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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】圧力測定用チャンバ
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20241001BHJP
   G01L 19/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61M1/36 105
G01L19/00 A
A61B5/0215 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020178740
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069847
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
(72)【発明者】
【氏名】山辺 康平
(72)【発明者】
【氏名】戸田 圭亮
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-162437(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0186518(US,A1)
【文献】特開2016-077406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
G01L 19/00
A61B 5/0215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性膜により血液側チャンバおよび空気側チャンバに仕切られるチャンバ空間を有するハウジングと、前記血液側チャンバに血液が流入する流入ポートと、前記血液側チャンバから血液が流出する流出ポートと、を備え、
前記チャンバ空間は、卵型(あるいはラグビーボール形状)又は球形状であり、かつ、3000mm 以下の容量を有し、
前記チャンバ空間のうち前記血液側チャンバが占める空間において血液の通流方向に垂直な断面の最大面積をチャンバ空間最大面積Aとし、前記流入ポートの開口面積を流入ポート面積Bとした場合に、面積比A/Bが26.0以下かつ6.0以上である、圧力測定用チャンバ。
【請求項2】
前記面積比A/Bが22.6以下かつ18.5以上である、請求項1に記載の圧力測定用チャンバ。
【請求項3】
前記ハウジングは血液側ケースおよび空気側ケースを有し、前記血液側ケースおよび前記空気側ケースが合わさせられて前記チャンバ空間が形成され
少なくとも前記空気側ケースの内面には、射出成形における離型時にエジェクタピンを受ける凸部が設けられている、請求項1に記載の圧力測定用チャンバ。
【請求項4】
前記空気側ケースの内面には、前記可撓性膜との間に通気路を形成するためにリブが突設されており、前記凸部の突出寸法は前記リブの突出寸法以下である、請求項3に記載の圧力測定用チャンバ。
【請求項5】
前記空気側ケースの内面は凹面状を成しており、前記凸部の端面も凹面状を成している、請求項3又は4に記載の圧力測定用チャンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液回路上に設けられる圧力測定用チャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法は、患者からの脱血をダイアライザーへ導入し、ここで血中の不要成分と透析液中の有用成分とを置換すると共に濾過も行い、処理された血液を再び患者に返血する治療法である。このような透析療法では、有用な血球の損傷や血液の凝集を防ぐために、血液が通流する血液回路の各所で血液の圧力が測定される。
【0003】
血液回路を流れる血液の圧力を測定するものとして、特許文献1に開示された圧力測定用チャンバが知られている。この圧力測定用チャンバは、内部に空洞を有するハウジングと、その空洞を血液側チャンバおよび空気側チャンバに区切る可撓性膜とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-63439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、透析療法は、一般的に所定の流量(例えば、約200mL/min)で断続的に数日間をかけて行われる。一方で、急激に肝臓機能が低下した患者などには、これより低流量(例えば、約80mL/min)ながら連続して数時間で行うCRRT(Continuous Renal Replacement Therapy:持続的腎代替療法)と称される透析療法が行われることもある。しかしながら、現状ではCRRTに適した圧力測定用チャンバがなく、一般的な透析療法に用いられる圧力測定チャンバが、CRRT用の血液回路でも用いられている。
【0006】
そこで本開示では、低流量で血液が流れる血液回路に適した圧力測定用チャンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る圧力測定用チャンバは、可撓性膜により血液側チャンバおよび空気側チャンバに仕切られるチャンバ空間を有するハウジングと、前記血液側チャンバに血液が流入する流入ポートと、前記血液側チャンバから血液が流出する流出ポートと、を備え、前記チャンバ空間のうち前記血液側チャンバが占める空間において血液の通流方向に垂直な断面の最大面積をチャンバ空間最大面積Aとし、前記流入ポートの開口面積を流入ポート面積Bとした場合に、面積比A/Bが26.0以下かつ6.0以上である。
【0008】
これにより、低流量の血流であっても、チャンバ内で血液が滞留しにくく血液の凝集が生じにくい圧力測定用チャンバを実現することができる。すなわち、後に詳述するように、面積比A/Bが26.0より大きい構成に比べて26.0以下の構成の場合の方が、この面積比A/Bの減少に対して、ケース内面においてせん断応力が所定値以下となる面積の割合の減少傾向が、より顕著になることが、発明者らの鋭意の研究により判明した。従って、上述したような構成とすることにより、血液が滞留しにくい小容量の圧力測定用チャンバを効率的に実現することができる。また、面積比A/Bを6.0以上とすることにより、圧力の測定範囲としてCRRT等の透析治療の実使用に耐え得る圧力測定用チャンバを実現することができる。
【0009】
また、前記面積比A/Bが22.6以下かつ18.5以上であってもよい。
【0010】
これにより、低流量での血液の凝集を抑制し、圧力の測定範囲を適正に確保する観点から、より好ましい圧力測定用チャンバを実現することができる。
【0011】
また、本開示に係る圧力測定用チャンバは、血液側ケースおよび空気側ケースが合わさせられてチャンバ空間が形成され、可撓性膜により前記チャンバ空間が血液側チャンバおよび空気側チャンバに仕切られて成るハウジングを備え、少なくとも前記空気側ケースの内面には、射出成形における離型時にエジェクタピンを受ける凸部が設けられている。
【0012】
これにより、低流量の血流に応じてハウジングを小型化した場合に、各ケースを射出成形した後にこれを離型するべくエジェクタピンで押圧したときに成形品が破損するのを防止することができる。すなわち、容量の大きいハウジングの場合、エジェクタピンによる押圧に対して撓むことができる許容変形量が大きいが、容量の小さいハウジングの場合、その許容変形量が小さくなるため離型時にエジェクタピンに押されて破損することが懸念される。これに対し、上述したような構成とすることにより、エジェクタピンを受ける凸部によって強度の向上が図れることから、離型時の破損を防止することができる。
【0013】
また、前記空気側ケースの内面には、前記可撓性膜との間に通気路を形成するためにリブが突設されており、前記凸部の突出寸法は前記リブの突出寸法以下であってもよい。
【0014】
これにより、可撓性膜が空気側チャンバの方へ撓んだ場合に、その可撓性膜がリブより先に凸部の端面に接することがない。従って、凸部により可撓性膜の撓み量が制限されて血液側チャンバの容量が少なくなってしまうことを防止できる。
【0015】
また、前記空気側ケースの内面は凹面状を成しており、前記凸部の端面も凹面状を成していてもよい。
【0016】
空気側ケースの内面が凹面状の場合に、凸部の端面を平坦にすると、凸部の端面を凹面状にした構成と比べて、チャンバ内方への突出寸法が部分的に増す。そこで、上述したように凸部の端面を凹面状にすることで、突出寸法の部分的な増加を抑制し、血液側チャンバの容量が少なくなるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る圧力測定用チャンバによれば、低流量で血液が流れる血液回路に適した圧力測定用チャンバを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施の形態に係る圧力測定用チャンバの分解斜視図である。
図2図2は、圧力測定用チャンバを図1のII-II線で切断したときの分解断面図である。
図3図3は、図2に示す圧力測定用チャンバを組み立てたときの断面図である。
図4図4は、圧力測定用チャンバの内面におけるせん断応力について解析したシミュレーション結果を示すグラフである。
図5図5は、空気側ケースを下方から見た底面図である。
図6図6は、空気側ケースを図5のVI-VI線で切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[圧力測定用チャンバの全体構成]
図1図3に示すように、本開示に係る圧力測定用チャンバ100は、血液側ケース2および空気側ケース3が合わせられてチャンバ空間11が形成され、可撓性膜4によりこのチャンバ空間11が血液側チャンバ12および空気側チャンバ13に仕切られて成るハウジング1を備えている。また、血液側ケース2には、血液側チャンバ12に血液が流入する流入ポート5および血液側チャンバ12から血液が流出する流出ポート6が設けられている。なお、図3では可撓性膜4を模式的に破線で示している。
【0020】
この圧力測定用チャンバ100は、後に詳述するように外形がおおむね卵型を成しており、その使用時の姿勢は特に限定されない。ただし、以下では説明の便宜から、血液側ケース2に対して空気側ケース3を上方とし、その反対方向を下方とする。また、流出ポート6に対して流入ポート5を前方とし、その反対方向を後方とする。さらに、このような上下方向および前後方向の両方に交差する方向を、前方へ向いたときを基準にして左右方向とする。
【0021】
また、本実施の形態では、圧力測定用チャンバ100として、透析治療のうち血液を低流量(例えば、約80mL/min)で処理するCRRTの用途に好適な構成を例示する。なおその場合に、チャンバ空間11の容量は典型的には3000mm以下としたのもの、より好ましくは2700mm以下としたものが採用し得る。ただし、チャンバ空間11の容量はこれに限られず、後述する面積比A/Bを満たすものであれば、3000mmより容量が大きくてもよい。
【0022】
血液側ケース2は、ケース本体20を備え、このケース本体20に流入ポート5および流出ポート6が接続されている。ケース本体20は、上方に開口する開口部21を有すると共に内面22が下方へ窪んでおり、チャンバ空間11の下側半分である下側チャンバ空間11aを形成している。下側チャンバ空間11aを上下方向に沿って平面視したときの形状(すなわち、開口部21の形状)は、前後方向に長軸を有し、かつ、左右方向に短軸を有する楕円形状を成している。また、下側チャンバ空間11aを前後方向に沿って正面視したときの形状は、真円を上下に二等分したときの下側の半円形状を成している。
【0023】
ケース本体20の開口部21には、内面22の上端部分の外側を取り囲むようにして周回溝23が形成されている。また、この周回溝23の外側には、周回溝23の外側を取り囲むようにして上方へ延びる周回壁24が立設されている。後述するように、このうち周回溝23には可撓性膜4が支持され、周回壁24には空気側ケース3が外嵌する。
【0024】
ケース本体20の前部には、流入ポート5が接続されている。流入ポート5は円管状を成し、その内部の流入路5aは、ケース本体20内の下側チャンバ空間11aに連通している。ケース本体20の後部には、流出ポート6が接続されている。流出ポート6は円管状を成し、その内部の流出路6aも下側チャンバ空間11aに連通している。これらの流入路5aおよび流出路6aは、互いに同軸状を成している。
【0025】
ケース本体20の内面22の底部には、前後方向に沿って延びる溝25が形成されている。この溝25は、ケース本体20に対する流入ポート5の接続箇所から流出ポート6の接続箇所まで延びている。従って、流入路5aにおいて下側チャンバ空間11aと連通する開口5bは溝25内の前部に位置し、流出路6aにおいて下側チャンバ空間11aと連通する開口6bは溝25内の後部に位置している。そして、溝25は、その前部から後部へ至る部分が、ケース本体20の内面22に沿うように下方へ湾曲している。
【0026】
ここで、流入路5aおよび開口5bは同径をなし、流出路6aおよび開口6bも同径を成しており、本実施の形態では流入路5aおよび流出路6aも互いに同径を成している。なお、図2に示すように、流入ポート5は流入路5aの前方に拡径されたポート接続口5cを有し、流出ポート6は流出路6aの後方に拡径されたポート接続口6cを有している。
【0027】
空気側ケース3は、ケース本体30を備え、このケース本体30に圧力検出ポート7が接続されている。ケース本体30はおおむねドーム状を成し、下方に開口する開口部31を有すると共に内面32が上方へ窪んでおり、チャンバ空間11の上側半分である上側チャンバ空間11bを形成している。上側チャンバ空間11bを上下方向に沿って平面視したときの形状(すなわち、開口部31の形状)は、上述した血液側ケース2のケース本体20の開口部21と同様に、前後方向に長軸を有し、かつ、左右方向に短軸を有する楕円形状を成している。また、上側チャンバ空間11bを前後方向に沿って正面視したときの形状は、真円を上下に二等分したときの上側の半円形状を成している。従って、血液側ケース2と空気側ケース3とを上下から合わせて形成されるチャンバ空間11は、正面視すると真円形状となる。
【0028】
ケース本体30の開口部31には、内面32の下端部分から拡径方向へ広がると共に開口部31を周回する周回面33が形成されている。また、この周回面33の外側には、周回面33の外側を取り囲むようにして下方へ延びる周回壁34が垂設されている。さらに、周回面33において上記周回壁34の内方には、下方へ突出する爪部35が、周回面33に沿って開口部31を周回するようにして設けられている。後述するように、このうち周回面33は可撓性膜4を上方から支持し、周回壁34は血液側ケース2を外嵌する。
【0029】
ケース本体30の前部には、圧力検出ポート7が接続されている。圧力検出ポート7は円管状を成し、その軸心を上下方向に向けてケース本体30の外面から上方へ延設されている。そして、圧力検出ポート7の内部通路7aは、その下端の開口7bにて、ケース本体30内の上側チャンバ空間11bに連通している。また、ケース本体30の内面32には、内面32と可撓性膜4との間に空気流路を形成するため、線状を成す複数のリブ50が形成され、さらに、空気側ケース3の射出成形において離型時にエジェクタピンを受ける複数の凸部60が形成されている。これらリブ50および凸部60については、図4および図5を参照して後述する。
【0030】
可撓性膜4は、適度な可撓性を有するダイアフラムであり、血液側チャンバ12を通流する血液の圧力に応じて、血液側チャンバ12の方ないし空気側チャンバ13の方へ、上下に変位する。可撓性膜4は、空気側ケース3のケース本体30(の内面32)と同様におおむねドーム状を成し、膜本体40とフランジ41とを有している。膜本体40は、下方に開口するようにして上方へ窪んでおり、平面視で前後方向に長軸を有し、かつ、左右方向に短軸を有する楕円形状を成している。また、膜本体40は、下面42および上面43を有し、正面視で真円を上下に二等分したときの上側の半円弧形状を成している。フランジ41は、膜本体40の下端部分から拡径方向に広がると共に開口部分を周回するように延設されている。また、フランジ41の外周縁部からは、下方へ突出する突出部44が、フランジ41に沿って周回するように設けられている。
【0031】
上記のような血液側ケース2および空気側ケース3から成るハウジング1、および、可撓性膜4が組み合わされて、本開示に係る圧力測定用チャンバ100が構成される。すなわち、まず開口部21を上へ向けた血液側ケース2に、上方へ窪んだ姿勢の可撓性膜4が上から組み付けられる。このとき、血液側ケース2の周回溝23に、可撓性膜4の突出部44が内嵌される。次に、この状態の血液側ケース2に対して、上方から空気側ケース3が開口部31を下へ向けて組み付けられる。このとき、血液側ケース2の周回壁24に対して空気側ケース3の周回壁34が外嵌される。また、空気側ケース3の爪部35が、可撓性膜4のフランジ41の上面に、食い込むようにして気密的に当接する。
【0032】
このようにして、血液側ケース2、空気側ケース3、および可撓性膜4は、互いに接着あるいは溶着される。その結果、ハウジング1の内部にはチャンバ空間11が形成されると共に、このチャンバ空間11は可撓性膜4によって血液側チャンバ12および空気側チャンバ13に仕切られる。より具体的には、血液側ケース2の内面22と可撓性膜4の下面42とに囲まれるようにして血液側チャンバ12が形成され、空気側ケース3の内面32と可撓性膜4の上面43とに囲まれるようにして空気側チャンバ13が形成される。なお、可撓性膜4の膜本体40は厚み寸法が小さいため、血液側チャンバ12の容積とチャンバ空間11の容積とはほぼ同じである。
【0033】
また、このときチャンバ空間11は、上下方向から見た平面視でほぼ楕円形状を成し、左右方向から見た側面視でもほぼ楕円形状を成し、前後方向から見た正面視ではほぼ真円形状を成す。すなわち、チャンバ空間11はおよそ卵型あるいはラグビーボール形状を成す。
【0034】
なお、上述したように可撓性膜4は空気側ケース3の内面32と同様に上方へ窪んだドーム状を成している。従って、圧力測定用チャンバ100は、未使用の状態において、可撓性膜4の膜本体40は上側チャンバ空間11bに偏在して位置し、その上面43は空気側ケース3の内面32に近接して位置している。
【0035】
[面積比について]
図3を参照して、本開示に係る圧力測定用チャンバ100では、チャンバ空間11のうち血液側チャンバ12が占める空間において血液の通流方向に垂直な断面の最大面積をチャンバ空間最大面積Aとし、流入ポート5の開口面積を流入ポート面積Bとした場合に、面積比A/Bを所定の範囲に含まれるように構成している。
【0036】
より具体的に説明すると、この圧力測定用チャンバ100では、血液側チャンバ12の内部空間がチャンバ空間11と同様におよそ卵型を成すため、血液の通流方向(前後方向)に垂直な断面をみたとき、前後方向の中央においてその面積は最大値をとる。従って、図3にて符号Aを付した両矢印の部分の面積が、チャンバ空間最大面積Aとなる。一方、流入ポート5では流入路5aおよび開口5bが同径であるから、流入ポート面積Bは、図3にて符号Bを付した両矢印の部分の面積となる。なお、流入路5aの径が漸減あるいは漸増するなど一定でない場合は、流入路5aにおいて最も流路面積が小さくなる部分の面積を流入ポート面積Bとすればよい。
【0037】
このような面積A,Bに対し、本開示に係る圧力測定用チャンバ100は、面積比A/Bが26.0以下かつ6.0以上となるように構成し、より好ましくは、面積比A/Bが22.6以下かつ18.5以上となるように構成している。これにより、低流量の血流であっても、血液側チャンバ12で血液が滞留しにくく血液の凝集が生じにくい圧力測定用チャンバ100を実現することができる。
【0038】
図4は、圧力測定用チャンバの内面におけるせん断応力について解析したシミュレーション結果を示すグラフである。グラフには黒塗りの菱形形状のドットM1と、白抜きの菱形形状のドットM2とがプロットされているが、本実施の形態に係る圧力測定用チャンバ100に関するシミュレーション結果はドットM1が対応する。
【0039】
また、図4のグラフにおいて横軸は、上述した面積比A/Bを表している。図4のグラフにおいて縦軸は、評価対象の全表面積に対して、せん断応力が100[s-1]以下の領域の割合を百分率で表している。なお、評価対象の全表面積とは、圧力測定用チャンバ100の血液側チャンバ12を画定する面積であり、ここでは血液側ケース2の内面22の面積と、可撓性膜4の膜本体40の下面42の面積との和に等しい。また、このシミュレーションにおける面積比A/Bでは、面積Bは一定値としつつ、ハウジング1のケース本体20,30の形状を相似状に寸法だけ変更したときの面積Aを用いている。
【0040】
図4のドットM1を見ると分かるように、面積比A/Bが26.0より大きい場合に比べて26.0以下の場合の方が、この面積比A/Bの減少に対して、せん断応力が100[s-1]以下となる領域の割合の減少傾向が、より顕著になっている。従って、面積比A/Bを26.0以下とすることにより、血液が滞留しにくい小容量の圧力測定用チャンバを効率的に実現することができる。
【0041】
また、面積比A/Bは6.0以上とするのが好ましい。すなわち、透析治療中の血液の圧力を監視する目的上、圧力測定用チャンバ100により測定可能な圧力の下限値が定まる。すると、空気側チャンバ13およびこれから圧力測定用のトランスデューサまでの全容積と内部圧力とに関するボイルの法則から、血液側チャンバ12の容積の下限値が求まる。血液側チャンバ12の容積の下限値が求まると、その圧力測定用チャンバのチャンバ空間最大面積Aが求まる。ここで、圧力測定チャンバ100が陰圧測定する場合、-300[mmHg]が必要な下限値として例示され、その場合、上記面積比A/Bは6.0以上となる。従って、圧力測定範囲の都合上、面積比A/Bは6.0以上であることが好ましい。
【0042】
なお、図4に示すように、面積比A/Bが減少していき18.0を過ぎると、せん断応力が100[s-1]以下となる領域の割合の減少傾向が緩やかになっている。従って、血液の滞留を効率的に抑制する観点から、面積比A/Bの下限値については18.0以上であることがより好ましい。
【0043】
さらに、血液の滞留の抑制効果および圧力の測定範囲に関する実使用上のバランスの観点からは、面積比A/Bが22.6以下かつ18.5以上の範囲となるように構成するのが好ましい。
【0044】
なお、面積比A/Bの上述したような好ましい数値範囲は図1~3にて例示した構成の圧力測定用チャンバ100に限られない。例えば、特開2019-198454号公報にて開示されているような、球形状のチャンバ空間を有する圧力測定用チャンバについても該当する。図4に示すドットM2は、このような球形状のチャンバ空間についてのシミュレーションを表しており、これから、チャンバ空間が球形状の構成についても、面積比A/Bが26.0以下であると、面積比A/Bの減少に対してせん断応力が100[s-1]以下となる領域の割合の減少傾向がより顕著になることが分かる。
【0045】
このように、少なくとも、チャンバ空間が卵型(あるいはラグビーボール形状)又は球形状であって、かつ、ダイアフラムを成す可撓性膜が未使用状態においてドーム状を成して上側チャンバ空間に偏在しているものについては、面積比A/Bが26.0以下となるように構成することにより、上述したような作用効果を得ることができる。なお、本実施の形態では、上述したように可撓性膜4の膜本体40の厚みが非常に小さく、血液側チャンバ12とチャンバ空間11とは容積がほぼ同じである。そのような場合には、チャンバ空間最大面積Aの対象空間として、血液側チャンバ12に替えてチャンバ空間11を近似的に用いてもよい。
【0046】
[リブおよび凸部について]
図5は、空気側ケース3を下方から見た底面図である。図6は、空気側ケース3を図5のVI-VI線で切断したときの断面図であり、リブ50および凸部60の各部分拡大図を含む。図5に示すように、空気側ケース3の中央には、樹脂溜め部36が形成されている。すなわち、金型には、射出成形時にゲートから流れ込む溶融樹脂を内部へ円滑に流すために、金型の入口部分の容量を大きくした凹部が形成されている。そして、樹脂溜め部36は、この凹部に溜まった樹脂が固まることで、空気側ケース3の内方へ突出した形で形成される。
【0047】
樹脂溜め部36は底面視で円形を成し、外周部から放射状に線状のリブ50が延設されている。リブ50は、この実施の形態では8本設けられており、樹脂溜め部36の周りにおよそ等間隔(約40度~45度毎)で配置されている。各リブ50は、長手方向の一端部51が樹脂溜め部36に近接して位置し、他端部52は開口部31の近傍にまで至っている。また、このうち1本のリブ50Aは、他端部52が圧力検出ポート7の開口7bの近傍にまで至っている。さらに、図6に一部を拡大して示すように、リブ50は、長手方向に交差する断面が円弧状を成しており、空気側ケース3の内面32からの高さ寸法(突出寸法)H1が全長にわたってほぼ一定である。
【0048】
このようなリブ50は、血液側チャンバ12内の血液の圧力が大きくなったときに、可撓性膜4の膜本体40の上面43が、空気側ケース3の内面32に隙間なく接するのを防ぎ、これら上面43と内面32との間に空気が通流するスペースを確保する。なお、リブ50の高さ寸法H1は、一例として0.2[mm]であるが、これに限られず、0.2[mm]より大きくてもよいし、0.2[mm]より小さくてもよい。
【0049】
また、圧力検出ポート7の開口7bの近傍には、2つの突起55が設けられている。これらの突起55は、上述したリブ50Aの延長線上に位置し、かつ、開口7bを挟んで配設されている。これらの突起55は、リブ50よりも高さ寸法が大きく、一例としてこの実施の形態では0.3[mm]となっている。このような突起55を備えることで、可撓性膜4により開口7bが塞がるのを防止することができる。
【0050】
図5に示すように、隣り合うリブ50の間には凸部60が設けられている。また、複数ある凸部60のうち少なくとも一部は、空気側ケース3の中央を軸にして対称的な位置に配置されている。この凸部60は、射出成形における離型時にエジェクタピンを受けるものであり、離型時にエジェクタピンの先端により押圧される。凸部60は底面視で円形状(真円状)を成している。また、凸部60の端面61(下面)は凹面状を成している。より具体的には、凸部60の端面61は、空気側ケース3の内面32に沿うように(整合するように)凹面状を成している。そして、凸部60の高さ寸法(突出寸法)H2、すなわち、内面32から端面61までの高さ寸法H2は、一定値となっている。さらに、このような凸部60の高さ寸法H2は、上述したリブ50の高さ寸法H1以下となるように構成されている。
【0051】
これにより、低流量の血流に応じてハウジング1を小型化した場合に、空気側ケース3を射出成形した後にこれを離型するべくエジェクタピンで押圧したときに成形品が破損するのを防止することができる。すなわち、容量の大きいハウジングの場合、エジェクタピンによる押圧に対して撓むことができる許容変形量が大きいが、容量の小さいハウジングの場合、その許容変形量が小さくなるため離型時にエジェクタピンに押されて破損することが懸念される。これに対し、上述したような構成とすることにより、エジェクタピンを受ける凸部60によって強度の向上が図れることから、離型時の破損を防止することができる。
【0052】
また、特に凸部60の高さ寸法H2をリブ50の高さ寸法H1以下とすることにより、可撓性膜4が空気側チャンバ13の方へ撓んだ場合に、その可撓性膜4がリブ50より先に凸部60の端面61に接することがない。従って、凸部60により可撓性膜4の撓み量が制限されて血液側チャンバ12の容量が少なくなってしまうことを防止できる。
【0053】
さらに、空気側ケース3の内面32に整合するように凸部60の端面61も凹面状を成しているため、凸部60の端面61の内方への突出寸法が部分的に増すのを防止できる。これにより、血液側チャンバ12の容量が少なくなるのを防止することができる。また、上述したように凸部60を対称的に配置することで、エジェクタピンからの押圧による応力を空気側ケース3の全体へバランスよく分散することができ、良好な離型性を実現することができる。
【0054】
なお、上述したような凸部60は、空気側ケース3に設けるのに限られず、血液側ケース2の内面22に設けてもよい。この場合も、ハウジング1を小型化した場合における射出成型後の離型時の破損防止という効果を得ることができる。また、上記の凸部60を設ける対象は、本実施の形態で例示した卵型の圧力測定用チャンバ100に限られず、球形や扁平形状のハウジングを有する他の圧力測定用チャンバにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、血液透析用の血液回路に設けられる混合用チャンバに好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ハウジング
2 血液側ケース
3 空気側ケース
4 可撓性膜
5 流入ポート
6 流出ポート
11 チャンバ空間
12 血液側チャンバ
13 空気側チャンバ
50 リブ
60 凸部
61 端面
100 圧力測定用チャンバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6