(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】多重容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
B65D1/02 111
(21)【出願番号】P 2020040733
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿久沢 典男
(72)【発明者】
【氏名】飯野 裕喜
【審査官】長谷川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-028627(JP,A)
【文献】特開2014-046966(JP,A)
【文献】特開2012-076751(JP,A)
【文献】特開2017-202853(JP,A)
【文献】特開2019-119476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物を収容する内容器と、前記内容器を内包すると共に前記内容器との間に形成される空隙に外気を導入する外気導入孔を口部に有する外容器とが剥離可能に積層された容器本体を含む多重容器であって、
前記外容器及び前記内容器は、ポリエステル系樹脂を用いて、延伸ブロー成形によりボトル形状に成形されてなり、
前記口部にキャップが打栓され、
前記キャップを開栓する前に前記外気導入孔から導入される前記外気を前記空隙へと導く外気導入路が設けられ、
前記外容器の樹脂の固有粘度は、前記内容器の樹脂の固有粘度よりも大きく、
前記内容物の高温充填後であり前記キャップの開栓前
の工程であって、冷却水の散水により前記内容物を冷却する冷却工程において
、
高温充填後の前記内容器の熱収縮により前記空隙が負圧状態となったときに、前記外気が、前記外気導入孔から前記外気導入路を通じて前記空隙に導入される一方、
前記外気導入孔から前記空隙への
前記冷却水の浸入
を防止する、
多重容器。
【請求項2】
延伸ブロー成形後の熱結晶化していない非延伸部である前記口部の近傍の一部を切り出して150℃で4時間乾燥させたもの0.3gに1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの重量比50:50の混合溶媒を加えて濃度1.00g/dlに調整し120℃で20分間攪拌してなる溶解溶液を室温まで冷却後、30℃に温調された相対粘度計を用いて求めた相対粘度に基づき、前記外容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度、及び、前記内容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度を算出し、
算出された、前記外容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度は、0.85であり、
算出された、前記内容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度は、0.74である、
請求項1に記載の多重容器。
【請求項3】
延伸ブロー成形後の熱結晶化していない非延伸部である前記口部の近傍の一部を切り出して150℃で4時間乾燥させたもの0.3gに1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの重量比50:50の混合溶媒を加えて濃度1.00g/dlに調整し120℃で20分間攪拌してなる溶解溶液を室温まで冷却後、30℃に温調された相対粘度計を用いて求めた相対粘度に基づき、成形された前記外容器の樹脂の固有粘度、及び、成形された前記内容器の樹脂の固有粘度を算出し、
算出された、成形された前記外容器の樹脂の固有粘度は、0.75であり、
算出された、成形された前記内容器の樹脂の固有粘度は、0.65である、
請求項1又は2に記載の多重容器。
【請求項4】
前記外容器は、スクイズ操作により押圧されると内方に撓んで変形し、スクイズ操作の停止により押圧が解除されると押圧前の原形に復元し、
前記内容器は、前記外容器のスクイズ操作により前記内容物が注出されると、前記内容物の減少に伴い収縮する、
請求項1~3の何れか1項に記載の多重容器。
【請求項5】
前記容器本体は、充填される常温以上の高温の前記内容物に対する耐熱性を有する、
請求項1~4の何れか1項に記載の多重容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重容器に関する。
【背景技術】
【0002】
液体調味料又は液体化粧品などの内容物を収容し、その鮮度を保持する容器として、エアレスボトル、鮮度保持容器又は積層剥離容器などと称される多重容器が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多重容器に対する内容物の充填方式としては、内容物を常温で充填する常温充填方式の他、常温以上の所定温度に加熱した高温の内容物を充填する高温充填方式がある。常温充填方式では、常温の内容物を充填した後にキャップを装着して充填工程が終了する。一方、高温充填方式では、高温充填工程によりブロー成形後の容器に高温の内容物を充填する充填工程の後、キャップを装着して密閉した状態で容器全体に冷却水を散布して内容物を常温まで冷却する冷却工程が行われる。
【0005】
特許文献1の多重容器を含む一般的な多重容器では、高温充填により内容器が熱収縮が生じることで外容器と内容器との間に形成される空隙(以下、単に「空隙」ともいう)が減圧状態となる。そのため、高温充填後に散水された冷却水は、キャップと口部との隙間を通じて口部に設けられた外気導入孔から吸い込まれて空隙内に浸入することがある。空隙に入り込んだ冷却水を取り除くことは困難であり、浸入した水量によっては不良品として廃棄処分せざるを得ないこともある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、高温充填後に生じる内容器と外容器との間の空隙に対して水が浸入することを防ぐことができる多重容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る多重容器は、内容物を収容する内容器と、前記内容器を内包すると共に前記内容器との間に形成される空隙に外気を導入する外気導入孔を口部に有する外容器とが剥離可能に積層された容器本体を含む多重容器であって、前記外容器及び前記内容器は、ポリエステル系樹脂を用いて、延伸ブロー成形によりボトル形状に成形されてなり、前記口部にキャップが打栓され、前記キャップを開栓する前に前記外気導入孔から導入される前記外気を前記空隙へと導く外気導入路が設けられ、前記外容器の樹脂の固有粘度は、前記内容器の樹脂の固有粘度よりも大きく、前記内容物の高温充填後であり前記キャップの開栓前の工程であって、冷却水の散水により前記内容物を冷却する冷却工程において、高温充填後の前記内容器の熱収縮により前記空隙が負圧状態となったときに、前記外気が、前記外気導入孔から前記外気導入路を通じて前記空隙に導入される一方、前記外気導入孔から前記空隙への前記冷却水の浸入を防止する。
【0008】
好適には、前記多重容器において、延伸ブロー成形後の熱結晶化していない非延伸部である前記口部の近傍の一部を切り出して150℃で4時間乾燥させたもの0.3gに1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの重量比50:50の混合溶媒を加えて濃度1.00g/dlに調整し120℃で20分間攪拌してなる溶解溶液を室温まで冷却後、30℃に温調された相対粘度計を用いて求めた相対粘度に基づき、前記外容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度、及び、前記内容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度を算出し、算出された、前記外容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度は、0.85であり、算出された、前記内容器の成形に用いられる樹脂の固有粘度は、0.74である。
【0009】
好適には、前記多重容器において、延伸ブロー成形後の熱結晶化していない非延伸部である前記口部の近傍の一部を切り出して150℃で4時間乾燥させたもの0.3gに1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの重量比50:50の混合溶媒を加えて濃度1.00g/dlに調整し120℃で20分間攪拌してなる溶解溶液を室温まで冷却後、30℃に温調された相対粘度計を用いて求めた相対粘度に基づき、成形された前記外容器の樹脂の固有粘度、及び、成形された前記内容器の樹脂の固有粘度を算出し、算出された、成形された前記外容器の樹脂の固有粘度は、0.75であり、算出された、成形された前記内容器の樹脂の固有粘度は、0.65である。
【0010】
好適には、前記多重容器において、前記外容器は、スクイズ操作により押圧されると内方に撓んで変形し、スクイズ操作の停止により押圧が解除されると押圧前の原形に復元し、前記内容器は、前記外容器のスクイズ操作により前記内容物が注出されると、前記内容物の減少に伴い収縮する。
【0012】
好適には、前記多重容器において、前記容器本体は、充填される常温以上の高温の前記内容物に対する耐熱性を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る多重容器は、高温充填後に生じる内容器と外容器との間の空隙に対して水が浸入することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る多重容器の縦断面を模式的に示す図である。
【
図2】本実施形態に係る多重容器の外容器及び内容器の諸特性と従来の多重容器の外容器及び内容器の諸特性を示す表である。
【
図3】実施例及び比較例の諸特性及び評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態では、ボトル形状を有する多重容器1の中心軸Zに沿った方向を「軸方向」とも称し、多重容器1の中心軸Zを回転軸として周回する方向を「周方向」とも称し、多重容器1の中心軸Zに直交する方向を「径方向」とも称する。また、本実施形態では、多重容器1の口部3から底部6へ向かう軸方向を「下方」とも称し、多重容器1の底部6から口部3へ向かう軸方向を「上方」とも称する。また、本実施形態では、多重容器1の中心軸Zに沿った平面で多重容器1を切断した断面を「縦断面」とも称し、多重容器1の中心軸Zに直交する平面で多重容器1を切断した断面を「横断面」とも称する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る多重容器1の縦断面を模式的に示す図である。なお、
図1に示された多重容器1は、内容物が充填された後の状態のように、外容器10の内面と内容器20の外面とが剥離した後の状態を示している。
【0019】
多重容器1は、ボトル形状を有する容器である。多重容器1は、
図1に示されるように、容器本体2における一端部であり内容物の注出口21を有する口部3と、容器本体2の他端部であり接地面を有する底部6と、口部3から径方向外方に広がりながら下方へ延びる肩部4と、肩部4から下方に延びて底部6に連なる胴部5とを備える。
【0020】
多重容器1は、多重容器1の外郭を構成すると共に内容器20を内包するボトル形状の外容器10と、内容物を収容すると共に外容器10の内面に沿った形状を有する内容器20とを備える。多重容器1は、外容器10の内面と内容器20の外面とが剥離可能に積層された鮮度保持容器(エアレスボトルともいう)である。
【0021】
多重容器1は、外容器10と内容器20との間に外気を導入可能な外気導入孔11を備える。具体的に、外気導入孔11は、
図1に示されるように、外容器10の口部3に設けられ、空隙Aと連通される。或いは、外気導入孔11は、外容器10の口部3と内容器20の口部3とが固定される部分にスリットとして設けることも可能である。また、多重容器1は、外容器10の口部3と内容器20の口部3との間に、外気導入孔11から導入される外気を空隙Aに導く外気導入路A1が設けられる。外気は、空隙Aが負圧状態になると、外気導入孔11から導入され、外気導入路A1を介して空隙Aに導入される。
【0022】
外容器10及び内容器20は、熱可塑性樹脂製の容器であり、ブロー成形によって製造される。好適には、外容器10及び内容器20は、試験管形状のような管状のプリフォームを用いた二軸延伸ブロー成形によって製造される。具体的には、外容器10及び内容器20は、外容器10のプリフォームの中に内容器20のプリフォームを挿入して重ねた状態で、外容器10のプリフォームと内容器20のプリフォームとを、同時に延伸ブロー成形することによって製造される。或いは、外容器10及び内容器20は、外容器10のプリフォームを延伸ブロー成形した後に、外容器10の内側において内容器20のプリフォームを延伸ブロー成形することによって製造されてよい。ブロー成形において、外容器10及び内容器20における口部3は非延伸部となり、肩部4、胴部5及び底部6が延伸部となる。
【0023】
外容器10及び内容器20は、ポリエステル系樹脂を用いて成形される。このポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及び、これらの共重合ポリエステルなどの樹脂が挙げられる。好適には、外容器10及び内容器20は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて成形される。
【0024】
外容器10から内容器20を剥離させる方法の一例としては、高温充填工程により内容器20を熱収縮させることで剥離を促す。また、高温充填工程では、高温の内容液が充填されるため、プリフォームの段階で口部3を熱処理して熱結晶化して口部3の変形を抑制してよい。多重容器1の内容物は、例えば高温に加熱された飲料(ホット飲料、コールド飲料を問わない)、高温に加熱された液体調味料などである。ここで、「高温」とは、内容物を常温よりも高い温度に加熱された温度であり、一例として65℃~85℃程度を指す。
【0025】
多重容器1のブロー成形工程では、加熱されたブロー金型内のプリフォームに対して、ブローエアを吹き込むと共に延伸ロッドを延伸させてブロー金型に押し付け、冷却エアを吹き込むことによって、ブロー金型に応じた形状の外容器10及び内容器20を成形する。
【0026】
この過程において、外容器10及び内容器20のそれぞれには、延伸などに起因して歪みが生じる。この歪みは、ブロー金型のヒートセットにより緩和されるが、完全に除去されず、成形後の外容器10及び内容器20に残留する。このため、多重容器1では、成形後に加熱されると、外容器10及び内容器20に存在する残留歪みが緩和され、熱収縮が発生する。特に、多重容器1では、成形後に行われる内容物の充填工程において、容器の加熱殺菌処理や、内容物を高温にして充填する高温充填が行われるため、成形後に加熱され、熱収縮が発生する。
【0027】
図2は、本実施形態に係る多重容器1の外容器10及び内容器20の諸特性と従来の多重容器の外容器及び内容器の諸特性を示す表である。
図2に示されるように、従来の多重容器では、リサイクル性や生産効率性の観点から、使用する樹脂は同種であって、高温充填にも耐え得るように固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)が比較的低い樹脂を用いて製造される。そのため、従来の多重容器の成形後に発生する熱収縮量は、内容器の熱収縮量が外容器よりも大きくなり易い。これは、内容器には、外容器よりも大きな残留歪みが存在し得るためである。内容器の残留歪みが外容器よりも大きくなる要因としては、内容器の方が外容器よりも幾何学的に延伸倍率が高いことが挙げられる。また、この要因としては、ヒートセットによって残留歪みを緩和する際、外容器がブロー金型に接しているのに対して内容器はブロー金型に接していないため、ヒートセットによる残留歪みの緩和効果が外容器よりも小さいことが挙げられる。更に、この要因としては、ヒートセット時に内容器の方が外容器よりも熱結晶化が促進され難いため、内容器の方が結晶化度は低く耐熱性も低くなることが挙げられる。
【0028】
このように、従来の多重容器では、内容器の熱収縮量が外容器よりも比較的大きいため、外容器の内面に密着していた内容器の外面が外容器の内面から剥離し、外容器と内容器との間に空隙が形成され得る。すなわち、空隙は、外容器と内容器とが剥離することによって、外容器と内容器との間に形成される空間である。また、一般的に、多重容器における口部は延伸されない非延伸部分であり、底部は剥離しないよう構成可能であるため、空隙は、少なくとも、内容器の胴部と外容器の胴部とが、成形後の熱収縮により剥離することによって形成された空間となる。
【0029】
ところが、従来の多重容器では、固有粘度が比較的低い樹脂を用いて製造されるため、内容器の熱収縮量と外容器の熱収縮量との差により空隙が大きく形成され易い。そのため、内容器が熱収縮する際に空隙が減圧して負圧となり、冷却工程で散水される冷却水が外気導入孔から吸い込まれて空隙内に入り込んでしまうことが問題であった。
【0030】
そこで、本実施形態の多重容器1では、外容器10と内容器20の熱収縮量の差を小さくするため、外容器10及び内容器20の固有粘度を
図2に示すような構成とする。
【0031】
本実施形態の多重容器1では、
図2に示されるように、外容器10の樹脂の固有粘度が、内容器20の樹脂の固有粘度よりも大きくなるように構成される。樹脂の固有粘度は、樹脂の分子量と相関があり、固有粘度が小さい樹脂は低分子量の樹脂であることが多く、固有粘度が大きい樹脂は高分子量の樹脂であることが多い。
【0032】
固有粘度が比較的大きい樹脂で成形される外容器10は、分子鎖が比較的長いため、ブロー成形での延伸時に分子鎖が絡まり易く、多くの分子鎖が動き難く絡まったまま固まるため、残留歪みが大きくなり易い。外容器10は、ヒートセット時に残留歪みが緩和され易いが、固有粘度が比較的大きい樹脂を用いるため、従来品の多重容器の外容器よりもヒートセットによる熱結晶化が作用し難く、歪みも緩和され難いので残留歪みも大きくなる。このため、外容器10は、成形後に加熱されると従来品の多重容器の外容器と比べて熱収縮量が大きくなる。
【0033】
一方、固有粘度が比較的小さい樹脂で成形される内容器20は、従来の多重容器の内容器と同様、分子鎖が比較的短いため、ブロー成形での延伸時に分子鎖が絡まり難く、残留歪みが比較的小さい。内容器20は、固有粘度が比較的小さい樹脂を用いるため残留歪みは比較的小さいが、ヒートセット時には従来の内容器と同様に残留歪みが緩和され難い。
【0034】
このように、本実施形態の多重容器1では、外容器10の成形時に用いる樹脂の固有粘度が、内容器20の成形時に用いる樹脂の固有粘度よりも相対的に高くなるように各容器の樹脂が設定される。それにより、外容器10の熱収縮量が内容器20の熱収縮量に近付き、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量と差が略同等若しくは内容器20の熱収縮量が若干小さくなる程度まで縮まるため、形成される空隙Aの空隙量は、外容器10と内容器20とが剥離される程度まで小さくなる。よって、高温充填工程後の熱収縮によって空隙Aが減圧したとしても、冷却水が外気導入孔11を通じて空隙A内に浸入することがない。
【0035】
特に、多重容器1では、外容器10の成形に用いられる樹脂(ペレット)の固有粘度は、0.78以上0.88以下が採用され、内容器20の成形に用いられる樹脂(ペレット)の固有粘度は、0.68以上0.78以下が採用されて、成形された外容器10の固有粘度が0.75以上0.85以下となり、成形された内容器20の固有粘度が0.65以上0.75以下となるよう構成される。このように、外容器10及び内容器20の成形に用いられる樹脂(ペレット)の固有粘度を、成形された外容器10及び内容器20の固有粘度よりも若干高くしたのは、ポリエステル系樹脂を用いて外容器10及び内容器20を成形するときに、ポリエステル系樹脂の加水分解反応による射出成形によって固有粘度の値が小さくなることを考慮したものによるものである。
【0036】
ここで、内容器20の成形に用いられる樹脂として、いわゆる耐熱用ペットボトルの成形に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂を適用することができる。更に、外容器10の成形に用いられる樹脂として、耐熱用でない一般のペットボトルの成形に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂を適用することができる。そして、多重容器1では、成形後の熱収縮による外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量との差を同等若しくは内容器20の方が若干小さくなるように縮めることで、空隙Aの空隙量を外容器10と内容器20が剥離可能な程度まで小さくさせることができる。
【0037】
また、空隙Aの空隙量を小さくするため、高温充填前後における外容器10と内容器20における収縮率の差を2.5%以下とするのが好ましい。この収縮率の差は、外容器10及び内容器20のそれぞれの体積が、高温充填前後の熱収縮によって変化した割合(収縮率)の差である。外容器10の固有粘度を内容器20の固有粘度よりも相対的に高くすることで、外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量との差を小さくすることができる。
【0038】
従来の多重容器では、
図2に示されるように外容器と内容器の熱収縮量の差が比較的大きいため、空隙Aの空隙量(空隙率)も自ずと大きくなる。これに対し、本実施形態の多重容器1では、従来の多重容器と比べて外容器10の熱収縮量が大きくなるため、内容器20の熱収縮量との差が縮まり、熱収縮後に形成される空隙Aの空隙量を小さくすることできる。
【0039】
[作用効果]
以上のように、本実施形態に係る多重容器1では、外容器10及び内容器20が、同種の樹脂を用いて成形され、
図2に示されるような特性を有するように構成される。これにより、本実施形態に係る多重容器1では、外容器10の熱収縮量と内容器20の熱収縮量との差を、略同等若しくは内容器20の方が若干小さくなるように縮めることができる。そのため、本実施形態に係る多重容器1では、外容器10と内容器20との熱収縮量の差が縮まることで、高温充填後の熱収縮により形成される空隙Aの空隙量が小さくなる。これは、空隙Aが負圧状態となったときに、外気の導入量を少量に制御することができることを意味する。よって、本実施形態1の多重容器1は、高温充填工程後の冷却工程において散水される冷却水が空隙A内に吸い込まれることが防止され、空隙A内に水が浸入した不良品の発生を抑止する効果を奏することができる。
【0040】
[その他]
上述の実施形態において、多重容器1は、外容器10が多重容器1の外郭を構成し、内容器20が内容物を収容する容器である。しかしながら、多重容器1は、外容器10が多重容器1の外郭を構成し、内容器20が内容物を収容する容器に限定されない。すなわち、多重容器1は、多重容器1の外郭を構成する容器が外容器10の更に外側に設けられたり、内容物を収容する容器が内容器20の更に内側に設けられたりしてよい。このように、多重容器1は、外容器10及び内容器20が、互いに隣接して剥離可能に積層されると共に、互いの間に空隙Aを形成する積層体として機能すればよく、当然ながら、複数の空隙Aを形成可能な三重以上の多重構造を有する容器であってよい。
【0041】
上述の実施形態において、多重容器1は、特許請求の範囲に記載された「多重容器」の一例に該当する。容器本体2は、特許請求の範囲に記載された「容器本体」の一例に該当する。口部3は、特許請求の範囲に記載された「口部」の一例に該当する。外容器10は、特許請求の範囲に記載された「外容器」の一例に該当する。内容器20は、特許請求の範囲に記載された「内容器」の一例に該当する。外気導入孔11は、特許請求の範囲に記載された「外気導入孔」の一例に該当する。空隙Aは、特許請求の範囲に記載された「空隙」の一例に該当する。外気導入路A1は、特許請求の範囲に記載された「外気導入路」の一例に該当する。
【0042】
上述の実施形態及び特許請求の範囲で使用される用語は、限定的でない用語として解釈されるべきである。例えば、「含む」という用語は、「含むものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「備える」という用語は、「備えるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
[1.多重容器の作製]
―プリフォームの成形―
実施例1で使用したPET樹脂により、外容器となるプリフォーム及び内容器となるプリフォームを、既存の射出成形機で射出成型して作製した。同様に、比較例1~3で使用するPET樹脂により、外容器及び内容器のプリフォームをそれぞれ射出成型して作製した。
―多重容器の成形―
実施例1の外容器となるプリフォームに内容器となるプリフォームを挿入して重ねた状態で100~110℃に加熱した後、外容器のプリフォームと内容器のプリフォームとを同時に延伸ブロー成形して多重容器1を得た。同様に、比較例1~3についても外容器となるプリフォーム及び内容器となるプリフォームを同時に延伸ブロー成形して多重容器を得た。作製した実施例1及び比較例1~3の多重容器は、それぞれ満注容量(容器内に収容可能な最大液量)を約460mlとした。
【0045】
[2.多重容器の熱収縮方法]
作製した多重容器に、内容物として75℃に加熱した温水を400g充填し、口部にキャップを打栓した後、正立姿勢で5分間保持した。使用するキャップは、外気導入孔に外気が導入可能な外気導入部と、外気導入時に外気導入部を開放して外気導入後に外気導入部を閉塞する逆止弁を備えたキャップを使用した。
次に、温水が充填された多重容器の上部から20℃の冷却水をシャワーで散水して3分間冷却した。シャワーから噴出される冷却水の水量は、冷却後の内容物(水)の液温が50℃になるように設定した。この時点以降、内容物の液温が低下しても多重容器の熱収縮は確認されなかった。
【0046】
[3.多重容器の特性測定]
図3は、実施例1及び比較例1~3の多重容器の諸特性、測定結果及び評価結果を示す表である。また、実施例1及び比較例1~3の特性(固有粘度、収縮率、収縮量、空隙率、空隙量)は、以下の方法により測定、算出した。
【0047】
―固有粘度―
ブロー成形後の多重容器のうち、熱結晶化していない非延伸部である口部近傍を一部切り出し、150℃で4時間乾燥させた後、0.3g秤量した。これに1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの重量比が50:50の混合溶媒を加えて1.00g/dlの濃度に調整し、120℃で20分間攪拌して完全に溶解させた。溶解後の溶液を室温まで冷却した後、30℃に温調された相対粘度計(Y501、Viscotek社製)を用いて相対粘度を求め、固有粘度を算出した。
【0048】
図3に示されるように、本実施形態に係る多重容器(実施例1)で使用した外容器のポリエステル樹脂ペレット(PET樹脂)の固有粘度及び内容器のポリエステル樹脂ペレット(PET樹脂)ペレットの固有粘度は以下の通りであった。
外容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.85
内容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.74
また、
図3に示されるように、比較例1~3で使用した外容器のポリエステル樹脂ペレット(PET樹脂)の固有粘度及び内容器のポリエステル樹脂ペレット(PET樹脂)の固有粘度は以下の通りであった。
(比較例1)
外容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.85
内容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.85
(比較例2)
外容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.74
内容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.74
(比較例3)
外容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.74
内容器のPET樹脂ペレットの固有粘度:0.85
【0049】
また、PET樹脂ペレットにより成形された多重容器1の外容器10の固有粘度及び内容器20の固有粘度は以下の通りであった。
(実施例1)
外容器の固有粘度:0.75
内容器の固有粘度:0.65
(比較例1)
外容器の固有粘度:0.75
内容器の固有粘度:0.75
(比較例2)
外容器の固有粘度:0.65
内容器の固有粘度:0.65
(比較例3)
外容器の固有粘度:0.65
内容器の固有粘度:0.75
【0050】
―収縮率―
(内容器の収縮率)
ブロー成形後の多重容器(以下、「収縮前容器」という)の内容器と、熱収縮方法により熱収縮させた熱収縮後の多重容器(以下、「収縮後容器」という)にそれぞれ20℃の水を満注容量(g)注入して、熱収縮前後の容量をそれぞれ測定した。測定した内容量(g)を体積(cc)に変換し、熱収縮前後の体積変化から内容器の収縮率(%)を求めた。なお、収縮後容器については、充填時に使用したキャップを外してから満注容量(g)を測定した。
(実施例1)
内容器の収縮率5%
(比較例1)
内容器の収縮率10%
(比較例2)
内容器の収縮率4%
(比較例3)
内容器の収縮率9%
(外容器の収縮率)
収縮前容器については、内容物として20℃の水を400g注入してキャップをし、この状態で浸漬液となる水を所定量入れた容器に浸漬させ、アルキメデス法により体積(cc)を測定した。測定に際し、容器内には水が注入されており、外容器は所定の厚みを有するため、水圧による収縮は無視できるものとした。また、容器厚みは約300μmと体積が無視できる程薄いため、容器厚みも含めた体積を外容器の内容量(g)として代替した。
収縮後容器については、上述した熱収縮方法により温水が充填された容器を室温まで冷却し、収縮前容器と同様、キャップした状態で浸漬液となる水を所定量入れた容器に浸漬させ、アルキメデス法により体積(cc)を測定した。
得られた収縮前後の外容器の体積変化から外容器の収縮率(%)を求めた。
(実施例1)
外容器の収縮率3%
(比較例1)
外容器の収縮率4%
(比較例2)
外容器の収縮率0%
(比較例3)
外容器の収縮率0%
【0051】
―収縮率の差―
内容器の収縮率と外容器の収縮率から外容器と内容器との収縮率の差を、下記数式1より求めた。
数式1:「収縮率(%)の差」=「内容器の収縮率(%)」-「外容器の収縮率(%)」
(実施例1)
収縮率の差:2%
(比較例1)
収縮率の差:6%
(比較例2)
収縮率の差:4%
(比較例3)
収縮率の差:9%
【0052】
―空隙量・空隙率―
空隙量(cc)は、下記数式2より求めた。
数式2:「空隙量(cc)」=「内容器の収縮量(cc)」-「外容器の収縮量(cc)」
また、多重容器の空隙率(%)は、下記数式3より求めた。
数式3:「空隙率(%)」=「空隙量(cc)」/「収縮前容器の内容器の満注容量(cc)」×100
(実施例1)
空隙量:9cc、空隙率:1.95%
(比較例1)
空隙量:26cc、空隙率:5.65%
(比較例2)
空隙量:18cc、空隙率:3.91%
(比較例3)
空隙量:40cc、空隙率:8.96%
【0053】
[5.評価結果]
上記した実施例1の多重容器の空隙及び比較例1~3の多重容器の空隙に水の浸入の有無を評価した。評価方法は、上述した熱収縮方法により高温充填工程と冷却工程を経た多重容器に対し、目視による官能評価を実施した。その評価結果を
図3に示す。
―判断基準―
○:空隙内に冷却水の浸入が確認されない(製品として提供可能な良品)
×:空隙内に冷却水の浸入が確認された(製品として提供不可な不良品)
【0054】
実施例1は、
図3に示されるように、空隙内に水の浸入が確認されず、良好な結果が得られた。実施例1は、
図3に示されるように、外容器の固有粘度を内容器の固有粘度よりも高くなるように樹脂を選定したことで、外容器の熱収縮量が内容器の熱収縮量に近付き、外容器と内容器の収縮率の差が縮まった結果、熱収縮後に形成される空隙が小さくなることが確認された。よって、実施例1の多重容器は、高温充填後の冷却工程において散水された水が空隙内に浸入することが防止され、高温充填工程により高温の内容物を収容する製品の容器として有用であることが証明された。
【0055】
一方、比較例1~3は、
図3に示されるように、何れも空隙に水の浸入が確認された。空隙内に水が浸入した要因としては、外容器の固有粘度と内容器の固有粘度とが同等の容器(比較例1、比較例2)若しくは外容器の固有粘度が内容器の固有粘度よりも低い容器(比較例3)を用いたことで、実施例1と比べて外容器の熱収縮量と内容器の熱収縮量との差が比較的大きくなり、その結果として形成される空隙の空隙量が大きくなったためと推測される。
【符号の説明】
【0056】
1 多重容器
2 容器本体
3 口部
4 肩部
5 胴部
6 底部
10 外容器
11 外気導入孔
20 内容器
21 注出口
A 空隙
A1 外気導入路
S 収容空間
Z 中心軸