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特許7562941ポリマー膜、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ポリマー膜、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/426 20210101AFI20241001BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20241001BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20241001BHJP
   H01M 50/469 20210101ALI20241001BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241001BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241001BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241001BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241001BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241001BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241001BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20241001BHJP
【FI】
H01M50/426
H01M50/403 Z
H01M50/42
H01M50/469
H01M50/489
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/058
H01M4/133
H01G11/52
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019167266
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021044208
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/136837(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/073451(WO,A1)
【文献】特開2004-175104(JP,A)
【文献】特開2009-087889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの正極及び負極の間に介在するように用いられ、前記正極と前記負極との間に介在させ、溶媒を加えて空隙を形成するポリマー膜であって、
リチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂からなり、常温で固体であり且つ溶媒に溶解する添加固体が充填されており、
前記添加固体は、リチウム塩であるリチウムビスオキサラトボレート、リチウム塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びエチレンカーボネートのうち1以上であり、前記溶媒を加えて形成された二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上2.5個/μm2以下であり、
前記樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルとアクリルモノマーとの共重合体のうち1以上である、ポリマー膜。
【請求項2】
前記平均表面細孔密度が0.15個/μm2以上である、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項3】
前記平均表面細孔密度が1.0個/μm2以上である、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項4】
前記樹脂は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であり、Cu管球を用いたX線回折測定における2θ=25°以上28°以下の範囲に回折ピークを示さない、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー膜。
【請求項5】
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー膜と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極、前記負極及び前記ポリマー膜のうち1以上に溶媒を含む電解液を有する、請求項5に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記電解液には、前記ポリマー膜に充填されていた、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体が溶解している、請求項5又は6に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記負極は、負極活物質を含む柱状体であり、
前記ポリマー膜は、前記負極の外周面に形成されている、請求項5~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
正極及び負極を有する蓄電デバイスの製造方法であって、
リチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂へ、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体を混合して添加固体含有ポリマー膜を形成する膜形成工程と、
前記形成した添加固体含有ポリマー膜を前記正極と前記負極との間に介在させ、溶媒を加えて前記添加固体を溶解させ、該添加固体が溶解して生じる空間であり、二次電子顕微鏡像で確認可能であり平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上2.5個/μm 2 以下である空隙をポリマー膜に形成する空隙形成工程と、を含み、
前記添加固体は、リチウム塩であるリチウムビスオキサラトボレート、リチウム塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びエチレンカーボネートのうち1以上であり、
前記樹脂は、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルとアクリルモノマーとの共重合体のうち1以上である、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
空隙形成工程では、前記平均表面細孔密度が0.15個/μm2以上である前記空隙をポリマー膜に形成する、請求項9に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項11】
空隙形成工程では、前記平均表面細孔密度が1.0個/μm2以上である前記空隙をポリマー膜に形成する、請求項9に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項12】
二次電子顕微鏡像で識別可能である前記ポリマー膜の表面に形成されたドメインのサイズが1μm以下であり、ドメイン間に前記空隙を有する前記ポリマー膜を形成する、請求項9~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記電解液には、前記ポリマー膜に充填されていた、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体が溶解している、請求項9~12のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記負極は、負極活物質を含む柱状体であり、
前記ポリマー膜は、前記負極の外周面に形成されている、請求項9~13のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、ポリマー膜、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蓄電デバイスとしては、例えば、分離機能層と支持層とからなるセパレータを用い、支持層に比べて分離機能層を空孔径が小さく空孔率の低い緻密な構成としたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、金属異物の正極極板側から負極極板側への移動を抑制することができ、これにより負極極板側での金属異物の析出が抑制されるので、電池性能と安全性を確保することができる、としている。また、蓄電デバイスに用いられるものとして、フッ素系ポリマーエマルジョンまたは懸濁液で電極をコートして乾燥することで得られた、電極とセパレータが一体化された集合体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この一体化電極セパレータでは、従来の自立セパレータに比べて、より均一で薄いセパレータ層を低コストで提供することが可能であるとしている。また、蓄電デバイスに用いられるものとして、フッ化ビニリデンとアクリロイロキシエチルコハク酸とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体を、セパレータに塗布し、乾燥して得られたセパレータが提案されている(例えば、特許文献3参照)。このセパレータでは、リチウムイオン等のイオンの移動を妨げることがない、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-84765号公報
【文献】特表2015-533453号公報
【文献】国際公開第2014/002937号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、正極から移動した金属成分の負極でのデンドライト析出を抑制するために、負極側のセパレータの空孔径および空孔率を低くしていることから、入出力特性が低下することがあった。また、特許文献2では、フッ素ポリマー水分散液を電極体に直接塗布して170℃程度で乾燥して得られているが、水あるいは乾燥に対して耐性のない材料には適用できないという課題が推測された。また、特許文献3では、上記共重合体を含む溶媒の分散性を制御することで、多孔度を制御して一般的なポリオレフィン系のセパレータと正極あるいは負極との接着性を高めることを可能としているが、膜抵抗と相関性のあるガーレー透気度は、樹脂膜を形成することで増加しており、蓄電デバイスの入出力特性が低下することがあった。上記のように、ポリマー膜を単一あるいは複合化して蓄電デバイスのセパレータとして用いる場合、膜抵抗の増大が不可避であり、入出力特性が低下するという課題があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、入出力特性をより高めることができるポリマー膜、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、常温で固体且つ電解液に溶解するリチウム塩を加えて正極と負極とを分離するポリマー膜を作製したのち、電解液にリチウム塩を溶解させて空隙を形成したところ、電解液の保液性や電気伝導度、IV抵抗などが向上し、蓄電デバイスの入出力特性を向上することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示するポリマー膜は、
蓄電デバイスの正極及び負極の間に介在するように用いられるポリマー膜であって、
リチウムイオンを伝導可能な樹脂及び/又はリチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂からなり、二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙を有し、該空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上であるものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する上記ポリマー膜と、
を備えたものである。
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、
正極及び負極を有する蓄電デバイスの製造方法であって、
リチウムイオンを伝導可能な樹脂及び/又はリチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂へ、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体を混合して添加固体含有ポリマー膜を形成する膜形成工程と、
前記形成した添加固体含有ポリマー膜を前記正極と前記負極との間に介在させ、溶媒を加えて前記添加固体を溶解させ、該添加固体が溶解して生じる空間であり、二次電子顕微鏡像で確認可能であり平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上である空隙をポリマー膜に形成する空隙形成工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、入出力特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、このポリマー膜は、空隙を十分有するため、高い伝導度を有することによって、蓄電デバイスの入出力特性を向上させることが可能となる。なお、ポリマー膜に含有させる添加固体がリチウム塩である場合は、電極近傍においてリチウムイオン濃度が高くなることから、反応抵抗を低減することも可能となり、入出力特性の向上に寄与するものと推察される。また、活物質を有する柱状体の電極を用いた蓄電デバイスにおいては、柱状体の外周面でリチウムイオンの出入りを行うことができるため、入出力特性を向上すると共に、高いエネルギー密度を達成することができる。ここで、「常温」とは、15℃~25℃であるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス10の一例を示す模式図。
図2】蓄電デバイス10Bの一例を示す模式図。
図3】実験例1,2,6のSEM写真及び二値化画像。
図4】実験例1,6のX線回折測定結果。
図5】実験例2,6のX線回折測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ポリマー膜)
本実施形態で説明するポリマー膜は、蓄電デバイスの正極及び負極の間に介在するように用いられるものである。ポリマー膜は、絶縁性を有するものとする。このポリマー膜は、リチウムイオンを伝導可能な樹脂及び/又はリチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂からなり、二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙を有し、この空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上である。平均表面細孔密度は、ポリマー膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察したSEM画像を画像解析により二値化し、画像に存在する黒色領域を空隙としてその数をカウントし、単位面積(μm2)あたりの空隙個数として求めるものとする。この空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上では、電解液がポリマー膜内へ浸透しやすいため、より高いイオン伝導性を示すことができる。このポリマー膜において、平均表面細孔密度は、0.15個/μm2以上であることがより好ましく、1.0個/μm2以上であることが更に好ましい。また、平均表面細孔密度は、絶縁性などを考慮すると、2.5個/μm2以下であることが好ましい。
【0013】
ポリマー膜は、二次電子顕微鏡像で識別可能であるポリマー膜の表面に形成されたドメインのサイズが1μm以下であり、ドメイン間に前記空隙を有するものとしてもよい。ここで、「ドメイン」とは、SEM像で明確に識別できる境界で区切られた領域をいうものとする。このドメインにおいて、「うろこ状であって、隣とつながっている部分」がある場合には、その境界を規定して別のドメインとして認識するものとする。このドメインサイズが1μm以下であると、平均表面細孔密度が良好になるものと推察される。また、ドメインサイズと同様に、樹脂表面に、平均1μm以下のラフネスを有することが好ましい。また、このポリマー膜は、樹脂表面に平均300nm以下の細孔を有することが好ましい。平均300nm以下の細孔を有すると、電解液がポリマー膜内へ浸透しやすいため、より高いイオン伝導性を示すことができる。
【0014】
このポリマー膜において、常温で固体であり且つ溶媒に溶解する添加固体が充填されており、この添加固体が溶解して生じる空間が空隙であるものとしてもよい。このポリマー膜では、添加固体を溶媒に溶解させることによって、容易に空隙を形成することができる。この添加固体は、例えば、キャリアであるイオンを含む塩であることがより好ましく、リチウム塩であることが好ましい。例えば、添加固体は、リチウム塩以外では、例えば、エチレンカーボネート(EC)などのカーボネート類が挙げられる。また、添加固体は、リチウム塩としては、ホウ素含有化合物であるリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)やリチウムジフルオロオキサラトボレート(LiBFO)などが挙げられる。また、リチウム塩としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)やリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などのイミド塩などが挙げられる。このうち、添加固体としては、LiFSI及びLiBOBが好ましく、LiBOBがより好ましい。
【0015】
このポリマー膜に含まれる樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdFとHFPとの共重合体では、電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。このポリマー膜の厚さは、例えば、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であるものとしてもよい。この厚さが2μm以上では、絶縁性を確保する上で好ましい。特に、ポリマー膜の厚さが2μm以上であれば、作製しやすい。また、ポリマー膜の厚さは、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。厚さが15μm以下では、イオン伝導性の低下を抑制できる点や、セルに占める体積をより低減する上で好ましい。厚さLが2~15μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。
【0016】
ポリマー膜は、キャリアであるイオンを伝導する電解液を含むものとしてもよい。この電解液は、例えば、非水系溶媒などが挙げられる。電解液の溶媒としては、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。この電解液には、蓄電デバイス10のキャリアであるイオンを含む支持塩を溶解したものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0017】
このポリマー膜において、樹脂は、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であり、Cu管球を用いたX線回折測定における2θ=25°以上28°以下の範囲に回折ピークを示さないものとしてもよい。常温で固体であり且つ溶媒に溶解する添加固体が充填されたポリマー膜では、回折ピークが消失し、アモルファス状態になることがより好ましい。
【0018】
(蓄電デバイス)
蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するポリマー膜と、を備える。また、この蓄電デバイスは、正極、負極及びポリマー膜のうち1以上に溶媒を含む電解液を有するものとしてもよい。また、この電解液には、ポリマー膜に充填されていた、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体が溶解しているものとしてもよい。特に、蓄電デバイスは、負極が負極活物質を含む柱状体であり、ポリマー膜が負極の外周面に形成されているものが好ましい。柱状電極を有する蓄電デバイスは、その構造からも、平面上の電極に比してエネルギー密度や入出力特性をより向上することができ好ましい。
【0019】
ここで、蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウム二次電池、リチウムイオン電池などとしてもよい。また、「常温」とは、15℃~25℃であるものとする。更に、「柱状」とは、屈曲しない太さのもののほか、屈曲可能な繊維状の太さのものも含むものとする。この負極は、柱状であればよく、その断面は円形であってもよいし、多角形であってもよい。また、正極は、負極の周りに存在するものとしてもよいし、負極の間の空間に充填されているものとしてもよい。また、この蓄電デバイスは、ポリマー膜を介して正極と隣り合う状態で複数の負極が結束された構造を有するものとしてもよい。この二次電池は、負極、正極及びポリマー膜のうち1以上に電解液を含むものとしてもよい。また、正極及び負極には、集電線などの集電部材が埋設されているものとしてもよいし、この集電部材を備えないものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、負極が柱状体でありその周りに正極が形成された構造を有し、リチウムイオンをキャリアとするリチウム二次電池をその主たる一例として以下説明する。
【0020】
次に、本実施形態で開示する蓄電デバイスについて図面を用いて説明する。図1は、蓄電デバイス10一例を示す模式図である。図2は、平面上の電極を有する蓄電デバイス10Bの一例を示す模式図である。蓄電デバイス10は、図1に示すように、負極11と、負極集電体12と、ポリマー膜20と、正極16と、正極集電体17と、を備えている。この蓄電デバイス10は、柱状の負極活物質からなる負極11と、負極11の周りにポリマー膜20を介して形成された正極活物質層からなる正極16とを備えている。この蓄電デバイス10は、ポリマー膜20及び正極16を介した状態で複数の負極11が結束された構造を有する。また、この蓄電デバイス10では、50本以上の負極11が結束された構造を有しているものとしてもよい。ポリマー膜20は、二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙を有し、この空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上であるものであるが、その表面にドメイン21が形成されているものとしてもよい。
【0021】
負極11は、活物質を含む柱状の物質である。この蓄電デバイス10では、複数の柱状の負極が所定方向に配列されている。負極11は、端面以外の外周がポリマー膜20を介して正極16に対向している。例えば、負極11は、セル全体の負極容量の1/nの容量を有し、n個が負極集電体12に並列接続されているものとしてもよい。この負極11は、長手方向に垂直な断面の直径Dが10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、30μm以上であるものとしてもよい。また、負極11の直径Dは、800μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であるものとしてもよい。この直径Dが10μm以上では、電極構造体としての強度を担保することができ安定した充放電ができる。また、この直径Dが800μm以下ではキャリアのイオンの移動距離が長くなりすぎず、高出力性能が得られる。また、この直径Dが10~500μmの範囲では、単位体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる。あるいは、この範囲では、キャリアのイオンの移動距離をより短くすることができ、より大きな電流で充放電を行うことができる。この柱状体の長手方向の長さは、二次電池の用途などに応じて適宜定めることができ、例えば、20mm以上200mm以下の範囲などとしてもよい。柱状体の長さが20mm以上では、電池容量をより高めることができ好ましく、200mm以下では、負極の電気抵抗をより低減することができ好ましい。この負極は、負極活物質としての炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、例えば、グラファイト類や、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類のうち1以上が挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。また、グラファイト構造を有する炭素繊維としてもよい。このような炭素繊維は、例えば、繊維方向である長手方向に結晶が配向したものが好ましい。また、長手方向(繊維方向)に直交する方向に断面視したときに結晶が中心から外周面側に放射状に配向したものであることが好ましい。あるいは、柱状の負極は、キャリアのイオンを吸蔵放出可能な複合酸化物を柱状体に成形したものとしてもよい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。この負極は、その表面の少なくとも一部に導電成分が形成されているものとしてもよい。この導電成分により、導電性をより高めることができる。この導電成分は、導電性の高い材料であれば特に限定されないが、例えば、金属としてもよい。
【0022】
負極集電体12は、導電性を有する部材であり、負極11の端面が電気的に接続されている。負極集電体12には、50本以上の負極11が並列接続されているものとしてもよい。この負極集電体12は、例えば、カーボンペーパー、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化(還元)性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。負極集電体12の形状は、複数の負極11が接続できるものであれば特に限定されず、例えば、板状、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0023】
ポリマー膜20は、キャリアであるイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性を有し負極11と正極16とを絶縁するものである。ポリマー膜20は、上述したように、リチウムイオンを伝導可能な樹脂及び/又はリチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂からなり、二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙を有し、この空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上であるものである。このポリマー膜20は、負極11の表面にコートされているものとしてもよいし、ハンドリング可能な自立膜として形成されたのち、負極11の表面に貼付されたものとしてもよい。また、ポリマー膜20は、キャリアであるイオンを伝導する上述した電解液を含むものとしてもよい。
【0024】
正極16は、正極活物質を有し、負極11の外周にポリマー膜20を介して形成されている。正極16は、蓄電デバイス10の作製時において、柱状の負極11を内包し断面の外形を六角形状とするものとしてもよい(図1参照)。この形状であれば、正極活物質が外周に形成された負極11を結束すると、正極16が負極11の間に充填されやすく好ましい。この正極16は、複数の負極11の間に存在するものとすればよく、外形が六角形状であることに限定されない。正極16は、それ自体に導電性を有するものとし、集電部材などは省略されているものとしてもよい。正極16は、その端面が正極集電体17に直接接続されているものとしてもよいし、側面全体に正極集電体が接続されるものとしてもよい。この正極16は、例えば、負極11の外周にポリマー膜20を形成したのち、その外周に正極16の原料である正極合材を塗布して形成されたものとしてもよい。
【0025】
正極16は、正極活物質を含んでいるが、正極活物質が導電性を有さない場合は、例えば導電性を有する導電材を混合して成形したものとしてもよい。この正極16は、例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材と、結着材とを混合し成形したものとしてもよい。正極活物質は、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。正極活物質としては、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMnc2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMnc4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32やLiNi0.4Co0.3Mn0.32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。
【0026】
正極に含まれる導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0027】
正極16において、正極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、正極16の質量全体に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。導電材の含有量は、正極16の全体の質量に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。また、結着材の含有量は、正極16の質量全体に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0028】
正極集電体17は、導電性を有する部材であり、正極16に電気的に接続されている。正極集電体17には、50本以上の正極16の端面が並列接続されている。この正極集電体17は、負極集電体12と同様の部材とするものとしてもよい。
【0029】
この蓄電デバイス10において、ポリマー膜の電気伝導度(イオン伝導度)は、より高いことが好ましいが、0.1mS/cm以上であることが好ましく、0.18mS/cm以上であることがより好ましく、0.2mS/cm以上であることが更に好ましい。イオン伝導度がより高ければ、放電容量をより高めることなどができる。また、この蓄電デバイス10において、体積エネルギー密度は、より高いことがより好ましく、例えば、650Wh/L以上であることが好ましく、830Wh/L以上であることがより好ましく、900Wh/L以上であることが更に好ましい。この蓄電デバイス10において、正極活物質の容量に対する負極活物質の容量の比である正負極容量比(負極容量/正極容量)は、1.0以上1.5以下の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.2以下の範囲である。正極の形成厚さは、負極の直径及び正負極容量比に応じて適宜設定されるが、例えば、5μm以上50μm以下の範囲としてもよい。正極の形成厚さは、例えば、負極上に形成された部分のうち最大の厚さをいうものとする。
【0030】
(蓄電デバイスの製造方法)
次に、蓄電デバイスの製造方法について説明する。この製造方法は、上述したポリマー膜や蓄電デバイスを製造する方法であるため、上述したポリマー膜や蓄電デバイスで説明した部材や配合比などを適宜用いるものとする。この製造方法は、膜形成工程と、空隙形成工程とを含むものとしてもよい。
【0031】
(膜形成工程)
この工程では、リチウムイオンを伝導可能な樹脂及び/又はリチウムイオンを伝導可能な電解液を保持する樹脂へ、常温で固体且つ溶媒に溶解する添加固体を混合して添加固体含有ポリマー膜を形成する処理を行う。使用する樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル及びポリメタクリル酸メチルとアクリルポリマーとの共重合体のうち1以上が挙げられ、このうちポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体が好ましい。また、使用する添加固体としては、リチウム塩であるLiBOB、LiBFO、LiFSI、LiTFSI、ECなどが挙げられ、このうち、LiBOBやLiFSIが好ましく、LiBOBがより好ましい。添加固体の添加量としては、例えば、樹脂の100質量部に対して添加固体を10質量部以上とすることが好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上が更に好ましい。この添加固体の添加量は、ポリマー膜の絶縁性確保の観点からは、100質量部以下であることが好ましい。添加固体含有ポリマー膜の形成は、負極上に直接形成してもよいし、自立した添加固体含有ポリマー膜を形成したのち、この添加固体含有ポリマー膜を負極上に貼付するものとしてもよい。添加固体含有ポリマー膜の形成は、例えば、溶媒に樹脂を溶解させ、これに添加固体を添加し、必要に応じて導電材を添加し、混合した溶液を用い、負極上にコートするものとしてもよい。樹脂を溶解する溶媒は、樹脂に応じて適宜選択すればよいが、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられる。
【0032】
この工程では、負極上に形成した添加固体含有ポリマー膜の表面に、更に正極合材層を形成するものとしてもよい。正極合材層の形成は、例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材及び結着材を加え、更に溶媒を加えて正極合材ペーストとし、この正極合材ペーストを用いるものとしてもよい。また、この工程では、正極合材層を形成した複数の負極を結束し、電極構造体としてもよい。
【0033】
(空隙形成工程)
この工程では、形成した添加固体含有ポリマー膜を正極と負極との間に介在させ、溶媒を加えて添加固体を溶解させる処理を行う。この処理によって、添加固体が溶解して生じる空間であり、二次電子顕微鏡像で確認可能であり平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上である空隙をポリマー膜に形成することができる。添加固体を溶解させる溶媒は、電解液の溶媒とすることが好ましい。こうすれば、電解液以外の溶媒を含まずにポリマー膜に所定の空隙を形成することができる。
【0034】
以上詳述した蓄電デバイス及びポリマー膜では、入出力特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、このポリマー膜は、空隙を十分有するため、高い伝導度を有することによって、蓄電デバイスの入出力特性を向上させることが可能となる。また、ポリマー膜に含有させる添加固体がリチウム塩である場合は、電極近傍においてリチウムイオン濃度が高くなることから、反応抵抗を低減することも可能となり、入出力特性の向上に寄与するものと推察される。また、活物質を有する柱状体の電極を用いた蓄電デバイスにおいては、柱状体の外周面でリチウムイオンの出入りを行うことができるため、入出力特性を向上すると共に、高いエネルギー密度を達成することができる。
【0035】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイス10において、負極や正極は、集電部材を内包しないものについて説明したが、特にこれに限定されず、各電極は、集電線などの集電部材を埋設していてもよい。
【0037】
上述した実施形態では、負極11が複数層に積層された電極構造体を有する蓄電デバイス10を説明したが、負極11が1層である電極構造体を有する蓄電デバイスとしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、蓄電デバイスのキャリアをリチウムイオンとしたが、特にこれに限定されず、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2族元素イオンとしてもよい。また、正極活物質は、キャリアのイオンを含むものとすればよい。また、電解液を非水系電解液としたが、水溶液系電解液としてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、柱状体の負極11は、円柱形状である例を説明したが、特にこれに限定されず、四角柱や六角柱などの多角柱の形状としてもよい。
【0040】
上述した実施形態では、正極活物質を遷移金属複合酸化物としたが、特に限定されず、例えば、キャパシタに用いられる炭素材料としてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0041】
上述した実施形態では、蓄電デバイス10は、柱状の電極構造体としたが、特にこれに限定されない。図2は、積層構造の蓄電デバイス10Bの一例を示す模式図である。この蓄電デバイス10Bは、負極集電体12B上に形成された負極活物質層13を備えた負極11Bと、正極集電体17B上に形成された正極活物質層18を有する正極16Bと負極11Bと正極16Bとの間に配設されたポリマー膜20Bとを備えており、これらが積層した構造を有している。このポリマー膜20Bは、二次電子顕微鏡像で確認可能な空隙を有し、この空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上であるものである。また、ポリマー膜20Bは、表面を観察したときにドメイン21が形成されている。このような、積層構造の蓄電デバイス10Bにおいても、入出力特性をより情報することができる。
【実施例
【0042】
以下には、上述した蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~5が本開示の実施例に相当し、実験例6、7が比較例に相当する。
【0043】
(実験例1)
(ポリマー膜の作製)
樹脂としてのフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた溶液に対して、常温固体であり溶媒に溶解する添加固体であるリチウム塩としてリチウムビスオキサラートボレート(LiBOB)をPVdF-HFPの100質量部に対して50質量部となる量を加えて均一に溶解するまで混合した。これをポリテトラフルオロエチレン製シャーレに滴下して得られたものを実験例1のポリマー膜とした。実験例1~7のポリマー膜の膜厚は、10μmであった。
【0044】
(実験例2~5)
常温固体であり溶媒に溶解するリチウム塩としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を樹脂に添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例2のポリマー膜とした。常温固体であり溶媒に溶解する添加固体としてエチレンカーボネート(EC)を樹脂に添加した以外は実験例1と同様に作製したものを実験例3のポリマー膜とした。LiBOBの添加量を、樹脂の100質量部に対して30質量部とした以外は実験例1と同様に作製したものを実験例4のポリマー膜とした。LiBOBの添加量を、樹脂の100質量部に対して10質量部とした以外は実験例1と同様に作製したものを実験例5のポリマー膜とした。
【0045】
(実験例6、7)
常温固体であり溶媒に溶解する添加固体を加えない以外は実験例1と同様に作製したものを実験例6のポリマー膜とした。溶媒に溶解しない添加固体としてアルミナ(住友化学製Al23:型番AA-03,中心粒径0.44μm)を加えた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例7のポリマー膜とした。
【0046】
(ポリマー膜の評価)
(1)SEM観察
得られたポリマー膜に対して、SEM観察、X線回折測定を実施するとともに、電解液の保液率、電気伝導度(イオン伝導度)を測定した。SEM観察では、上記作製したポリマー膜を溶媒(ジメチルカーボネート)で洗浄、乾燥したあと、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S-3600N)を用い、ポリマー膜の表面を観察した。SEM観察は、1000~5000倍の条件で行った。また、SEM画像をナノシステム製NS2K-Ltのソフトウエアを用い、画像解析により二値化し、画像に存在する黒色領域を空隙としてその数をカウントした。二値化の閾値は、画像全体の輝度に合わせて調整し、図3Dでは88、図3Eでは126、図3Fでは126とした。このカウント数を元に、単位面積(μm2)あたりの空隙個数を表す平均表面細孔密度(個/μm2)を求めた。
【0047】
(2)X線回折測定
上記作製したポリマー膜を溶媒(ジメチルカーボネート)で洗浄、乾燥したあとのポリマー膜に対して、X線回折測定を行った。測定は放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用したX線回折装置(リガク製、Ultima IV)を用いて行った。X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定して測定を行った。また、測定は5°/分の走査速度、2θ=10°~50°の角度範囲で記録した。
【0048】
(3)電解液の保液率
上記作製したポリマー膜を溶媒(ジメチルカーボネート)で洗浄、乾燥したあとのポリマー膜を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に浸漬させ、単位体積あたりの浸漬前後の質量変化から保液率(質量%)を算出した。実験例6の値を100として、他の実験例の値を規格化した。
【0049】
(4)電気伝導度(イオン伝導度)
上記作製したポリマー膜を溶媒(ジメチルカーボネート)で洗浄、乾燥したあとのポリマー膜を2枚のNi電極で挟んだ測定セルを作製し、交流インピーダンス法によって、ポリマー膜の伝導度を評価した。上記作製した測定セルに対し、ACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、開回路電圧で振幅±500mV、周波数領域を1Hz~100kHz、測定温度を25℃で測定し、集電体間の抵抗からイオン伝導度(mS/cm)を算出した。実験例6の値を100として、他の実験例の値を規格化した。
【0050】
(蓄電デバイスの作製)
直径160μm、長さ6.0cmの柱状体の負極としてのカーボンロッドに対し上記作製した樹脂/添加固体溶液をディップ法で被覆、乾燥し、膜厚7μmのポリマー膜を形成した。次に、正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.32)と、導電材としてのアセチレンブラック(デンカ社製HS-100)と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを質量比で90:6:4となるよう配合したものにN-メチルピロリドンを加えて正極合材ペーストとした。上記のポリマー膜被覆カーボンロッドに、この正極合材ペーストをディップコートすることにより、カーボンロッド単位長さあたりの正極合材の目付量で0.35mg/cmとなるように正極合材層を形成した。その後、静水圧プレスを用いて正極合材層を所定密度(2.5g/cm3)に圧した。続いて、上記の正極/ポリマー膜被覆カーボンロッドの両端をAgペーストを介してNiタブに接続し、正極合材層とAl箔を介してAlタブを接続して、Alラミネートセルに挿入した。このラミネートセルに非水電解液を注液して封止することで評価セルを作製した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。この非水電解液の注液により、ポリマー膜内の添加固体が非水電解液の溶媒へ溶解しポリマー膜に空隙が生じた。
【0051】
(IV抵抗測定)
上記作製した評価セルのコンディショニング充放電を行ったのち、IV測定を実施して電流-電圧の傾きより抵抗値を得た。コンディショニング充放電は、終止電圧を2.0~4.1V、電流値を0.05C、試験温度を25℃として実施した。
【0052】
(結果と考察)
図3は、実験例1,2,6のSEM写真であり、図6Aが実験例1の5000倍の画像、図6Bが実験例4の5000倍の画像、図6Cが実験例1の100倍の画像、図6Dが実験例4の100倍の画像である。図3は、実験例1,2,6のSEM写真(図3A~3C)及び二値化画像(図3D~3F)である。図4は、実験例1,6のX線回折測定結果である。図5は、実験例2,6のX線回折測定結果である。また、表1に、実験例1~7の、添加固体の種別、樹脂100質量部に対する添加量(質量部)、表面細孔密度(個/μm2)、X線回折の2θ=26°近傍の回折ピークの有無、保液率相対値(-)、電気伝導度相対値(-)及びIV抵抗相対値(-)をまとめて示す。ここで、保液率、電気伝導度及びIV抵抗は、添加固体を含まない実験例6の値を100としてその他の実験例の値を規格化した。
【0053】
図3に示すように、添加固体を無添加である実験例6のポリマー膜の表面は、比較的平坦であるのに対して、添加固体としてLiBOBやLiFSIを添加して作製した実験例1,2のポリマー膜の表面は、微細な空隙が無数に分布していることがわかった。また、表1に示すように、実験例6では、空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上未満であったのに対し、実験例1~5では、空隙の平均表面細孔密度が0.1個/μm2以上であり、表面に空隙をより多く有する構造になっていることが確認された。この平均表面細孔密度は、より大きいことが好ましく、0.15個/μm2以上がより好ましく、1.0個/μm2以上が更に好ましいことがわかった。また、SEM像で明確に識別できる境界で区切られた領域をドメインとしたときに、そのドメインサイズは、実験例1は、80nmであり、実験例2は、320nmであった。なお、ドメインにおいて、例えば、「うろこ状のドメインであって、隣とつながっている部分」がある場合には、その境界を規定して別のドメインとして認識するものとした。このドメインサイズが1μm以下であると、平均表面細孔密度が良好になるものと推察された。また、ドメインサイズと同様に、樹脂表面に、平均1μm以下のラフネスを有することが好ましいと推察された。更に、樹脂表面に、平均300nm以下の細孔を有することも、特徴であった。
【0054】
図4、5に示すように、添加固体を無添加の実験例6のポリマー膜は、PVdF-HFPの結晶組織に由来するピークが明確に観測されるのに対して、LiBOBやLiFSIを添加して作製した実験例1,2のポリマー膜は、ピーク強度が大幅に低下しており、結晶性の低下が示唆された。特に、実験例6では、2θ=25°~28°(26°近傍)にPVdF-HFPの結晶構造由来の021ピークが検出されるが、添加固体を加えたポリマー膜では、これが消失した。
【0055】
また、表1に示すように、常温固体であり溶媒に溶解する添加固体を添加した実験例1~5では、保液率、電気伝導度及びIV抵抗の各特性が添加固体を添加しない実験例6に対して向上することが明らかとなった。これは、例えば、ポリマー溶液にLiBOB、LiFSI、ECなどの成分を溶解させると、キャストして得られたポリマー膜の結晶性を低下させ、且つ空隙が導入されることによって、電解液の保液率が向上するものと推察された。また、この効果は実験例7のAl23など、電解液に溶解しない粒子を添加した場合には発現しないことから、添加した添加固体が電解液に溶解することで電解液がポリマー膜中へ含浸することが促進され、更にはポリマー膜中の保液量増加に寄与して、その結果として電気伝導度が向上するものと推察された。特に、リチウム塩を添加したものは、電解液にリチウム塩が溶解することによってリチウムイオン濃度が高まるため、よりリチウムイオン伝導度を高めることができるものと推察された。添加固体としては、リチウム塩がより好ましく、LiBOBが更に好ましいことがわかった。また、その添加量は、樹脂100質量部に対して10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上としてもよいことがわかった。
【0056】
【表1】
【0057】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
10,10B 蓄電デバイス、11,11B 負極、12,12B 負極集電体、13 負極活物質層、16,16B 正極、17,17B 正極集電体、18 正極活物質層、20,20B ポリマー膜、21 ドメイン。
図1
図2
図3
図4
図5