(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】保管施設
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241001BHJP
E04H 5/02 20060101ALI20241001BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20241001BHJP
E04F 15/18 20060101ALI20241001BHJP
F16F 9/19 20060101ALI20241001BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241001BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20241001BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
E04H9/02 351
E04H5/02 Z
E04B1/76 500Z
E04F15/18 601B
E04F15/18 D
E04H9/02 331A
E04H9/02 331D
E04H9/02 331E
F16F9/19
F16F9/32 C
F16F15/023
F16F15/04 P
(21)【出願番号】P 2019230571
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】大畑 勝人
(72)【発明者】
【氏名】岡 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 完
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恭章
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】中根 孝志
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-007216(JP,A)
【文献】特開平11-063099(JP,A)
【文献】特開平09-072125(JP,A)
【文献】特開2006-283419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0265395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
E04H 5/02
E04B 1/62- 1/99
E04F 15/00-15/22
F16F 9/19-15/36
B65G 1/00- 1/133
B65G 1/14- 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性を有するパネルで構成され、内部に中空部を有し、構造物内において全体が前記構造物の側壁及び天井から離間した状態で自立する保管庫と、
前記構造物と前記保管庫との間に前記構造物又は前記保管庫と隙間をあけて、或いは前記中空部に設置された保管ラックと前記保管庫との間に前記保管ラック又は前記保管庫と隙間をあけて、設けられた
油圧式のダンパーである制振部材と、
を有する保管施設。
【請求項2】
前記構造物の床に設けられた免震装置で前記保管庫が支持され、前記保管庫の底版は前記構造物の床から離間している、請求項1に記載の保管施設。
【請求項3】
前記保管庫の底版と前記構造物の床との間には、断熱性を有するスペーサが設けられており、前記保管庫の前記底版は前記構造物の床から離間している、請求項1又は2に記載の保管施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管施設に関する。
【背景技術】
【0002】
温度管理が必要とされる原料製品等の保管物を保管する保管庫として、断熱性を有するパネルによって構成された保管庫が知られている。例えば特許文献1には、側壁パネルと、天壁パネルと、側壁パネル及び天壁パネルの表面にそれぞれ設けられた断熱層と、によって構成された保管庫(冷蔵倉庫)が開示されている。また、この保管庫(冷蔵倉庫)は、工場や倉庫等の構造物(建物)内で、構造物(建物)の側壁に近接した位置に構築されており、天壁パネルが吊り材によって構造物(建物)の側壁及び天井に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばバイオ医薬品等の分野では、保管物としての製品、中間体、及び検体等を保管庫内に保管する場合に、保管庫内を-40℃以下の超低温とするケースがある。保管庫内を超低温とした場合、特許文献1に示すような構造物の側壁と近接し、かつ吊り材によって構造物の天井に支持された保管庫では、保管庫の側壁パネルや吊り材を介して保管庫の熱が構造物に伝わる、いわゆるヒートブリッジが生じる虞がある。
【0005】
また、このヒートブリッジによる構造物の躯体の結露、結氷を防ぐためには、構造物の躯体や吊り材をウレタン等の断熱材で被覆する必要がある。しかし、断熱材の被覆作業にコスト及び時間がかかり、また、断熱材を被覆する範囲を特定することが難しかった。
【0006】
本発明は上記事実に鑑み、保管庫と構造物との間のヒートブリッジを容易に抑制することができる保管施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の保管施設は、断熱性を有するパネルで構成され、内部に中空部を有し、構造物内において全体が前記構造物の側壁及び天井から離間した状態で自立する保管庫と、前記構造物と前記保管庫との間、又は前記中空部に設置された保管ラックと前記保管庫との間に設けられた振動抑制部材と、を有する。
【0008】
上記構成によれば、構造物と保管庫との間、又は中空部に設置された保管ラックと保管庫との間に振動抑制部材を設けることで、断熱性を有するパネルで構成された保管庫を、構造物内において全体が構造物の側壁及び天井から離間した状態で自立させることができる。また、保管庫を構造物の側壁及び天井から離間させることで、保管庫と構造物との間のヒートブリッジを防ぐことができる。
【0009】
なお、本発明において「自立」とは、単に吊り材等の支持材による支持無しで倒れずに立っているというだけでなく、地震等の外力が作用した場合にも倒れず、かつ保管物を保管する保管庫としての機能を維持することができることを言う。
【0010】
請求項2に記載の保管施設は、請求項1に記載の保管施設であって、前記振動抑制部材は、前記構造物の前記側壁と前記保管庫との間に設けられた制振部材である。
【0011】
上記構成によれば、構造物の側壁と保管庫との間に設けられた制振部材を振動抑制部材として用いることで、振動抑制部材として例えば免震装置を用いる構成と比較して、容易かつ安価に保管庫を自立させることができる。
【0012】
請求項3に記載の保管施設は、請求項1に記載の保管施設であって、前記振動抑制部材は、前記構造物の床と前記保管庫との間に設けられた免震装置である。
【0013】
上記構成によれば、構造物の床と保管庫との間に設けられた免震装置を振動抑制部材として用いることで、免震装置によって保管庫の水平変位を抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載の保管施設は、請求項1又は2に記載の保管施設であって、前記保管庫の底版と前記構造物の床との間には、断熱性を有するスペーサが設けられており、前記保管庫の前記底版は前記構造物の床から離間している。
【0015】
上記構成によれば、保管庫の底版と構造物の床との間に断熱性を有するスペーサが設けられ、保管庫の底版が構造物の床から離間している。このため、底版と床との間に空気道を形成することができ、保管庫の底版と構造物の床との間のヒートブリッジを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る保管施設によれば、保管庫と構造物との間のヒートブリッジを容易に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係る保管施設の概略を示す全体斜視図である。
【
図2】(A)は第1実施形態に係る保管施設の保管庫を構成するパネル同士の接合部を示す部分斜視図であり、(B)はその平面図である。
【
図3】第1実施形態に係る保管施設を示す正面断面図である。
【
図4】第1実施形態に係る保管施設の振動抑制部材を示す拡大正面図である。
【
図5】第2実施形態に係る保管施設を示す正面断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る保管施設の保管庫に設けられた繋ぎ材を示す部分斜視図である。
【
図7】第2実施形態に係る保管施設の振動抑制部材を示す拡大正面図である。
【
図8】第3実施形態に係る保管施設の振動抑制部材を示す拡大正面図である。
【
図9】第4実施形態に係る保管施設の振動抑制部材を示す拡大正面図である。
【
図10】(A)振動抑制部材の第1変形例を示す拡大正面図であり、(B)は振動抑制部材の第2変形例を示す拡大正面図である。
【
図11】(A)振動抑制部材の第3変形例を示す拡大正面図であり、(B)は振動抑制部材の第4変形例を示す拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態~第4実施形態に係る保管施設について、
図1~
図11を用いて説明する。なお、図中において、矢印Xは保管庫の幅方向、矢印Yは保管庫の奥行方向、矢印Zは鉛直方向及び保管庫の高さ方向を指す。
【0019】
<第1実施形態>
まず、本発明の第1実施形態に係る保管施設10について、
図1~4を用いて説明する。
【0020】
(保管施設の構成)
図1に示すように、本実施形態の保管施設10は、建物等の構造物12内に設けられた保管庫14を有している。保管庫14は、複数のパネル16を組み立てることによって構成された箱型の立面体であり、内部に中空部18(
図3参照)を有している。なお、保管庫14の正面には、中空部18に出入りするための扉20が設けられている。
【0021】
保管庫14を構成する複数のパネル16は、断熱性を有する矩形状の板部材である。
図2(A)及び
図2(B)に示すように、パネル16は、外周面を構成する鋼板16Aと、鋼板16A内に充填されたポリウレタンフォームやポリスチレンフォーム等からなる樹脂発泡材16Bと、によって構成されている。
【0022】
複数のパネル16は、互いに端面同士が接合されている。隣合うパネル16のうち、一方のパネル16の端面には、他方のパネル16側に突出する複数(3つ)の凸部22が形成されている。本実施形態では、複数の凸部22は、パネル16の厚さ方向(
図2(B)における矢印X方向)の両端部及び中央部にそれぞれ形成されている。
【0023】
また、他方のパネル16の端面には、内側に窪む複数(3つ)の凹部24が形成されている。本実施形態では、複数の凹部24は、複数の凸部22にそれぞれ対応する位置、すなわちパネル16の厚さ方向(
図2(B)における矢印X方向)の両端部及び中央部にそれぞれ形成されている。これにより、パネル16の端面同士を接合した際に、一方のパネル16に形成された凸部22が他方のパネル16に形成された凹部24に嵌合する。
【0024】
また、互いに嵌合する凸部22と凹部24との間には、シール材26が充填されている。シール材26は、例えばシリコン樹脂やウレタン樹脂等からなり、凸部22と凹部24の隙間を塞ぐことによって保管庫14の気密性を高めるとともに、パネル16の接合部(取合部)の剛性を高めている。
【0025】
図3に示すように、保管庫14は、構造物12内において、全体が構造物12の天井12A及び側壁12Bから離間した状態で自立している。すなわち、保管庫の天版14Aと構造物12の天井12Aとの間、及び保管庫14の側版14Bと構造物12の側壁12Bとの間に、全周にわたって空気道(隙間)が形成されている。なお、構造物12と保管庫14との間は、常温環境となっている。
【0026】
また、保管庫14は、構造物12の床12Cからも離間している。具体的には、保管庫14の底版14Cと構造物12の床12Cとの間には、互いに所定の間隔をあけて配置された複数のスペーサ28が設けられている。スペーサ28は、集成材(木材)や樹脂材等の断熱性を有する材料で構成されており、矩形のブロック形状とされている。このスペーサ28により、保管庫14の底版14Cと構造物12の床12Cとの間に空気道(隙間)が形成されている。
【0027】
保管庫14の中空部18には、複数(本実施形態では正面視で2列)の保管ラック30が設置されている。保管ラック30には、図示しない複数の棚板が設けられており、棚板には図示しない保管物が載置されている。本実施形態では、保管物は、例えばバイオ医薬品等の製品、中間体、又は検体等であり、保管庫14内は-40℃以下の超低温環境となっている。
【0028】
なお、保管ラック30は、保管庫14の底版14Cの上面に打設されたシンダーコンクリート32に下端部が埋設されており、このシンダーコンクリート32によって保管庫14に固定されている。
【0029】
また、複数の保管ラック30は、互いに所定の間隔をあけて設置されており、保管ラック30間には、スタッカークレーン34が設置されている。スタッカークレーン34は、中空部18に設けられたレール36に沿って保管庫14(保管ラック30)の高さ方向及び奥行方向に移動自在とされており、このスタッカークレーン34によって自動で保管ラック30に保管物を搬出入することが可能となっている。
【0030】
また、構造物12の側壁12Bと保管庫14の側版14Bとの間には、振動抑制部材の一例としての制振部材38が設けられている。本実施形態では、制振部材38は、一例としてばね付きダンパーである。
【0031】
具体的には、
図4に示すように、制振部材38は、内部にオイルが充填されたシリンダ38Aと、先端部がシリンダ38A内に挿入され、基端部がシリンダ38Aの軸方向一端部から突出するロッド38Bと、を有している。また、ロッド38Bの先端部には、図示しないピストンが設けられており、シリンダ38Aとピストンとの間には、ばね38Cが設けられている。
【0032】
本実施形態では、制振部材38は、一端部が構造物12の側壁12Bに固定されており、他端部が保管庫14の側版14Bから離間している。具体的には、制振部材38のシリンダ38Aの軸方向他端部が、断熱性を有する樹脂プレート40を介して構造物12の側壁12Bに固定されており、ロッド38Bの基端部に取付けられた断熱性を有する樹脂プレート42が、保管庫14の側版14Bとの間に僅かな隙間をあけた位置に設けられている。
【0033】
なお、構造物12の側壁12Bと制振部材38との間には、構造物12の側壁12Bと制振部材38とを斜めに繋いで制振部材38を支持する図示しない方杖等を設けることが好ましい。また、樹脂プレート40、42は、必ずしも制振部材38の両端部に取り付けられている必要はなく、少なくとも制振部材38の一端部又は他端部のどちらか一方に取り付けられていればよい。
【0034】
例えば地震時に保管庫14に水平力が加わった場合、構造物12の側壁12Bに対して保管庫14の側版14Bが水平変位し、構造物12の側壁12Bと保管庫14の側版14Bとの間に設けられた制振部材38が伸縮する。すなわち、保管庫14の側版14Bに当接している制振部材38のロッド38Bが、構造物12の側壁12Bに固定されたシリンダ38Aに対して軸方向に移動する。
【0035】
このとき、ロッド38Bの先端部に設けられた図示しないピストンが、ばね38Cの付勢力に抗ってシリンダ38A内を軸方向に移動することで、シリンダ38A内のオイルとピストンとの間に抵抗力が生じる。この抵抗力により、保管庫14に加わる水平力を減衰させることができる。
【0036】
(作用効果)
本実施形態の保管施設10によれば、断熱性を有するパネル16で構成された保管庫14が、構造物12の天井12A及び側壁12Bから離間した状態で立設されており、構造物12と保管庫14との間に振動抑制部材としての制振部材38が設けられている。
【0037】
このため、例えば地震時には、保管庫14に加わる水平力を制振部材38によって減衰させることで、保管庫14の水平変位を抑制することができ、構造物12内において保管庫14全体を構造物12の天井12A及び側壁12Bから離間した状態で自立させることができる。
【0038】
すなわち、パネル16で構成された保管庫14を、吊り材等の支持材による支持無しで構造物12内に立設することができるとともに、地震等の外力が作用した場合にも保管庫14が倒れず、かつ保管物を超低温保管する保管庫14としての機能を維持することができる。
【0039】
また、制振部材38で保管庫14の水平変位を抑制することで、保管庫14が構造物12に接触することを防ぐことができ、パネル16の破損やパネル16の接合部(取合部)におけるシール材26の破損を抑制することができる。これにより、パネル16の剛性やパネル16の接合部の剛性を高める必要がなく、保管庫14のイニシャルコストを削減することができる。
【0040】
特に、本実施形態によれば、保管庫14の底版14Cと構造物12の床12Cとの間に、断熱性を有するスペーサ28が設けられており、保管庫14の底版14Cも構造物12の床12Cから離間している。すなわち、保管庫14全体が構造物12の天井12A、側壁12B、及び床12Cから離間しており、保管庫14と構造物12との間に空気道(隙間)が形成されている。
【0041】
このため、構造物12と保管庫14との間の熱の移動を空気道によって遮断することができ、保管庫14内の熱が保管庫14から構造物12に伝わることを抑制することができる。これにより、本実施形態のように、保管庫14内が超低温である場合であっても、保管庫14と構造物12との間のヒートブリッジを防ぐことができ、構造物12の結露や結氷の発生を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、構造物12と保管庫14との間に設けられた制振部材38を振動抑制部材として用いている。このため、振動抑制部材として例えば免震装置を用いる構成と比較して、容易かつ安価に保管庫14を自立させることができる。
【0043】
また、常温環境である保管庫14の外側に制振部材38を設けることで、制振部材38を構成する各部材(シリンダ38A等)を超低温仕様とする必要がなく、部材のコストを削減することができる。また、制振部材38の点検、メンテナンス、及び修繕を、快適な環境下で厳格に実施することができる。
【0044】
また、保管庫14を構成する複数のパネル16は、パネル16の端面同士を接合した際に、一方のパネル16に形成された凸部22が他方のパネル16に形成された凹部24に嵌合する。また、互いに嵌合する凸部22と凹部24との間には、シール材26が充填されている。このため、パネル16の接合部(取合部)に隙間があくことを抑制することができ、保管庫14の気密性を高めることができる。
【0045】
特に、本実施形態によれば、パネル16の厚さ方向の両端部及び中央部にそれぞれ形成された凸部22と凹部24との間に、シール材26がそれぞれ充填されている。このため、パネル16の厚さ方向の両端部に設けられたシール材26によって、パネル16の接合部の剛性を高めることができる。また、例えば地震時にパネル16が面外方向に動いてパネル16の厚さ方向両端部同士が離間した場合であっても、パネル16の厚さ方向の中央部に設けられたシール材26によって、パネル16の接合部に隙間があくことを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、構造物12の躯体工事の進捗状況に関わらず、複数のパネル16を組み立てることによって保管庫14を単独で施工することができる。このため、保管庫14を効率的かつ低価格で施工することが可能となる。また、本実施形態の保管施設10は、新築の構造物12への適用だけでなく、保管施設を備えていない既存の構造物12へ適用することも可能である。
【0047】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る保管施設50について、
図5~7を用いて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0048】
(保管施設の構成)
図5に示すように、本実施形態の保管施設50は、構造物12内に設けられた保管庫54を有している。保管庫54は、第1実施形態と同様に、断熱性を有する複数のパネル56を組み立てることによって構成されており、内部に中空部18を有している。
【0049】
また、第1実施形態と同様に、保管庫54は、構造物12内において、全体が構造物12から離間した状態で自立している。すなわち、保管庫54の天版54Aと構造物12の天井12Aとの間、保管庫54の側版54Bと構造物12の側壁12Bとの間に、全周にわたって空気道(隙間)が形成されている。また、保管庫54の底版54Cと構造物12の床12Cとの間には、断熱性を有する複数のスペーサ28が設けられており、このスペーサ28によって保管庫54の底版54Cと構造物12の床12Cとの間に空気道(隙間)が形成されている。
【0050】
また、本実施形態では、保管庫54が、複数の繋ぎ材58によって補剛されている。繋ぎ材58は、例えばアルミニウム等の金属材からなる断面矩形状の棒材であり、保管庫54の中空部18において、保管庫54の幅方向両側に位置する側版54Bに沿って保管庫54の奥行方向に延びている。
【0051】
具体的には、
図6に示すように、保管庫54の側版54Bは、上下(高さ方向)に接合された一対のパネル56が、保管庫54の奥行方向に複数列配置されることによって構成されている。また、上下に接合されたパネル56の接合部56A、56Bの高さは、各列において互い違いとなっている。すなわち、隣合う列のパネル56の接合部56A、56Bの位置が、高さ方向に異なっている。
【0052】
そして、保管庫54の中空部18において、高さ方向における接合部56Aと接合部56Bとの間には、繋ぎ材58を保持するための複数の保持金具60が設けられている。保持金具60は、繋ぎ材58が挿通されるコの字型の挿通部60Aと、挿通部60Aの両端部に形成された一対のフランジ部60Bと、を有しており、一対のフランジ部60Bがボルト62等によってパネル56に取付けられている。
【0053】
また複数の保持金具60は、保管庫54の奥行方向に互いに所定の間隔をあけて設けられている。この複数の保持金具60の挿通部60Aに繋ぎ材58を挿通させることで、保管庫54を構成するパネル56同士が繋ぎ材58によって繋がれる。
【0054】
また、
図7に示すように、本実施形態では、保管庫54の天版54Aを構成するパネル56の一端部が、保管庫54の側版54Bより外側に跳ね出しており、これにより、保管庫54の天版54Aに跳ね出し部64が形成されている。
【0055】
なお、保管庫54の側版54Bと跳ね出し部64との間には、側版54Bと天版54Aの接合部(取合部)を補強するL字金物66Aや、跳ね出し部64の先端部と側版54Bとを斜めに繋ぐ方杖等の補強材66Bが、適宜設けられている。また、跳ね出し部64の先端部は、構造物12の側壁12Bから離間している。
【0056】
また、構造物12の側壁12Bと、保管庫54の天版54Aとの間には、振動抑制部材の一例としての制振部材68が設けられている。制振部材68は、第1実施形態と同様に、一例として、シリンダ68A、ロッド68B、及びばね68Cを備えるばね付きダンパーである。
【0057】
本実施形態では、制振部材68は、一端部が構造物12の側壁12Bから離間しており、他端部が保管庫54の天版54Aに固定されている。具体的には、制振部材68は、ロッド68Bの基端部に取付けられた樹脂プレート70が、構造物12の側壁12Bとの間に僅かな隙間をあけた位置に設けられており、シリンダ68Aの下端面が、樹脂プレート72を介して跳ね出し部64の上面に固定されている。
【0058】
(作用効果)
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、断熱性を有するパネル56で構成された保管庫54が、構造物12から離間した状態で立設されており、構造物12と保管庫54との間に振動抑制部材としての制振部材68が設けられている。このため、保管庫54が水平変位することを制振部材68によって抑制することができ、構造物12内において保管庫54全体を構造物12から離間した状態で自立させることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、保管庫54の中空部18に複数の繋ぎ材58が設けられている。この繋ぎ材58によってパネル56同士を繋ぐことで、保管庫54を補剛することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、保管庫54の天版54Aに跳ね出し部64が形成されており、この跳ね出し部64の上部に制振部材68が設けられている。このため、構造物12と保管庫54の間に制振部材68を容易に設置することができるとともに、跳ね出し部64によって制振部材68を支持することで、制振部材68を片持ち支持することができる。
【0061】
すなわち、制振部材68を支持する方杖や吊り材等を設けることなく、構造物12の側壁12Bとの間に隙間をあけた状態で制振部材68を設置することができる。このため、制振部材68が構造物12の側壁12Bに当接している構成と比較して、制振部材68を介して保管庫54から構造物12に熱が伝わることを、より抑制することができる。
【0062】
また、保管庫54の側版54Bと跳ね出し部64との間にL字金物66Aや補強材66Bを適宜設けることで、保管庫54の天版54Aと側版54Bとの接合部(取合部)を、保管庫54の外側から容易かつ確実に補強することができる。
【0063】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る保管施設80について、
図8を用いて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0064】
(保管施設の構成)
第1、第2実施形態の保管施設10、50では、構造物12と保管庫14、54との間に振動抑制部材としての制振部材38、68が設けられていた。これに対し、
図8に示すように、本実施形態の保管施設80では、保管庫84の中空部18に振動抑制部材としての制振部材88が設けられている。
【0065】
具体的には、制振部材88は、保管庫84の側版84Bと、保管庫84の中空部18に設けられた保管ラック30との間に設けられている。制振部材88は、第1、第2実施形態と同様に、シリンダ88A、ロッド88B、及びばね88Cを備えるばね付きダンパーである。
【0066】
制振部材88は、シリンダ88Aの軸方向他端部が、樹脂プレート90を介して保管庫84の側版84Bに固定され、ロッド88Bの基端部に取付けられた樹脂プレート92が、側版84Bに対向する位置に設けられた保管ラック30との間に僅かな隙間をあけた位置に設けられている。なお、制振部材88は、一端部が側版84Bに固定されて他端部がシリンダ88Aの下端面に固定された方杖94によって支持されている。
【0067】
また、本実施形態では、保管庫84の中空部18に設置された2列の保管ラック30が、互いに連結部材96によって連結されている。これにより、保管ラック30の剛性が高められ、保管庫84に水平力が加わった場合に、保管ラック30によって慣性力を負担することが可能となる。なお、
図8では、保管ラック30間に設けられたスタッカークレーン34(
図3参照)は図示を省略している。
【0068】
また、本実施形態では、保管庫84の天版84Aと側版84Bとの接合部(取合部)が補強ブレード98Aによって補強されており、構造物12の側壁12Bにおける補強ブレード98Aに対向する位置には、防舷ゴム等からなる緩衝部材98Bが取付けられている。
【0069】
(作用効果)
本実施形態によれば、保管庫84の側版84Bと保管ラック30の間に制振部材88が設けられており、保管ラック30同士が連結部材96によって連結されている。
【0070】
一般的に、パネル86によって構成された保管庫84は、金属製の保管ラック30に比べて質量が小さいため、水平方向の変形特性(水平剛性)に差がある。このため、保管庫84と保管ラック30の剛性差を利用して、保管庫84の水平変位を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、保管庫84の側版84Bに補強ブレード98Aが取付けられており、構造物12の側壁12Bに緩衝部材98Bが取付けられている。このため、保管庫84が水平変位した場合であっても、構造物12の側壁12Bと保管庫84とが直接接触することを抑制することができる。
【0072】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る保管施設100について、
図9を用いて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0073】
第1~第3実施形態の保管施設10、50、80では、振動抑制部材として制振部材38、68、88が用いられていたが、
図9に示すように、本実施形態の保管施設100では、振動抑制部材として免震装置102を用いている。
【0074】
本実施形態では、免震装置102は、一例として保管庫14の底版14Cと構造物12の床12Cとの間に設置され、互いに所定の間隔をあけて配置された複数のリニアガイド支承である。具体的には、免震装置102は、保管庫14の底版14Cの下面に固定された上側ガイドレール102Aと、構造物12の床12C上に固定された下側ガイドレール102Bと、上側ガイドレール102Aと下側ガイドレール102Bとの間に設けられたガイドブロック102Cと、を備えている。
【0075】
上側ガイドレール102A及び下側ガイドレール102Bの一方には、保管庫14の幅方向に延びる図示しないレール溝が形成されており、他方には、保管庫14の奥行方向に延びる図示しないレール溝が形成されている。一方、ガイドブロック102Cには、レール溝に沿って転動する図示しない転がり部材が設けられている。
【0076】
地震時等に構造物12に水平力が加わった場合、ガイドブロック102Cの転がり部材がレール溝に沿って転動することで、保管庫14の底版14Cに固定された上側ガイドレール102Aに対して、構造物12の床12Cに固定された下側ガイドレール102Bが相対変位する。これにより、構造物12に加わった水平力が保管庫14へ伝わることを抑制することができ、保管庫14の水平変位を抑制することができる。
【0077】
(作用効果)
本実施形態によれば、構造物12の床12Cと保管庫14の底版14Cとの間に、振動抑制部材としての免震装置102が設けられている。このため、免震装置102によって保管庫14の水平変位を抑制することができ、構造物12内において保管庫14を構造物12から離間した状態で自立させることができる。
【0078】
<その他の実施形態>
以上、本発明について第1~第4実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。また、上記の第1~第4実施形態の各構成は、適宜組み合わせることが可能である。
【0079】
例えば、上記の第1、第2実施形態では、構造物12と保管庫14、54との間に振動抑制部材としての制振部材38、68を設け、上記の第3実施形態では、保管庫84と保管ラック30との間に振動抑制部材としての制振部材88を設けていた。しかし、保管庫14の高さが低い場合には、
図10(A)に第1変形例として示すように、保管庫14の天版14Aと側版14Bとの接合部(取合部)に、振動抑制部材としての制振部材104を設ける構成としてもよい。
【0080】
制振部材104は、一例として、履歴系又は粘性系の方杖ダンパーであり、保管庫14の中空部18において、保管庫14の天版14Aと側版14Bとを斜めに繋いでいる。また、保管庫14の天版14Aと側版14Bとの接合部(取合部)の外周面には、補強ブレード106Aが取付けられており、構造物12の側壁12Bにおける補強ブレード106Aに対向する位置には、防舷ゴム等からなる緩衝部材106Bが取付けられている。
【0081】
第1変形例によれば、保管庫14の天版14Aと側版14Bとの接合部(取合部)に設けられた制振部材104によって、保管庫14の剛性を高めることができるとともに、保管庫14の水平変位を抑制することができる。また、保管庫14が水平変位した場合であっても、構造物12の側壁12Bに取付けられた緩衝部材106Bによって、構造物12の側壁12Bと保管庫14とが直接接触することを抑制することができる。
【0082】
また、
図10(B)に第2変形例として示すように、保管庫14の天版14Aと側版14Bとの接合部(取合部)に設けられる制振部材108を、方杖ダンパーに代えて方杖金物としてもよい。方杖金物は、保管庫14の天版14Aと側版14Bとを斜めに繋ぐ金属製の板部材である。
【0083】
第2変形例によれば、方杖金物からなる制振部材108によって保管庫14の天版14Aと側版14Bとの接合部(取合部)の剛性を高めることで、容易かつ安価に保管庫14の水平変位を抑制することができる。
【0084】
また、上記の第4実施形態では、保管庫14の底版14Cと構造物12の床12Cとの間に設置された振動抑制部材としての免震装置102が、一例としてリニアガイド支承とされていた。
【0085】
しかし、
図11(A)に第3変形例として示すように、免震装置110が球面滑り支承とされていてもよい。免震装置110は、保管庫14の底版14Cに固定された上側滑り板110Aと、構造物12の床12C上に固定された下側滑り板110Bと、上側滑り板110Aと下側滑り板110Bとの間に設けられた滑り材110Cと、を備えている。
【0086】
上側滑り板110A及び下側滑り板110Bは球面状とされており、この球面に沿って滑り材110Cが滑ることで、保管庫14の底版14Cに固定された上側滑り板110Aに対して、構造物12の床12Cに固定された下側滑り板110Bが相対変位する。これにより、構造物12に加わった水平力が保管庫14へ伝わることを抑制することができ、保管庫14の水平変位を抑制することができる。
【0087】
また、
図11(B)に第4変形例として示すように、免震装置112が積層ゴム支承とされていてもよい。免震装置112は、保管庫14の底版14Cに固定された上側フランジ部112Aと、構造物12の床12C上に固定された下側フランジ部112Bと、上側フランジ部112Aと下側フランジ部112Bとの間に挟持された積層ゴム112Cと、を備えている。
【0088】
構造物12に水平力が加わった場合、積層ゴム112Cが水平変位することで、保管庫14の底版14Cに固定された上側フランジ部112Aに対して、構造物12の床12Cに固定された下側フランジ部112Bが相対変位する。これにより、構造物12に加わった水平力が保管庫14へ伝わることを抑制することができ、保管庫14の水平変位を抑制することができる。
【0089】
また、上記の第1~第3実施形態では、制振部材38、68、88が一例として、油圧式のばね付きダンパーとされていたが、制振部材38、68、88は油圧式のばね付きダンパーには限らず、履歴系ダンパーや粘性系ダンパー等の公知のダンパーを用いることができる。
【0090】
さらに、振動抑制部材の種別や位置、数等も実施形態には限らず、パネル16の特性や、パネル16によって保管庫14を構成した際のシミュレーション解析の結果等に基づいて、振動抑制部材の種別、位置、数等を適宜決定することができる。
【0091】
また、上記の実施形態では、保管庫14内が超低温環境となっていたが、保管庫14内の温度や仕様は、保管庫14内に保管される保管物の種類等によって適宜定められる。このため、保管庫14内を低温環境(例えば10℃以下)としてもよく、保管庫14内を恒温環境としてもよい。
【0092】
また、保管庫14に保管される保管物の種類も、バイオ医薬品等の製品、中間体、又は検体等に限らず、その他の医療品や再生医療、感染症治療薬、バイオ系診断薬、バイオ系化粧品、食品等とされていてもよい。
【0093】
また、上記の実施形態では、保管庫14を構成する複数のパネル16がそれぞれ同一の構成とされていたが、厚さや部材特性が異なる複数のパネル16によって保管庫14を構成してもよい。例えば、保管庫14の天版14Aを構成するパネル16の鋼板16Aの厚さを、側版14Bや底版14Cを構成するパネル16の鋼板16Aの厚さに比べて厚くすることで、天版14Aの強度を高める構成としてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10、50、80、100 保管施設
12 構造物
12A 天井
12B 側壁
12C 床
14、54、84 保管庫
16、56、86 パネル
18 中空部
28 スペーサ
30 保管ラック
38、68、88、104、108 制振部材(振動抑制部材の一例)
102、110、112 免震装置(振動抑制部材の一例)