(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】エアレスタイヤ及びエアレスタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60C 7/00 20060101AFI20241001BHJP
B29D 30/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B60C7/00 H
B29D30/02
(21)【出願番号】P 2020169091
(22)【出願日】2020-10-06
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116868(JP,A)
【文献】特開2017-043121(JP,A)
【文献】特開2018-153932(JP,A)
【文献】特開2011-178308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸が固定されるホイールのタイヤ径方向外側に同心円状に配置され、地面と接地する接地面を有するトレッドリング本体と、
前記トレッドリング本体のタイヤ径方向内側、且つ前記ホイールの径方向外側に同心円状に配置され、前記ホイールに対して前記トレッドリング本体を支持するボディと、
前記トレッドリング本体の内部においてタイヤ周方向に延在し、タイヤ周方向に剛性を付加するトレッド補剛部材と、
前記トレッド補剛部材にタイヤ周方向の張力を加える張力付加部と、を有
し、
前記張力付加部は、前記ボディと前記トレッドリング本体との間に充填された環状の中間層であり、前記ボディのタイヤ径方向外側と前記トレッドリング本体のタイヤ径方向内側とにそれぞれ結合される
エアレスタイヤ。
【請求項2】
前記張力付加部は、前記ボディに対して外圧を加え、前記トレッドリング本体に対して内圧を加える
請求項
1記載のエアレスタイヤ。
【請求項3】
前記ボディは、前記張力付加部から加えられる外圧に抗する剛性を備える
請求項2記載のエアレスタイヤ。
【請求項4】
前記張力付加部は、前記トレッド補剛部材に作用するタイヤ周方向の応力が前記トレッド補剛部材の引張方向に残留するように、前記トレッドリング本体に対して内圧を加える
請求項
2又は3記載のエアレスタイヤ。
【請求項5】
前記ボディは、前記ボディの最も外周側に配置され、タイヤ周方向にかけて一定の厚みを備える環状の外周ボディリングを備え、
タイヤ回転中心から前記外周ボディリングの内周面までの距離をa1、前記タイヤ回転中心から前記外周ボディリングの外周面までの距離をb1、前記外周ボディリングの縦弾性係数をE、前記外周ボディリングのポアソン比をν、前記張力付加部の充填圧力をpとした場合、以下に示す関係式が成立する
【数1】
請求項
3記載のエアレスタイヤ。
【請求項6】
前記ボディは、前記ボディの最も外周側に配置され、タイヤ周方向にかけて一定の厚みを備える環状の外周ボディリングを備え、
タイヤ回転中心から前記外周ボディリングの内周面までの距離をa1、前記タイヤ回転中心から前記外周ボディリングの外周面までの距離をb1、前記タイヤ回転中心から前記トレッド補剛部材の内周面までの距離をa2、前記タイヤ回転中心から前記トレッド補剛部材の外周面までの距離をb2、前記張力付加部の充填圧力をp、前記トレッド補剛部材のタイヤ周方向における単位面積当たりの張力をσθ2としたとき、以下に示す関係式が成立する
【数2】
請求項
4記載のエアレスタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド補剛部材は、前記張力付加部と結合されている
請求項
1から4のいずれか一項記載のエアレスタイヤ。
【請求項8】
前記ボディは、
前記ボディの最も外周側に配置され、タイヤ周方向にかけて一定の厚みを備える環状の外周ボディリング本体と、
前記外周ボディリング本体の内部においてタイヤ周方向に延在し、タイヤ周方向に剛性を付加するボディ補剛部材と、を有する
請求項
1から4いずれか一項記載のエアレスタイヤ。
【請求項9】
前記ボディ補剛部材は、前記張力付加部と結合されている
請求項
8記載のエアレスタイヤ。
【請求項10】
前記トレッドリング本体の内周面は、タイヤ径方向外側に向かって窪んだ凹部、又はタイヤ径方向内側に向かって突出した凸部を備える
請求項1から
9いずれか一項記載のエアレスタイヤ。
【請求項11】
前記ボディの外周面は、タイヤ径方向外側に向かって突出した凸部、又はタイヤ径方向内側に向かって窪んだ凹部を備える
請求項1から
10いずれか一項記載のエアレスタイヤ。
【請求項12】
車両の車軸が固定されるホイールのタイヤ径方向外側に結合されるボディと、地面と接する接地面を有するトレッドリングとを同心円状に配置して、前記ボディ及び前記トレッドリングをタイヤ幅方向の両側から一対の金型で挟持する工程と、
前記一対の金型を介して前記ボディと前記トレッドリングとの間の空間に材料を充填して、前記ボディと前記トレッドリングとの間に同心円状の中間層を加圧しながら成形する工程と、を有し、
前記トレッドリングは、
タイヤ周方向に延在する環状のトレッドリング本体と、
前記トレッドリング本体の内部においてタイヤ周方向に延在し、タイヤ周方向に剛性を付加するトレッド補剛部材と、を有する
エアレスタイヤの製造方法。
【請求項13】
前記ボディと前記トレッドリングとの間の空間に材料を充填する場合、大気圧よりも高い圧力で樹脂を充填する
請求項
12記載のエアレスタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレスタイヤ及びエアレスタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ハブとトレッドリングとの間にスポークを成型する手法が開示されている。ハブ及びトレッドリングが適正に位置決めされた金型が回転され、加熱されたポリウレタンが金型に注ぎ込まれる。遠心力がポリウレタンをスポークの全体に充填され、スポークがハブ及びトレッドリングに結合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された手法は、回転する金型に樹脂を注型してスポークを成形している。そのため、トレッドリングに対して十分な内圧が作用せず、トレッドリング内に設けられた補剛部材が機能しない可能性がある。これにより、トレッドリングの剛性が低下し、転がり抵抗が増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トレッドリングの剛性を確保して転がり抵抗の増加を抑制することができるエアレスタイヤ及びエアレスタイヤの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエアレスタイヤは、地面と接地する接地面を有するトレッドリング本体と、ホイールに対して前記トレッドリング本体を支持するボディと、トレッドリング本体の内部においてタイヤ周方向に延在し、タイヤ周方向に剛性を付加するトレッド補剛部材と、トレッド補剛部材にタイヤ周方向の張力を加える張力付加部と、を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トレッドリングの剛性を確保することができるので、転がり抵抗の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、エアレスタイヤを示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すエアレスタイヤの要部を示す斜視断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図1のAA線に沿うエアレスタイヤの要部を模式的に示す断面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のBB線に沿うエアレスタイヤの要部を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、タイヤ回転中心からの距離を示す説明図である。
【
図5】
図5(a)は、エアレスタイヤの製造装置を示す説明図であり、
図5(b)は、
図5(a)のCC線に沿う金型の断面図である。
【
図6】
図6(a)は、地面に接地していないエアレスタイヤの状態を模式的に示す断面図であり、地面に接地しているエアレスタイヤの状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、中間層とトレッド及び外周ボディリングとの結合状態の変形例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、トレッドの変形例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、外周ボディリングの変形例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、外周ボディリングの変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1から
図3を参照して、本実施形態に係るエアレスタイヤ1の構成を説明する。エアレスタイヤ1は、ホイール2と、ボディ3と、張力付加部4と、トレッドリング5とで構成されている。なお、
図2並びに
図3(a)及び(b)では、ホイール2の記載が省略されている。
【0011】
ホイール2は、車両に設けられたハブを介して車軸に固定される。ホイール2は、円盤形状を有し、ボルトなどの締結手段によってハブに固定される。
【0012】
ボディ3は、トレッドリング5のタイヤ径方向内側、かつ、ホイール2の径方向外側に同心円状に配置されている。ボディは、ホイール2に結合されており、ホイール2に対してトレッドリング5を支持する弾性支持部材である。ボディ3は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。ボディ3が弾性変形することで、エアレスタイヤ1は、車両の重量を支えたり、地面から入力される衝撃を吸収したりすることができる。
【0013】
ボディ3は、内周ボディリング31と、複数のスポーク32と、外周ボディリング33とを有している。内周ボディリング31と、複数のスポーク32と、外周ボディリング33とは、一体に形成されている。
【0014】
内周ボディリング31は、ホイール2のタイヤ径方向外側に配置されている。内周ボディリング31は、円筒形状を有し、ホイール2の外周面と結合されている。
【0015】
複数のスポーク32は、内周ボディリング31と、外周ボディリング33とを連結する。複数のスポーク32は、タイヤ周方向に間隔をあけて隣り合うように配置され、タイヤ径方向に沿って放射状に延在している。スポーク32のタイヤ径方向外側の端部は外周ボディリング33に連結され、スポーク32のタイヤ径方向内側の端部は、内周ボディリング31に連結されている。
【0016】
タイヤ周方向に隣り合う一対のスポーク32と、内周ボディリング31と、外周ボディリング33との間には、空間部が形成されており、この空間部は、タイヤ回転軸方向に連通する空間である。この空間部は、ボディ3を形成する材料とは異なる材料が充填されてもよい。
【0017】
外周ボディリング33は、トレッドリング5の径方向内側に配置されている。具体的には、外周ボディリング33は、円筒形状を有しており、外周ボディリング33の外周面にはトレッドリング5が装着される。
【0018】
内周ボディリング31と外周ボディリング33とを連結する構造は、複数のスポーク32を放射状に設けることに限らない。ハニカム構造を有するセル型、又は、放射形状以外の形状の空隙構造であってもよい。
【0019】
張力付加部4は、外周ボディリング33のタイヤ径方向内側、かつ、トレッドリング5のタイヤ径方向外側に同心円状に配置されている。張力付加部4は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料を、外周ボディリング33とトレッドリング5との間に充填したものである。張力付加部4は、外周ボディリング33のタイヤ径方向外側とトレッドリング5のタイヤ径方向内側とにそれぞれ結合される。
【0020】
トレッドリング5は、ホイール2のタイヤ径方向外側に、ボディ3及び張力付加部4を隔てて同心円状に配置されている。トレッドリング5は、円筒形状を有しており、トレッドリング5の外周面は、地面と接地する接地面となる。車両側で発生した力(駆動力又は制動力)は、ホイール2、ボディ3、張力付加部4、及びトレッドリング5を介して地面に伝達される。
【0021】
このような構造のエアレスタイヤ1において、外周ボディリング33、張力付加部4及びトレッドリング5は、互いに結合されており、タイヤ周方向に延在する環状構造体を構成する。この環状構造体において、外周ボディリング33は、最も内周側に位置する環状の内周層に相当し、張力付加部4は、外周ボディリング33とトレッドリング5との間に位置する環状の中間層に相当する。また、トレッドリング5は、最も外周側に位置する環状の外周層に相当する。
【0022】
図3(a)及び
図3(b)を参照し、トレッドリング5の詳細について説明する。トレッドリング5は、トレッドリング本体50と、トレッドリング本体50の内部に設けられたトレッド補剛部材55とから構成されている。
【0023】
トレッドリング本体50は、樹脂又はゴムといった弾性変形可能な材料から形成されている。本実施形態では、タイヤ径方向で捉えた場合、トレッドリング本体50は、トレッド補剛部材55のタイヤ径方向内側に位置する内周トレッド層51と、トレッド補剛部材55のタイヤ径方向外側に位置する外周トレッド層52とに分けられる。
【0024】
トレッド補剛部材55は、トレッドリング本体50の内部においてタイヤ周方向に延在している。トレッド補剛部材55は、内周トレッド層51と外周トレッド層52との間に位置している。トレッド補剛部材55は、トレッドリング本体50に対してタイヤ周方向に剛性を付加する部材である。トレッド補剛部材55は、金属の撚り線からなるワイヤ、又は強化繊維材料からなるワイヤなどから構成されている。
【0025】
図3(a)、
図3(b)及び
図4に示すように、トレッド補剛部材55は、タイヤ周方向に延在する環状のワイヤであり、タイヤ幅方向(タイヤ回転軸方向)に複数配列されている。複数のトレッド補剛部材55は、タイヤ幅方向にかけて互いに密着するように配列されている。しかしながら、複数のトレッド補剛部材55は、タイヤ幅方向にかけて一定の距離を隔てて配列されてもよい。
【0026】
張力付加部4は、トレッドリング本体50とボディリング33とを結合するだけでなく、成形時の充填圧力に起因する応力により、トレッドリング本体50に対して内圧P2を加える。これにより、張力付加部4は、トレッドリング本体50内に設けられたトレッド補剛部材55にも拡径方向の力が作用し、タイヤ径方向外側へ押し広げる役割を果たす。
【0027】
トレッド補剛部材55がタイヤ径方向外側へ押し広げられることで、トレッド補剛部材55には、引張方向の張力が作用する。トレッド補剛部材55であるワイヤは、複数の芯線を撚り合わせた撚り線であるため、張力が作用していない状態では一本一本の芯線が密着しておらず引張方向の剛性が低い。しかしながら、張力を加えることで個々の芯線が密着し、トレッド補剛部材55としての縦弾性係数に近い剛性を得ることができる。
【0028】
また、張力付加部4は、トレッドリング本体50と、外周ボディリング33との間に位置するため、張力付加部4のタイヤ径方向内側に位置する外周ボディリング33に対して外圧P1を加える。このため、外周ボディリング33は、圧縮する方向の圧力が加わる。外周ボディリング33は、外周ボディリング33の剛性及び形状により、座屈変形することなく、外圧P1に抗して形状を保つことができる。
【0029】
具体的には、環状のトレッド補剛部材55が外圧に抗する剛性を備えるためには、以下に示す関係(数1)が成立する。
【数1】
【0030】
数1において、
図4に示すように、a
1は、タイヤ回転中心から外周ボディリング33の内周面までの距離、b
1は、タイヤ回転中心から外周ボディリング33の外周面までの距離である。Eは、外周ボディリング33の縦弾性係数、νは、外周ボディリング33のポアソン比である。また、pは、射出成形により外周ボディリング33とトレッドリング5との間に張力付加部4を充填するときの充填圧力である。
【0031】
数1は、外周ボディリング33の形状及び剛性(材料)に対して、張力付加部4の成形時に加圧可能な充填圧力pを意味している。したがって、数1の関係に基づき成形時に材料を加圧することにより、外周ボディリング33が座屈変形することを抑制することが可能になる。
【0032】
一方、張力付加部4がトレッド補剛部材55に対して必要な張力を加えるためには、以下に示す関係(数2)が成立する。
【数2】
【0033】
a
1、b
1、pは、数1に示すパラメータと同じである。
図4に示すように、a
2は、タイヤ回転中心からトレッド補剛部材55の内周面までの距離、b
2は、タイヤ回転中心からトレッド補剛部材55の外周面までの距離である。σ
θ2は、トレッド補剛部材55のタイヤ周方向における単位面積当たりの張力である。
【0034】
数2は、トレッドリング本体50内のトレッド補剛部材55の寸法に対する張力付加部の成形時の充填圧力pと、トレッド補剛部材55の単位面積当たりの張力(応力)σθ2を意味している。数2の関係に基づき成形時に材料を加圧することで、トレッド補剛部材55に所望の張力を加えることが可能になる。
【0035】
図5を参照し、エアレスタイヤ1の製造方法を説明する。この
図5では、ボディの構造として外周ボディリング33のみが描かれており、ボディ3が簡略化して描かれている。
【0036】
まず、予め製造されたボディ3及びトレッドリング5をそれぞれ用意し、ボディ3とトレッドリング5とを同心円状に配置する。このとき、外周ボディリング33とトレッドリング5との間には、一定の高さ(タイヤ径方向の長さ)を備えた空間部がタイヤ周方向に沿って環状に形成される。
【0037】
つぎに、ボディ3及びトレッドリング5のタイヤ幅方向の両側に金属製の金型100、110を圧着させる。これにより、ボディ3及びトレッドリング5は、タイヤ幅方向の両側から一対の金型100、110で挟持される。
【0038】
一方の金型100には、材料200を注入する注入口101がタイヤ周方向に沿って等間隔で配置されている。金型100に設けられた複数の注入口101は、外周ボディリング33とトレッドリング5との間の空気層の位置に対応している。なお、注入口101は、金型100のみならず、金型110に設けてもよい。
【0039】
そして、所定の温度に加熱した材料200に所定の射出圧を加えて、金型100の複数の注入口101から空間部に射出する。外周ボディリング33とトレッドリング5との間に材料200が充填され、この材料200が加圧された状態で成形される。これにより、外周ボディリング33とトレッドリング5との中間層に、張力付加部4が成形される。
【0040】
上述したように、成形時の射出圧、すなわち充填圧力pは、少なく大気圧以上の圧力であり、より具体的には、上述した数2の関係に基づく圧力である。これにより、トレッド補剛部材55に所望の張力を加えることが可能になる。
【0041】
図6(a)は、無負荷状態でのエアレスタイヤ1の状態を示す。数2の関係に基づく充填圧力pで張力付加部4を成形することで、無負荷状態においては、トレッド補剛部材55には所定の初期張力が作用する。
【0042】
図6(b)は、車両に装着されて地面に接地した負荷状態でのエアレスタイヤ1の状態を示している。負荷状態になると、地面近傍のトレッド補剛部材55には圧縮方向の力が作用する。無負荷状態でトレッド補剛部材55に初期張力が作用している場合であっても、トレッド補剛部材55の見かけ上の引張方向の剛性は低下してしまう。そこで、このような剛性低下を防ぐために、張力付加部4の成形時の充填圧力pを高めることが好ましい。これにより、エアレスタイヤ1にタイヤ使用時の荷重が作用するような場合においても、トレッド補剛部材55に必要な張力が作用することとなる。
【0043】
このように本実施形態に係るエアレスタイヤ1は、張力付加部4を備えている。この構成によれば、張力付加部4によってトレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力を加えることができるので、トレッドリング本体50の剛性を確保することができる。これにより、転がり抵抗が低減され、操縦安定性能を得ることができる。
【0044】
本実施形態において、張力付加部4は、ボディ3とトレッドリング本体50との間に充填された環状の中間層であり、ボディ3のタイヤ径方向外側とトレッドリング本体50のタイヤ径方向内側とにそれぞれ結合されている。この構成によれば、張力付加部4が中間層に位置することで、トレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力が適正に作用する。これにより、トレッドリング本体50の剛性を確保することができるので、転がり抵抗の低減を図ることができる。また、張力付加部4を介してボディ3とトレッドリング本体50とを結合することができる。
【0045】
また、張力付加部4がボディ3とトレッドリング本体50とをタイヤ径方向に加圧することで、トレッド補剛部材55にはタイヤ周方向の張力が適正に作用する。これにより、トレッドリング本体50の剛性を確保することができるので、転がり抵抗の低減を図ることができる。
【0046】
本実施形態において、ボディ3は、数1に示すように、張力付加部4から加えられる外圧に抗する剛性を備えている。この構成によれば、張力付加部4に起因するボディ3の座屈変形を抑制することができる。これにより、ボディ3が張力付加部4を十分に支持することができるので、トレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力を適切に加えることができる。その結果、トレッドリング本体50の剛性を適切に確保することができる。
【0047】
本実施形態において、張力付加部4は、トレッド補剛部材55に作用するタイヤ周方向の応力がトレッド補剛部材55の引張方向に残留するように、トレッドリング本体50に対して内圧を加えている。この構成によれば、トレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力を適切に加えることができるので、トレッドリング本体50の剛性を適切に確保することができる。
【0048】
また、本実施形態に係るエアレスタイヤの製造方法は、ボディ3とトレッドリング5とを同心円状に配置して、タイヤ幅方向の両側から一対の金型100、110で挟持する工程と、材料を充填してボディ3とトレッドリング5との間に同心円状の中間層を加圧しながら成形する工程と、を有している。
【0049】
この製造方法によれば、張力付加部4を備えるエアレスタイヤ1を製造することができる。張力付加部4によってトレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力を加えることができるので、トレッドリング本体50の剛性を確保することができる。これにより、転がり抵抗が低減され、操縦安定性能を得ることができる。
【0050】
ボディ3とトレッドリング5との間の空間に樹脂を充填する場合には、大気圧よりも高い圧力で材料を充填することが好ましい。この製造方法によれば、材料の充填によってトレッド補剛部材55にタイヤ周方向の張力が適正に作用する。これにより、トレッドリング本体50の剛性を確保することができるので、転がり抵抗の低減を図ることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態に係るエアレスタイヤ1を説明する。第3の実施形態に係るエアレスタイヤ1が、第1の実施形態のそれと相違する点は、張力付加部4と、トレッドリング本体50及び外周ボディリング33との結合方法である。
【0052】
図7(a)に示すように、トレッドリング本体50の内周面、具体的には内周トレッド層51の内面には、タイヤ径方向外側に向かって窪んだ凹部41が設けられている。同様に、外周ボディリング33の外周面には、タイヤ径方向内側に向かって窪んだ凹部41が設けられている。凹部41は、タイヤ周方向に延在しているが、必ずしも連続している必要なく、不連続に延在する形態であってもよい。
【0053】
このような凹部41を設けることで、張力付加部4を成形するときに、充填された材料が凹部41にも進入することとなる。そのため、トレッドリング本体50、張力付加部4及び外周ボディリング33の結合が強固となり、エアレスタイヤ1の強度及び耐久性の向上を図ることができる。加えて、トレッドリング本体50、張力付加部4、外周ボディリング33による剛性の総和が向上する。これにより、転がり抵抗が低減され、操縦安定性能を得ることができる。
【0054】
図7(b)に示すように、凹部41は、トレッドリング本体50の内周面及び外周ボディリング33の外周面に1つ設けるに限らない。凹部41は、タイヤ幅方向にかけて複数配列してもよい。
【0055】
また、
図7(a)、(b)に示す例では、タイヤ幅方向における凹部41の断面形状は四角形状であるが、これに限らない。凹部41の断面形状は、円弧形状であったり、三角形状であったりしてもよい。
【0056】
なお、このような結合を得るために、凹部41に代えて、或いは、凹部41とともに、トレッドリング本体50の内周面に、タイヤ径方向内側に向かって突出した凸部を設けてもよい。同様に、外周ボディリング33の外周面に、タイヤ径方向外側に向かって突出した凸部を設けてもよい。
【0057】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態に係るエアレスタイヤ1を説明する。第3の実施形態に係るエアレスタイヤ1が、第1の実施形態のそれと相違する点は、トレッドリング5の構造である。以下、説明の便宜上、第1の実施形態で示したトレッド補剛部材55を、第1トレッド補剛部材55という。
【0058】
図8に示すように、本実施形態のトレッドリング5は、トレッドリング本体50と、トレッドリング本体50の内部に設けられた第1トレッド補剛部材55の他に、第2トレッド補剛部材56を備えている。
【0059】
第2トレッド補剛部材56は、トレッドリング本体50の内周面に沿って設けられている。第2トレッド補剛部材56は、外周ボディリング33のタイヤ径方向外側に位置し、外周ボディリング33結合されている。
【0060】
この構成によれば、張力付加部4がトレッドリング5に強固に結合されることとなる。これにより、エアレスタイヤ1の強度及び耐久性の向上を図ることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、トレッドリング5は、トレッドリング本体50に2層のトレッド補剛部材55、56を有しているが、トレッド補剛部材を3層以上有していてもよい。
【0062】
また、第1の実施形態に示すように、1層のトレッド補剛部材55のみを備える構成において、トレッドリング本体50の内周面に沿ってトレッド補剛部材55を設けてもよい。
【0063】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態に係るエアレスタイヤ1を説明する。第4の実施形態に係るエアレスタイヤ1が、第1の実施形態のそれと相違する点は、外周ボディリング33の構造である。
【0064】
図9に示すように、外周ボディリング33は、外周ボディリング本体330と、外周ボディリング本体330の内部に設けられたボディ補剛部材335とから構成されている。
【0065】
本実施形態では、タイヤ径方向で捉えた場合、外周ボディリング本体330は、ボディ補剛部材335のタイヤ径方向外側に位置する外周本体層331と、ボディ補剛部材335のタイヤ径方向内側に位置する内周本体層332とに分けられる。
【0066】
ボディ補剛部材335は、外周ボディリング本体330の内部においてタイヤ周方向に延在している。トレッド補剛部材55は、外周本体層331と内周本体層332との間に位置している。ボディ補剛部材335は、外周ボディリング本体330に対してタイヤ周方向に剛性を付加する部材である。
【0067】
この構成によれば、トレッドリング5と張力付加部4との結合強度、及び外周ボディリング33と張力付加部4との結合強度がそれぞれ向上する。これにより、エアレスタイヤ1の強度及び耐久性の向上を図ることができる。また、外周ボディリング本体330に高剛性なボディ補剛部材335があることで、張力付加部4の成形圧力を外周ボディリング33が保持することができる。これにより、トレッド補剛部材55にも高い張力を付加することが可能になる。
【0068】
なお、本実施形態では、張力付加部4に対して外周本体層331を隔ててボディ補剛部材335を設けている。しかしながら、外周ボディリング本体330の外周面に沿ってボディ補剛部材335を設けてもよい。この構成によれば、ボディ補剛部材335と張力付加部4の結合強度がさらに向上する。これにより、エアレスタイヤ1の強度及び耐久性の向上を図ることができる。
【0069】
また、外周ボディリング本体330は、複数層のボディ補剛部材335を有していてもよい。
【0070】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0071】
1 エアレスタイヤ
2 ホイール
3 ボディ
31 内周ボディリング
32 スポーク
33 外周ボディリング
4 張力付加部
41 凹部
5 トレッドリング
50 トレッドリング本体
51 内周トレッド層
52 外周トレッド層
55、56 トレッド補剛部材
100、110 金型
101 注入口
330 外周ボディリング本体
331 外周本体層
332 内周本体層
335 ボディ補剛部材