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特許7563190双方向絶縁型DC-DCコンバータおよび制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】双方向絶縁型DC-DCコンバータおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02M3/28 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021005501
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110235
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 一徳
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-202708(JP,A)
【文献】特許第6747569(JP,B1)
【文献】特開2022-043627(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0365005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00 - 3/44
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスを介して結合され、第1,第2直流電源間に配置される第1,第2コンバータ部と、
前記第1,第2コンバータ部による電力伝送の出力電力を制御する制御回路と、
を備え、
前記第1直流電源の直流電圧は、前記第2直流電源の直流電圧よりも低い、または当該第2直流電源の直流電圧と同等であり、
前記第1コンバータ部は、前記第1直流電源と前記トランスの一次側との間に接続され、
第1,第2半導体スイッチング素子が直列接続された第1スイッチングアームと、第3,第4半導体スイッチング素子が直列接続された第2スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、
前記第2コンバータ部は、前記第2直流電源と前記トランスの二次側に接続され、
第5,第6半導体スイッチング素子が直列接続された第3スイッチングアームと、第7,第8半導体スイッチング素子が直列接続された第4スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、
前記制御回路は、前記第1,第2コンバータ部の各半導体スイッチング素子のゲート信号をそれぞれ生成するゲート信号生成部を備え、
前記第1コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する一次側パルス幅指令値と、
前記第2コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する二次側パルス幅指令値と、
前記一次側パルス幅指令値および前記二次側パルス幅指令値の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値と、
を演算し、
前記ゲート信号生成部は、前記第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号において、
前記トランスの入力電流または出力電流から検出した電流検出値と、
前記一次側パルス幅指令値と、
前記二次側パルス幅指令値と、
前記第1コンバータ部の直流側から検出した一次側電圧検出値と、
前記第2コンバータ部の直流側から検出した二次側電圧検出値と、
三角波キャリア信号と、
に基づいて、前記第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成し、
前記電流検出値は、
前記三角波キャリア信号の山部および谷部のうち何れか一方において、当該一方の頂点から遅延したタイミングでサンプリングされ、
ローパスフィルタにより、前記三角波キャリア信号の周波数であるスイッチング周波数よりも大きい高周波成分が、当該電流検出値から除去され
前記制御回路により、前記電流検出値が電流指令値となるように制御される、
ことを特徴とする双方向絶縁型DC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記制御回路は、前記遅延したタイミングでサンプリングされた前記電流検出値と、前記二次側電圧検出値と、前記第2コンバータ部の直流側において設定された電圧指令値と、に基づいて前記位相差指令値を生成することを特徴とする請求項1記載の双方向絶縁型DC-DCコンバータ。
【請求項3】
前記一次側パルス幅指令値をW前記二次側パルス幅指令値をW前記一次側電圧検出値をVdc1、二次側電圧検出値をVdc2、位相差指令値をθとして、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の双方向絶縁型DC-DCコンバータ。
【数5】
【請求項4】
下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項3記載の双方向絶縁型DC-DCコンバータ。
【数6】
【請求項5】
トランスを介して結合され、第1,第2直流電源間に配置される第1,第2コンバータ部と、
前記第1,第2コンバータ部による電力伝送の出力電力を制御する制御回路と、
を備えた双方向絶縁型DC-DCコンバータの制御方法であって、
前記第1直流電源の直流電圧は、前記第2直流電源の直流電圧よりも低い、または当該第2直流電源の直流電圧と同等であり、
前記第1コンバータ部は、前記第1直流電源と前記トランスの一次側との間に接続され、
第1,第2半導体スイッチング素子が直列接続された第1スイッチングアームと、第3,第4半導体スイッチング素子が直列接続された第2スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、
前記第2コンバータ部は、前記第2直流電源とトランスの二次側に接続され、
第5,第6半導体スイッチング素子が直列接続された第3スイッチングアームと、第7,第8半導体スイッチング素子が直列接続された第4スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、
前記制御回路は、前記第1,第2コンバータ部の各半導体スイッチング素子のゲート信号をそれぞれ生成するゲート信号生成部を備え、
前記第1コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する一次側パルス幅指令値と、
前記第2コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する二次側パルス幅指令値と、
前記一次側パルス幅指令値および前記二次側パルス幅指令値の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値と、
を演算し、
前記ゲート信号生成部は、前記第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号において、
前記トランスの入力電流または出力電流から検出した電流検出値と、
前記一次側パルス幅指令値と、
前記二次側パルス幅指令値と、
前記第1コンバータ部の直流側から検出した一次側電圧検出値と、
前記第2コンバータ部の直流側から検出した二次側電圧検出値と、
三角波キャリア信号と、
に基づいて、前記第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成し、
前記電流検出値は、
前記三角波キャリア信号の山部および谷部のうち何れか一方において、当該一方の頂点から遅延したタイミングでサンプリングされ、
ローパスフィルタにより、前記三角波キャリア信号の周波数であるスイッチング周波数よりも大きい高周波成分が、当該電流検出値から除去され
前記制御回路により、前記電流検出値が電流指令値となるように制御される、
ことを特徴とする双方向絶縁型DC-DCコンバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方向絶縁型DC-DCコンバータおよび制御方法に係るものであって、例えば双方向絶縁型DC-DCコンバータの変換効率に貢献可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の分野で適用(例えばバッテリシミュレータ等の産業用機器に適用)されている直流電源装置の一例として、2つの直流電源(後述の図1では第1,第2直流電源1,2)間を双方向絶縁型DC-DCコンバータ(以下、単に双方向コンバータと適宜称する)により電力伝送(双方向に電力伝送)する構成がある。
【0003】
電力伝送においては、例えば直流電源装置の一次側直流電力をスイッチング素子等により交流電力に変換してトランス一次側に流し、当該トランス二次側に伝送された交流電力をスイッチング素子により整流して直流電力に変換することが挙げられる。
【0004】
トランスは、体積が印加電圧の周波数に依存することから、当該周波数が高い構成とした場合には、小型化することが可能となる。しかしながら、前述のようにスイッチング素子により電力を変換する場合に発生し得るスイッチング損失は、周波数にほぼ比例するものである。このため、双方向コンバータにおいて単に周波数が高くなるような構成にした場合には、当該双方向コンバータの損失が増大してしまうおそれがある。
【0005】
近年、双方向コンバータの1スイッチングあたりのスイッチング損失を低減したり、当該双方向コンバータの小型化と低損失化を両立させる構成として、Dual Active Bridge方式によるものが研究されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
このDual Active Bridge方式の双方向コンバータは、双方向に電圧変換可能な一対のコンバータ部(後述の図1では第1,第2コンバータ部4,10)がトランス等によって結合された結合回路(以下、単にDAB回路と適宜称する)を備えている。そして、DAB回路の各コンバータ部のスイッチング素子において、それぞれゲート信号を出力して適宜スイッチング制御することにより、当該各コンバータ部間で所望の電力伝送ができるような構成となっている。また、スイッチング素子に対してコンデンサを並列接続したり、トランスに対してリアクトルを直列接続した構成もある。
【0007】
また、スイッチング素子のデッドタイム中にコンデンサとリアクトルによる共振現象を利用し、スイッチング素子の印加電圧をゼロにしてゼロ電圧スイッチングを図った構成もあり、当該スイッチング素子のターンオン損失をゼロにすることも可能となっている。
【0008】
ところで、双方向コンバータの制御構成においては、例えばDAB回路二次側の直流出力部(後述の図1では第2平滑コンデンサ11等)の直流電圧を検出し、その検出結果に基づいて電圧制御するものがある。この電圧制御の場合、外部からの電圧指令どおりの直流電圧を出力できるように、双方向コンバータを動作させることとなる。
【0009】
しかしながら、双方向コンバータの構成部品であるトランスやスイッチング素子は、許容電流が限られているため、前述のように単なる電圧制御による制御構成の場合には、例えば起動時の突入電流や、負荷急変時の電流増大により、当該構成部品の焼損や破壊等の事態を招く可能性がある。
【0010】
このような事態を抑制するものとして、電流制御を適用した制御構成が挙げられる。例えば特許文献1では、DAB回路二次側の直流出力部の電流(負荷電流)を検出し、その検出結果に基づいて電流制御をする技術が提案されている。
【0011】
非特許文献1や特許文献1に示すような双方向コンバータ(以下、単に従来コンバータJ1と適宜称する)による電力伝送では、例えばDAB回路一次側のスイッチング素子のスイッチング制御によってトランス一次側に電圧を印加した場合、トランス二次側に電圧が誘導され、その誘導した電圧をDAB回路二次側のスイッチング素子によって整流する。DAB回路二次側の直流出力部にコンデンサ(後述の図1では第2平滑コンデンサ11)が接続されている場合には、当該整流によってコンデンサが充電されることとなる。
【0012】
ここで、従来コンバータJ1において、トランスの一次側,二次側のリアクトルによるインダクタンスや、コンデンサのキャパシタンスが存在する場合には、前記電力伝送において応答遅れが生じ得る。そして、前記応答遅れの後、DAB回路二次側に接続されている負荷(接続機器等)との間の電圧差によって、当該DAB回路二次側から負荷等に電流が流れだすこととなる。
【0013】
このような応答遅れを伴う電力伝送では、DAB回路一次側をスイッチング制御してからDAB回路二次側の直流出力部の電流の増加に至るまでには、時間がかかってしまう。すなわち、制御において無駄な時間がかかってしまい、制御応答が遅くなってしまう。
【0014】
また、従来コンバータJ1は、トランスの入出力電流(入力電流または出力電流)等を直接検出していない構成であるため、例えばDAB回路二次側の短絡などによってトランスに過電流が発生した場合には、当該トランスを保護することが困難となるおそれがある。
【0015】
そもそも、DAB回路におけるトランスを通過する電流は、当該DAB回路のスイッチング周波数程度(例えば10kHz~100kHz程度)の高周波交流である。このような高周波交流の電流を検出するためには、検出周波数の10倍程度のサンプリング周波数で検出することが必要、すなわち非常に高価なハードウェアを要することも考えられる。
【0016】
以上のような従来コンバータJ1の課題を解決するために、特許文献2では、DAB回路のトランスの入出力電流等を直接検出する構成(以下、単に従来コンバータJ2と適宜称する)を検討している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】井上重徳、赤木泰文、「双方向絶縁形DC/DCコンバータの動作電圧と損失解析」、電気学会論文誌D、127巻2号、2007年、pp189-pp197.
【文献】比嘉隼、長野剛、伊藤淳一、「デュアルアクティブブリッジコンバータの制御法に応じたトランスの低損失化に関する検討」、平成27年電気学会全国大会、No.4-077、pp130-pp131.
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2014-087134号公報
【文献】特開2020-150574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従来コンバータJ2の場合、DAB回路一次側・二次側それぞれの直流電圧の差が大きくなると、スイッチング損失,導通損,銅損等も大きくなり、これにより双方向コンバータの制御応答が遅くなってしまうおそれが考えられ得る。
【0020】
本発明は、かかる技術的課題を鑑みてなされたものであって、双方向コンバータの制御応答の向上や構成部品の保護に貢献可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明の一態様は、トランスを介して結合され、第1,第2直流電源間に配置される第1,第2コンバータ部と、
第1,第2コンバータ部による電力伝送の出力電力を制御する制御回路と、を備えた双方向絶縁型DC-DCコンバータである。
【0022】
この一態様の双方向絶縁型DC-DCコンバータにおいては、第1直流電源の直流電圧は、第2直流電源の直流電圧よりも低い、または当該第2直流電源の直流電圧と同等であり、第1コンバータ部は、第1直流電源とトランスの一次側との間に接続され、第1,第2半導体スイッチング素子が直列接続された第1スイッチングアームと、第3,第4半導体スイッチング素子が直列接続された第2スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、第2コンバータ部は、第2直流電源とトランスの二次側に接続され、第5,第6半導体スイッチング素子が直列接続された第3スイッチングアームと、第7,第8半導体スイッチング素子が直列接続された第4スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有しているものとする。
【0023】
また、制御回路は、第1,第2コンバータ部の各半導体スイッチング素子のゲート信号をそれぞれ生成するゲート信号生成部を備え、第1コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する一次側パルス幅指令値と、第2コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する二次側パルス幅指令値と、一次側パルス幅指令値および二次側パルス幅指令値の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値と、を演算する。
【0024】
また、ゲート信号生成部は、第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号において、トランスの入力電流または出力電流から検出した電流検出値と、一次側パルス幅指令値と、二次側パルス幅指令値と、第1コンバータ部の直流側から検出した一次側電圧検出値と、第2コンバータ部の直流側から検出した二次側電圧検出値と、三角波キャリア信号と、に基づいて、第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成する。
【0025】
そして、前記電流検出値は、前記三角波キャリア信号の山部および谷部のうち何れか一方において、当該一方の頂点から遅延したタイミングでサンプリングされ、ローパスフィルタにより、前記三角波キャリア信号の周波数であるスイッチング周波数よりも大きい高周波成分が、当該電流検出値から除去され、前記制御回路により、前記電流検出値が電流指令値となるように制御される、ことを特徴とする。
【0026】
また、制御回路は、前記遅延したタイミングでサンプリングされた電流検出値と、二次側電圧検出値と、第2コンバータ部の直流側において設定された電圧指令値と、に基づいて位相差指令値を生成することを特徴としても良い。
【0027】
また、一次側パルス幅指令値をW1、二次側パルス幅指令値をW2、一次側電圧検出値をVdc1、二次側電圧検出値をVdc2、位相差指令値をθとして、下記(1)式を満たすことを特徴としても良い。
【0028】
【数1】
【0029】
また、下記(2)式を満たすことを特徴としても良い。
【0030】
【数2】
【0031】
他の態様は、トランスを介して結合され、第1,第2直流電源間に配置される第1,第2コンバータ部と、第1,第2コンバータ部による電力伝送の出力電力を制御する制御回路と、を備えた双方向絶縁型DC-DCコンバータの制御方法である。
【0032】
この他の態様の双方向絶縁型DC-DCコンバータの制御方法においては、第1直流電源の直流電圧は、第2直流電源の直流電圧よりも低い、または当該第2直流電源の直流電圧と同等であり、第1コンバータ部は、第1直流電源とトランスの一次側との間に接続され、第1,第2半導体スイッチング素子が直列接続された第1スイッチングアームと、第3,第4半導体スイッチング素子が直列接続された第2スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有し、第2コンバータ部は、第2直流電源とトランスの二次側に接続され、第5,第6半導体スイッチング素子が直列接続された第3スイッチングアームと、第7,第8半導体スイッチング素子が直列接続された第4スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路を有しているものとする。
【0033】
また、制御回路は、第1,第2コンバータ部の各半導体スイッチング素子のゲート信号をそれぞれ生成するゲート信号生成部を備え、第1コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する一次側パルス幅指令値と、第2コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する二次側パルス幅指令値と、一次側パルス幅指令値および二次側パルス幅指令値の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値と、を演算する。
【0034】
ゲート信号生成部は、第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号において、トランスの入力電流または出力電流から検出した電流検出値と、一次側パルス幅指令値と、二次側パルス幅指令値と、第1コンバータ部の直流側から検出した一次側電圧検出値と、第2コンバータ部の直流側から検出した二次側電圧検出値と、三角波キャリア信号と、に基づいて、第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成する。
【0035】
そして、前記電流検出値は、前記三角波キャリア信号の山部および谷部のうち何れか一方において、当該一方の頂点から遅延したタイミングでサンプリングされ、ローパスフィルタにより、前記三角波キャリア信号の周波数であるスイッチング周波数よりも大きい高周波成分が、当該電流検出値から除去され、前記制御回路により、前記電流検出値が電流指令値となるように制御される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
以上示したように本発明によれば、双方向コンバータの制御応答の向上や構成部品の保護に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本実施形態の一例である双方向コンバータSを説明するための直流電源装置の概略構成図(双方向コンバータSの主回路構成を説明する図)。
図2】制御回路200の制御構成図
図3】制御回路200における一次側ゲート信号生成部281の内部構成例を示す構成図。
図4】制御回路200の制御動作例を説明する波形図(三角波キャリア信号A、被比較波、一次側スイッチング信号、交流電圧V1)。
図5】制御回路200における二次側ゲート信号生成部282の内部構成例を示す構成図。
図6】制御回路200の制御動作例を説明する波形図(三角波キャリア信号B、被比較波、二次側スイッチング信号、交流電圧V2)。
図7】制御回路200における電流検出値のサンプリングの一例を説明する波形図(三角波キャリア信号A,B、被比較波、交流電圧V1,V2、電流検出値I1,Ifil)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態における双方向コンバータおよび制御方法の制御構成は、例えば、従来コンバータJ1のように単にDAB回路二次側の直流出力部の電流検出値等に基づいて電流制御する構成や、従来コンバータJ2のように単にDAB回路のトランスの入出力電流等を直接検出して電流制御する構成とは、全く異なるものである。
【0039】
すなわち、本実施形態による制御構成は、第1,第2直流電源間のDAB回路の電力伝送の出力電力を制御する制御回路において、当該DAB回路一次側に配置される第1コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する一次側パルス幅指令値と、当該DAB回路二次側に配置される第2コンバータ部の出力電圧のパルス幅を決定する二次側パルス幅指令値と、一次側パルス幅指令値および二次側パルス幅指令値の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値と、を演算する。第1直流電源の直流電圧は、第2直流電源の直流電圧よりも低い、または当該第2直流電源の直流電圧と同等とする。
【0040】
また、第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号においては、トランスの入力電流または出力電流から検出した電流検出値と、一次側パルス幅指令値と、二次側パルス幅指令値と、第1コンバータ部の直流側から検出した一次側電圧検出値と、第2コンバータ部の直流側から検出した二次側電圧検出値と、三角波キャリア信号と、に基づいて、当該第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成する。
【0041】
そして、前記電流検出値においては、前記三角波キャリア信号の山部および谷部のうち何れか一方において、当該一方の頂点から遅延したサンプリング点でサンプリングされ、ローパスフィルタにより、前記三角波キャリア信号の周波数であるスイッチング周波数よりも大きい高周波成分が、当該電流検出値から除去され、前記制御回路により、前記電流検出値が電流指令値となるように制御されるものとする。
【0042】
このような本実施形態の制御構成によれば、トランスの入力電流または出力電流の検出値を電流制御に適用するものであるため、例えば従来コンバータJ1で生じ得るような制御応答遅れを抑制することができる。また、当該電流検出値によれば、トランスに発生し得る過電流の有無を適宜把握することが容易となる。
【0043】
また、第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号において、第1コンバータ部の入出力力率が1となるように生成するため、例えば各スイッチング素子,リアクトル,トランスの通過電流を低減することができる。これにより、例えばDAB回路一次側・二次側それぞれの直流電圧の差が大きい場合であっても、スイッチング損,導通損,銅損を十分抑制(例えば従来コンバータJ2と比較して十分抑制)することが可能となる。
【0044】
ゆえに、双方向コンバータの制御応答の向上や構成部品の保護に貢献可能となる。このような貢献によれば、例えば直流電源装置に接続された負荷(接続機器等)について高精度な負荷運転ができ、また、当該直流電源装置の信頼性を向上できる可能性がある。
【0045】
本実施形態の双方向コンバータおよび制御方法は、前述のように、DAB回路一次側に配置される第1コンバータ部の入出力力率が1となるように、第2コンバータ部の各スイッチング素子のゲート信号を適宜生成できるものであれば、種々の分野(例えば、電力変換技術等の分野)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下に示す実施例が挙げられる。
【0046】
なお、以下の実施例では、例えば互いに同様の内容について同一符号を引用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。また、主として、後述の直流電源1の直流電圧が後述の直流電源2の直流電圧よりも低い場合、または当該直流電源1,2の各直流電圧が同等の場合を想定して説明する。
【0047】
《実施例》
図1に示す直流電源装置は、本実施形態の一例である双方向コンバータSを説明するためのものである。図1に示す双方向コンバータSは、DAB回路100と制御回路200を主として備え、2つの直流電源1,2の両者間に介在して電力伝送(双方向に電力伝送)できるように構成されている。
【0048】
DAB回路100は、直流電源1に並列に接続された第1平滑コンデンサ3と、スイッチング回路を有した第1コンバータ部4と、絶縁されたトランスとしての高周波トランス8と、スイッチング回路を有した第2コンバータ部10と、直流電源2に並列に接続された第2平滑コンデンサ11と、を主として備えている。
【0049】
第1コンバータ部4のスイッチング回路は、例えばIGBTやMOSFET等を用いて成る複数の半導体スイッチング素子5a~5d(以下、単にスイッチ5a~5dと適宜称する)を有した構成(フルブリッジ回路構成)である。
【0050】
図1の第1コンバータ部4のスイッチング回路の場合、直列接続されたスイッチ5a,5bから成る第1スイッチングアームと、直列接続されたスイッチ5c,5dから成る第2スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路で構成されている。
【0051】
そして、第1コンバータ部4の直流側が第1平滑コンデンサ3に接続され、当該第1コンバータ部4の交流側が高周波トランス8の第1巻線(一次側)8aに接続されており、直流/交流間の双方向の電力変換を行うことが可能な構成となっている。
【0052】
図1中の各スイッチ5a~5dの場合、それぞれダイオードが逆並列接続されている。また、各スイッチ5a~5dには、それぞれ並列にコンデンサ6a~6dが接続され、ゼロ電圧スイッチング回路構成となっている。このゼロ電圧スイッチング回路構成により、各スイッチ5a~5dのターンオン時において、各素子の両端電圧をほぼゼロ電圧にすることも可能となる。
【0053】
また、各スイッチ5a~5dとトランス8との間の交流入出力線には、第1リアクトル7が接続され、当該第1リアクトル7と第1巻線8aとが直列接続された構成となっている。
【0054】
第2コンバータ部10のスイッチング回路は、第1コンバータ部4の場合と同様に、例えばIGBTやMOSFET等を用いて成る複数のスイッチ12a~12dを有した構成(フルブリッジ回路構成)である。
【0055】
図1の第2コンバータ部10のスイッチング回路の場合、直列接続されたスイッチ12a,12bから成る第3スイッチングアームと、直列接続されたスイッチ12c,12dから成る第4スイッチングアームと、が並列接続された単相フルブリッジ回路で構成されている。
【0056】
そして、第2コンバータ部10の直流側が第2平滑コンデンサ11に接続され、当該第2コンバータ部10の交流側がトランス8の第2巻線(二次側)8bに接続されており、直流/交流間の双方向の電力変換を行うことが可能な構成となっている。
【0057】
図1中の各スイッチ12a~12dの場合も、それぞれダイオードが逆並列接続されている。また、各スイッチ12a~12dには、それぞれ並列にコンデンサ13a~13dが接続され、ゼロ電圧スイッチング回路構成となっている。このゼロ電圧スイッチング回路構成により、各スイッチ12a~12dのターンオン時において、各素子の両端電圧をほぼゼロ電圧にすることも可能となる。
【0058】
また、各スイッチ12a~12dとトランス8との間の交流入出力線には、第2リアクトル9が接続され、当該第2リアクトル9と第2巻線8bとが直列接続された構成となっている。
【0059】
DAB回路100においては、交流電流Iを検出する電流検出器20が設置されている。この電流検出器20は、前述のように交流電流Iを検出できるものであれば、種々の態様を適用することができ、その設置位置も適宜変更することが可能である。電流検出器20の具体例としては、例えばホールCT等のセンサを用いてなるものが挙げられる。また、電流検出器20の設置位置においては、トランス8の一次側または二次側において交流電流Iを検出できる位置が挙げられる。
【0060】
図1の電流検出器20の場合、トランス8の一次側(第1コンバータ部4とトランス8の第1巻線8aとの間)において交流電流Iを検出する構成となっているが、例えばスイッチ5a,5bの共通接続点と第1リアクトル7との間や、スイッチ5c,5dの共通接続点と第1巻線8aとの間で検出する構成であっても良い。このように検出された電流検出値(後述の図7では電流検出値I1)は、制御回路200に入力されることとなる。
【0061】
また、DAB回路100の第1コンバータ部4直流側には、当該直流側の直流電圧を検出する一次側電圧検出器31が設置されている。また、第2コンバータ部10直流側には、当該直流側の直流電圧を検出する二次側電圧検出器32が設置されている。これら一次側電圧検出器31,二次側電圧検出器32は、前述のように直流電圧を検出できるものであれば、種々の態様を適用することができ、その設置位置も適宜変更することが可能である。
【0062】
図1の場合、一次側電圧検出器31は第1平滑コンデンサ3と直流電源1との間に設置され、二次側電圧検出器32は第2平滑コンデンサ11と直流電源2との間に設置されている。これにより、一次側電圧検出器31,二次側電圧検出器32は、それぞれ第1,第2平滑コンデンサ3,11の直流電圧を検出できる構成となっている。このように検出された各電圧検出値(一次側電圧検出値,二次側電圧検出値)も、制御回路200に入力されることとなる。
【0063】
制御回路200は、電流検出器20で検出された電流検出値と、一次側電圧検出器31,二次側電圧検出器32で検出された各電圧検出値と、が入力される。また、第2コンバータ部10直流側における所望の電圧指令値が設定されており、所望の三角波キャリア信号を生成できるようになっている。
【0064】
また、制御回路200は、電流検出値,各電圧検出値,電圧指令値,三角波キャリア信号(例えば後述の三角波キャリア信号Aや三角波キャリア信号B)に基づいて、第1,第2コンバータ部4,10の各スイッチ5a~5d,12a~12dをそれぞれスイッチング制御するゲート信号G-5(具体的には、各スイッチ5a~5d毎のゲート信号G-5a~G-5d;オンオフ指令信号),G-12(具体的には、各スイッチ12a~12d毎のゲート信号G-12a~G-12d;オンオフ指令信号)を生成できるようになっている。
【0065】
そして、制御回路200は、前記生成されたゲート信号G-5,G-12を各スイッチ5a~5d,12a~12dにそれぞれ送信し、第1,第2コンバータ部4,10の各々のスイッチング回路を駆動制御できるような制御構成となっている。
【0066】
また、各スイッチ5a~5dとトランス8との間の交流入出力線には、第1リアクトル7が接続され、当該第1リアクトル7と第1巻線8aとが直列接続された構成となっている。
【0067】
以上示した双方向コンバータSにおいては、目的に応じて適宜設計変更することができる。例えば、コンデンサ6a~6d,13a~13dや第1,第2リアクトル7,9は、適宜省略しても良い。
【0068】
また、制御回路200においても、前述のように第1,第2コンバータ部4,10の各々のスイッチング回路を駆動制御できるような制御構成であれば、種々の態様を適用することができ、具体例としては以下に示す構成例が挙げられる。
【0069】
〈制御回路200の構成例〉
図2は、制御回路200の構成例を示すものである。図2の制御回路の場合、電圧検出ローパスフィルタ部(LPF:Low-Pass Filter)210,220、電流検出ローパスフィルタ部230、電圧制御部(AVR:Automatic Voltage Regurator)240、電流制限部250、電流制御部(ACR:Automatic Current Regurator)260、パルス幅演算部270、一次側ゲート信号生成部281、二次側ゲート信号生成部282、三角波生成部300、ADC部(ADC:Analog-to―Digital Converter)310を、主として備えている。
【0070】
電圧検出ローパスフィルタ部210には、一次側電圧検出器31で検出された一次側電圧検出値が入力され、電圧検出ローパスフィルタ部220には、二次側電圧検出器32で検出された二次側電圧検出値が入力される。これら電圧検出ローパスフィルタ部210,220により、前記入力された一次側電圧検出値,二次側電圧検出値の高周波のノイズ成分を、それぞれ除去できる構成となっている。
【0071】
減算器24aは、電圧検出ローパスフィルタ部220の出力と電圧指令値との差分を導出するものであり、当該差分を電圧制御部240に入力できる構成となっている。
【0072】
電圧制御部240は、減算器24aの出力に基づいて、二次側電圧検出値が電圧指令値となるように制御できる構成となっている。この電圧制御部240の制御構成は、例えばPID補償器等を用いてなる構成が挙げられる。そして、電圧制御部240の出力は、電流指令値となって適用されることとなる。
【0073】
電流制限部250は、電流指令値に係る許容電流値が予め設定されているものであり、電圧制御部240から入力された電流指令値を、許容電流値以下となるように制限できる構成となっている。
【0074】
三角波生成部300は、各スイッチ5a~5d,12a~12dのスイッチング、および交流電流Iの検出のサンプルの基準となる三角波キャリア信号Aを生成できる構成となっている。三角波キャリア信号Aにおいては、当該三角波キャリア信号Aの周波数がスイッチング周波数(fc)となり、三角波キャリア信号Aの平均値がゼロとなるようにした正負対称(最大値1、最小値-1の正負対称)の信号である。このような三角波キャリア信号Aにより、例えば後述の図4に示すように、当該三角波キャリア信号Aの正の部分が山部となり、負の部分が谷部として現れることとなる。
【0075】
電流検出器20で検出した電流検出値は、電流検出ローパスフィルタ部230に入力され、高周波のノイズ成分が除去される。そして、電流検出ローパスフィルタ部230の出力と、三角波生成部300で生成した三角波キャリア信号が、それぞれADC部310に入力される。
【0076】
ADC部310は、電流検出ローパスフィルタ部230でノイズを除去した電流検出値を、デジタル値に変換してサンプリングできる構成となっている。この電流検出値の変換およびサンプリングのタイミングは、三角波キャリア信号Aの山部および谷部のうち何れか一方であって、当該一方の頂点から遅延したサンプリング点(後述の図7では例えば記号「▽」で示されたサンプル点)としている。
【0077】
減算器26aは、電流制限部250の出力とADC部310の出力との差分を導出するものであり、その差分を電流制御部260に入力できる構成となっている。
【0078】
電流制御部260は、減算器26aの出力に基づいて、電流検出値が電流指令値となるように制御できる構成となっている。この電流制御部260の制御構成は、例えばPID補償器等を用いてなる構成が挙げられる。そして、電流制御部260の出力は、位相差指令値θとなって適用されることとなる。
【0079】
位相差指令値θは、電圧検出ローパスフィルタ部210,220から出力された各電圧検出値(フィルタ後の一次側電圧検出値,二次側電圧検出値)および第1コンバータ部4の一次側パルス幅指令値W1とともに、パルス幅演算部270に入力される。一次側パルス幅指令値W1においては、例えば予め制御回路200に設定されたパルス幅である。
【0080】
パルス幅演算部270は、例えば後述の演算例に示すように、第2コンバータ部10の二次側パルス幅指令値W2を演算できる構成となっている。
【0081】
一次側ゲート信号生成部281は、一次側パルス幅指令値W1と、三角波生成部300で生成された三角波キャリア信号Aと、が入力され、ゲート信号G-5を生成できる構成となっている。
【0082】
二次側ゲート信号生成部282は、二次側パルス幅指令値W2と、三角波生成部300で生成された三角波キャリア信号Aと、位相差指令値θと、が入力され、二次側ゲート信号G-12を生成できる構成となっている。
【0083】
〈パルス幅演算部270による演算例〉
例えば非特許文献2に示されている内容によると、図1に示した双方向コンバータSの第1リアクトル7に流れる電流I(つまり電流検出器20で検出した電流検出値)を低減することにより、銅損,導通損失を抑制できることが読み取れる。
【0084】
また、第1リアクトル7に流れる電流が最小となる条件の一つとしては、直流電圧が大きい方のインバータ(図1では第2コンバータ部10のスイッチング回路)が高周波トランスやリアクトルに供給される無効電力をすべて負担し、当該直流電圧が小さい方のインバータ(本実施例においては第1コンバータ部4のスイッチング回路)を力率1で運転することが読み取れる。
【0085】
そこで、パルス幅演算部270においては、前記非特許文献2の内容により、下記(1)式を満たすように二次側パルス幅指令値W2を演算することが挙げられる。なお、下記(1)式において、Vdc1は第1コンバータ部4の出力電圧のパルス幅を決定する一次側電圧検出値、Vdc2は第2コンバータ部10の出力電圧のパルス幅を決定する二次側電圧検出値、θは一次側パルス幅指令値W1および二次側パルス幅指令値W2の出力電圧の位相差を決定する位相差指令値(rad)とする。また、一次側パルス幅指令値W1は任意の固定値とし、W1は0<W1≦1を満たし、W2は0<W2≦1を満たすものとする。
【0086】
【数3】
【0087】
この(1)式においてVdc1が小さ過ぎる場合には、W1=1としても、力率1の運転ができなくなることが考えられ得る。このような場合、パルス幅演算部270においては、下記(2)式を満たす範囲で演算動作することが挙げられる。
【0088】
【数4】
【0089】
以上のようにパルス幅演算部270を演算動作させることにより、図1に示した双方向コンバータSの第1リアクトル7に流れる電流Iを低減し、銅損,導通損失を抑制できることとなる。
【0090】
〈一次側ゲート信号生成部281によるゲート信号G-5の生成例〉
制御回路200の一次側ゲート信号生成部281においては、例えば図3に示すような構成を適用し、下記のとおり制御動作させることが挙げられる。
【0091】
図3に示す一次側ゲート信号生成部281の場合、演算部400、矩形波生成部410、乗算器421,422、三角波比較部431,432、デッドタイム生成部441,442,443,444を、主として備えている。
【0092】
この一次側ゲート信号生成部281には、あらかじめ制御回路200に設定された一次側パルス幅指令値W1が、入力される。一次側パルス幅指令値W1は、演算部400に入力されて1-W1の値に変換されることとなる(すなわち、W1は0<W1≦1を満たす場合には、0≦(1-W1)<1となる)。
【0093】
矩形波生成部410は、三角波キャリア信号Aに同期した2種類の矩形波信号を生成し、その生成した各矩形波信号をそれぞれ乗算器421,422に入力できる構成となっている。具体的に、三角波キャリア信号Aの立ち上がり時(傾きが正の時)に-1、立ち下がり時(傾きが負の時)に+1とした矩形波信号は、乗算器421に入力する。また、三角波キャリア信号Aの立ち上がり時(傾きが正の時)に+1、立ち下がり時(傾きが負の時)に-1とした矩形波信号は、乗算器422に入力する。
【0094】
乗算器421では、矩形波生成部410で生成した矩形波信号において、演算部400で演算した(1-W1)を乗算することにより、第1コンバータ部4のスイッチ5a,5bに係るスイッチング信号G-5a,G-5b用の被比較波(以下、単にG-5a,G-5b用被比較波と適宜称する)にする。このG-5a,G-5b用被比較波は、三角波キャリア信号Aとともに、三角波比較部431に入力される。
【0095】
三角波比較部431では、例えば図4に示すように、G-5a,G-5b用被比較波と三角波キャリア信号Aとの比較結果に基づいて、スイッチング信号G-5a,G-5bを生成する。
【0096】
図4に示すスイッチング信号G-5a,G-5bの場合、G-5a,G-5b用被比較波≦三角波キャリア信号Aとなっている領域において、スイッチ5aがスイッチングオン,スイッチ5bがスイッチングオフとなり、G-5a,G-5b用被比較波>三角波キャリア信号Aとなっている領域においては、スイッチ5aがスイッチングオフ,スイッチ5bがスイッチングオンとなるような信号になっている。
【0097】
このように生成されたスイッチング信号G-5a,G-5bは、それぞれデッドタイム生成部441,442に入力される。そして、デッドタイム生成部441,442により、当該スイッチング信号G-5a,G-5bの立ち上がり部がデッドタイム分削除されて(例えば、デッドタイム分オン信号→オフ信号に修正されて)、それぞれスイッチ5a,5b用のゲート信号G-5a,G-5bとなる。
【0098】
乗算器422では、矩形波生成部410で生成した矩形波信号において、演算部400で演算した(1-W1)を乗算することにより、第1コンバータ部4のスイッチ5c,5dに係るスイッチング信号G-5c,G-5d用の被比較波(以下、単にG-5c,G-5d用被比較波と適宜称する)にする。このG-5c,G-5d用被比較波は、三角波キャリア信号Aとともに、三角波比較部432に入力される。
【0099】
三角波比較部432では、例えば図4に示すように、G-5c,G-5d用被比較波と三角波キャリア信号Aとの比較結果に基づいて、スイッチング信号G-5c,G-5dを生成する。
【0100】
図4に示すスイッチング信号G-5c,G-5dの場合、G-5c,G-5d用被比較波≦三角波キャリア信号Aとなっている領域において、スイッチ5cがスイッチングオフ,スイッチ5dがスイッチングオンとなり、G-5c,G-5d用被比較波>三角波キャリア信号Aとなっている領域においては、スイッチ5cがスイッチングオン,スイッチ5dがスイッチングオフとなるような信号になっている。
【0101】
このように生成されたスイッチング信号G-5c,G-5dは、それぞれデッドタイム生成部443,444に入力される。そして、デッドタイム生成部443,444により、当該スイッチング信号G-5c,G-5dの立ち上がり部がデッドタイム分削除されて(例えば、デッドタイム分オン信号→オフ信号に修正されて)、それぞれスイッチ5c,5d用のゲート信号G-5c,G-5dとなる。
【0102】
〈二次側ゲート信号生成部282によるゲート信号G-12の生成例〉
制御回路200の二次側ゲート信号生成部282においては、例えば図5に示すような構成を適用し、下記のとおり制御動作させることが挙げられる。
【0103】
図5に示す二次側ゲート信号生成部282の場合、演算部500、位相シフト部501、矩形波生成部510、乗算器521,522、三角波比較部531,532、デッドタイム生成部541,542,543,544を、主として備えている。
【0104】
この二次側ゲート信号生成部282には、パルス幅演算部270で演算された二次側パルス幅指令値W2と、電流制御部260で生成された位相差指令値θと、が入力される。
【0105】
演算部500では、二次側パルス幅指令値W2および位相差指令値θから、{(2θ/π)+(W2/2)}と、{(2θ/π)-(W2/2)}と、を演算するように構成されている。
【0106】
位相シフト部501は、三角波生成部300から入力される三角波キャリア信号Aを、90度位相進みの三角波キャリア信号Bに変換するように構成されている。
【0107】
矩形波生成部510は、位相シフト部501から出力された三角波キャリア信号Bが入力され、この三角波キャリア信号Bに同期した矩形波信号を生成し、その生成した矩形波信号を乗算器521,522に入力できる構成となっている。具体的に、三角波キャリア信号Bの立ち上がり時(傾きが正の時)に+1、立ち下がり時(傾きが負の時)に-1とした矩形波信号を、乗算器521,522に入力する。
【0108】
乗算器521では、矩形波生成部510で生成した矩形波信号において、演算部500で演算した{(2θ/π)+(W2/2)}を乗算することにより、第2コンバータ部10のスイッチ12a,12bに係るスイッチング信号G-12a,G-12b用の被比較波(以下、単にG-12a,G-12b用被比較波と適宜称する)にする。このG-12a,G-12b用被比較波は、三角波キャリア信号Bとともに、三角波比較部531に入力される。
【0109】
三角波比較部531では、例えば図6に示すように、G-12a,G-12b用被比較波と三角波キャリア信号Bとの比較結果に基づいて、スイッチング信号G-12a,G-12bを生成する。
【0110】
図6に示すスイッチング信号G-12a,G-12bの場合、G-12a,G-12b用被比較波≦三角波キャリア信号Bとなっている領域において、スイッチ12aがスイッチングオン,スイッチ12bがスイッチングオフとなり、G-12a,G-12b用被比較波>三角波キャリア信号Bとなっている領域においては、スイッチ12aがスイッチングオフ,スイッチ12bがスイッチングオンとなるような信号になっている。
【0111】
このように生成されたスイッチング信号G-12a,G-12bは、それぞれデッドタイム生成部541,542に入力される。そして、デッドタイム生成部541,542により、当該スイッチング信号G-12a,G-12bの立ち上がり部がデッドタイム分削除されて(例えば、デッドタイム分オン信号→オフ信号に修正されて)、それぞれスイッチ12a,12b用のゲート信号G-12a,G-12bとなる。
【0112】
乗算器522では、矩形波生成部510で生成した矩形波信号において、演算部500で演算した{(2θ/π)-(W2/2)}を乗算することにより、第2コンバータ部10のスイッチ12c,12dに係るスイッチング信号G-12c,G-12d用の被比較波(以下、単にG-12c,G-12d用被比較波と適宜称する)にする。このG-12c,G-12d用被比較波は、三角波キャリア信号Bとともに、三角波比較部532に入力される。
【0113】
三角波比較部532では、例えば図6に示すように、G-12c,G-12d用被比較波と三角波キャリア信号Bとの比較結果に基づいて、スイッチング信号G-12c,G-12dを生成する。
【0114】
図6に示すスイッチング信号G-12c,G-12dの場合、G-12c,G-12d用被比較波≦三角波キャリア信号Bとなっている領域において、スイッチ12cがスイッチングオン,スイッチ12dがスイッチングオフとなり、G-12c,G-12d用被比較波>三角波キャリア信号Bとなっている領域においては、スイッチ12cがスイッチングオフ,スイッチ12dがスイッチングオンとなるような信号になっている。
【0115】
このように生成されたスイッチング信号G-12c,G-12dは、それぞれデッドタイム生成部543,544に入力される。そして、デッドタイム生成部543,544により、当該スイッチング信号G-12c,G-12dの立ち上がり部がデッドタイム分削除されて(例えば、デッドタイム分オン信号→オフ信号に修正されて)、それぞれスイッチ12c,12d用のゲート信号G-12c,G-12dとなる。
【0116】
ここで、第2コンバータ部10の出力電圧(交流電圧)を電圧V2とすると、図6のとおり、電圧V2は二次側パルス幅指令値W2となり、三角波キャリア信号Bのゼロクロス点から電圧パルスの中心までの時間はθ/(2πfc)となる。
【0117】
〈制御回路200におけるサンプリングの一例〉
次に、制御回路200における電流検出値のサンプリングの一例を、図7に基づいて説明する。なお、図7においては、第1コンバータ部4の出力電圧(交流電圧)である電圧V1と、第2コンバータ部10の出力電圧(交流電圧)である電圧V2と、電流検出器20で検出された電流検出値I1と、を同一時間軸で描写したものとなっている。
【0118】
図7に示すように、電圧V1と電流検出値I1は、パルス幅演算部270の演算によって力率1の関係(第1コンバータ部4の入出力力率が1)となり、同位相となる。また、三角波キャリア信号Bのゼロクロス点は、三角波キャリア信号Aの山部または谷部の頂点となり、電圧V1の電圧パルスの中心となっている。よって電圧V1と電圧V2の電圧パルスの中心間の時間はθ/(2πfc)となり、電圧V1と電圧V2の位相差指令値はθ[rad]となっている。
【0119】
電流検出値I1には高周波成分が少なからず含まれているが、当該電流検出値I1の基本波成分のピークにおいては、電圧V1の電圧パルスの中央、つまり三角波キャリア信号Aの山部または谷部の頂点側となる。制御回路200の場合、電流検出値I1においては、電流検出ローパスフィルタ部230に入力されるため、前記のような高周波数成分は除去されることとなる。
【0120】
この電流検出ローパスフィルタ部230において、例えば時定数をスイッチング周波数fcの3倍程度とすることにより、周波数fcの基本波成分は減衰せずに、3次高調波以上の高周波数成分が低減されることとなる。このように電流検出ローパスフィルタ部230を通過した後の電流検出値I1の信号波形は、図7に示す電流信号Ifilのようにほぼ正弦波となる。
【0121】
この電流信号Ifilは、電流検出ローパスフィルタ部230により、電流検出値I1よりも位相が遅れたものとなり、当該電流信号Ifilのピークにおいては三角波キャリア信号Aの山部または谷部の頂点から遅延した点(一定の時間遅れた点)となる。このような遅延時間(山部または谷部の頂点から遅延した点までの時間)は、電流検出ローパスフィルタ部230による遅延と電流検出器20等の検出回路により決定され、電流Iの振幅等に依存するようなことはない。
【0122】
制御回路200の場合、ADC部310において、三角波キャリア信号Aと任意のサンプルタイミング基準値を比較し、電流のサンプルタイミングを決定するように構成されている。これにより、例えば図7中の記号「▽」で示すサンプル点のように、常に三角波キャリア信号Aの山部または谷部の頂点から一定の遅延時間を持ったサンプルタイミングを生成することが可能となる。
【0123】
また、このようなサンプルタイミング点は、電流信号IfilにおいてdI/dt(傾き)が最も小さくなる地点であり、他の地点でサンプルする場合と比較すると、サンプルタイミングのジッタによる影響(検出値が大きく振れるような影響)を回避し易い。
【0124】
以上のような制御回路200における電流検出値のサンプリングによれば、当該電流検出値においてスイッチング周波数よりも大きい高周波成分を除去でき、フィードバック制御の検出値として好適に利用することが可能となる。これにより、電流制御において良好な安定性が得られることにもなる。
【0125】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0126】
例えば、実施例においては、DAB回路100一次側(第1コンバータ部4)とトランス8一次側との間の交流電流Iから検出された電流検出値を適用しているが、DAB回路二次側(第2コンバータ部10)とトランス8二次側との間から検出された電流検出値を適用しても、当該実施例で示したものと同様の作用効果を奏することとなる。
【0127】
また、トランス8の入力電流または出力電流を常時検出できるため、当該検出結果を適宜流用することも可能である。例えば、トランス8の入力電流または出力電流の検出値が所定値(予め設定された閾値等)を超過した場合に、DAB回路100の全てのスイッチ(スイッチ5a~5d,12a~12d)のゲート信号をスイッチングオフとする機能を追加(例えば図1の構成とは別に追加)することが挙げられる。これにより、例えば過電流が発生した場合に、トランス8が破壊しないように保護することが可能となる。このような保護機能における交流電流Iの検出点は、特に限定されるものではない(三角波キャリア信号の谷部や山部に限定されない)。
【符号の説明】
【0128】
S…双方向コンバータ
100…DAB回路
200…制御回路
1,2…直流電源
4,10…第1,第2コンバータ部
5a~5d…スイッチ(第1~第4半導体スイッチング素子)
12a~12d…スイッチ(第5~第8半導体スイッチング素子)
8…トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7