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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両用無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 48/16 20090101AFI20241001BHJP
   H04W 4/44 20180101ALI20241001BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H04W48/16 132
H04W4/44
H04W48/16 131
G08G1/09 F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020144996
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039801
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】星野 正幸
【審査官】篠田 享佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095748(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0223070(US,A1)
【文献】3rd Generation Partnership Project;,Technical Specification Group Services and System Aspects; Policy and charging control architecture (Release 16),3GPP TS 23.203 V16.2.0 (2019-02),2019年12月22日,49-56ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
G08G 1/09
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4、6
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、
前記無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当てることと、
前記遅延度評価部が評価した遅延度が所定の閾値以上となっている前記無線通信サービスが割り当てられている前記車載装置に対しては、他の前記無線通信サービスを割り当てることと、を実施するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、複数の前記車載装置と接続されて使用される車両用無線通信装置であって、
前記遅延許容量取得部は、複数の前記車載装置のそれぞれから前記遅延許容量を取得し、
前記通信経路選択部は、前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置毎の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置毎の前記無線通信サービスを選択するものであって、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延許容量が大きい前記車載装置よりも優先的に、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを割り当てる車両用無線通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎に、異なる品質クラス番号を割り当てる品質クラス設定部(F34)を備え、
前記品質クラス設定部は、前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値が小さいものほど、小さい前記品質クラス番号を割り当てる車両用無線通信装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両用無線通信装置であって、
前記遅延許容量取得部は、前記車載装置が許容するパケット誤り率、及び、前記車載装置が要求する帯域保証に関するリソースタイプの少なくとも何れか一方を取得し、
前記パケット誤り率、及び、前記帯域保証に関する前記リソースタイプの少なくとも何れか一方に基づいて、前記車載装置から通知されている前記遅延許容量を所定量補正する許容量補正部(F36)を備え、
前記通信経路選択部は、前記許容量補正部が補正した前記遅延許容量である補正済み許容量を用いて各前記車載装置に対して前記無線通信サービスを割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項5】
請求項1からの何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、
前記遅延度評価部の評価結果に基づいて、前記無線通信サービスの前記遅延特性設定値を補正する遅延特性補正部(F37)と、を備え、
前記遅延特性補正部が補正した前記遅延特性設定値である補正済み遅延特性値を用いて、各前記車載装置に対して前記無線通信サービスを割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項6】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、
前記無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、
前記遅延度評価部の評価結果に基づいて、前記無線通信サービスの前記遅延特性設定値を補正する遅延特性補正部(F37)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当てるものであって、
前記無線通信サービスの割り当てにおいては、前記遅延特性補正部が補正した前記遅延特性設定値である補正済み遅延特性値を用いて、各前記車載装置に対して前記無線通信サービスを割り当てるように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、
前記通信経路選択部は、所定の経路変更条件が充足したことに基づいて、前記車両制御装置に割り当てている前記無線通信サービスを変更するための処理である経路変更処理を実施するように構成されており、
前記経路変更処理は、前記車両制御装置と前記外部装置とのデータ通信が行われていないタイミング、又は、前記車両が停車しているタイミングで実行される車両用無線通信装置。
【請求項8】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
少なくともの1つの前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当て
所定の経路変更条件が充足したことに基づいて、前記車両制御装置に割り当てている前記無線通信サービスを変更するための処理である経路変更処理を実施するように構成されており、
前記経路変更処理は、前記車両制御装置と前記外部装置とのデータ通信が行われていないタイミング、又は、前記車両が停車しているタイミングで実行される車両用無線通信装置。
【請求項9】
請求項1から7の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、
前記無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、
前記遅延度を前記ネットワーク側装置に送信する報告処理部(F32)と、を備え、
前記報告処理部は、前記車両制御装置のデータ通信が行われていないタイミング、又は、前記車両が停車しているタイミングで、前記遅延度を報告するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項10】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
少なくとも1つの前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、
前記無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、
前記遅延度を前記ネットワーク側装置に送信する報告処理部(F32)と、を備え、
前記通信経路選択部は、前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されており、
前記報告処理部は、前記車両制御装置のデータ通信が行われていないタイミング、又は、前記車両が停車しているタイミングで、前記遅延度を報告するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項11】
請求項1から8の何れか1項に記載の車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
複数の前記無線通信サービスの何れを選択しても、通信の遅延時間を前記車両制御装置が要求する前記遅延許容量以下に抑制できない場合には、所定のエラー信号を前記車両制御装置に出力する車両用無線通信装置。
【請求項12】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
少なくとも1つの前記車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当て
複数の前記無線通信サービスのいずれを選択しても、通信の遅延時間を前記車両制御装置が要求する前記遅延許容量以下に抑制できない場合には、所定のエラー信号を前記車両制御装置に出力するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項13】
請求項1から9の何れか1項に記載の、運行設計領域として、自動運転に係る前記外部装置との通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両で使用される車両用無線通信装置であって、
前記車載装置には、自動運転に係るデータを前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
前記車両制御装置と前記外部装置との通信の遅延度合いを示す情報を前記車両制御装置に出力するように構成されている車両用無線通信装置。
【請求項14】
少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、
少なくとも1つの前記車載装置には、自動運転に係るデータを前記外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、
前記無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、
前記車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、
前記無線通信サービス毎の前記遅延特性設定値と、前記車載装置の前記遅延許容量に基づいて、前記車載装置が前記外部装置と通信するための前記無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、
前記通信経路選択部は、
前記遅延許容量が小さい前記車載装置には、前記遅延特性設定値が小さい前記無線通信サービスを優先的に割り当てることと、
前記車両制御装置と前記外部装置との通信の遅延度合いを示す情報を前記車両制御装置に出力することと、を実施するように構成されており、
運行設計領域として、前記車両制御装置と前記外部装置との通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両で使用される車両用無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数種類の通信手段を並列的に用いて通信を行う車両用無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数種類の通信方式による無線通信を実施可能な構成において、通信方式毎の通信性能を、電波環境を示す複数種類の指標に基づいてスコア化し、データ通信に使用する通信方式を選択する構成が開示されている。具体的には、マルチパス数、干渉度、ドップラーシフト量、及び実効スループットの推定値に基づいて、通信方式毎の通信性能をスコア化してスコアが最も高い通信方式を選択する。
【0003】
なお、特許文献1で想定されている通信方式とは、例えば、FSK方式、CDMA方式、OFDM方式、QPSK方式などである。FSKはFrequency shift keyingの略である。CDMAは、Code Division Multiple Accessの略である。OFDMは、Orthogonal Frequency Division Multiplexingの略である。QPSKはQuadrature Phase Shift Keyingの略である。
【0004】
その他、3GPPにおいては、移動通信端末の利用特性に応じてネットワーク処理を最適化する方法の提案が行われている(非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4655955号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】3GPP TS 36.314 V15.1.0 (2018-07) 3rd Generation Partnership Project, “Evolved Universal Terrestrial Radio Access (E-UTRA); Layer 2 - Measurements”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の構成では、複数の通信サービスの中から通信に使用する通信サービスを決めるためのパラメータとして、マルチパス数、干渉度、ドップラーシフト量、及び実効スループットの推定値しか想定されていない。特許文献1では上記以外の指標に基づいて通信サービスを選択する構成は開示されていない。他のパラメータを用いることで、車載装置と外部装置との通信遅延が所定の許容範囲を逸脱する恐れをより一層抑制可能となる余地が残っている。
【0008】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、通信の遅延時間が所定の許容範囲を逸脱する恐れを低減できる車両用通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するための第1の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当てることと、遅延度評価部が評価した遅延度が所定の閾値以上となっている無線通信サービスが割り当てられている車載装置に対しては、他の無線通信サービスを割り当てることと、を実施するように構成されている。
本開示に含まれる第2の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、遅延度評価部の評価結果に基づいて、無線通信サービスの遅延特性設定値を補正する遅延特性補正部(F37)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当てるものであって、無線通信サービスの割り当てにおいては、遅延特性補正部が補正した遅延特性設定値である補正済み遅延特性値を用いて、各車載装置に対して無線通信サービスを割り当てるように構成されている。
本開示に含まれる第3の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、少なくともの1つの車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当て、所定の経路変更条件が充足したことに基づいて、車両制御装置に割り当てている無線通信サービスを変更するための処理である経路変更処理を実施するように構成されており、経路変更処理は、車両制御装置と外部装置とのデータ通信が行われていないタイミング、又は、車両が停車しているタイミングで実行される。
本開示に含まれる第4の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、少なくとも1つの車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の外部装置と通信する車両制御装置が含まれており、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、無線通信サービス毎の遅延度を評価する遅延度評価部(F31)と、遅延度をネットワーク側装置に送信する報告処理部(F32)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当てるように構成されており、報告処理部は、車両制御装置のデータ通信が行われていないタイミング、又は、車両が停車しているタイミングで、遅延度を報告するように構成されている。
本開示に含まれる第5の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、少なくとも1つの車載装置には、自動運転又は運転支援に係るデータを所定の外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当て、複数の無線通信サービスのいずれを選択しても、通信の遅延時間を車両制御装置が要求する遅延許容量以下に抑制できない場合には、所定のエラー信号を車両制御装置に出力するように構成されている。
本開示に含まれる第6の車両用無線通信装置は、少なくとも1つの車載装置が車両外部に設けられた他の通信装置である外部装置と通信するためのインターフェースとして使用される、複数の無線通信サービスを利用可能に構成された車両用無線通信装置であって、少なくとも1つの車載装置には、自動運転に係るデータを外部装置と通信する車両制御装置(6A)が含まれており、無線通信サービス毎に、無線通信ネットワークを構成するネットワーク側装置(2、31、32、33、34)から、通信遅延時間の想定範囲の上限値である遅延特性設定値を取得する遅延特性取得部(F2)と、車載装置から、許容する通信遅延時間の長さを直接的に又は間接的に示す遅延許容量を取得する遅延許容量取得部(F33)と、無線通信サービス毎の遅延特性設定値と、車載装置の遅延許容量に基づいて、車載装置が外部装置と通信するための無線通信サービスを選択する通信経路選択部(F35)と、を備え、通信経路選択部は、遅延許容量が小さい車載装置には、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを優先的に割り当てることと、車両制御装置と外部装置との通信の遅延度合いを示す情報を車両制御装置に出力することと、を実施するように構成されており、運行設計領域として、車両制御装置と外部装置との通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両で使用される。
【0010】
遅延特性設定値は、ネットワーク側装置における通信遅延時間の想定値を表すため、遅延特性設定値が小さい無線通信サービスとは相対的に通信速度が大きい無線通信サービスに相当する。故に、遅延許容量が小さい車載装置に対して優先的に遅延特性設定値が小さい無線通信サービスを割り当てることにより、実際の遅延時間が車載装置が要求する遅延時間の許容範囲を逸脱する恐れを低減可能となる。
【0013】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】移動体通信システム100の全体像を説明するための図である。
図2】車載通信システム1の構成の一例を示す図である。
図3】無線通信装置5の構成を示すブロック図である。
図4】APNの割当に係る処理フローを示すフローチャートである。
図5】通信制御部F3の作動を説明するための図である。
図6】無線通信装置5の変形例を示すブロック図である。
図7】車載装置6から通知された遅延許容量を補正して運用する構成を説明するための図である。
図8】車載装置6から通知された遅延許容量を補正して運用する構成の効果を説明するための図である。
図9】無線通信装置5の変形例を示すブロック図である。
図10】コアネットワーク3から通知された遅延特性設定値を補正して運用する構成を説明するための図である。
図11】アプリごとにAPNを割り当てる態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図を用いて説明する。図1は、本開示に係る移動体通信システム100の概略的な構成の一例を示す図である。移動体通信システム100は、例えばLTE(Long Term Evolution)に準拠した無線通信を提供する。以下で説明を省略している部分は、非特許文献1に開示の方法など、LTEの規格で定められた方法で行われるものとする。なお、移動体通信システム100は、4G規格や5G規格などに準拠した無線通信を提供するものであってもよい。以下の実施形態は、4Gや5Gなどに準拠するように適宜変更して実施可能である。
【0016】
図1に示すように移動体通信システム100は、車載通信システム1、無線基地局2、コアネットワーク3、自動運転管理センタ4A、及び地図サーバ4Bを含む。自動運転管理センタ4A、及び、地図サーバ4Bは、車載通信システム1にとっての外部装置4の一例に相当する。外部装置4とは車両外部に設けられた他の通信装置を指す。
【0017】
車載通信システム1は、車両に構築されている通信システムである。車載通信システム1は、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等、道路上を走行可能な多様な車両に搭載可能である。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。当該システムが適用される車両(以降、搭載車両)は、個人によって所有されるオーナーカーであってもよいし、カーシェアリングサービスや車両貸し出しサービスに供される車両であってもよい。また、搭載車両は、サービスカーであってもよい。サービスカーには、タクシーや路線バス、乗り合いバスなどが含まれる。サービスカーは、運転手が搭乗していない、ロボットタクシーまたは無人運行バスなどであってもよい。サービスカーには、荷物を所定の目的地まで自動運搬する自動配送ロボット、換言すれば、無人配送ロボットとしての車両なども含めることができる。さらに、搭載車両は、車両外部に存在するオペレータによって遠隔操作される遠隔操作車両であってもよい。ここでのオペレータとは、車両外部から遠隔操作によって車両を制御する権限を有する人物またはコンピュータを指す。
【0018】
車載通信システム1は、無線基地局2及びコアネットワーク3を介して、例えば自動運転管理センタ4Aなどの外部装置4とデータ通信を実施する。車載通信システム1は、無線通信機能を提供する構成として無線通信装置5を備える。無線通信装置5は、コアネットワーク3にとってのユーザ装置(いわゆるUE:User Equipment)に相当する。無線通信装置5は、ユーザが取り外し可能に構成されていてもよい。また、無線通信装置5は、ユーザが車室内に持ち込んだ、スマートフォン等の携帯端末であってもよい。無線通信装置5が車両用無線通信装置に相当する。
【0019】
無線通信装置5は、それぞれAPN(Access Point Name)が異なる複数の無線通信サービスを利用可能に構成されており、それらの複数の無線通信サービスを、用途等に応じて使い分けて外部装置4とデータ通信を実施する。APNは、1つの側面において通信サービスの識別子である。APNには、通信サービスを提供する通信事業者(いわゆるキャリア)が紐付いている。APNが異なれば、仮に通信相手となる外部装置4が同一であっても、当該外部装置4までデータが流れる経路は、実体的、又は、仮想的又は論理的に相違する。つまり、無線通信装置5は、各APNに対応する複数種類の無線通信経路を用いて外部装置4とデータ通信可能に構成されている。無線通信装置5を含む車載通信システム1については別途後述する。
【0020】
無線基地局2は、車載通信システム1と無線信号を送受信する設備である。無線基地局2は、eNB(evolved NodeB)とも称される。無線基地局2は、5Gで使用されるgNB(next generation NodeB)であってもよい。無線基地局2は、所定のセル毎に配置されている。無線基地局2は、IP(Internet Protocol)ネットワーク等のアクセス回線を介してコアネットワーク3と接続されている。無線基地局2は、無線通信装置5とコアネットワーク3との間でトラフィックを中継する。無線基地局2は、例えば車載通信システム1からの要求に基づいて送信機会の割り当てなどを実施する。送信機会は、データ送信に使用可能な周波数帯や時間、変調方式などによって構成される。
【0021】
コアネットワーク3は、いわゆるEPC(Evolved Packet Core)である。コアネットワーク3では、ユーザの認証、契約分析、データパケットの転送経路の設定、Qos(Quality of Service)の制御などの機能を提供する。コアネットワーク3は、例えばIPネットワークや携帯電話網等の、電気通信事業者によって提供される公衆通信ネットワークを含みうる。コアネットワーク3が無線通信ネットワークに相当する。
【0022】
コアネットワーク3は、例えば、MME31や、S-GW32、P-GW33、PCRF34などを含む。MME31は、Mobility Management Entityの略であって、セル内のUEの管理や、無線基地局2の制御を担当する。MME31は、例えば無線基地局2とS-GW32との間における制御信号のゲートウェイとしての役割を担う。S-GW32は、Serving Gatewayの略であって、UEからのデータのゲートウェイに相当する構成である。P-GW33は、Packet Data Network Gatewayの略であって、インターネットなどのPDN(Packet Data Network)35に接続するためのゲートウェイに相当する。P-GW33は、IPアドレスの割当などや、S-GWへのパケット転送を実施する。
【0023】
PCRF34は、Policy and Charging Rules Functionの略であって、ユーザデータの転送のQoS及び課金のための制御を行う論理ノードである。PCRF34は、ネットワークポリシーや課金のルールをもつデータベースを含む。PCRF34は、UEとしての無線通信装置5との通信接続時に、通信制御に使用される1つのパラメータである遅延特性設定値(delayThreshold:以降、dTとも記載)を決定する。PCRF34が決定した遅延特性設定値は、例えばMME31および無線基地局2の少なくとも何れか一方を介して、無線通信装置5に通知される。
【0024】
ここでの遅延特性設定値とは、通信パケットの送信遅延が想定外の程度で生じているか否か、換言すれば、通信遅延の観点からQoSが担保されているか否かを、UEが検証するためのパラメータである。遅延特性設定値は、1つの側面において、通信パケットの遅延時間の想定範囲の上限値に相当する。遅延特性設定値が大きいほど、想定される通信遅延時間が大きいことを意味する。遅延特性設定値が小さい通信経路ほど、許容する遅延量が小さい、すなわちリアルタイム性が高い通信経路となる。ここでの通信経路はAPNと読み替えて実施することができる。また、PCRF34が遅延特性設定値を決定して無線通信装置5に通知する例を示したが、これに限らない。無線基地局2がコアネットワーク3から受領した情報に沿って遅延特性設定値を決定することとしてもよい。
【0025】
無線通信装置5を含む各UEは、通信接続が確立されている場合、定期的に又は所定のトリガ検出時にdT超過率を算出し、当該dT超過率を示すデータセットであるUL-PDCP遅延報告を、遅延特性設定値を管理するネットワーク側装置に送信する。ここでのネットワーク側装置には、後述するようにMME31やPCRF34、無線基地局2などが含まれる。UL-PDCP遅延報告は、いわゆるUL PDCP Packet Delayに相当する。dT超過率は、所定時間以内に通信パケットの送信遅延時間が遅延特性設定値を超過していた区間の比率である。dT超過率は、UL-PDCPにおける通信速度の実績値を直接的または間接的に示す。換言すれば、dT超過率は、遅延時間の想定値を超過した状況がどれくらいの頻度で発生しているかを直接的または間接的に示すパラメータである。なお、UL-PDCPの「UL」はアップリンクを指し、「PDCP」は、レイヤ2を構成するサブレイヤの1つで、秘匿、正当性確認、順序整列、ヘッダ圧縮などを行うプロトコルを指す。
【0026】
無線通信装置5におけるdT超過率の算出等の演算処理は、定期的に実行されても良いし、ネットワーク側装置からの問い合わせを受けたことをトリガとして実行されても良い。すなわち、dT超過率の算出等の無線通信装置5内での内部演算処理は、所定のイベントが生じたことをトリガとして実行されても良い。UL-PDCP遅延報告等の送信もまた、定期的に実行されても良いし、ネットワーク側装置から問い合わせを受けたことをトリガとして実行されても良い。
【0027】
無線基地局2またはコアネットワーク3は、無線通信装置5からのUL-PDCP遅延報告を受けた際、当該報告に示されるdT超過率と所定の設定変更閾値とを比較し、遅延特性設定値や転送経路等の各種パラメータを変更しうる。無線基地局2またはコアネットワーク3は、無線通信装置5に対する遅延特性設定値等の各種パラメータの設定値を変更した場合には、その変更後の遅延特性設定値dTなどを無線通信装置5に通知する。
【0028】
図1では無線基地局2や、MME31、S-GW32、P-GW33、PCRF34を1つずつしか示していないがこれらはネットワーク全体として複数存在しうる。例えばPCRF34は、APN毎または電気通信事業者ごとに配置されうる。コアネットワーク3内においてデータの転送経路はAPN毎に異なるものとなる。なお、図1のコアネットワーク3内における要素間をつなぐ実線はユーザデータの転送経路を示しており、破線は制御信号のやり取りを示している。
【0029】
その他、コアネットワーク3は、HLR(Home Location Register)やHSS(Home Subscriber Server)などを含んでいてもよい。コアネットワーク3を構成する装置の名称や組み合わせなどは、例えば5Gなど、移動体通信システム100が採用する通信規格に対応するように適宜変更可能である。また、コアネットワーク3における機能配置は適宜変更可能である。例えばPCRF34が提供する機能は別の装置が備えていても良い。以降では例えばMME31やS-GW32などのコアネットワーク3を構成する各装置を区別しない場合には、単にコアネットワーク3とも記載する。MME31やS-GW32などのコアネットワーク3を構成する各装置が、ネットワーク側装置に相当する。さらに、無線基地局2もまた、ネットワーク側装置に含めることができる。無線基地局2は、コアネットワーク3が、無線通信装置5と通信するためのインターフェースとしての役割を担うためである。本開示における「ネットワーク側装置」との記載は、「無線基地局2およびコアネットワーク3の少なくとも何れか一方」と読み替えて実施されても良い。ネットワーク側装置には、無線通信装置5が外部装置4と通信するための多様な設備を含めることができる。
【0030】
自動運転管理センタ4Aは、自動運転で走行している車両の運行状態を管理するセンタであって、無線基地局2等を介して車載通信システム1とデータ通信可能に構成されている。自動運転管理センタ4Aは、例えば車載通信システム1からアップロードされてくる走行状態報告を受信し、異常の有無を判定する。走行状態報告は、自動運転時の車両内、及び、車室外の状況を示すデータセットである。自動運転管理センタ4Aは、各車両から送信されてくる走行状態報告を図示しない運行記録装置に保存するように構成されていても良い。その他、自動運転管理センタ4Aは、車両に搭載された自動運転装置6Aからの要求に基づき、遠隔制御する機能を備えていても良い。また、自動運転管理センタ4Aは、車両の走行経路の算出など、車両の中長期的な制御計画を作成して配信する機能などを備えていても良い。
【0031】
地図サーバ4Bは、所定のデータベースに格納されている地図データを、車両からの要求に基づき配信するサーバであって、無線基地局2等を介して車載通信システム1とデータ通信可能に構成されている。地図サーバ4Bが配信する地図データは、高精度地図データでもよいし、ナビ地図データでもよい。高精度地図データは、道路構造、及び、道路沿いに配置されている地物についての位置座標等を、自動運転に利用可能な精度で示す地図データに相当する。ナビ地図データは、ナビゲーション用の地図データであって、高精度地図データよりも相対的に精度の劣る地図データに相当する。
【0032】
<車載通信システム1の構成について>
車載通信システム1は、例えば無線通信装置5、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cなどを含む。自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cなどといった、種々の車載装置6は、車両内に構築された通信ネットワークである車両内ネットワークNwを介して無線通信装置5と接続されている。車両内ネットワークNwに接続された装置同士は相互に通信可能である。つまり、無線通信装置5は、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、及びプローブ装置6Cのそれぞれと相互通信可能に構成されている。車両内ネットワークNwは、時分割方式(TDMA:Time Division Multiple Access)などを用いて多重通信可能に構成されている。なお、多重通信の方式としては、周波数分割方式(FDMA:Frequency Division Multiple Access)や、符号分割方式(CDMA:Code Division Multiple Access)、直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)などを採用可能である。
【0033】
なお、特定の装置同士は、車両内ネットワークNwを介することなく直接的に通信可能に構成されていてもよい。図2において車両内ネットワークNwはバス型に構成されているが、これに限らない。ネットワークトポロジは、メッシュ型や、スター型、リング型などであってもよい。車両内ネットワークNwの規格としては、例えばController Area Network(CANは登録商標)や、イーサネット(登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。また、無線通信装置5と各車載装置6との接続形態は有線接続に限らず、無線接続であっても良い。車載装置6は、ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。
【0034】
無線通信装置5は、複数のAPNのそれぞれに対応する複数の無線通信サービスを用いて複数の外部装置4と無線通信可能に構成されている。無線通信装置5は、各APNに対応する無線通信サービスを、通信の用途や通信状況に基づいて使い分ける。無線通信装置5は、各車載装置6が所定の通信相手としての外部装置と無線通信するためのインターフェースに相当する。なお、無線通信インターフェースとしての無線通信装置5とは、車載装置6から入力されるデータを外部装置4へ送信する処理、及び、外部装置4から受信したデータを車載装置6へ送出する処理の少なくとも何れか一方を実施する装置に相当する。車両は無線通信装置5の搭載により、インターネットに接続可能なコネクテッドカーとなる。
【0035】
当該無線通信装置5は、処理部51、RAM52、ストレージ53、通信インターフェース54、SIMカード55及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として構成されている。処理部51は、RAM52と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部51は、CPU(Central Processing Unit)等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部51は、RAM52へのアクセスにより、種々の処理を実行する。
【0036】
ストレージ53は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ53には、処理部51によって実行されるプログラムとして、通信制御プログラムが格納されている。処理部51が上記プログラムを実行することは、通信制御プログラムに対応する方法である通信制御方法を実行することに相当する。ストレージには、無線通信装置5が接続可能な複数のAPNについての情報(例えばプロファイル等)が登録されている。APNについての情報は、無線通信装置5が電話回線を使ってデータ通信を行うために必要な情報を含む。例えばAPNについての情報には、電話回線からインターネットなどのネットワークへの接続窓口となるゲートウェイ(つまり接続先)を指定する情報を含む。通信インターフェース54は、車両内ネットワークNwを介して車載装置6と通信するための回路である。通信インターフェース54は、アナログ回路素子やICなどを用いて実現されればよい。
【0037】
SIMカード55は、回線の契約者を識別するための情報が記録された接触型ICカードである。SIMはSubscriber Identity Moduleの略である。例えばSIMカードには、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)と呼ばれる固有番号が、契約者の電話番号と結びついて記録されている。当該SIMカード55は、複数のAPNが利用可能なSIMである。例えばSIMカード55は、複数のAPNを提供するキャリアと契約されているSIMとすることができる。なお、SIMカード55は、図示しないカードスロットに挿入されたものでもよいし、eSIM(Embedded SIM)であってもよい。ここでのSIMカード55の概念にはeSIMも含まれる。無線通信装置5は、複数のSIMカードを備えることで複数のAPNに接続可能に構成されていても良い。
【0038】
自動運転装置6Aは、車載カメラやミリ波レーダなどの周辺監視センサの検出結果などをもとに走行アクチュエータを制御することにより、運転操作の一部または全部をユーザの代わりに実行する装置である。走行アクチュエータには例えば制動装置としてのブレーキアクチュエータや、電子スロットル、操舵アクチュエータなどが含まれる。操舵アクチュエータには、EPS(Electric Power Steering)モータも含まれる。周辺監視センサは、自車の周辺に存在する物体等を検出するセンサである。周辺監視センサとしては、例えば、カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)、ソナー等を採用することができる。
【0039】
自動運転装置6Aは、自動運転時の車両内、及び、車室外の状況を示すデータセットを走行状態報告として、無線通信装置5を介して自動運転管理センタ4Aに逐次送信する。自動運転時の車両内の状況には、自動運転装置6Aの作動状態や、乗員の状態を含めることができる。自動運転装置6Aの作動状態を示すデータには、自動運転装置6Aにおける周辺環境の認識結果や、走行計画、各走行アクチュエータの目標制御量などの算出結果も含まれる。自動運転装置6Aは、上述した自動運転に係る種々のデータを無線通信装置5に向けて逐次出力する。
【0040】
また、自動運転装置6Aは、自動運転管理センタ4Aから、無線通信により、制御計画の作成の参考となるリアルタイムな情報(以降、制御支援情報)を受信するように構成されていても良い。制御支援情報は、例えば、車両周辺に存在する他の移動体の現在位置や移動速度、進行方向などを示す情報などとすればよい。制御支援情報は、例えば通行規制がなされている区間や、渋滞の末尾位置、路上落下物の位置などといった、準動的な地図要素についての情報を含んでもよい。その場合、無線通信装置5は、自動運転管理センタ4Aから、制御支援情報としてのデータを受信して自動運転装置6Aに出力する役割を担う。制御支援情報としてのデータセットは、車両制御用のデータの一例に相当する。また、自動運転装置6Aが車両制御装置に相当する。
【0041】
なお、車両は、例えば自律系での自動運転が継続困難となったことに基づいて、自動運転管理センタ4Aに存在するオペレータによって遠隔操作されるように構成されていても良い。車両が遠隔操作される場合、無線通信装置5は、自動運転管理センタ4Aから送信された遠隔制御信号を速やかに受信して、自動運転装置6Aまたは制御対象となる走行アクチュエータに出力する。車両制御用のデータには、自動運転管理センタ4Aからの送信される遠隔制御信号または当該制御信号に対する応答信号なども含まれる。
【0042】
ナビゲーション装置6Bは、ディスプレイを含むHMI(Human Machine Interface)システムと連携し、乗員によって設定された目的地までの経路案内を実施する車載装置6である。ナビゲーション装置6Bは、例えば地図サーバ4Bからダウンロードした地図を用いて経路案内処理を実施する。無線通信装置5は、ナビゲーション装置6Bからの要求に基づき、地図サーバ4Bから車両の現在位置や走行予定経路に応じた地図データをダウンロードしてナビゲーション装置6Bに提供する。
【0043】
プローブ装置6Cは、地図サーバ4Bが地図データを生成及び更新するためのデータであるプローブデータを周辺監視センサの検出結果を元に生成し、無線通信装置5を介して、地図サーバ4Bにアップロードする装置である。プローブ装置6Cは、例えば周辺監視センサが特定した地物の観測位置を示すデータセットをプローブデータとして地図サーバ4Bに逐次送信する。プローブデータは、区画線やランドマーク等に対する一定時間(例えば400ミリ秒)以内の認識結果をパッケージ化したデータに相当する。プローブデータは、例えば、送信元情報や、走行軌道情報、走路情報、および地物情報を含んでもよい。走行軌道情報は、自車両が走行した軌道を示す情報である。地物情報は、区画線等やランドマーク等の地物の観測座標を示す。また、プローブデータには、車速や、舵角、ヨーレート、ウインカー作動情報、ワイパー作動情報などといった、車両挙動情報が含まれていてもよい。
【0044】
なお、車載装置6に該当する装置は以上で例示したものに限定されない。様々な装置が車載装置6として直接的又は間接的に無線通信装置5に接続されうる。例えば車載装置6には、運転支援装置やドライブレコーダ、緊急通報装置、自己診断装置(いわゆるOBD:On Board Diagnostics)などを含めることができる。また、車載装置6には、所定のソフトウェア更新サーバと無線通信することによって、所定のECUのソフトウェアを更新するためのプログラムを取得する、ソフトウェア更新装置が含まれていてもよい。ソフトウェア更新装置は、当該プログラムを用いて、当該プログラムの適用対象となるECUのソフトウェアアップデートを実行する。各種車載装置6及び無線通信装置5は、種々のデータを所定の方式で多重化して送受信する。
【0045】
<無線通信装置5の機能について>
ここでは無線通信装置5の機能及び作動について説明する。無線通信装置5は、ストレージ53に保存されている通信制御プログラムを実行することにより、図3に示す種々の機能ブロックに対応する機能を提供する。すなわち、無線通信装置5は機能ブロックとして、多重分離部F1、速度指標取得部F2、通信制御部F3、及び無線通信部F4を備える。
【0046】
多重分離部F1は、各車載装置6が生成したデータを受け取り、無線通信部F4へ出力するとともに、無線通信部F4が受信したデータを、転送すべき車載装置6に向けて出力する構成である。例えば多重分離部F1は、各車載装置6から多重化されて入力されたデータを、所定の方式で分離することで、本来のデータを取得する。なお、多重分離部F1は、各車載装置6から入力されたデータを無線基地局2に送信するまで一時的に保持する記憶領域であるバッファを含む。バッファは、RAM等の書き換え可能な記憶媒体を用いて実現されればよい。多重分離部F1は、バッファに滞留しているデータの量やそれらのデータのヘッダに格納された情報を監視する機能も備える。
【0047】
バッファに入っているデータは、順次、無線通信部F4にて取り出され、データの入力元(つまり車載装置6)に応じた無線通信経路で宛先となる外部装置4に向けて送信される。ここでの無線通信経路は、個々のAPNに対応するものであって、無線通信経路は無線通信サービスに相当する。車載装置6毎の無線通信経路の設定、換言すれば車載装置6毎のAPNの割当状態は、通信制御部F3によって制御される。なお、ここでは、データの通信経路を車載装置6単位で制御するものとするがこれに限らない。無線通信装置5は、アプリケーションソフトウェア単位で通信経路が切り替えるように構成されていても良い。車載装置6毎の通信経路の割当方法については別途後述する。
【0048】
速度指標取得部F2は、各無線通信経路の通信速度の指標として、APN毎の遅延特性設定値を、ネットワーク側装置から取得する。APNごとの遅延特性設定値は、例えばPCRF34や無線基地局2といった、各APNに対応するネットワーク側装置によって付与される。各APNに対応する遅延特性設定値は、例えば各APNに対応するPCRF34によって設定され、MME31及び無線基地局2を介して通知される。遅延特性設定値は、通信接続確立時にコアネットワーク3より付与される。遅延特性設定値は、上述の通り、無線通信装置5が送信したUL-PDCP遅延報告に基づき、コアネットワーク3において更新されうる。速度指標取得部F2は、取得した遅延特性設定値を通信制御部F3に提供する。速度指標取得部F2が遅延特性取得部に相当する。
【0049】
通信制御部F3は、APN毎の通信状態を監視及び制御する。通信制御部F3は、例えば、車両電源がオンとなったことを受けて、APN毎の通信回線(換言すればEPSベアラ)の接続を確立する手続きを開始し、APN毎のネットワーク接続、つまりPDNコネクションを構築する。
【0050】
通信制御部F3は、サブ機能として、遅延度評価部F31、報告処理部F32、通信要求取得部F33、QCI設定部F34、及び経路選択部F35を備える。遅延度評価部F31は、APN毎の通信接続が確立されている状態において、定期的に又は所定のトリガ検出時にdT超過率を算出する構成である。また、報告処理部F32は、UL PDCP Packet Delayとして、遅延度評価部F31が算出したdT超過率を示すUL-PDCP遅延報告をコアネットワーク3に送信する。dT超過率の算出及びUL-PDCP遅延報告は、APN毎、換言すれば通信経路毎に実行される。
【0051】
通信要求取得部F33は、各車載装置6から、データの送信遅延に係る要求品質である遅延要求を取得する。遅延要求は、例えば車載装置6として許容可能な遅延時間を示す数値(以降、遅延許容値)で表現される。遅延許容値は、例えば、100ミリ秒などの時間の長さを示す数値とすることができる。遅延許容値が小さいほど、即時性が要求されていることを示す。通信要求取得部F33が、遅延許容量取得部に相当する。遅延許容値が遅延許容量に相当する。
【0052】
なお、各車載装置6が通知する、許容可能な遅延時間の長さは、レベルで表現されてもよい。例えば許容可能な遅延の長さを表す遅延許容レベルは、レベル1~4の4段階で表現されてもよい。許容可能な遅延時間の長さをレベルで表現する場合もまた、レベル数が小さいほど、許容可能な遅延時間が短いことを表す。レベル1は例えば遅延時間を100ミリ秒未満とする遅延要求に相当し、レベル2は遅延時間が300ミリ秒以下とする遅延要求に相当する。また、レベル3は遅延時間を1000ミリ秒未満とする遅延要求に相当し、レベル4は1000ミリ秒以上の遅延を許容する遅延要求に相当する。
【0053】
その他、通信要求取得部F33は、各車載装置6から、無線通信の態様に係る、遅延許容値以外のパラメータを取得する。例えば通信要求取得部F33は、許容するパケット誤り率の上限値や、帯域保証に関するリソースタイプなどを取得する。帯域保証に関するリソースタイプには、例えば帯域保証されるか否かが含まれる。なお、パケット誤り率及び帯域保証に関するリソースタイプといったパラメータは、コアネットワーク3から取得しても良い。加えて、パケット誤り率及び帯域保証に関するリソースタイプは、通信要求取得部F33が、車載装置6から入力されるデータの種別等に基づいて判断してもよい。
【0054】
QCI設定部F34は、各無線通信経路に品質クラスID(QCI:QoS Class Identifier)を設定する構成である。QCIが品質クラス番号に相当する。QCIはAPNごとに設定される。なお、QCIは、回線接続で要求するサービスの特性を示すパラメータに相当する。QCI設定部F34が品質クラス設定部に相当する。経路選択部F35は、速度指標取得部F2が取得した遅延特性設定値を用いて各車載装置6のデータ通信に用いる無線通信経路を選択する構成である。経路選択部F35が通信経路選択部に相当する。通信制御部F3の作動の詳細は別途後述する。
【0055】
無線通信部F4は、例えばLTEの無線通信プロトコルにおける物理レイヤを担当する通信モジュールである。無線通信部F4は、LTEで用いられる周波数帯の電波を送受信可能なアンテナと、LTEの通信規格に準拠してベースバンド信号から高周波信号への変換およびその逆変換に相当する信号処理を行うトランシーバとを用いて構成されている。なお、アンテナは受信ダイバーシティ等のために複数設けられていても良い。無線通信部F4は、多重分離部F1から入力されたデータに対して、符号化や、変調、デジタルアナログ変換等の処理を施すことで、入力されたデータに対応する搬送波信号を生成する。そして、生成した搬送波信号をアンテナに出力することで電波として放射させる。また、無線通信部F4は、アンテナにて受信した受信信号に対して、アナログデジタル変換処理や復調処理といった所定の処理を施すことでデジタル値によって表現された情報系列(つまりデジタルデータ)に変換する。そして、その受信信号に対応するデータを、多重分離部F1に出力する。
【0056】
<無線通信経路の割当処理について>
ここでは図4に示すフローチャートを用いて無線通信装置5の作動について説明する。なお、図4に示すフローチャートは、例えば、車両電源がオンとなったことをトリガとして、開始される。ここでの車両電源は、アクセサリ電源であってもよいし、走行用電源であってもよい。走行用電源は、車両が走行するための電源であって、車両がガソリン車である場合にはイグニッション電源を指す。車両が電気自動車やハイブリッド車である場合、走行用電源とはシステムメインリレーを指す。
【0057】
以下では、説明の簡易化のため、無線通信装置5が、APN_1と、APN_2の、2つのAPNを利用可能に構成されている場合を例に挙げて説明を行う。もちろん、無線通信装置5が利用可能なAPNは、3つ以上であってもよい。
【0058】
まずステップS1では、通信制御部F3が、無線通信部F4などと協働して、APN毎のPDNコネクションを構築するための処理を実行する。例えば通信制御部F3は、APNごとに、SIM情報を含むアタッチ要求をMME31に送信する。また、MME31からの要求に基づいてAPNを通知することで、APN毎のPDNコネクションが構築される。なお、MME31は、無線通信装置5から通知されたAPNに応じて、S-GW、P-GWと連携して無線ベアラを含むPDNコネクションを設定する。コネクションの設定には、PCRF34が保持するユーザごとの契約情報、換言すれば課金情報などが参酌される。ステップS1にてAPN毎のPDNコネクション、換言すれば通信経路が確立するとステップS2に移る。
【0059】
ステップS2ではQCI設定部F34が、APN_1とAPN_2のそれぞれに対して、異なるQCIの値を仮設定する。便宜上、APN_1に対して設定したQCIをQCI_1と記載するとともに、APN_2に対して設定したQCIをQCI_2と記載する。QCI_1とQCI_2は互いに異なる値となっていればよい。APN毎のQCIの仮設定値は、想定される通信の用途等を考慮して決定されれば良い。ステップS2の処理が完了するとステップS3に移る。なお、ステップS2はステップS1と統合されていても良い。
【0060】
ステップS3では、速度指標取得部F2が、APN_1およびAPN_2のそれぞれについての遅延特性設定値をコアネットワーク3から取得する。便宜上、APN_1に対応する遅延特性設定値をdT_1と記載するとともに、APN_2に対応する遅延特性設定値をdT_2と記載する。dT_1は例えば120ミリ秒とすることができる。また、dT_2は例えば400ミリ秒などとすることができる。これらの数値は無線通信装置5の作動を説明するための一例であって適宜変更可能である。ステップS3が遅延特性取得ステップに相当する。ステップS3が完了するとステップS4に移る。
【0061】
ステップS4ではQCI設定部F34が、ステップS3で取得したAPN毎の遅延特性設定値に基づいて、APN毎のQCIの設定値を調整する。例えばステップS3で取得したAPN毎のdTがdT_1<dT_2であり且つステップS2で仮設定したAPN毎のQCIがQCI_1>QCI_2である場合、QCI設定部F34は、QCI_1<QCI_2となるようにAPN毎のQCIを変更する。具体的には、遅延特性設定値がより小さいAPNのQCIを、遅延特性設定値がより大きいAPNのQCIよりも小さくする。ステップS4は、APN毎のQCIの大小関係が、遅延特性設定値の大小関係と整合するように設定値を変更する処理に相当する。なおステップS4は任意の要素であって省略可能である。
【0062】
ステップS5では、通信要求取得部F33が、各車載装置6から、遅延許容値を取得する。便宜上、自動運転装置6Aの遅延許容値をDA_A、ナビゲーション装置6Bの遅延許容値をDA_B、プローブ装置6Cの遅延許容値をDA_Cと記載する。一例として、各車載装置6の遅延要求としての遅延許容値は、DA_A<DA_B<DA_Cの関係を有する値に設定されている。例えば自動運転装置6Aの遅延許容値DA_Aは100ミリ秒などに設定されうる。ナビゲーション装置6Bの遅延許容値DA_Bは、例えば500ミリ秒など、自動運転装置6Aの遅延許容値DA_Aよりも相対的に大きい値に設定されうる。プローブ装置6Cの遅延許容値DA_Cは、例えば2000ミリ秒とすることができる。なお、以上で上げた数値は一例であって適宜変更可能である。
【0063】
各車載装置6の遅延要求は、例えば車載装置6から所定の制御信号として入力される。例えば、遅延要求は、車両電源のオンに伴って車載装置6と無線通信装置5とが通信接続したタイミングで、車載装置6から無線通信装置5に向けて通知されてもよい。また、遅延要求は、所定のタイミング又は定期的に無線通信装置5が各車載装置6に対して遅延要求を問い合わせることで取得しても良い。その他、遅延要求は、各車載装置6から無線通信装置5に向けて送信されたデータのヘッダなどに記述されていても良い。なお、遅延要求は、車載装置6が実行しているアプリケーションソフトウェアごとに設定されても良い。ステップS5が遅延許容量取得ステップに相当する。
【0064】
ステップS6では、経路選択部F35が、車載装置6毎の通信経路を選択する。遅延許容値が小さい車載装置6に対して優先的に、遅延特性設定値が小さい無線通信経路(換言すればAPN)を割り当てる。例えば図5に例示するように、遅延許容値DAが最も小さい自動運転装置6Aには、遅延特性設定値が最も小さいAPN_1に対応する無線通信経路を設定する。また、相対的に遅延許容値DAが大きいナビゲーション装置6Bやプローブ装置6Cには、相対的に遅延特性設定値が大きいAPN_2に対応する無線通信経路を割り当てる。ステップS6が通信経路選択ステップに相当する。
【0065】
ステップS7では通信制御部F3が、ステップS6で決定した車載装置6毎の無線通信経路(換言すればAPN)を無線通信部F4に通知し、車載装置6毎の通信経路として適用させる。これにより、各車載装置6から入力されたデータが、その入力元に割り当てられているAPN、ひいては通信経路で送信されるようになる。なお、通信速度が許容される範囲において、1つのAPNに対して複数の車載装置6が割り当てられていても良い。例えばAPN_2には複数の車載装置6が割り当てられてもよい。
【0066】
以上で述べた構成は、車両全体として複数のAPNを並列的に使う構成において、ネットワーク側装置から通知されるAPN毎の遅延特性設定値に応じて、車載装置6毎のAPNの割当を決定する構成に相当する。上記構成によれば、相対的に遅延の許容量が小さい通信を要求する車載装置6に対しては、遅延特性設定値の小さいAPNを割り当てることが可能となる。その結果、緊急性の高いデータ通信を低遅延で実施可能となる。また、許容される遅延時間が短い種別のデータを優先的に、遅延特性設定値が小さいAPNで送信されるため、遅延に関する要求品質を満たせない通信が生じる恐れを低減できる。
【0067】
なお、緊急性が高いデータ通信には、即時性(いわゆるリアルタイム性)が高いデータ通信が含まれる。緊急性が高いデータ通信とは、例えば、最大遅延時間が100ミリ秒以下となることが要求されるデータ通信である。具体的には、自動運転や運転支援にかかる車両制御用のデータ通信や、自動運転車両の運行管理に係るデータ通信、車両を遠隔操作するためのデータ通信など、緊急性の高いデータ通信に該当する。つまり、自動運転装置6Aや運転支援装置から入力されたデータは、通信の遅延を抑制する必要性が大きいデータに該当する。自動運転装置6Aや運転支援装置など、外部装置4からの信号に基づいて車両制御を実行する車載装置6が、車両制御装置に相当する。
【0068】
なお、緊急性が低い、つまり即時性が相対的に低くとも良いデータ通信とは、地図データの送受信に係る通信や、プローブデータを地図サーバ4Bにアップロードするための通信、ソフトウェアの更新プログラムの送受信などである。また、車両に搭載されているオーディオ機器が、クラウドサーバから音楽データを取得して再生する構成においては、音楽データをダウンロードするための通信もまた、車両制御用のデータ通信よりも緊急性が低いデータ通信といえる。ただし、音楽データや動画データなどのマルチメディアに係るデータ通信であっても、音楽や動画の再生が途中で止まってしまうと、ユーザの利便性を損なわれうる。故に、マルチメディアに係るデータ通信は、プローブデータや地図データの送受信のための通信よりは即時性が要求されるデータ通信に相当する。
【0069】
ところで、上記の実施例は1つの側面として、最も遅延特性設定値が小さいAPNには、車両制御用のデータを取り扱う1つの車載装置だけを割り当てる構成に相当する。車両制御用のデータを取り扱う車載装置とは、例えば、自動運転装置6Aである。このような構成は、車両が利用可能な複数のAPNのうちの1つまたは複数を車両制御用のデータ通信専用のAPNとして運用する構成に相当する。このような構成によれば、車両制御用のデータ通信の遅延時間をより一層低減可能となる。また、車両制御用の通信回線がマルチメディア系の通信回線とは独立しているため、車両制御用のデータ通信に遅延が生じる恐れを抑制可能となる。
【0070】
その他、特許文献1では4つのパラメータを組み合わせてスコア化することによって、車両が外部装置と通信するためのメディアを選択する。つまり、特許文献1に開示の構成では、スコア算出にかかる演算負荷がプロセッサにかかる。これに対し、本開示の構成によれば遅延特性設定値に応じて車載装置6毎の無線通信経路が設定される。そのため本開示の構成によれば、特許文献1に開示の構成に比べて演算負荷を抑制できるといった効果も期待できる。また、車載装置6の遅延要求に応じた通信経路を割り当て可能となる。そして、車載装置6毎の遅延要求に応じた通信経路を割り当てることにより、複数の車載装置6を含むシステム全体として、各車載装置6の許容範囲を超える遅延時間の合計値を抑制することができる。換言すれば、システム全体としての通信効率の最適化を図ることができる。
【0071】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0072】
上述した経路選択部F35は、各車載装置6から通知される遅延許容値をそのまま比較することで、APN及び通信経路を割り当てる態様を開示したが、これに限らない。経路選択部F35は、所定の状況下では特定の車載装置6の遅延許容値として、当該車載装置6より通知されている遅延許容値から所定のオフセット値を加算又は減算した値を用いて、APNの割当を行うように構成されていても良い。それに伴い、通信制御部F3は、図6に示すように、車載装置6から取得した遅延許容値に対してオフセットをかける許容量補正部F36を備えていても良い。車載装置6から取得した遅延許容値に対してオフセットをかけることは、車載装置6から取得した遅延許容値を補正することに相当する。
【0073】
例えば許容量補正部F36は、図7に示すように、車載装置6としての運転支援装置に対して、-40ミリ秒のオフセット値が設定されている場合、150から40を減算してなる110を運転支援装置の遅延許容値として経路選択部F35に通知する。経路選択部F35は、運転支援装置の遅延許容値として、許容量補正部F36で補正された値である補正済み許容値を用いて通信経路の割当処理を実施する。具体的には、補正済み許容値を他の車載装置6の遅延許容値と比較して、相対的に値が小さいものから優先的に遅延特性設定値が小さいAPNを割り当てる。補正済み許容値が補正済み許容量に相当する。
【0074】
遅延許容量に対する車載装置6毎のオフセット値は、各車載装置6が許容するパケット誤り率や、帯域保証に関するリソースタイプなどに基づいて決定されることが好ましい。許容するパケット誤り率が大きいほど、実質的な通信速度が遅くともよいことを意味する。逆にパケット誤り率が小さいほど、高い通信速度を要求していることを意味する。そのため、許容するパケット誤り率が小さい車載装置6に対しては、より遅延特性設定値が小さいAPNに割り当てられるように、オフセットとしての減算量は大きく設定する。また、帯域保証を要求している車載装置6は、実質的に高い通信速度を要求している車載装置6に相当する。そのため帯域保証を要求している車載装置6には、より遅延特性設定値が小さいAPNに割り当てられるように、より減算量が大きいオフセット値を設定する。パケット誤り率や帯域保証に関するリソースタイプに応じたオフセット量は、予め用意されたマップやテーブルに基づいて決定されれば良い。
【0075】
上記の構成によれば、遅延許容量だけでなく、許容されるパケット誤り率なども考慮して通信経路が設定されるため、各車載装置6の通信経路を、用途等に応じた、より適正な組み合わせにすることができる。また遅延許容値が同レベルの車載装置6が複数存在し、且つ、それらの実効的な通信速度にAPNの違いに由来する偏りが生じている場合に、当該偏りを低減可能となる。ここでの同レベルとは完全同一に限定されない。例えば遅延許容値が同レベルの車載装置6とは、遅延許容値の差が例えば50ミリ秒以内となっている車載装置6を含めることができる。
【0076】
なお、遅延許容量に対するオフセット値は、無線通信サービス毎の実際のパケット誤り率の観測値や、dT超過率に基づいて決定されても良い。例えば、パケット誤り率の観測値が所定の閾値以上となっているAPNが割り当てられている車載装置6に対しては、所定のオフセット値を遅延許容値から減算した値を、通信経路を設定するための遅延許容値としてもよい。車載装置6が通知してくる遅延許容値を、実際の通信状況を鑑みて補正することにより、車載装置6が要求するリアルタイム性を実現可能な通信経路へと割当状態を変更可能となる。
【0077】
例えば、遅延度評価部F31が算出しているパケット誤り率の観測値が運転支援装置の要求遅延を充足できていない場合には、許容量補正部F36が運転支援装置の許容遅延量にオフセットをかける。その結果として、他の車載装置6との遅延許容値の大小関係や優先順位が変動した場合には、運転支援装置のAPNが変更されうる。例えば、図8に示すように運転支援装置の遅延許容値に対してパケット誤り率に応じたオフセットをかけることにより、運転支援装置に割り当てるAPNを、現行のAPN_2から、例えばAPN_1など、相対的に遅延特性設定値が小さいAPNへ変更されうる。なお、図8に示すAPN_3は、無線通信装置5が利用可能な第3のAPNであって、例えば遅延特性設定値がAPN_2の遅延特性設定値よりも大きいAPNである。
【0078】
以上ではパケット誤り率を用いて遅延許容量を補正して運用する場合について述べたが、dT超過率を用いても同様に実施できる。当該構成によれば、実際の通信速度に対応するように、各車載装置6の通信経路を割り当てることが可能となる。
【0079】
また、通信制御部F3は図9に示すように、遅延度評価部F31が算出するAPN毎のdT超過率に基づいて、APN毎の遅延特性設定値を補正する遅延特性補正部F37を備えていても良い。例えば遅延特性補正部F37は、dT超過率が所定の閾値よりも大きいAPNの遅延特性設定値に対してオフセットをかける。なお、ネットワーク側装置から通知された遅延特性設定値にオフセットをかけることは、ネットワーク側装置から通知された遅延特性設定値を補正することに相当する。つまり、当該構成は、遅延度評価部F31の評価結果に基づいてネットワーク側装置から通知された遅延特性設定値に補正をかける構成に相当する。オフセットをかけるためのdT超過率に対する閾値は、20%や40%などとすることができる。
【0080】
また、閾値は複数あって、dT超過率が大きいほど加算するオフセットを大きくしても良い。例えば図10に示すようにAPN_2のdT超過率が25%であって所定の第1閾値としての20%を超過している場合にはオフセットとして30を加算する。また、APN_4のdT超過率が50%であって所定の第2閾値としての40%を超過している場合にはオフセットとして100を加算する。このような構成は、APNの通信速度を、実際に観測されるdT超過率に応じて、ネットワーク側装置から取得した遅延特性設定値に基づいて推定される速度よりも遅くみなす構成に相当する。
【0081】
上記構成における経路選択部F35は、各APNの遅延特性設定値として、遅延特性補正部F37で補正された値である補正済み遅延特性値を用いて通信経路の割当処理を実施する。具体的には、遅延許容値が小さい車載装置6に対して、補正済み遅延特性値が小さいAPNを優先的に割り当てる。ここでの補正済み遅延特性値には、補正量が0の遅延特性設定値も含まれる。当該構成によれば、無線通信装置5が想定するAPN毎の通信速度を、実際の通信速度に応じた値に近づけることができる。そのため、より適正に車載装置6毎のAPNの割り当てが可能となる。その結果、遅延時間に関する要求を満たせない通信が生じる恐れをより一層低減できる。
【0082】
さらに、或るAPNのdT超過率が所定の閾値よりも大きい場合、当該APNが割り当てられている一部又は全部の車載装置6に対して、他のAPNを割り当てるように構成されていてもよい。このような構成は、遅延度評価部F31が評価した遅延度合いが所定の閾値以上となっている無線通信サービスが割り当てられている車載装置6に対して、他の無線通信サービスを割り当てる構成に相当する。当該構成によれば、dT超過率が所定値よりも大きい無線通信サービスを利用する車載装置6の数が低減され、遅延時間に関する要求を満たせない通信が生じる恐れをより一層低減できる。
【0083】
ところで、或る車載装置6に割り当てるAPNを変更する際には、瞬間的に通信が中断され得る。APNを変更すると、車載装置6から外部装置4まで、その新たなAPNを用いた通信経路の探索及び設定が行われるためである。通信経路の再設定は、コアネットワーク3(主としてMME)が無線通信装置と制御信号をやり取りすることで実現される。具体的には、経路選択に伴い、データ通信に適用されるIPアドレスやポート番号が変わるため、ネットワーク側と無線通信装置5とでIPアドレス等の通信設定の整合を取るための制御信号をやりとりする。そのような課題に着眼すると、緊急性の高いデータ通信が実施されている間、又は、車両が走行している間は、自動運転装置6Aなどの車両制御装置に対するAPNの割当を変更する処理である経路変更処理の実施は保留とすることが好ましい。換言すれば、経路変更処理は、緊急性の高いデータの通信が完了したタイミングや、車両が停止していることなどを条件に実施することが好ましい。例えば、自動運転装置6Aに対する経路変更処理は、自動運転装置6Aと自動運転管理センタ4Aとのデータ通信が行われていないタイミングで実施されてもよい。当該構成によれば、緊急性が高いデータ通信を実施中に、当該通信が一時停止する恐れを低減できる。なお、自動運転装置6Aに対する経路変更処理は、例えば自動運転装置6Aに割り当てているAPNのdT超過率やパケット誤り率が所定の閾値以上である場合など、所定の経路変更条件が充足していることに基づいて実施されれば良い。
【0084】
また、dT超過率が所定の設定変更閾値以上となっていることを示すUL-PDCP遅延報告をコアネットワーク3に送信すると、コアネットワーク3は、当該報告に基づいて、コアネットワーク3内のデータ経路を変更する可能性がある。そして、コアネットワーク3内の経路設定が変更される際には、上述の通り、ルーティングテーブルの再設定が完了するまでの間、データ通信が一時的に通信が中断される可能性がある。そこで、自動運転装置6Aに割り当てているAPNについてのUL-PDCP遅延報告の送信は、自動運転装置6Aと自動運転管理センタ4Aとのデータ通信が行われていないこと、または、車両が停止していることなどを条件に実施してもよい。当該構成によっても緊急性が高いデータ通信を中断される恐れを低減できる。
【0085】
<その他の変形例>
以上では、データの通信経路を、車載装置6単位で制御するものとするがこれに限らない。無線通信装置5は、アプリ単位で通信経路が切り替えるように構成されていても良い。また、例えば図11に示すよう1つの車載装置6が複数のアプリを実行する場合には、1つの車載装置6に対して、各アプリに対応する複数のAPNを割り当てても良い。車載装置6毎、アプリごとにAPNは設定されても良い。図11に示す装置A~Cは、例えば、順番に、自動運転装置6A、ナビゲーション装置6B、プローブ装置6Cとすることができる。アプリA-1は、例えば、走行支援情報を取得して制御計画を作成するアプリとすることができる。また、アプリA-2は、例えば、車両にローカル保存されている自動運転装置6Aの作動状態を示すデータを、自動運転管理センタ4Aにアップロードするアプリとすることができる。アプリB-1は例えばナビゲーションアプリであり、アプリC-1は、プローブデータを生成して地図サーバ4Bにアップロードするアプリとすることができる。
【0086】
なお、ここでのアプリとはアプリケーションソフトウェアを指す。1つのAPNに対して複数のアプリが割り当てられていても良い。本開示における車載装置6毎との記載はアプリ毎と読み替えて実施することができる。また、車載装置6毎に無線通信サービスを割り当てるという技術思想には、アプリ毎に無線通信サービスを割り当てる構成も含まれる。
【0087】
以上では一例として、各車載装置の遅延要求を、遅延許容値のように数値が低いほど、即時性を要求しないことを表すパラメータを用いて表現するが、これに限らない。遅延要求は、数値が大きいほど高い即時性を要求することを表すパラメータを用いて表現されても良い。遅延要求は、即時性の要求度合いを示す即時性レベルで表現されてもよい。即時性レベルが高いほど、短い遅延時間を要求していることを示す。
【0088】
また、無線通信装置5は、自動運転装置用のAPNとして、無線通信装置5が利用可能な何れのAPNを選択しても、自動運転装置6Aが要求する通信速度が得られない場合には、所定のエラー信号を自動運転装置6Aに出力してもよい。エラー信号は、要求された通信速度、換言すれば通信のリアルタイム性が担保できないことを示す信号とすることができる。当該構成によれば、自動運転装置6Aは、無線通信装置5からのエラー信号を受信したことに基づいて、例えば車両の走行速度を落としたり、運転席乗員に権限移譲したりするなど、安全のための車両制御を実行しても良い。
【0089】
また、無線通信装置5は、自動運転装置6Aと外部装置4としての自動運転管理センタ4Aとの通信状況を示す通信速度報告信号を、自動運転装置6Aに逐次出力してもよい。通信速度報告信号は、例えば遅延時間の平均値や、パケット誤り率、遅延特性設定値、dT超過率など、通信の遅延度合いを直接的または間接的に示す信号とすることができる。ここでの通信速度は、上り通信の速度だけであっても良いし、下り通信の速度だけであってもよい。当該構成によれば、自動運転装置6Aは、無線通信装置5からの通速度信号に基づいて、車両の挙動(換言すればシステム応答)を変更可能となる。例えば自動運転装置6Aは、外部装置4との通信速度が遅いことに基づいて、車両の走行速度を落としたり、運転席乗員に権限移譲したりするなど、安全のための車両制御を実行しても良い。
【0090】
さらに、無線通信装置5は、通信状況を示すデータを通信ログとして、例えば図示しない記録装置に保存するように構成されていても良い。当該構成によれば自動運転時の通信状況を記録することができる。また通信エラーが生じたことを示すデータを残すことが可能となる。それらのデータは例えば自動運転中の事故が生じた場合の原因解析に利用可能である。自動運転時の外部装置との通信状況をログとして残すことで、事故が生じた際の原因を解析しやすくなる。
【0091】
以上で述べた無線通信装置5は、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)として、自動運転管理センタ4Aとの通信遅延時間が所定の閾値未満であることが規定されている車両で使用される構成として好適である。上記の無線通信装置5によれば、自動運転に係るデータ通信が、所定の許容時間を逸脱する恐れを低減できる。また、上記の無線通信装置5は1つの態様として、自動運転管理センタ4Aとの通信の遅延度合いを示す情報を逐次、自動運転装置6Aに通知する。そのため、自動運転装置6Aは、無線通信装置5から通知される通信状況に応じてシステム応答を変更可能となる。その結果、通信遅延の観点からODDが充足されていないにも関わらず、自動運転が継続されるおそれを低減可能となる。なお、ODDは、自動運転を実行可能な条件あるいは環境を規定するものである。
【0092】
<付言>
本開示に記載の装置、並びにそれの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。つまり、無線通信装置5等が提供する手段および機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供できる。例えば無線通信装置5が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。無線通信装置5は、CPUの代わりに、MPUやGPU、DFP(Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。無線通信装置5は、CPUや、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合せて実現されていてもよい。無線通信装置5は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)として実現されていても良い。さらに、各種処理部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を用いて実現されていても良い。各種プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、SDカード等、多様な記憶媒体を採用可能である。
【符号の説明】
【0093】
100 移動体通信システム、1 車載通信システム、2 無線基地局(ネットワーク側装置)、3 コアネットワーク(無線通信ネットワーク)、4 外部装置、4A 自動運転管理センタ、4B 地図サーバ、5 無線通信装置、51 処理部(プロセッサ)、6 車載装置、6A 自動運転装置(車両制御装置)、6B ナビゲーション装置、6C プローブ装置、31 MME(ネットワーク側装置)、32 S-GW(ネットワーク側装置)、33 P-GW(ネットワーク側装置)、34 PCRF(ネットワーク側装置)、F1 多重分離部、F2 速度指標取得部(遅延特性取得部)、F3 通信制御部、F4 無線通信部、F31 遅延度評価部、F32 報告処理部、F33 通信要求取得部(遅延許容量取得部)、F34 QCI設定部(品質クラス設定部)、F35 経路選択部、F36 許容量補正部、F37 遅延特性補正部、S3 遅延特性取得ステップ、S5 遅延許容量取得ステップ、S6 通信経路選択ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11