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  • 特許-鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池 図1
  • 特許-鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池 図2
  • 特許-鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池 図3
  • 特許-鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/74 20060101AFI20241001BHJP
   H01M 4/73 20060101ALI20241001BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01M4/74 D
H01M4/73 A
H01M4/68 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020072026
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021170429
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】寺井 篤史
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-068117(JP,A)
【文献】特開2004-055251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板を有する鉛蓄電池(ただし、前記正極板を巻回して用いる場合を除く)であって、
前記正極板は枠骨部と、枠骨部の内側に延伸する内骨部とを備える鉛蓄電池用正極集電体を含み
前記正極集電体は、Sn濃度が1.1mass%以上であり、
前記内骨部は、当該内骨部の延伸方向に垂直な断面において、前記正極集電体の厚さ方向である第1方向の幅(Y)と、前記延伸方向および前記第1方向に垂直である第2方向の幅(X)とが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、
前記正極集電体は、鉛合金の結晶粒界が前記第1方向よりも、前記第1方向に垂直な面に平行な方向に延びている打ち抜き格子であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記枠骨部は、前記内骨部が配置される領域の外周を囲うように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極集電体は、Sn濃度が、1.8mass%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層された極板群を備える。正極板および負極板は、集電体と、集電体に保持された電極材料とで構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Pb-Sb系合金やPb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金等からなる集電体の格子部にペースト状の活物質を充填して形成した正極板が記載されている。また、特許文献1には、延伸方向に垂直な断面の角部が変形している、正極集電体の格子桟が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-139215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、鉛蓄電池の過充電時には、正極集電体が腐食し、正極集電体に変形が生じることに着目し、本願発明を想到した。すなわち、正極集電体が腐食し、変形が生じた場合には、正極集電体と正極電極材料との間に隙間が生じる。これにより、正極電極材料が脱落し、寿命サイクル数が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、寿命サイクル数に優れた鉛蓄電池用正極集電体および鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る鉛蓄電池用正極集電体は、枠骨部と、枠骨部の内側に延伸する内骨部とを備える鉛蓄電池用正極集電体であって、前記正極集電体は、Sn濃度が1.1mass%以上であり、前記内骨部は、当該内骨部の延伸方向に垂直な断面において、前記正極集電体の厚さ方向である第1方向の幅(Y)と、前記延伸方向および前記第1方向に垂直である第2方向の幅(X)とが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、寿命サイクル数に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る正極集電体21の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る正極集電体21における、内骨部23の延伸方向に垂直な断面を模式的に表す図であり、図2における、A-A線断面図を示す図である。
図4】本発明の実施例および比較例に係る軽負荷寿命試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
以下、本発明の実施形態について、図面を参照し詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池100を示す斜視図である。図1に示すように、鉛蓄電池100は、複数の極板群11と、電解液(図示せず)と、極板群11および電解液を収容し、上方が開口した電槽12と、電槽12の開口を封止する蓋15とを備える。
【0012】
電槽12は、上面に開口部19を有する略直方体形状の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。電槽12は、隔壁13を有する。電槽12の内部は、隔壁13によって、所定方向に並ぶ複数のセル室14に仕切られている。
【0013】
電槽12の各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。そのため、電槽12が、6つのセル室14に区画されている場合には、鉛蓄電池100は、6つの極板群を備える。また、各セル室14には、希硫酸を含む電解液が収容されており、極板群11の略全体が電解液に浸漬されている。
【0014】
電槽12の開口部19は、開口部19に対応する形状を有する蓋15で封止される。より具体的には、蓋15の下面の周縁部分と、電槽12の開口部19の周縁部分とが、例えば熱溶着により接合されている。蓋15は、負極ブッシング16および正極ブッシング17を備える。また、蓋15には、各セル室14に対応する位置に液口栓18が設けられている。鉛蓄電池100に補水を行う際には、液口栓18を外して補水液が補給される。なお、液口栓18は、セル室14内で発生したガスを鉛蓄電池100の外部に排出する機能を有してもよい。
【0015】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。すなわち、セパレータ4は、袋状でなくてもよく、また正極板3を収容していてもよい。
【0016】
極板群11の複数の正極板3は、鉛または鉛合金により形成されたストラップ6に接続されている。これにより、複数の正極板3は、ストラップ6を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群11の複数の負極板2は、鉛または鉛合金により形成されたストラップ6に接続されている。これにより、複数の負極板2は、ストラップ6を介して電気的に並列に接続されている。また、ストラップ6は、隔壁13に設けられた貫通孔を介して、隣接するセル室14同士で接続しており、これにより、隣接するセル室14同士の極板群11が直接に接続されている。
【0017】
電槽12の正極端子側の端部に位置するセル室14では、複数の正極板3の耳部26(図2参照)が、接続部材5を介して略円柱形状の正極柱7に接続されている。同様に、電槽12の負極端子側の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳部が、接続部材5を介して略円柱形状の負極柱9に接続されている。
【0018】
正極柱7は、蓋15の正極ブッシング17の孔に挿入され、例えば溶接等により正極ブッシング17に接合されている。正極柱7と正極ブッシング17とにより、外部端子として機能する正極端子部が構成されている。また、負極柱9は、蓋15の負極ブッシング16の孔に挿入され、例えば溶接等により負極ブッシング16に接合されている。負極柱9と負極ブッシング16とにより、外部端子として機能する負極端子部が構成されている。
【0019】
負極板2は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを有する。負極集電体は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体は、エキスパンド格子であってもよく、鋳造格子であってもよく、打ち抜き格子であってもよい。さらに、負極集電体は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部を有している。負極電極材料は、鉛(海綿状鉛)を含んでいる。負極電極材料は、さらに公知の他の添加剤(例えば、カーボン、グラファイト、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。
【0020】
正極板3は、正極集電体(鉛蓄電池用正極集電体)21(図2参照)と、正極集電体に支持された正極電極材料とを有する。正極集電体21は、導電性部材であり、鉛合金により形成されている。正極電極材料は、二酸化鉛を含んでいる。正極電極材料は、さらに公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
図2は、本実施形態に係る正極集電体21の一例を示す図であり、正極集電体21を厚さ方向から見た平面図である。図2に示すように、正極集電体21は、枠骨部22と、枠骨部22の内側に延伸する内骨部23と、枠骨部22の上端付近に設けられ、上方へと突出する耳部26とを有している。なお、上方の「上」とは、正極集電体21において、枠骨部22から耳部26が突出している方向であり、下方の「下」とは、その逆方向である。すなわち、上下方向は、鉛蓄電池100における、ストラップ6と耳部26との接続方向である。また、水平方向とは、前記上下方向に垂直な方向である。
【0022】
正極集電体21は、内骨部23が配置される領域の外周を囲むように設けられた枠状部材である枠骨部22を有している。本実施形態においては、枠骨部22は、略矩形状を有する。すなわち、正極集電体21は4辺に枠骨部22を備えている。枠骨部22は、上枠部22a、下枠部22b、第1縦枠部22c、および第2縦枠部22dを備える。
【0023】
上枠部22aは、耳部26と接続している。また、上枠部22aは、鉛蓄電池100が、自動車等に載置された場合に、上枠部22aの延伸方向が水平方向となるように設けられている。下枠部22bは、延伸方向が上枠部22aに対して略平行となるように設けられている。
【0024】
第1縦枠部22cは、上枠部22aと下枠部22bとを、上枠部22aおよび下枠部22bの延伸方向の一方側の端部で接続するように設けられている。第2縦枠部22dは、上枠部22aと下枠部22bとを、上枠部22aおよび下枠部22bの他方側の端部で接続するように設けられている。
【0025】
内骨部23は、枠骨部22に対して、正極集電体21の内側に延伸するように設けられており、縦骨部24と、横骨部25とを備える。縦骨部24は、上枠部22aと下枠部22bとを繋ぐように延びており、第1縦枠部22cおよび第2縦枠部22dに対して略平行に延びている。なお、縦骨部24の構成は、これに限られるものではなく、縦骨部24は、第1縦枠部22cおよび第2縦枠部22dに対して斜めに延びていてもよく、また、縦骨部24は、上枠部22aの耳部26と接続している部分を基点として、放射状に延びていてもよい。縦骨部24が、斜め、あるいは放射状に延びている場合には、縦骨部24は、上枠部22aまたは下枠部22bと、第1縦枠部22cまたは第2縦枠部22dとを繋ぐように延びていてもよい。
【0026】
横骨部25は、図2に示す例では、上枠部22aおよび下枠部22bに対して斜めに延びる斜め骨と、上枠部22aと下枠部22bと略平行に延びる横骨とを備えている。しかしながら横骨部25の形状はこれに限られるものではなく、斜め骨のみを備えていてもよく、横骨のみを備えていてもよい。
【0027】
図3は、図2における、A-A線矢示断面図を示すものであり、本実施形態に係る正極集電体21における、内骨部23の延伸方向に垂直な断面を模式的に表す図である。ここで、正極集電体21の厚さ方向を第1方向D1とし、内骨部23の延伸方向および第1方向D1に垂直な方向を第2方向D2とする。また、内骨部23の第1方向D1の幅を第1幅Y、内骨部23の第2方向D2の幅を第2幅Xとする。なお、内骨部23の延伸方向とは、内骨部23同士が交差する部分であるノード間における、内骨部23の延伸方向である。すなわち、図2に示す例では、縦骨部24の延伸方向は、上下方向である。
【0028】
本実施形態に係る正極集電体21は、第1幅Yと第2幅Xとが、下記式(1)の関係を満たす。
0.4 ≦ Y/X ≦0.8 ・・・(1)
【0029】
なお、鉛蓄電池100における第1幅Yおよび第2幅Xは、以下のようにして測定する。まず、準備した正極集電体21の全体が覆われるように、正極集電体21を熱硬化性樹脂に埋め込み、樹脂を硬化させる。次に、樹脂に埋め込まれた正極集電体21を内骨部23の延伸方向に垂直な断面で切断する。切断した正極集電体21の内骨部23の断面を、マイクロスコープ等で撮影し、撮影した画像に基づいて、第1幅Yおよび第2幅Xを算出する。このとき、第1幅Yおよび第2幅Xは、撮影した所定の画像において、最大となる値を用いる。換言すれば、撮影した画像を用いて、内骨部23に外接する、各辺が第1方向D1または第2方向D2に平行な矩形を考える。当該矩形における第1方向D1の辺の長さを第1幅Yとし、第2方向D2の辺の長さを第2幅Xとする。
【0030】
正極集電体21における、内骨部23の断面の形状は、Y/Xが上記式(1)を満たしていれば、特に限定されるものではない。すなわち、図3においては、断面形状が八角形状である例を示したが、断面形状は、四角形等その他の多角形状であってもよい。また、正極集電体21が、例えば、鋳造により作製される鋳造格子である場合や、鉛合金からなる圧延シートを打ち抜き加工することで作製される打ち抜き格子である場合には、正極集電体21の厚さと、内骨部23の桟の太さとの関係を調整することで、Y/Xを所望の値とすることができる。さらに、鋳造格子や、打ち抜き格子である正極集電体21に対して、プレス加工等の二次加工を行い、断面の形状を変化させることで、Y/Xを所望の値としてもよい。
【0031】
本実施形態においては、正極集電体21は、スズ(Sn)を含む鉛合金で構成されている。正極集電体21のスズ量は、1.1mass%以上であり、1.1mass%以上、1.8mass%以下であることが好ましい。正極集電体21のスズ量は、公知の方法を用いて測定することができ、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により分析することができる。また、正極集電体21は、鉛およびスズ以外の元素をさらに含んでいてもよい。例えば、Pb-Ca-Sn系合金であってもよい。Pb-Ca-Sn系の場合、Caは0.06mass%~0.08mass%の範囲内であることが好ましい。また、正極集電体21は、Ca、Ba、Ag、Al、Bi、As、SeおよびCuからなる群から選ばれる1または複数の元素を含んでいてもよい。
【0032】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0033】
〔まとめ〕
(1)本発明の一態様に係る鉛蓄電池用正極集電体は、枠骨部と、枠骨部の内側に延伸する内骨部とを備える鉛蓄電池用正極集電体であって、前記正極集電体は、Sn濃度が1.1mass%以上であり、前記内骨部は、当該内骨部の延伸方向に垂直な断面において、前記正極集電体の厚さ方向である第1方向の幅(Y)と、前記延伸方向および前記第1方向に垂直である第2方向の幅(X)とが、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす。
【0034】
一般に、鉛蓄電池が過充電状態となった場合等には、鉛蓄電池の正極集電体に腐食が生じ、正極集電体が変形することが知られている。正極集電体が腐食し、変形した場合には、正極集電体と正極電極材料との間に隙間が生じ、正極集電体に支持されていた正極電極材料が、正極集電体から剥離し、脱落することがある。このように、正極電極材料が脱落することで、鉛蓄電池の寿命サイクル数が低下するという問題がある。
【0035】
上記の構成によれば、本発明の一態様に係る鉛蓄電池用正極集電体は、内骨部が、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たす正極集電体であって、Sn濃度が1.1mass%以上である。このように、正極集電体中のSn濃度を1.1mass%以上とすることで、Snによる耐食性の向上の効果が生じ、鉛蓄電池が当該正極集電体を備える場合に、正極集電体の過充電時における腐食が抑制できる。この効果は、正極集電体の内骨部の延伸方向に垂直な断面の形状を、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たすような形状とした場合に特に顕著となる。換言すれば、内骨部23の断面の形状を、0.4≦Y/X≦0.8を満たすように制御することで、Snによる正極集電体の腐食の抑制の効果を顕著なものとすることができる。このように、正極集電体の過充電時における腐食を抑制することにより、鉛蓄電池に用いられた場合に、過充電時における正極電極材料の脱落を抑制することが可能となり、寿命サイクル数に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【0036】
なお、本発明の一態様に係る正極集電体においては、内骨部のすべての場所において、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たしている必要はない。すなわち、内骨部の少なくとも一部の場所において、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たしていればよい。より具体的には、少なくとも、内骨部のうち異なる10本の内骨において0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たしていれば、本発明に含まれる。
【0037】
また、Y/Xの算出に用いる正極集電体は、正極電極材料を充填する前のものでもよく、鉛蓄電池を解体して取り出したものでもよい。後者の場合には、まず鉛蓄電池を解体して取り出した正極板を水洗することで、硫酸を含む電解液を除去する。次に、正極板を乾燥させ、正極板から正極電極材料を除去する。次に、正極電極材料を除去した正極集電体をアルカリ性のマンニット溶液に所定時間浸漬し、その後、水洗することで、正極集電体の表面に付着している正極電極材料および腐食生成物をさらに除去する。そして、正極電極材料および腐食生成物を除去した正極集電体を煮用いて、Y/Xを算出する。
【0038】
なお、本発明の一態様に係る正極集電体において、「枠骨部」とは、図2に示すような正極集電体の外周を構成するように設けられた矩形状のものに限られるものではない。すなわち、エキスパンド格子のように、耳と接続した上枠部や、当該上枠部と対向するように設けられた下枠部も本発明の「枠骨部」に含まれる。換言すれば、正極集電体の枠骨部は、下枠部、第1縦枠部、および/または第2縦枠部を備えていなくてもよい。また、上枠部、下枠部、第1縦枠部、および第2縦枠部のそれぞれは、必ずしも一様な太さで連続的に設けられていなくてもよい。すなわち、上枠部、下枠部、第1縦枠部、および第2縦枠部は、一部に切り欠きが設けられていてもよく、部分的に幅が変化していてもよい。
【0039】
(2)本発明の一態様に係る鉛蓄電池用集電体は、前記枠骨部が、前記内骨部が配置される領域の外周を囲うように設けられていてもよい。
【0040】
上記の構成によれば、正極集電体が、内骨部の外周を囲うように設けられた枠骨部を備えている場合には、正極集電体に腐食が生じたとき、正極集電体は、正極集電体の厚さ方向に湾曲するような変形が生じ易い。これは、正極集電体が腐食し、内骨部に変形の応力が生じた場合に、枠骨部が、外周のすべての方向に設けられているため、内骨部は、枠骨部がある外周方向へ伸びる変形よりも、厚さ方向へ湾曲する変形が生じ易いためであると考えられる。
【0041】
一方、正極集電体が、公知であるロータリー方式で作製されたエキスパンド格子である場合には、正極集電体は、上枠部および下枠部のみを備えており、縦枠部を備えていない。このように、正極集電体が、内骨部の外周を囲うように設けられた枠骨部22を備えていない場合には、正極集電体が腐食したとしても、正極集電体は、正極集電体の厚さ方向に垂直な平面内での変形が可能であり、正極集電体の厚さ方向への湾曲が生じにくい。このように、正極集電体が、正極集電体の厚さ方向に垂直な平面内での変形する場合には、正極集電体が、厚さ方向に変形する場合に比べて、正極電極材料の脱落が生じにくい。
【0042】
そのため、正極集電体が、正極集電体の厚さ方向に湾曲するような変形が生じ易い内骨部の外周を囲うように設けられた枠骨部を備えている場合において、正極集電体が、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、かつSn濃度が1.1mass%以上とすることにより、正極集電体の厚さ方向に湾曲するような変形が生じにくい、内骨部の外周を囲うように設けられた枠骨部を備えていない場合に比べて、正極電極材料の脱落抑制の効果を一層大きくすることができる。
【0043】
(3)本発明の一態様に係る鉛蓄電池用正極集電体は、打ち抜き格子であってもよい。
【0044】
上記の構成によれば、鉛蓄電池用正極集電体が、打ち抜き格子である場合には、鋳造格子や、エキスパンド格子に比べて、正極電極材料の脱落の抑制効果が大きい。すなわち、打ち抜き格子の作製は、まず、鋳造された鉛または鉛合金からなるスラブを、圧延し圧延シートを作製する。次に、作製した圧延シートに対して、打ち抜き加工を行うことで打ち抜き格子を作製する。そのため、圧延ロールと接触する、正極集電体の厚さ方向に垂直な面(圧延面)は、表面粗さが小さくなる。ここで、正極電極材料は、主として正極集電体の厚さ方向に垂直な面と接触する。そのため、正極電極材料と主として接触する集電体表面の表面粗さが小さいことにより、打ち抜き格子においては、正極集電体と正極電極材料との密着性が良くない。
【0045】
また、圧延シートは、圧延時に結晶粒が圧延方向(圧延時における圧延シートの搬送方向)に伸張し、金属組織が圧延シートの厚さ方向に積層された層状組織が形成されている。そして、圧延面においては、結晶粒界が深さ方向よりも、圧延面に平行な方向に延びているため、圧延面における腐食は、表層から層状に進行する。ここで、正極集電体の腐食により形成される腐食層は、正極電極材料に対する密着性がよく、正極集電体と正極電極材料とを密着させる機能を有する。打ち抜き格子においては、腐食層が、正極集電体の表層に選択的に形成されるため、正極集電体が腐食により変形した場合には、正極集電体の表層形成された腐食層が正極集電体から層状に剥離することで、正極集電体と正極電極材用との間の密着が失われる。そのため、腐食層が正極集電体の表層に選択的に形成される、打ち抜き格子は、正極集電体の厚さ方向に腐食層が形成されている場合に比べて、正極集電体と正極電極材料との間に隙間が生じ易い。このように、打ち抜き格子においては、正極集電体と正極電極材料との密着性が良くなく、正極集電体が変形した場合に、正極電極材料の脱落が生じやすい。
【0046】
一方、正極集電体が、鋳造格子である場合を考えると、鋳造格子は、製造過程において、鋳型から集電体が離型し易くなるように、鋳型に離型材が塗布される。そのため、離型材の影響により、鋳造格子は、打ち抜き格子に比べて、正極電極材料と接触する面(正極集電体の厚さ方向に垂直な面)の表面粗さが大きくなる。また、鋳造格子は、結晶粒が圧延シートに比べて大きい。そのため、正極集電体が腐食した場合には、粒界腐食が生じ、正極集電体の内部へと腐食が進行する。腐食層が内部にまで形成される場合には、正極集電体が腐食により変形したとしても、内部にまで形成された腐食層が楔となり、正極集電体と正極電極材料との密着を担保する。そのため、鋳造格子においては、正極集電体と正極電極材料との間に隙間が生じ難い。このように、鋳造格子は、打ち抜き格子に比べて表面粗さが大きく、内部まで腐食層が形成されるため、打ち抜き格子に比べて正極電極材料との密着性がよい。
【0047】
また、エキスパンド格子は、打ち抜き格子と同様に、圧延シートを用いるものの、製造過程において、格子の内骨にねじれが生じる。そのため、エキスパンド格子においては、圧延方向に垂直な面が、格子の厚さ方向に垂直な表面に露出することとなる。そのため、エキスパンド格子においては、正極電極材料は、圧延面と、圧延方向に垂直な面との両方に接触する。圧延方向に垂直な面は、圧延面に比べて、深さ方向に深く延びる粒界が存在する。ここで、圧延方向に垂直な面は、圧延面から深さ方向に深く延びる粒界が存在し、粒界腐食が生じるため、鋳造格子の場合と同様に、深さ方向に腐食層が形成される。そのため、圧延方向に垂直な面は、圧延面に比べて、正極電極材料との密着性はよい。すなわち、エキスパンド格子においては、正極電極材料との密着性がよい圧延方向に垂直な面が、正極電極材料との密着性が求められる、正極集電体の厚さ方向に垂直な表面に露出する。以上の理由から、エキスパンド格子も、打ち抜き格子に比べて正極電極材料との密着性がよい。
【0048】
以上から、鋳造格子やエキスパンド格子に比べて正極電極材料との密着性が良くない打ち抜き格子において、正極集電体が、0.4≦Y/X≦0.8の関係を満たし、Sn濃度が1.1mass%以上であることは、鋳造格子やエキスパンド格子に比べて正極電極材料の脱落抑制の効果を一層大きくすることができる。
【0049】
(4)本発明の一態様に係る鉛蓄電池用正極集電体は、Sn濃度が、1.8mass%以下であってもよい。
【0050】
(5)本発明の一態様に係る鉛蓄電池用集電体を備える鉛蓄電池も、本発明に含まれる。
【0051】
〔実施例および比較例〕
以下、本発明の実施形態について、実施例および比較例に基づいて、さらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(正極板の作製)
まず、Sn濃度が、0.5mass%、1.1mass%、および1.8mass%のPb-0.07mass%Ca-Sn系合金の圧延シートを打ち抜き加工することにより、第1幅Y/第2幅Xが、0.2~0.9の範囲となる打ち抜き格子の正極集電体を作製する。次に、鉛粉を含む正極ペーストを調整し、正極集電体に充填する。その後、熟成および乾燥を行い、未化成の正極板を得る。
【0053】
(負極板の作製)
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、カーボンブラック、グラファイト、および有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)を混合して、負極ペーストを調整する。負極集電体として、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子に負極ペーストを充填する。その後、充填および乾燥を行い、未化成の負極板を得る。
【0054】
(鉛蓄電池の作製)
未化成の各負極板を、ポリエチレン製の袋状セパレータに収容する。次に、1セル当たり未化成の負極板7枚と、未化成の正極板7枚とを交互に重ね、極板群を作製する。その後、作製した6つの極板群をポリプロピレン製の電槽の各セル室に挿入し、電解液を注入する。次に、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を組み立てる。なお、電解液としては、硫酸水溶液を用いる。
【0055】
(軽負荷寿命試験)
作製した鉛蓄電池に対して、以下の手順で高温過充電試験を行う。
JIS D5301で指定された通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を75℃雰囲気下で実施し、610サイクル毎にCCA性能を判定する。CCA性能の判定方法は、JIS D5301の規定に準じる。なお、放電条件および充電条件は以下の通りである。
放電:25A、1分
充電:14.8V、25A、10分
CCA性能の判定時に、放電電圧が7.2V以下まで低下した場合に寿命と判定する。また、サイクル試験の充電時において、充電電流が異常に上昇した場合も、寿命であると判定する。寿命と判定したサイクル数を寿命サイクル数とする。
【0056】
図4は、実施例および比較例に係る高温過充電試験の結果を示す図であり、第1幅Y/第2幅Xと、寿命サイクル数との関係を示す図である。なお、図4においては、第1幅Y/第2幅Xが0.2、Snが0.5mass%の正極集電体を使用した鉛蓄電池における寿命サイクル数を100%として結果を示している。
【0057】
図4からわかるように、Snが1.1mass%以上の正極集電体を備える鉛蓄電池は、Snが1.1mass%未満の正極集電体を備える鉛蓄電池に比べて、高温過充電試験における、寿命サイクル数に優れていることがわかる。この傾向は特に、Y/Xが、0.4以上0.8以下の範囲において特に顕著である。
【符号の説明】
【0058】
21:正極集電体(鉛蓄電池用正極集電体) 22:枠骨部 23:内骨部 100:鉛蓄電池 D1:第1方向 D2:第2方向 Y:第1幅 X:第2幅
図1
図2
図3
図4