(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】室内環境管理支援装置および室内環境管理支援方法
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20241001BHJP
F24F 7/003 20210101ALI20241001BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F7/003
(21)【出願番号】P 2020182468
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 充俊
(72)【発明者】
【氏名】磯 良行
(72)【発明者】
【氏名】岩本 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】釜瀬 幸広
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄飛
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-103723(JP,A)
【文献】特開2019-076525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/007
F24F 7/003
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象の室内の2次元撮像情報を取得する撮像情報取得部と、
前記撮像情報取得部で取得された2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成する3次元モデル情報生成部と、
前記3次元モデル情報生成部で生成された3次元モデル情報を用いて、
前記室内の温度場の変化を含む前記室内の気流の状態を解析する解析部と、
前記解析部により解析された情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する診断結果情報生成部とを備え、
前記解析部は、前記3次元モデル情報を用いて解析された前記室内の温度場の変化の情報を、解析開始時に前記室内に存在していた空気の流れによる所定物質の濃度変化の情報として置き換えて、前記室内の気流の状態として前記室内の換気状態を解析する、室内環境管理支援装置。
【請求項2】
管理対象の室内の2次元撮像情報を取得する撮像情報取得部と、
前記撮像情報取得部で取得された2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成する3次元モデル情報生成部と、
前記3次元モデル情報生成部で生成された3次元モデル情報を用いて、前記室内の気流の状態を解析する解析部と、
前記解析部により解析された情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する診断結果情報生成部とを備え、
前記解析部は、前記室内にオゾンガスが供給されたときに、前記3次元モデル情報を用いて、前記室内の気流の状態として、前記室内のオゾンガス拡散状態を、前記室内の壁を含む物体へのオゾンガスの付着状態を考慮して解析する、室内環境管理支援装置。
【請求項3】
室内環境管理支援装置が、
管理対象の室内の2次元撮像情報を取得し、
取得した2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成し、
生成した3次元モデル情報を用いて、
前記室内の温度場の変化を含む前記室内の気流の状態を解析し、さらに、前記室内の温度場の変化の情報を、解析開始時に前記室内に存在していた空気の流れによる所定物質の濃度変化の情報として置き換えて、前記室内の気流の状態として前記室内の換気状態を解析し、
解析した情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する室内環境管理支援方法。
【請求項4】
室内環境管理支援装置が、
管理対象の室内の2次元撮像情報を取得し、
取得した2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成し、
前記室内にオゾンガスが供給されたときに、生成した3次元モデル情報を用いて、前記室内の気流の状態として、前記室内のオゾンガス拡散状態を、前記室内の壁を含む物体へのオゾンガスの付着状態を考慮して解析し、
解析した情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する室内環境管理支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、室内環境管理支援装置および室内環境管理支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、三密(密閉、密集、密接)を避けることで集団感染のリスクを下げる試みが全国的に実施されている。その中で、密閉によるウイルス感染リスクを低減させることを目的として、室内空間の換気に対する関心が高まっている。しかし、ウイルスは視覚的に感知することは不可能である。そのため、厚生労働省等から室内換気に対する指標が公表されているものの、指標通りに実施したとしても目に見えないことから実際の効果のほどがわからず、不安がぬぐい切れないのが現状である。
【0003】
2020年7月には熊本県を中心に九州各地を襲う豪雨が発生した。このため、多くの県民がコロナ禍の中での避難所生活を余儀なくされる状況となった。しかし、急な災害の発生のため避難所での新型コロナウイルス感染症のための換気対策を実施する時間が短く、各自治体が手探りで実施していたことが現状である。
【0004】
一方で、2020年5月に奈良県立医科大学等の発表により、オゾンガスにより新型コロナウイルスを不活性化できるエビデンスが発表された。このことから、新型コロナウイルスを除去する目的でのオゾンガス使用に対する関心が高まっている。しかし、オゾンガスは視覚的に認識することが不可能なことから、オゾン発生装置等の装置を導入したとしてもオゾンガスが室内全体に充満されているかを不安に思う使用者も少なくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-142236号公報
【文献】特開平11-63622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オゾンガスの拡散状況を認識するために、携帯用の小型光学的測定器(オゾン濃度計測器)を用いて実際に室内のオゾンガス濃度を計測する方法(特許文献1参照)がある。しかし、この方法を用いて空間濃度を3次元的にとらえるためには測定器を複数台設置して計測する必要があり、緊急時の即座な対応は困難である。
【0007】
また、室内の換気状況やガスの拡散状況を可視化するため、室内の3次元モデルを用いて熱流体解析を実施し室内の気流分布を求めたうえで、室内の粉塵濃度分布を解析により把握する技術がある(特許文献2参照)。この技術を用いることにより、室内の換気状況やガスの拡散状況を3次元的に把握することが可能であるが、把握した状況およびこの状況に基づく有用な改善案をユーザにわかりやすく提供する技術が望まれていた。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、室内の気流状態を示す情報およびこの気流状態に基づく改善案を提供することが可能な、室内環境管理支援装置および室内環境管理支援方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る室内環境管理支援装置は、管理対象の室内の2次元撮像情報を取得する撮像情報取得部と、前記撮像情報取得部で取得された2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成する3次元モデル情報生成部と、前記3次元モデル情報生成部で生成された3次元モデル情報を用いて、前記室内の気流の状態を解析する解析部と、前記解析部により解析された情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する診断結果情報生成部とを備える。
【0010】
前記解析部は、前記3次元モデル情報を用いて、前記室内の空気交換状態を解析し、前記診断結果情報生成部は、前記解析部により解析された情報に基づいて、前記室内の空気交換状態を改善する必要があると診断されて入力された、空気交換状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の空気交換状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成するようにしてもよい。
【0011】
また、前記室内の空気交換状態は、前記室内の換気状態、ブロアによる前記室内の空気の室外への吸引状態、集塵機による前記室内の空気の浄化状態を示してもよい。
【0012】
また、前記解析部は、前記3次元モデル情報を用いて解析された前記室内の温度場の変化の情報を、解析開始時に前記室内に存在していた空気の濃度変化の情報として置き換えて、前記室内の換気状態の解析処理に利用するようにしてもよい。
【0013】
また、前記解析部は、前記3次元モデル情報を用いて、前記室内の薬剤拡散状態を解析し、前記診断結果情報生成部は、前記解析部により解析された情報に基づいて、前記室内の薬剤拡散状態を改善する必要があると診断されて入力された、薬剤拡散状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の薬剤拡散状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成するようにしてもよい。
【0014】
また、前記薬剤には、オゾンまたはアルコールであり、当該薬剤の形状は、ガス、ファインバブル水、飛沫、またはエアロゾルを用いてもよい。
【0015】
また、前記解析部は、前記3次元モデル情報を用いて、前記室内のオゾンガス拡散状態を、前記室内の壁を含む物体へのオゾンガスの付着状態を考慮して解析するようにしてもよい。
【0016】
本開示に係る室内環境管理支援方法は、管理対象の室内の2次元撮像情報を取得し、取得した2次元撮像情報から、前記室内の3次元モデル情報を生成し、生成した3次元モデル情報を用いて、前記室内の気流の状態を解析し、解析した情報に基づいて、前記室内の気流の状態を改善する必要があると診断されて入力された、気流状態の改善に有効な前記室内の状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する。
【発明の効果】
【0017】
本開示の室内環境管理支援装置および室内環境管理支援方法によれば、室内の気流状態を示す情報およびこの気流状態に基づく改善案を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る室内環境管理支援装置を利用した室内環境支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る室内環境管理支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】(a)は、第1実施形態に係る室内環境管理支援装置で取得した2次元撮像情報の例であり、(b)は、(a)の2次元撮像情報から生成した3次元モデル情報の例である。
【
図4】第1実施形態に係る室内環境管理支援装置で生成された、室内の変更前と変更後の換気状態のシミュレーション結果を示す画像情報の例である。
【
図5】(a)、(b)は、第1実施形態に係る室内環境管理支援装置で生成された、変更前と変更後の室内の換気状態を示す他の例である。
【
図6】第1実施形態に係る室内環境管理支援装置で生成された、室内の状態の変更前と変更後それぞれに関し、室内の空気交換率の経時変化を示したグラフである。
【
図7】第2実施形態に係る室内環境管理支援装置が利用する情報であり、オゾンガスの壁面への付着状況を考慮してシミュレーションした室内のオゾン平均濃度の変化と、壁面への付着状況を考慮せずにシミュレーションした室内のオゾン平均濃度の変化とを示すグラフである。
【
図8】(a)、(b)は、第2実施形態に係る室内環境管理支援装置で生成された、室内の変更前と変更後のオゾンガス拡散状態のシミュレーション結果を示す画像情報の例である。
【
図9】第2実施形態に係る室内環境管理支援装置で生成された、室内の状態の変更前と変更後それぞれに関し、室内の位置ごとのオゾン濃度の経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、室内環境管理支援装置を利用した室内環境支援システムの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
《第1実施形態》
〈第1実施形態による室内環境管理支援システムの構成〉
本実施形態の室内環境管理支援システム1Aは、管理対象の建物Xの室内Yにいるユーザが携帯する携帯端末10と、当該建物Xから遠隔の場所に設置され、携帯端末10に通信ネットワーク20を介して接続された室内環境管理支援装置30とを備える。
【0021】
携帯端末10は、カメラ装置11と、第1入力部12と、端末通信部13と、第1表示部14と、情報処理部15とを有する。カメラ装置11は、ユーザの操作により撮影する機能を有する。第1入力部12は、ユーザによる操作内容を入力する。端末通信部13は、通信ネットワーク20を介して室内環境管理支援装置30との通信を行う。第1表示部14は、表示情報を表示する。
【0022】
室内環境管理支援装置30は、支援装置通信部31と、CPU32と、第2表示部33と、第2入力部34とを有する。支援装置通信部31は、通信ネットワーク20を介して携帯端末10との通信を行う。CPU32は、撮像情報取得部321と、3次元モデル情報生成部322と、解析部323と、診断結果情報生成部324とを備える。
【0023】
撮像情報取得部321は、ユーザによりカメラ装置11で撮影され、携帯端末10から送信された室内Yの2次元撮像情報を取得する。3次元モデル情報生成部322は、撮像情報取得部321で取得された2次元撮像情報から、室内Yの3次元モデル情報を生成する。解析部323は、3次元モデル情報で撮影された室内Yの3次元モデル情報を用いて、室内Yの気流による換気の状態を解析する。診断結果情報生成部324は、管理者により入力された、気流状態の改善に有効な室内Yの状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内の気流状態の改善状況を示す画像情報および数値情報とを含む診断結果情報を生成する。診断結果情報生成部324は、生成した診断結果情報を携帯端末10に送信する。
【0024】
第2表示部33は、解析部323で解析された情報等、CPU32で処理された情報を表示する。第2入力部34は、室内Yの環境管理を行う管理者による操作情報を入力する。
【0025】
〈第1実施形態による室内環境管理支援システムの動作〉
本実施形態による室内環境管理支援システム1Aの動作として、窓が1箇所開放された室内Yの空気交換状態として換気状態を診断する処理について、
図2~
図6を参照して説明する。
【0026】
まず、ユーザが携帯端末10のカメラ装置11を用いて建物Xの室内Yを複数の角度から撮影する。ユーザは、第1入力部12を操作することにより、撮影した2次元画像情報を添付した換気状態の診断依頼情報を作成し、メール機能等を用いて通信ネットワーク20を介して室内環境管理支援装置30に送信する。
【0027】
携帯端末10から送信された診断依頼情報は室内環境管理支援装置30の支援装置通信部31で受信され(S1の「YES」)、添付されている室内Yの2次元画像情報が撮像情報取得部321で取得される。撮像情報取得部321で診断依頼情報が取得されると、3次元モデル情報生成部322が、当該診断依頼情報に添付されている2次元撮像情報から、例えばCAD(computer-aided design)を用いて室内Yの3次元モデル情報を生成する(S2)。
【0028】
2次元撮像情報からCADを用いて3次元モデル情報を生成する方法として、以下の2つの手法がある。1つ目は、2次元撮像情報内の所定の被写体に対応するピクセル数を当該被写体の実際の大きさに換算することで室内Yの各物体の大きさを把握し、3次元モデル情報を生成する手法である。2つ目は、既存のタブレット端末等に搭載されている機能を用いて、画像認識技術により2次元撮像情報から自動で3次元モデル情報を生成する手法である。
図3(a)は、3次元モデル情報生成部322が取得した室内Yの2次元撮像情報の例であり、
図3(b)は、
図3(a)の2次元撮像情報から生成した3次元モデル情報の例である。
【0029】
次に、解析部323が、生成された室内Yの3次元モデル情報を用いて室内Yの気流による換気の状態を解析する(S3)。具体的には、解析部323は、一般的な熱流体解析手法に、所定物質濃度の輸送に関する方程式を連成して解析することで熱流体シミュレーションを行って解析処理を行う。そして解析部323は、所定の時点から経過時間ごとの室内Yの換気状態を示す画像情報または動画像情報を生成するとともに、所定の時点から経過時間ごとの室内Yの空気交換率を算出する。
【0030】
ここで、一般的に熱流体シミュレーションを行うアプリケーションには、空気の温度場を解析する機能が搭載されている。これを利用して本実施形態では、室内Yの温度場の変化の情報を、解析開始時に室内Yに存在していた空気の流れ(輸送)による濃度変化の情報として置き換え、室内Yの換気状態の解析処理に利用する。これにより、既存の技術を用いて容易に、室内Yの換気状態の解析結果を取得することができる。解析処理により取得された情報は、第2表示部33に表示される(S4)。
【0031】
解析部323で取得された情報が第2表示部33に表示されると、室内Yの環境管理を行う管理者がこれを視認し、室内Yの気流が所定の条件を満たす状態になっているかを診断する。具体的には、管理者は、予め設定された時間内に室内Yの空気交換率が所定値以上になっているか否か、例えば5分以内に室内Yの空気交換率が90%以上になっているか否かを判断する。
【0032】
ここで、室内Yの気流が所定の条件を満たす状態になっていない場合は、管理者は室内Yの気流の状態を改善する必要があると診断し、換気状態の改善に有効な室内Yの状態の変更提案内容を検討して第2入力部34から入力する(S5の「YES」)。室内Yの状態の変更提案内容としては例えば、開放する窓の数を1箇所から2箇所に増やす、室内に扇風機を置く、窓の近くに置いてあるものを移動させる等がある。
【0033】
室内Yの気流の状態を改善する必要があると診断され、その改善案としての変更提案内容が入力されると(S5の「YES」)、ステップS3に戻る。そして、解析部323が変更後の室内Yの換気状態を解析し、解析処理により取得した情報を第2表示部33に表示する(S3、S4)。管理者は、第2表示部33に表示された情報を視認して、室内Yの気流が所定の条件を満たす状態になったか否かを診断する。このステップS3~S5の処理は、室内Yの気流が所定の条件を満たす状態になるまで繰り返される。
【0034】
室内Yの気流が所定の条件を満たす状態になり、管理者が室内Yの気流の状態の改善が不要と診断すると(S5の「NO」)、管理者は第2入力部34から、判断結果の生成を指示する操作を行う。管理者が当該操作を行うと、診断結果情報生成部324は、診断結果情報を生成する。ここで生成される診断結果情報には、管理者により入力された、気流状態の改善に有効な室内Yの状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内Yの気流状態の改善状況を示す画像情報または動画情報、および数値情報とが含まれる。
【0035】
生成された診断結果に含まれる情報の一例を、
図4~
図6に示す。
図4は、管理者により提案された室内Yの状態の変更内容が「開放する窓の数を1箇所から2箇所に増やす」である場合に、室内Yの変更前と変更後の換気状態のシミュレーション結果を示す表示情報Pである。
【0036】
表示情報P内に含まれる画像情報41~43は、室内Yの変更前の状態、つまり開放した窓が1箇所である場合における、所定高さ位置の平面における換気状態を示す。画像情報41は解析処理開始時t0の室内Yの換気状態を示し、画像情報42は時刻t0から1分後の室内Yの換気状態を示し、画像情報43は時刻t0から5分後の室内Yの換気状態を示す。これらの画像情報41~43により、解析処理開始t0から1分後には窓の近くの狭い範囲のみ外気で換気され、5分後にはさらに外気で換気される範囲が広がるが、解析処理開始時t0の空気が未だ残っていることが示されている。
【0037】
画像情報44~46は、室内Yの変更後の状態、つまり窓の開放箇所を2箇所にした場合における、所定高さ位置の平面における換気状態を示す。画像情報44は解析処理開始時t0の室内Yの換気状態を示し、画像情報45は時刻t0から1分後の室内Yの換気状態を示し、画像情報46は時刻t0から5分後の室内Yの換気状態を示す。これらの画像情報44~46により、解析処理開始t0から1分後には既に室内Yの広い範囲が外気で換気され、5分後には解析処理開始時t0の空気がほぼなくなる状態になるまで換気されていることが示されている。これらの画像情報により、室内Yの変更前の状態よりも変更後の状態のほうが、換気状態が改善されていることがわかる。
【0038】
上述した例では、室内Yの変更前と変更後の換気状態のシミュレーション結果を示す情報として、室内Yの所定高さ位置の平面における換気状態を示す画像情報を生成する例を示したが、これには限定されない。他の例として
図5に示すように、空気の流れを線状に示すことで、室内Yの換気状態を示す画像情報を生成してもよい。
図5(a)は、室内Yの変更前の状態、つまり開放した窓が1箇所である場合における所定期間の換気状態を示し、
図5(b)は、変更後の状態、つまり開放した窓が2箇所である場合における所定期間の換気状態を示す。また、他の例として、室内Yの所定高さ位置の平面のみでなく、空間全体の換気状態を示す画像情報を生成してもよい。
【0039】
これらの室内Yの気流状態の改善状況を示す情報は、所定のタイミングのみの画像情報でなく、所定期間の室内Yの気流状態を連続的に示した動画情報でもよい。
【0040】
また
図6は、室内Yの状態の変更による気流状態の改善予測状況を数値情報で示す例として生成した、変更前と変更後それぞれに関する、室内Yの空気交換率の経時変化を示したグラフである。このグラフの点線L1は、変更前の室内Yにおける空気交換率の変化を示し、実線L2は、変更後の室内Yにおける空気交換率の変化を示す。このグラフにより、開放した窓が1箇所のときには処理開始から10分経過しても室内Yの空気交換率が50%程度であるのに対し、開放した窓が2箇所のときには処理開始から5分経過したあたりで室内Yの空気交換率が90%以上に達していることが示される。
【0041】
生成された診断結果情報は、支援装置通信部31から携帯端末10に送信される(S6)。送信された診断結果情報は携帯端末10で受信され、情報処理部15により第1表示部14に表示される。ユーザは、第1表示部14に表示された情報を視認して、提案されたように窓の開放箇所を1箇所から2箇所に増やすことで、室内Yの換気状態を適切な状態にすることができる。
【0042】
以上の第1実施形態によれば、管理対象の部屋から遠隔の場所から、室内の換気状態を示す情報およびこの換気状態に基づく室内状況の改善点を、ユーザにわかりやすく提供することができる。これによりユーザは、ウイルス等の汚染物質が飛散している可能性がある部屋の空気を確実に交換させて、当該室内を快適な空間にするための行動をとることができる。
【0043】
上述した第1実施形態では、室内Yの換気状態を解析することで当該室内Yの空気交換状態を診断する場合について説明した。しかしこれには限定されず、ブロアによる室内Yの空気の室外への吸引状態、または集塵機による室内Yの空気の浄化状態等、さらに積極的に室内の汚染物質を除去する処理を行う際の気流の状態を解析することで、室内Yの空気交換状態を診断するようにしてもよい。このように空気交換状態を診断することで、汚染物質が付着したエアロゾル、塵、または飛沫などの対流状態や吸引状態を解析することができる。これらの場合は、ブロアまたは集塵機の設置位置および性能を考慮して、上述した第1実施形態の処理と同様に室内Yの3次元モデル情報を用いて気流の状態を解析することで、室内Yの空気交換状態を診断することができる。
【0044】
《第2実施形態》
本実施形態の室内環境管理支援システム1Bの構成は、第1実施形態で説明した室内環境管理支援システム1Aの構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施形態による室内環境管理支援システム1Bの動作として、映画館の室内Zに、人体に影響を及ぼすウイルス等を除染する目的で所望の薬剤を拡散させる際の拡散状態を診断する処理について、
図2、
図7~
図9を参照して説明する。本実施形態では、室内Zに設置したオゾンガス発生装置により、新型コロナウイルスを不活性化させるオゾンガスを室内Zに拡散させる際の拡散状態を診断する処理について説明する。
【0046】
まず、ユーザが携帯端末10のカメラ装置11を用いて室内Zを複数の角度から撮影する。ユーザは携帯端末10を用いてオゾンガス拡散状態の診断依頼情報を作成して、室内環境管理支援装置30に送信する。この診断依頼情報の作成方法および送信方法は、第1実施形態で説明した場合と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
室内環境管理支援装置30は、診断依頼情報を受信すると(S1の「YES」)、第1実施形態で説明した場合と同様に3次元モデル情報生成部322が、添付されている室内Zの2次元画像情報から3次元モデル情報を生成する(S2)。そして、解析部323が、生成された室内Zの3次元モデル情報を用いて、室内Zにオゾンガス発生装置Dが所定位置、例えば最前列座席の前に設置された場合の気流によるオゾンガスの拡散状態を解析する(S3)。
【0048】
ここで、解析部323はオゾンガスの拡散状態を解析する際に、オゾンガスの壁や室内Zにある座席等の物体への付着状態を考慮して処理を実行する。オゾンガスは、壁や室内Zにある座席等の物体に付着すると不活性化し、室内空間のオゾン濃度が低下する。またオゾンガスの付着の度合いは壁や物体の材質によって異なり、表面が滑らかな材質よりも、凹凸がある材質の方がより付着する度合いが高くなり、室内のオゾン濃度が低くなる。
【0049】
図7の実線L3は、室内に所定条件でオゾンガスを供給したときに、壁面への付着状況を考慮してシミュレーションした、室内のオゾン平均濃度の変化を示す。また点線L4は、同様の条件でオゾンガスを供給したときに、壁面への付着状況を考慮せずにシミュレーションした、室内のオゾン平均濃度の変化を示す。
【0050】
解析部323は、オゾンガスの壁面への付着状況を考慮することで、室内Zの実際のオゾン濃度に近い値を算出して精度の高い解析を行うことができる。
【0051】
また、室内Zに供給されたオゾンガスの拡散状態は、室内Zと外部空間との間の隙間の有無、外部空間の気流状態、オゾンガス発生装置の性能等によっても変動する。そのため解析部323は、これらを考慮することで、さらに精度良く室内Zのオゾンガスの拡散状態を解析することができる。
【0052】
解析処理により取得された情報は、第2表示部33に表示される(S4)。解析された情報が第2表示部33に表示されると、室内Zの環境管理を行う管理者がこれを視認し、室内Zの気流が所定の条件を満たす状態になっているか、例えば所定時間内に室内Zの所定箇所のオゾン濃度が所定値以上になっているか否かを判断する。
【0053】
ここで、室内Zのオゾン濃度が所定の条件を満たす状態になっておらず管理者が室内Zの気流の状態を改善する必要があると診断すると、オゾンガス拡散状態の改善に有効な室内Zの状態の変提案更内容を検討して第2入力部34から入力する(S5の「YES」)。室内Zの状態の変更提案内容としては例えば、オゾンガス発生装置の台数を増やす、オゾンガス発生装置の設置位置を変更する、所定位置に扇風機を設置する等がある。
【0054】
室内Zの気流の状態を改善する必要があると診断され、その変更提案内容が入力されると(S5の「YES」)、ステップS3に戻る。そして、解析部323が変更後の室内Zのオゾンガス拡散状態を解析し、解析処理により取得した情報を第2表示部33に表示する(S3、S4)。管理者は、第2表示部33に表示された情報を視認して、室内Zの気流が所定の条件を満たす状態になったか否かを診断する。
【0055】
室内Zの気流が所定の条件を満たす状態になり、管理者が室内Zの気流の状態の改善が不要と診断すると(S5の「NO」)、管理者は第2入力部34から、判断結果の生成を指示する操作を行う。管理者が当該操作を行うと、診断結果情報生成部324は、診断結果情報を生成する。ここで生成される診断結果情報には、管理者により入力された、気流状態の改善に有効な室内Zの状態の変更提案内容を示す情報と、当該変更により予測される室内Zの気流状態の改善状況を示す画像情報または動画情報、および数値情報とが含まれる。
【0056】
生成された診断結果に含まれる情報の一例を、
図8(a)、(b)に示す。
図8(a)、(b)は、管理者により提案された変更内容が「オゾンガス発生装置の近くに扇風機を設置する」である場合に、室内Zの変更前と変更後のオゾンガス拡散状態のシミュレーション結果を示す画像情報である。
【0057】
図8(a)は、室内Zの変更前の状態、つまり室内Zに扇風機が設置されていない状態で、オゾンガス発生装置Dの稼動開始から1時間経過したときの室内Zのオゾンガス拡散状態を示す。また
図8(b)は、室内Zの変更後の状態、つまり室内Zのオゾンガス発生装置の近くに扇風機Eが設置された状態で、オゾンガス発生装置Dの稼動開始から1時間経過したときの室内Zにオゾンガス拡散状態を示す。
【0058】
これらの
図8(a)、(b)により、オゾンガス発生開始から1時間経った時点で、室内Zに扇風機が設置されていない状態では座席の中央列までオゾンガスが到達しないが、扇風機が設置され稼動されれば到達することが示されている。
【0059】
これらの室内Zの気流状態の改善状況を示す情報は、所定のタイミングのみの画像情報でなく、所定期間の室内Zの気流状態を連続的に示した動画情報でもよい。
【0060】
また
図9は、室内Zの状態の変更による気流状態の改善予測状況を数値情報で示す例として、変更前と変更後それぞれに関し、室内Zの位置ごとのオゾン濃度の経時変化を示したグラフである。このグラフの実線L5は、変更前の室内Zの最前列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。また点線L6は、変更前の室内Zの中央列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。また一点鎖線L7は、変更前の室内Zの最後列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。また実線L8は、変更後の室内Zの最前列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。また点線L9は、変更後の室内Zの中央列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。また一点鎖線L10は、変更後の室内Zの最後列の座席中央位置のオゾン濃度の経時変化を示す。
【0061】
このグラフにより、室内Zに扇風機が設置されていない場合に比べ、設置した場合の方が顕著にオゾンガスの拡散速度が速くなることが示される。
【0062】
生成された診断結果情報は、支援装置通信部31から携帯端末10に送信される(S6)。送信された診断結果情報は携帯端末10で受信され、情報処理部15により第1表示部14に表示される。ユーザは、第1表示部14に表示された情報を視認して、提案されたように室内Zに扇風機を設置することで、オゾンガスを適切に拡散させることができる。
【0063】
また、高濃度のオゾンは人体に悪影響があるため、室内Zにオゾンガスを拡散させてウイルス除染を行った後、オゾン濃度を人体に影響がないレベルまで低下させるために換気する必要がある。その際にも、第1実施形態と同様に室内Zの気流状態を解析しながら換気状態を診断することで、好適な状況をユーザに提案することができる。
【0064】
以上の第2実施形態によれば、管理対象の部屋から遠隔の場所から、室内へのオゾンガス拡散状態を示す情報およびこのオゾンガス拡散状態に基づく室内状況の改善点を、ユーザにわかりやすく提供することができる。
【0065】
上述した第2実施形態では、オゾンガスを用いて室内の除染を行う場合について説明したが、この薬剤および形状には限定されず、オゾンまたは他の薬剤、例えばアルコール剤を、他の形状、例えばファインバブル水、飛沫、またはエアロゾルの形状で拡散させてもよい。
【0066】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1A、1B 室内環境管理支援システム
10 携帯端末
11 カメラ装置
12 第1入力部
13 端末通信部
14 第1表示部
15 情報処理部
20 通信ネットワーク
30 室内環境管理支援装置
31 支援装置通信部
32 CPU
33 第2表示部
34 第2入力部
321 撮像情報取得部
322 3次元モデル情報生成部
323 解析部
324 診断結果情報生成部