(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】サーモパイル型センサ
(51)【国際特許分類】
G01F 1/684 20060101AFI20241001BHJP
G01F 1/692 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01F1/684 A
G01F1/692 A
(21)【出願番号】P 2020135025
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521515735
【氏名又は名称】MMIセミコンダクター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 隆
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-205730(JP,A)
【文献】特開2006-214758(JP,A)
【文献】特開2013-180345(JP,A)
【文献】特開2001-091360(JP,A)
【文献】特開2002-156283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0282194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/68-1/699
G01P 5/10-5/12
G01J 1/00-1/60
G01J 5/00-5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の所定面側に開口した凹部であるキャビティエリアと、
前記キャビティエリアの開口を覆うように形成された薄膜部と、
前記薄膜部に形成され、温度の検出に係るセンサ部と、
前記基板上の所定面に形成され、電気回路を構成する回路部と、を備え、
前記センサ部は、
前記薄膜部上に配置されたヒータと、前記薄膜部に所定の間隔で並列して配置される複数の熱電対から成り
前記ヒータを挟んで対称に並んで配置される二つ以上のサーモパイル
と、を有する流量センサであり、
前記熱電対の各々は、隣のサーモパイルに近い側の端部に形成された温接点、及び前記隣のサーモパイルに遠い側の端部に形成された冷接点を有し、前記温接点は前記キャビティエリア上に位置し、前記冷接点は前記基板における前記キャビティエリア以外の領域上に位置し、
前記回路部と、前記冷接点と、前記サーモパイルにおいて平面視で前記キャビティエリアと重なる部分の前記冷接点側の一部の領域
であって、前記ヒータを挟んで対称な領域とが、金属保護膜によりカバーされていることを特徴とする、
サーモパイル型センサ。
【請求項2】
前記金属保護膜は、前記回路部におけるグランドに接続されていることを特徴とする、
請求項1に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項3】
前記基板上には、複数の金属端子が形成されており、
前記複数の金属端子は、前記薄膜部側の開口を通じて外部に露出しており、
前記複数の金属端子のうち、一部の金属端子は、前記金属保護膜に接続され、
前記複数の金属端子のうち、上記一部の金属端子以外の金属端子は、金属膜により形成され前記回路部の所定の信号線に接続されており、
前記金属膜は、前記金属保護膜と、同じ厚さであることを特徴とする、
請求項1または2に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項4】
前記基板の外周から40μm以下の幅のエリアは、前記金属保護膜によりカバーされな
いことを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項5】
前記一部の領域の前記温接点側の端部における、前記キャビティエリアの開口部の端からの距離は、5μm以上100μm以下であることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか一項に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項6】
前記金属保護膜の主成分は、アルミニウムであり、
前記金属保護膜の表面には、シリコン系の材質を含む表面保護層が形成されており、
前記表面保護層は、前記複数の金属端子上には形成されないことを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項7】
前記金属保護膜の主成分は、金であることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載のサーモパイル型センサ。
【請求項8】
前記基板上に温度センサを備え、
前記温度センサは、前記金属保護膜によりカバーされていることを特徴とする、
請求項1に記載のサーモパイル型センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモパイル型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、サーモパイル型センサの一種として、流体の流れる流路に配置されて流体を加熱するヒータと、ヒータに対して流路の上流側に配置された第1の感温素子(サーモパ
イル)、及び下流側に配置された第2の感温素子(サーモパイル)とを有する流量センサが
提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、サーモパイル型センサとしては、第1の感温素子(サーモパイル)及び第2の感温素子(サーモパイル)を、互いの温接点の列どうしが対向するように配置し、冷接点と温接点の温度差に応じて起電力を生じさせる赤外線センサが公知であり、その中には、p型またはn型のポリシリコンにアルミニウム配線を重ねた構造を有する赤外線センサも提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5112728号公報
【文献】欧州特許出願公開第1092962号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2930475号明細書
【文献】特許第5861497号公報
【0005】
【文献】Zhou, Huchuan, et al. "Development of a thermopile infrared sensor using stacked double polycrystalline silicon layers based on the CMOS process." Journal of Micromechanics and Microengineering 23.6 (2013): 065026.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなサーモパイル型センサにおいては、一般的に、温度測定時において高感度であることが求められる。しかしながら、例えば、サーモパイルの下部に形成された、基板上の所定面側に開口した凹部であるキャビティエリアの寸法のバラツキが原因でサーモパイルごとに感度に差が生じ、温度に対する感度の信頼性が低下する場合があった。また、外部環境が原因で基板上に温度分布が生じると、サーモパイルごとに冷接点周辺の温度に差が生じ、温度に対する感度の安定性が低下する場合があった。その結果、サーモパイル型センサの測定精度が低下したり、キャビティエリアの寸法精度を向上させるために生産性が低下したりする不都合があった。
【0007】
これに対し、集積回路を含む回路部の少なくとも一部分が、金属保護膜によりカバーされているサーモパイル型センサも提案されている(特許文献2参照)。このようなサーモパイル型センサでは、金属保護膜によりカバーされていることにより、電磁シールドの効果が得られ、電磁ノイズへの耐性も向上することが考えられる。しかし、温度検出に係る部分が金属保護膜によりカバーされていないため、内部のヒータや外部の赤外線等からの発熱の影響で、基板が温められる際にサーモパイルにおける冷接点も温められ、上記同様、感度の信頼性が低下する問題が生じ得る。
【0008】
本発明では、サーモパイル型センサの電磁ノイズへの耐性の向上を図ること、あるいは、測定精度または生産性の向上を図ることを最終的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本発明は、
基板上の所定面側に開口した凹部であるキャビティエリアと、
前記キャビティエリアの開口を覆うように形成された薄膜部と、
前記薄膜部に形成され、温度の検出に係るセンサ部と、
前記基板上の所定面に形成され、電気回路を構成する回路部と、を備え、
前記センサ部は、前記薄膜部に所定の間隔で並列して配置される複数の熱電対から成り、並んで配置される二つ以上のサーモパイルを有し、
前記熱電対の各々は、隣のサーモパイルに近い側の端部に形成された温接点、及び前記隣のサーモパイルに遠い側の端部に形成された冷接点を有し、前記温接点は前記キャビティエリア上に位置し、前記冷接点は前記基板における前記キャビティエリア以外の領域上に位置し、
前記回路部と、前記冷接点と、前記サーモパイルにおいて平面視で前記キャビティエリアと重なる部分の前記冷接点側の一部の領域とが、金属保護膜によりカバーされていることを特徴とする、
サーモパイル型センサである。
【0010】
本発明によれば、該サーモパイル型センサが、同一基板上にセンサ部と回路部を設けたモノリシック構造を有するため、小型のモジュールを実現しやすく、且つ、センサ部における複雑な信号を回路部において処理することが可能である。また、熱電対の両端部にそれぞれ温接点と冷接点が形成され、それらの間に温度差を生じさせることで、ゼーベック効果により、起電力を生じさせることが可能である。また、回路部と、冷接点と、サーモパイルにおいて平面視でキャビティエリアと重なる部分の冷接点側の一部の領域とが、金属保護膜によりカバーされていることにより、それぞれ電磁ノイズへの耐性の向上、温度測定の測定精度向上、及び生産性の向上を効果として得られる。
【0011】
また、本発明においては、前記金属保護膜は、前記回路部におけるグランドに接続されていることを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、金属保護膜が回路部におけるグランドに電気的に接続されるため、電磁シールド性を向上させることが可能である。
【0012】
また、本発明においては、前記基板上には、複数の金属端子が形成されており、前記複数の金属端子は、前記薄膜部側の開口を通じて外部に露出しており、前記複数の金属端子のうち、一部の金属端子は、前記金属保護膜に接続され、前記複数の金属端子のうち、上記一部の金属端子以外の金属端子は、金属膜により形成され前記回路部の所定の信号線に接続されており、前記金属膜は、前記金属保護膜と、同じ厚さであることを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、金属端子を形成する金属膜と、金属保護膜とを、同じ工程で形成することが可能であるため、製造工程を簡略化することが可能である。
【0013】
また、本発明においては、前記基板の外周から40μm以下の幅のエリアは、前記金属
保護膜によりカバーされないことを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、該サーモパイル型センサは製造工程において、チップ化する際にレーザーダイシングが適用されるが、金属保護膜の上部からはレーザーが入射できないため、金属保護膜によりカバーされないスペースを適度にとることで、レーザーダイシングの適用が可能となる。
【0014】
また、本発明においては、前記一部の領域の前記温接点側の端部における、前記キャビティエリアの開口部の端からの距離は、5μm以上100μm以下であることを特徴とする
、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、該領域の温接点側の端部における、キャビティエリアの開口部の端からの距離が小さすぎる場合や大きすぎる場合に生じ得る問題点を防止することが可能である。具体的には、キャビティエリアの開口部の一方の端からもう一方の端までの距離を1000μmとする場合、該距離が0μm以上5μm未満
であると、キャビティエリアの寸法のバラツキが生じた場合にマージンを確保することが困難である。且つ、該サーモパイル型センサの製造工程において、エッチングにより該距離を0μm以上5μm未満に収めることは困難である。また、該距離が100μm超過であ
ると、ヒータの熱が金属保護膜を伝達して基板に逃げてしまうため、感度が低下してしまう。
【0015】
また、本発明においては、前記金属保護膜の主成分は、アルミニウムであり、前記金属保護膜の表面には、シリコン系の材質を含む表面保護層が形成されており、前記表面保護層は、前記複数の金属端子上には形成されないことを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、アルミニウムは、金属の中でも比較的安価であるため、製造コストを抑えることが可能であり、且つ、集積回路を形成する際に一般的に用いられる金属であるため、製造が容易である。そして、アルミニウムは、金属の中でも比較的イオン化傾向が大きく、腐食しやすいが、表面保護層により腐食を防止することができる。さらに、金属端子上には表面保護層は形成されないため、外部配線と金属端子の接続性を確保することができる。
【0016】
また、本発明においては、前記金属保護膜の主成分は、金であることを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、金はアルミニウムと比較して腐食しにくいため、表面保護層の形成を不要とすることが可能である。また、電気伝導率や熱伝導率が高いため、より高いシールド効果及び、より高い均熱効果を得ることが可能である。そして、金はワイヤボンディングなどによる外部配線の接続が可能な金属でもある。
【0017】
また、本発明の変形例においては、前記基板上に温度センサを備え、前記温度センサは、前記金属保護膜によりカバーされていることを特徴とする、サーモパイル型センサとしてもよい。これによれば、温度センサによって、測定精度を高めることが可能である。具体的には、温度センサによって、冷接点の温度を検出することが可能である。対象物の温度の絶対値は、温接点と冷接点の間の温度差と、冷接点の温度との和で表すことが可能である。また、温度センサは金属保護膜によりカバーされているため、外部からの熱が温度センサに伝達されづらく、温度センサ自体が温められることが抑制される。なお、本発明の変形例は赤外線センサに適用されることが多い。
【0018】
なお、本発明においては、上記した課題を解決するための手段は、可能なかぎり組み合わせて使用することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、モノリシック構造を有するサーモパイル型センサにおいて、回路部、及び冷接点、及びサーモパイルにおいて平面視でキャビティエリアと重なる部分の冷接点側の一部の領域が金属保護膜によりカバーされることにより、それぞれ電磁ノイズへの耐性の向上、及び流体の流量の測定誤差の低減、及び生産性の向上を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例における流量センサを構成するセンサ素子の一例を示す模式的な図である。
【
図2】実施例における流量センサを構成するセンサ素子の仕組みを説明するための断面図である。
【
図3】実施例における流量センサの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す流量センサの一例の概略構成を説明するための断面図である。
【
図5】
図3に示す流量センサの変形例を示す斜視図である。
【
図6】実施例における赤外線センサの概略構成を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔適用例〕
本適用例においては、サーモパイル型センサを熱式の流量センサに適用した場合について説明する。本適用例に係るサーモパイル型センサはサーモパイルを有し、サーモパイルは複数の熱電対から構成される。各々の熱電対は、ヒータ側に位置する温接点、及びヒータと反対側に位置し、温接点と対を成す冷接点を備えている。
【0022】
熱電対は、温接点がヒータの熱を感知すると、ゼーベック効果により、冷接点との温度差によって起電力が生じる。起電力が生じると、サーモパイルの間の温度差の検知が可能となり、流体の流量の値を観測することが可能となる。ここで、流体の流量の値が増大するほど、サーモパイルの間の温度差の値も増大し、両者の値は個々に相関性を持っているため、サーモパイルの間の温度差を測定することで流体の流量を取得することが可能となる。
【0023】
サーモパイルはヒータを挟んで対称に設けられており、流量検出の際に流体が流路に沿って流れてくる側を上流側、反対側を下流側としている。また、サーモパイルとヒータは、薄膜状の絶縁膜上に配置されており、絶縁膜の一部は基板上の所定面側に開口した凹部であるキャビティエリアを覆うように形成されている。
【0024】
サーモパイル、及びヒータ、及びキャビティエリアが位置するエリアに隣接するように、電子回路を構成する回路部が基板上に設けられている。回路部が基板上に設けられていることにより、サーモパイルが検知した温度差に由来する信号をサーモパイルの近傍において処理でき、ノイズ耐性を向上させることが可能である。
【0025】
しかし、上記のサーモパイル型センサにおいては、回路部が電磁ノイズに対して晒されていることで電磁ノイズの影響を受ける、あるいは外部環境が原因で基板上に温度分布が生じることでサーモパイルの冷接点どうしの間で温度差が生じる、あるいはキャビティエリアの寸法のバラツキが生じた際にオフセット電圧が生じるといった欠点が考えられる。結果、サーモパイル型センサの測定精度が低下したり、キャビティエリアの寸法精度を向上させるために生産性が低下したりする不都合が生じ得る。
【0026】
そこで、本発明におけるサーモパイル型センサについては、回路部、及び基板におけるキャビティエリア以外の領域上に位置する冷接点、及びサーモパイルにおいて平面視でキャビティエリアと重なる部分の冷接点側の一部の領域が、金属保護膜によりカバーされるようにした。このことで、上記の欠点を改善することが可能となる。
【0027】
〔実施例1〕
以下、本発明の実施例1に係るサーモパイル型センサについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態においては、本発明を流量センサに適用した例について説明するが、本発明を赤外線センサ等、他のサーモパイル型センサに適用しても構わない。なお、本発明に係る流量センサは、以下の構成には限定されない。
【0028】
<装置構成>
【0029】
図1は、本実施例における流量センサ1を構成するセンサ素子2の一例を示す模式的な
図である。流量センサ1は、例えばガスメータや燃焼機器、自動車等の内燃機関、燃料電池、その他医療等の産業機器、組込機器に組み込まれ、流路を通過する流体の量を測定するための熱式のフローセンサである。ここで、流量センサ1は、本発明におけるサーモパイル型センサに相当する。
【0030】
図1(a)は本実施例における流量センサ1を構成するセンサ素子2の斜視図、
図1(b)は
図1(a)の断面X-Xに係る断面図である。センサ素子2は、ヒータ(加熱部)3と、ヒータ3を挟んで対称に設けられたサーモパイル(温度検出部)4とを備える。ヒータ3は、例えばポリシリコンで形成された抵抗である。サーモパイル4の形状は、平面視においてそれぞれ略矩形である。ヒータ3及びサーモパイル4は、絶縁薄膜5内に形成され、絶縁薄膜5はシリコン基板6上に設けられている。ここで、ヒータ3とサーモパイル4は、本発明におけるセンサ部に相当する。また、絶縁薄膜5、及びシリコン基板6はそれぞれ、本発明における薄膜部、及び基板に相当する。
【0031】
センサ素子2は、二つのサーモパイル4から出力された温度検出信号に基づいて、測定対象流体の流量を示す値を検出する。具体的には、センサ素子2は、一方のサーモパイル4から出力された温度検出信号ともう一方のサーモパイル4から出力された温度検出信号との差分を算出し、差分に基づいて測定対象流体の流量を示す値を求める。そして、センサ素子2は、流量を示す値を電子回路部(後述)に出力する。なお、
図1(a)では二つのサーモパイル4を示しているが、サーモパイル4は二つ以上であればその数に限定はない。
【0032】
図1(a)では簡略化して示しているが、サーモパイル4はそれぞれ、複数の熱電対7が絶縁薄膜5上に所定の間隔で並んで配置されることで構成されている。一対あたりの熱電対7は、ポリシリコン配線上に金属薄膜が形成された構成を有し、熱電対7の両端において、ポリシリコン配線が金属薄膜と接続されている。このうち、ヒータ3と同じ側で接続されている箇所が温接点8であり、ヒータ3と反対側で接続されている箇所が冷接点9である。すなわち、二つのサーモパイル4の間で、温接点8どうしは互いに比較的近い距離にあり、冷接点9どうしは互いに比較的遠い距離にある。
【0033】
また、絶縁薄膜5上における、ヒータ3及びサーモパイル4の下方のシリコン基板6には、凹部であるキャビティエリア10が設けられている。温接点8はキャビティエリア10の上部に並んで位置し、冷接点9はシリコン基板6におけるキャビティエリア10以外の領域に位置する。ヒータ3からの発熱は、キャビティエリア10に放出されるため、シリコン基板6中への発熱の拡散は抑制される。よって、シリコン基板6におけるキャビティエリア10以外の領域に位置する冷接点9の温度はほとんど上昇せず、ヒータ3の周囲に位置する温接点8との温度差がより生じやすい。温接点8と冷接点9との間に温度差が生じることで、起電力が効率的に得られる。
【0034】
図2は、本実施例における流量センサ1を構成するセンサ素子2の仕組みを説明するための断面図である。
図2は、点線の楕円によって、ヒータ3が発熱した場合の温度分布を模式的に示している。なお、ヒータ3近辺の温度分布ほど温度が高いものとする。
図2(a)は、流体が流れていない状態でヒータ3に通電する場合の温度分布の一例を模式的に示している。一方、
図2(b)は、流体が点線の矢印の方向に流れている状態でヒータ3に通電する場合の温度分布の一例を模式的に示している。ヒータ3とサーモパイル4は、センサ素子2内において、点線の矢印の方向に沿って並んで配置されている。ヒータ3とサーモパイル4の各々の長手方向は、流体の流れ方向と直交する。
【0035】
流体が流れていない場合、ヒータ3の熱は、ヒータ3を中心として対称に拡散する。よって、
図2(a)の向きでヒータ3の左側の温接点8の温度とヒータ3の右側の温接点8
の温度は同一となる。すなわち、サーモパイル4の出力電圧は生じない。一方、流体が流れている場合、ヒータ3の熱は、流体の流れの影響を受け、ヒータ3を中心として対称に拡散せず、流体の流れに沿って非対称に拡散していく。よって、
図2(b)の向きでヒータ3の左側の温接点8の温度とヒータ3の右側の温接点8の温度の間に差が生じる。そして、当該温度差に比例してサーモパイル4から出力電圧が生じる。また、流速に応じて温度差が大きくなるため、流速の大きさをサーモパイル4の起電力に基づいて検出できる。また、流体の流れる向きにより、
図2(b)に示す二つの温接点8の間の温度差の正負が逆転し、起電力の正負も逆転するため、流体の流れる向きを検出できる。センサ素子2は、このようなヒータ3の熱の分布の偏りを利用して、流量を示す値を出力する。
【0036】
センサ素子2の出力電圧ΔVは、例えば次のような式(1)で表される。
【数1】
・・・(1)
なお、T
hはヒータ3の温度、T
aはサーモパイル4外側に設けられる周囲温度センサが測定した温度、V
fは流速の平均値、Aとbは所定の定数である。
【0037】
図3は、本実施例における流量センサ1の一例を示す斜視図である。流量センサ1は、センサ素子2と、回路を構成する電子回路部11を同一チップ上に備えたモノリシック構造を有する。なお、
図3ではセンサ素子2の一部の構造、すなわちヒータ3及びサーモパイル4の周辺の構造は簡略的に示す。また、サーモパイル4も簡略的に示す。絶縁薄膜5は、キャビティエリア10の上面、及び電子回路部11が形成されたシリコン基板6の上面を覆うように形成されている。
図3に示す構造には金属保護膜12が含まれており、
図3において、点線Rと点線Sは金属保護膜12の境目を表しており、点線Rと点線Sに囲まれた領域は金属保護膜12によりカバーされている領域を表している。金属保護膜12の熱伝導性により、流量センサ1の外部や電気回路部11からの熱に対する均熱効果が得られる。なお、電子回路部11は金属保護膜12よりも下部に形成されており、チップの表面上では不可視であるため、
図3では略矩形の点線で示す。
【0038】
流量センサ1のエッジから0μm以上40μm以下の幅のエリアは、金属保護膜によりカバーされない。すなわち、
図3のWの値は少なくとも40μmである。流量センサ1は製
造工程において、チップ化する際にレーザーダイシングが適用されるが、金属保護膜12によりカバーされている部分には上部からレーザーが入射できないため、金属保護膜12によりカバーされないスペースを適度にとることが必要である。
【0039】
また、
図3に示す構造には金属端子13a~13eが含まれている。金属端子13a~13eは絶縁薄膜5側に開口を通じて外部に露出しており、外部端子への接続が可能である。金属端子13a、13b、13d及び13eは、電子回路部11の入出力等のための端子であり、金属保護膜12に接続されていない。なお、本実施例においては、電子回路部12は、金属端子13a~13eの並びと、金属端子13a~13eの並びに近い側のサーモパイル4の間の金属保護膜12の下部に形成されているが、それ以外の部分に形成されていても構わない。例えば、キャビティエリア10の周辺における金属保護膜12の下部の部分に形成されていてもよい。また、金属端子13a、13b、13d及び13eの周囲の領域は、金属保護膜12によりカバーされていなくてもよい。
【0040】
図4は、
図3に示す流量センサ1の一例の概略構成を説明するための断面図である。
図4(a)は
図3の断面Y-Yに係る断面図、
図4(b)は
図3の断面Z-Zに係る断面図である。なお、
図4(b)においては、電子回路部11の下部のシリコン基板6は図示を省略し、また、シリコン基板6より上部を上下方向に拡大して図示している。
図4(a)に示す通り、電子回路部11と、冷接点9と、熱電対7において平面視でキャビティエリア10と重なる部分の冷接点9側の一部の領域とが、金属保護膜12によりカバーされている。電子回路部11が、金属保護膜12によりカバーされることで、電磁シールドの効果が得られ、電磁ノイズへの耐性が向上する。冷接点9が、金属保護膜12によりカバーされることで、二対の熱電対7における冷接点9の間で温度差が生じにくくなり、流量の測定誤差が低減する。熱電対7において平面視でキャビティエリア10と重なる部分の冷接点9側の一部の領域が、金属保護膜12によりカバーされることで、キャビティエリア10の寸法のバラツキが生じた場合においても、オフセット電圧が生じにくくなり、生産性が向上する。ここで、電子回路部11は、本発明における回路部に相当する。
【0041】
また、キャビティエリア10の開口部の一方の端からもう一方の端までの距離、すなわち
図4(a)のΦの値は1000μmである。この場合、熱電対7が冷接点9側から温接
点8側の方向に、キャビティエリア10の開口部の端から金属保護膜12によりカバーされる距離、すなわち
図4(a)のDの値は5μm以上100μm以下である。ここで、
図4(a)のDの値が5μm未満である場合、キャビティエリア10の寸法のバラツキが生じ
た際に、熱電対7において平面視でキャビティエリア10と重なる部分を金属保護膜12でカバーできない虞がある。また、流量センサ1の製造工程において、エッチングにより該範囲を5μm未満に収めることは困難である。また、
図4(a)のDの値が100μm超過である場合、ヒータ3の熱が金属保護膜12を伝達してシリコン基板6に逃げてしまうため、感度が低下してしまう虞がある。よって、本実施例のように、Dの値を5μm以上
100μm以下とすることで、流量センサ1の製造工程において、キャビティエリア10
の寸法のバラツキを厳密に管理する必要がなく、且つ、感度を保つことが可能であるので、生産性が向上する。
【0042】
また、金属保護膜12の金属の主成分は、アルミニウムまたは金である。主成分がアルミニウムである場合、アルミニウムは金属の中でも比較的安価であるため、製造コストを抑えることが可能であり、且つ、アルミニウムは電子回路部11を形成する際に一般的に用いられる金属であるため、金属保護膜12の形成が容易になる。しかし、アルミニウムは金属の中でも比較的イオン化傾向が大きく、腐食しやすいため、金属保護膜12の主成分として用いる際には、シリコン系の素材を含む表面保護層を表面に形成する必要がある。表面保護層は、金属端子13a、13b、13d及び13eを構成する金属膜上や金属端子13における金属保護膜12上は形成しない。主成分が金である場合、金は腐食耐性が高いため表面保護層の形成は不要である。この場合、金属保護膜12の主成分に合わせて金属端子13a、13b、13d及び13eを構成する金属膜の主成分も金とする。
【0043】
図4(b)の断面図は、絶縁薄膜5及び電子回路部11及び金属保護膜12及び金属端子13a~13eの構成を示す。金属端子13a~13eは、絶縁薄膜5側の開口を通じて外部に露出している。金属端子13cは、金属保護膜12と電気的に接続されている。金属端子13a、13b、13d及び13eは、金属保護膜12の下部に形成されている電子回路部11の所定の信号線に電気的に接続されている。ここで、所定の信号線とは、入出力線、または電源及びグランドを含む。なお、金属保護膜12の厚さTは、金属端子13a、13b、13d及び13eを構成する金属膜の厚さT1~T4と等しい。
【0044】
〔変形例1〕
次に、本発明の変形例1について説明する。本変形例においては、実施例1に示した流量センサ1と構成が異なる流量センサについて説明する。
【0045】
図5は、
図3に示す流量センサ1の変形例を示す斜視図である。なお、
図5ではセンサ素子2の一部の構造、すなわちヒータ3及びサーモパイル4の周辺の構造は簡略的に示す。また、サーモパイル4も簡略的に示す。
図3と比較して、ヒータ3及びサーモパイル4及びキャビティエリア10の配置角度が90度異なる。モノリシック構造を有する点や、点線Rと点線Sに囲まれた領域が金属保護膜12によりカバーされている点や、金属端子13a~13eが形成されている点は同様である。
【0046】
図5に示す構成では、
図3に示す構成と比較して、冷接点9が電子回路部11から離れた位置に形成されているため、冷接点9が電子回路部11の発熱の影響を受けにくく、二対のサーモパイル4における冷接点9の間で温度差が生じにくくなる。また、
図5に示す構成では、
図3に示す構成と比較して、ヒータ3とサーモパイル4の並びの方向が90度回転し、流量を検知する方向がチップ1の短手方向となっている。これにより、計測対象の流体が、金属端子13a~13eに接続されるワイヤボンディングによる気流の乱れを受けづらくなり、流量の検知性が向上する。
図5に示す構成は、実際に設計が可能である。
【0047】
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例1では、サーモパイル型センサを流量センサ1に適用した例について説明したが、本実施例では、サーモパイル型センサを赤外線センサに適用した例について説明する。
【0048】
図6は、本実施例における赤外線センサ15の概略構成を説明するための断面図である。基本的な構成は流量センサ1と類似しているため、平面図は省略する。
図4(a)の断面図と比較して、
図6にはヒータ3が備わっていない。また、必要に応じて赤外線吸収膜もしくは赤外線吸収体を熱電対7の温接点8のエリアに付与されるが、
図6では省略している。熱源として、
図6の矢印の方向に外部から赤外線が照射され、熱電対7が温められる。外部からの照射により、赤外線が当たる範囲は広範囲であるが、シリコン基板6の大部分が金属保護膜12によりカバーされ、赤外線の入射が防止されるため、シリコン基板6の温度上昇が抑制される。また、金属保護膜12により冷接点9はカバーされているが、温接点8はカバーされていないため、赤外線の照射により温接点8と冷接点9の間により大きな温度差を生じさせることが可能である。
【0049】
また、
図6(a)に示すように、本実施例の赤外線センサ15では、電子回路部11と冷接点9の間の、シリコン基板6上に温度センサ14が備わっている。温度センサ14は周囲温度を測定することが可能である。ここで周囲温度とは、温度センサ14の付近の冷接点9の温度のことを表す。赤外線の照射によって生じる温接点8と冷接点9の間の温度差ΔTと、周囲温度T
atmを測定することで、対象物の温度Tは、例えば次のような式(2)で表される。
【数2】
・・・(2)
本実施形態における赤外線センサ15を用いることで、ΔTに加えてT
atmの測定も可能であるため、Tを直接算出することが可能である。
【0050】
また、温度センサ14が備わっている場合、金属保護膜12によりカバーされることで、冷接点9と温度センサ14の間の熱伝導性が良好となり、これらの周辺の温度が均一化し、Tの算出値の誤差を低減することが可能である。また、温度センサ14は金属保護膜
12によりカバーされているため、赤外線の照射によって温度センサ14が温められることを防止することが可能である。なお、温度センサ14は、電子回路の一部として機能するため、電子回路部11を構成する部分として電子回路部11に内蔵されていてもよい。
【0051】
また、
図6(b)に示すように、電子回路部11がシリコン基板6上に形成されておらず、シリコン基板6のエリア外に形成されていてもよい。この構成においては、温度センサ14のみが、金属保護膜12によりカバーされることになる。この場合には、温度センサ14が回路部に相当するということが可能である。
【0052】
なお、本実施例においては、温度センサ14には、抵抗変化式、ダイオード式、サーミスタ等の種類がある。また、本実施例においては、温度センサ14を赤外線センサ15に適用した例を示したが、温度センサ14を流量センサ1に適用してもよい。
【0053】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
基板(6)上の所定面側に開口した凹部であるキャビティエリア(10)と、
前記キャビティエリアの開口を覆うように形成された薄膜部(5)と、
前記薄膜部に形成され、温度の検出に係るセンサ部(4)と、
前記基板上の所定面に形成され、電気回路を構成する回路部(11)と、を備え、
前記センサ部は、前記薄膜部に所定の間隔で並列して配置される複数の熱電対(7)から成り、並んで配置される二つ以上のサーモパイル(4)を有し、
前記熱電対の各々は、隣のサーモパイルに近い側の端部に形成された温接点(8)、及び前記隣のサーモパイルに遠い側の端部に形成された冷接点(9)を有し、前記温接点は前記キャビティエリア上に位置し、前記冷接点は前記基板における前記キャビティエリア以外の領域上に位置し、
前記回路部と、前記冷接点と、前記サーモパイルにおいて平面視で前記キャビティエリアと重なる部分の前記冷接点側の一部の領域とが、金属保護膜(12)によりカバーされていることを特徴とする、
サーモパイル型センサ(1)。
【符号の説明】
【0054】
1 :流量センサ
2 :センサ素子
3 :ヒータ
4 :サーモパイル
5 :絶縁薄膜
6 :シリコン基板
7 :熱電対
8 :温接点
9 :冷接点
10 :キャビティエリア
11 :電子回路部
12 :金属保護膜
13a―13e:金属端子
14 :温度センサ
15 :赤外線センサ