(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】植物ベースのホワイトナー組成物の製造法および該組成物を用いた飲料
(51)【国際特許分類】
A23C 11/06 20060101AFI20241001BHJP
A23L 2/62 20060101ALI20241001BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20241001BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20241001BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20241001BHJP
A23J 3/30 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A23C11/06
A23L2/00 L
A23L9/20
A23D7/00 508
A23J3/14
A23J3/30
(21)【出願番号】P 2019178769
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油グループ本社株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 弘志
(72)【発明者】
【氏名】本山 貴康
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-013395(JP,A)
【文献】特開2002-101837(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084094(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/171359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23D
A23J
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上、乳タンパク質の割合が50質量%以下である、植物ベースのホワイトナー組成物の製造において、
原料として下記a)~d)
及びg)の要件を満たす植物性タンパク質素材を用いることを特徴とする、植物ベースのホワイトナー組成物の製造法:
a)固形分中のタンパク質含量が50質量%以上、
b)NSIが
85以上、
c)分子量分布の測定結果で10000Da以上の面積比率が
45~70.7%、かつ2000Da以上10000Da未満の面積比率が
22.4~40%、
2000Da未満の面積比率が9%以下、
d)22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときにゲル化しないこと
g)分子量分布調整処理が施されたものであり、該処理はNSIを維持しながら植物性タンパク質を分解する処理である。
【請求項2】
該植物性タンパク質素材が、さらに下記e)の特徴を有する、請求項1記載の製造法:
e)タンパク質含量が10質量%となるように調製した水溶液の粘度が、50mPa・s以下である。
【請求項3】
該植物性タンパク質素材が、さらに下記f)の特徴を有する、請求項1又は2記載の製造法:
f)キレート化合物を含む。
【請求項4】
該ホワイトナー組成物の原料として、乳タンパク質を含まない、請求項1~3の何れか1項記載の製造法。
【請求項5】
該ホワイトナー組成物の原料として、乳化剤が0.01質量%以下の割合で含まれる、請求項1~4の何れか1項記載の製造法。
【請求項6】
該ホワイトナー組成物の原料として、乳化剤を含まない、請求項1~4の何れか1項記載の製造法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項記載の製造法で得られるホワイトナー組成物を乳濁飲料の他の原料と混合し、得られた混合液を容器に充填および密封し、加熱殺菌して得られることを特徴とする、密封容器入り乳濁飲料の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物ベースのホワイトナー組成物の製造法および該組成物を用いた飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
カゼインなどの乳タンパク質は高濃度の溶液でも低粘度であり、高い乳化性と溶解性を併せ持つことから、コーヒーや紅茶に用いられるホワイトナーの原料として広く用いられている。乳タンパク質は、容器詰めの乳成分入りコーヒー飲料などの原料としても広く用いられている。
【0003】
また、大部分の市販のホワイトナーやコーヒー飲料には、乳タンパク質のほかにショ糖脂肪酸エステルや有機酸モノグリセリド等の乳化剤が用いられる場合があった。。乳化剤が用いられる理由は、コーヒーのような酸性かつ高温の条件下にさらされても凝集やフェザーリングが発生しない、高度な耐酸性や耐熱性、乳化安定性が付与されたホワイトナーを得るためには、乳タンパク質の乳化性のみでは不十分となる場合があるためである。
【0004】
一方、人口増加に伴う食糧供給不安から、動物性タンパク質を使用した食品から植物性タンパク質を使用した食品に代替する試みが行われている。
【0005】
しかしながら、一般に大豆タンパク質やエンドウタンパク質などの植物性タンパク質は、溶液にしたときの粘度の高さ、溶解性、レトルト加熱等による耐熱性といった点で乳タンパク質に劣る場合があり、増粘や凝集物の発生などの問題が乳タンパク質よりも生じやすく、その配合量が制限されてしまう場合がある。このような点が阻害要因となり、植物性タンパク質の乳タンパク質の代替物としての利用が、なかなか進まないのが現状である。
【0006】
乳タンパク質との代替目的で、従来は植物性タンパク質素材に種々の乳化剤や添加剤を組み合わせる技術や、植物性タンパク質素材自体の改良技術がいくつか提供されている。
例えば特許文献1では、分離大豆タンパクに還元糖を添加し加熱処理してメイラード反応を促しつつ、酵素分解を行い、かかるタンパク質素材を乳化剤と組み合わせてホワイトナーを得る技術を提供している。
【0007】
また、特許文献2では、タンパク質を140℃で30秒間程度加熱処理した後に酵素分解を行い、その後油脂を含有させて、油脂含有大豆タンパク質素材を得る技術を提供している。この油脂含有タンパク質素材を用い、乳化剤を添加してホワイトナーを得ている。
これら特許文献1、2の技術は、植物性タンパク質素材の改良により、タンパク質の溶解性を保持しつつ、低粘度化を図ったものである。
【0008】
上記文献および本明細書内に示される文献は、出典明示により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2009/84529号公報
【文献】国際公開第2017/141934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
カゼインナトリウム等の乳タンパク質が通常用いられている、ホワイトナーや乳入りコーヒー飲料にあって、合成乳化剤を用いずに耐酸性や耐熱性に優れた品質の製品を製造することは、健康嗜好が高まる中でニーズがあるが、技術的に多くの困難が生ずる。ましてや植物ベースの食品を求めるニーズが高まりつつある中で、乳タンパク質よりも耐熱性や耐酸性が低い傾向にある植物性タンパク質を乳代替原料として用いることは、極めて困難である。
【0011】
そこで本発明者らは、植物性タンパク質素材を配合し、満足のいく耐酸性及び耐熱性を有する、植物ベースのホワイトナーやコーヒー飲料を製造できる技術を提供することを課題とする。また、乳タンパク質や乳化剤を添加しなくても、満足のいく耐酸性及び耐熱性を有する、植物ベースのホワイトナーやコーヒー飲料を製造できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ホワイトナーやコーヒー飲料の原料であるタンパク質素材として、乳タンパク質の一部又は全部の代替として特定の植物性タンパク質素材を選択し、これを添加したところ、満足のいく耐酸性及び耐熱性を有する、植物ベースのホワイトナーやコーヒー飲料が得られることを見出した。また、乳タンパクや合成乳化剤を添加しなくとも満足のいく耐酸性及び耐熱性を有する、植物ベースのホワイトナーやコーヒー飲料が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち本発明は、以下のような構成を包含するものである。
(1)全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上、乳タンパク質の割合が50質量%未満である、植物ベースのホワイトナー組成物の製造において、
原料として下記a)~d)の要件を満たす植物性タンパク質素材を用いることを特徴とする、植物ベースのホワイトナー組成物の製造法:
a)固形分中のタンパク質含量が50質量%以上、
b)NSIが67以上、
c)分子量分布の測定結果で10000Da以上の面積比率が30~80%、かつ2000Da以上10000Da未満の面積比率が20~50%、
d)22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときにゲル化しないこと、
(2)該植物性タンパク質素材が、さらに下記e)の特徴を有する、前記(1)記載の製造法:
e)タンパク質含量が10質量%となるように調製した水溶液の粘度が、50mPa・s以下である、
(3)該植物性タンパク質素材が、さらに下記f)の特徴を有する、前記(1)又は(2)記載の製造法:
f)キレート化合物を含む、
(4)該ホワイトナー組成物の原料として、乳タンパク質を含まない、前記(1)~(3)の何れか1項記載の製造法、
(5)該ホワイトナー組成物の原料として、乳化剤が0.01質量%以下の割合で含まれる、前記(1)~(4)の何れか1項記載の製造法、
(6)該ホワイトナー組成物の原料として、乳化剤を含まない、前記(1)~(4)の何れか1項記載の製造法、
(7)前記(1)~(6)の何れか1項記載の製造法で得られるホワイトナー組成物を乳濁飲料の他の原料と混合し、得られた混合液を容器に充填および密封し、加熱殺菌して得られることを特徴とする、密封容器入り乳濁飲料の製造法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(植物ベースのホワイトナー組成物)
本明細書において、「ホワイトナー組成物」の用語は、飲料やスープ等の液体食品や、ゼリーや冷菓等の固体食品を主に乳濁させるために用いられる組成物を指す。該組成物は液状、塊状、顆粒状又は粉末状等の形態であり得る。ホワイトナー組成物の成分としてはタンパク質を必須とし、必要により脂質、炭水化物、塩類等を含む。典型的にはコーヒーや紅茶、緑茶などの苦味を有する食品に用いられ、乳濁目的の他に、マイルド感を付与するためにも利用されうる。また、コーヒーや紅茶などの飲料だけでなく、コーヒーゼリー、プリン、フルーツゼリーの上掛けなどにも利用される。市販製品ではコーヒーホワイトナー(コーヒークリーマー)と称されるものが代表的であるが、このような呼称には限定されない。
【0016】
本明細書において「植物ベース」という用語は、植物原料を主体とすることを意味し、特に含まれるタンパク質が主に植物由来であることを指す。
より具体的には、ホワイトナー組成物が植物ベースであるためには、ホワイトナー組成物中に含まれる全タンパク質に対する植物性タンパク質の割合が50質量%以上である。ある実施形態における該割合は、より好ましくは55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上であることができ、最も好ましくは100質量%である。
【0017】
また、ある実施形態において、ホワイトナー組成物中に含まれる全タンパク質に対するカゼイン塩や脱脂粉乳等に由来する乳タンパク質の割合は、50質量%未満である。ある実施形態における該割合は、より好ましくは45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であることができ、最も好ましくは0質量%、すなわちホワイトナー組成物の原料として乳タンパク質を含まないことが最も好ましい。これによって植物性タンパク質による乳タンパク質からの代替効果がより高まり、本発明の効果が一層有意義なものとなる。
【0018】
(植物性タンパク質素材)
本発明の植物ベースのホワイトナー組成物(以下、「本ホワイトナー組成物」と称する。)は、植物性タンパク質素材を原料とする。
本明細書において「植物性タンパク質素材」の用語は、植物性タンパク質を主成分とし、各種加工食品や飲料に原料として使用されている食品素材を指す。該植物性タンパク質素材の由来の例として、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類などが挙げられる。一例として大豆由来のタンパク質素材の場合、脱脂大豆や丸大豆等の大豆原料から、さらにタンパク質を濃縮加工して調製されるものであり、一般には分離大豆タンパク質、濃縮大豆タンパク質や粉末豆乳、あるいはそれらを種々加工したものなどが概念的に包含される。
【0019】
本ホワイトナー組成物は、タンパク質として任意の植物性タンパク質素材が選択されて、上記の組成範囲となるように添加されるのみでは、耐酸性や耐熱性において満足できる品質のホワイトナー組成物を得ることが困難である。すなわち、上記組成範囲において下記に示すa)~d)の要件を満たす特定の植物性タンパク質素材を選択し、組み合わせることが本発明において重要である。
【0020】
a)タンパク質純度
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、固形分中のタンパク質含量が50質量%以上である。該タンパク質含量の値は60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上又は95質量%以上とすることもできる。
上記範囲に含まれる植物性タンパク質素材の種類としては、分離タンパク質(protein isolate)が好ましく、例えば大豆由来のタンパク質素材の場合であれば、分離大豆タンパク質などが含まれる。
タンパク質の純度が高い上記範囲に含まれる植物性タンパク質素材を用いることは、ホワイトナー組成物中のタンパク質含有量を効率的に高めるのに好適である。タンパク質含量が50質量%に満たないタンパク質含量が低いものを使用した場合、タンパク質を高度に含有させるために、より多量に該素材を配合する必要が生じる。該配合量が多くなると、他の原料の配合に制約が生じるなどの別の問題が発生しやすい。
【0021】
b)タンパク質のNSI
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、タンパク質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が67以上のものである。より好ましくはNSIが70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上、又は97以上のものを用いることができる。例えば、NSIが高い植物性タンパク質素材としては、タンパク質が不溶化される処理、例えば酵素分解処理やミネラルの添加処理等、がされていないもの、あるいは当該不溶化処理がなされていてもその後に溶解処理がなされているものなどを用いることが好ましい。
植物性タンパク質素材のNSIが高いことは、水への分散性が高いことを示し、本ホワイトナー組成物の分散安定性に寄与し得る。NSIが低すぎるとホワイトナー組成物自体に沈殿が生じやすくなり、保存安定性が低下して好ましくない。
なお、NSIは後述する方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗タンパク)の比率(質量%)で表すものとし、本発明においては後述の方法に準じて測定された値とする。
【0022】
c)分子量分布
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、ゲルろ過による分子量を測定した場合に、その分子量分布の面積比率は、10000Da以上が30~80%、2000Da以上10000Da未満が20~50%である。また、ある実施形態において、2000Da未満の面積比率は15%以下である。
10000Da以上の面積比率はさらに、30~75%、35~75%、40~70%又は45~70%であるのが好ましい。
2000Da以上10000Da未満の面積比率はさらに、20~45%、25~45%、25~40%又は25~35%であるのが好ましい。
2000Da未満の面積比率はさらに、15%以下、13%以下、9%以下、8%以下又は7%以下であるのが好ましい。また下限は特に限定されないが、例えば0%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上又は3%以上が挙げられる。
植物性タンパク質素材の分子量分布がこのような範囲にあることは、何ら分解処理等がされていない未分解のタンパク質よりも中程度に低分子化されたものが多いことを示す一方、高度に分解された低分子のペプチドは少ないことを示している。該植物性タンパク質がかかる分子量分布を有することは、本ホワイトナー組成物自体の乳化安定性と、耐酸性や耐熱性などのホワイトナー適性に寄与し得る。
なお、分子量分布の測定は、後述する方法に基づくものとする。
【0023】
d)加熱ゲル化性
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、この溶液を高濃度で加熱したときにゲル化性を示さないものであることが好ましい。ゲル化性の有無は、より詳細には後述する方法により確認するものとするが、22質量%溶液を80℃で30分間加熱したときに、該溶液がゲル化しないことが重要である。
植物性タンパク質素材に加熱ゲル化性がないことは、本ホワイトナー組成物の溶液粘度が低く、レトルト加熱等により加熱してもホワイトナー組成物の粘度が上昇しにくいことを示し、本ホワイトナー組成物の温度変化に対する安定性に寄与する。植物性タンパク質素材が加熱ゲル化性を有すると、ホワイトナー組成物の粘度が加熱により上昇してしまい、またそれによって該ホワイトナー組成物をコーヒー等に添加する場合などに、他原料とホワイトナー組成物との混合性が不良となり、好ましくない。
【0024】
NSIが高い植物性タンパク質素材は、その高濃度溶液において加熱によるゲル化性を示すことが一般的である。一方で、分子量分布で高分子量の領域の面積比率が低くなっている植物性タンパク質は、加熱ゲル化性を示しにくくなる一方、NSIが90未満となって溶解性が低下することが一般的である。しかし、本ホワイトナー組成物に用いられる上記特定の植物性タンパク質素材は、高分子領域の面積比率を若干低くすることにより、タンパク質のNSIを高く維持しながら、加熱によるゲル化性を示さないものである。
【0025】
e)粘度
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、上記a)~d)の特性を満たせば必須に限定される特性ではないが、この植物性タンパク質素材溶液の粘度を一定条件で測定したときに、低粘度であることが好ましく、具体的には50mPa・s以下、好ましくは40mPa・s以下、より好ましくは35mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下、さらにより好ましくは20mPa・s以下、またさらに好ましくは15mPa・s以下が好ましい。また、粘度の下限は特に限定されないが、例えば0.5mPa・s以上、1mPa・s以上等が挙げられる。
なお、粘度は後述する方法により測定する。
【0026】
f)キレート化合物の含有
本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材は、上記a)~d)の特性を満たせば必須に限定される特性ではないが、ある態様ではキレート化合物を含むことが好ましい。本ホワイトナー組成物がコーヒー等の酸性の飲料に使用される場合、キレート化合物が特定の植物性タンパク質素材中に含まれることによって、より耐酸性に優れた特性を付与することができる。特に酸性の飲料のpHが6以下、さらに5.8以下、さらに5.5以下、さらに5以下の場合に有効である。
キレート化合物としては、リン酸、第一リン酸、第二リン酸、多価リン酸、メタリン酸、縮合リン酸、フィチン酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、あるいはこれらのアルカリ金属塩、EDTA等が用いられる。アルカリ金属はナトリウム又はカリウムである。
植物性タンパク質素材中のキレート化合物の含量は、タンパク質含量に対して10~100質量%、好ましくは14~70質量%が適当である。なお、キレート化合物の含量は上記に例示するようなキレート化合物の総含量で表すが、植物性タンパク質素材の製造時に外的に添加されたキレート化合物の含量を表し、植物性タンパク質素材の原料植物に由来するフィチン酸等のキレート化合物は除くものとする。
【0027】
g)分子量分布調整処理
上記植物性タンパク質素材は、植物性タンパク質をわずかに分解させることにより、またはある程度分解させた後に、上記の分子量の比率となるようにろ過、ゲルろ過、クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動等の技術を組み合わせることにより得られ得る。また、上記処理に、わずかな変性処理を組み合わせてもよいし、変性処理を行わなくてもよい。タンパク質を分解または変性させる処理の例として、酵素処理、酸処理、アルカリ処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、減圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。また、これらの処理の組み合わせの際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間を置いてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。これらの処理の条件、例えば酵素活性、酸、アルカリ、溶媒、ミネラル等の濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。本明細書において、このような処理を便宜上「分子量分布調整処理」と称する。なお、上記特性を満たす限り、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材と、分子量分布調整処理を経ていない植物性タンパク質を混合して、本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材としてもよい。この場合、両者の比率(分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材:分子量分布調整処理を経ていない植物性タンパク質)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材のみを本ホワイトナー組成物に用いられる特定の植物性タンパク質素材とする。
【0028】
本ホワイトナー組成物中の植物性タンパク質素材の含量は、該組成物の固形分中にタンパク質換算で2~100質量%、5~100質量%、12~95質量%又は15~90質量%等とすることができる。
【0029】
<その他の原料>
本ホワイトナー組成物には、植物性タンパク質素材以外のの各種原料を本ホワイトナー組成物の実施形態や、最終製品の実施形態に合わせ、必要に応じて含有させることができる。
【0030】
(油脂)
本ホワイトナー組成物は、ある好ましい態様では油脂を含むことができ、水中油型乳化物の形態とすることが好ましい。油脂種は特に限定されないが、全油脂中の植物性油脂の割合を50質量%以上とするのが好ましい。ある実施形態における該割合は、より好ましくは55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上とすることができ、最も好ましくは100質量%である。
例えば、植物性油脂としては、大豆油、菜種油、コ-ン油、綿実油、落花生油、ヒマワリ油、こめ油、サフラワ-油、オリ-ブ油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油などを用いることができ、これらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が使用でき、中鎖脂肪酸や多価不飽和脂肪酸を含有する油脂も使用できる。また、植物性油脂は微生物由来の油脂に置き換えることもできる。
一般に液状の水中油型乳化物を調製する際には、融点の低い液状~半固形油脂を使用する方が好ましく、粉末状の乳化組成物を調製する際には、固形~極度硬化油脂を使用する方が好ましい。
本ホワイトナー組成物中の油脂含量は、該組成物の固形分中に0~90質量%、5~88質量%、10~85又は20~80質量%等とすることができる。
なお、上記油脂含量は、植物性タンパク質素材に油脂が含まれる場合には、該タンパク質素材中の油脂の量を含めて油脂の含量が算出される。なお、油脂含量は、酸分解法により測定される。
【0031】
(炭水化物)
本ホワイトナー組成物は、ある態様では炭水化物を含むことができる。特にホワイトナー組成物が粉末形態の場合は、賦形剤として炭水化物が比較的多く用いられる。
本ホワイトナー組成物に含まれる炭水化物の具体例として、でん粉を含む糖質と食物繊維が挙げられる。より具体的に、炭水化物としては、果糖、ブドウ糖、砂糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、水飴、カップリングシュガー、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖,還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール、還元水飴等)、デキストリン、澱粉類(生澱粉、加工澱粉等)が挙げられる。また食物繊維としては、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、結晶セルロース、増粘多糖類等が挙げられる。
本ホワイトナー組成物中の炭水化物含量は、該組成物の固形分中に0~70質量%とすることができる。下限値はさらに1質量%以上、2質量%以上、5質量%以上又は10質量%以上とすることができ、特に粉末形態では30質量%以上、40質量%以上又は50質量%以上とすることができる。また上限値はさらに65質量%以下、30質量%以下又は20質量%以下等とすることができる。
【0032】
(乳化剤)
本ホワイトナー組成物は、ある態様では乳化剤を含むことができる。また、ある態様では乳化剤を含まないことも可能である。ここで乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、レシチンなどが例示される。これら乳化剤は単独又は複数を組み合わせて選択しても良い。
本ホワイトナー組成物中の乳化剤の配合量は、本ホワイトナー組成物の実施形態や、最終製品である乳化食品の実施形態に応じて適宜調整することができる。
ある実施形態では、近年の乳化剤を敬遠するニーズに対応する場合、本ホワイトナー組成物中の乳化剤の含量を0.01質量%以下、0.005質量%、又は0.001質量%以下とすることが好ましい。特に乳化剤を含まないことが好ましい。本ホワイトナー組成物は、このように乳化剤が低含有ないし非含有であっても、耐酸性および耐熱性を維持することができることが特徴である。
【0033】
(その他添加物)
本ホワイトナー組成物には、風味や色、甘味、粘度の調節を目的として、香料、着色料、保存料、緩衝剤、高甘味度甘味料、増粘多糖類、プレバイオティクス、プロバイオティクス、医薬活性物質等を必要に応じて添加してもよいし、しなくてもよい。
【0034】
(ホワイトナー組成物のメディアン径)
ある実施形態において、本ホワイトナー組成物のメディアン径は、3μm以下であり、好ましくは2μm以下、1μm以下、0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下、さらにより好ましくは0.6μm以下の範囲である。メディアン径がかかる範囲であることにより、乳化安定性がより良好となる。なお、メディアン径の測定方法は後述の方法による。
【0035】
(ホワイトナー組成物の製造態様)
本ホワイトナー組成物の製造は、上記原料の配合割合に応じて適宜常法に従って行えば良く、特に限定はされない。例えば国際公開第2010/073575号公報、特開2016-189719号公報に記載の方法を用いて製造できる。
以下、油脂を配合するホワイトナー組成物の一つの製造態様を示すが、あくまで例示であってかかる態様のみに限定されるものではない。
上記特定の植物性タンパク質素材、およびその他の原料を混合し、高圧ホモゲナイザー等により溶液を均質化し、必要により加熱殺菌を行い、本ホワイトナー組成物を得る。具体的なホワイトナーの調製方法は公知の方法によればよいが、以下具体例を説明する。
【0036】
○植物性タンパク質素材
本ホワイトナー組成物は、上記特定の植物性タンパク質素材を用いて調製できる。典型的には、本ホワイトナー組成物は、分子量分布調整処理を経た植物性タンパク質素材を原料として調製できる。あるいは、上記特定の植物性タンパク質素材は、植物性タンパク質素材の製造業者、例えば不二製油株式会社等から購入する、又は製造業者に製造を依頼することによって、容易に入手することができる。なお、従来の市販の大豆タンパク質素材である「フジプロE」、「フジプロCL」、「フジプロAL」、「ニューフジプロ4500」、「プロリーナRD-1」、「プロリーナ900」、「プロリーナHD101R」などは、いずれも上記a)~d)の全特性を満たす植物性タンパク質素材に該当しない。したがって、これらを用いたとしても本ホワイトナー組成物を得ることはできない。
【0037】
○混合・均質化
水相部については、任意の温度範囲で調製できる。より具体的な実施形態では、加熱により溶解性が向上する親水性乳化剤や炭水化物などを含む場合は、例えば20~70℃、好ましくは55~65℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。水相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、塩類や水溶性の香料等を加える場合には、水相部に添加する。
油相部については、油脂を含む油溶性の材料を混合して、例えば50~80℃、好ましくは55~70℃の温度範囲で溶解又は分散させて調製できる。油相部に添加する原料は当業者が適宜決定できる。例えば、親油性乳化剤を用いる場合には、原料油脂の一部または全部に添加する。
得られた油相部と水相部は、例えば40~80℃、好ましくは55~70℃に加温し、混合して予備乳化を行う。予備乳化はホモミキサー等の回転式攪拌機を用いて行うことができる。予備乳化後、ホモジナイザー等の均質化装置にて均質化する。ホモジナイザーによる均質化の際の圧力は3~100MPaとすることができ、好ましくは10~80MPaとすることができる。
【0038】
○加熱殺菌
得られた組成物は、必要により加熱殺菌処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。加熱殺菌処理を行う場合、例えば間熱加熱方式又は直接加熱方式によるUHT滅菌処理法などにて処理し、必要により再度ホモジナイザーにて均質化し、2~15℃などに冷却する。加熱殺菌の温度は例えば110~150℃、好ましくは120~140℃で行い、加熱殺菌の時間は例えば1~10秒間、好ましくは3~7秒間で行うことができる。
【0039】
○製品化
以上により得られた本ホワイトナー組成物は、液状のまま、ペースト状に加工し、又は粉末状に加工するなどして、密閉包装し、製品として提供することができる。
【0040】
(本ホワイトナー組成物の特徴)
ある実施形態では、本ホワイトナー組成物は、調製時に平均粒子径が1μm以下、好ましくは0.9μm以下の極めて乳化粒子径が小さいものである。またさらなる実施形態では、本ホワイトナー組成物は、レシチンや合成乳化剤などの乳化剤を添加しなくても前記乳化粒子径に調製できる。またさらなる実施形態では、本ホワイトナー組成物は、加熱処理を行っても乳化破壊が生じにくく、そのため低粘度で乳化安定性の高いものである。
粘度の好ましい例として、50mPa・s以下、40mPa・s以下、35mPa・s以下、30mPa・s以下、20mPa・s以下、15mPa・s以下、等が挙げられる。また、粘度の下限は特に限定されないが、例えば0.5mPa・s以上、1mPa・s以上等が挙げられる。
【0041】
(密封容器入り乳濁飲料の製造)
本明細書において、「乳濁飲料」とは、例えば乳成分入りのコーヒー飲料やミルクティーのような、外観上乳濁した飲料を指し、粉乳のような乳成分を含有する飲料に限定されない。例えば、イチゴやメロン等の果汁と乳成分を含む飲料、緑茶やウーロン茶等の茶成分と乳成分を含む飲料などの外観上乳濁した飲料も包含される。
「容器」とは、アルミ缶、スチール缶、ペットボトル、瓶、レトルトパウチ等の容器を指す。「密封容器」とは密封された容器を指す。
【0042】
本ホワイトナー組成物を、乳濁飲料の他の原料と混合し、得られた混合液を容器に充填および密封し、レトルト殺菌機等により加熱殺菌することにより、密封容器入りの植物ベースの乳濁飲料を製造することができる。
他の原料としては、例えばコーヒー抽出液,紅茶抽出液,緑茶抽出液等の乳濁飲料のベースとなる抽出液、糖類や高甘味度甘味料等の甘味原料、ミネラル類、pH調整剤、増粘多糖類、ビタミン類、食物繊維類等が挙げられる。
具体的な製造条件は特に限定されるものではなく、公知の条件を用いれば良い。当該密封容器入り乳濁飲料のpHは、低酸性域よりも中性付近の方がタンパク質の溶解性の点で望ましく、具体的には例えばpH5.5以上、pH5.7以上、pH5.9以上、pH6以上、pH6.2以上、pH6.4以上又はpH6.5以上などであることができる。pHの上限は特に限定されないが、例えばpH9以下、pH8.5以下、pH8以下又はpH7.5以下などであることができる。
【0043】
(測定方法)
本明細書において、本ホワイトナー組成物やその原料に関する成分や物性の測定は、以下の方法に準ずる。
【0044】
<タンパク質含量>
ケルダール法により測定する。具体的には、105℃で12時間乾燥したタンパク質素材重量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中のタンパク質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0045】
<油脂(脂質)含量>
酸分解法により測定する。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0046】
<炭水化物>
試料から水分、タンパク質、脂質、灰分(直接灰化法による)の含量を引いた値とする。
【0047】
<NSI>
試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液及び(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これをろ紙(NO.5)にてろ過した後、ろ液中の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素量(水溶性窒素)の試料中の全窒素量に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0048】
<分子量分布>
溶離液でタンパク質素材を0.1質量%濃度に調整し、0.2μmフィルターでろ過したものを試料液とする。2種のカラム直列接続によってゲルろ過システムを組み、はじめに分子量マーカーとなる既知のタンパク質等(表1)をチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。次に試料液をチャージし、各分子量画分の含有量比率%を全体の吸光度のチャート面積に対する、特定の分子量範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(1stカラム:「TSK gel G3000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、2ndカラム:「TSK gel G2000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社製)、溶離液:1%SDS+1.17%NaCl+50mMリン酸バッファー(pH7.0)、23℃、流速:0.4ml/分、検出:UV220nm)。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0049】
【0050】
<0.22M TCA可溶率>
タンパク質素材の2質量%水溶液に、0.44M トリクロロ酢酸(TCA)を等量加え、可溶性窒素の割合をケルダール法により測定した値とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0051】
<加熱ゲル化性>
タンパク質素材を22質量%濃度となるよう水に溶解してpH7に調整し、遠心脱泡してスラリー状とする。ケーシングチューブに充填し、80℃×30分の加熱を行った後、一晩冷蔵し、室温に戻して、物性評価用の試料とする。
試料のケーシングを剥離したときに、液状又は無定形のペースト状であるものを「加熱ゲル化性なし」とする。また、試料が剥離前の形状を維持できているものを「ゲル化性あり」とする。
【0052】
<界面張力>
タンパク質素材をタンパク質含量が10質量%濃度となるよう水に溶解した後、脱気し、ホモジナイザーで50MPaの圧力で均質化したものを再度脱気する。この溶液を同様の操作で10倍ずつ希釈して0.01質量%濃度の溶液を試料液とする。
試料液は懸滴法による界面張力測定装置(望ましくはKYOWA社製)で20℃に調温されたなたね油が入ったガラスセルに試料液が入ったシリンジを挿入して液滴を作製し、測定を行う。液滴作製3分後の値を記録する。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0053】
<遠心沈殿>
ホワイトナー組成物及びタンパク質素材の保存中の安定性の加速試験として、遠心沈殿の有無を観察する。
タンパク質素材の10質量%水溶液、又はホワイトナー組成物を容量50mLの遠心チューブに35mL入れ、1500×g(3000rpm)で10分間遠心分離を行う。遠心後のチューブをゆっくりと転倒し、沈殿の層の厚みを測定し、この測定値を沈殿量(mm)とした。沈殿量が3mm未満である場合は「-」、3~5mmである場合は「±」、5mmを超える場合は「+」とし、沈殿量の程度が大きい順に「+++」>「++」>「+」とする。
【0054】
<粘度>
タンパク質素材の粘度は、該水溶液をタンパク質含量が10質量%となるように調製し、25℃にてB型粘度計(望ましくはBrookfield社製)でローターは「#LV-1」を使用し、100rpmで1分後の測定値とする。「#LV-1」で測定不能な場合は順次ローターを「#LV-2」、「#LV-3」、「#LV-4」、「#LV-5」に代えて使用する。「#LV-1」/100rpmで低粘度により測定不能の場合は「下限」とし、「#LV-5」/100rpmで高粘度により測定不能な場合は「上限」とする。ホワイトナー組成物の粘度もそのまま上記と同様の方法で測定する。
【0055】
<メディアン径>
メディアン径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(望ましくは島津製作所社製)で測定し、体積基準での積算分布を用いたメディアン径とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値、数値が低い場合は有効数字を2桁として次の桁の数値、を四捨五入して求められる。
【0056】
<コーヒー添加試験>
ホットコーヒー150mL(インスタントコーヒー2gに熱湯を注いだもの。pHは約5.1)に対し、ホワイトナー組成物を5mL滴下し、フェザリングと凝集の発生の有無を下記の基準で評価する。
(-)フェザリング・凝集の発生がなく、良好
(±)フェザリング・凝集の発生が若干みられるが、殆ど気にならず許容範囲
(+)フェザリング・凝集の発生があり、許容できない
(++)フェザリング・凝集の発生が多くあり、許容できない
(+++)フェザリング・凝集の発生がかなり多くあり、許容できない
【実施例】
【0057】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてより具体的に説明する。なお、特記しない限り、例中の「%」や「部」は「質量%(w/w)」や「質量部」を意味する。
【0058】
(植物性タンパク質素材の準備)
植物性タンパク質素材として、表2のサンプルを入手又は製造した。
【0059】
【0060】
上記サンプルA~Lの各種成分、物性の測定値を表3、表4に示した。
【0061】
【0062】
【0063】
(製造例1)ホワイトナー組成物の製造工程
ホワイトナー組成物の基本的な製造工程は、以下の通りとした。
1)容器に入れた水を50℃に温度調整し、ホモミキサーで撹拌しながら、植物性タンパク質素材を添加し、溶解させる。
2)砂糖と油脂、必要により乳化剤を添加、混合し、水酸化ナトリウム、もしくはクエン酸や塩酸でpHを7に調整する。
3)高圧ホモジナイザーを用いて圧力15MPaにて均質化処理する。
4)プレート式加熱殺菌機にて、140℃で4秒間加熱殺菌処理を行う。
5)無菌状態にて、再度ホモジナイザーを用いて圧力30MPaで均質化処理してから、プレート式冷却機にて5℃まで冷却し、ホワイトナー組成物を得る。
【0064】
(試験例1)植物ベースのホワイトナー組成物の調製1
各種の植物性タンパク質素材を用いて、カゼインナトリウム等の乳タンパク質を含まない、植物ベースのホワイトナー組成物を調製し、該ホワイトナー組成物に適する植物性タンパク質素材を検討した。
植物性タンパク質素材として、表1のサンプルA,C,D,E,Am,Dm,Em,Gmを用い、表5の配合と製造例1の方法により、各種ホワイトナー組成物を製造した。
得られた各ホワイトナー組成物の物性(粘度、メディアン径、遠心沈殿量)を測定した。また、各ホワイトナー組成物について物性測定を行い、またコーヒー添加試験によるフェザリングと凝集の発生の有無を確認して、ホワイトナー適性を確認した。結果を表6に示した。
【0065】
【0066】
【0067】
T-5~T-8のホワイトナー組成物は、乳タンパク質が添加されていなくとも、いずれもコーヒー添加テストでフェザリングと凝集が発生しないか許容範囲の評価であり、ホワイトナー適性に優れていた。なお、植物性タンパク質素材としてサンプルBm,Cm,Fmを用いたホワイトナー組成物も同様にホワイトナー適性を有するものであった。
一方、T-1~T-4のホワイトナー組成物は、コーヒーの酸と熱に対する耐性がなく、ホワイトナー適性がないものであった。なお、植物性タンパク質素材としてサンプルBを用いたホワイトナー組成物も同様にホワイトナー適性がないものであった。
以上より、植物性タンパク質素材は、原料植物の種類に関わりなく、NSIおよび分子量分布が特定の範囲にあり、かつゲル化性を有さないという特徴を有するものが、植物ベースのホワイトナー組成物のタンパク質素材として有効であることが示された。
【0068】
(試験例2)植物性タンパク質素材中のキレート化合物の含量
植物性タンパク質素材として、表7(第1段)のサンプルDm-1~Dm-5の5点を準備した。これらは表2のサンプルDm(サンプルDの分子量分布調整処理品、エンドウ由来)に含まれるキレート化合物を種々のリン酸含量に変更し、それ以外は同様に調製したものである。
上記5点のサンプルをそれぞれ用いて、表7(第2段)の配合割合と製造例1の方法により、各種ホワイトナー組成物を製造した。なお、これらの配合はタンパク質含量が一定量となるように調整したものである。得られた各ホワイトナー組成物について物性の測定とコーヒー添加試験を行い、製造例1と同様に品質評価を行った。結果を表7(第3~4段)に示した。
【0069】
(表7)ホワイトナー組成物の配合(%)および品質評価
【0070】
表7の結果の通り、植物性タンパク質素材のキレート化合物の含量が高くなるほど、ホワイトナー適性が高くなる傾向となった。なお、別の試験により、植物性タンパク質素材のサンプルAmをベースに、キレート化合物としてリン酸の代わりにクエン酸三ナトリウムやフィチン酸を含有させて調製した植物性タンパク質素材を用いてホワイトナー組成物を調製したところ、これらも同様にホワイトナー適性を有していた。
【0071】
(試験例3)植物ベースのホワイトナー組成物の調製2
植物性タンパク質素材として、表8(第1段)のサンプルAm-4,Cm-4,Em-4,Fm-4の4点を準備した。これらはそれぞれ表2のサンプルA,C(大豆由来),E(緑豆由来),F(ソラマメ由来)の分子量分布調整処理品である。そして、これらに含まれるキレート化合物は、試験例2の試験区T-12で用いたDm-4と同じリン酸含量に調整しており、それ以外はサンプルAm,Cm,Em,Fmと同様に調製したものである。
上記4点のサンプルをそれぞれ用いて、表8(第2段)の配合割合と製造例1の方法により、各種ホワイトナー組成物を製造した。なお、これらの配合はタンパク質含量が一定量となるように調整したものである。得られた各ホワイトナー組成物についてコーヒー添加試験を行い、製造例1と同様に品質評価を行った。結果を表8(第3段)に示した。
【0072】
【0073】
T-14~T-17のホワイトナー組成物は、いずれもコーヒー添加テストでフェザリングと凝集が発生しないか許容範囲の評価であり、製造例1とは異なる配合においてもホワイトナー適性に優れていた。なお、植物性タンパク質素材としてサンプルBm,Gmをベースに同様に調製したBm-4,Gm-4を用いたホワイトナー組成物も、T-14,T-15と同様にホワイトナー適性を有するものであった。
そして、試験例2,3では乳化剤としてショ糖脂肪酸エステルを配合しなかったが、各ホワイトナー組成物は乳化剤を添加しなくともホワイトナー適性を有していた。
以上より、NSIおよび分子量分布が特定の範囲にあり、かつゲル化性を有さないという特徴を有する植物性タンパク質素材は、植物ベースでありかつ乳化剤不使用のホワイトナー組成物のタンパク質素材としても有効であることが示された。
【0074】
(試験例4)コーヒー飲料の調製
サンプルAmをベースに、キレート化合物が含まれない植物性タンパク質素材としてサンプルAm-0を調製した。
該サンプルを用いて、表9の配合によりホワイトナー組成物(pH7)を調製した。次に、コーヒー添加試験と同様にして作製したホットコーヒー液(pH5.1)に、水酸化ナトリウムを加えながら、該ホワイトナー組成物を添加し、最終のpHをpH6.5(T-18)およびpH6.0(T-19)に調整した。得られたコーヒー飲料をレトルト缶に充填して121℃、20分間レトルト加熱を行った。
【0075】
【0076】
その結果、T-18およびT-19のレトルト加熱後のコーヒー飲料のpHは、それぞれpH5.9およびpH5.5に低下したが、いずれもタンパク質の凝集はみられなかった。一方、ホットコーヒー液のpHを水酸化ナトリウムで調整せずに、そのまま該ホワイトナー組成物を加えた場合、レトルト加熱前には凝集は発生しなかったが、レトルト加熱後は凝集が発生した。
【0077】
以上の結果より、本ホワイトナー組成物を添加してコーヒー飲料製品を製造する場合は、該ホワイトナー組成物を添加したコーヒー飲料のpHをレトルト加熱前に一定以上に調整しておけば、レトルト加熱後も凝集が発生することがなく、耐熱性も具備することが示された。
【0078】
以上の実施例にサポートされる通り、本発明によれば、植物ベースで耐酸性及び耐熱性に優れたホワイトナー組成物を提供することができる。さらに、乳タンパク質や乳化剤を含有しなくとも、耐酸性及び耐熱性に優れた植物ベースのホワイトナー組成物を提供することができる。