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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】カテーテル及びカテーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20241001BHJP
   A61M 25/098 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61M25/00 620
A61M25/00 610
A61M25/00 504
A61M25/098
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020061382
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021159149
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山口 憲二郎
(72)【発明者】
【氏名】林 伸明
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04634432(US,A)
【文献】国際公開第2015/012185(WO,A1)
【文献】特開2019-024919(JP,A)
【文献】特開2001-321446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管腔を取り囲む内層と、
補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、
前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、を有し、
前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されており、
前記凸条は、前記内表面から露出する前記補強ワイヤの部分である露出部分と、前記凸条の前記補強ワイヤのうちの前記露出部分を除く部分と、を含む、カテーテル。
【請求項2】
主管腔を取り囲む内層と、
補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、
前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、を有し、
前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されており、
前記凸条は、前記内表面から露出する前記補強ワイヤである、カテーテル。
【請求項3】
主管腔を取り囲む内層と、
補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、
前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、を有し、
前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されており、
前記補強層は、長さ方向に、前記補強ワイヤが単層に巻き回された単層補強領域と、前記補強ワイヤが多層に巻き回された多層補強領域と、を有し、前記多層補強領域と重なる前記内表面にのみ前記凸条が形成されている、カテーテル。
【請求項4】
主管腔を取り囲む内層と、
補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、
前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、を有し、
前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されており、
前記内層は、長さ領域のうちの前記主管腔の開口端を含む一部に他の部分よりも細径の細径部を有し、前記細径部は肉厚が前記他の部分よりも薄く、前記細径部の前記内表面に前記凸条が形成されている、カテーテル。
【請求項5】
主管腔を画定する内層に補強ワイヤを巻回して補強層を形成する補強層形成工程と、
前記補強層の周囲に、それぞれ放射線が不透過の金属材料を含むリング状の金属製マーカーをかしめて固定するマーカー固定工程と、を含み、
前記マーカー固定工程において、前記金属製マーカーに対して押圧力を加え、前記補強ワイヤの少なくとも一部を前記内層の表面から突出させて凸条を形成する、カテーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル及びカテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、生体の管腔内に挿入されて、管腔内に小型部材や造影剤をデリバリー等することに使用される器具である。このようなカテーテルは、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載のカテーテルは、外管と、その外管の内腔に配置された内管とを有するシャフト部材を備えている。特許文献1には、シャフト部材の内腔にはガイドシャフト部材を導くためのガイドワイヤが挿通されるため、内管の内腔表面はガイドワイヤ操作のための摺動性が必要であることが記載されている。特許文献1には、カテーテルチューブを構成するポリアミド層の内表面に摺変性ポリオレフィン層を形成することにより、ガイドワイヤの摺動性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-174827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガイドワイヤの摺動性を確保するために摺変性ポリオレフィン層を形成することは、カテーテルの製造工程数を増加させ、製造プロセスを複雑化させることになる。また、特許文献1に記載の発明は、カテーテルチューブとして好適な材料と摺変性ポリオレフィン層との接着性を考慮する必要が生じ、材料の選定や樹脂の肉厚についての自由度が低くなることが考えられる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、工程の追加や材料の変更をせずにガイドワイヤの摺動性を確保するカテーテル及びカテーテルの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のカテーテルは、主管腔を取り囲む内層と、補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、有し、前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されており、前記凸条は、前記内表面から露出する前記補強ワイヤの部分である露出部分と、前記凸条の前記補強ワイヤのうちの前記露出部分を除く部分と、を含む。
【0006】
本発明のカテーテルの製造方法は、主管腔を画定する内層に補強ワイヤを巻回して補強層を形成する補強層形成工程と、前記補強層の周囲に、それぞれ放射線が不透過の金属材料を含むリング状の金属製マーカーをかしめて固定するマーカー固定工程と、を含み、前記マーカー固定工程において、前記金属製マーカーに対して押圧力を加え、前記補強ワイヤの少なくとも一部を前記内層の表面から突出させて凸条を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のカテーテル及びカテーテルの製造方法は、工程の追加や材料の変更をせずにガイドワイヤの摺動性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のカテーテルの全体を示す全体側面図である。
図2】(a)は、図1中に示す領域IIの縦断面を拡大して示す図、(b)は、(a)中に示す範囲Cを拡大して示す図である。
図3図2(a)中に示す矢線A、A間の一点鎖線でカテーテルを切った断面を矢線A、Aの方向に見た図である。
図4図2(a)中に示す矢線B、B間の一点鎖線でカテーテルを切った断面を矢線B、Bの方向に見た図である。
図5図2(a)、図2(b)に示した凸条の他の例を説明するための図である。
図6図2(a)に示した直管部において内層の径が先端に向かって小さくなる構成を説明するための図である。
図7】本実施形態の補強層形成工程を説明するための図である。
図8図7に示す工程に続くマーカー固定工程を説明するための図である。
図9図8の構成から補強層の一部を除去した直管部の状態を示す縦断面図である。
図10図9の構成に外層を形成した直管部の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
[カテーテル]
図1は、本実施形態のカテーテルの全体を示す全体側面図である。図2(a)は、図1中に示す領域IIの縦断面を拡大して示す図、図2(b)は、図2(a)中に示す範囲Cを拡大して示す図である。図3は、図2(a)中に示す矢線A、A間の一点鎖線でカテーテル1を切った断面(以下、「A断面」と記す)を矢線A、Aの方向に見た図である。図4は、図2(a)中に示す矢線B、B間の一点鎖線でカテーテル1を切った断面(以下、「B断面」と記す)を矢線B、Bの方向に見た図である。
カテーテル1は、管状本体10と、管状本体10の基端部と接続する操作部90とを有している。
【0010】
操作部90は、使用者が手で把持する本体ケース94と、ハブ96と、を備えている。管状本体10において、先端Tに対する本体ケース94の側を以降「基端側」と記す。
ハブ96にはシリンジ(図示せず)が装着される。ハブ96は本体ケース94の後端部に設けられており、ハブ96の後方からシリンジが装着される。シリンジによってハブ96内に薬液等を注入することにより、主管腔20(図2(a)等)を介して薬液等を被験者の体腔内へ供給することができる。薬液等としては、造影剤、液体抗ガン剤、生理食塩水、瞬間接着剤として用いられるNBCA(n-butyl-2-cianoacrylate)等の薬液の他、デタッチャブルコイルやビーズ(塞栓球状物質)等の医療用デバイスを挙げることができる。
本体ケース94には、ハブ96を通じて管状本体10に挿通された不図示のガイドワイヤを前進、後退させる操作ホイールが回動可能に設けられている。また、本体ケース94には凹部95が形成されている。凹部95には、進退自在に摺動するスライダ98が設けられている。スライダ98は、上記の操作ホイールの回動を固定、または固定を解除する機構である。
【0011】
直管部101は、外径が一定の直管部101と、直管部101から本体ケース94に向けて外形が拡径する拡径部102とを有している。ただし、管状本体10は、直管部101と拡径部102とを有するものに限定されず、全体が一定の外形を有するものであってもよい。図2(a)、図2(b)に示すように、直管部101は、シースとも呼ばれ、内部に主管腔(メインルーメン)20が通孔形成された中空管状かつ長尺の部材である。
【0012】
本実施形態の直管部101は、主管腔20を取り囲む内層24と、補強ワイヤ32によって形成されて、主管腔20とねじれの位置にあるように巻き回される補強層30と、補強層30を埋設し、内層24と共に主管腔20を取り囲む外層50と、有している。そして、内層24の内表面の少なくとも一部に、補強ワイヤ32に沿って凸条35が形成されている。ここで、凸条35は、平面方向に延びる長尺の突起物を指す。凸条35の延伸方向は、直線方向であってもよいし、回転方向であってもよい。回転方向は、螺旋状に回転するものであってもよい。
図2(a)、図2(b)に示す凸条35は、内層24を補強ワイヤ32が主管腔20の中心方向に押圧し、内層24が主管腔20の内表面201から突起することによって形成される。図2(b)に示すように、凸条35では補強ワイヤ32の全体が内層24によって覆われていて、補強ワイヤ32の全体が内層24の内表面よりも径方向の外側に巻き回されている。
また、上記の「ねじれの位置にあるように巻き回される」は、補強層30が主管腔20に対し、主管腔20と平行でもなく、交わることがない(同一平面上にない)位置になるように巻き回されることを指す。
【0013】
さらに、直管部101は、補強層30の周囲に設けられ、放射線不透過の金属製マーカー14、16、18をさらに備え、凸条35は、内表面201のうちの少なくとも金属製マーカー14、16、18と重なる重複領域D14、D16、D18に形成されている。ただし、本実施形態は、重複領域D14、D16、D18の他重複領域D14、D16、D18間においても補強ワイヤ32により内層24が突起して凸条35を形成している。後述するように、金属製マーカー14、16、18は、補強層30上からかしめて形成される。本実施形態では、この際に金属製マーカー14、16、18が補強ワイヤ32を介して内層24に加える圧力を調整し、補強ワイヤ32を内表面201から突出させることができる。
【0014】
上記のカテーテル1では、直管部101が積層構造を有していて、主管腔20を中心に、内径側から順に内層(メインチューブ)24及び外層50が積層されて直管部101が構成されている。内層24及び外層50は可撓性の樹脂材料からなり、それぞれ円管状で略均一の厚みを有している。
以下、このような各構成を順に説明する。
【0015】
(外層)
外層50は、管状本体10の主要な肉厚を構成する円管状の部分である。外層50の内部には、内径側から順に補強層30と、金属製マーカー14、16、18と、が設けられている。補強層30と金属製マーカー14、16、18とは、管状本体10と同軸に配置されている。外層は、略均一の厚みを有していることが好ましい。外層50の表面には親水層(不図示)が形成されている。
また、本実施形態はこのような構成に限定されるものでなく、外層50の内部にさらに不図示のサブチューブを形成し、このサブチューブに不図示の操作線を挿通させて直管部101の先端Tを含む領域を屈曲させるようにしてもよい。
【0016】
外層50の材料としては熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。この熱可塑性ポリマー材料としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリアミドエラストマー(PAE)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)等のナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン-酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)を挙げることができる。
また、外層50には無機フィラーを混合してもよい。無機フィラーとしては、硫酸バリウムや次炭酸ビスマス等の造影剤を例示することができる。外層50に造影剤を混合することで、体腔内における管状本体10のX線造影性を向上することができる。
【0017】
(内層)
内層24は管状本体10の最内層であり、その内壁面により主管腔20を画定する。主管腔20の断面形状は特に限定されないが、図3図4に示すように、本実施形態では円形である。横断面が円形の主管腔20の場合、その直径は、管状本体10の長手方向に亘って均一でもよく、または長手方向の位置により相違していてもよい。
内層24の材料は、例えば、フッ素系の熱可塑性ポリマー樹脂を挙げることができる。このフッ素系の熱可塑性ポリマー材料としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)を挙げることができる。内層24をこのようなフッ素系ポリマー材料で構成することにより、主管腔20を通じて薬液等を供給する際のデリバリー性が良好となる。また、主管腔20にガイドワイヤ等を挿通する際の摺動抵抗が低減される。
【0018】
(金属製マーカー)
金属製マーカー14、16、18は、それぞれ操作部90から見て順に遠くなる順番で形成されている。本実施形態の金属製マーカー14、16、18は、いずれも白金等、X線等の放射線が不透過の金属材料を含むリングである。金属製マーカー14、16は、直管部101の先端Tを含む位置を術者が視認することに寄与できる。これにより、カテーテル1の操作を行うのに最適なタイミングを容易に判断することができる。また、金属製マーカー16よりも操作部90の近くに設けられる金属製マーカー18は、例えば、カテーテル1が被験者の体内へのデタッチャブルコイルの導入のために用いられる場合、術者は第3マーカー18を目安としてカテーテル1の主管腔20内にあるデタッチャブルコイルの切断位置を把握することができる。
ただし、本実施形態は上記のように金属製マーカーを三つ備える構成に限定されず、少なくとも一つのマーカーが金属などの放射線不透過の材料で作成されていればよく、他のマーカーは放射線を透過させるものでもよい。また、マーカーの個数も任意であり、例えば一つのマーカーとしてもよい。
【0019】
本実施形態では、金属製マーカー14、16、18を何れも同一の材料を含む同一形状を有する部材とする。同一形状とは、金属製マーカー14、16、18の外径が同一であり、直管部101の径方向の高さが同一であることをいう。また、金属製マーカー14、16、18を同一の材料及び形状で構成することにより、本実施形態は、金属製マーカー14、16、18を共通の金型を用いて作成することができ、それぞれ別の形状を有する部材として作成する場合と比較して製造に要するコストを低減することができる。
【0020】
(凸条)
本実施形態は、補強層30を構成する補強ワイヤ32によって凸条35を形成している。補強層30は、管状本体10において内層24を保護する保護層である。補強層30が存在することで、主管腔20の径方向に加わる外力に対する抗力が増し、主管腔20が変形することを防止することができる。
補強層30は補強ワイヤ32を巻回して形成されている。補強ワイヤ32の材料には、タングステン(W)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケルチタン系合金、鋼、チタン、銅、チタン合金または銅合金等の金属材料のほか、内層24及び外層50よりも剪断強度が高いポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)またはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂材料を用いることができる。補強ワイヤ32の材料は、金属材料であることが好ましく、本実施形態では、補強ワイヤ32としてステンレス鋼の細線が用いられている。
【0021】
図2(a)から図4に示した補強層30は、複数本の補強ワイヤ32によって形成される網状のブレイド部材である。このため、凸条35は、ブレイド部材に沿って網状に形成されている。図2(a)のA断面においては図3に示すように補強ワイヤ32が視認できず、B断面においては補強ワイヤ32が視認できる。このような構成により、本実施形態は、補強層30による主管腔20の変形防止と可撓性の維持とを両立することができる。
また、本実施形態は、補強層30を設けたことによって金属製マーカー14、16、18の下層が機械的な変形を生じ難く、このことによって金属製マーカー14、16、18をかしめることによって内層24及び補強ワイヤ32に取り付けることができる。
【0022】
本実施形態の凸条35は、主管腔20の内表面201と不図示のガイドワイヤが凸条35と点接触することによって接触面積を小さくし、ガイドワイヤの主管腔20内における摺動性を高めることができる。さらに、本実施形態は、補強ワイヤ32を覆う内表面201によって成っている。このような本実施形態では、補強ワイヤが内表面201の内層24に覆われていて、内表面201から露出しないように構成されている。このようにすれば、本実施形態は、凸条35の表面を良好な摺動性を得る内層24で覆い、ガイドワイヤの主管腔20内における摺動性をいっそう高めることができる。
【0023】
ただし、本実施形態は、凸条35の表面が内層24によって覆われる構成に限定されるものではない。図5は、凸条の他の例を説明するための図であって、内表面201から露出する補強ワイヤ32が凸条であるものとした例を示している。図5においては、補強ワイヤ32の露出部分36を凸条とする。このような構成によれば、補強ワイヤ32が内層24を突き破ってガイドワイヤと直接接触するようになる。そして、このとき、凸条としての露出部分36の幅は内層24によって覆われている場合より細くなり、ガイドワイヤとの接触面積をより小さくして摺動性を高めることができる。さらに、補強ワイヤ32が摺動性の高い金属製であるため、露出部分36が凸条であっても本実施形態はガイドワイヤとの間に高い摺動性を得ることができる。
【0024】
さらに、本実施形態は、上記のように凸条が内層24によって被覆された補強ワイヤ32または補強ワイヤ32が露出した露出部分36に限定されるものではない。本実施形態の凸条は、内表面201から露出する補強ワイヤ32の部分である露出部分36と、補強ワイヤ32のうちの露出部分36を除く部分を覆う内層24と、を含むものであってもよい。すなわち、本実施形態は、図2(a)、図2(b)のように、内層24に覆われた補強ワイヤ32で構成される凸条35と、図5に示す補強ワイヤ32である露出部分36とが混在するものであってもよい。
また、このような場合、本実施形態は、図5のように内層24から突起する部分が全て露出部分36であるものに限定されるものではない。本実施形態は、内層24から突起する部分のうちの一部が露出部分36であって、他の一部が内層24に被覆されていてもよい。
【0025】
以上の構成は、金属製マーカー14、16、18をかしめる際の押圧力を調整することによって実現することができる。すなわち、金属製マーカー14、16、18をかしめる際の押圧力を相対的に小さくすることにより、本実施形態は、図2(a)、図2(b)及び図3のように補強ワイヤ32が内層24によって被覆されている凸条を形成することができる。また、金属製マーカー14、16、18をかしめる際の押圧力を相対的に大きくすることにより、本実施形態は、図5のように内層24を突き破って補強ワイヤ32が露出する凸条を形成することができる。
さらに、本実施形態は、直管部101に形成される凸条の全てが内層24に被覆されている、あるいは補強ワイヤ32が露出していることに限定されず、両者が混在するものであってもよい。凸条は、内層24によって被覆されているか否かによらずガイドワイヤの摺動性を高めることができるからである。
【0026】
また、本実施形態は、上記したように、凸条が重複領域D14、D16、D18に形成されているものに限定されるものでなく、図2(a)に示す非重複領域E、E、Eに形成されるものであってもよい。このような構成は、金属製マーカー14、16、18をかしめる工程ではなく、後述する主芯線22を管状本体10から抜去して主管腔20を形成する工程時に凸条を形成するものである。
【0027】
また、本実施形態のカテーテル1は、直管部101の重複領域D14、D16、D18に補強ワイヤ32が一重に巻き回される単層の補強層30が形成される構成に限定されず、多層の補強層30が形成されるものであってもよい。多層の補強層30は、重複領域D14、D16、D18の全てに形成されるものであってもよいし、一部に形成されるものであってもよい。多層の補強層30が重複領域D14、D16、D18の一部に形成される場合、本実施形態は、多層の補強領域と重なる内表面201にのみ凸条が形成されるようにしてもよい。
このような構成は、多重の補強層30上の金属製マーカーに対し、単層の補強層30上の金属製マーカーをかしめる押圧力(以下、「弱押圧力」)よりも強い押圧力(以下、「強押圧力」)を加え、凸条が形成される押圧力の閾値が弱押圧力と強押圧力との間にある場合に実現できる。
【0028】
直管部101に単層の補強層30と多層の補強層30がある場合、本実施形態では、凸条が内表面201のうちの重複領域D14等と、非重複領域E等とに形成されるようにしてもよい。そして、重複領域D14等に形成されている凸条の内表面201からの高さである凸高さを、非重複領域E等に形成されている凸条の凸高さより高くしてもよい。このような構成は、多重の補強層30上の金属製マーカーに対しては強押圧力を加えてかしめ、単層の補強層30に対しては弱押圧力を加えてかしめ、凸条が形成される押圧力の閾値が弱押圧力より大きい場合に実現できる。
【0029】
また、本実施形態は、図1に示すように、直管部101の内層24の径が一定の構成に限定されるものではない。
図6は、直管部101において内層24の径が先端T(図1)に向かって小さくなる構成を説明するための図である。図6に示す管状本体10は、主管腔20の開口端Hを含む一部に他の部分Gよりも細径の細径部Fを有し、細径部Fにおいては内層24の肉厚が他の部分Gの肉厚よりも薄くなっている。このような構成において、本実施形態では、細径部Fの内表面201に凸条が形成されるようにしてもよい。
このような構成は、細径部F及び他の部分Gにおいて金属製マーカー14、16及び金属製マーカー18を同様の押圧力によってかしめる場合に実現できる。そして、細径部Fにおける内層24の肉厚をこの押圧力によって凸条が形成される厚さとし、細径部Fにおける内層24の肉厚を押圧力によって凸条が形成されるよりも厚くすることによって実現できる。
このような構成によれば、ガイドワイヤの摺動性が低下する細径部Fに効率的に凸条を形成することができる。
【0030】
さらに、本実施形態は、補強層30を網状のブレイド部材にする構成に限定されるものでなく、例えば、補強ワイヤ32を内層24に螺旋状に巻き回して形成されるコイルを補強層30にしてもよい。このような構成によれば、補強ワイヤ32のピッチや密度を任意に調整し、内層24の強度の調整の自由度が大きくなる。
【0031】
(カテーテルの製造方法)
次に、以上説明したカテーテル1の製造方法を説明する。本実施形態のカテーテルの製造方法は、主管腔20を画定する内層24の周囲に補強ワイヤ32を巻回して補強層30を形成する補強層形成工程と、補強層30の周囲に、それぞれ放射線が不透過の金属材料を含むリング状の金属製マーカー14、16、18をかしめて固定するマーカー固定工程と、を含み、マーカー固定工程において、金属製マーカー14、16、18に対して押圧力を加え、補強ワイヤの少なくとも一部を内層の表面から突出させて凸条を形成するものである。
【0032】
図7は、上記の補強層形成工程を説明するための図であって、内層24に補強層30を巻回した状態の直管部101を示す縦断面図である。図8は、マーカー固定工程を説明するための図であって、補強層30の上層に金属製マーカー14、16、18を固定した状態を示す101の縦断面図である。図9は、図8の構成から金属製マーカー14と金属製マーカー16との間の領域にある補強層30を除去した直管部101の状態を示す縦断面図である。図10は、図9の構成に外層50を形成した直管部101の状態を示す縦断面図である。
【0033】
本実施形態のカテーテル1の製造工程では、先ず、図7に示すように、主芯線22の周囲に内層24が形成される。主芯線22はマンドレル(芯材)であり、主管腔20を画定する断面円形の線材である。主芯線22の材料は特に限定されないが、ステンレス鋼を用いることができる。内層24は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマーを溶剤に分散させたコーティング液に主芯線22をディッピングしたうえで乾燥させて形成することができる。次に、多条の補強ワイヤ32が内層24の外表面で網状に編組され、補強層30を形成する。
【0034】
次に、マーカー固定工程では、図8に示すように、補強層30の周囲に、金属製マーカー14及び金属製マーカー16が、金属製マーカー16が金属製マーカー14よりも基端側に位置するようにかしめて固定される。さらに、金属製マーカー18が金属製マーカー16よりも基端側の補強層30の周囲にかしめて固定される。このとき、補強ワイヤ32は、いずれも内層24と金属製マーカー14、16、18との間にあって押圧されることにより主芯線22に向かって縮径し、内表面201に凸条を形成する。
次に、本実施形態では、図9に示すように、金属製マーカー14と金属製マーカー16との間の補強層30が除去される。補強層30の除去はレーザーや切断刃等、任意の手段を用いて行うことができる。
【0035】
次に、本実施形態では、図10に示すように、内層24、補強層30、金属製マーカー14、16の周囲に外層50が形成される。外層50は、溶融した樹脂材料を構造体の表面に塗工形成するコーティング押出により形成してもよい。または、予め環状や管状に形成された樹脂リングや樹脂管を構造体の周囲に装着したうえで熱収縮チューブ等を用いて熱賦形してもよい。
【0036】
そして、本実施形態では、主芯線22を管状本体10から抜去して主管腔20が形成される。内層24の周囲に巻き回されている補強ワイヤ32は、主芯線22の径方向に向かう力を主芯線22に加えている。このため、補強ワイヤ32は、主芯線22が抜去されたことによって主管腔20に向かってわずかに縮径し、内層24を押圧して内表面201から突出することによって凸条を形成する。
本実施形態は、上記工程により、金属製マーカー14等をかしめる工程とは別工程で凸条を形成することができるので、金属製マーカー14等のない非重複領域にも凸条を形成することが可能になる。
【0037】
本実施形態においては、さらに管状本体10の先端部分について研磨や加熱等の塑性変形等の方法により丸みを帯びるように形状加工が施される(図2(a)参照)。また、外層の表面に親水層(不図示)が形成され、管状本体10の基端部に操作部90が取り付けられる。以上により、カテーテル1を完成させることができる。
以上説明した本実施形態のカテーテル及びカテーテルの製造方法は、内層24の内表面201に凸条を形成することができる。内表面201に凸条を設けることは、主管腔20内に挿通されるガイドワイヤと内表面201との接触面積を小さくし、ガイドワイヤの主管腔20における摺動性を高めることができる。そして、このような凸条を、金属製マーカー等をかしめて補強層に固定する工程において実現することができるので、本実施形態は、工程の追加や材料の変更をせずにガイドワイヤの摺動性を確保することができる。
【0038】
なお、以上説明した実施形態において、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
本実施形態のカテーテルの製造方法の説明では、複数の工程を順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番やタイミングを限定するものではない。このため、本製造方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障のない範囲で変更することができ、また複数の工程の実行タイミングの一部又は全部が互いに重複していてもよい。
【0039】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)主管腔を取り囲む内層と、補強ワイヤによって形成されて、前記主管腔とねじれの位置にあるように巻き回される補強層と、前記補強層を埋設し、前記内層と共に前記主管腔を取り囲む外層と、を有し、前記内層の内表面の少なくとも一部に、前記補強ワイヤに沿って凸条が形成されている、カテーテル。
(2)前記凸条は、前記補強ワイヤを覆う前記内表面である、(1)のカテーテル。
(3)前記凸条は、前記内表面から露出する前記補強ワイヤの部分である露出部分と、前記凸条の前記補強ワイヤのうちの前記露出部分を除く部分と、を含む、(1)のカテーテル。
(4)前記凸条は、前記内表面から露出する前記補強ワイヤである、(1)のカテーテル。
(5)前記補強層の周囲に設けられ、放射線不透過の金属製マーカーをさらに備え、前記凸条は、前記内表面のうちの前記金属製マーカーと重なる重複領域に形成される、(1)から(4)のいずれか一つのカテーテル。
(6)前記補強層の周囲に設けられ、放射線不透過の金属製マーカーをさらに備え、前記凸条は、前記内表面のうちの前記金属製マーカーと重ならない非重複領域に形成される、(1)から(5)のいずれか一つのカテーテル。
(7)前記補強層の周囲に設けられ、放射線不透過の金属製マーカーをさらに備え、前記凸条は、前記内表面のうちの前記金属製マーカーと重なる重複領域と、前記金属製マーカーと重ならない非重複領域とに形成され、前記重複領域に形成されている前記凸条の前記内表面からの高さである凸高さは、前記非重複領域に形成されている前記凸条の前記凸高さより高い、(1)から(6)のいずれか一つのカテーテル。
(8)前記補強層は、長さ方向に、前記補強ワイヤが単層に巻き回された単層補強領域と、前記補強ワイヤが多層に巻き回された多層補強領域と、を有し、前記多層補強領域と重なる前記内表面にのみ前記凸条が形成されている、(1)から(7)のいずれか一つのカテーテル。
(9)前記補強層は、長さ方向に、前記補強ワイヤが単層に巻き回された単層補強領域と、前記補強ワイヤが多層に巻き回された多層補強領域と、を有し、前記単層補強領域と重なる前記内表面及び前記多層補強領域と重なる前記内表面に前記凸条が形成されていて、前記多層補強領域と重なる前記内表面に形成されている前記凸条の前記内表面からの高さである凸高さは、前記単層補強領域と重なる前記内表面に形成されている前記凸条の前記凸高さより高い、(1)から(7)のいずれか一つのカテーテル。
(10)前記内層は、長さ領域のうちの前記主管腔の開口端を含む一部に他の部分よりも細径の細径部を有し、前記細径部は肉厚が前記他の部分よりも薄く、前記細径部の前記内表面に前記凸条が形成されている、(1)から(9)のいずれか一つのカテーテル。
(11)前記補強層は、前記補強ワイヤを前記内層に螺旋状に巻き回して形成されるコイルであり、前記凸条は、前記補強ワイヤに沿って螺旋状に形成される、(1)から(10)のいずれか一つのカテーテル。
(12)前記補強層は、前記補強ワイヤによって形成される網状のブレイド部材であって、前記凸条は、前記ブレイド部材に沿って網状に形成される、(1)から(10)のいずれか一つのカテーテル。
(13)主管腔を画定する内層に補強ワイヤを巻回して補強層を形成する補強層形成工程と、前記補強層の周囲に、それぞれ放射線が不透過の金属材料を含むリング状の金属製マーカーをかしめて固定するマーカー固定工程と、を含み、
前記マーカー固定工程において、前記金属製マーカーに対して押圧力を加え、前記補強ワイヤの少なくとも一部を前記内層の表面から突出させて凸条を形成する、カテーテルの製造方法。
【符号の説明】
【0040】
1・・・カテーテル
10・・・管状本体
14、16、18・・・金属製マーカー
20・・・主管腔
22・・・主芯線
24・・・内層
30・・・補強層
32・・・補強ワイヤ
50・・・外層
90・・・操作部
94・・・本体ケース
95・・・凹部
96・・・ハブ
98・・・スライダ
101・・・直管部
102・・・拡径部
201・・・内表面
C・・・範囲
14、D16、D18・・・重複領域
、E、E・・・非重複領域
F・・・細径部
G・・・他の部分
H・・・開口端
T・・・先端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10