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特許7563020加工システム及び学習済みモデル生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】加工システム及び学習済みモデル生成装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4155 20060101AFI20241001BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20241001BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G05B19/4155 V
B23Q15/00 301C
G05B19/404 K
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020126338
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2022023408
(43)【公開日】2022-02-08
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公一
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 有哉
(72)【発明者】
【氏名】米津 寿宏
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/239606(WO,A1)
【文献】特開2019-021235(JP,A)
【文献】特開平01-282441(JP,A)
【文献】特開昭59-116524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416,19/42-19/46;
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噛合構造を有する工作物を加工する工作機械と、
前記工作機械による前記工作物の加工状態を観測し、前記加工状態を表す加工状態データを収集する観測装置と、を有し、
前記観測装置によって収集された前記加工状態データから抽出された特徴量を説明変数とし、前記工作機械によって加工された前記噛合構造の加工精度に関連する加工精度データを目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む学習用データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記学習済みモデルと前記加工状態データとを用いて、前記加工精度を予測する加工精度予測部と、
前記加工精度予測部により予測された前記加工精度に基づいて、前記工作機械を作動させる指令値を補正する補正値を算出して決定する補正値決定部と、
前記補正値を前記工作機械に出力する出力部と、を備え
前記特徴量は、前記工作機械による今回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、前記工作機械による前回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、の差を表す変化量である、加工システム。
【請求項2】
前記加工状態データは、
前記工作機械の観測可能な作動状態を表す実動作データと、前記工作機械が前記噛合構造を加工することによって観測可能な前記工作機械及び前記工作物の実測データと、を含むデータである、請求項1に記載の加工システム。
【請求項3】
前記加工精度データは、
前記噛合構造に対して噛み合う被噛合構造を有する基準部材を、前記噛合構造に噛み合わせた状態で計測されるデータである、請求項1又は2に記載の加工システム。
【請求項4】
前記加工精度データは、
前記工作物の前記噛合構造と前記基準部材の前記被噛合構造とが噛み合った状態における、前記工作物の軸線と前記基準部材の軸線との間の芯間距離を表す芯間距離データである、請求項3に記載の加工システム。
【請求項5】
前記噛合構造は、前記工作機械によって加工されたねじ構造又は歯車構造である、請求項3に記載の加工システム。
【請求項6】
前記観測装置によって収集された前記加工状態データから抽出された前記特徴量を前記説明変数とし、前記工作機械によって加工された前記噛合構造の前記加工精度に関する前記加工精度データを前記目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む学習用データセットを用いて機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備えた、請求項1-5の何れか一項に記載の加工システム。
【請求項7】
前記工作機械による加工は、切削加工又は研削加工である、請求項1-の何れか一項に記載の加工システム。
【請求項8】
前記工作物は、車両に搭載されるウォームシャフトである、請求項1-の何れか一項に記載の加工システム。
【請求項9】
噛合構造を有する工作物を加工する工作機械による前記工作物の加工状態を表す加工状態データから抽出された特徴量を説明変数とし、前記工作機械によって加工された前記噛合構造の加工精度に関する加工精度データを目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む学習用データセットを用いて機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備え
前記特徴量は、前記工作機械による今回の前記噛合構造の加工における前記加工状態データと、前記工作機械による前回の前記噛合構造の加工における前記加工状態データと、の差を表す変化量である、学習済みモデル生成装置。
【請求項10】
前記加工状態データ及び前記加工精度データを学習用データセットとして取得する学習用データセット取得部と、
前記学習用データセット取得部によって取得された前記学習用データセットを記憶する学習用データセット記憶部と、を備えた、請求項に記載の学習済みモデル生成装置。
【請求項11】
前記噛合構造は、前記工作機械によって加工されたねじ構造又は歯車構造である、請求項9又は10に記載の学習済みモデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工システム及び学習済みモデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1には、研削盤から取得可能なサンプリングデータと研削特性を表す値とに基づいて機械学習を行い、工作物の研削品質を取得することができる学習済みモデルを生成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-44620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工作物を加工する場合、例えば、学習済みモデルを用いて加工条件や工作機械の各種設定を予め決定していても、工作物の加工数の増加に伴って徐々に加工精度が悪化する場合がある。このため、オペレータは、所定の頻度により、加工された工作物の加工精度を検査する必要があり、又、加工精度の悪化に応じて加工条件や工作機械の各種設定を適宜変更する必要がある。この場合、加工された工作物ごとに検査用装置を用いて加工精度を検査することは煩雑であり、又、オペレータが加工条件等を変更する際には、オペレータの経験(勘やコツ)に依存するため加工精度にバラつきが生じる可能性がある。
【0005】
本発明は、工作機械から得られたデータと学習済みモデルとを用いて加工精度を予測し、予測した加工精度に基づく補正値を決定する加工システム、及び、学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
加工システムは、噛合構造を有する工作物を加工する工作機械と、工作機械による工作物の加工状態を観測し、加工状態を表す加工状態データを収集する観測装置と、を有し、観測装置によって収集された加工状態データから抽出された特徴量を説明変数とし、工作機械によって加工された噛合構造の加工精度に関連する加工精度データを目的変数とし、説明変数及び目的変数を含む学習用データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、学習済みモデルと加工状態データとを用いて、加工精度を予測する加工精度予測部と、加工精度予測部により予測された加工精度に基づいて、工作機械を作動させる指令値を補正する補正値を算出して決定する補正値決定部と、補正値を工作機械に出力する出力部と、を備え、前記特徴量は、前記工作機械による今回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、前記工作機械による前回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、の差を表す変化量である。
【0007】
学習済みモデル生成装置は、噛合構造を有する工作物を加工する工作機械による工作物の加工状態を表す加工状態データから抽出された特徴量を説明変数とし、工作機械によって加工された噛合構造の加工精度に関する加工精度データを目的変数とし、説明変数及び目的変数を含む学習用データセットを用いて機械学習を行うことにより学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備え、前記特徴量は、前記工作機械による今回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、前記工作機械による前回の前記噛合構造の加工に伴って前記観測装置が収集した前記加工状態データと、の差を表す変化量である。
【0008】
これらによれば、工作機械が工作物を加工する際に観測される加工状態データと、加工された工作物の加工精度を表す加工精度データとの相関関係を表す学習済みモデルを生成することができる。そして、加工システムにおいては、学習済みモデルと加工状態データとを用いて、加工された工作物の加工精度を予測し、予測された加工精度に基づいて工作機械を作動させる指令値を補正する補正値を決定することができる。
【0009】
これにより、工作機械が工作物を加工しながら工作物の加工精度を予測することができるため、加工された工作物ごとに検査用装置を用いて加工精度を検査する必要がない。従って、工作物の生産性を向上させることができる。又、生成された学習済みモデルを用いて予測された加工精度に基づいて補正値が決定されるため、オペレータの経験(勘やコツ)に依存することによる加工精度のバラつきを抑制することができ、その結果、加工精度の均一化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加工システムの構成を示す図である。
図2】工作物の一例であるウォームシャフトを示す正面図である。
図3】工作機械の一例であるねじ研削盤の構成を示すである。
図4】観測装置の一例であるデータ収集装置の構成を示す図である。
図5】加工精度データの一例である芯間距離を説明するための図である。
図6】加工システム(学習済みモデル生成装置)の機能ブロック構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.加工システムの概略)
加工システムは、噛み合い構造を有する工作物を加工する工作機械、工作機械によって加工された工作物の加工状態を観測する観測装置とを有するシステムである。そして、加工システムは、機械学習により生成された学習済みモデル及び観測装置によって観測された加工状態を表す加工状態データを用いて、工作物を加工する工作機械の指令値(加工条件又は工作機械の機械設定等)を補正する。
【0012】
ここで、観測装置としては、工作機械に設けられる各種センサを含んで構成される。又、工作物を加工する工作機械としては、切削加工を行う各種切削装置(例えば、歯車加工装置やマシニングセンタ等)、研削加工を行う各種研削装置(ねじ研削盤や円筒研削盤、平板研削盤等)を挙げることができる。又、工作機械によって加工される工作物は、噛合構造としてねじ構造又は歯車構造を有するもの、例えば、ウォームシャフト、ラックバー、平歯歯車、はす歯歯車等を挙げることができる。尚、本例においては、後述するように、工作機械が研削加工を行うねじ研削盤である場合を例示する。
【0013】
(2.加工システム1の構成の概要)
加工システム1の構成の概要について、図1を参照して説明する。加工システム1は、少なくとも1台の工作機械としてのねじ研削盤10と、ねじ研削盤10が工作物を加工する際の加工状態を観測し加工状態を表す加工状態データを収集する観測装置としてのデータ収集装置20と、1つの演算装置(30,40)とを備える。ここで、ねじ研削盤10によって加工される工作物として、本例では、図2に示すように、噛合構造であるねじ部W1(ねじ構造)を有して車両に搭載されるウォームシャフトWを例示して説明する。
【0014】
データ収集装置20は、ねじ研削盤10及び検査用装置2に設けられた各種センサを含んで構成される(図4を参照)。データ収集装置20は、各種センサから取得した加工状態データを更新可能に蓄積するデータベースとして機能する。
【0015】
演算装置(30,40)は、データ収集装置20に蓄積された加工状態データを用いた機械学習を適用することにより、ねじ研削盤10がウォームシャフトWのねじ部W1を加工する際のねじ研削盤10の指令値(加工条件及び機械設定等)を補正するための補正値を決定する。図1において、演算装置(30,40)は、学習済みモデル生成装置としての学習処理装置30と補正値決定装置40とにより構成され、学習処理装置30と補正値決定装置40とは、独立した構成として示すが、1つの装置とすることもできる。又、演算装置(30,40)の一部又は全部は、ねじ研削盤10への組込みシステムとすることもできる。
【0016】
本例では、学習処理装置30と補正値決定装置40とは、独立した構成である場合を例に挙げる。又、学習処理装置30は、所謂、サーバ機能を有しており、ねじ研削盤10が複数の場合には各々のねじ研削盤10に設けられた補正値決定装置40と通信可能に接続されている。補正値決定装置40は、各々のねじ研削盤10と一対一で設けられ、対応するねじ研削盤10に通信可能に接続されている。即ち、補正値決定装置40は、所謂、エッジコンピュータとして機能しており、高速演算処理を実現可能としている。
【0017】
(3.ねじ研削盤10の構成)
ねじ研削盤10の構成について図3を参照して説明する。ねじ研削盤10は、工作物であるウォームシャフトWのねじ部W1を研削するための工作機械である。本例において、ねじ研削盤10は、テーブルトラバース型の研削盤を例示する。但し、ねじ研削盤10は、砥石台トラバース型を適用することも可能である。
【0018】
ねじ研削盤10は、主として、ベッド11、可動テーブル12、主軸台13、心押台14、移動台15、回転台16、砥石台17、砥石車18、クーラント装置19、及び、制御装置Sを備える。
【0019】
ベッド11は、設置面上に固定されている。可動テーブル12は、ベッド11上に水平方向で、且つ、ベッド11に対してZ軸方向に相対移動可能に設置される。可動テーブル12は、ベッド11に設けられたモータ12aの駆動により、Z軸方向にて往復移動する。尚、以下の説明において、Z軸方向と水平面上において直交する方向をX軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向に直交する方向をY軸方向とする。
【0020】
主軸台13は、可動テーブル12の上面において、X軸方向の手前側(図3の下側)且つZ軸方向の一端側(図3の左側)に設けられている。主軸台13は、ウォームシャフトWをZ軸回りに回転可能に支持する。ウォームシャフトWは、主軸台13に設けられたモータ13aの駆動により回転される。心押台14は、可動テーブル12の上面において、主軸台13に対してZ軸方向に対向する位置、即ち、X軸方向の手前側(図3の下側)且つZ軸方向の他端側(図3の右側)に設けられている。つまり、主軸台13及び心押台14が、ウォームシャフトWを回転可能に両端支持する。
【0021】
移動台15は、ベッド11上のX軸方向の奥側(図3の上側)に、水平方向で、且つ、ベッド11に対してX軸方向に相対移動可能に設置される。移動台15は、ベッド11に設けられたモータ15aの駆動により、X軸方向にて往復移動する。回転台16は、移動台15の上面において、X軸回りに回転可能に設けられている。回転台16は、移動台15に設けられたモータ16aの駆動によりX軸回りに回転する。
【0022】
砥石台17は、回転台16の上面に設けられている。砥石車18は、砥石台17に回転可能に支持されている。砥石車18は、砥石台17に設けられたモータ17aの駆動により回転する。クーラント装置19は、砥石車18によるウォームシャフトWのねじ部W1における研削点にクーラントを供給する。クーラント装置19は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。
【0023】
制御装置Sは、ウォームシャフトWのねじ部W1の形状、加工条件、砥石車18の形状、クーラントの供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。即ち、制御装置Sは、動作指令データを入力し、動作指令データに基づいてNCプログラムを生成し、NCプログラムに基づいて各モータ12a,13a,15a,16a,17a及びクーラント装置19等を制御することにより、ウォームシャフトWのねじ部W1の研削を行う。ここで、実動作指令データとしては、例えば、指令切込速度、指令位置、砥石車18の指令回転速度、ウォームシャフトWの指令回転速度、クーラントの供給情報等が含まれる。
【0024】
又、図3には、図示しないが、ねじ研削盤10は、データ収集装置20を構成する後述の各種センサ21,22,23(図4に示す)を備えている。例えば、ねじ研削盤10は、各モータ等の実動作データ、ねじ研削盤10を構成する構造部材の作動状態や振動状態等を示すデータを検出するセンサ、特にクーラント装置19により研削点に供給されるクーラントの温度を検出する温度センサ等を備える。尚、各種センサ21~23の詳細は、後述する。
【0025】
次に、ねじ研削盤10の作動について簡単に説明する。ねじ研削盤10がウォームシャフトWのねじ部W1を研削する場合、先ず、主軸台13と心押台14との間にて水平になるようにウォームシャフトWが支持される。そして、制御装置Sが各モータ12a,13a,15a,16a,17aを駆動させる。これにより、砥石車18とウォームシャフトWとを相対移動させながら回転する砥石車18を用いてウォームシャフトWのねじ部W1を研削する。
【0026】
ここで、砥石車18がねじ部W1研削する場合、砥石車18は、ねじ部W1のねじ溝の角度に応じた分だけ傾斜される。即ち、制御装置Sは、回転台16をX軸回りに回転させて、砥石車18が所定の傾斜角度(具体的には、ねじ溝の角度)となるように合わせ込む。そして、ねじ研削盤10は、砥石車18をX軸方向に移動させて、ウォームシャフトWのねじ部W1におけるねじ溝に砥石車18を押し当て、ねじ部W1の研削を行う。
【0027】
データ収集装置20は、ねじ研削盤10の作動に伴って取得されるサンプリングデータを取得する観測装置である。データ収集装置20が収集したサンプリングデータは、機械学習の学習用データとして用いられる。ここで、サンプリングデータとは、ウォームシャフトW毎に、所定のサンプリング周期における時系列データ群を構成する。
【0028】
データ収集装置20は、図4に示すように、各種センサ21,22,23及び収集した各種データを蓄積して記憶する記憶部24を備える。センサ21は、ねじ研削盤10に設けられており、制御装置Sにより制御される駆動装置、例えば、各モータ12a,13a,15a,16a,17a等の作動状態を表す実動作データを収集する。実動作データは、例えば、各モータ12a,13a,15a,16a,17a等の駆動電流や実位置等を挙げることができる。
【0029】
センサ22は、ねじ研削盤10に設けられており、砥石車18によりウォームシャフトWのねじ部W1の研削を行っている際の第一実測データを収集する。第一実測データは、例えば、構造部材である砥石台17等の振動や変形量等を挙げることができる。センサ23は、ねじ研削盤10に設けられており、砥石車18によりウォームシャフトWのねじ部W1の研削を行っている際の第二実測データを収集する。又、センサ23は、検査用装置2にも設けられており、ねじ研削盤10によって研削されたねじ部W1を検査した際の第二実測データを収集する。第二実測データは、例えば、ねじ研削盤10におけるウォームシャフトWのねじ部W1の寸法や研削点温度(クーラント温度を含む)、検査用装置2による検査によって検出される加工精度に対応する芯間距離等を挙げることができる。
【0030】
ここで、各種センサ21,22,23は、各々、ウォームシャフトW毎に所定期間分の実動作データ、第一実測データ及び第二実測データを取得する。所定期間分とは、例えば、研削初期から研削終期まで、粗研の初期から粗研の終期まで等である。尚、研削が非定常状態の時には、不安定であるため、定常状態のみを対象としてデータを収集することも可能である。
【0031】
学習済みモデル生成装置としての学習処理装置30は、図1に示すように、プロセッサ31、記憶装置32、インターフェース33等を備えて構成される。又、学習処理装置30は、サーバ機能を有しており、複数のねじ研削盤10の各々に接続されたデータ収集装置20(或いは、離間した他の工場のねじ研削盤10)に接続されたデータ収集装置20を含む)と通信可能に接続されている。
【0032】
学習処理装置30は、データ収集装置20から出力された加工状態データPD(具体的には、実動作データ、第一実測データ及び第二実測データの少なくとも1つ)と、検査用装置2から出力された加工精度に関連する加工精度データとしての芯間距離Lを表す芯間距離データLDとに基づいて、機械学習を行う。そして、学習処理装置30は、ウォームシャフトWのねじ部W1の加工精度を予測するための学習済みモデルを生成する。
【0033】
尚、本例においては、データ収集装置20によって取得された第二実測データのうち、クーラント温度に関する第二実測データを加工状態データPDとして用いる場合を例示する。このことは、繰り返し実施した実験等から得られた知見により、本例のねじ研削盤10においては、クーラント温度に関する加工状態データPDと加工精度データである芯間距離データLD(芯間距離L)との相関性が高かったことに基づく。
【0034】
従って、加工状態データPDとして他のサンプリングデータ、例えば、実動作データとして収集される主軸台13のモータ13aや砥石台17のモータ17aに供給される電流値、或いは、第一実測データとして収集される主軸台13及び心押台14(即ち可動テーブル12)の振動の振幅等を用いることは阻害されない。特に、ねじ研削盤10以外の工作機械を用いる場合には加工状態データPDとしてデータ収集装置20によって収集された他のサンプリングデータを用いることが可能であることは言うまでもない。
【0035】
ここで、検査用装置2によって検査される加工精度としての芯間距離Lについて説明しておく。芯間距離Lは、図5に示すように、ねじ研削盤10によって研削されたウォームシャフトWと、被噛合構造の歯車を有する基準部材としてのマスタウォームギアWmとを噛み合わせた状態におけるウォームシャフトWの軸線とマスタウォームギアWmの軸線との間の距離を表す。従って、検査用装置2においては、ねじ研削盤10によって研削されたウォームシャフトWを実際にマスタウォームギアWmに噛み合わせた状態で、芯間距離Lを計測し(検査し)、芯間距離Lが規定値L0以下の場合には良好な加工精度を有しているため良品として判定する。尚、芯間距離Lは、上述したデータ収集装置20のセンサ23によって検出される。
【0036】
それぞれの補正値決定装置40は、プロセッサ41、記憶装置42、インターフェース43等を備えて構成される。又、補正値決定装置40は、サーバとしての学習処理装置30及びねじ研削盤10に接続されたデータ収集装置20と通信可能に接続されている。
【0037】
補正値決定装置40は、各々のねじ研削盤10に対応して配置されており、エッジコンピュータとして機能する。補正値決定装置40は、学習処理装置30により生成された学習済みモデルと、ウォームシャフトWのねじ部W1の研削加工中にデータ収集装置20から取得した加工状態データPDとを用いて、ねじ研削盤10を作動させるための動作指令データ(NCプログラム)を補正して修正するための補正値Cを決定する。そして、補正値決定装置40は、決定した補正値Cをねじ研削盤10の制御装置Sに出力する。
【0038】
加工システム1は、更に、表示装置50を備える。表示装置50は、ねじ研削盤10に対応して配置される。但し、加工システム1は、表示装置50を備えない構成とすることも可能である。
【0039】
(4.加工システム1の機能ブロック構成)
加工システム1の機能ブロックについて、図6を参照して説明する。加工システム1は、上述したように、検査用装置2、ねじ研削盤10、データ収集装置20、学習処理装置30、補正値決定装置40、表示装置50を備える。
【0040】
学習処理装置30は、データ収集装置20によって収集された加工状態データPD、本例においてはクーラントの温度に関する加工状態データPDと、検査用装置2から出力された芯間距離Lを表す芯間距離データLDとに基づいて、補正値Cを決定するための学習済みモデルを生成する。学習済みモデル生成装置としての学習処理装置30は、学習用データセット取得部61、学習用データセット記憶部62、モデル生成部63を備える。
【0041】
学習用データセット取得部61は、機械学習を行うための学習用データセットを取得する。学習用データセット取得部61は、加工状態データ取得部61aと、芯間距離データ取得部61bを備える。加工状態データ取得部61aは、データ収集装置20から、例えば、1つのウォームシャフトWを研削加工した際に取得されたクーラントの温度に関する加工状態データPDを学習用データセットとして取得する。ここで、本例の加工状態データPDは、ウォームシャフトWの研削加工において、データ収集装置20の記憶部24に記憶された前回の切削加工時に取得されたクーラントの温度を表す温度データTD0と、今回の切削加工時に取得されたクーラントの温度を表す温度データTD1とを加工状態データPDとして取得する。
【0042】
芯間距離データ取得部61bは、検査用装置2からデータ収集装置20を介して、例えば、研削加工された1つのウォームシャフトWとマスタウォームギアWmとの芯間距離Lを表す芯間距離データLDを学習用データセットとして取得する。
【0043】
学習用データセット記憶部62は、学習用データセット取得部61によって取得された加工状態データPDと芯間距離データLDとを関連付けて学習用データセットとして記憶する。即ち、学習用データセット記憶部62は、温度データTD0及び温度データTD1を有する加工状態データPDと、今回切削加工されたウォームシャフトWのねじ部W1にマスタウォームギアWmを噛み合わせることによって計測された芯間距離Lである芯間距離データLDとを関連付けて記憶する。
【0044】
モデル生成部63は、学習用データセット記憶部62に記憶された学習用データセットを用いて機械学習を行う。具体的には、モデル生成部63は、学習用データセット記憶部62に互いに関連付けて記憶されている加工状態データPDを説明変数とし、芯間距離データLD(即ち、芯間距離L)を目的変数とした機械学習を行う。この場合、モデル生成部63は、加工状態データPDに含まれる温度データTD0(前回の研削加工時に収集されたクーラントの温度)と温度データTD1(今回の研削加工時に収集されたクーラントの温度)との差、即ち、変化量(TD1-TD0)を特徴量として算出(抽出)し、算出(抽出)した変化量(特徴量)を説明変数として用いる。そして、モデル生成部63は、加工状態データPDと芯間距離データLDとの間の相関関係を表す学習済みモデルを生成する。
【0045】
補正値決定装置40は、ねじ研削盤10がウォームシャフトWのねじ部W1を研削加工した際の加工状態データPDを用いて芯間距離Lを推定し、推定した芯間距離Lに基づいて、ねじ研削盤10の加工条件及び機械設定、即ち、動作指令データ(NCプログラム)の指令値を補正する補正値Cを決定する。補正値決定装置40は、モデル記憶部71、加工状態データ取得部72、加工精度予測部としての芯間距離予測部73、補正値決定部としての補正値算出部74、出力部75を備える。
【0046】
モデル記憶部71は、モデル生成部63が生成した学習済みモデルを記憶する。加工状態データ取得部72は、データ収集装置20から加工状態データPD(温度データTD0及び温度データTD1)を取得する。ここで、加工状態データ取得部72は、学習用データセット取得部61の加工状態データ取得部61aと同様の処理を行う。
【0047】
尚、本例においては、加工状態データ取得部72は、学習用データセット取得部61の加工状態データ取得部61aとは別要素として説明する。但し、学習用データセット取得部61の加工状態データ取得部61aを、加工状態データ取得部72と兼用することも可能である。即ち、学習処理装置30における要素61aの機能が、補正値決定装置40の一部の機能と兼用される。
【0048】
加工精度予測部としての芯間距離予測部73は、モデル記憶部71に記憶された学習済みモデルを取得する。又、芯間距離予測部73は、加工状態データ取得部72によって取得された加工状態データPD(温度データTD0及び温度データTD1)を取得する。これにより、芯間距離予測部73は、学習済みモデルと、加工状態データPD、即ち、温度データTD1と温度データTD0との差(=TD1-TD0)である変化量(特徴量)とに基づいて、芯間距離Lを予測する。
【0049】
補正値算出部74は、芯間距離予測部73によって予測された芯間距離Lに基づいて、ねじ研削盤10を作動させる動作指令データ(NCプログラム)の指令値を補正する補正値Cを算出する。例えば、芯間距離予測部73によって予測された芯間距離Lが規定値L0よりも大きい場合、ねじ研削盤10の砥石車18によってウォームシャフトWのねじ部W1が研削される研削量が少ない。そこで、補正値算出部74は、例えば、砥石車18(より詳しくは、砥石台17)を基準位置から更にX軸方向に移動させる指令値を補正することによってウォームシャフトWに近づけたり、砥石車18の回転速度を大きくしたり、或いは、クーラントの量即ち研削点の温度を低下させるように、補正値Cを算出する。
【0050】
本例において、研削量が少ない場合、補正値算出部74は、動作指令データ(NCプログラム)において、例えば、砥石車18(砥石台17)を移動させるモータ15aの回転位置を指定する指令値を大きく(場合によっては小さく)するための補正値Cを算出する。或いは、研削量が少ない場合、補正値算出部74は、動作指令データ(NCプログラム)において、例えば、砥石車18を回転させるモータ17aの回転速度を指定する指令値を大きく(場合によっては小さく)するための補正値Cを算出する。更には、研削量が少ない場合、補正値算出部74は、動作指令データ(NCプログラム)において、例えば、クーラントの量を指定する指令値を大きく(場合によっては小さく)するための補正値Cを算出する。
【0051】
出力部75は、補正値算出部74が算出した(決定した)補正値Cをねじ研削盤10の制御装置Sに出力する。これにより、制御装置Sは、補正値決定装置40から出力された補正値Cを入力することにより、自動的にNCプログラムを修正する。そして、制御装置Sは、修正したNCプログラムに基づいて各モータ12a,13a,15a,16a,17a及びクーラント装置19等を制御することにより、ウォームシャフトWのねじ部W1の研削を行う。
【0052】
又、出力部75は、補正値算出部74が算出した(決定した)補正値Cを表示装置50に出力する。これにより、例えば、ねじ研削盤10のオペレータは、表示装置50に表示された補正値Cに従い、制御装置Sを操作して動作指令データ(NCプログラム)を修正することができる。従って、制御装置Sは、修正されたNCプログラムに基づいて各モータ12a,13a,15a,16a,17a及びクーラント装置19等を制御することにより、ウォームシャフトWのねじ部W1の研削を行うことができる。
【0053】
以上の説明からも理解できるように、加工システム1によれば、工作機械であるねじ研削盤10が工作物としてのウォームシャフトWのねじ部W1(噛合構造)を研削加工する際に観測される加工状態データPDと、加工されたねじ部W1(ウォームシャフトW)の加工精度を表す加工精度データである芯間距離データLDとの相関関係を表す学習済みモデルを生成することができる。そして、学習済みモデルと加工状態データPDとを用いて、加工されたねじ部W1(ウォームシャフトW)の加工精度である芯間距離Lを予測し、予測された芯間距離Lに基づいてねじ研削盤10を作動させる指令値を補正する補正値Cを決定することができる。
【0054】
これにより、ねじ研削盤10がねじ部W1(ウォームシャフトW)を加工しながらねじ部W1(ウォームシャフトW)の加工精度を予測することができるため、加工されたウォームシャフトWごとに検査用装置2を用いて加工精度を検査する必要がない。従って、ウォームシャフトWの生産性(加工効率)を向上させることができる。又、生成された学習済みモデルを用いて予測された芯間距離Lに基づいて補正値Cが決定されるため、オペレータの経験(勘やコツ)に依存することによる芯間距離Lのバラつきを抑制することができ、その結果、芯間距離L即ち加工精度の均一化を達成することができる。
【0055】
(5.その他)
上述した本例においては、学習処理装置30のモデル生成部63が生成した学習済みモデルは、補正値決定装置40のモデル記憶部71に記憶されるようにした。ところで、学習済みモデルは、学習用データセット記憶部62に記憶された学習用データセットを用いた機械学習を行うことにより生成される。従って、学習用データセットの数が増える、換言すれば、機械学習による学習が進むほど、精度の高い学習済みモデルを生成することができる。又、工作機械であるねじ研削盤10は、ウォームシャフトWの加工数が増加する程、例えば、砥石車18が摩耗したり、可動テーブル12や移動台15移動させる移動機構が機械的に劣化したり、或いは、主軸台13、心押台14及び砥石台17の軸受等が機械的に劣化したりする。このため、モデル生成部63は、逐次、学習済みモデルを更新することができる。
【0056】
又、上述した本例においては、モデル生成部63及び芯間距離予測部73は、加工状態データPDに含まれる温度データTD0と温度データTD1の差、即ち、変化量を特徴量とした。しかしながら、特徴量としては、本例で例示した変化量に限られない。例えば、所定期間分における加工状態データPDの最大値、最小値、平均値や、統計演算値(分散値、標準偏差値等)を特徴量とすることも可能である。
【0057】
或いは、例えば、加工状態データPDに複数種のサンプリングデータが含まれる場合、所定期間分における複数種のサンプリングデータの関係を近似関係式(線形関係又は非線形関係)で表しておき、近似関係式における微分値や極値等を特徴量とすることも可能である。尚、近似関係式が非線形関係として表される場合、より正確な特徴量が得られるため、生成される学習済みモデルの精度、ひいては、芯間距離Lの予測精度が向上し、その結果、より適切な補正値Cを決定することができる。
【0058】
又、上述した本例においては、加工システム1が工作機械として研削盤であるねじ研削盤10を有するようにした。上述したように、工作機械としては、研削盤に限られず、歯車加工装置(スカイビング加工装置)を用いることもできる。加工システム1が工作機械として歯車加工装置(スカイビング加工装置)を有する場合は、例えば、噛合構造を有する工作物(歯車構造を有する歯車)と基準部材として被噛合構造を有する加工工具(スカイビングカッタ)との芯間距離を予測することができる。そして、予測された芯間距離に基づいて、歯車加工装置を作動させるための動作指令データ(NCプログラム)を補正して修正するための補正値を決定することができる。従って、この場合においても、上述した本例と同様の効果が得られる。
【0059】
又、上述した本例においては、モデル生成部63及び芯間距離予測部73は、加工状態データPDに基づいて特徴量を求めるようにした。しかしながら、モデル生成部63及び芯間距離予測部73は、必要に応じて、特徴量を求めることなく加工状態データPDを直接的に用いて、学習済みモデルを生成したり、芯間距離Lを予測したりすることも可能である。この場合においても、上述した本例と同様の効果が期待できる。
【0060】
更に、上述した本例においては、学習処理装置30及び補正値決定装置40が用いる加工状態データPD(即ち特徴量)として、データ収集装置20のセンサ23によって取得される第二実測データであるクーラント温度に関する温度データを用いるようにした。しかし、特徴量としてはクーラント温度に関する温度データに限られず、例えば、センサ23によって収集可能な砥石台17のモータ17aに供給される駆動電流(砥石軸電流)や、外気温、砥石車18の径等を用いることも可能である。この場合、加工状態データPD(特徴量)として、例えば、センサ23によって得られた各値について統計演算を行うことによって算出された平均値や最大値、歪度等、或いは、実測値と平均値との差分値等を用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1…加工システム、2…検査用装置、10…ねじ研削盤(工作機械)、11…ベッド、12…可動テーブル、13…主軸台、14…心押台、15…移動台、16…回転台、17…砥石台、18…砥石車、19…クーラント装置、20…データ収集装置(観測装置)、21~23…センサ、24…記憶部、30…学習処理装置(学習済みモデル生成装置)、31…プロセッサ、32…記憶装置、33…インターフェース、40…補正値決定装置、41…プロセッサ、42…記憶装置、43…インターフェース、50…表示装置、61…学習用データセット取得部、61a…加工状態データ取得部、61b…芯間距離データ取得部、62…学習用データセット記憶部、63…モデル生成部、71…モデル記憶部、72…加工状態データ取得部、73…芯間距離予測部(加工精度予測部)、74…補正値算出部(補正値決定部)、75…出力部、PD…加工状態データ、LD…芯間距離データ(加工精度データ)、L…芯間距離、W…ウォームシャフト(工作物)、W1…ねじ部(噛合構造)、Wm…マスタウォームギア(基準部材)、S…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6