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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/20 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
F16H15/20 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020160956
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054008
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 大輔
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】実公昭41-022492(JP,Y1)
【文献】特開2015-110986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から回転動力が入力される入力軸に取付けられた入力部材と、
前記入力部材から入力された回転動力を、出力軸に伝達する出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とが接触する円錐面を有し、円錐台形状に形成された遊星コーンと、
前記遊星コーンが軸線方向に移動し、かつ、回転自在となるように前記遊星コーンを支持する支持軸とを有し、
前記遊星コーンの円錐面と前記入力部材の接触位置、および前記遊星コーンの円錐面と前記出力部材の接触位置を変更することにより、前記入力軸の回転動力を、前記遊星コーンを介して前記出力軸に無段階で変速する無段変速機であって、
前記遊星コーンは、前記入力部材が接触する入力側遊星コーン円錐面を有する入力側遊星コーンと、前記入力側遊星コーンと別体に設けられ、前記出力部材が接触する出力側遊星コーン円錐面を有する出力側遊星コーンと、前記入力側遊星コーンと前記出力側遊星コーンとを連結して前記入力側遊星コーンから前記出力側遊星コーンに動力を伝達するボールカム機構とを有し、
前記入力軸と同軸上に設けられ、前記入力軸側から前記出力側遊星コーン円錐面に接触する出力側環状部材と、
前記入力軸と同軸上に設けられ、前記入力軸と反対側から前記入力側遊星コーン円錐面に接触する入力側環状部材とを有し、
前記入力部材と前記出力部材は、前記入力軸の軸線方向で前記入力側環状部材と前記出力側環状部材の間に設置されており、
前記遊星コーンは、前記入力部材から前記入力側遊星コーンに入力される入力トルクに応じ、前記入力側遊星コーンと前記出力側遊星コーンが前記支持軸の軸方向に離れる方向あるいは近づく方向に移動することを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記ボールカム機構は、
前記入力側遊星コーンの下底に形成された入力側カム溝と、
前記出力側遊星コーンの下底に形成された出力側カム溝と、
前記入力側カム溝と前記出力側カム溝に収容された球体とを有し、
前記入力側カム溝と前記出力側カム溝は、前記支持軸の軸心を中心として円周方向に延びており、
前記入力側カム溝と前記出力側カム溝は、円周方向で深さが異なることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記入力側遊星コーンと前記出力側遊星コーンは、同一の外径形状に形成され、前記入力側カム溝と前記出力側カム溝が同一形状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記入力側カム溝は、前記入力側遊星コーンの円周上に等間隔で複数個形成されており、
前記出力側カム溝は、前記出力側遊星コーンの円周上に等間隔で複数個形成されており、
前記球体は、前記複数の入力側カム溝と前記複数の出力側カム溝に設置されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源の動力を無段階で変速する無段変速機として、特許文献1に記載されるものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載される無段変速機は、無段変速機の中心軸上に設けられた入力軸と、入力軸に設けられたコーンと、出力軸に取付けられた環状部材と、入力軸のコーンに圧接する一方円錐面と、出力軸の環状部材に圧接する他方円錐面とを有し、支持軸に回転自在に取付けられた一対(2つ)のダブルコーンとを備えている。
【0004】
従来の無段変速機は、ダブルコーンの一方円錐面とコーンの圧接力(法線力)と、ダブルコーンの他方円錐面と環状部材の圧接力を適切に設定し、入力軸からダブルコーンを介して出力軸に動力を伝達する必要がある。
【0005】
これら圧接力を適切に確保するためには、ダブルコーンを支持する支持軸の傾斜角度やダブルコーンの形状等の製造上のバラツキや、バラツキによるコーンとダブルコーンとのガタ、および環状部材とダブルコーンとのガタを抑える必要がある。
【0006】
従来の無段変速機においては、入力軸と出力軸を軸線方向に互いに引っ張る方向に付勢することにより、コーンとダブルコーンとのガタや環状部材とダブルコーンとのガタを吸収して圧接力を発生させている。これにより、構造は簡略化できるが、加圧機構が一定の圧接力を発生させるように働くので、入力トルクや変速比によっては圧接力が過剰になる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第2501135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の無段変速機にあっては、個々のダブルコーンにガタを吸収する機構が設けられていない。このため、一対のダブルコーンと支持軸を、出力軸に対してガタを吸収可能な位置に限定して設置することしかできず、ダブルコーンの設置の自由度が低下する。
【0009】
また、従来の無段変速機にあっては、入力軸と出力軸を軸線方向に互いに引っ張る方向に付勢することにより、一対のダブルコーンの圧接面のガタを吸収することしかできないので、無段変速機を自動車に適用する場合には、無段変速機によって伝達できる動力に限界がある。
【0010】
仮に、無段変速機によって伝達できる動力を大きくするには、コーンとダブルコーンの圧接面および環状部材とダブルコーンの圧接面の圧接力を増大することや無段変速機を大型化する必要がある。
【0011】
したがって、高トルクを伝達できる小型の無段変速機を構成するには、複数の支持軸を設定し、過度な精度を必要とせずに、それぞれのダブルコーンが適切な圧接力となるように設置する必要がある。
【0012】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、遊星コーンの設置の自由度を向上させつつ、遊星コーンと入力部材の接触面と、遊星コーンと出力部材の接触面とに最適な接触面圧を発生させることができる無段変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、駆動源から回転動力が入力される入力軸に取付けられた入力部材と、前記入力部材から入力された回転動力を、出力軸に伝達する出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とが接触する円錐面を有し、円錐台形状に形成された遊星コーンと、前記遊星コーンが軸線方向に移動し、かつ、回転自在となるように前記遊星コーンを支持する支持軸とを有し、前記遊星コーンの円錐面と前記入力部材の接触位置、および前記遊星コーンの円錐面と前記出力部材の接触位置を変更することにより、前記入力軸の回転動力を、前記遊星コーンを介して前記出力軸に無段階で変速する無段変速機であって、前記遊星コーンは、前記入力部材が接触する入力側遊星コーン円錐面を有する入力側遊星コーンと、前記入力側遊星コーンと別体に設けられ、前記出力部材が接触する出力側遊星コーン円錐面を有する出力側遊星コーンと、前記入力側遊星コーンと前記出力側遊星コーンとを連結して前記入力側遊星コーンから前記出力側遊星コーンに動力を伝達するボールカム機構とを有し、前記入力軸と同軸上に設けられ、前記入力軸側から前記出力側遊星コーン円錐面に接触する出力側環状部材と、前記入力軸と同軸上に設けられ、前記入力軸と反対側から前記入力側遊星コーン円錐面に接触する入力側環状部材とを有し、前記入力部材と前記出力部材は、前記入力軸の軸線方向で前記入力側環状部材と前記出力側環状部材の間に設置されており、前記遊星コーンは、前記入力部材から前記入力側遊星コーンに入力される入力トルクに応じ、前記入力側遊星コーンと前記出力側遊星コーンが前記支持軸の軸方向に離れる方向あるいは近づく方向に移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように上記の本発明によれば、遊星コーンの設置の自由度を向上させつつ、遊星コーンと入力部材の接触面と、遊星コーンと出力部材の接触面とに最適な接触面圧を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施例に係る無段変速機の入力軸の軸心を含む縦断面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る無段変速機の遊星コーンの外観図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る無段変速機の入力側遊星コーンと出力側遊星コーンのカム溝を示す底面図である。
図4図4は、本発明の一実施例に係る無段変速機の入力側遊星コーンと出力側遊星コーンのトルクカム作用を説明する図3のIV-IVで切断した場合の遊星コーンの断面図である。
図5図5は、本発明の一実施例に係る無段変速機の入力側負荷用コーンと出力側負荷用コーンの外観図である。
図6図6は、本発明の一実施例に係る無段変速機の支持軸の大径側端部の断面図である。
図7図7は、本発明の一実施例に係る無段変速機の遊星コーンがキャリアの可動範囲で最も右側に位置する減速状態を示す図である。
図8図8は、本発明の一実施例に係る無段変速機の遊星コーンがキャリアの可動範囲で最も左側に位置する増速状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施の形態に係る無段変速機は、駆動源から回転動力が入力される入力軸に取付けられた入力部材と、入力部材から入力された回転動力を、出力軸に伝達する出力部材と、入力部材と出力部材とが接触する円錐面を有し、円錐台形状に形成された遊星コーンと、遊星コーンが軸線方向に移動し、かつ、回転自在となるように遊星コーンを支持する支持軸とを有し、遊星コーンの円錐面と入力部材の接触位置、および遊星コーンの円錐面と出力部材の接触位置を変更することにより、入力軸の回転動力を、遊星コーンを介して出力軸に無段階で変速する無段変速機であって、遊星コーンは、入力部材が接触する入力側遊星コーンと、入力側遊星コーンと別体に設けられ、出力部材が接触する出力側遊星コーンと、入力側遊星コーンと出力側遊星コーンとを連結して入力側遊星コーンから出力側遊星コーンに動力を伝達するボールカム機構とを有し、遊星コーンは、入力部材から入力側遊星コーンに入力される入力トルクに応じ、入力側遊星コーンと出力側遊星コーンが支持軸の軸方向に離れる方向あるいは近づく方向に移動する。
【0017】
これにより、本発明の一実施の形態に係る無段変速機は、遊星コーンの設置の自由度を向上させつつ、遊星コーンと入力部材の接触面と、遊星コーンと出力部材の接触面とに最適な接触面圧を発生させることができる。
【実施例
【0018】
以下、本発明の一実施例に係る無段変速機について、図面を用いて説明する。
図1から図8は、本発明の一実施例に係る無段変速機を示す図である。
【0019】
説明の便宜上、説明で使用する方向(上下左右)は図1図7図8に示す方向とする。また、図1の右側を小径側、図1の左側を大径側と記述する場合がある。
【0020】
まず、構成を説明する。
図1において、無段変速機1は、車両に搭載されており、内燃機関やモータ等の駆動源10の回転動力を無段階に変速して図示しない駆動輪に伝達する。
【0021】
無段変速機1は、入力軸2と、出力軸3と、キャリア4と、複数の遊星コーン5とを備えている。
【0022】
入力軸2は、左右方向に延びており、入力軸2の左端は、玉軸受11Aを介して図示しない変速機ケースに回転自在に支持されている。入力軸2の右端は、玉軸受11Cを介して図示しない変速機ケースに回転自在に支持されている。
【0023】
玉軸受11Aと玉軸受11Cの間であって、入力軸2の長手方向の中央部にはサンローラ2Aが設けられている。サンローラ2Aは、入力軸2と同軸の円盤状の形状を有し、入力軸2から突出するように大径に形成されている。
【0024】
本実施例のサンローラ2Aは、入力部材を構成する。なお、左右方向に延びる入力軸2に沿う軸線2rは入力軸2の回転中心軸であり、入力軸2は軸線2rを中心に回動する。軸線2rの方向を軸線方向という。
【0025】
出力軸3は、入力軸2の軸線2rと同軸上に設けられ、筒状に構成されて入力軸2の右端部が挿入される軸部3Aと、軸部3Aの左端から径方向の外方に広がる拡径部3Bとを備えており、軸部3Aと拡径部3Bは、1つの部材から構成されている。
【0026】
出力軸3は、さらに、拡径部3Bの径方向の外周縁から左方に延び、左方に行くほど入力軸2から離れる方向に拡径し、入力軸2と同軸上に設けられた筒状のバリエータケース部3Cを有している。また、バリエータケース部3Cの左端となる大径側端部にはリングローラ6が取付けられている。本実施例のリングローラ6は、出力部材を構成する。
【0027】
バリエータケース部3Cは、軸部3Aおよび拡径部3Bと別部材で構成されており、右端となる小径側端部が拡径部3Bに連結されている。すなわち、出力軸3に関し、軸部3Aおよび拡径部3Bとバリエータケース部3Cとは、分割構造となっている。これにより、出力軸3の製造作業の作業性を向上でき、出力軸3の生産性を向上できる。
【0028】
入力軸2の右部、すなわち、入力軸2のサンローラ2Aと玉軸受11Cの間には、玉軸受11Bが取付けられている。そして、玉軸受11Bの外輪は出力軸3の拡径部3Bの軸受保持部に嵌め込まれており、玉軸受11Bを介して拡径部3Bが入力軸2に回転自在に支持されて、入力軸2と出力軸3は相対回転自在となっている。
【0029】
入力軸2は、軸部3Aの内部を貫通し、右端が軸部3Aの開口端から右方に突出している。そして、軸部3Aの開口端から突出した入力軸2の右端は玉軸受11Cを介して変速機ケースに回転自在に支持されている。すなわち入力軸2は、左右の端部が玉軸受11A、11Cによって変速機ケースに回転自在に支持されている。
【0030】
出力軸3の軸部3Aの内径と入力軸2の外径の間にはスペーサ18Aが設けられている。スペーサ18の左端は玉軸受11Bの内輪の右側面に当接しており、スペーサ18Aの右端は玉軸受11Cの内輪の左側面に当接している。
【0031】
なお、スペーサ18Aは、すべり軸受(ブッシュ)の機能を有していてもよい。そうすることで、軸部3Aの内径と入力軸2の外径が当接したときでも、滑らかに軸部3Aと入力軸2の相対回転を維持することができる。
【0032】
玉軸受11Bの左側面は、出力軸3の拡径部3Bに固定されたサークリップ18Bと入力軸2の段部2aに当接している。玉軸受11Bの右側面は、スペーサ18Aの左端面と拡径部3Bに当接している。スペーサ18Aの右端面は玉軸受11Cの左側面に当接しており、玉軸受11Cの右側面は入力軸2に固定されたサークリップ18Cに当接している。
【0033】
これにより、玉軸受11B、11Cは、スペーサ18Aによって入力軸2の軸線方向に位置決めされている。これに加えて、入力軸2に対して軸線方向に位置決めされた玉軸受11Bを介して、出力軸3が入力軸2の軸線方向に位置決めされる。
【0034】
玉軸受11Aの左側面は、入力軸2に固定されたサークリップ18Dに当接しており、玉軸受11Aの右側面は、入力軸2の段部2bに当接している。これにより、玉軸受11Aは、入力軸2の軸線方向に位置決めされている。
【0035】
玉軸受11Aの外輪と玉軸受11Cの外輪は変速機ケースに取付けられており、入力軸2は玉軸受11A、11Cによって変速機ケースに回転自在に保持されている。
【0036】
出力軸3の軸部3Aには図示しないファイナルドライブギヤが取付けられており、ファイナルドライブギヤは、図示しないディファレンシャル装置のファイナルドリブンギヤに噛み合っている。
【0037】
ディファレンシャル装置は、図示しない左右のドライブ軸を介して左右の駆動輪に連結されている。ディファレンシャル装置は、出力軸3から伝達される駆動源10の回転動力を左右のドライブ軸を介して左右の駆動輪に分配する。
【0038】
キャリア4は、入力軸2の軸線2rと同軸上に設けられ、後述する遊星コーンユニット28を保持する部材である。キャリア4は、サンローラ2Aを挟んで入力軸2の軸線方向に対向する大径キャリア12と、大径キャリア12よりも径方向の寸法が小さい小径キャリア13とを有する。
【0039】
つまり、キャリア4は、軸線方向(入力軸2の軸線2rの方向)でサンローラ2Aよりも左側に配置された大径キャリア12と、軸線方向でサンローラ2Aよりも右側に配置された小径キャリア13とを有する。大径キャリア12と小径キャリア13は、別体で構成されている。
【0040】
大径キャリア12は、小径円筒部12A、円板部12Bおよび大径円筒部12Cを有する。小径円筒部12Aは入力軸2の軸線2rと同軸上に設けられ、小径円筒部12Aには入力軸2のサンローラ2Aよりも左側の軸部分が挿通されている。
【0041】
小径円筒部12Aの内径と入力軸2の外径の間にはニードルローラ軸受11Dが配置され、小径円筒部12Aは、ニードルローラ軸受11Dを介して入力軸2に回転自在に支持されている。
【0042】
円板部12Bは、小径円筒部12Aの右端から径方向外方に延びている。大径円筒部12Cは、円板部12Bの径方向の外端から左方に延び、円板部12Bの外端から左方に行くほど入力軸2から離れる方向に拡径している。大径キャリア12の大径円筒部12Cには後述する軸受保持部12aが設けられている。
【0043】
大径キャリア12は以上の様な構成となっており、ニードルローラ軸受11Dを介することで、大径キャリア12は、入力軸2に回転自在で、且つ、入力軸2に沿って移動可能に、入力軸2に支持されている。
【0044】
小径キャリア13は、小径円筒部13A、円板部13Bおよび大径円筒部13Cを有する。小径円筒部13Aは入力軸2の軸線2rと同軸上に設けられ、小径円筒部13Aには入力軸2のサンローラ2Aよりも右側の軸部分が挿通されている。
【0045】
小径円筒部13Aの内径と入力軸2の外径の間にはニードルローラ軸受11Eが配置され、小径円筒部13Aは、ニードルローラ軸受11Eを介して入力軸2に回転自在に支持されている。
【0046】
円板部13Bは、小径円筒部13Aから径方向外方に延びている。大径円筒部13Cは、円板部13Bの径方向の外端から左方に延び、円板部13Bの外端から左方に行くほど入力軸2から離れる方向に拡径している。
【0047】
大径キャリア12は、変速機ケースに対して回転不能で、かつ入力軸2の軸線方向に移動自在となるように設置されている。小径キャリア13は、入力軸2に対して回転自在で、かつ入力軸2の軸線方向に移動自在となるように設置されている。
【0048】
入力軸2は、ニードルローラ軸受11D、11Eを介して大径キャリア12および小径キャリア13を回転自在に支持している。
【0049】
遊星コーン5は、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15とを有し、支持軸16を介して大径キャリア12に支持されている。このため、遊星コーン5は、図示しない移動機構によって大径キャリア12が入力軸2の軸線方向に移動されるのに伴い、大径キャリア12、支持軸16および小径キャリア13と共に入力軸2の軸線方向に移動する。
【0050】
支持軸16は、大径キャリア12側に位置する大径キャリア側端部16Aと、小径キャリア13側に位置する小径キャリア側端部16Bとを有し、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15とを貫通している。
【0051】
大径キャリア12の大径円筒部12Cには環状の軸受保持部12aが複数(支持軸16と同数)設けられている。そして、軸受保持部12aは、その中心孔に嵌め込まれた自動調心玉軸受17を保持している。
【0052】
自動調心玉軸受17は、軸受保持部12aに嵌合される外輪17aと、球体17bを介して外輪17aに回転自在に連結される内輪17cとを有する。
【0053】
軸受保持部12aと外輪17aは隙間を有する嵌合とされており、自動調心玉軸受17は軸受保持部12aの軸方向に相対的に移動可能に保持されている。本実施例の自動調心玉軸受17は、自動調心軸受を構成し、球体17bは、転動体を構成する。
【0054】
軸受保持部12aは外輪17aが嵌合される中空円筒状に形成され、その中心軸が左方に行くほど入力軸2から離れる方向に傾いている。図6に示すように、大径円筒部12Cの軸受保持部12aにはストッパ片12sが形成されている。
【0055】
詳細には、軸受保持部12aの右端部には中空円筒状の内径側に突出するようにストッパ片12sが形成されている。外輪17aの出力側遊星コーン15側の右面はストッパ片12sに当接している。
【0056】
図6に示すように、大径円筒部12Cの軸受保持部12aの左端部にはサークリップ用溝が形成されており、サークリップ18Eが取付けられている。サークリップ18Eは、出力側遊星コーン15と反対側となる外輪17aの左面に当接している。
【0057】
ストッパ片12sとサークリップ18Eにより、外輪17aは、軸受保持部12aの中心軸の方向の位置が規制されて、軸受保持部12aに保持されている。つまり、外輪17aは、ストッパ片12sとサークリップ18Eの間の範囲で移動可能となるように、軸受保持部12aの中心軸の方向に隙間を有して軸受保持部12aに保持されている。
【0058】
また、外輪17aが嵌合される軸受保持部12aの孔は、外輪17aの外径に対して大きな内径で形成されている。このため、外輪17aと軸受保持部12aの孔は中心軸の垂直方向に隙間を有して軸受保持部12aに保持されて、軸受保持部12aの内径内で移動可能となっている。
【0059】
このように、軸受保持部12aに対して自動調心玉軸受17は移動可能に保持されているので、後述する遊星コーンユニット28は、出力側サポートリング22、リングローラ6、サンローラ2A、入力側サポートリング23との当接によって、力がバランスした位置に移動することができる。
【0060】
つまり、遊星コーンユニット28は、出力側サポートリング22から外向き(入力軸2から離れる方向)に力を受け、リングローラ6から内向き(入力軸2に近づく方向)に力を受け、サンローラ2Aから外向き(入力軸2から離れる方向)に力を受け、入力側サポートリング23から内向き(入力軸2に近づく方向)に力を受け、それらの力がバランスした位置に位置している。
【0061】
支持軸16の大径キャリア側端部16Aには出力側負荷用コーン24が設けられており、支持軸16は、出力側負荷用コーン24を貫通している。出力側負荷用コーン24の左側に形成された円筒部24Aの外周面には自動調心玉軸受17の内輪17cが嵌合されており、支持軸16の大径キャリア側端部16Aは、出力側負荷用コーン24および自動調心玉軸受17を介して大径キャリア12に支持されている。
【0062】
自動調心玉軸受17は、外輪17aの軌道面が球面であり、曲率中心が自動調心玉軸受17の中心点、すなわち、支持軸16の軸線16rが通る中心点と一致している。このため、自動調心玉軸受17は、球体17bおよび内輪17cが自動調心玉軸受17の中心周りを自由に回転できる調心性を有する。
【0063】
これにより、支持軸16の大径キャリア側端部16Aは、自動調心玉軸受17の中心点で支持軸16が揺動可能となるように自動調心玉軸受17を介して大径キャリア12に支持されている。
【0064】
支持軸16の軸線16rは、支持軸16の回転中心軸であり、支持軸16の軸線16rの方向を軸線方向という。つまり、単に「軸線方向」と記述する場合は、支持軸16の軸線16rを意図するものとする。
【0065】
図1に示すように、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15には貫通孔14a、15aが形成されており、貫通孔14a、15aは、支持軸16の軸線16r、すなわち、遊星コーン5の軸線5r上を貫通している。なお、遊星コーン5の軸線5rは、遊星コーン5の回転中心軸であり、支持軸16の回転中心軸と同一軸である。
【0066】
支持軸16は、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の貫通孔14a、15aに挿通されており、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15を回転自在で、かつ、軸線方向に移動自在に支持している。
【0067】
図2に示すように、入力側遊星コーン14は、円錐台形状に形成されており、下底14bと、上底14cと、下底14bの外周円と上底14cの外周円とを結ぶ頂角α1の円錐面14dとを有する。
【0068】
出力側遊星コーン15は、円錐台形状に形成されており、下底15bと、上底15cと、下底15bの外周円と上底15cの外周円とを結ぶ頂角α1の円錐面15dとを有する。入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一の外径形状に形成されている。
【0069】
すなわち、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、下底14bと下底15bの直径が同一、上底14cと上底15cの直径が同一、円錐面14dと円錐面15dの頂角α1が同一となっている。
【0070】
遊星コーン5は、それぞれ円錐台形状に形成された入力側遊星コーン14の下底14bと出力側遊星コーン15の下底15bが対向するようにして支持軸16に取付けられることにより、全体で双円錐台状の形状に形成されている。
【0071】
支持軸16は、軸線16rが入力軸2の軸線2rに対して傾斜するように入力軸2の軸線2rに対して傾斜して設置されている。具体的には、支持軸16の軸線16rは、その中心軸が左方に行くほど入力軸2から離れるように、入力軸2の軸線2rに対して傾斜して設置されている。
【0072】
図1に示すように、遊星コーン5は、入力軸2の径方向外方において入力軸2を取り囲むように複数個設けられている。遊星コーン5は、入力軸2の軸線2rを含む平面上に支持軸16が複数存在しないので、設置の自由度が向上される。
【0073】
入力側遊星コーン14の円錐面14dにはサンローラ2Aが接触しており、出力側遊星コーン15の円錐面15dにはリングローラ6が接触している。本実施例の入力側遊星コーン14の円錐面14dは、入力側遊星コーン円錐面を構成し、出力側遊星コーン15の円錐面15dは、出力側遊星コーン円錐面を構成する。
【0074】
支持軸16の軸線16rと入力軸2の軸線2rは一点(C1)で交わっており、支持軸16の軸線16rと入力軸2の軸線2rのなす角度は、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の頂角α1の半分となっている。
【0075】
入力側遊星コーン14は、入力軸2の軸線2rと平行に延びてサンローラ2Aと常時接触する円錐面(母線)を構成するように設置されている。サンローラ2Aと常時接触する円錐面14dを円錐接触面14eという。
【0076】
出力側遊星コーン15は、入力軸2の軸線2rと平行に延びてリングローラ6と常時接触する円錐面(母線)を構成するように設置されている。リングローラ6と常時接触する円錐面15dを円錐接触面15eという。
【0077】
すなわち、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、円錐接触面14e、15eが入力軸2の軸線2rと平行となるような姿勢を保持しながら入力軸2の軸線方向に移動し、円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触を維持するとともに、円錐接触面15eとリングローラ6の接触を維持する。
【0078】
遊星コーン5は、油圧式、電動式または機械式等の図示しない移動機構によってキャリア4と支持軸16と共に入力軸2の軸線方向に移動される。
【0079】
具体的には、移動機構の作用により、大径キャリア12が入力軸2の軸線方向に移動されると、大径キャリア12に自動調心玉軸受17を介して支持される支持軸16が大径キャリア12と共に移動し、支持軸16に支持されている遊星コーン5が支持軸16と共に移動する。このとき、小径キャリア13は、遊星コーン5の移動に付随して移動する。
【0080】
このように、無段変速機1は、遊星コーン5が移動手段によって入力軸2の軸線方向に移動するときに、円錐接触面14e、15eが入力軸2の軸線2rと平行となるよう入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の姿勢が保持される。
【0081】
図2図3図4に示すように、入力側遊星コーン14の下底14bには入力側カム溝14fが形成されている。入力側カム溝14fは、支持軸16の軸心(軸線16r)を中心として円周方向に延びており、下底14bの円周上に等間隔で複数個(少なくとも3つ)形成されている。
【0082】
出力側遊星コーン15の下底15bには出力側カム溝15fが形成されている。出力側カム溝15fは、支持軸16の軸心(軸線16r)を中心として円周方向に延びており、下底15bの円周上に等間隔で複数個(少なくとも3つ)形成されている。
【0083】
入力側カム溝14fと出力側カム溝15fは、それぞれ円周方向で深さが変化するように形成されている。具体的には、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fは、円周方向の中央が深く、円周方向の中央から円周方向の両端に行くに従って漸次浅くなる形状に形成されている。入力側カム溝14fと出力側カム溝15fは、下底14bと下底15bを合わせた時に対向する位置に形成されており、その形状は同一である。
【0084】
これに加えて、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一の外径形状に形成されているので、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一形状に形成されている。つまり、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一形状であって互換性があり、生産性が向上されている。
【0085】
換言すれば、遊星コーン5は、入力側遊星コーン14を出力側遊星コーン15の位置に入れ替え、出力側遊星コーン15を入力側遊星コーン14の位置に入れ替えても同一形状の遊星コーン5を構成できる。
【0086】
入力側カム溝14fと出力側カム溝15fには球体20が設置されており、球体20は、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fに沿って円周方向に転動自在である。本実施例の入力側カム溝14f、出力側カム溝15fおよび球体20は、ボールカム機構21を構成する。
【0087】
入力側遊星コーン14は、球体20を介して出力側遊星コーン15に動力を伝達するようになっている。球体20は、例えば、鋼球から構成されているが、鋼球に限定されるものではない。
【0088】
遊星コーン5は、サンローラ2Aから入力側遊星コーン14に入力される動力に応じ、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15がねじれる、すなわち、相対回転することにより、球体20が入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの内部を移動(転動)する。
【0089】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15がねじれて球体20が入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの内部を移動(転動)するとボールカム機構21が作用する。
【0090】
つまり、球体20が移動すると、球体20が当接する入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの下底の位置が変わり、深さの異なる場所に球体20が位置することになるので、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fからの球体20の突出量が変化して、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸線方向に離れる方向あるいは近づく方向に移動する。
【0091】
すなわち、球体20が位置する入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの下底の深さが深い場合には、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸線方向に近づき球体20を介して一体的に回転する。
【0092】
一方、球体20が位置する入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの下底の深さが浅い場合には、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸線方向に離れて球体20を介して一体的に回転する。
【0093】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、ボールカム機構21による相対的な動き(ねじれ)を除いて支持軸16の軸線16rを中心に一体的に回転する。
【0094】
なお、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸方向で最も離れた状態でも、球体20が入力側カム溝14fおよび出力側カム溝15fから抜け出ない。換言すれば、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、球体20の直径よりも小さい距離の範囲で支持軸16の軸方向に移動する。
【0095】
また、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の両端は、球体20に当接してそれ以上の入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の捩じれ(相対的な回転角度)を規制するストッパとしての機能を有する。
【0096】
図1に示すように、大径キャリア12の大径円筒部12Cの周囲には入力軸2と同軸上に環状の出力側サポートリング22が設けられている。出力側サポートリング22は、大径円筒部12Cに回転自在に遊嵌されている。
【0097】
出力側サポートリング22は、全ての支持軸16の大径キャリア側端部16Aに囲まれるように径方向の内方に配置され、かつ、大径キャリア12を径方向の外方から取り囲むように設置されている。
【0098】
小径キャリア13の大径円筒部13Cには入力軸2と同軸上に環状の入力側サポートリング23が設けられている。
【0099】
入力側サポートリング23は、全ての支持軸16の小径キャリア側端部16Bを径方向の外方から取り囲み、かつ大径円筒部13Cの径方向の内方に設置されている。
【0100】
すなわち、出力側サポートリング22は、入力軸2側から出力側遊星コーン15の円錐面15dに接触し、入力側サポートリング23は、入力軸2と反対側から入力側遊星コーン14の円錐面14dに接触している。
【0101】
本実施例のサンローラ2Aとリングローラ6は、入力軸2の軸線方向で入力側サポートリング23と出力側サポートリング22の間に設置されている。詳細には、入力軸2の軸線方向で、出力側サポートリング22、リングローラ6、サンローラ2A、入力側サポートリング23の順に配置されている。
【0102】
本実施例の出力側サポートリング22は、環状部材および出力側環状部材を構成し、入力側サポートリング23は、環状部材および入力側環状部材を構成する。出力側負荷用コーン24および入力側負荷用コーン25は、負荷用コーンを構成する。
【0103】
図1図6に示すように、支持軸16の大径キャリア側端部16Aには出力側負荷用コーン24が設けられている。図5に示すように、出力側負荷用コーン24は、円筒部24Aと、円筒部24Aと一体に形成され、円錐台形状に形成された出力側負荷用コーン部24Bとを有する。
【0104】
出力側負荷用コーン24には貫通孔24aが形成されており、貫通孔24aは、支持軸16の軸線16rに沿って形成されて支持軸16が挿入配置される。すなわち、支持軸16は、出力側負荷用コーン24の軸線24r上を貫通している。
【0105】
図1図5に示すように、出力側負荷用コーン部24Bは、円錐台形状に形成されており、下底24bと、上底24cと、下底24bの外周円と上底24cの外周円を結ぶ頂角α2の円錐面24dとを有する。
【0106】
出力側負荷用コーン24は、上底24c側が出力側遊星コーン15の上底15c側と支持軸16の軸線方向で対向するように支持軸16に設置されている。
【0107】
すなわち、出力側遊星コーン15と出力側負荷用コーン24は、円錐面15dと円錐面24dが逆向きの傾斜面(テーパ面)となるように支持軸16に設置されている。
【0108】
円筒部24Aの外周面には自動調心玉軸受17の内輪17cが嵌合されている。円筒部24Aと内輪17cの嵌合は隙間を有しており、円筒部24Aに対して内輪17cは軸方向に移動可能に嵌合している。通常は、後述するダイヤフラムスプリング26によって付勢され、内輪17cの出力側遊星コーン15側の右面は、出力側負荷用コーン部24Bの下底24bに当接している。
【0109】
出力側サポートリング22は、支持軸16の軸線方向で出力側負荷用コーン24と出力側遊星コーン15の間に設置されており、出力側遊星コーン15の円錐面15dと出力側負荷用コーン24の円錐面24dに接触している。
【0110】
図1に示すように、出力側サポートリング22に接触する出力側負荷用コーン24の円錐面24dの下底24bと上底24cとを結んだ仮想直線L1、すなわち、円錐面24dに沿った仮想直線L1を設定する。
【0111】
この場合に、出力側負荷用コーン24は、出力側遊星コーン15に対向する上底24cに対し、下底24bが出力側遊星コーン15から支持軸16の軸線方向に離れるに従って支持軸16から径方向に離れるように仮想直線L1が傾斜する頂角α2を有する。
【0112】
そして、図1に示すように、出力側負荷用コーン24と出力側サポートリング22との接触箇所を通過する仮想直線L1は、上底24c側から下底24b側となるに従って、入力軸2に近づくように傾斜している。
【0113】
一方、出力側サポートリング22に接触する出力側遊星コーン15の円錐面15dの下底15bと上底15cとを結んだ仮想直線L2、すなわち、円錐面15dに沿った仮想直線L2を設定する。
【0114】
この場合に、出力側遊星コーン15は、出力側負荷用コーン24に対向する上底15cに対し、下底15bが出力側負荷用コーン24から支持軸16の軸線方向に離れるに従って支持軸16から径方向に離れるように仮想直線L2が傾斜する頂角α1を有する。
【0115】
そして、図1に示すように、出力側負荷用コーン24と出力側遊星コーン15との接触箇所を通過する仮想直線L2は、上底15c側から下底15b側となるに従って、入力軸2に近づくように傾斜している。
【0116】
つまり、出力側サポートリング22は支持軸16や出力側負荷用コーン24よりも入力軸2側に配置されており、出力側サポートリング22は複数の出力側サポートリング22および複数の支持軸16に囲まれている。
【0117】
そして、出力側サポートリング22は、出力側遊星コーン15の円錐面15dと出力側負荷用コーン24の円錐面24dに当接し、あたかも楔のように出力側遊星コーン15と出力側負荷用コーン24を引き離すように入り込んでいる。
【0118】
あたかも楔のように出力側遊星コーン15と出力側負荷用コーン24の間に入り込んでいるので、出力側遊星コーン15と出力側負荷用コーン24の間から出力側サポートリング22は脱出することはできない。
【0119】
支持軸16の小径キャリア側端部16Bには入力側負荷用コーン25が設けられている。図1図5に示すように、入力側負荷用コーン25は、円筒部25Aと、円筒部25Aと一体に形成され、円錐台形状に形成された入力側負荷用コーン部25Bとを有する。
【0120】
入力側負荷用コーン25には貫通孔25aが形成されており、貫通孔25aは、支持軸16の軸線16rに沿って形成されて支持軸16が挿入配置される。すなわち、支持軸16は、入力側負荷用コーン25の軸線25r上を貫通している。
【0121】
図5に示すように、入力側負荷用コーン部25Bは、円錐台形状に形成されており、下底25bと、上底25cと、下底25bと上底25cの外周円を結ぶ頂角α3の円錐面25dとを有する。
【0122】
図1に示すように、入力側負荷用コーン25は、上底25c側が入力側遊星コーン14の上底14c側と支持軸16の軸線方向で対向するように支持軸16に設置されている。
【0123】
すなわち、入力側遊星コーン14と入力側負荷用コーン25は、円錐面15dと円錐面25dが逆向きの傾斜面(テーパ面)となるように支持軸16に設置されている。
【0124】
支持軸16の小径キャリア側端部16Bには頭部16bが設けられている。頭部16bは、入力側負荷用コーン25の貫通孔25aの直径よりも大径に形成されており、円筒部25Aの端面(右側端面)と同じ直径を有する円板状に形成されている。頭部16bは、円筒部25Aの端面(右側端面)に当接している。これにより、入力側負荷用コーン25が支持軸16から抜け出ることを防止できる。
【0125】
入力側サポートリング23は、支持軸16の軸線方向で入力側負荷用コーン25と入力側遊星コーン14の間に設置されており、入力側遊星コーン14の円錐面14dと入力側負荷用コーン25の円錐面25dに接触している。
【0126】
図1に示すように、入力側サポートリング23に接触する入力側負荷用コーン25の円錐面の下底25bと上底25cとを結んだ仮想直線L3、すなわち、円錐面25dに沿った仮想直線L3を設定する。
【0127】
この場合に、入力側負荷用コーン25は、入力側遊星コーン14に対向する上底25cに対し、下底25bが入力側遊星コーン14から支持軸16の軸線方向に離れるに従って支持軸16から径方向に離れるように仮想直線L3が傾斜する頂角α3を有する。
【0128】
そして、図1に示すように、入力側負荷用コーン25と入力側サポートリング23との接触箇所を通過する仮想直線L3は、上底25c側から下底25b側となるに従って、入力軸2から遠ざかるように傾斜している。
【0129】
一方、入力側サポートリング23に接触する入力側遊星コーン14の円錐面14dの下底14bと上底14cとを結んだ仮想直線L4、すなわち、円錐面14dに沿った仮想直線L4を設定する。
【0130】
この場合に、入力側遊星コーン14は、入力側負荷用コーン25に対向する上底14cに対し、下底14bが入力側負荷用コーン25から支持軸16の軸線方向に離れるに従って支持軸16から径方向に離れるように仮想直線L4が傾斜する頂角α1を有する。
【0131】
そして、図1に示すように、入力側負荷用コーン25と入力側遊星コーン14との接触箇所を通過する仮想直線L4は、上底14c側から下底14b側となるに従って、入力軸2から遠ざかるように傾斜している。
【0132】
つまり、入力側サポートリング23は支持軸16や入力側負荷用コーン25よりも入力軸2から遠い位置に配置されており、入力側サポートリング23は複数の入力側負荷用コーン25および複数の支持軸16を取り囲むように配置されている。
【0133】
そして、入力側サポートリング23は、入力側遊星コーン14の円錐面14dと入力側負荷用コーン25の円錐面25dに当接し、あたかも楔のように入力側遊星コーン14と入力側負荷用コーン25を引き離すように入り込んでいる。
【0134】
あたかも楔のように入力側遊星コーン14と入力側負荷用コーン25の間に入り込んでいるので、入力側遊星コーン14と入力側負荷用コーン25の間から入力側サポートリング23は脱出することはできない。
【0135】
本実施例の出力側負荷用コーン24の円錐面24dは、出力側負荷用コーン円錐面を構成し、入力側負荷用コーン25の円錐面25dは、入力側負荷用コーン円錐面を構成する。
【0136】
このように、出力側サポートリング22が出力側遊星コーン15の円錐面15dと出力側負荷用コーン24の円錐面24dの2点に接触し、入力側サポートリング23が入力側遊星コーン14の円錐面14dと入力側負荷用コーン25の円錐面25dの2点に接触することにより、支持軸16の角度や位置の調整が可能となって、遊星コーン5の角度や位置を調整することができる。
【0137】
なお、遊星コーン5の姿勢は、これ以外にもリングローラ6やサンローラ2Aとの接触面圧とのバランスが関係しており、相互のバランスによって保持される。
【0138】
すなわち、入力側サポートリング23が入力側遊星コーン14の上底14c側を入力軸2側(内側)に押圧することにより、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cに接触面圧(法線力)を発生させる。
【0139】
また、出力側サポートリング22が出力側遊星コーン15の上底15c側を出力軸3側(外側)に押圧することにより、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6bに接触面圧(法線力)を発生させる。
【0140】
図1図6に示すように、支持軸16の大径キャリア側端部16Aにはダイヤフラムスプリング26が設けられており、ダイヤフラムスプリング26は、支持軸16の軸線方向で自動調心玉軸受17に対して出力側遊星コーン15と反対側に設置されている。
【0141】
ダイヤフラムスプリング26は、半径方向の内方から外方に向かって放射状に延びる複数のスリットを有する皿ばねであり、その中心には支持軸16の大径キャリア側端部16Aが貫通配置される。
【0142】
ダイヤフラムスプリング26は、支持軸16の方向に弾性変形可能であって、同様のバネ定数を有するコイルスプリングに比べて支持軸16の軸線方向の寸法を短くできる。本実施例のダイヤフラムスプリング26は、弾性部材を構成する。
【0143】
図6に示すように、支持軸16の大径キャリア側端部16Aの軸線方向の端部にはワッシャ27が設けられている。支持軸16の大径キャリア側端部16Aの軸線方向の端部にはサークリップ用の溝が形成されており、サークリップ18Gが嵌合されている。
【0144】
サークリップ18Gは、ワッシャ27に対して自動調心玉軸受17と反対側に設けられている。ワッシャ27は、ダイヤフラムスプリング26とサークリップ18Gの間に配置され、サークリップ18Gに当接することにより、支持軸16の軸線方向に位置決め(抜け止め)されている。
【0145】
支持軸16の軸線方向でワッシャ27と出力側負荷用コーン24の間にはサークリップ18Fが設けられており、サークリップ18Fは、支持軸16に形成されたサークリップ用の溝に嵌合されている。
【0146】
出力側負荷用コーン24の円筒部24Aは、サークリップ18Fに当接している。これにより、出力側負荷用コーン24は、サークリップ18Fによりワッシャ27側に移動することが規制されている。
【0147】
ダイヤフラムスプリング26は、ワッシャ27と自動調心玉軸受17の内輪17cの間に圧縮された状態で設置されている。
【0148】
つまり、ダイヤフラムスプリング26は、内輪17cと小径キャリア側端部16Bの距離を縮めるように付勢している。言い換えると、ダイヤフラムスプリング26は、支持軸16に対して出力側負荷用コーン24と入力側負荷用コーン25が遊星コーン5に近づく方向に付勢している。
【0149】
具体的には、図1に示すように、出力側負荷用コーン24と出力側遊星コーン15の間には支持軸16の軸線方向の隙間が形成されている。
【0150】
ダイヤフラムスプリング26は、自動調心玉軸受17の内輪17cを介して出力側負荷用コーン24を出力側遊星コーン15側に付勢(押圧)する。これにより、出力側負荷用コーン24は、出力側遊星コーン15に近づく方向に付勢され、支持軸16の軸方向で出力側負荷用コーン24の円錐面24dと出力側遊星コーン15の円錐接触面15eを近づけることができる。
【0151】
また、入力側負荷用コーン25と入力側遊星コーン14の間には支持軸16の軸線方向の隙間が形成されている。
【0152】
ダイヤフラムスプリング26は、ワッシャ27と自動調心玉軸受17の内輪17cの間に圧縮された状態で設置されているので、ダイヤフラムスプリング26の復元力によってワッシャ27が出力側遊星コーン15から離れるように付勢される。
【0153】
支持軸16の小径キャリア側端部16Bには頭部16bが設けられているので、ワッシャ27が出力側遊星コーン15から離れるように付勢され、ワッシャ27を介して支持軸16の頭部16bが入力側負荷用コーン25を入力側遊星コーン14側に付勢(押圧)する。
【0154】
これにより、入力側負荷用コーン25は、入力側遊星コーン14に近づく方向に付勢され、支持軸16の軸方向で入力側負荷用コーン25の円錐面25dと入力側遊星コーン14の円錐接触面14eを近づけることができる。
【0155】
本実施例の無段変速機1は、ダイヤフラムスプリング26の付勢力によって、入力側負荷用コーン25が支持軸16の軸線方向で入力側遊星コーン14に近づくように付勢されているので、入力側負荷用コーン25の円錐面25dと入力側遊星コーン14の円錐面14dが支持軸16の軸線方向で近づき、入力側負荷用コーン25と入力側遊星コーン14の間に位置する入力側サポートリング23を押し出そうとする力が発生する。
【0156】
ところが、入力側サポートリング23は剛性を有するので、変形せずに入力側サポートリング23からの反力により入力側遊星コーン14は入力軸2側に近づくように押し返される。これにより、入力側負荷用コーン25と入力側遊星コーン14の上底14c側が入力軸2に近づく。この結果、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cに作用する接触面圧を増大させることができる。
【0157】
また、本実施例の無段変速機1は、ダイヤフラムスプリング26の付勢力により出力側負荷用コーン24が支持軸16の軸線方向で出力側遊星コーン15に近づくように付勢されているので、出力側負荷用コーン24の円錐面24dと出力側遊星コーン15の円錐面15dが支持軸16の軸線方向で近づき、出力側負荷用コーン24と出力側遊星コーン15の間に位置する出力側サポートリング22を押し出そうとする力が発生する。
【0158】
ところが、出力側サポートリング22は剛性を有するので変形せず、出力側サポートリング22からの反力により、出力側遊星コーン15は入力軸2と反対側(すなわち、リングローラ6側)に押し返される。
【0159】
これにより、出力側負荷用コーン24と出力側遊星コーン15の上底15c側が入力軸2から径方向外方に離れる。この結果、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aに作用する接触面圧を増大させることができる。
【0160】
なお、これらの接触面圧の増大を調整するには、ばね定数の異なる複数のダイヤフラムスプリング26を用意して適宜選択使用することで付勢力を調整することができる。
【0161】
一方、ダイヤフラムスプリング26は、図示しない付勢力調整手段によって付勢力が調整可能となっていてもよい。具体的な付勢力調整手段としては、板厚が異なる複数のワッシャ27を用意し、適宜選択使用してワッシャ27の板厚を調整することでダイヤフラムスプリング26の付勢力を調整することができる。
【0162】
また、サークリップ18Gをナットに替えてナットの締め込み量を調整することで、ダイヤフラムスプリング26の付勢力を調整することができる。
【0163】
付勢力調整手段によってダイヤフラムスプリング26の付勢力が増大されると、出力側負荷用コーン24と入力側負荷用コーン25とを遊星コーン5に近づけるための付勢力が増大される。
【0164】
付勢力調整手段によってダイヤフラムスプリング26の付勢力が低減されると、出力側負荷用コーン24と入力側負荷用コーン25とを遊星コーン5に近づけるための付勢力が低減される。
【0165】
このように、本実施例の無段変速機1は、出力側負荷用コーン24の円錐面24dと出力側遊星コーン15の距離と、入力側負荷用コーン25の円錐面25dと入力側遊星コーン14の円錐接触面14eの距離とを調整可能となるように、出力側負荷用コーン24と入力側負荷用コーン25とが支持軸16の軸線方向に移動自在となっている。
【0166】
つまり、付勢力調整手段によってダイヤフラムスプリング26の付勢力が増大されると、出力側負荷用コーン24が支持軸16の軸線方向で出力側遊星コーン15に近づき、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aの接触面圧が増大される。
【0167】
これに加えて、入力側負荷用コーン25が支持軸16の軸線方向で入力側遊星コーン14に近づき、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cの接触面圧が増大される。
【0168】
一方、付勢力調整手段によってダイヤフラムスプリング26の付勢力が低減されると、出力側負荷用コーン24が支持軸16の軸線方向で出力側遊星コーン15から離れ、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aの接触面圧が低減される。
【0169】
これに加えて、入力側負荷用コーン25が支持軸16の軸線方向で入力側遊星コーン14から離れ、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cの接触面圧が低減される。
【0170】
図1に示すように、遊星コーン5、支持軸16、出力側負荷用コーン24および入力側負荷用コーン25は、一体化されて遊星コーンユニット28を構成している。
【0171】
つまり、本実施例の無段変速機1は、複数の遊星コーンユニット28が、入力軸2の径方向外方において入力軸2の周囲に設置されている。本実施例の遊星コーンユニット28は、例えば、7個設置されている。
【0172】
なお、遊星コーンユニット28の設置数は、少なくとも3つ以上であればよい。また、入力軸2の軸線を含む面に対称となる遊星コーンユニット28の配置は、高度な寸法精度が必要となって自由度が制限されるため、この配置を避けることで生産性を向上させることができる。つまり、遊星コーンユニット28は、奇数個とした方が調整等が可能となり、自由度や生産性を向上させることができる。
【0173】
次に、作用を説明する。
駆動源10の回転動力は、無段変速機1の入力軸2に伝達され、入力軸2と一体のサンローラ2Aから入力側遊星コーン14に回転動力が伝達される。
【0174】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の間にはボールカム機構21が設けられているので、入力側遊星コーン14から球体20を介して出力側遊星コーン15に駆動源10の回転動力が伝達された後、出力側遊星コーン15からリングローラ6に回転動力が伝達される。
【0175】
すなわち、サンローラ2Aの回転によって遊星コーン5が支持軸16と共に回転し、遊星コーン5の回転動力がリングローラ6に伝達される。
【0176】
出力側遊星コーン15からリングローラ6に回転動力が伝達されると、出力軸3からファイナルドライブギヤを介してディファレンシャル装置のファイナルドリブンギヤに回転動力が伝達された後、ディファレンシャル装置から左右のドライブシャフトを介して左右の駆動輪に回転動力が伝達される。
【0177】
変速時にはサンローラ2Aの回転速度が入力側遊星コーン14に伝えられ、サンローラ2Aの半径寸法と入力側遊星コーン14における接触箇所の半径寸法との比率で遊星コーン5が変速された回転速度で回転する。
【0178】
遊星コーン5の回転速度は、リングローラ6に伝えられる。このとき、リングローラ6の半径寸法と遊星コーン5における接触箇所の半径寸法との比率でリングローラ6が変速された回転速度で回転する。
【0179】
例えば、キャリア4の移動によって遊星コーン5が出力軸3の軸部3Aに最も近づく位置(キャリア4の可動範囲で最も右側の位置)に移動された場合には、図7に示すように、サンローラ2Aが入力側遊星コーン14の下底14b側の最も大径の円錐接触面14eに接触する。このとき、リングローラ6は、出力側遊星コーン15の上底15c側の最も小径の円錐接触面15eに接触する。
【0180】
これにより、サンローラ2Aの回転速度が遊星コーン5によって減速されてリングローラ6に伝達される。
【0181】
一方、キャリア4の移動によって遊星コーン5が出力軸3の軸部3Aから最も離れた位置(キャリア4の可動範囲で最も左側の位置)に移動された場合には、図8に示すように、サンローラ2Aが入力側遊星コーン14の上底14c側の最も小径の円錐接触面14eに接触する。このとき、リングローラ6は、出力側遊星コーン15の下底15b側の最も大径の円錐接触面15eに接触する。
【0182】
これにより、サンローラ2Aの回転速度が遊星コーン5によって増速されてリングローラ6に伝達される。
【0183】
すなわち、無段変速機1は、キャリア4によって入力側遊星コーン14の円錐面14d(すなわち、円錐接触面14e)とサンローラ2Aの接触位置、および出力側遊星コーン15の円錐面15d(すなわち、円錐接触面15e)とリングローラ6の接触位置を変更することにより、入力軸2の回転速度(回転動力)を、遊星コーン5を介して出力軸3に無段階で変速可能となっている。
【0184】
なお、サンローラ2Aと入力側遊星コーン14の円錐面14dとの接触点、リングローラ6と出力側遊星コーン15の円錐面15dとの接触点には、図示しないトラクションオイルの油膜が形成される。
【0185】
これにより、サンローラ2Aから油膜を介して入力側遊星コーン14に動力が伝達され、リングローラ6から油膜を介して出力側遊星コーン15に動力が伝達される。
【0186】
また、入力側遊星コーン14は、入力軸2の軸線2rと平行に延び、サンローラ2Aと常時接触する円錐接触面14eを構成するように設置されている。そして、出力側遊星コーン15は、入力軸2の軸線2rと平行に延び、リングローラ6と常時接触する円錐接触面15eを構成するように設置されている。
【0187】
これにより、変速時に、サンローラ2Aとリングローラ6に対して遊星コーン5を円錐接触面14e、15eに沿って平行に移動させることができ、サンローラ2Aと円錐接触面14eの間、およびリングローラ6と円錐接触面15eの間に過度な摩擦力が発生することを抑制できる。このため、円滑な変速を行うことができる。
【0188】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一の外径形状と同一の溝形状を有する同一形状であるので、入力側遊星コーン14に入力されるトルクが小さい場合には、球体20が入力側遊星コーン14の入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の中央の最も深い位置に位置する(図4参照)。
【0189】
この場合、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、ねじれることなく一体的に回転する。この状態で、入力側遊星コーン14から球体20を介して出力側遊星コーン15にトルクが伝達される。
【0190】
この状態は軽負荷時であって、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cの接触面圧、および、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aに作用する接触面圧は、滑りを生じない程度の適度な面圧に調整されている。
【0191】
一方、入力側遊星コーン14に入力されるトルクが大きくなると(つまり、入力側遊星コーン14の回転に対して出力側遊星コーン15が回り難くなると)、出力側遊星コーン15が入力側遊星コーン14に対して遅れ始め、遊星コーン5全体ではねじれる。
【0192】
すなわち、出力側遊星コーン15が入力側遊星コーン14の回転に追従できずに、入力側遊星コーン14が出力側遊星コーン15に対して回転方向に相対的にズレる。
【0193】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の間は、球体20を介して動力が伝達されるが、この相対的なズレにより、球体20が入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの深い部分(円周方向の中央)から浅い部分(円周方向の一方側)に移動し、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸線方向に離れる。
【0194】
これは、球体20に対して入力側カム溝14fと出力側カム溝15fがカム斜面のように働くので、トルクカムのような斥力および移動が発生するためである。
【0195】
これにより、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15がそれぞれ入力側負荷用コーン25と出力側負荷用コーン24に接近する方向に移動し、各遊星コーン14、15の円錐面14d、15dと各負荷用コーン24、25の円錐面24d、25dとで各サポートリング22、23を押し出す方向の力が増大することになる。
【0196】
これらの力の反作用により、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cの接触面圧、および出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aの接触面圧は、遊星コーン5が伝達するトルク(入力荷重)に応じて増大する。
【0197】
なお、球体20を介して入力側遊星コーン14から出力側遊星コーン15に伝達される荷重が小さくなるのに伴って、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15を軸線方向に接近させる力が相対的に大きくなると、球体20が入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の中央の最も深い位置に戻る。
【0198】
これにより、球体20が入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの浅い部分から深い部分に移動し、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15のねじれが小さくなる。
【0199】
入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15のねじれが小さくなり、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15の支持軸16の軸線方向の長さが短くなると、ねじれが大きくなるときの上記作用と逆に作用し、各遊星コーン14、15の円錐面14d、15dと各負荷用コーン24、25の円錐面24d、25dの間の谷に各サポートリング22、23が入り込む。
【0200】
これにより、支持軸16が各サポートリング22、23に接近するように傾き、支持軸16がサンローラ2Aおよびリングローラ6から離れる方向に傾くように移動する。そして、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cの接触面圧、および出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aの接触面圧が減少する。
【0201】
なお、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fにおける溝の深さの変化の形状を単純な傾斜角度とするのでなく、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の中央部から円周方向の端部に行くほど傾きが大きくなるように傾斜を変化させるようにしてもよい。
【0202】
球体20は、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の中央部に位置しているので、入力側遊星コーン14が出力側遊星コーン15に対して上述した回転方向と反対側にねじれた場合に、球体20を入力側カム溝14fと出力側カム溝15fの円周方向の中央部から上述した方向と反対側に移動させ、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15とを支持軸16の軸線方向に離すことができる。
【0203】
次に、本実施例の無段変速機1の効果を説明する。
本実施例の無段変速機1は、サンローラ2Aが接触する円錐面14dを有し、円錐台形状に形成された入力側遊星コーン14と、リングローラ6が接触する円錐面15dを有し、円錐台形状に形成された出力側遊星コーン15とからなる遊星コーン5を有する。
【0204】
また、無段変速機1は、入力側遊星コーン14および出力側遊星コーン15が軸線方向に移動し、かつ、回転自在となるように入力側遊星コーン14および出力側遊星コーン15を支持する支持軸16を有する。
【0205】
これに加えて、遊星コーン5は、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15とを連結して入力側遊星コーン14から出力側遊星コーン15に動力を伝達するボールカム機構21を有し、サンローラ2Aから入力側遊星コーン14に入力されるトルクに応じ、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15が支持軸16の軸方向に離れる方向あるいは近づく方向に移動する。
【0206】
これにより、駆動源10から入力側遊星コーン14に入力されるトルクの大きさに応じて、入力側遊星コーン14の円錐面14dとサンローラ2Aの接触面2cに最適な接触面圧を発生させることができるとともに、出力側遊星コーン15の円錐面15dとリングローラ6の接触面6aに最適な接触面圧を発生させることができる。
【0207】
すなわち、駆動源10から入力側遊星コーン14に入力されるトルクが大きい場合には、入力側遊星コーン14の円錐面14dとサンローラ2Aの接触面2c、および出力側遊星コーン15の円錐面15dとリングローラ6の接触面6aに入力トルクに応じた大きい接触面圧を発生させることができる。
【0208】
このため、入力側遊星コーン14とサンローラ2Aがスリップすることや出力側遊星コーン15とリングローラ6がスリップすること等を防止でき、無段変速機1の動力伝達効率が悪化することを防止できる。
【0209】
また、駆動源10から入力側遊星コーン14に入力されるトルクが小さい場合には、入力側遊星コーン14の円錐面14dとサンローラ2Aの接触面2c、および出力側遊星コーン15の円錐面15dとリングローラ6の接触面6aに入力トルクに応じた小さい接触面圧を発生させることができる。
【0210】
このため、駆動源10から入力側遊星コーン14に入力されるトルクが小さい場合に、過度に高い接触面圧、すなわち、接触面圧の初期値を過度に高く設定することを不要にできる。
【0211】
このため、入力側遊星コーン14とサンローラ2A、および出力側遊星コーン15とリングローラ6が摩耗することを抑制でき、無段変速機1の寿命を長くできる。
【0212】
また、個々の遊星コーンユニット28にボールカム機構21を設けたので、他の遊星コーンユニット28に影響されずに、個々の遊星コーンユニット28において入力トルクに応じた最適な接触面圧を得ることができる。
【0213】
以上、本実施例の無段変速機1は、従来のように入力軸と出力軸を軸方向に互いに引っ張る方向に付勢する専用の装置を不要にして、遊星コーン5を支持する支持軸16の傾斜角度や遊星コーン5の形状等の製造上のバラツキや、バラツキによる入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cのガタや、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aのガタを個々の遊星コーン5で独立して吸収できる。
【0214】
この結果、遊星コーン5の設置の自由度、すなわち、遊星コーンユニット28の設置の自由を向上させつつ、入力側遊星コーン14の円錐接触面14eとサンローラ2Aの接触面2cに最適な接触面圧を発生させることができるとともに、出力側遊星コーン15の円錐接触面15eとリングローラ6の接触面6aに最適な接触面圧を発生させることができる。
【0215】
また、本実施例の無段変速機1は、過度な精度を必要とせずに、それぞれの遊星コーン5が適切な接触面圧となるように設置できるので、小型で高トルクを伝達可能な無段変速機1を構成でき、車両に搭載するのに好適である。
【0216】
また、本実施例の無段変速機1によれば、ボールカム機構21は、入力側遊星コーン14の下底14bに形成された入力側カム溝14fと、出力側遊星コーン15の下底15bに形成された出力側カム溝15fと、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fに収容された球体20とを有する。
【0217】
入力側カム溝14fと出力側カム溝15fは、支持軸16の軸心を中心として円周方向に延びており、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fは、円周方向で深さが異なる。
【0218】
これにより、入力側カム溝14f、出力側カム溝15fおよび球体20によってボールカム機構21を構成することにより、ボールカム機構21を簡素化できる。
【0219】
また、高速回転する入力側遊星コーン14から入力側カム溝14fと出力側カム溝15fに設置された球体20を介して出力側遊星コーン15に動力を確実に伝達することが可能となり、無段変速機1の信頼性を向上できる。
【0220】
また、本実施例の無段変速機1によれば、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15は、同一の外径形状に形成され、入力側カム溝14fと出力側カム溝15fが同一形状に形成されている。
【0221】
これにより、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15を同一形状に形成でき、遊星コーン5の素材や加工を共通化できる。このため、遊星コーン5の製造を容易に行うことができ、同一形状の遊星コーン5が適用される遊星コーンユニット28の生産性の向上と製造コストの低減を図ることができる。
【0222】
また、本実施例の無段変速機1によれば、入力側カム溝14fは、入力側遊星コーン14の円周上に等間隔で複数個形成されており、出力側カム溝15fは、出力側遊星コーン15の円周上に等間隔で複数個形成されている。
【0223】
これに加えて、球体20は、複数の入力側カム溝14fと複数の出力側カム溝15fに設置されている。
【0224】
これにより、高速回転する遊星コーン5に球体20を設置した場合に、球体20を、円周方向に短い入力側カム溝14fと出力側カム溝15fに沿って短い距離の範囲で移動させることができる。
【0225】
このため、球体20に加わる遠心力によって球体20が円周方向の長い距離に亙って移動することを防止でき、入力側遊星コーン14と出力側遊星コーン15とを入力トルクに応じて適切に相対回転させることができる。
【0226】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0227】
1...無段変速機、2...入力軸、2A...サンローラ(入力部材)、3...出力軸、5...遊星コーン、6...リングローラ(出力部材)、10...駆動源、14...入力側遊星コーン、14b...下底(入力側遊星コーンの下底)、14d...円錐面(遊星コーンの円錐面)、14f...入力側カム溝、15...出力側遊星コーン、15b...下底(出力側遊星コーンの下底)、15d...円錐面(遊星コーンの円錐面)、15f...出力側カム溝、20...球体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8