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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】不快臭及び/または不快味マスキング剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20241001BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20241001BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20241001BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/00 J
A23L27/10 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020036667
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021136903
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島 悠悟
(72)【発明者】
【氏名】木村 友和
(72)【発明者】
【氏名】岡本 姫佳
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-149945(JP,A)
【文献】特開2001-299264(JP,A)
【文献】特開2019-170345(JP,A)
【文献】特開2014-236678(JP,A)
【文献】食品と開発,2019年07月01日,Vol. 54, No. 7,pp.17-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルトビオン酸及び甘蔗由来の蒸留物を含み、マルトビオン酸と甘藷由来の蒸留物の比率が、マルトビオン酸1に対して、甘藷由来の蒸留物が0.01以上6.0以下である、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤。
【請求項2】
酸性豆類由来蛋白質飲料のpHが3~5である、請求項1に記載の不快臭及び/または不快味マスキング剤。
【請求項3】
マルトビオン酸を、酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.4重量%以上添加し、甘蔗由来の蒸留物を酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.05重量%以上添加する、酸性豆類由来蛋白質飲料の製造方法。
但し、マルトビオン酸と甘藷由来の蒸留物の比率が、マルトビオン酸1に対して、甘藷由来の蒸留物が0.01以上6.0以下である。
【請求項4】
マルトビオン酸を、酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.4重量%以上添加甘蔗由来の蒸留物を酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.05重量%以上添加する、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング方法。
但し、マルトビオン酸と甘藷由来の蒸留物の比率が、マルトビオン酸1に対して、甘藷由来の蒸留物が0.01以上6.0以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性豆類由来蛋白質飲料における豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に蛋白質は高い栄養価を有し、飲料等の様々な分野で利用されている。特に近年は健康意識の高まりやそれに伴う運動習慣者の増加、プロテイン栄養の重要性認知度の向上などに伴い、手軽にプロテインを摂取できる形態として広がりを見せている。一方で豆類由来蛋白質は独特の臭いや味を有するため、飲料などへの配合量が多くなってくると、風味や呈味に影響を及ぼす場合がある。そこで、従来、豆類由来蛋白質の豆類臭を低減することが種々試みられている。
例えば、茶類から抽出したポリフェノール類を添加することによって、大豆蛋白質の風味を改善する技術(特許文献1)、トレハロースを添加することにより、大豆特有の風味をマスキングする技術(特許文献2)、豆乳にパラチノースを添加することで大豆由来の異味・異臭を低減する技術(特許文献3)、スクラロースで大豆蛋白の臭いをマスキングする技術(特許文献4)、グリシン及び/またはアスパルテームを添加する技術(特許文献5)、サイクロデキストリンを添加することによって、大豆加工品の青臭味、苦味、渋味、収斂味を低減する技術(特許文献6)、豆乳にアルギニンもしくはリジンを添加した豆乳の製造方法(特許文献7)、大豆加工品中のイソフラボノイドまたはその配糖体にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼまたはプルラナーゼを作用させ糖を付加させることにより呈味改善を行う方法(特許文献8)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-103225号公報
【文献】特開平10-66516号公報
【文献】特開2003-230365号公報
【文献】WO2000/024273号公報
【文献】WO2019/004271号公報
【文献】特開昭51-148052号公報
【文献】特開昭56-131341号公報
【文献】特開平11-318373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸性条件下で豆類由来蛋白質を飲料などに用いた際に生じる風味は従来の豆類臭とは異なる不快臭や不快味であり、従来技術ではマスキング効果が十分とは言えず改善の余地がある。
本発明は、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味をマスキングできるようなマスキング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題の解決に対し鋭意検討を重ねた。本発明者らは従来技術にあるような糖類の検討を試みたが十分な効果はみられなかった。さらに検討した結果、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸を添加したところ、酸性条件下で特異的に生じる大豆蛋白質由来の不快臭及び/または不快味を劇的に改善できることや、この効果が大豆以外の豆類を蛋白源とした酸性蛋白質飲料にも応用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸を含んでなる、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤、
(2)重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸がマルトビオン酸である、(1)記載の大豆由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤、
(3)さらに甘蔗由来の蒸留物を含む、(1)または(2)記載の大豆由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤、
(4)酸性豆類由来蛋白質飲料のpHが3~5である、(1)~(3)何れか1つに記載の不快臭及び/または不快味マスキング剤、
(5)(1)~(4)何れか1つに記載の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤を重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸として、酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.4重量%以上添加する、酸性豆類由来蛋白質飲料の製造方法、
(6)重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸がマルトビオン酸である、(5)記載の酸性豆類由来蛋白質飲料の製造方法、
(7)(1)~(3)何れか1つに記載の大豆由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤を、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸として、酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量に対して0.4重量%以上添加する、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング方法、
(8)重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸がマルトビオン酸である、(7)記載の酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマスキング剤が配合された酸性豆類由来蛋白質飲料は、豆類由来の不快臭及び/または不快味がマスキングされ風味が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】酸性豆類由来蛋白質飲料(pH4.0)または中性豆類由来蛋白質飲料(pH7.0)を5℃または50℃で7日間保存後に香気成分として、2-ヘプテナールについてガスクロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
図2】酸性豆類由来蛋白質飲料(pH4.0)または中性豆類由来蛋白質飲料(pH7.0)を5℃または50℃で7日間保存後に香気成分として、2-4-ヘプタジエナールについてガスクロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
図3】酸性豆類由来蛋白質飲料(pH4.0)または中性豆類由来蛋白質飲料(pH7.0)を5℃または50℃で7日間保存後に香気成分として、2-4-デカジエナールについてガスクロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
図4】酸性豆類由来蛋白質飲料(pH4.0)または中性豆類由来蛋白質飲料(pH7.0)を5℃または50℃で7日間保存後に香気成分として、2-オクタノンについてガスクロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
図5】酸性豆類由来蛋白質飲料(pH4.0)または中性豆類由来蛋白質飲料(pH7.0)を5℃または50℃で7日間保存後に香気成分として、2-ノナノンについてガスクロマトグラフィーで分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤)
本発明の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸を含むことを特徴とする。本発明の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング剤は、さらに甘蔗由来の蒸留物を含むことができる。甘蔗由来の蒸留物を含ませることにより、酸性豆類由来蛋白質飲料特有の豆類由来の不快臭及び/または不快味マスキング効果をさらに高めることができる。
本発明のマスキングの対象となるのは、酸性豆類由来蛋白質飲料である。豆類由来蛋白質飲料は酸性条件下に調製することで、中性条件下では感じられない不快臭及び/または不快味が生じる。
このような酸性条件下で生じる不快臭・不快味を明確に定義することはできないが、本発明において飲料を酸性条件下に調製することで生じる豆類由来の不快臭は、実際に飲料で評価すると穀物臭や鼻抜けする紙粘土臭のような不快臭が感じられ、これは中性飲料では感じられないものである。
また、豆類由来酸性蛋白質飲料の不快味は、実際に飲料で評価するとエグ味、渋味、苦味、収斂味等が非常に強く感じられ、これは中性飲料よりも強く感じられるものである。酸性にすることでこれらの味がより強調されるものと推定している。
また、不快臭については、後述する条件でのガスクロマトグラフィーでの香気成分の分析から次のように推定している。
すなわち、酸性条件下では酢酸、酪酸、3-メチル酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸等の遊離の飽和脂肪酸やフラン、フルフラール等のフラン化合物が比較的多く検出されやすいのに対し、中性条件下では2-オクタノン、2-ノナノンなどのケトン類が比較的多く検出されやすく、pHによって特徴的な香気成分は異なる。
特に、酸性条件下で検出されやすい2-ヘプテナール、2-4-ヘプタジエナール、2-4-デカジエナール等は厚紙様のにおいを有するとされており、これらのにおいが不快臭及び/または不快味の要因となる主とした香気成分となり、これが他の香気成分との複合により、穀物臭や鼻抜けする紙粘土臭等の酸性条件特有の不快臭を生じるものと推定している。
【0010】
(重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸)
本発明において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の重合度は、例えば2~100であり、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸からなる群から選択される少なくとも1つ以上からなる成分を含有する。
このような糖カルボン酸として、例えば、マルトビオン酸、ラクトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、セロビオン酸、パノース酸化物等が挙げられる。これらの中でも、酸性豆類由来蛋白質飲料の不快臭及び/または不快味をマスキングする効果が高い点で、マルトビオン酸が好ましい。これらは、単独または2種以上を併用して使用することができる。
【0011】
(甘蔗由来の蒸留物)
甘蔗由来の蒸留物を重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸と併用して用いることで、酸性豆類由来蛋白質飲料の豆類由来の不快臭及び/または不快味をマスキングする効果をさらに高めることができる。
甘蔗由来の蒸留物を用いる場合、不快臭及び/または不快味マスキング剤における、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸と甘蔗由来の蒸留物の比率は、重量基準で好ましくは、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸 1に対して、甘蔗由来の蒸留物が0.01以上であり、より好ましくは0.0125以上、さらに好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.10以上である。また、その上限量は好ましくは6.0以下であり、より好ましくは4.5以下である。
甘蔗由来の蒸留物として、「さとうきび抽出物MSX-100(J)」(三井製糖(株)製)等が例示できる。
【0012】
(酸性豆類由来蛋白質飲料)
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料は、液状態で製品化されて消費者に飲用されるものであり、RTD飲料(Ready-To-Drink)やゼリーも含まれる。
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料に用いられる豆類由来蛋白質素材としては、大豆由来であれば脱脂豆乳,濃縮大豆蛋白質,分離大豆蛋白質,大豆βコングリシニン素材,大豆グリシニン素材,これらの加水分解物が挙げられ、これらを粉末化したものである。また、他の豆類由来であれば、例えば緑豆、エンドウ豆由来の蛋白質であり、上記に相当する蛋白質素材である。
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料には、豆類由来蛋白質以外の蛋白質も、本発明のマスキング剤の効果を妨げない程度添加することは妨げない。豆類由来蛋白質以外の蛋白質として、例えば、キャノーラ種子等の植物由来の蛋白質、乳由来の蛋白質が挙げられる。これらの蛋白質の添加量は、豆類由来蛋白質に対して、概ね50重量%以下である。
【0013】
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質量は概ね1重量%以上である。また、飲料中の蛋白質含量が高い方が蛋白質を摂取する上で好ましく、また、本発明の不快臭及び/または不快味マスキング剤のマスキング効果を奏しやすい観点から、蛋白質含量は好ましくは、1.5重量%以上であり、より好ましくは2重量%以上であり、さらに好ましくは2.5重量%以上である。また、その上限量は概ね20重量%以下であり、好ましくは15重量%以下、12.5重量%以下、10重量%以下を選択することができる。一態様において、1~20重量%、1~15重量%、1~10重量%等が例示できる。
また、本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料のpHは概ね、pH3~5、好ましくはpH3.3~4.8、より好ましくは3.7~4.4である。
【0014】
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料の原料には、豆類由来蛋白質素材、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸の他、製造者の所望の品質に応じて、砂糖、ブドウ糖、糖アルコール等の糖類、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸等のpH調整剤、食物繊維、油脂、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化剤、香料、スクラロース、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、柑橘類、リンゴ等の果汁等を適宜混合することができる。
【0015】
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料中には、さらに蛋白質の分散安定剤として使用される水溶性多糖類も本発明の効果を阻害しない範囲で併用することができる。例えばアルギン酸プロピレングリコール、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類、ハイメトキシルペクチン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、アラビアガムなどを用いることができる。
【0016】
本発明の酸性豆類由来蛋白質飲料は、公知の方法により製造することができ、原料の調合、加水、撹拌、溶解、pH調整、均質化(ホモゲナイザー等)、加熱殺菌等の工程を経て製造することができる。
【0017】
本発明において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸は、酸性豆類由来蛋白質飲料の製造過程の任意のタイミングで添加することができる。例えば、予め、豆類由来蛋白質素材と糖カルボン酸を混合しておいたものを、他の原料とともに調合してもよいし、糖カルボン酸以外の原料を調合し加水した後、糖カルボン酸を添加してもよく、任意のタイミングで添加することができる。
また、豆類由来蛋白質に重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸を予め配合したものや、豆類蛋白質の製造過程で該糖カルボン酸を添加して得られる、糖カルボン酸が配合された豆類蛋白質を、酸性豆類蛋白質飲料の原料として用いることもできる。
【0018】
本発明の不快臭及び/または不快味マスキング剤の酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質に対する添加量は、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸として好ましくは、0.4重量%以上、より好ましくは4.0重量%以上である。また、その上限量は好ましくは40重量%以下であり、より好ましくは30重量%以下である。
また、甘蔗由来の蒸留物を用いる場合、酸性豆類由来蛋白質飲料中の蛋白質に対する添加量は、好ましくは0.05重量%以上である。また、その上限量は好ましくは8重量%以下であり、より好ましくは6重量%以下である。
【実施例
【0019】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。尚、例中の部及び%は特に断らない限り重量基準を意味するものとする。
【0020】
以下に示す実施例において大豆蛋白質としては「フジプロCL」(不二製油(株)製)を、緑豆蛋白質としては「MuPI GLUCODIA(登録商標)」(天津不二蛋白有限公司製)を、エンドウ蛋白質としては「TRUPRO 2000」(DuPont製)を使用した。安定剤としてHMペクチン「ゲニューペクチンYM115HJ」((株)三晶)を使用した。甘味剤として果糖ブドウ糖液糖「ニューフラクト55」(昭和産業(株)製)を使用した。また、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸は「サワーオリゴ」(サンエイ糖化(株)製)及び「乳糖発酵物(ラクトビオン酸含有)」((株)ダイセルSCH製)を使用した。なお、「サワーオリゴ」に含まれる糖カルボン酸(マルトビオン酸)量は40%以上であり、「乳糖発酵物(ラクトビオン酸含有)」に含まれる糖カルボン酸(ラクトビオン酸)量は45%以上である。甘蔗由来の蒸留物としては「さとうきび抽出物MSX-100(J)」(三井製糖(株)製)を使用した。
【0021】
以下に示す方法で飲料を調製し、調製後官能によって風味評価を行った。
【0022】
(実施例1)
大豆蛋白質5.7%、HMペクチン0.4%、果糖ブドウ糖液糖3.0%、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)0.50%を混合し、無水クエン酸(キシダ化学製)でpHを4.0に調整後、水で全量を100%とし、20MPaにて均質化を施した。均質化された溶液を93℃、3分間の条件にて殺菌し、容器に充填後、冷却し、大豆蛋白質5%を含有する酸性大豆蛋白質飲料を得た。
【0023】
(比較例1)
実施例1において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)0.50%を除いた点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0024】
(実施例2~7)
実施例1において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)」の配合量を0.05%、0.10%、0.25%、0.75%、1.25%あるいは1.50%に変更した以外は全く同様にして飲料を調製した
【0025】
実施例1~7及び比較例1の飲料配合を表1にまとめた。
【0026】
(表1)
【0027】
(風味評価方法)
本発明の飲料の風味評価は、パネル4名が下記に示す風味評価基準に基づき、合意により評価を決定した。すなわち、飲料の先味と後味で評価し、先味と後味の少なくともどちらかが風味評価で「±」、「+」あるいは「++」と評価されれば不快味・不快臭をマスキングする効果があり合格と判定した。
なお、「先味」とは、飲料を口元に運び、口に含む前に感じられる臭い及び飲料を口中に入れ、口、舌に付着したときに感じる味をいう。また、「後味」とは、飲料が喉を通過後鼻から抜ける臭いと、口中に後に残る味をいう。
「先味」の不快臭としては具体的には穀物臭を、「後味」の不快臭としては具体的には鼻抜けする紙粘土臭等をいう。また、「先味」、「後味」とも、不快味とはエグ味、渋味、苦味、収斂味等をいう。
なお、実施例1~7及び比較例1の風味評価結果を表2にまとめた。
【0028】
(風味評価基準)
-:全くマスキング効果なし
±:不快臭・不快味が低減した
+:ほとんど不快臭・不快味がしない
++:全く不快臭・不快味がしない
【0029】
(表2)
【0030】
重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸が(サワーオリゴ)無添加(比較例1)と比較して、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)を0.5%添加(実施例1)することで大豆蛋白質の後味のエグ味や苦味のマスキング、後味の不快臭のマスキングに効果が認められた。また、この効果は重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)を0.05%添加(実施例2)した場合も認められ、0.5%添加(実施例1)で強い効果が、1.25%添加(実施例6)で特に強い効果が認められた。添加量が1.25%以上では添加量が多ければ多いほど不快味・不快臭のマスキング効果は高くなるものの、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)由来の酸味が際立ち、全体の風味のバランスが悪くなる傾向が見られた。
【0031】
(試験例)酸性豆類由来蛋白質飲料の不快臭のガスクロマトグラフィーによる分析
酸性豆類由来蛋白質飲料と中性豆類由来蛋白質飲料の不快臭についてガスクロマトグラフィーにより分析し比較を行った。
【0032】
(香気成分の分析方法)
比較例1と同様の方法で、酸性豆類由来蛋白質飲料を調製し、また比較として、比較例1で飲料のpHを7.0とする以外は比較例1と同様にして中性豆類由来蛋白質飲料を調製し、これらを5℃または50℃で7日間保存後、以下に示す方法で香気成分の定性分析を行った。結果を表3に示した。
【0033】
(香気成分の分析条件)
○SPME(固相マイクロ抽出)条件
20 mlバイアルにサンプリングして抽出した。
使用ファイバー:DVB/PDMS/CAR,1cm
抽出条件:60℃、30分保温→60℃、30分吸着→240℃、1分脱着
ベイク条件:250℃、30分

○GC-TOF-MS(ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析計)分析条件
MS:PegasusBT(LECOジャパン製)、 GC:Agilent7890B(アジレント・テクノロジー製)、AS:MPS robotic pro(ゲステル製)
カラム:RESTEK製 stabil-WAX 長さ30m 内径0.25mm 液相膜厚0.5μm
カラム温度:40℃(2min) → 12℃/min → 240℃(10min)
キャリアガス制御:流量一定、 注入方法:スプリットレス
カラム流量:1.0ml/min
インターフェース温度:250℃、 イオン源温度230℃
データ取り込み速度:20spectra/s
イオン化電圧:70eV、 検出器ゲイン:2190V

○解析条件
解析はChroma TOF BT(LECO)で行い、成分名はNISTライブラリーで推定。
【0034】
(表3)香気成分の分析結果
*表の数値はピーク強度である。
【0035】
表3の通り、酸性条件下では酢酸、酪酸、3-メチル酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸等の遊離の飽和脂肪酸やフラン、フルフラール等のフラン化合物が比較的多く検出されやすいのに対し、中性条件下では2-オクタノン、2-ノナノンなどのケトン類が比較的多く検出されやすい結果となった。
表3の香気成分のうち、2-ヘプテナール(図1)、2-4-ヘプタジエナール(図2)、2-4-デカジエナール、(図3)、2-オクタノン(図4)、2-ノナノン(図5)に関する結果を図に示した。
2-ヘプテナール、2-4-ヘプタジエナール、2-4-デカジエナール、では、酸性条件の方がピーク強度が大きく、一方、2-オクタノン、2-ノナノンでは中性条件の方がピーク強度が高いことがわかった。2-ヘプテナール、2-4-ヘプタジエナール、2-4-デカジエナール等の香気成分が増加することが酸性条件下での不快臭の要因となると推定された。
【0036】
(実施例8)
実施例1において、さらに甘蔗由来の蒸留物を0.0025%添加した点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0037】
(実施例9~12)
実施例8において、甘蔗由来の蒸留物の添加量を0.005%、0.01%、0.02%あるいは0.05%に変更した以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0038】
実施例8~12の飲料配合を表4にまとめた。また、実施例1と同様に風味評価をし、結果を表5にまとめた。
【0039】
(表4)
【0040】
(表5)
【0041】
甘蔗由来の蒸留物無添加(実施例1)と比較して、甘蔗由来の蒸留物を0.0025%添加(実施例8)することで大豆蛋白質の先味のエグ味や苦味のマスキング、先味の不快臭マスキングに効果が認められた。また、この効果は甘蔗由来の蒸留物の添加量が多ければ多いほど不快味・不快臭のマスキング効果は高くなった。さらに、甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加(実施例11)することで大豆蛋白質の後半に鼻抜けする紙粘土臭低減に効果が認められた。
【0042】
(実施例13)
実施例1において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)0.50%を除き重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(乳糖発酵物(ラクトビオン酸含有))を0.44%配合した点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0043】
(実施例14)
実施例13において、さらに甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加した点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0044】
実施例13、14の飲料配合を表6にまとめた。また、実施例1と同様に風味評価をし、結果を表7にまとめた。
【0045】
(表6)
【0046】
(表7)
【0047】
マスキング剤として重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)(実施例1)使用時と比較した場合、効能としては弱いものの、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(乳糖発酵物(ラクトビオン酸含有))を使用(実施例13)することでも大豆蛋白質の後味のエグ味や苦味のマスキング、後味の不快臭マスキングに効果が認められた。また、甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加(実施例14)することで不快味・不快臭のマスキング効果は高くなった。
【0048】
(実施例15)
実施例1において、大豆蛋白質5.70%を除き緑豆蛋白質を5.56%配合した点以外はまったく同様にして緑豆蛋白質5%含有する飲料を調製した。
【0049】
(比較例2)
実施例15において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)0.50%を除いた点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0050】
(実施例16)
実施例15において、さらに甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加した点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0051】
(実施例17)
実施例1において、大豆蛋白質5.70%を除きエンドウ蛋白質を5.56%配合した点以外はまったく同様にして、エンドウ蛋白質5%含有する飲料を調製した。
【0052】
(比較例3)
実施例17において、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)0.50%を除いた点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0053】
(実施例18)
実施例17において、さらに甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加した点以外はまったく同様にして飲料を調製した。
【0054】
実施例15~18及び比較例2、3の飲料配合を表8にまとめた。また、実施例1と同様に風味評価をし、結果を表9にまとめた。
【0055】
(表8)
【0056】
(表9)
【0057】
蛋白源を緑豆とした酸性蛋白質飲料にマスキング剤として重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)を0.50%配合(実施例15)した場合、効能としては弱いものの、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)無添加時(比較例2)と比較して緑豆蛋白質の後味のエグ味や苦味のマスキング、後味の不快臭マスキング効果が認められた。また、甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加(実施例16)することで不快味・不快臭のマスキング効果は高くなった。蛋白源をエンドウ豆とした酸性蛋白質飲料にマスキング剤として重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)を0.50%配合(実施例17)した場合効能としては弱いものの、重合度2以上の澱粉分解物又は転移反応物の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸(サワーオリゴ)無添加時(比較例3)と比較してエンドウ蛋白質の後味のエグ味や苦味のマスキング、後味の不快臭マスキングに効果が認められた。また、「甘蔗由来の蒸留物を0.02%添加(実施例18)することで先味、後味とも不快味・不快臭のマスキング効果は高くなった。
図1
図2
図3
図4
図5