコール7.5g/L、リン酸水素2カリウム0.5g/L、消泡剤SI0.2g/L、pH4.5、水道水使用)を仕込み、121℃で20分間滅菌を実施した。
植菌液として、PCV(Packed Cell Volume)0.25ml/10mlであるN23株の培養液60L用い、培養温度30℃、攪拌速度50rpm、通気量400L/min、内圧0.05MPaで、7w/w%アンモニア水を20kg入れた20LナルゲンボトルによりpH4.5以上に維持して13日間培養を行った。
培養12日目より、液面が隠れる程度の発泡があり、13日目には1250L程度まで発泡していたが、追加の消泡剤が必要となる程度の発泡ではなかった。
培養終了時のPCVは0.65ml/10ml、DCW(Dry Cell Weight、乾燥菌体重量)は6.7g/L、生菌数は1.8E+8cfu/mlであった。
【0028】
・濃縮
攪拌、通気、ジャケット冷却を止め、酸・アルカリポットよりエアーを吹込んで内圧0.05MPaを維持した状態で6時間静置した。その後、培養槽に設置してある目盛り板の250L部分まで上清を抜出した。上清抜出し後は、30分ほど50rpmで攪拌しながらスパージャーよりエアーを流し、沈殿物を均一に分散させてから、目開き0.85mm篩を通しながらブロスアウトし、菌体濃縮液を得た。菌体濃縮液の重さは233.5kgであり、元の培養液量を1200Lとすると濃縮倍率は5.1倍であった。
【0029】
・流動層乾燥
得られた菌体濃縮液を6℃で一晩保存後、流動層乾燥機(FLO-200 フロイント産業株式会社製)で、基体として粉末セルロース(KCフロック W-400G 日本製紙株式会社製)60kgを流動層中で分散させながら、菌体濃縮液60kgを連続的に噴霧、入口温度80-90℃、出口温度34-41℃で180分乾燥し、粉末製剤を得た。得られた粉末製剤の水分率は8.2重量%であった。
【0030】
ジオキサンを濃度100mg/Lで含む無機塩培地に、製造時の仕込み比から計算される菌体濃度が200mg-dry cell/Lになるように粉末製剤を添加し、30℃にて回転振盪培養を行い、溶液中の1-4ジオキサン濃度を適宜測定した。1,4-ジオキサン濃度の定量にはヘッドスペースGC/MS(QP2010PLUS、TURBOMATRIX HS40)を用いた。
ジオキサン濃度が直線的に低減している期間の結果から算出した菌体1mgにおけるジオキサン分解速度は、0.029mg-dioxane/mg-SS/hであった。
【0031】
・保存1
得られた粉末製剤20gを、ポリエチレンフィルム(ヨーポリ袋、株式会社大洋社)、アルミラミネートフィルム(アルミ袋 片船底シール・片側オープン、鈴与マタイ株式会社)、ハイガスバリアフィルム(クリーンガスバリア袋、株式会社ユニバーサル)からなる袋(いずれも水蒸気バリア性容器、90×170mm程度)に入れ、ヒートシールにより密封して4個のサンプルを作成し、それぞれ5℃、10℃、20℃、30℃の恒温室で87日間保存した。なお、粉末製剤20gは、袋の半分程度の量である。また、最も優れた保存性を示すと予想された5℃のアルミラミネートフィルムについては、長期保存用に追加でもう1個のサンプルを作成した。
【0032】
保存87日後に開封して粉末製剤を取り出し、上記保存前の粉末製剤と同様に、製造時の仕込み比から計算される菌体濃度が200mg-dry cell/Lとなる量の粉末製剤を用いて、ジオキサン分解速度を算出した。結果を図1に示す。
いずれの水蒸気バリア性容器においても、温度が低いほどより活性を維持できる傾向が確認できた。すなわち、20℃~30℃の保存では、活性は30%以下しか維持されなかったが、本発明である5℃~10℃の保存では、40%以上の活性を維持することができた。特に5℃で保存することにより、87日後もポリエチレンフィルムで約60%、アルミラミネートフィルムで約70%、透明ハイガスバリアフィルムで約85%の活性を維持することができた。
【0033】
・保存2
ポリエチレンフィルムと透明ハイガスバリアフィルムで5℃保存のサンプルについて、開封部分を折り曲げて結束バンド(インシュロック(登録商標))で固定して閉じ、再度、5℃の恒温槽で保存した。
5℃で保存した未開封のアルミラミネートフィルムのサンプルと、開封後に結束バンドで閉じて再度5℃で保存したポリエチレンフィルムと透明ハイガスバリアフィルムのサンプルについて、660日後に粉末製剤を取り出し、上記と同様にしてジオキサン分解速度を算出し、0日目の分解活性に対する分解活性の残存率を求めた。また、水分率を測定した。また、菌体濃縮液を5℃で保管し、0日目から83日目にかけて、同様にして分解活性の残存率を求めた。結果を図2、3に示す。
【0034】
菌体濃縮液は、33日目までは80%以上の分解活性を維持することができたが、その後、分解活性が急激に低下し、48日目に55%、62日目に29%、83日目に9%にまで低下した。
未開封のアルミラミネートフィルムで保管した粉末製剤は、660日後の水分率も8%以上を維持していた。保存期間が長くなるにつれ、ジオキサン分解活性が低下したが、660日保存した後も40%以上のジオキサン分解活性を維持することができた。
87日目に開封した後に、結束バンドで閉じて5℃で保存したポリエチレンフィルムと透明ハイガスバリアフィルムで保管した粉末製剤は、660日後の水分率が7%未満に低下していた。660日後のジオキサン分解活性の残存率は10%程度と大きく低下しており、7%以上の水分率を保った状態で保存することにより、粉末製剤の分解活性を高く維持できることが示唆された。
図1
図2
図3