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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】迅速凝固処理のためのチタン合金
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241001BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241001BHJP
   B22F 10/22 20210101ALI20241001BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20241001BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241001BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241001BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241001BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F10/28
B22F10/22
C22C14/00 Z
C22C1/04 E
B33Y10/00
B33Y70/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021560324
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2020058761
(87)【国際公開番号】W WO2020193763
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102019002232.7
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521440493
【氏名又は名称】エリコン エーエム ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON AM GMBH
【住所又は居所原語表記】Kapellenstrasse 12,85622 Feldkirchen (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】アッカース,アルバート ミハエル
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108486408(CN,A)
【文献】国際公開第2018/162919(WO,A1)
【文献】特開2018-115386(JP,A)
【文献】特開平03-257130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分の生産のための付加製造方法であって、
(a)金属系粉末を提供し、溶融させるステップと、
(b)溶融粒子を相互に及びそれらの地下と融合することによって融合物質を形成するステップと、
(c)前記融合物質を冷却することによって凝固させるステップと、
を含み、
前記金属系粉末が、少なくともTa、Fe、並びにi)Sn又はii)Nb及びZrを含むTi系粉末であ
i)の場合、前記粉末は、
3重量%~10重量%の範囲のTa、
2重量%~10重量%の範囲のFe、
0.1重量%~9重量%の範囲のSn、及び
0.001重量%~3重量%の範囲のSi、
を含み、
Tiは、組成の残余として用いられ、
ii)の場合、前記粉末は、
3重量%~10重量%の範囲のTa、
2重量%~10重量%の範囲のFe、
4重量%~12重量%の範囲のNb、及び
3重量%~9重量%の範囲のZr、
を含み、
Tiは、組成の残余として用いられる、方法。
【請求項2】
付加製造用のTi系粉末であって、前記粉末が、
重量%~10重量%の範囲のTa、
重量%~12重量%の範囲のNb、
重量%~10重量%の範囲のFe、及び
重量%~9重量%の範囲のZr、
を含み、
Tiは、組成の残余として用いられる、Ti系粉末。
【請求項3】
付加製造用のTi系粉末であって、前記粉末が、
重量%~10重量%の範囲のTa、
重量%~10重量%の範囲のFe、
.1重量%~9重量%の範囲のSn、及び
.001重量%~3重量%の範囲のSi、
を含
Tiは、組成の残余として用いられる、Ti系粉末。
【請求項4】
前記粉末が、
.001重量%~0.3重量%の範囲の酸素
.001重量%~0.2重量%の範囲の窒素、又は、
.001重量%~0.9重量%の範囲の炭素、
を含む、請求項2又は3に記載のTi系粉末。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
金属溶解物の迅速凝固(△T=10~1010K/s)は、粉末微粒化、溶接、付加製造(AM)、鋳造、アーク又はプラズマ融解などの多くの技術プロセスにおいて生じる。勾配は、非平衡相、偏析効果、及び残留応力を招き、処理可能な合金の選択肢を制限する。従って、本発明の目的は、驚くほど目覚ましく迅速な凝固挙動を示す2つの合金系を開示することである。
【図面の簡単な説明】
【0002】
図1】TTFNZ Ti-6Ta-8Nb-4Fe-6Zr(熱力学的平衡)を示す。
図2】TTFS(熱力学的平衡)を示す。
図3】NADFAM/AM条件後のTTFNZの微細構造を示す
図4】NADFAM/AM条件後のTTFSの微細構造を示す。
図5】アーク溶融条件後のTTFNZの微細構造を示す。
図6】アーク溶融条件後のTTFSの微細構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0003】
いくつかの用途では、微粒子粉末(<1mm)が必要とされる。他の用途では、粒状物質(粒径≧1mm)が要求される。これは、嵩のある物品となることすらある。これらはすべて、本明細書の意味するところの粉末である。
【0004】
発明者が迅速凝固加工性の点で最良の特性を呈することを発見した金属系は、チタン(Ti)+タンタル(Ta)+鉄(Fe)+ニオブ(Nb)+ジルコニウム(Zr)及びTi+Ta+Fe+スズ(Sn)である。
【0005】
以下、TTFNZ及びTIFSと略記する。
【表1】
【0006】
TTFNZは、任意選択的にSnのみを含む。
【表2】
【0007】
TTFNZ及びTTFSの熱力学的平衡を図1、1b、2、及び2bに示す。迅速凝固プロセス(3D印刷と同様)後のTTFNZ及びTIFSのα/β微細構造及び相組成を図3、3b、4、及び4bに示す。アーク溶融状態後のTTFNZ及びTTFSのβ優勢微細構造を図5及び6に示す。
【0008】
TTFNZの熱力学的平衡を図1及び1bに示す。合金のα/β微細構造は、迅速凝固(非平衡)後の各種状態に関して電子後方散乱検出器(EBSD)分析を用いて確認された、及び/又は最後に熱処理を伴って略平衡微細構造を達成した。これらのプロセスによって生産される様々な微細構造は、図2及び2bに示され、熱処理が熱力学的計算により近い微細構造を達成する。
【0009】
この合金は、調査された処理済みウィンドウにおいて、付加製造プロセスとの高い適合性を示し、これは処理後に亀裂が存在しないことによって強調される。
【0010】
TTFSのシミュレートされた熱力学的平衡相のグラフを図2及び2bに示す。シミュレーションは、1K刻みで実行した。合金は、TS=1922K(マトリクス形成温度)で液体状態にあり、TS=1821Kで固体立方体BCC_B2相の100%相モル分率に変換する。これにより、約TLS=101Kの平衡凝固間隔が生じる。1027Kへの冷却後、六角形HCP相は凝集し(β-α転移温度)、300Kのシミュレーション温度で92.88%相モル分率まで安定化する。この温度では、残りの相は、4.3%相モル分率の菱面体μ相(Fe7Ta6)と、Taの溶液を伴う金属間化合物FeTi(BCC_B2#2、立方体B2型)である。μ相などの金属間相又はHCP_A3(α相)などの二次相の析出は、材料の電気抵抗の上昇をもたらす。このため、レーザ放射線の吸収が増加して、レーザベースの製造プロセスの生産コストを低減させることができる。
【0011】
合金のα/β微細構造は、迅速凝固(非平衡)後の各種状態に関して電子後方散乱検出器(EBSD)分析を用いて確認された、及び/又は最後に熱処理を伴って略平衡微細構造を達成した。これらのプロセスによって生産される様々な微細構造は、図6に示され、熱処理が熱力学的計算により近い微細構造を達成する。
【0012】
この合金は、調査された処理済みウィンドウにおいて、付加製造プロセスとの高い適合性を示し、これは処理後に亀裂が存在しないことによって強調される。
【0013】
本発明の別の態様によると、新規な材料は、高比強度>200kN・m/kgにより、航空宇宙、自動車、工具、又は医療用途にとって魅力的であり得る。
【0014】
本発明の別の態様によると、新規な材料は、低密度、高靭性、優れた腐食特性、及び高温又は低温亀裂への耐性により、航空宇宙、自動車、工具、又は医療用途にとって魅力的であり得る。
【0015】
金属系TTFNZ及びTTFSは、医療用途に特に適する。最も一般的なインプラント材料(Ti64、CoCr、316L)[1]は比較的低い腐食耐性を有するが、ヒトの体液内では、Al-、Co-、Cr-、Ni-、V-イオンの人体内への放出を促進する、溶存酸素、塩化物、及びタンパク質の非常に侵襲的な環境にさらされる。溶存イオンは、細胞代謝を阻み、極微量超過した場合に致死性の腫瘍疾病を引き起こす可能性がある。耐摩耗性及び生体適合性に関する最適な特性は、Ti、Ta、Nb、Zr、及びそれらの合金に対して達成される。医療用途で現在使用されている合金の更なる重要なパラメータは、インプラント材料と硬質組織との間の弾性特性の不一致である。この点に関して、提示される金属系TTFNZ及びTTFSは、既成のISO[1]及びASTM標準化合金よりも優れた生体適合性を呈する。特に、生体適合性合金元素及び比較的低い弾性率(E<100GPa、好ましくは<120Gpa)により、提示される金属系TTFNZは、既成のISO[1]及びASTM標準化合金よりも、臨床使用において好適なはずである。特に、生体適合性合金元素及び比較的低い弾性率(E<115GPa、好ましくは<120GPa)により、提示される金属系TTFSは、既成のISO[1]及びASTM標準化合金よりも、臨床使用において好適なはずである。
【0016】
更に、TTFNZ及びTTFSの一般的なAM迅速凝固処理は、骨細胞の酸素付加及び栄養補給を受け入れる組織改変された開放多孔性骨模倣格子構造(骨組み)を可能にして、オッセオインテグレーション(骨性結合)及び強固なインプラント固定を容易にすることができる。
【0017】
本発明の別の態様によると、TTFSに関しては、一般的な付加(AM)加工性、特に、溶接性又は印刷適性(AM)を向上させるために、全ての既存のチタン合金にスズ(Sn;好ましくは、0.01~10重量%)を添加することが考えられる。Snは高表面張力及び高融点粘度を低減させて、迅速凝固中にボーリング効果を引き起こすことができる。具体的には、同時に、Snは、レーザ放射線の吸収を高め、より費用効果の高いチタン合金処理に至ることができる。
【0018】
この場合、Snは、元素粉末としてプレアロイ粉末混合物に添加することができ、又はSnは、プレアロイ粉末へ直接、合金にすることができる。
【0019】
本明細書は、粉末に焦点を当てて説明した。しかしながら、当業者であれば、粉末ではなく、ワイヤ又は例えば、液体ポリマー内の金属粉末混合物に基づく付加製造方法が存在することを理解するであろう。本明細書において提示される材料は、本発明の一態様でもある、かかる方法でも使用され得る。
【0020】
本発明の別の態様によると、酸素O、及び/又は炭素C、及び/又は窒素をTTFNZ及び/又はTTFSに添加して、硬質の耐摩耗性材料を生産することが考えられる。
【0021】
本発明では、成分の生産のための付加製造方法であって、
(a)金属系粉末を提供し、溶融させるステップと、
(b)溶融粒子を相互に及びそれらの地下と融合することによって融合物質を形成するステップと、
(c)融合物質を冷却することによって凝固させるステップと、
を含み、
金属系粉末が、少なくともTa、Fe、及びi)Sn及び/又はii)Nb及びZrを含むTi系粉末である方法、が請求されている。
【0022】
好ましくは、本方法は、Ti系粉末がSiも含むことを特徴とする。
【0023】
好ましくは、本方法は、Ti系粉末がC及び/又はN及び/又はOを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明では、付加製造用のTi系粉末であって、粉末が、
-0.01重量%~15重量%の範囲、好ましくは3重量%~10重量%の範囲、最も好ましくは6重量%のTa、
-0.01重量%~25重量%の範囲、好ましくは4重量%~12重量%の範囲、最も好ましくは8重量%のNb、
-0.01重量%~15重量%の範囲、好ましくは2重量%~6重量%の範囲、最も好ましくは4重量%のFe、
-0.01重量%~25重量%の範囲、好ましくは3重量%~9重量%の範囲であり、最も好ましくは6重量%のZr、を含むTi系粉末が請求されている。
【0025】
本発明では、付加製造用のTi系粉末であって、
-0.01重量%~20重量%の範囲、好ましくは3重量%~10重量%の範囲、最も好ましくは7重量%のTa、
-0.01重量%~15重量%の範囲、好ましくは2重量%~10重量%の範囲、最も好ましくは5重量%のFe、
-0.01重量%~10重量%の範囲、好ましくは0.1重量%~9重量%の範囲、最も好ましくは3重量%のSn、
-0.001重量%~3重量%の範囲のSi、を含むTi系粉末が請求されている。
【0026】
好ましくは、Ti系粉末は、粉末が、
-好ましくは0.001重量%~0.3重量%の範囲の酸素及び/又は、
-好ましくは0.001重量%~0.2重量%の範囲の窒素及び/又は、
-好ましくは0.001重量%~0.9重量%の範囲の炭素、を含むことを特徴とする。
【0027】
上述したようなTi系粉末のいくつかについては、Tiに添加された金属は、Tiのみを金属元素として含むTi系粉末の凝固と比較して、より迅速な融合物質の凝固をもたらす。これらの場合のいくつかでは、このことは、純Tiと比較して、融合物質の融点の上昇によって説明することができる。融点が高いほど、冷却中の凝固溶解物と周囲媒体との間の温度勾配が大きくなり、凝固がより速くなる。この文脈では、より速くなるとは、凝固が少なくとも1K/s速くなることを意味する。
【0028】
主要文献
[1]ISO5832、外科手術用インプラント-金属材料

図1
図2
図3
図4
図5
図6