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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】カバーガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20241001BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20241001BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20241001BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
G02B1/115
G02B5/02 C
G09F9/00 313
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020126195
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023332
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 隆義
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184709(JP,A)
【文献】特開2016-043694(JP,A)
【文献】特開2018-158879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00-17/44,
G02B 1/115,5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、
前記ガラス基板上に設けられている、凹凸構造を有するアンチグレア層と、
前記アンチグレア層上に設けられている、反射防止膜と、
前記ガラス基板と前記アンチグレア層との間に設けられており、前記ガラス基板とは屈折率が異なっている、光学調整層と、
を備え、
前記アンチグレア層が、平坦部及び非平坦部を有し、
平面視において、前記アンチグレア層全体の面積に対する前記平坦部の面積の割合が、15%以上、60%以下であり、
前記光学調整層の屈折率は、前記アンチグレア層の屈折率より大きく、
前記光学調整層の屈折率と前記アンチグレア層の屈折率との差の絶対値が、0.2以上であり、
前記反射防止膜側から光を入射させたときに、正反射光の視感反射率が、反射散乱光の視感反射率よりも小さい、カバーガラス。
【請求項2】
前記ガラス基板の屈折率と前記アンチグレア層の屈折率との差の絶対値が、0.02以上である、請求項1に記載のカバーガラス。
【請求項3】
前記平坦部の厚みが、5nm以上、500nm以下である、請求項1または請求項2に記載のカバーガラス。
【請求項4】
前記ガラス基板上に前記アンチグレア層の平坦部及び前記反射防止膜がこの順に設けられてなる第1の積層体の構造による反射光の視感反射率が、前記アンチグレア層の非平坦部上に前記反射防止膜が設けられてなる第2の積層体の構造による視感反射率よりも小さい、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のカバーガラス。
【請求項5】
前記光学調整層が、酸化ニオブにより構成されている、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のカバーガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチグレア機能を有するカバーガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
カバーガラスは、携帯電話機、タブレット端末、テレビ等のディスプレイに広く用いられている。このようなディスプレイの視認性は、外光の映り込みなどにより低下することがある。ディスプレイの映り込みを低減し、視認性を向上させる方法として、表面に凹凸構造を有するアンチグレア層を設ける方法が知られている。さらに、防眩効果とコントラストを向上させる方法として、反射防止膜を設ける方法が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、透明基体の表面に凹凸形状を形成することにより、防眩加工を施す方法や、低反射膜を設ける方法が開示されている。低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5839134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スマートフォンやデジタルサイネージ等のディスプレイにおいては、外光の映り込みをさらに一層低減させ、視認性をさらに一層向上させることが求められている。しかしながら、特許文献1のカバーガラスにおいても、外光の映り込みを十分には低減することはできず、視認性をなお十分に向上させることができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、視認性を効果的に向上させることができる、カバーガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の発明に係るカバーガラスは、ガラス基板と、前記ガラス基板上に設けられている、凹凸構造を有するアンチグレア層と、前記アンチグレア層上に設けられている、反射防止膜と、を備え、前記反射防止膜側から光を入射させたときに、正反射光の視感反射率が、反射散乱光の視感反射率よりも小さいことを特徴とする。
【0008】
本願の第2の発明に係るカバーガラスは、ガラス基板と、前記ガラス基板上に設けられている、アンチグレア層と、前記アンチグレア層上に設けられている、反射防止膜と、を備え、前記ガラス基板と前記アンチグレア層との組成が異なっていることを特徴とする。
【0009】
以下、第1の発明と第2の発明を総称して、本発明と称する場合があるものとする。
【0010】
本発明においては、前記ガラス基板の屈折率と前記アンチグレア層の屈折率との差の絶対値が、0.02以上であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記アンチグレア層が、平坦部及び非平坦部を有することが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記平坦部の厚みが、5nm以上、500nm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記ガラス基板上に前記アンチグレア層の平坦部及び前記反射防止膜がこの順に設けられてなる第1の積層体の構造による反射光の視感反射率が、前記アンチグレア層の非平坦部上に前記反射防止膜が設けられてなる第2の積層体の構造による視感反射率よりも小さいことが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記ガラス基板と前記アンチグレア層との間に、前記ガラス基板とは屈折率が異なっている、光学調整層が設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記光学調整層の屈折率と前記アンチグレア層の屈折率との差の絶対値が、0.2以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、視認性を効果的に向上させることができる、カバーガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスを示す模式的断面図である。
図2】(a)及び(b)は、正反射光の視感反射率の測定方法を説明するための模式的断面図である。
図3】(a)及び(b)は、反射散乱光の視感反射率の測定方法を説明するための模式的断面図である。
図4】ガラス基板上にアンチグレア層の平坦部及び反射防止膜がこの順に積層されてなる第1の積層体を説明するための模式的断面図である。
図5】アンチグレア層上の非平坦部に反射防止膜が積層されてなる第2の積層体を説明するための模式的断面図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスを示す模式的断面図である。
図7】ガラス基板上に、光学調整層、アンチグレア層、及び反射防止膜がこの順に積層されてなる第3の積層体を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。なお、以下の図面において、Aは入射光であり、Bは正反射光であり、Cは反射散乱光である。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るカバーガラスを示す模式的断面図である。図1に示すように、カバーガラス1は、ガラス基板2と、アンチグレア層3と、反射防止膜4とを備える。ガラス基板2の上に、アンチグレア層3が設けられている。また、アンチグレア層3の上に、反射防止膜4が設けられている。
【0020】
本実施形態において、ガラス基板2は、略矩形板状の形状を有する。もっとも、ガラス基板2は、例えば、略円板状等の形状を有していてもよく、その形状は特に限定されない。
【0021】
ガラス基板2の厚みは、特に限定されず、光透過率などに応じて適宜設定することができる。ガラス基板2の厚みは、例えば、0.1mm~3mm程度とすることができる。
【0022】
ガラス基板2に用いられるガラスとしては、特に限定されず、例えば、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、化学強化ガラス等を用いることができる。
【0023】
また、ガラス基板2は、第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。第1の主面2a及び第2の主面2bは、対向し合っている。ガラス基板2の第1の主面2a上に、アンチグレア層3が設けられている。また、アンチグレア層3は、凹凸構造を有する。アンチグレア層3は、外光の映り込み等を抑制する、いわゆる防眩効果を付与するために設けられている。
【0024】
本実施形態において、アンチグレア層3は、無機膜である。このようなアンチグレア層3は、ガラス基板2上に、無機塗料を塗布し、乾燥させることにより形成することができる。本実施形態において、アンチグレア層3は、無機塗料をスプレーコート法によって塗布し、乾燥させることにより形成されている。なお、無機塗料の塗布方法は、スプレーコート法に限定されず、他の塗布方法により塗布してもよい。
【0025】
本実施形態において、無機塗料は、シリカ前駆体により構成されている。もっとも、無機塗料は、例えば、アルミナ前駆体、ジルコニア前駆体、チタニア前駆体等により構成されていてもよい。これらの前駆体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。また、無機塗料の溶媒としては、例えば、水、アルコール等を用いることができる。
【0026】
シリカ前駆体としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のアルコキシシラン、アルコキシシランの加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等が挙げられる。防眩効果をより一層高める観点からは、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のアルコキシシラン、それらの加水分解縮合物であることが好ましく、テトラエトキシシランの加水分解縮合物であることがより好ましい。
【0027】
アルミナ前駆体としては、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシドの加水分解縮合物、水溶性アルミニウム塩、アルミニウムキレート等が挙げられる。
【0028】
ジルコニア前駆体としては、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
【0029】
チタニア前駆体としては、チタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解縮合物等が挙げられる。
【0030】
また、無機塗料は、無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、ハフニア粒子、イットリア粒子等が挙げられる。
【0031】
アンチグレア層3の平均厚みは、特に限定されない。もっとも、防眩効果をより一層高める観点からは、アンチグレア層3の平均厚みは、0.1μm以上、2μm以下であることが好ましく、0.15μm以上、1.75μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上、1μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
反射防止膜4は、誘電体多層膜であることが好ましい。この場合、ディスプレイ等における画像鮮明度をより一層向上させることができる。本実施形態において、反射防止膜4は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜5と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜6とが、この順に交互に積層された誘電体多層膜である。なお、反射防止膜4は、相対的に屈折率が低い低屈折率膜6と、相対的に屈折率が高い高屈折率膜5とが、この順に交互に積層された誘電体多層膜であってもよい。
【0033】
高屈折率膜5の材料としては、例えば、本実施形態のような酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられる。
【0034】
低屈折率膜6の材料としては、例えば、酸化ケイ素や、酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0035】
反射防止膜4を構成する各層の厚みは、1nm以上、500nm以下であることが好ましく、2nm以上、300nm以下であることがより好ましく、5nm以上、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
反射防止膜4を構成する層の総数は、2層以上、7層以下であることが好ましい。このような範囲内にすることにより、効果的で、かつ簡易に形成可能な膜にすることができる。
【0037】
反射防止膜4の全体の厚みは、50nm以上、1000nm以下であることが好ましく、75nm以上、750nm以下であることがより好ましく、100nm以上、500nm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
反射防止膜4は、例えば、スパッタリング法、CVD法、又は真空蒸着法等により形成することができる。
【0039】
本実施形態のカバーガラス1では、反射防止膜4側から入射光Aを入射させたときに、正反射光Bの視感反射率が、反射散乱光Cの視感反射率よりも小さい。このため、カバーガラス1では、外光の映り込みを効果的に抑制することができ、ディスプレイ等における視認性を効果的に向上させることができる。以下、図2及び図3を参照しつつ、カバーガラス1における正反射光Bの視感反射率及び反射散乱光Cの視感反射率の測定方法を説明する。
【0040】
図2(a)及び(b)は、正反射光の視感反射率の測定方法を説明するための模式的断面図である。まず、図2(a)に示すカバーガラス1における正反射光Bの反射光強度X1を測定する。なお、正反射光Bの反射光強度X1を測定する際には、カバーガラス1の裏面反射が測定に影響しないように裏面反射を抑制する処理を行う。次に、図2(b)に示すように、カバーガラス1の反射防止膜4の上面にアルミニウム膜8(膜厚約300nm)を形成した状態で、正反射光Bの反射光強度Y1を測定する。そして、これらの反射光強度の比X1/Y1から正反射光Bの反射スペクトルを測定することができる。なお、正反射光Bの反射光強度X1,Y1は、例えば、分光光度計により、入射光の入射角は8°、受光する反射光の角度は8°、測定波長は380nm~800nm、測定波長間隔は1nmとして、測定することができる。そして、測定された反射スペクトルから、JIS Z8722:2009に準拠し、D65光源に対する正反射光Bの視感反射率を求めることができる。
【0041】
図3(a)及び(b)は、反射散乱光の視感反射率の測定方法を説明するための模式的断面図である。まず、図3(a)に示すカバーガラス1における反射散乱光Cの反射光強度X2を測定する。なお、反射散乱光Cの反射光強度X2を測定する際には、カバーガラス1の裏面反射が測定に影響しないように裏面反射を抑制する処理を行う。次に、図3(b)に示すように、カバーガラス1の反射防止膜4の上面にアルミニウム膜8を形成した状態で、反射散乱光Cの反射光強度Y2を測定する。そして、これらの反射光強度の比X2/Y2から反射散乱光Cの反射スペクトルを測定することができる。なお、反射散乱光Cの反射光強度X2,Y2は、例えば、分光光度計により、入射光の入射角は8°、受光する反射光の角度は11°、測定波長は380nm~800nm、測定波長間隔は1nmとして、測定することができる。そして、測定された反射スペクトルから、JIS Z8722:2009に準拠し、D65光源に対する反射散乱光Cの視感反射率を求めることができる。
【0042】
従来、ガラス基板上に、アンチグレア層や、反射防止膜を設けた場合、各界面で反射が生じ、その反射特性は複雑なものとなっていた。これに対して、本発明者は、正反射光B及び反射散乱光Cの反射スペクトルに着目し、正反射光Bの視感反射率を反射散乱光Cの視感反射率よりも小さくすることにより、外光の映り込みを効果的に抑制することができ、視認性を効果的に向上できることを見出した。
【0043】
また、本発明者は、正反射光Bの反射スペクトルが図4に示す第1の積層体10、すなわちガラス基板2上にアンチグレア層3の平坦部及び反射防止膜4がこの順に積層されてなる積層体の構造によって生じることを見出した。また、反射散乱光Cの反射スペクトルが図5に示す第2の積層体11、すなわちアンチグレア層3の非平坦部上に反射防止膜4が積層されてなる積層体の構造によって生じることを見出した。
【0044】
従って、正反射光Bの視感反射率は、ガラス基板2上にアンチグレア層3の平坦部及び反射防止膜4がこの順に積層されてなる第1の積層体10の構造による反射光の視感反射率により求めることができる。また、反射散乱光Cの視感反射率は、アンチグレア層3の非平坦部上に反射防止膜4が積層されてなる第2の積層体11の構造による視感反射率により求めることができる。
【0045】
よって、ガラス基板2上にアンチグレア層3の平坦部及び反射防止膜4がこの順に積層されてなる第1の積層体10の設計により、正反射光Bの視感反射率を調整することができる。正反射光Bの視感反射率は、各層の屈折率、特に各層を構成する材料、各層の厚み等により調整することができる。
【0046】
また、アンチグレア層3の非平坦部上に反射防止膜4が積層されてなる第2の積層体11の設計により、反射散乱光Cの視感反射率を調整することができる。反射散乱光Cの視感反射率は、各層の屈折率、特に各層を構成する材料、各層の厚み等により調整することができる。
【0047】
第1の積層体10における視感反射率ができる限り低くなるように、反射防止膜4の厚み、特に高屈折率膜5及び低屈折率膜6の厚みや材料を設計することにより、正反射光Bの視感反射率を反射散乱光Cの視感反射率よりも小さくすることができる。
【0048】
本実施形態のカバーガラス1では、反射散乱光Cの視感反射率と正反射光Bの視感反射率との差は、好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。この場合、外光の映り込みをより効果的に抑制することができ、視認性をより効果的に向上することができる。なお、反射散乱光Cの視感反射率と正反射光Bの視感反射率との差の上限値は、例えば、1%とすることができる。
【0049】
本実施形態のカバーガラス1の別の局面では、ガラス基板2とアンチグレア層3の組成が異なっている。この場合においても、外光の映り込みを効果的に抑制することができ、視認性を効果的に向上することができる。
【0050】
本発明において、ガラス基板2の屈折率とアンチグレア層3の屈折率との差の絶対値は、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.05以上である。この場合、外光の映り込みをより効果的に抑制することができ、視認性をより効果的に向上することができる。また、視認性をより効果的に向上する観点から、アンチグレア層3の屈折率は、ガラス基板2の屈折率より小さいことが好ましい。
【0051】
また、反射防止膜4の厚み、特に高屈折率膜5及び低屈折率膜6の厚みや材料を調整することによっても、外光の映り込みをより効果的に抑制することができ、視認性をより効果的に向上することができる。
【0052】
アンチグレア層3は、平坦部を有していることが好ましい。ここで、平坦部とは、アンチグレア層3の表面の凹凸高さの頻度分布を求め、最も頻度が高い高さ±20nm以内となる箇所のことをいう。この場合、外光の映り込みをより効果的に抑制することができ、視認性をより効果的に向上することができる。この場合、平坦部の厚みは、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下とすることができる。また、平面視において、アンチグレア層3全体の面積に対する平坦部の面積は、例えば、15%以上、60%以下とすることができる。なお、非平坦部とは、平坦部以外の箇所のことをいう。また、アンチグレア層3の表面の凹凸高さの頻度分布において、最も頻度が高い高さから50nm低い高さでの負荷面積率が0.9以下、かつ、最も頻度が高い高さから50nm高い高さでの負荷面積率が0.1以上である場合、アンチグレア層3は、平坦部を有していないものとする。
【0053】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係るカバーガラスを示す模式的断面図である。図6に示すように、カバーガラス21では、ガラス基板2とアンチグレア層3との間に、光学調整層7が設けられている。本実施形態では、光学調整層7が、相対的に屈折率が高い高屈折率層である。もっとも、光学調整層7は、相対的に屈折率が低い低屈折率層であってもよく、ガラス基板2と屈折率の異なる層であればよい。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0054】
カバーガラス21においても、正反射光Bの視感反射率が、反射散乱光Cの視感反射率よりも小さいので、外光の映り込みを効果的に抑制することができ、ディスプレイ等の視認性を効果的に向上させることができる。
【0055】
なお、この場合、図7に示すように、ガラス基板2上に、光学調整層7、アンチグレア層3、及び反射防止膜4がこの順に積層されてなる第3の積層体30の設計により、正反射光Bの視感反射率を調整することができる。正反射光Bの視感反射率は、各層の屈折率、特に各層を構成する材料、各層の厚み等により調整することができる。
【0056】
また、アンチグレア層3上に反射防止膜4が積層されてなる第2の積層体11の設計により、反射散乱光Cの視感反射率を調整することができる。反射散乱光Cの視感反射率は、各層の屈折率、特に各層を構成する材料、各層の厚み等により調整することができる。
【0057】
アンチグレア層3の屈折率と光学調整層7の屈折率との差の絶対値は、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは1.0以上である。この場合、外光の映り込みをより効果的に抑制することができ、視認性をより効果的に向上することができる。また、視認性をより効果的に向上する観点から、アンチグレア層3の屈折率は、光学調整層7の屈折率より小さいことが好ましい。
【0058】
なお、本発明は、第1の実施形態及び第2の実施形態の構成に限定されない。例えば、反射防止膜4の上に他の層が設けられていてもよい。他の層としては、例えば、防汚層が挙げられる。防汚層は、有機ケイ素化合物を含むことが好ましい。有機ケイ素化合物を含むことにより、反射防止膜4との密着性をより一層高めることができる。これにより、長期間の使用によっても、防汚層が剥離し難い。
【0059】
有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーンゴム、疎水性シリカ、及びフッ素含有有機ケイ素化合物から選択される1つ以上の化合物を挙げることができる。
【0060】
防汚層の厚みは、0.5nm以上、20nm以下であることが好ましく、0.75nm以上、15nm以下であることがより好ましく、1nm以上、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0061】
防汚層の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、有機ケイ素化合物等の希釈液をスプレーコート法などにより塗布することにより形成することができる。
【実施例
【0062】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0063】
(実施例1)
まず、ガラス基板(日本電気硝子株式会社製、品番「T2X-1」、屈折率:1.50)を用意した。次に、ガラス基板上に、シリカ前駆体を含むコーティング剤を、スプレーコート法により塗布し、厚み20nmのアンチグレア層(屈折率:1.44)を形成した。なお、コーティング剤の塗布量は、35ml/mとした。また、ガラス基板の屈折率とアンチグレア層の屈折率との差は、0.06であった。平坦部の面積割合は47%であった。
【0064】
次に、アンチグレア層上に、スパッタリング法により、厚み12.73nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み34.84nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み113.44nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み85.45nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜を形成した。これにより、高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に合計4層積層されてなる誘電体多層膜を作製し、カバーガラスを得た。
【0065】
(実施例2)
まず、ガラス基板(日本電気硝子株式会社製、品番「T2X-1」、屈折率:1.50)を用意した。次に、アンチグレア層上に、スパッタリング法により、厚み2.36nmの酸化ニオブ(Nb)からなる光学調整層(屈折率:2.35)を形成した。
【0066】
次に、ガラス基板上に、シリカ前駆体を含むコーティング剤を、スプレーコート法により塗布し、厚み54nmのアンチグレア層(屈折率:1.44)を成膜した。なお、無機塗料の塗布量は、70ml/mとした。また、光学調整層の屈折率とアンチグレア層の屈折率との差は、0.85であった。平坦部の面積割合は21%であった。
【0067】
次に、アンチグレア層上に、スパッタリング法により、厚み16.13nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み36.77nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み114.61nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜を形成した。次に、スパッタリング法により、厚み86.09nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜を形成した。これにより、高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に合計4層積層されてなる反射防止膜を作製し、カバーガラスを得た。
【0068】
(比較例1)
実施例1と同様にしてガラス基板上にアンチグレア層を形成した。次に、アンチグレア層上に、スパッタリング法により、厚み45nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜、厚み10.37nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜、厚み36.21nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜、厚み109.45nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜、及び厚み81.44nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜がこの順に交互に合計5層積層されてなる反射防止膜を作製し、カバーガラスを得た。
【0069】
(比較例2)
反射防止膜を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを得た。
【0070】
(比較例3)
ガラス基板(日本電気硝子株式会社製、品番「T2X-1」、屈折率:1.50)をエッチングすることにより、アンチグレア処理を施した。次に、アンチグレア処理したガラス基板上に、スパッタリング法により、厚み10.3nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜、厚み36.21nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜、厚み109.45nmの酸化ニオブ(Nb)からなる高屈折率膜、及び厚み81.44nmの酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜がこの順に交互に合計4層積層されてなる反射防止膜を作製し、カバーガラスを得た。
【0071】
(比較例4)
ガラス基板(日本電気硝子株式会社製、品番「T2X-1」、屈折率:1.50)をエッチングすることにより、アンチグレア処理を施し、カバーガラスを得た。
【0072】
(比較例5)
ガラス基板(日本電気硝子株式会社製、品番「T2X-1」、屈折率:1.50)をそのまま素ガラスとして使用した。
【0073】
<評価>
(視感反射率)
分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、品番「U-4000」)を用いて、正反射光及び反射散乱光の視感反射率を測定した。具体的には、正反射光の視感反射率測定は、光の入射角度は8°とし、受光角度は8°とし、測定波長は380nm~800nmとし、測定間隔は1nmとし、測定された反射スペクトルから、JIS Z8722:2009に準拠し、D65光源に対する正反射光の視感反射率を求めた。反射散乱光の視感反射率測定は、入射角度は8°とし、受光角度は11°とし、測定波長は380nm~800nmとし、測定間隔は1nmとし、測定された反射スペクトルから、JIS Z8722:2009に準拠し、D65光源に対する反射散乱光の視感反射率を求めた。結果を下記の表1に示す。なお、下記の表1では、素ガラス基準正反射反射率も併せて示した。素ガラス基準正反射反射率は、正反射光の反射スペクトルから、測定波長域の反射率の平均値(平均反射率)を求め、素ガラス(比較例5)の平均反射率に対する比から求めた。
【0074】
(平坦部の面積割合)
KEYENCE社製、レーザー顕微鏡VK-X260を用い、150倍対物レンズにて、アンチグレア層の凹凸高さを95μm×71μmの測定範囲で測定した。次に、測定した高さデータの頻度分布を求め、最も頻度が大きい高さが0となるようにシフト補正した。補正した高さが-20nm以上+20nm以下である領域の面積を求め、これを平坦部の面積とした。得られた平坦部の面積をレーザー顕微鏡の測定範囲の面積で割ることで平坦部の面積割合とした。
【0075】
(映り込み指標値)
映り込み指標値C:Clarityは、SMS-1000(Display-Messtechnik&Systeme社製)を用いて、反射分布測定モードにより測定した。なお、焦点距離16mmのレンズを用い、入射光の入射角を3°、実施例及び比較例のカバーガラス上の照射位置からレンズまでの距離を410mmに設定し、実施例及び比較例のカバーガラスの裏面に屈折率1.53の浸液を付けた状態で黒板ガラスと貼り付けて測定した。
【0076】
(官能試験)
防眩性については、ライン光源を映り込ませた状態で、映り込んだライン光源の輪郭が認識できないものを「A」、輪郭をかろうじて認識できるものを「B」、輪郭をある程度認識できるものを「C」、輪郭がはっきり認識できるものを「D」として評価した。
【0077】
画像鮮明度については、解像度264ppiの表示装置上に任意の写真画像を表示させ、その半分を覆うように評価サンプルを置き、写真画像と評価サンプル越しの写真画像を比較しその差が判別できなかったものを「A」、その差がわずかながらに確認できたものを「B」、評価サンプル越しの写真画像の劣化を少し感じたものを「C」、評価サンプル越しの写真画像の劣化を感じたものを「D」、評価サンプル越しの写真画像の劣化を大きく感じたものを「E」として評価した。
【0078】
結果を下記の表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1より、実施例1~2では、官能試験の評価がいずれも「A」又は「B」であり、視認性が向上されていることが確認できた。一方、比較例1~5では、官能試験の評価のうちいずれかが、「C」、「D」、又は「E」であり、視認性を十分に向上させることができなかった。
【符号の説明】
【0081】
1,21…カバーガラス
2…ガラス基板
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3…アンチグレア層
4…反射防止膜
5…高屈折率膜
6…低屈折率膜
7…光学調整層
8…アルミニウム膜
10…第1の積層体
11…第2の積層体
30…第3の積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7