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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】磁性成形体およびインダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20241001BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241001BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
H01F17/04 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020166445
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057928
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】石田 啓一
(72)【発明者】
【氏名】宗内 敬太
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 信幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 義信
(72)【発明者】
【氏名】服部 善彦
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095988(JP,A)
【文献】特開2014-013803(JP,A)
【文献】特開2018-113436(JP,A)
【文献】特開2014-103265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 27/255
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピーク値を有する第1磁性粒子と、該第1磁性粒子よりも粒径が大きい第2ピーク値を有する第2磁性粒子と、樹脂を含んで成る磁性成形体であって、
前記第1ピーク値と前記第2ピーク値との間の最小ボトム値をDとしたときに、前記磁性成形体の横10×D、縦7.5×Dの複数の領域につき算出される無作為に抽出した10か所の以下の面積比率において、
面積比率=(前記第1磁性粒子の面積の総和)/(前記第2磁性粒子の面積の総和)
前記面積比率の標準偏差が0.40以下である、磁性成形体。
【請求項2】
前記標準偏差が、0.34以下である、請求項1に記載の磁性成形体。
【請求項3】
前記磁性成形体は、粒子頻度と粒径との相関を示す粒度分布において複数のピーク値のいずれかの間に粒子頻度が最小のボトム値を備えており、
前記第1磁性粒子の粒径は、前記ボトム値よりも小さい値であり、
前記第2磁性粒子の粒径は、前記ボトム値よりも大きい値である、請求項1または2に記載の磁性成形体。
【請求項4】
前記第1磁性粒子および前記第2磁性粒子は、金属磁性粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁性成形体。
【請求項5】
前記金属磁性粒子は、Fe,FeおよびNiを含む合金,FeおよびCoを含む合金,FeおよびSiを含む合金,Fe、SiおよびCrを含む合金,Fe、Si、BおよびCrを含む合金ならびにFe、P、Cr、Si、B、NbおよびCを含む合金から成る群から選択される少なくとも一種を含んで成る、請求項4に記載の磁性成形体。
【請求項6】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁性成形体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の磁性成形体が、コイル導体の巻き芯部に配置されたインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性成形体およびインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平均粒径が異なる2つの粒子群を配合させて得た粒度分布を有する金属粉末を用いて製造されたコア(磁性成形体)およびこのコアを用いて製造されたインダクタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-113436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、従前の磁性成形体では克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0005】
特許文献1に記載されたコアは、平均粒径が異なる粒子群同士を配合させたものであり、通常知られた手法によって粒子群同士を配合させると、平均粒径が大きな粒子および平均粒径が小さな粒子の分散性および流動性が低くなる。そのため、樹脂中において、平均粒径が大きな粒子同士の隙間に平均粒径が小さな粒子が十分に配置されず、平均粒径が大きな粒子および平均粒径が小さな粒子の配置に偏りが生じ、充填率が低くなり、透磁率を高めることが困難である。その結果、特許文献1に記載されたコアは、高透磁率を得ることができなかった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、高透磁率が得られる磁性成形体およびインダクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された発明に至った。
【0008】
本発明に係る磁性成形体は、
第1磁性粒子と、該第1磁性粒子よりも粒径が大きい第2磁性粒子と、樹脂を含んで成る磁性成形体であって、
磁性成形体の複数の領域につき算出される以下の面積比率において、
面積比率=(前記第1磁性粒子の面積の総和)/(前記第2磁性粒子の面積の総和)
面積比率の標準偏差が0.40以下である。
【0009】
本発明に係るインダクタは、上述の磁性成形体が、コイル導体の巻き芯部に配置されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る磁性成形体は、複数の領域につき算出される面積比率(第1磁性粒子の面積の総和)/(第2磁性粒子の面積の総和)において、面積比率の標準偏差が0.40以下であるため、高透磁率の磁性成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)および図1(b)は、本実施形態に係る磁性成形体の製造方法を模式的に示す工程図である。
図2図2は、本実施形態に係る磁性成形体を示す図であって、図2(a)は、斜視図、図2(b)は、平面図、図2(c)は、図2(a)のa-a’断面図である。
図3図3は、本実施形態に係る磁性成形体の断面SEM画像の模式図である。
図4図4は、磁性粒子の頻度と粒径との相関関係を示すグラフである。
図5図5は、断面SEM画像から面積比率を算出する手法を説明する説明図である。
図6図6は、本実施形態に係るインダクタの製造方法を模式的に示す工程斜視図である。
図7図7は、本実施形態に係るインダクタの斜視図である。
図8図8は、本実施形態に係るインダクタの正面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は、例示を目的とするものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[磁性成形体について]
本発明の実施形態に係る磁性成形体について説明する。なお、本明細書でいう「磁性成形体」とは、広義には、インダクタ等の磁場を発生させるデバイスにおいて、磁場を高めるために用いられるものであり、狭義には、インダクタにおけるコイル(導線)の被覆や、コイル(導線)のコアに用いられるものをいう。
【0014】
まず、磁性成形体の製造に用いられる原料について説明する。磁性成形体の製造に用いられる原料は、第1磁性原料粒子、第2磁性原料粒子、樹脂、溶剤および/または硬化剤を含んでよい。さらに、潤滑剤等の添加剤を含んでよい。
【0015】
第1磁性原料粒子としては、従来から用いられているFe系の金属磁性粒子を用いてよく、例えば、Fe(純鉄)またはFe合金としてよい。Fe合金の一例として、FeおよびNiを含む合金、FeおよびCoを含む合金、FeおよびSiを含む合金、Fe、SiおよびCrを含む合金、Fe、SiおよびAlを含む合金、Fe、Si、BおよびCrを含む合金ならびにFe、P、Cr、Si、B、NbおよびCを含む合金からなる群から選択される1以上の金属磁性材料の粒子であってよい。さらに、第1磁性原料粒子は、その表面が絶縁処理済みのものであってよい。例えば、第1磁性原料粒子は、その表面に絶縁性被膜を有してよい。絶縁性被膜は、例えば、無機ガラス被膜、有機-無機ハイブリッド被膜、および金属アルコキシドのゾルゲル反応により形成された無機系絶縁性被膜から成る群から選択される1以上の絶縁性被膜であってよい。
【0016】
第2磁性原料粒子としては、従来から用いられているFe系の金属磁性粒子を用いてよく、例えば、Fe(純鉄)またはFe合金としてよい。Fe合金の一例として、FeおよびNiを含む合金、FeおよびCoを含む合金、FeおよびSiを含む合金、Fe、SiおよびCrを含む合金、Fe、SiおよびAlを含む合金、Fe、Si、BおよびCrを含む合金ならびにFe、P、Cr、Si、B、NbおよびCを含む合金からなる群から選択される1以上の金属磁性材料の粒子であってよい。第2磁性原料粒子の組成は、第1磁性原料粒子の組成と同じであってもよいが、異なっていてもよい。さらに、第2磁性原料粒子は、その表面が絶縁処理済みのものであってよい。例えば、第2磁性原料粒子は、その表面に絶縁性被膜を有してよい。絶縁性被膜は、例えば、無機ガラス被膜、有機-無機ハイブリッド被膜、および金属アルコキシドのゾルゲル反応により形成された無機系絶縁性被膜から成る群から選択される1以上の絶縁性被膜であってよい。
【0017】
樹脂は、硬化反応に寄与する官能基を含有してよい。つまり、樹脂の硬化反応によって硬化されて磁性成形体の製造を可能としてよい。そのため、本明細書の「樹脂」には、完全に硬化された樹脂のみならず、硬化反応前の未硬化の状態のものを包含してよい。樹脂の一例として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂およびシリコーン樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。なかでも、樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、電気絶縁性および/または機械的強度の高い磁性成形体を得ることができる。別法として、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイドおよび/または液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂を用いてもよい。硬化反応は、熱によるものが好ましい。つまり、樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。一例として熱可塑性エポキシ樹脂が挙げられる。このような樹脂を用いれば、簡易な方法によって硬化反応を生じさせることができる。
【0018】
溶剤は、上記原料を混合してスラリーを得るために用いられ、有機溶剤であることが好ましい。例えば、トルエンまたはキシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、または、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、または、イソプロピルアルコール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、または、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類のいずれかを含んでよい。
【0019】
硬化剤は、樹脂を硬化させるために用いられるものであってよい。一例として、イミダゾール系硬化剤、アミン系硬化剤、または、グアニジン系硬化剤(例えば、ジシアンジアミド)のいずれかを含んでよい。
【0020】
潤滑剤は、第2磁性原料粒子および第1磁性原料粒子の潤滑性を向上させ、充填率を向上させるために用いられてよい。さらに、潤滑剤によって成形時に金型からの離形を容易するために用いられてよい。潤滑剤としては、例えば、ナノシリカ、硫酸バリウム、または、ステアリン酸化合物(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、または、ステアリン酸カリウム等)のいずれかを含んでよい。
【0021】
また、磁性成形体の製造方法に用いられる各原料の重量比は、第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子は、全体基準で94重量%以上98重量%以下、樹脂および硬化剤は、全体基準で1重量%以上5重量%以下、残りを潤滑剤および溶剤としてよい。第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子の割合は、第1磁性原料粒子の重量:第2磁性原料粒子の重量=10:90以上50:50以下であることが好ましい。樹脂と硬化剤の割合は、樹脂の重量:硬化剤の重量=95:5以上98:2以下であることが好ましい。
【0022】
-磁性成形体の製造方法-
次に、本発明の実施形態に係る磁性成形体の製造方法について図1および図2を参照しながら説明する。図1(a)および図1(b)は、本実施形態に係る磁性成形体の製造方法を模式的に示す工程図である。図2は、本実施形態に係る磁性成形体を示す図であって、図2(a)は、斜視図、図2(b)は、平面図、図2(c)は、図2(a)のa-a’断面図である。以下に説明する方法は一例に過ぎず、本実施形態に係る磁性成形体の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0023】
まず、粒径の小さい第1磁性原料粒子および粒径の大きい第2磁性原料粒子を準備する。ここで、第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子は、粒子表面に絶縁性被膜を形成してよい。絶縁性被膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、メカノケミカル法またはゾルゲル法により形成してよい。このうち、メカノケミカル法は低コストであり、大きい粒径を有する粒子に対して比較的厚みが厚い絶縁性被膜を形成するのに特に適した手法である。また、メカノケミカル法を用いて絶縁性被膜を形成する場合、絶縁性材料の添加量を制御することによって絶縁性被膜の厚みを制御することができる。一方、ゾルゲル法は、幅広い組成及びサイズの粒径に対して適用可能であり、厚みが比較的薄い絶縁性被膜を形成することができる。また、融点が比較的高い絶縁性被膜を形成することができる。ゾルゲル法を用いて絶縁性被膜を形成する場合、絶縁性被膜の厚みは、例えば、ゾルゲル反応の時間、金属アルコキシドおよび溶媒の添加量等を調整することによって制御できる。そして、準備した第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子のうち、第2磁性原料粒子を撹拌容器内に収容し容器内で撹拌する。
【0024】
次に、粒径の小さい第1磁性原料粒子、樹脂、溶剤および硬化剤を含む粒子原料を混合してスラリーを得る。そして、このスラリーを噴霧装置に収容する。噴霧装置の一例として、霧状に噴霧可能な装置が挙げられる。より具体的には、スプレー噴霧装置が挙げられる。なお、上記原料に潤滑剤が含まれていてもよい。つまり、潤滑剤は、原料において必須の構成ではない。噴霧装置に収容される粒子原料において、溶剤の重量比は、使用される材料全体(第1磁性原料粒子、第2磁性原料粒子、樹脂、硬化剤、溶剤および/または潤滑剤)の重量を基準として1.0重量%以上5.0重量%以下としてよい。
【0025】
次に、撹拌容器内で撹拌中の第2磁性原料粒子に対して、噴霧装置を用いて第1磁性原料粒子を含んで成る粒子原料を噴霧する。本明細書において「噴霧」とは、液体を霧状にして噴出することを意味する。上記噴霧は、30℃以上80℃以下の温度、大気雰囲気下もしくはN雰囲気 下で行われることが好ましい。このような温度下で第2磁性原料粒子に第1磁性原料粒子を噴霧することにより、原料中の溶剤が揮発されてもよい。このように、噴霧装置を用いて第2磁性原料粒子に第1磁性原料粒子を含む粒子原料を噴霧することによって、第2磁性原料粒子の周囲に第1磁性原料粒子が均等に分散する。したがって、磁性成形体を作製したときに、第1磁性原料粒子と第2磁性原料粒子が均等に配置され易く、第2磁性原料粒子同士の隙間に第1磁性原料粒子が充填されて空洞が発生しづらくなり、第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子の間の充填率を高めることができる。そして、第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子を含有する前駆体が撹拌容器内で撹拌されて均等に分散される。
【0026】
その後、溶剤が揮発された前駆体をふるい震盪機(メッシュサイズ:160μm以上300μm以下)で振盪させて粗粒を取り除くことで、磁性粉が得られる。ここで、本実施形態の磁性粉において、樹脂にほとんど硬化反応を生じさせていない。つまり、樹脂は、未硬化または半硬化の状態にある。なお、本明細書でいう「磁性粉」とは、「磁性成形体」を製造するために用いられる粒子状の材料を意味する。このようにして、第2磁性原料粒子の周囲に複数の第1磁性原料粒子が樹脂で接着された磁性粉が得られる。なお、本実施形態では第1磁性原料粒子と第2磁性原料粒子を含有する態様を説明したが、これらと組成および/または平均粒径などが異なる第3磁性原料粒子、第4磁性原料粒子等をさらに追加で用いてもよい。
【0027】
次に、製造された磁性粉100を金型Kに充填する(図1参照)。本実施形態では、金型Kは、断面視でE形状となるE型コアを製造するための金型について説明するが、金型は、これに限定されるものではなく、例えば、I型コア、T型コア、板状のコア、および、トロイダルリング形状のコアから成る群から選択される少なくとも一つを製造する金型であってよい。磁性粉100が充填された金型Kを加圧成形機に導入し(図1(a)参照)、20℃以上40℃以下,50MPa以上150MPa以下、30s以下の環境下で加圧してよい(図1(b)参照)。ここで、磁性粉100には、上述したとおり熱硬化性樹脂が含有されているが、加圧時の温度が20℃以上40℃以下と比較的低温であるため、硬化反応は進まず未硬化もしくは半硬化の状態であってもよい。そして、加圧を終えた後、金型から磁性成形体を取り出してよい。
【0028】
このように、本実施形態の磁性成形体10は、樹脂が未硬化もしくは半硬化の状態のまま保管してもよい。つまり、製品としてほぼ完全に硬化された磁性成形体の製造が必要となったときに、半硬化状態の磁性成形体10を金型Kとは異なる金型に充填し、ほぼ完全に硬化させる硬化条件として、150℃以上200℃以下、5MPa以上50MPa以下、60s以上1800s以下の環境下で樹脂を硬化させて磁性成形体を製造してよい(図2(a)~(c)参照)。なお、磁性成形体は、磁性粉を含むシートを成形し、複数のシートを積層、圧着および熱硬化させることで作製してもよい。
【0029】
-磁性成形体の解析手法-
次に、上述の製造方法によって製造された磁性成形体の解析手法について図3~5を参照しながら説明する。図3は、本実施形態に係る磁性成形体の断面SEM画像の模式図、図4は、本実施形態に係る磁性成形体中の磁性粒子の粒径と頻度との相関関係を示すグラフ、図5は、本実施形態に係る磁性成形体中の磁性粒子の面積比率の算出方法を説明するための説明図である。なお、図3および図5において、符号Jは、樹脂を示している。
【0030】
製造された磁性成形体は、主としてSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて解析される。断面SEM画像を取得するため、磁性成形体の中央付近の破断面をイオンミリング装置によって断面加工し、加工後の磁性成形体サンプルをSEM内に導入する。断面観察は、500倍以上2000倍以下で行われる。取得した断面SEM画像の模式図を図3に示す。
【0031】
さらに、得られた断面SEM画像に対して、画像解析ソフト(三谷商事製のWinROOF2018)を用いて画像解析を行い、当該画像解析から磁性粉の粒度分布を求める。具体的には、取得した断面SEM画像の2値化処理等によって各粒子の粒径(円相当径)を算出し、各粒子の形状について算出した円相当径を有する球と仮定し、各粒子の頻度のカウントすることで、体積基準における粒径と粒子頻度の相関関係がグラフ化され、粒度分布が得られる。当該画像解析によって得られたグラフを図4に示す。図4のグラフによれば、製造された磁性粉は、第1ピーク値と、第1ピーク値より粒子頻度が高い第2ピーク値を備えている。また、第1ピーク値と第2ピーク値の間に有するボトム値を備えている。当該ボトム値に対応する粒径をDとして算出する。なお、ピーク値は、2つに限定されず、3つ以上あってもよい。また、これに対応してボトム値も複数あってもよい。ボトム値を複数有する場合は、最小のボトム値に対応する粒径をDとする。得られた粒度分布において、粒径Dよりも小さい粒径(円相当径)を有する粒子が第1磁性粒子とされ、粒径Dよりも大きい粒径(円相当径)を有する粒子が第2磁性粒子とされる。本実施形態では、第1ピーク値に対応する粒径D1は、第1磁性粒子の最頻粒径に相当し、第2ピーク値に対応する粒径D2は、第2磁性粒子の最頻粒径に相当する。さらに、第1ピーク値と第2ピーク値の間に有するボトム値に対応する粒径をDとする。
【0032】
ここで、本明細書では、「第1磁性粒子」とは、ボトム値に対応する粒径Dよりも小さい粒径(円相当径)の粒子であり、「第2磁性粒子」とは、ボトム値に対応する粒径Dよりも大きい粒径(円相当径)の粒子を示す。さらに、本明細書でいう「第1磁性粒子の最頻粒径」とは、磁性粉中の磁性粒子の粒径と頻度との相関関係を示すグラフにおける粒径Dよりも小さい粒径の領域における最も粒子頻度の高いときの粒径であり、「第2磁性粒子の最頻粒径」とは、磁性粉中の磁性粒子の粒径と頻度との相関関係を示すグラフにおける粒径Dよりも大きい粒径の領域における最も粒子頻度の高いときの粒径を示す。
【0033】
本実施形態における第1磁性粒子は、最頻粒径が0.5μm以上8μm以下でよく、好ましくは、1μm以上5μm以下でよい。第2磁性粒子は、第1磁性粒子より粒径が大きい粒子である。第2磁性粒子の最頻粒径は、10μm以上50μm以下であることが好ましい。第2磁性粒子の最頻粒径が50μm以下であると、渦電流損失を小さくすることができる。第2磁性粒子の最頻粒径は、より好ましくは、20μm以上40μm以下でよい。また、(第1磁性粒子の最頻粒径)/(第2磁性粒子の最頻粒径)=0.02以上0.5以下がよい。この場合、磁性粒子の充填率を高くすることができる。また、磁性成形体において、磁性粒子の充填率は0.75以上が好ましい。
【0034】
上述した磁性成形体の断面SEM画像(図3参照)および磁性成形体中の磁性粒子の粒度分布(図4参照)の結果を用いて、第1磁性粒子および第2磁性粒子の面積比率が算出される。以下、面積比率の算出方法を説明する。なお、図3および図5において、大粒子としての第2磁性粒子Lは、垂直のハッチングが施されており、小粒子としての第1磁性粒子Sは、水平のハッチングが施されており、樹脂Jは、ドットのハッチングが施されている。
【0035】
まず、第1磁性粒子Sおよび第2磁性粒子Lの面積比率を解析する解析領域Aを設定する(図5参照)。解析領域Aは、粒径Dを利用し、横10×D,縦7.5×Dの領域とした。なお、解析領域Aはこの大きさに限定されるものではなく、より大きい領域を解析してもよい。この解析領域A内における第1磁性粒子Sの全面積および第2磁性粒子Lの全面積を算出する。当該面積の算出は、上述した画像解析ソフトを用いることによって行うことができる。そして、(第1磁性粒子Sの面積の総和)/(第2磁性粒子Lの面積の総和)として面積比率が計算される。
【0036】
上記面積比率の計算を、無作為に抽出した磁性成形体中の10か所で行い、その標準偏差を算出する。本実施形態に係る磁性成形体では、標準偏差が0.40以下である。より好ましくは、標準偏差が0.34以下である。なお、本明細書でいう「標準偏差」とは、データのばらつきを示す指標であり、標準偏差の値が小さいほど、ばらつきが小さいことを意味する。
【0037】
さらに、上述の断面SEM画像から磁性粒子の充填率を測定することも可能である。具体的には、上述の磁性成形体における被覆率の測定と同様にして、断面SEM画像を取得する。取得した断面SEM画像の2値化処理によって、観察領域の面積に対する磁性粒子の占有面積の割合を求める。無作為に抽出した10か所で観察領域の面積に対する磁性粒子の占有面積の割合を求め、その平均値を磁性粒子の充填率とする。これにより、磁性粒子の充填率を測定することができる。なお、本実施形態では、断面SEM画像によって粒度分布を求める態様を説明したが、原料としての粉体状の磁性粒子の粒度分布を求める場合は、レーザー回折法または散乱法による測定することができる。
【0038】
[インダクタについて]
次に、上述した磁性成形体を用いたインダクタについて説明する。まず、インダクタの製造方法について図6~8を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係るインダクタの製造方法を模式的に示す工程斜視図、図7は、本実施形態に係るインダクタの斜視図、図8は、本実施形態に係るインダクタの正面透視図である。
【0039】
-インダクタの製造方法-
まず、磁性成形体に巻き付ける導線20を準備する。導線20は、金属線(例えば、平角銅線)を樹脂等によって被覆して構成されていることが好ましく、この場合、上述した磁性成形体内に含有された樹脂と相俟って導線20を強固にモールドすることができる。導線20は、巻始めと巻終わりを外側に向かって同時に巻回するアルファ巻きによって巻回されることが好ましい。導線20をアルファ巻きによって巻回することにより巻終わりが外側に配置されるため、引き出し部の取り回しを容易に行うことができる。
【0040】
次に、上述した樹脂が未硬化もしくは半硬化状態の磁性成形体10を準備する。この磁性成形体10にアルファ巻きされた導線20を収容する。つまり、コイル導体の巻き芯部に磁性成形体10が配置される。このとき、導線20の巻き芯部にE型コアの一部が挿入される(図6参照)。さらに、上述した磁性粉を更に用い、磁性粉によって導線20を被覆するようにしてよい。これら導線20、磁性成形体10および磁性粉を金型に収容した後に加圧成形機に導入する。そして、150℃以上200℃以下、5MPa以上50MPa以下、60s以上1800s以下の環境下で磁性成形体10に含有された樹脂を硬化させ、インダクタの素体を形成する。
【0041】
次に、素体に対してバレル研磨を行い、素体のエッジを丸める加工を施してよい。エッジが丸められることによって、その後に形成される外部電極の断線を抑えることができる。その後、素体に外部電極30を形成する。外部電極30の形成方法は、めっき処理により形成する手法、導電性ペーストを素体に塗布し、焼き付けることにより形成する手法、スパッタリング等によって形成する手法を用いてよい(図7,8参照)。なお、外部電極30の一例として、Ag粉を含有する導電性樹脂ペーストを熱硬化させたもの、または、NiめっきおよびSnめっき等が挙げられる。また外部電極30はそれらを複数層積層した構造でもよい。
【0042】
以上により、上述の磁性粉および磁性成形体を用いたインダクタを製造することができる。なお、図7では導線20の延伸方向と交わる導線20の断面が素体表面に露出し、外部電極30と接続されているが、導線20の両端が折り曲げられることにより、導線20の延伸方向と平行な導線20の側面を素体表面に露出させ、外部電極30と接続されるようにしてもよい。
【実施例
【0043】
-磁性成形体の実施例-
次に、本発明に関連する実施例を説明する。以下に示した実施例および比較例の磁性成形体を製造し、これらについて実証試験を実施した。
【0044】
実施例1,2および比較例1,2に関する磁性成形体の製造に用いられる原料を以下に示す。磁性成形体の製造方法について、実施例1,2は、本実施形態に係る磁性成形体の製造方法のとおり、まず、第1磁性原料粒子を含んで成る粒子原料を第2磁性原料粒子に60℃の環境下で噴霧する工程を経て磁性粉を製造した。一方、比較例1,2は、撹拌容器内で撹拌中の第1磁性原料粒子および第2磁性原料粒子に対して、樹脂と溶剤を添加し、続いて硬化剤と潤滑剤を添加することで造粒粉を得た。この造粒粉を60℃で乾燥させることで溶剤を揮発させる。この段階では1つの造粒粉に複数の第2磁性原料粒子が含まれているため、第2磁性原料粒子同士が分離されるように粉砕機で粉砕を行い、実施例と同様にふるいで粗粒を取り除くことで磁性粉を得た。実施例1,2および比較例1,2において、粗粒を取り除くためのふるいのメッシュサイズは180μmとした。
【0045】
次に、上述の実施例1,2および比較例1,2の磁性粉を用いてトロイダルリング形状の磁性成形体を製造した。磁性成形体の製造方法は、実施例および比較例ともに、上述の「-磁性成形体の製造方法-」で説明した製造方法を採用した。まず、第1の金型で30℃、100MPaの環境下で10秒間加圧した。続いて、第2の金型で180℃、20MPaの環境下で600秒間加圧することで樹脂を硬化させて磁性成形体を製造した。
【0046】
実施例1,2および比較例1,2の磁性粉に用いられる原料は、下記のとおりである。
第1磁性粒子 : D50粒径 4.0μm Fe-6.7Si-2.5Crアモルファス合金
(Fe:Si:Cr=90.8:6.7:2.5(重量比))
第2磁性粒子 : D50粒径 28μm Fe-6.7Si-2.5Crアモルファス合金
(Fe:Si:Cr=90.8:6.7:2.5(重量比))
樹脂 : 熱硬化性エポキシ樹脂
溶剤 : アセトン
硬化剤 : イミダゾール
潤滑剤 : ナノシリカ(直径50nmφ)粒子形状
【0047】
実施例1における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子および第2磁性粒子の重量比は、磁性粉全体基準で96.0重量%、樹脂および硬化剤の重量比は、磁性粉全体基準で3.6重量%、潤滑剤は、磁性粉全体基準で0.4重量%であった。なお、溶剤は、原料全体(第1磁性粒子、第2磁性粒子、樹脂、溶剤、硬化剤および潤滑剤)の重量を基準として4.6重量%用いたが、磁性粉を製造する上で揮発されている。
【0048】
また、実施例1における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子の重量比:第2磁性粒子の重量比=25:75であり、樹脂の重量比:硬化剤の重量比=97.4:2.6であった。
【0049】
実施例2における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子および第2磁性粒子の重量比は、磁性粉全体基準で96.5重量%、樹脂および硬化剤の重量比は、磁性粉全体基準で3.1重量%、潤滑剤は、磁性粉全体基準で0.4重量%であった。なお、溶剤は、原料全体の重量を基準として4.1重量%用いたが、磁性粉を製造する上で揮発されている。
【0050】
また、実施例2における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子の重量比:第2磁性粒子の重量比=25:75であり、樹脂の重量比:硬化剤の重量比=97.4:2.6であった。
【0051】
比較例1における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子および第2磁性粒子の重量比は、磁性粉全体基準で96.0重量%、樹脂および硬化剤の重量比は、磁性粉全体基準で3.6重量%、潤滑剤は、磁性粉全体基準で0.4重量%であった。なお、溶剤は、原料全体の重量を基準として4.6重量%用いたが、磁性粉を製造する上で揮発されている。
【0052】
また、比較例1における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子の重量比:第2磁性粒子の重量比=25:75であり、樹脂の重量比:硬化剤の重量比=97.4:2.6であった。
【0053】
比較例2における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子および第2磁性粒子の重量比は、磁性粉全体基準で96.5重量%、樹脂および硬化剤の重量比は、磁性粉全体基準で3.1重量%、潤滑剤は、磁性粉全体基準で0.4重量%であった。なお、溶剤は、原料全体の重量を基準として4.1重量%用いたが、磁性粉を製造する上で揮発されている。
【0054】
また、比較例2における製造後の磁性粉について、第1磁性粒子の重量比:第2磁性粒子の重量比=25:75であり、樹脂の重量比:硬化剤の重量比=97.4:2.6であった。
【0055】
次に、実施例1,2および比較例1,2について、磁性成形体における複数の領域で断面SEM画像を取得して面積比率を求め、その標準偏差を算出した。標準偏差の結果を表1に示す。標準偏差の算出方法は、上述の「-磁性成形体の解析手法-」で説明した手法を採用した。なお、標準偏差は、磁性成形体において10か所の領域を測定した標準偏差を採用した。
【0056】
【表1】
【0057】
上述の表1の結果より、実施例1および実施例2は、比較例1および比較例2よりも標準偏差が小さい結果が得られた。すなわち、比較例1および比較例2の磁性成形体の標準偏差は、0.40より高いのに対し、実施例1および実施例2の磁性成形体の標準偏差は、0.40以下である結果が得られた。
【0058】
次に、上述の実施例1,2および比較例1,2の磁性成形体に対して、比透磁率の測定を行った。比透磁率の測定には、インピーダンスアナライザ(Keysight社製E4294A)を使用して、測定周波数として1MHzの値を採用した。比透磁率の結果を表2に示す。なお、本明細書でいう「比透磁率」とは、物質の透磁率μと真空の透磁率μとの比 μs = μ/μを意味する。
【0059】
【表2】
【0060】
上述の表2の結果より、実施例1および実施例2は、比較例1および比較例2よりも比透磁率が高い結果が得られた。すなわち、比較例1および比較例2の磁性成形体の比透磁率は、23.5未満であるのに対し、実施例1および実施例2の磁性成形体の比透磁率は、23.5以上である結果が得られた。より具体的には、実施例1および実施例2のインダクタの比透磁率が24以上である結果が得られた。
【0061】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る磁性成形体およびインダクタは、高い透磁率を実現することができるので、高い磁気特性が要求される電子部品に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 インダクタ
10 磁性成形体
100 磁性粉
20 導線
30 外部電極
D1 第1磁性粒子の最頻粒径
D2 第2磁性粒子の最頻粒径
D 複数のピーク値の間に有する粒子頻度が最小のボトム値
S 第1磁性粒子
L 第2磁性粒子
J 樹脂
K 金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8