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特許7563184光学センサデバイス、及び光学センサデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】光学センサデバイス、及び光学センサデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20241001BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20241001BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20241001BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241001BHJP
【FI】
G01J1/02 B ZNM
H01L31/10 A
B82Y20/00
B82Y40/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021001497
(22)【出願日】2021-01-07
(65)【公開番号】P2022106476
(43)【公開日】2022-07-20
【審査請求日】2023-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】乘松 正明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121408(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/018153(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/051739(WO,A1)
【文献】特許第6113372(JP,B1)
【文献】特開2013-093385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-1/60
H01L 27/14-27/148
H01L 31/00-31/20
G01J 5/00-5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に配置されるグラフェン層と、
前記グラフェン層に電気的に接続される一対の電極と、
前記グラフェン層を覆う樹脂の保護層と、
を有し、
前記グラフェン層に周期的な孔が設けられており、
前記保護層に、前記孔に連通する周期的な開口が設けられており、
前記孔の側面と前記開口の内壁は絶縁性の薄膜で連続的に覆われている、
光学センサデバイス。
【請求項2】
前記保護層は、目的の波長領域において透明であり、かつ電子線ビームによる描画が可能な材料で形成されている、
請求項1に記載の光学センサデバイス。
【請求項3】
前記薄膜の一部は前記グラフェン層と前記保護層の界面にある、
請求項1または2に記載の光学センサデバイス。
【請求項4】
前記基板に設けられるゲート電極と、
前記グラフェン層と前記ゲート電極の間に配置される絶縁膜、
をさらに有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学センサデバイス。
【請求項5】
基板の上の絶縁膜の上にグラフェン層を形成し、
前記グラフェン層と電気的に接続される一対の電極を形成し、
前記グラフェン層を覆う樹脂の保護層を形成し、
前記保護層に周期的な開口を形成し、
前記開口が形成された前記保護層をマスクとして、前記グラフェンに周期的な孔を形成し、
前記孔と前記開口が形成された基板の全面に、原子層堆積法で薄膜を形成する、
光学センサデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記開口を電子ビーム描画により形成する、
請求項5に記載の光学センサデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記孔をイオンビームエッチングで形成する、
請求項5または6に記載の光学センサデバイスの製造方法。
【請求項8】
前記基板にゲート電極を形成する、
請求項5~7のいずれか1項に記載の光学センサデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学センサデバイス、及び光学センサデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサは、熱をもつ物体が発する赤外線を検出し、自動ドア、監視カメラ、インフラ点検等に適用されている。入射光に応じた量の電荷を生成する量子型の赤外線センサとして、化合物半導体を用いた赤外線センサが開発され、製造されている。量子型センサでは、半導体材料の組み合わせ、組成、膜厚等を制御することで、一定の波長帯の赤外光に感度をもたせることができる。量子型の赤外線センサは、熱雑音の影響を抑制するために60K~100Kの極低温で使用され、冷却装置が必要である。
【0003】
赤外線を受光したときの熱による温度変化を利用して抵抗変化を検出する熱型の赤外線検出器は、常温で使用することができるが、量子型の赤外線センサと比較して、感度が劣る。プラズモンを利用したホットキャリア生成に基づくグラフェン赤外線検出器が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-130669号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Alireza Sataei, et al., 'Dirac plasmon-assisted asymmetric hot carrier generation for room-temperature infrared detection', Nat. Comm., 10, 3498 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
赤外線の波長領域は広く、室温で動作する広帯域、高感度のセンサが求められている。本開示は、室温で動作する広帯域、高感度の光学センサデバイスとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一形態では、光学センサデバイスは、基板の上に配置されるグラフェン層と、前記グラフェン層に電気的に接続される一対の電極と、前記グラフェン層を覆う樹脂の保護層と、を有し、
前記グラフェン層に周期的な孔が設けられており、
前記保護層に、前記孔に連通する周期的な開口が設けられており、
前記孔の側面と前記開口の内壁は絶縁性の薄膜で連続的に覆われている。
【発明の効果】
【0008】
室温で動作する広帯域、高感度の光学センサデバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の光学センサデバイスの平面模式図である。
図2図1のI-I'ラインに沿った断面模式図である。
図3A】光学センサデバイスの製造工程図である。
図3B】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3C】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3D】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3E】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3F】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3G】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3H】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図3I】実施形態の受光素子基板の製造工程図である。
図4】光学センサデバイスの変形例である。
図5】耐候性改善の必要性を説明する図である。
図6】ALD層の効果を示す図である。
図7】ALD層の効果を示す図である。
図8】ALD層の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態では、広い波長範囲の赤外線検出を可能にするために、受光層にグラフェンを用いる。グラフェンは、炭素原子が2次元ハニカム状に配列された2次元材料であり、高い移動度をもち、広い波長帯域で光を吸収する。これは、グラフェンの特徴的なエネルギーバンド構造による。グラフェン光センサで問題になるのが、環境による電気特性の変化である。デバイス表面の水分等により、ディラックポイント、すなわち、ドレイン電流が最小になるゲート電圧が変動する。別の問題として、グラフェンに微細加工を施す際にグラフェンが過剰に除去されて剥離や水分の侵入の原因となり、センサ特性が劣化するという課題がある。後述するように、実施形態ではこれらの課題を解決して、安定して動作する広帯域、高感度の光学センサデバイスを実現する。
【0011】
グラフェンの伝導帯と価電子帯は、ディラック点(波数空間のK点またはK'点)で頂点が接する対称な円錐で模擬され得る。伝導帯と価電子帯がディラック点で交わり、バンドギャップを持たないため、広い波長範囲の光を吸収する。グラフェンの炭素原子の4つの電子のうちの3つは、隣接する原子と結合しているが、4番目の電子はグラフェン面から垂直に延びた軌道にあり、自由電子としてグラフェン面内を高速で移動する。
【0012】
図1は、実施形態の光学センサデバイス10の平面模式図、図2は、図1のI-I'ラインに沿った断面模式図である。光学センサデバイス10では、基板11の上の絶縁膜12の上に、周期的な孔151の配列を有するグラフェン層15が配置されている。基板11としてシリコン基板を用いる場合は、絶縁膜12は熱酸化膜であってもよいし、シリコン窒化膜、酸化アルミニウムなど、その他の絶縁膜であってもよい。
【0013】
光学センサデバイス10では、グラフェン層15に孔151を設けることで、受光時に光の吸収を高めることができる。光の入射により、グラフェン層15の表面にプラズモン、すなわち入射光による自由電子の集団的振動が励起される。孔151のエッジ近傍では光の振動電界に対する閉じ込めが強く、孔151が形成されていないグラフェン膜と比較して、光の吸収が大きい。すなわち、入射光に対する検出感度を向上できる。孔151は必ずしも完全にグラフェンを貫通して絶縁膜12に到達していなくてもよい。
【0014】
グラフェン層15の両端に、グラフェン層15とオーバーラップするように一対の電極14aと14bが配置されている。電極14aと14bの一方はソース電極であり、他方はドレイン電極である。電極14a、及び14bには、電極パッド16a、及び16bがそれぞれ接続され、グラフェン層15に流れる電流を外部から検出できる。基板11の裏面、すなわち電極14a及び14bと反対側の面にゲート電極19が設けられ、バックゲート型のトランジスタ構成となっている。
【0015】
グラフェン層15の表面は保護層21で覆われている。保護層21にもグラフェン層15の孔151に対応する周期的な開口22が形成されている。保護層21の開口22はグラフェン層15の孔151と連通している。保護層21の表面と開口22の内壁、及び、グラフェン層15の孔151の側面は、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法により形成された薄膜25で覆われている。ALD法では、原子層レベルで膜厚をコントロールすることができ、薄く緻密な成膜が可能である。以下では、薄膜25を成膜法にちなんで「ALD層25」と呼ぶ。
【0016】
ALD層25は、グラフェン層15と保護層21の間の隙間を埋めて、デバイスの耐候性を改善する。耐候性は、一般的には屋外の自然環境とその変化に耐えうる性質をいう。光学センサデバイス10の場合、耐候性は、光学センサデバイス10が用いられる環境が変わっても、ディラックポイントの変動が抑制されている性質を含む。
【0017】
保護層21もまた、耐候性を高めるために用いられる。保護層21として、グラフェン層15に孔151を形成するときのレジストマスクを利用する場合、グラフェン層15の疎水的な性質のため、グラフェン層15と保護層21の間に隙間が生じる場合がある。このような隙間は、剥離や水分侵入の原因となり、センサの特性に影響する。グラフェン層15の孔151の側面と、保護層21の開口22の内壁をALD層25で覆うことで、剥離や水分の侵入を防止する。これにより、後述するように、ディラックポイントの変動を小さく抑える。
【0018】
動作時に、ソース及びドレインとなる電極14aと14bの間に一定のバイアス電圧を印加して、グラフェン層15を流れる電流の変化(すなわち、抵抗の変化)を観察する。電流の変化は、光吸収量に比例する。ゲート電極19にゲート電圧を印加することで、グラフェン層15の電子、ホール等のキャリア密度が制御される。光吸収特性、抵抗率、ゼーベック係数といったグラフェンの物性は、グラフェンのキャリア密度に影響される。ゲート電圧によって、光学センサデバイス10の光吸収特性は最適に制御される。
【0019】
電極14aと電極14b間に電圧を印加することによりグラフェン層15に電界が印加され、デバイス上方から照射される赤外線から発生した電子-正孔対が、グラフェン層を流れる。このドレイン電流はゲート電圧で制御することができる。光がOFFの状態でドレイン電流が最小になるゲート電圧を印加しておけば光照射によりドレイン電流-ゲート電圧特性がシフトする。光の入射によりドレイン電流が増加するので、これを検知することで、光入射を検出できる。
【0020】
光学センサデバイス10では、グラフェン層15を用いることで、室温で動作し、かつ広い波長帯域の光(可視光及び赤外光を含む)を検知する。グラフェン層15に周期的な孔151を設けることで、光吸収を高めて感度を向上する。さらに、ALD層25を設けることで、耐候性を高め、デバイス動作の信頼性を維持する。
【0021】
図3Aから図3Iは、光学センサデバイス10の製造工程図である。図3Aから図3Iに示す工程は、光学センサデバイス100を作製するときのひとつの工程例であり、以下で述べる材料、パラメータ等に限定されない。
【0022】
図3Aで、たとえば、熱酸化膜付きのシリコン基板を用意する。シリコン基板を基板11として用い、熱酸化膜を絶縁膜12として用いる。基板11の絶縁膜12と反対側の面(裏面)に、電子ビーム(EB;Electron Beam)蒸着で金属層を形成し、バックゲートとなるゲート電極19を形成する。形成する金属層として、チタン(Ti)と金(Au)の2層構成としてもよい。
【0023】
図3Bで、絶縁膜12の全面にグラフェン層15を設ける。グラフェン層15は、機械的剥離法、転写法などで絶縁膜12の上に配置されてもよい。あるいは、絶縁膜12上に触媒金属をスパッタリングで堆積し、CVD法により直接、絶縁膜12にグラフェンを成長してもよい。グラフェン層15は、単層グラフェンであってもよいし、数原子層の厚さの層であってもよい。グラフェン層15を設けた後に、絶縁膜12とグラフェンの密着性を高めるために、150~200℃の温度でアニールしてもよい。
【0024】
図3Cで、グラフェン層15を所定の形状にパターニングする。グラフェンは、酸素アッシング、酸素イオンビーム等で加工することができる。
【0025】
図3Dで、加工されたグラフェン層15と電気的に接続される一対の電極14a、及び14bを形成する。電極14a、及び14bは、Au、パラジウム(Pd)、等の良導体で形成される。Auは、電気伝導は良いが剥離し易いので、Au膜の下地としてTiやクロム(Cr)の膜を形成して、下層との密着性を向上してもよい。この場合、電気伝導をなるべく高く保つために、下地の金属膜の厚さをできるだけ薄くするのが望ましい。
【0026】
図3Eで全面に保護層21を形成する。保護層21として、検出する光の波長領域で透明、かつEB描画でパターニングが可能な低誘電率の樹脂を用いてもよい。このような樹脂として、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、水素シルセスキオキサン(HSQ)等を用いることができる。またはこれらを複数種類重畳しても良い。たとえば、PMMA層の上にHSQを塗布して保護層21を形成してもよい。保護層21の厚さは、1~数μmである。
【0027】
図3Fで、保護層21を所定の形状に加工する。露光及び現像により保護層21を加工してもよい。加工された保護層21に、EB描画により開口22を形成し、開口22内にグラフェン層15の一部を露出させる。開口22の直径は200~400nmである。
【0028】
図3Gで、開口22を有する保護層21をマスクとして、イオンビームエッチングによりグラフェン層15に孔151を形成する。イオンビームシャワー装置を用い、10秒間のイオンビーム照射を10秒のインターバルを入れて数回繰り返す。回数はグラフェンの厚さで決まる。イオンビームエッチングを用いることで、グラフェン層15を選択的にエッチングすることができ、かつ、保護層21に覆われた部分のグラフェン層15を、維持することができる。一般的に樹脂の除去に用いられる酸素アッシングでは、保護層21の下にあるグラフェン層15もエッチングされてしまう。イオンビームエッチングすることで、孔151以外の領域のグラフェン層15が維持され、グラフェン層15を流れる電流を検知することができる。
【0029】
図3Hで、全面にたとえばAlのALD層25を堆積する。ALD層の製膜時には真空状態で加熱して表面の水分等を飛ばした状態でおこなう(真空アニールの効果)。ALD層25の原料ガス、たとえばトリメチルアルミニウム(TMA)と水蒸気は開口22に入り込み、開口22の内壁とグラフェン層15の側面だけでなく、グラフェン層15と保護層21の界面に入り込む。ALD層25は、グラフェン層15と保護層21の隙間を埋め、かつ孔151の側面と開口22の内壁を連続して覆う。したがって、ALD層25の一部は、グラフェン層15とALD層25の界面にも存在する。ALD層25を設けることで、グラフェン層15と保護層21の間の隙間が埋め込まれ、グラフェン層15への水分や不純物の侵入が防止される。
【0030】
図3Iで、ALD層25の所定の位置にコンタクトホールを形成し、電極14aに接続される電極パッド16aと、電極14bに接続される電極パッド16bを形成して、光学センサデバイス10が得られる。
【0031】
図4は、変形例として、光学センサデバイス10Aを示す。光学センサデバイス10Aは、バックゲートに替えて、埋め込み型のゲート電極18を有する。熱酸化膜を用いた絶縁膜12の上にゲート電極18が設けられ、ゲート電極18を覆って、別の絶縁膜17が設けられる。グラフェン層15は、絶縁膜17の上に配置される。グラフェン層15の下の絶縁膜17は、ゲート絶縁膜となる。絶縁膜17を介してグラフェン層15にゲート電圧を印加することで、グラフェン層15の電子、ホール等のキャリア密度が制御される。
【0032】
光学センサデバイス10Aでも、グラフェン層15に周期的な孔151の配列が形成され、孔151のエッジ及び側面と保護層21の開口22の内壁が、ALD層25で覆われている。光学センサデバイス10Aの感度と耐候性が向上し、動作の信頼性が得られる。
【0033】
図5は、耐候性改善の必要性を説明する図である。図5の横軸はゲート電圧[V]、縦軸はドレイン電流[A]である。実線は、真空アニールを施したときの電気特性、一点鎖線はアニールなしのサンプルの電気特性である。
【0034】
上述のように、環境変化により光学センサデバイスの電気特性は変化し得る。アニールの有無で、デバイス表面の水分の存否または水分の量が変わる。デバイス表面の水分量の変化は、環境の変化とみることができる。環境が変わることで、ディラックポイントが変化する。ここで、ディラックポイントは、光入射がない状態でドレイン電流が最小になるときのゲート電圧である。理想的には、ゲート電圧0Vにディラックポイントがあることが望ましい。
【0035】
測定用のサンプルとして、ALD層25を設けていない光学センサデバイスを2種類、作製する。ひとつは、作製したデバイスに、150℃で1時間、真空アニールを施したサンプル、もうひとつは、アニールなしのサンプルである。サンプルで、Au/Crの電極14a、及び14bを形成する。電極間の間隔は4.07μmである。電極14aと14bの幅(図1の縦方向の長さ)は8.24μm、グラフェン層15の幅(図1の縦方向の長さ)は5μm、長さ(図1の横方向の長さ)は20μmである。グラフェン層15に、直径200nmの孔を形成する。光入射のない状態で、ゲート電圧を-40Vから+4-Vまで変化させて、流れるドレイン電流を測定する。なお、真空アニールしたサンプルは槽から出さずに冷却して真空中で測定する。
【0036】
アニールなしのサンプルでは、デバイス表面の水分の影響で、ディラックポイントは40Vの近傍にあり、かつ、測定範囲にわたってドレイン電流が大きく変化している。これは、湿度の高い環境でのセンサ特性を表している。一方、真空アニール処理を行ったサンプルのディラックポイントは0Vに近づき、ゲート電圧の絶対値を大きくしても、ドレイン電流の変化はそれほど大きくない。これは、水分の影響の少ない環境でのセンサ特性を表している。
【0037】
環境が変わっても、実線の電気特性が維持されることが望ましい。光学センサデバイス10及び10Aでは、ALD層25を設けることで、水分の侵入を防止してディラックポイントのシフトを抑制する。ALD層25により、アニール処理を施したサンプルと同様の電気特性が実現される。
【0038】
図6は、ALD層25の効果を示す図である。実線は、ALDの後にアニールしたサンプルの電気特性、破線は、ALDの後にアニールせずに真空中で測定した電気特性、一点鎖線は、ALDの後にアニールせずに大気中で測定した電気特性である。真空中の測定は常温での環境を表している。
【0039】
アニールの有無にかかわらず、ディラックポイント、すなわち光入射のない状態でのドレイン電流が最小になるポイントはほぼ一定であり、かつゲート電圧0Vの近傍にある。これは、ALD層25を設けることの効果である。ALD層25を設けた場合、その後のアニールは不要である。アニールなしでもディラックポイントの変動は抑制されるからである。
【0040】
ディラックポイントでは、光が入射したときの電流変化が大きい。ソース・ドレイン間にバイアス電圧をかけることで、電流変化を高感度に読み取ることができる。
【0041】
図7は、ALD層25の効果を示す別の図である。横軸は初期ディラックポイント、縦軸はディラックポイントの測定値である。図中の破線の直線は、初期ディラックポイントの特性を示す。初期ディラックポイントは、10~19Vである。測定点が破線上に載ればALDの効果が無いことになるが、測定点が破線よりも下側にあれば、ディラックポイントが小さくなり、かつ0Vに近づいていることを示す。
【0042】
グレイの丸は、イオンビームエッチングでグラフェン層15に孔151を形成した後に真空アニールしたときのディラックポイントの測定値、白丸は、ALD層25を形成した後に真空アニールしたときのディラックポイントの測定値である。グラフェン層15をイオンビームエッチングで孔151を形成した後にアニールすることで、ディラックポイントを初期ディラックポイントよりも下げることができる。ALD層25を形成した後にアニールしたサンプルでは、ディラックポイントをさらに0Vに近づけることができる。このように、ALD層25により、ディラックポイントを低減し、0Vに近づける効果が得られていることがわかる。
【0043】
図8は、ALD層25の効果を示す別の図である。図7と同様に、横軸は初期ディラックポイント、縦軸はディラックポイントの測定値である。白丸は、グラフェン層15に孔151を形成する前のディラックポイントの測定値、黒丸は、孔141を形成した後のディラックポイントの測定値である。いずれもアニールを施していない。ディラックポイントの測定値は、イオンビームエッチング後のサンプルは40Vの近傍にあり、図5のアニールなしのサンプルの特性と一致する。イオンビームエッチング前でも、ディラックポイントは35Vの近傍にある。
【0044】
グレイの丸は、グラフェン層15のエッチングの後にアニールしたときのディラックポイントの測定値、白の三角は、グラフェン層15のエッチング後にアニールせずにALD層25を形成し、大気中で測定したディラックポイントの測定値である。アニールすることで、ディラックポイントを10V以下に低減することにできる。この測定結果は、図5のアニール有りのサンプルの特性と一致する。
【0045】
別途にアニール処理を施さなくても、ALD層25を形成することで、ディラックポイントをさらに0Vに近づけることができる。ALD層25を形成することで、グラフェン層15の孔151を形成後に真空アニールするときと同等以上の効果が達成される。換言すると、グラフェン層15への孔151の形成後にアニール処理を施さなくても、ALD層25を形成する際にアニールされ、グラフェンへの水分、不純物等の侵入を防止して、ディラックポイントを0V近傍に低減できる。
【0046】
プロセス的には、アニール処理を施すよりも、ALD層25を形成する方が容易であり短時間ですむ。また、ディラックポイントが0Vの近傍にあるということは、光入射のない初期の状態でのゲート電圧を0Vの近傍に設定できるので、消費電力を低減できる。また、図6を参照して説明したように、ALD層25を設けることで、周囲環境が変化してもディラックポイントの変動は抑制され、耐候性に優れた光学センサデバイス10または10Aが実現される。
【0047】
以上、特定の例に基づいて本開示を説明してきたが、本開示は、上述した例に限定されない。グラフェン層15の形状(幅、長さを含む)、層数は、適切に設計され得る。グラフェン層15に形成される孔151は円形孔に限定されず、多角形、楕円等の孔であってもよい。孔151の配置は、図1のようにマトリクス状の配置に限定されず、互い違いの配置、または細密配置であってもよい。ALD層25はAlに限定されず、プラズマALDでHfO、SiO等の金属酸化物や、TaN、SiNのような金属窒化物の薄膜を形成してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10、10A 光学センサデバイス
11 基板
12 絶縁膜
14a、14b 電極
15 グラフェン層
151 孔
16a、16b 電極パッド
18、19 ゲート電極
21 保護層
22 開口
25 ALD層(薄膜)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4
図5
図6
図7
図8