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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/12 20060101AFI20241001BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F02B39/12
F02D29/00 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020212496
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098855
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】國分 弥則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健二
(72)【発明者】
【氏名】八木 淳
(72)【発明者】
【氏名】楠 友邦
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-061936(JP,U)
【文献】特開2007-077955(JP,A)
【文献】特開2007-077871(JP,A)
【文献】特開平03-054321(JP,A)
【文献】特開平05-272348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0298811(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10355563(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、
前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、
前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器と
を備え、
前記制御器は、
車両走行時の登坂角度を検出する登坂角度検出部と、
前記登坂角度検出部によって検出された登坂角度が所定の第1登坂角度以上か否かを判定する登坂判定部と、
前記登坂角度が前記第1登坂角度以上であると前記登坂判定部が判定した場合に、前記エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、前記電磁クラッチに対して前記クランクシャフトと前記過給機とを接続するように制御する過給制御部と
を備え
前記過給制御部は、前記登坂角度が前記第1登坂角度よりも低い第2登坂角度以下になったと前記登坂判定部が判定した場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項に記載のエンジンシステムにおいて、
前記制御器は、タイマーをさらに備え、
前記タイマーは、前記登坂角度が前記第2登坂角度以下になったと前記登坂判定部が判定した場合に作動し、
前記過給制御部は、前記タイマーが所定時間を計測した後、前記電磁クラッチを切断するように制御する、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、
前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、
前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器と
を備え、
前記制御器は、
車両走行時の登坂角度を検出する登坂角度検出部と、
前記登坂角度検出部によって検出された登坂角度が所定の第1登坂角度以上か否かを判定する登坂判定部と、
前記登坂角度が前記第1登坂角度以上であると前記登坂判定部が判定した場合に、前記エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、前記電磁クラッチに対して前記クランクシャフトと前記過給機とを接続するように制御する過給制御部と
を備え、
前記第1登坂角度は、変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定されている、ことを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式過給機とクランクシャフトを断接可能に接続する電磁クラッチを備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車などに搭載されたエンジンシステムでは、エンジンが高負荷領域や高回転領域などにある場合にエンジントルクを高めるために、過給機を用いてエンジンの燃焼室へ空気を過給する技術が知られている。とくにエンジンのクランクシャフトからの回転駆動力を用いて過給を行う機械式過給機(いわゆるスーパーチャージャー)は、エンジンの排気圧を用いる排気タービン式過給機(いわゆるターボチャージャー)と比較して応答性が良い。
【0003】
特許文献1記載のエンジンシステムは、エンジンが所定の高負荷領域になった場合に機械式過給機とクランクシャフトを接続する電磁クラッチを備えている。このエンジンシステムでは、アクセル開度を大きくするなどによってエンジンが低負荷領域から高負荷領域に移行して目標トルクが過給領域になった場合に、電磁クラッチがクランクシャフトと機械式過給機を接続する。これにより、機械式過給機がエンジンの燃焼室へ空気を過給し、エンジントルクを高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-39393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される機械式過給機は、上記のように排気タービン式過給機よりも応答性が良いが、登坂走行時では電磁クラッチの応答遅れにより車両の加速遅れが生じることが懸念される。
【0006】
すなわち、登坂走行中において、アクセル開度の変化などによりエンジン負荷が低くなったときには、電磁クラッチが切れて機械式過給機が非過給状態になるので、車両の再加速時にアクセル開度を大きくしても電磁クラッチが再度接続して過給を開始するまでタイムラグが生じる。このため、登坂走行時では、機械式過給機による過給の応答遅れが発生し、車両の加速遅れが発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、登坂走行時における車両の加速遅れを抑制することが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエンジンシステムは、登坂走行時に登坂角度が所定の第1角度以上であれば非過給領域であっても機械式過給機による過給を維持して車両の加速遅れを抑制するシステムである。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器とを備え、前記制御器は、車両走行時の登坂角度を検出する登坂角度検出部と、前記登坂角度検出部によって検出された登坂角度が所定の第1登坂角度以上か否かを判定する登坂判定部と、前記登坂角度が前記第1登坂角度以上であると前記登坂判定部が判定した場合に、前記エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、前記電磁クラッチに対して前記クランクシャフトと前記過給機とを接続するように制御する過給制御部とを備え、前記過給制御部は、前記登坂角度が前記第1登坂角度よりも低い第2登坂角度以下になったと前記登坂判定部が判定した場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御することを特徴とする。
【0010】
かかる構成では、登坂角度検出部によって検出された登坂角度が第1登坂角度以上であると登坂判定部が判定した場合に、過給制御部は、エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、電磁クラッチに対してクランクシャフトと過給機とを接続するように制御する。これにより、登坂走行中においてエンジン負荷が変動しても、登坂角度が第1登坂角度以上の場合にはエンジン負荷に関わらず機械式過給機によって常時過給できるようになり、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0011】
また、上記のエンジンシステムでは、前記過給制御部は、前記登坂角度が前記第1登坂角度よりも低い第2登坂角度以下になったと前記登坂判定部が判定した場合に、前記電磁クラッチを切断するように制御する。
【0012】
かかる構成では、登坂走行中に登坂角度が第1登坂角度よりも低い第2登坂角度になってから電磁クラッチが切断されるので、電磁クラッチの切断を遅らせることが可能になり、登坂走行中に継続される過給期間を長くすることが可能になる。その結果、登坂走行中の再加速時の応答遅れを長期に抑制することが可能である。
【0013】
上記のエンジンシステムにおいて、前記制御器は、タイマーをさらに備え、前記タイマーは、前記登坂角度が前記第2登坂角度以下になったと前記登坂判定部が判定した場合に作動し、前記過給制御部は、前記タイマーが所定時間を計測した後、前記電磁クラッチを切断するように制御するのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、タイマーにより電磁クラッチの接続を切断するタイミングを任意に設定された所定時間を遅らせることが可能になり、登坂走行中に継続される過給期間をより長くすることが可能になる。
【0015】
本発明の請求項3に係るエンジンシステムは、エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に接続する電磁クラッチと、前記電磁クラッチに制御信号を出力する制御器とを備え、前記制御器は、車両走行時の登坂角度を検出する登坂角度検出部と、前記登坂角度検出部によって検出された登坂角度が所定の第1登坂角度以上か否かを判定する登坂判定部と、前記登坂角度が前記第1登坂角度以上であると前記登坂判定部が判定した場合に、前記エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、前記電磁クラッチに対して前記クランクシャフトと前記過給機とを接続するように制御する過給制御部とを備え、前記第1登坂角度は、変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定されていることを特徴とする。
【0016】
変速ギアの段数が高いほどエンジン回転速度は低くなり、車両の加速にも時間がかかる傾向がある。そこで、上記の構成では、第1登坂角度を変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定することにより、登坂走行中において変速ギアの段数が高くても、電磁クラッチを早期に接続して、登坂走行中の再加速時の応答遅れを抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエンジンシステムによれば、登坂走行時における車両の加速遅れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示すシステム図である。
図2図1のエンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。
図3図1のエンジンの運転領域および過給機の過給領域を示す運転マップである。
図4】SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。
図5図1の電磁クラッチの制御フローチャートである。
図6図1の電磁クラッチの制御を行うための登坂角度、電磁クラッチのon‐off、目標エンジントルク、およびタイマー作動に関するタイムチャートである。
図7】変速ギアの段数が1~6段における車速と第1閾値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0020】
(1)エンジンシステムの全体構成
図1に示されるエンジンシステムは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50を備えている。
【0021】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0022】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復運動する。
【0023】
ピストン5の下方には、エンジン本体1のクランクシャフトであるクランクシャフト7が設けられている。クランクシャフト7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0024】
シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)およびクランクシャフト7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1と、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサSN2とが設けられている。
【0025】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
【0026】
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
【0027】
吸気弁11用の動弁機構には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気S-VT13が内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気S-VT14が内蔵されている。吸気S-VT13(排気S-VT14)は、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。
【0028】
図1に示すように、シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と吸入空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部と対向するように、燃焼室6の天井面の中心部に配置されている。点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。
【0029】
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
【0030】
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
【0031】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する吸気温センサSN4と、吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN5とが設けられている。エアフローセンサSN3および吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。吸気圧センサSN5は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0032】
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャー)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
【0033】
機械式の過給機33は、エンジン本体1のクランクシャフト7により駆動される。過給機33は、エンジン本体1の吸気ポート9を介して燃焼室6に通じる吸気通路30に配置されている。
【0034】
過給機33とエンジン本体1との間には、接続/切断を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34は、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する。すなわち、電磁クラッチ34が接続されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が切断されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
【0035】
電磁クラッチ34は、後述のPCM100からの制御信号を受けてから接続するまでの時間が短く、過給機33の接続をより早めることが可能である。
【0036】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0037】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面(吸気通路30とは反対側の面)に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
【0038】
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0039】
排気通路40における触媒コンバータ41よりも上流側には、排気ガス中の酸素濃度を検出するA/FセンサSN6が設けられている。
【0040】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
【0041】
(2)制御系統
図2は、エンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100(制御器)は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0042】
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、吸気圧センサSN5、A/FセンサSN6と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気酸素濃度)がPCM100に逐次入力されるようになっている。
【0043】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度(以下、アクセル開度という)を検出するアクセルセンサSN7と、車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN8と、車両の加速度を検出する加速度センサSN9と、変速ギアの段数を検出するギア段センサSN10とが設けられており、これらのセンサSN7~SN10による検出信号もPCM100に逐次入力される。
【0044】
PCM100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、吸・排気S-VT13,14、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0045】
具体的に、本発明の制御器として機能するPCM100は、燃焼制御部101と、目標トルク演算部102と、登坂判定部103と、登坂演算部104と、記憶部105と、過給制御部107と、電磁クラッチ34の切断を所定時間遅らせるためのタイマー108とを機能的に有している。
【0046】
燃焼制御部101は、燃焼室6での混合気の燃焼を制御する制御モジュールであり、エンジンの出力トルク等がドライバーの要求に応じた適切な値となるようにエンジンの各部を制御する。
【0047】
目標トルク演算部102は、アクセルセンサSN7から検出したアクセル開度など(具体的には、アクセル開度、ギア段、車速、およびエンジン回転数)から、目標エンジントルクTQを演算する。
【0048】
登坂判定部103は、後述の登坂角度検出部106によって検出された登坂角度θが第1閾値θ1(第1登坂角度)以上か否かを判定する。また、本実施形態の登坂判定部103は、登坂角度θが第1閾値θ1より低い第2閾値θ2(第2登坂角度)以下か否かも判定する。
【0049】
過給制御部107は、上記の登坂判定部103の判定結果に基づいて電磁クラッチ34の接続を制御する。接続制御の具体的な方法については後段で詳述する。
【0050】
登坂角度検出部106は、車両走行時の登坂角度θを検出する構成を有していればよい。本実施形態では、加速度センサSN9と登坂演算部104とによって、登坂角度検出部106が構成される。登坂演算部104は、PCM100に備わっており、加速度センサSN9から検出された車両加速度から車両の登坂角度θを演算する。したがって、本実施形態の登坂判定部103は、登坂演算部104によって演算された登坂角度θを用いて、当該登坂角度θが第1閾値θ1以上か否かを判定する。
【0051】
加速度センサSN9は、車両に設けられ、車両加速度を検出する。加速度センサSN9は、車両加速度を検出する構成を有していればよく、既存のGセンサなどが加速度センサSN9として用いられる。
【0052】
なお、本発明の登坂角度検出部106は、上記の加速度センサSN9および登坂演算部104を備えた構成に限定されるものでなく、登坂角度θを検出可能な登坂角度センサなどを登坂角度検出部106として用いてもよい。
【0053】
(3)エンジンの燃焼制御
つぎに、エンジンの燃焼制御について説明する。図3には、エンジンの運転領域および過給機33の過給領域を示す運転マップが示されている。
【0054】
本図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1~A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第3運転領域A3は、エンジン回転速度が第1速度N1未満となる極低速域であり、第4運転領域A4は、エンジン回転速度が第3速度N3以上となる高速域であり、第1運転領域A1は、第3・第4運転領域A3,A4以外の速度域(低・中速領域)のうち負荷が比較的低い低速・低負荷の領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4以外の残余の領域である。
【0055】
図3の例によれば、第1運転領域A1は、第2運転領域A2の内側に位置する略矩形状の領域とされ、第2運転領域A2の下限速度である第1速度N1と、第2運転領域A2の上限速度(第3速度N3)よりも低い第2速度N2と、エンジンの最低負荷よりも高い第1負荷L1と、第1負荷L1よりも高い第2負荷L2とに囲まれている。
【0056】
低速かつ低負荷の第1運転領域A1では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮等により十分に高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
【0057】
図4は、上記のようなSPCCI燃焼が行われた場合の燃焼波形、つまりクランク角による熱発生率(J/deg)の変化を示したグラフである。本図に示すように、SPCCI燃焼では、SI燃焼による熱発生とCI燃焼による熱発生とがこの順に連続して発生する。このとき、CI燃焼の方が燃焼速度が速いという性質上、SI燃焼時よりもCI燃焼時の方が熱発生の立ち上がりが急峻になる。このため、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、SI燃焼からCI燃焼に切り替わるタイミング(後述するθci)で現れる変曲点Xを有している。
【0058】
上記のようなSPCCI燃焼の具体的形態として、第1運転領域A1では、理論空燃比よりも大きい空燃比を有するA/Fリーンの混合気を燃焼室6内に形成しつつ当該混合気をSPCCI燃焼させる制御、言い換えるとλ>1(λは空気過剰率)の混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。このとき、スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような比較的大きな値に設定される。すなわち、第1運転領域A1では、吸気通路30を通じて燃焼室6に導入される空気(新気)と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射される燃料との重量比である空燃比(A/F)の目標値が、理論空燃比(14.7)よりも十分に大きい値に設定される。そして、この空燃比の目標値(目標空燃比)が実現されるようなスロットル弁32の開度が都度決定され、その決定に従ってスロットル弁32が制御される。
【0059】
なお、エンジンが冷間の状態(エンジン壁温(シリンダブロック3の温度)が30度以下の状態)では、図3の全運転領域A1~A4においてSI燃焼をする。また、半暖気の状態(エンジン壁温が30度以上80度以下の状態)では、運転領域A1は無くなり運転領域A2に包含されるが、完全暖気の状態(エンジン壁温が80度以上の状態)では運転領域A1は存在する。
【0060】
(4)過給機33の制御
図3に示されるマップにおいて、エンジンの全運転領域A1~A4のうち、エンジン負荷が負荷L3以上またはエンジン回転速度がN4以上の場合のいずれかに該当するSCon領域(2点鎖線で囲まれたドット塗りつぶし領域)では、電磁クラッチ34によってクランクシャフト7と過給機33とが接続されることによって過給機33が過給状態になる。なお、エンジン回転速度N4は、運転領域A1のエンジン回転速度の上限値N2以上であって、運転領域A4のエンジン回転速度の下限値N3以下の範囲に設定される。
【0061】
一方、図3のマップのうち残余の領域(すなわち、エンジン負荷L3以下でかつエンジン回転速度N4以下の領域)では、過給機33は非過給状態になる。
【0062】
通常の走行時では、エンジン負荷およびエンジン回転速度に基づいて、上記の図3のマップのSCon領域に該当する場合には、過給機33を過給状態にする制御を行うが、本発明では、登坂走行時では、上記の図3のマップよりも優先して登坂角度に基づいて過給機33を過給状態にする制御を行うことにより、登坂走行時の過給機33の応答遅れならびに車両の加速遅れを抑制する。
【0063】
すなわち、本実施形態の過給制御部107は、登坂角度θが第1閾値θ1以上であると登坂判定部103が判定した場合(後述の図5のステップS3および図6の時点t1参照)に、エンジンの目標エンジントルクTQが非過給領域(図6のSC0ff領域参照)であっても、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33とを接続するように制御する。
【0064】
いいかえれば、過給制御部107は、登坂演算部104によって演算された登坂角度θが第1閾値θ1以上と登坂判定部103で判定された場合、目標トルク演算部102で演算した目標エンジントルクTQに関わらず過給するように、過給機33を制御する。
【0065】
そして、登坂角度θが第1閾値θ1よりも低い第2閾値θ2以下になったと登坂判定部103が判定した場合(後述の図5のステップS5および図6の時点t7参照)には、過給制御部107は、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33との接続を切断するように制御する。
【0066】
第2閾値θ2は第1閾値θ1よりも小さい角度であればよく、例えば、第1閾値θ1よりも1%低い角度(すなわち、0.99×θ1)程度に設定される。
【0067】
また本実施形態では、タイマー108は、登坂角度θが第2閾値θ2以下になったと登坂判定部103が判定した場合に作動する。
【0068】
過給制御部107は、タイマー108が所定時間(例えば、1秒)を計測した後、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33との接続を切断するように制御する(後述の図5のステップS7および図6の時点t7参照)。
【0069】
上記の第1閾値θ1は、変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定されている。変速ギアの段数に関する情報は、ギア段センサSN10によってPCM100へ逐次送られる。
【0070】
図7のグラフに示される変速ギアの段数ごと(図7ではgr1~gr6の6段)の第1閾値θ1の情報は、PCM100の記憶部105に記憶される。図7のグラフでは、6段(gr1~gr6)にそれぞれについての車速Vと第1閾値θ1(角度)との関係が示されており、ギア段と車速Vから第1閾値θ1が一義的に決定される。
【0071】
図7に示されるように、第1閾値θ1は、車速Vが同じ場合には、ギア段(例えば、4段(gr4)~6段(gr6))が高くなるにつれて低くなるように設定される。第1閾値θ1は、例えば、1~8度の範囲で任意に設定される。
【0072】
図7のグラフでは、ギア段が1~3段(gr1~gr3)における第1閾値θ1が同じに設定されているが、ギア段が1~3段が高くなるごとに第1閾値θ1を低くなるように設定してもよい。
【0073】
(電磁クラッチ34の制御フローチャート)
上記のように構成されたエンジンシステムでは、登坂走行中における過給機33の動作制御、具体的には電磁クラッチ34の制御を以下のような手順で行う。
【0074】
図5のフローチャートに示されるように、まず、ステップS1において、PCM100は、ギア段センサSN10から変速ギアの現在のギアの段数(ギア段)を読み込む。
【0075】
つぎに、ステップS2において、PCM100は、記憶部105に記憶されたマップ(図7参照)を用いて、ギア段(例えば、6段の場合はgr1~gr6)と車速Vから、第1閾値θ1を選択する。
【0076】
つぎに、ステップS3において、登坂判定部103は、登坂角度θが第1閾値θ1以上か判定する。ここで、登坂角度θは、上記のように、登坂角度検出部106(具体的には、加速度センサSN9および登坂演算部104)を用いて検出される。すなわち、加速度センサSN9によって検出された車両の加速度を用いて、登坂演算部104が登坂角度θを演算する。
【0077】
登坂角度θが第1閾値θ1以上の場合には、ステップS4に進み、過給制御部107は、電磁クラッチ34を接続するように制御する。これにより、過給機33は、クランクシャフト7と接続して過給を行う。
【0078】
このタイミングは、図6のタイムチャートに示されるように、目標エンジントルクTQが所定の過給トルクTQ1に達する時(t2)よりも前に、登坂曲線SL1の登坂角度θが第1閾値θ1になった時(t1)で電磁クラッチ34がオン(on)になり過給機33の接続状態になる(断接曲線C1参照)。その後、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1以上の過給領域(SCon領域)および過給トルクTQ1未満の非過給領域(SCoff領域)のいずれかに不規則に移行を繰り返しても、過給機33の接続状態は長期間にわたって維持される(断接曲線C1の時点t1~t7+Δt0の区間参照)。
【0079】
その後、登坂走行の後半において図6の登坂曲線SL1のように登坂角度θが低下したときに、ステップS5において、登坂判定部103は、登坂角度θが第1閾値θ1よりも小さい第2閾値θ2(=θ1-α)以下か判定する。
【0080】
登坂角度θが第1閾値θ1よりも小さい第2閾値θ2以下の場合には、ステップS6に進み、タイマー108を作動する(時点t7のタイマー作動を示す曲線T2参照。なお、登坂角度θが第2閾値θ2より大きい場合には、ステップS5を繰り返す)。
【0081】
タイマー108が所定の時間Δt0(例えば1秒)をカウントした後(ステップS7)、ステップS8に進み、過給制御部107は、電磁クラッチ34の接続を切断するように制御する。これにより、過給機33は、クランクシャフト7との接続が切断され、過給を停止する。
【0082】
したがって、上記のように、登坂角度θが第1閾値θ1以上になった場合の過給機33の接続制御では、登坂走行中に目標エンジントルクTQが非過給領域になった時でも(時点t3およびt6参照)過給機33の接続を維持し、登坂角度θが所定の第2閾値θ2以下になった場合になってはじめて過給機33の接続を維持している状態を切断する。したがって、登坂走行中においてエンジン負荷に関わらず過給機33の接続を長く維持し続けることが可能になり、過給機33の応答遅れを抑制することが可能である。
【0083】
なお、電磁クラッチが接続した後(ステップS4)で登坂角度θが第2閾値θ2より小さいと判定される(ステップS5)前、例えば、図6のタイムチャートの時点t7の直前において、登坂角度θが小さくなっている間にエンジンが過給領域(すなわち、図3のSCon領域)になった場合(すなわち、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1以上になった場合)には、時点t7以降も電磁クラッチの接続が維持(断接曲線C1がonの状態を維持)するようにしてもよい。
【0084】
また、登坂角度θが第2閾値θ2より小さいと判定された(ステップS5)後にタイマー108がΔt0をカウントしている間に、エンジンが過給領域(図3のSCon領域)になった場合(すなわち、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1以上になった場合)または登坂角度θが第1閾値θ1または第2閾値θ2以上になった場合についても、時点t7以降も電磁クラッチの接続が維持(断接曲線C1がonの状態を維持)するようにしてもよい。
【0085】
一方、上記のステップS3において、登坂角度θが第1閾値θ1より小さい場合(すなわち、図6の登坂曲線SL2の場合)には、ステップS9に進み、通常の過給機33の接続制御(図6の断接曲線C2参照)を行う。
【0086】
すなわち、ステップS9では、エンジンが図3のマップで示されるSCon領域の状態になった時(t2)(この時点t2では、SCon領域になったことにより、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1以上になる)には、ステップS10に進み、過給制御部107は、電磁クラッチ34を接続するように制御し、過給機33は過給を開始する。なお、ステップS9において、エンジンがSCon領域の状態にない場合にはステップS1に戻る。
【0087】
ついで、ステップS11においてエンジンがSCon領域にない状態になった時(t3)(このとき、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1未満になる)には、上記のステップS6~S8に示されるように、タイマー108が所定の時間Δt0をカウントした後(時点t3のタイマー作動を示す曲線T11参照)、過給制御部107は、電磁クラッチ34の接続を切断するように制御し、過給機33の過給を停止させる(図6の断接曲線C2の時点t4参照)。
【0088】
また、過給機33の停止後、再度、エンジンがSCon領域になった時(t5)(すなわち、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1以上になった時)には、再び、過給機33は過給を開始し、エンジンがSCon領域にない状態になった時(t6)(すなわち、目標エンジントルクTQが過給トルクTQ1未満になった時)には、タイマー108が所定の時間Δt0をカウントした後(時点t7)に過給機33の過給を停止させる。このような通常の過給機33の接続制御(図6の断接曲線C2参照)では、登坂走行時において電磁クラッチ34の断接が繰り返される(このとき、時点t4~t5の間に非過給の長い期間が生じる)ので、過給機33の接続の維持が困難であり、過給機33の応答遅れが生じやすくなる。
【0089】
また、過給期間の長さを見た場合、上記のように本発明の特徴である登坂角度θに基づく電磁クラッチ34の接続制御(とくに図5のステップS3~S5参照)では、過給期間が図6の断接曲線C1のように時点t1~t7+Δt0までの長期間維持され、登坂走行中の過給機33の応答遅れが生じにくいことが理解される。これに対し、図3のSCon領域に基づく電磁クラッチ34の接続制御(とくに図5のステップS9~S11参照)では、過給期間が図6の断接曲線C2のように時点t2~t4、t5~t6+Δt0の短期間でかつ断続的にしか維持されない。このような断続的な接続制御では、登坂走行中の過給機33の応答遅れが生じやすいことが理解される。
【0090】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のエンジンシステムは、エンジン本体1のクランクシャフト7により駆動される機械式の過給機33と、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する電磁クラッチ34と、電磁クラッチ34に制御信号を出力するPCM100(制御器)とを備える。PCM100は、車両走行時の登坂角度θを検出する登坂角度検出部106(本実施形態では加速度センサSN9および登坂演算部104によって構成された検出部)と、登坂角度検出部106によって検出された登坂角度θが所定の第1閾値θ1以上か否かを判定する登坂判定部103と、登坂角度θが第1閾値θ1以上であると登坂判定部103が判定した場合に、エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33とを接続するように制御する過給制御部107とを備える。
【0091】
かかる構成では、登坂角度検出部106によって検出された登坂角度θが第1閾値θ1以上であると登坂判定部103が判定した場合に、過給制御部107は、エンジンの目標トルクが非過給領域であっても、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33とを接続するように制御する。これにより、登坂走行中においてアクセル開度の変化などによってエンジン負荷が変動しても、登坂角度θが第1閾値θ1以上の場合にはエンジン負荷に関わらず機械式過給機33によって常時過給できるようになり、過給の応答遅れを解消し、車両の加速遅れを抑制することが可能になる。
【0092】
(2)
本実施形態のエンジンシステムでは、過給制御部107は、登坂角度θが第1閾値θ1よりも低い第2閾値θ2以下になったと登坂判定部103が判定した場合に、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33との接続を切断するように制御する。
【0093】
かかる構成では、登坂走行中に登坂角度θが第1閾値θ1よりも低い第2閾値θ2になってから電磁クラッチ34が切断されるので、電磁クラッチ34の切断を遅らせることが可能になり、登坂走行中に継続される過給期間を長くすることが可能になる。その結果、登坂走行中の再加速時の応答遅れを長期に抑制することが可能である。
【0094】
(3)
本実施形態のエンジンシステムは、PCM100(制御器)はタイマー108をさらに備え、タイマー108は、登坂角度θが第2閾値θ2以下になったと登坂判定部103が判定した場合に作動し、過給制御部107は、タイマー108が所定時間を計測した後、電磁クラッチ34に対してクランクシャフト7と過給機33との接続を切断するように制御する。
【0095】
かかる構成では、タイマー108により電磁クラッチ34の接続を切断するタイミングを任意に設定された所定時間を遅らせることが可能になり、登坂走行中に継続される過給期間をより長くすることが可能になる。
【0096】
(4)
本実施形態のエンジンシステムでは、第1閾値θ1は、変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定されている。
【0097】
変速ギアの段数が高いほどエンジン回転速度は低くなり、車両の加速にも時間がかかる傾向がある。そこで、上記の構成では、第1閾値θ1を変速ギアの段数が高くなるほど低くなるように設定することにより、登坂走行中において変速ギアの段数が高くても、電磁クラッチ34を早期に接続して、登坂走行中の再加速時の応答遅れを抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン本体
7 クランクシャフト
33 過給機
34 電磁クラッチ
100 PCM(制御器)
102 目標トルク演算部
103 登坂判定部
104 登坂演算部
106 登坂角度検出部
107 過給制御部
108 タイマー
SN9 加速度センサ
SN10 ギア段センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7