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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】建築物とその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/30 20060101AFI20241001BHJP
   E04B 1/35 20060101ALI20241001BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20241001BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
E04B1/30 Z
E04B1/35 L
E04C5/08
E02D5/20 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021007053
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111554
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康誉
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-061170(JP,A)
【文献】特開平03-172434(JP,A)
【文献】特開2017-115503(JP,A)
【文献】特開2016-188491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/30
E04B 1/35
E04C 5/08
E02D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内にあって建物の備える地下部の側壁と、前記建物の周囲に設けられているソイルセメント柱列式連続壁とが接続されている、建築物であって、
前記地下部の側壁と、前記ソイルセメント柱列式連続壁とが、緊張力が導入されている緊張材により相互に緊結されており、
前記緊張材は、緊張鋼材と、前記緊張鋼材の両端部にある第1定着体及び第2定着体とを備え、
前記ソイルセメント柱列式連続壁は、ソイルセメントの内部に埋設されている芯材を備え、
前記芯材は、建物側の第1フランジと、前記建物と反対側の第2フランジと、ウェブとを備えるH形鋼により形成され、
前記第1フランジと前記側壁の対応する位置にはそれぞれ、前記緊張鋼材が貫通する第1貫通孔と第2貫通孔が開設されており、
対応する前記第1貫通孔と前記第2貫通孔を貫通している前記緊張鋼材の一端が、前記第1定着体を介して前記第1フランジに定着され、前記緊張鋼材の他端が前記第2定着体を介して前記側壁に定着しており、
前記側壁と前記ソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする、建築物。
【請求項2】
前記芯材には、第3貫通孔が開設されており、
前記第3貫通孔にソイルセメントが入り込み、前記ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする、請求項に記載の建築物。
【請求項3】
前記芯材にスタッドジベルが取り付けられており、
前記ソイルセメントの内部に埋設される前記スタッドジベルのせん断力及び/又は支圧力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の建築物。
【請求項4】
前記第1フランジの前記接触面には、表面凹凸が設けられており、
前記側壁が鉄筋コンクリートにより形成され、コンクリートが前記表面凹凸と噛み合っていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建築物。
【請求項5】
地盤内にあって建物の備える地下部の側壁と、前記建物の周囲に設けられているソイルセメント柱列式連続壁とが、緊張鋼材と、前記緊張鋼材の両端部にある第1定着体及び第2定着体とを備える緊張材により接続されている、建築物の施工方法であって、
ソイルセメントと、前記ソイルセメントの内部に埋設されている芯材とを備え、前記芯材は、建物側の第1フランジと、前記建物と反対側の第2フランジと、ウェブとを備えるH形鋼により形成されている、ソイルセメント柱列式連続壁を施工する、A工程と、
前記ソイルセメント柱列式連続壁の上端にあるソイルセメントを切削して、前記第1フランジの一部を露出させ、
前記第1フランジに開設されている第1貫通孔に対して、前記緊張鋼材の一端を貫通させ、前記第1フランジの背面に設置した前記第1定着体に前記緊張鋼材の一端を固定する、B工程と、
前記建物のうち、少なくとも前記第1フランジと当接する前記側壁を施工し、前記緊張鋼材の他端を前記側壁に貫通させ、前記側壁の室内側に設置した前記第2定着体に前記緊張鋼材の他端を固定し、前記緊張材に緊張力を導入することにより、前記地下部の側壁と、前記ソイルセメント柱列式連続壁とを相互に緊結し、前記側壁と前記ソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構を形成する、C工程と、を有することを特徴とする、建築物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山留め壁には、親杭横矢板壁や鋼製矢板壁等の既製矢板壁と、柱列山留め壁や連続地中壁等の場所打ち壁とがあり、柱列山留め壁には、場所打ち鉄筋コンクリート柱列山留め壁や鋼管柱列山留め壁、ソイルセメント柱列山留め壁(ソイルセメント柱列式連続壁)等がある。
【0003】
例えば上記するソイルセメント柱列式連続壁は仮設構造物である一方、本設構造物である建物の備える地下部の側壁と連結されることにより、ソイルセメント柱列式連続壁を本設構造物である建築物の基礎の一部として利用する形態も存在する。
【0004】
ソイルセメント柱列式連続壁は、円柱状のソイルセメントが相互にラップされるようにして造成され、各ソイルセメントの内部には、H形鋼等により形成される芯材が埋設されている。そして、このソイルセメント柱列式連続壁と本設構造物を連結する形態としては、ソイルセメントのうち、上部の本設構造物側の領域を撤去して芯材の一部を露出させ、芯材の露出部に複数のスタッドジベル等を溶接等することで側方に張り出させ、各スタッドジベル等が埋設されるようにして本設構造物の地下部の側壁を地盤内に構築し、双方の一体化が図られている形態が挙げられる。
【0005】
ここで、特許文献1には、地中の支持層まで到達するように設けられたソイルセメント柱列壁からなるソイルセメント壁杭が開示されている。このソイルセメント壁杭は、支持層内のソイルセメントが高強度ソイルセメントにより構成され、横方向に並べた複数本の鉄骨と、これら複数本の鉄骨を壁面両側でお互いに連結する横方向に延びる鋼材とを備える芯部材がソイルセメント内に埋設され、鋼材において他方の鋼材と対向する側の面、及び、鉄骨の壁内側の面には、支持層内に位置する領域を含めてスタッドが設けられている。また、ここには、ソイルセメント柱列壁の構築後に建物の地下構造を施工する際に、ソイルセメント柱列壁にシアコネクタ等を取り付け、ソイルセメント柱列壁と建物の地下構造とを一体に構築する旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4466418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、ソイルセメント柱列式連続壁と建物の地下構造との一体化を図る場合、従来は、ソイルセメント柱列式連続壁を構成する例えばH形鋼からなる芯材から張り出すスタッドジベル等のシアコネクタを、建物の側壁に埋設する措置が講じられている。しかしながら、H形鋼を構成する一方のフランジから張り出すスタッドジベルは、建物の側壁の厚みの途中まで埋設されているに過ぎないことから、一定の接続強度を得るためには、多数のスタッドジベル等を要することになるため、現場において芯材にスタッドジベル等を溶接する場合は、加工手間が大きな課題となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、建物の側壁と、建物の周囲に施工されているソイルセメント柱列式連続壁とが強固に接続されている建築物と、この建築物を効率的に施工できる建築物の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による建築物の一態様は、
地盤内にあって建物の備える地下部の側壁と、前記建物の周囲に設けられているソイルセメント柱列式連続壁とが接続されている、建築物であって、
前記地下部の側壁と、前記ソイルセメント柱列式連続壁とが、緊張力が導入されている緊張材により相互に緊結されており、
前記側壁と前記ソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、地盤内にあって建物の備える地下部の側壁とソイルセメント柱列式連続壁とが、緊張力が導入されている緊張材により相互に緊結されていることにより、例えば、ソイルセメント柱列式連続壁と、建物の側壁の全体(側壁の全厚み)とを緊張材によって緊結することができ、側壁の厚みの一部まで埋設されているに過ぎないスタッドジベル等による接続構造に比べて、格段に接続強度の高い建築物が形成される。そして、緊張力が導入されている緊張材により相互に緊結されている、側壁とソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構が形成されていることにより、建物の自重等に起因する鉛直荷重を、摩擦力による荷重伝達機構を介し、ソイルセメント柱列式連続壁を介して地盤に伝達することができる。
【0011】
本態様では、建物と、建物の周囲に造成されて建物と一体化されるソイルセメント柱列式連続壁とにより、建築物が形成される。
【0012】
例えば、建物がRC(Reinforced Concrete、鉄筋コンクリート)造の場合は、ソイルセメント柱列式連続壁とRC造の壁とにより、摩擦力による荷重伝達機構が形成され、建物がS(Steel、鉄骨)造の場合は、ソイルセメント柱列式連続壁とS造の壁とにより、摩擦力による荷重伝達機構が形成される。
【0013】
また、本発明による建築物の他の態様において、
前記緊張材は、緊張鋼材と、前記緊張鋼材の両端部にある第1定着体及び第2定着体とを備え、
前記ソイルセメント柱列式連続壁は、ソイルセメントの内部に埋設されている芯材を備え、
前記芯材は、建物側の第1フランジと、前記建物と反対側の第2フランジと、ウェブとを備えるH形鋼により形成され、
前記第1フランジと前記側壁の対応する位置にはそれぞれ、前記緊張鋼材が貫通する第1貫通孔と第2貫通孔が開設されており、
対応する前記第1貫通孔と前記第2貫通孔を貫通している前記緊張鋼材の一端が、前記第1定着体を介して前記第1フランジに定着され、前記緊張鋼材の他端が前記第2定着体を介して前記側壁に定着していることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、H形鋼により形成される芯材の建物側の第1フランジと側壁の双方の貫通孔(第1貫通孔と第2貫通孔)に対して、緊張材を構成する緊張鋼材が挿通され、緊張鋼材の一端が第1定着体を介して第1フランジに定着され、他端が第2定着体を介して側壁に定着されていることにより、第1フランジと建物の側壁の接触面において、高い摩擦力を備えた荷重伝達機構が形成される。また、H形鋼により形成される芯材の建物側の第1フランジに対して、第1定着体を介して緊張鋼材の一端が固定(定着)されることから、芯材と緊張鋼材の固定を容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明による建築物の他の態様において、
前記芯材には、第3貫通孔が開設されており、
前記第3貫通孔にソイルセメントが入り込み、前記ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、芯材に開設されている第3貫通孔にソイルセメントが入り込むことによって、ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構が形成されていることにより、せん断ずれに対してコンクリートの支圧力にて効果的に抵抗することができる。ここで、第3貫通孔に鉄筋を貫通させてもよく、この場合は鉄筋による抵抗力がさらに付加される。
【0017】
また、本発明による建築物の他の態様において、
前記芯材にスタッドジベルが取り付けられており、
前記ソイルセメントの内部に埋設される前記スタッドジベルのせん断力及び/又は支圧力による荷重伝達機構が形成されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、芯材にスタッドジベルが取り付けられていることにより、スタッドジベルのせん断力及び/又は支圧力による荷重伝達機構によってせん断ずれに対して効果的に抵抗することができる。
【0019】
また、本発明による建築物の他の態様において、
前記第1フランジの前記接触面には、表面凹凸が設けられており、
前記側壁が鉄筋コンクリートにより形成され、コンクリートが前記表面凹凸と噛み合っていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、第1フランジの接触面に表面凹凸が設けられ、鉄筋コンクリート製の側壁のコンクリートが表面凹凸と噛み合っていることにより、双方の接触面に形成されている摩擦力による荷重伝達機構の荷重伝達性能を一層高めることができる。
【0021】
また、本発明による建築物の施工方法の一態様は、
地盤内にあって建物の備える地下部の側壁と、前記建物の周囲に設けられているソイルセメント柱列式連続壁とが、緊張鋼材と、前記緊張鋼材の両端部にある第1定着体及び第2定着体とを備える緊張材により接続されている、建築物の施工方法であって、
ソイルセメントと、前記ソイルセメントの内部に埋設されている芯材とを備え、前記芯材は、建物側の第1フランジと、前記建物と反対側の第2フランジと、ウェブとを備えるH形鋼により形成されている、ソイルセメント柱列式連続壁を施工する、A工程と、
前記ソイルセメント柱列式連続壁の上端にあるソイルセメントを切削して、前記第1フランジの一部を露出させ、
前記第1フランジに開設されている第1貫通孔に対して、前記緊張鋼材の一端を貫通させ、前記第1フランジの背面に設置した前記第1定着体に前記緊張鋼材の一端を固定する、B工程と、
前記建物のうち、少なくとも前記第1フランジと当接する前記側壁を施工し、前記緊張鋼材の他端を前記側壁に貫通させ、前記側壁の室内側に設置した前記第2定着体に前記緊張鋼材の他端を固定し、前記緊張材に緊張力を導入することにより、前記地下部の側壁と、前記ソイルセメント柱列式連続壁とを相互に緊結し、前記側壁と前記ソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構を形成する、C工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、A工程にて施工されたソイルセメント柱列式連続壁に対して、B工程において、ソイルセメント柱列式連続壁の上端にあるソイルセメントを切削して、芯材を構成するH形鋼の建物側の第1フランジの一部を露出させ、第1定着体を介して第1フランジに緊張鋼材の一端を固定し、C工程において、建物の地下部の側壁を施工して緊張鋼材の他端を第2定着体を介して側壁に固定した後、緊張材に緊張力を導入することにより、側壁とソイルセメント柱列式連続壁との接触面において、摩擦力による荷重伝達機構を効率的に施工することができ、効率的な建築物の施工に繋がる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から理解できるように、本発明の建築物とその施工方法によれば、建物の側壁と、建物の周囲に施工されているソイルセメント柱列式連続壁とが強固に接続されている建築物と、この建築物を効率的に施工できる建築物の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る建築物の一例を示す縦断面図であって、かつ、実施形態に係る建築物の施工方法の一例のC工程を説明する図である。
図2図1のII-II矢視図であって、摩擦力による荷重伝達機構の一例を示す横断面図である。
図3図2のIII-III矢視図であって、ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構の一例を示す横断面図である。
図4】実施形態に係る建築物の施工方法の一例のA工程を説明する図である。
図5】実施形態に係る建築物の施工方法の一例のB工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態に係る建築物とその施工方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0026】
[実施形態に係る建築物]
はじめに、図1乃至図3を参照して、実施形態に係る建築物の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る建築物の一例を示す縦断面図であり、図2は、図1のII-II矢視図であって、摩擦力による荷重伝達機構の一例を示す横断面図であり、図3は、図2のIII-III矢視図であって、ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構の一例を示す横断面図である。尚、図1は、実施形態に係る建築物の施工方法の一例のC工程を説明する図でもあり、以下で詳説する施工方法の際にも適用する。
【0027】
図示する建築物100は、地盤G内にある建物10の備える地下部11の側壁15と、建物10の周囲に施工されているソイルセメント柱列式連続壁20とが接続されることにより、構成されている。例えば平面視矩形の建物10の地下部11の側壁15の周囲に、平面視矩形枠状のソイルセメント柱列式連続壁20が造成され、複数箇所にて双方が接続される。尚、建物10の平面視形状は多様であり、建物10の平面視形状に応じた枠状にソイルセメント柱列式連続壁20が造成される。また、図1では、建物10の側壁15と底盤17の一部のみを取り出して図示している。
【0028】
建物10は、RC造、S造、SRC(Steel Reinforced Concrete、鉄骨鉄筋コンクリート)造や、これらのハイブリッド構造の建物のいずれであってもよく、建物10には、オフィスビルやマンション、体育館やショッピングモール、各種公共建物等、様々な形態が含まれる。以下、図示例では、少なくとも地下部11の側壁15と底盤17がRC造の建物として説明する。
【0029】
一方、ソイルセメント柱列式連続壁20は、平面視円形のソイルセメント30の一部が相互にラップするようにして造成され、平面視円形の各ソイルセメント30の内部にはH形鋼により形成される芯材40が埋設されている。ここで、芯材としては、H形鋼の他、鋼矢板やコンクリート二次製品等が適用されてもよい。
【0030】
ソイルセメント30は、地盤Gを掘削することにより発生する土砂と、多軸混練オーガー機等(図示せず)の先端から吐出されるセメントミルクを混合撹拌することにより造成され、硬化前のソイルセメントの内部に芯材40が挿入されることにより構築される。
【0031】
図示例のソイルセメント柱列式連続壁20は、建物10を施工する際の山留め壁であることに加えて、建物10が施工された後は、建物10の地下部11に接続されることにより、建物10の基礎として機能する。
【0032】
ソイルセメント柱列式連続壁20は、その先端が十分な先端支持力が得られる硬質地盤まで到達するように設計されてもよいし、先端が硬質地盤に到達していないものの、ソイルセメント柱列式連続壁20の周面と地盤Gとの間の周面摩擦力によって鉛直荷重を支持するように設計されてもよい。
【0033】
ソイルセメント30に埋設されるH形鋼40は、建物側の第1フランジ42と、建物10と反対側の第2フランジ43と、ウェブ41とを備えている。
【0034】
図2に詳細に示すように、建物側の第1フランジ42には複数(図示例は、縦横に間隔をおいて計4つ)の第1貫通孔45が開設されており、側壁15において第1貫通孔45に対応する位置には第2貫通孔16が開設されている。
【0035】
相互に連通する第1貫通孔45と第2貫通孔16には、緊張材50を構成する緊張鋼材51が挿通されている。緊張鋼材51の両端部には、緊張鋼材51とともに緊張材50を構成する第1定着体52と第2定着体53が設けられており、第1定着体52が第1フランジ42の背面(建物と反対側の面)に定着し、第2定着体53が側壁15の室内側の面に定着している。緊張鋼材51は、PC(Prestressed Concrete)鋼より線、PC鋼線、PC鋼棒等のPC鋼材により形成され、例えば、地下部11の側壁15が施工された後、ポストテンション方式にて所定の緊張力が導入されるようになっている。
【0036】
緊張鋼材51に所定の緊張力が導入されることにより、緊張材50を介して、地下部11の側壁15と、ソイルセメント柱列式連続壁20の芯材40が相互に緊結される。そして、芯材40の第1フランジ42とRC造の側壁15との接触面18において、第1フランジ42と側壁15の摩擦力による荷重伝達機構60が形成される。
【0037】
摩擦力による荷重伝達機構60により、建物10の地下部11の側壁15とソイルセメント柱列式連続壁20の芯材40との強固な接続構造が形成され、ソイルセメント柱列式連続壁20を基礎とする建築物100が形成される。
【0038】
図1に示すように、建物10の自重等による鉛直荷重Nは、摩擦力による荷重伝達機構60を介して芯材40に伝達され、ソイルセメント柱列式連続壁20を介して地盤Gに伝達される。尚、地震時や強風時の押し込み荷重等も、同様に伝達される。
【0039】
図2に戻り、第1フランジ42の接触面18には、表面凹凸19が設けられている。この表面凹凸19は、ブラスト処理をはじめとする様々な方法により、所望の粗度に加工された表面である。
【0040】
そして、第1フランジ42の表面凹凸19に対して側壁15を形成するコンクリートが入り込み、表面凹凸19と噛み合っている。
【0041】
この構成により、第1フランジ42と側壁15の接触面18における摩擦力が一層高められ、摩擦力による荷重伝達機構60の荷重伝達性能(能力)が向上する。
【0042】
摩擦力による荷重伝達機構60によれば、ソイルセメント柱列式連続壁20と、建物10の側壁15の全体(側壁の全厚み)とを緊張材50によって緊結することができるため、側壁の厚みの一部まで埋設されているに過ぎないスタッドジベル等による接続構造に比べて、格段に接続強度の高い建築物100が形成される。
【0043】
さらに、一定の接続強度を得るべく、現場において多数のスタッドジベル等を芯材に溶接する加工が不要になるため、現場における加工手間の課題も生じない。
【0044】
また、図1図3に示すように、芯材40を構成するウェブ41には、複数(図示例は3つ)の第3貫通孔47が開設されており、第3貫通孔47にソイルセメントが入り込むことにより、ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構70が形成されている。
【0045】
ここで、第3貫通孔47の孔径や数は、所望するソイルセメントの支圧力が得られるように設定される。尚、図示例の第3貫通孔47は、ウェブ41の下方に集中的に開設されているが、ウェブ41の全域に均等に開設されてもよく、また、第1フランジ42や第2フランジ43に開設されてもよい。
【0046】
ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構70により、摩擦力による荷重伝達機構60を介して芯材40に伝達された鉛直荷重Nを、ソイルセメント30に効果的に伝達することができ、ソイルセメント30を介して周囲の地盤Gや先端の硬質地盤等に鉛直荷重Nを伝達することができる。
【0047】
ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構70によれば、芯材40の適所に第3貫通孔47が加工されるのみの構成により、第3貫通孔47にソイルセメントが自動的に入り込み、硬化して形成されることから、シンプルな加工と構成にて荷重伝達性能に優れた機構を形成できる。
【0048】
尚、図示を省略するが、芯材にスタッドジベルが取り付けられ、ソイルセメントの内部に埋設されるスタッドジベルのせん断力及び/又は支圧力による荷重伝達機構が形成されてもよい。また、図示例のソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構70と、スタッドジベルのせん断力及び/又は支圧力による荷重伝達機構の双方を備えた構成であってもよい。
【0049】
[実施形態に係る建築物の施工方法]
次に、図4及び図5と、図1を参照して、実施形態に係る建築物の施工方法の一例について説明する。ここで、図4図5はそれぞれ、実施形態に係る建築物の施工方法の一例のA工程とB工程を説明する図である。また、既述するように、図1は、実施形態に係る建築物の一例を示す縦断面図であって、かつ、実施形態に係る建築物の施工方法の一例のC工程を説明する図である。
【0050】
建築物の施工方法では、まず、図4に示すように、建物の構築に先行して、建物の構築エリアの周囲に、山留め壁として、例えば平面視矩形枠状のソイルセメント柱列式連続壁20を施工する。
【0051】
ソイルセメント柱列式連続壁20の施工方法は、公知のSMW(Soil Mixing Wall)工法等が適用でき、地中障害物の撤去にはじまり、ガイドウォール(図示せず)を設置し、ソイルセメントの配合を行い、設計配合のセメントスラリーを多軸混練オーガー機等のオーガーヘッドの先端から吐出しながら削孔混連し、所定深度に到達後に反復混連を行いながらオーガーヘッドを引き上げることにより、ソイルセメント30を造成する。そして、ソイルセメント30が硬化する前に、ソイルセメント30の内部に芯材40を挿入する。また、造壁手順としては、第1エレメントを造成し、次いで、間隔を置いて第2エレメントを造成し、次いで、第3エレメントの両端の孔を第1エレメントと第2エレメントの双方の一方端の孔にラップさせながら造成する、連続方式や、各エレメントの孔が追随する位置に間隔を置いて複数の孔を先行削孔しておき、次いで、各エレメントの孔を先行削孔された孔にラップさせるようにして各エレメントを造成する、先行削孔併用方式などが適用できる(以上、A工程)。
【0052】
次に、図5に示すように、ソイルセメント柱列式連続壁20のうち、建物側の上端にあるソイルセメント30を切削して、第1フランジ42の一部を露出させる。
【0053】
次いで、露出した第1フランジ42の所定位置に第1貫通孔45を開設し、緊張鋼材51の一端を第1貫通孔45に貫通させ、第1フランジ42の背面に設置した第1定着体52に緊張鋼材51の一端を接続することにより、第1フランジ42に対して緊張鋼材51の一端を固定する。ここで、第1貫通孔45は、第1フランジ42の所定位置に予め開設されていてもよい(以上、B工程)。
【0054】
次いで、図1に示すように、建物10のうち、少なくとも第1フランジ42と当接する地下部11の側壁15を施工し、緊張鋼材51の他端を側壁15の第2貫通孔16に貫通させ、側壁15の室内側に設置した第2定着体53に緊張鋼材51の他端を接続する。
【0055】
次に、緊張材50に所定の緊張力を導入する(ポストテンション方式)ことにより、地下部11の側壁15とソイルセメント柱列式連続壁20とを相互に緊結し、側壁15とソイルセメント柱列式連続壁20の芯材40の接触面18において、摩擦力による荷重伝達機構60を形成することにより、建築物100が施工される(以上、C工程)。
【0056】
図示例の施工方法によれば、B工程において、緊張材50の一端をソイルセメント柱列式連続壁20に固定し、C工程において、側壁15を施工して緊張材50の他端を固定し、緊張材50に緊張力を導入して摩擦力による荷重伝達機構60を施工することにより、建物10の地下部11の側壁15とソイルセメント柱列式連続壁20の芯材40とが強固に接続された建築物100を、効率的に施工することができる。
【0057】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0058】
10:建物
11:地下部
15:側壁
16:第2貫通孔
17:底盤
18:接触面
19:表面凹凸
20:ソイルセメント柱列式連続壁
30:ソイルセメント
40:芯材(H形鋼)
41:ウェブ
42:第1フランジ
43:第2フランジ
45:第1貫通孔
47:第3貫通孔
50:緊張材
51:緊張鋼材
52:第1定着体
53:第2定着体
60:摩擦力による荷重伝達機構
70:ソイルセメントの支圧力による荷重伝達機構
100:建築物
G:地盤
N:鉛直荷重
図1
図2
図3
図4
図5