(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両の走行制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20241001BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20241001BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20241001BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241001BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G08G1/09 D
B60W30/10
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2021020883
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎也
(72)【発明者】
【氏名】植田 宏寿
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-49513(JP,A)
【文献】特開2019-59262(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020547(WO,A1)
【文献】特開2020-104634(JP,A)
【文献】特開2015-184722(JP,A)
【文献】特開2012-107894(JP,A)
【文献】特開2007-127416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 1/16
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G01C 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行経路に沿って走行中に、現在走行中の自車線から目標とする車線へ、自律走行制御により車線変更を実行する車両の走行制御方法において、
前記走行経路上に前記車線変更を実行する車線変更区間を特定し、
前記車線変更区間において、前記車線変更を実行する位置に対して、車線変更の適合性の指標としての車線変更コストを算出し、
前記車線変更区間の自車線上
の前記車線変更コストが最小となる位置に、自車両を停止させる仮想停止位置を設定し、
前記仮想停止位置まで自車両を減速して走行させ、
前記仮想停止位置に到達するまでに前記車線変更が完了するか否かを判定し、
前記仮想停止位置に到達するまでに前記車線変更が完了しないと判定した場合には、前記仮想停止位置で自車両を停止させたのち、前記車線変更を実行する車両の走行制御方法。
【請求項2】
前記仮想停止位置に到達するまでに前記車線変更が完了すると判定した場合には、前記車線変更を実行する請求項1に記載の車両の走行制御方法。
【請求項3】
前記仮想停止位置まで自車両を減速して前記車線変更が完了するか否かを判定する場合に、自車両が所定速度以下に減速しなければ前記車線変更が完了しないときは、前記車線変更が完了しないと判定する請求項1又は2に記載の車両の走行制御方法。
【請求項4】
前記車線変更コストが最小となる位置を、前記車線変更区間の前端から手前方向に所定距離の位置に設定する請求項
1~3のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項5】
車線変更先の車線を走行する他車両の速度を検出し、
前記他車両の速度が自車両の速度より遅ければ遅いほど、前記車線変更コストが最小となる位置を、前記車線変更区間の前端から手前方向に所定距離の位置に対して、自車両の進行方向の手前側に設定する請求項
1~4のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項6】
前記車線変更区間の前方にある信号機を検出し、
前記信号機が赤信号の場合には、青信号の場合に比べて、前記車線変更コストが最小となる位置を、自車両の進行方向の手前側に設定する請求項
5に記載の車両の走行制御方法。
【請求項7】
前記車線変更区間が車線変更禁止区間であるか否かを検出し、
車線変更禁止区間である場合には、車線変更禁止区間でない場合に比べて、前記車線変更コストが最小となる位置を、自車両の進行方向の手前側に設定する請求項
5又は6に記載の車両の走行制御方法。
【請求項8】
車線変更先の車線を走行する他車両の速度を検出し、
前記他車両の速度が自車両の速度より速ければ速いほど、前記車線変更コストが最小となる位置を、前記車線変更区間の前端から手前方向に所定距離の位置に対して、自車両の進行方向の奥側に設定する請求項
1~7のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項9】
前記車線変更区間の前方にある信号機を検出し、
前記信号機が青信号の場合には、赤信号の場合に比べて、前記車線変更コストが最小となる位置を、自車両の進行方向の奥側に設定する請求項
8に記載の車両の走行制御方法。
【請求項10】
前記車線変更先の車線上の静止物体を検出し、
静止物体が検出された場合には、前記車線変更コストが最小となる位置を、自車両の進行方向の、前記静止物体の奥側に設定する請求項
8又は9に記載の車両の走行制御方法。
【請求項11】
自車両が走行経路に沿って走行中に、現在走行中の自車線から目標とする車線へ、自律走行制御により車線変更を実行するためのプロセッサを備える車両の走行制御装置において、
前記プロセッサは、
前記走行経路上に前記車線変更を実行する車線変更区間を特定し、
前記車線変更区間において、前記車線変更を実行する位置に対して、車線変更の適合性の指標としての車線変更コストを算出し、
前記車線変更区間の自車線上
の前記車線変更コストが最小となる位置に、自車両を停止させる仮想停止位置を設定し、
前記仮想停止位置まで自車両を減速して走行させ、
前記仮想停止位置に到達するまでに前記車線変更が完了するか否かを判定し、
前記仮想停止位置に到達するまでに前記車線変更が完了しないと判定した場合には、前記仮想停止位置で自車両を停止させたのち、前記車線変更を実行する車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御方法及び走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両が走行する自車線から他車線に車線変更する際、他車線を走行する複数の他車両を検出し、他車両の車間に自車両が進入可能な車間スペースが検出された場合には、自車両を減速させたのち検出された車間スペースに自車両を進入させる車線変更を実行する走行支援システムが知られている(特許文献1の
図8~
図10の走行シーン参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の走行支援システムでは、自車両が車線変更するための減速を開始した後に、他車線を走行する他車両の状況によっては進入可能な車間スペースを確保できなくなることがある。このような場合には、車線変更を完了することができずに自車両が自車線と他車線を跨いだ状態で停止し、後続車両の交通流の妨げになるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、自律走行制御による車線変更時に、自車両が自車線と他車線を跨いだ状態で停止することを抑制できる車両の走行制御方法及び車両の走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、自車両の走行経路上に車線変更を実行する車線変更区間を特定し、車線変更区間の自車線上に、自車両を停止させる仮想停止位置を設定し、仮想停止位置まで自車両を減速して走行させ、仮想停止位置に到達するまでに車線変更が完了するか否かを判定し、仮想停止位置に到達するまでに車線変更が完了しないと判定した場合には、仮想停止位置で自車両を停止させたのち、車線変更を実行することで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自律走行制御による車線変更時に、自車両が自車線と他車線を跨いだ状態で停止することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の車両の走行制御装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【
図3】
図1の走行制御装置の車線変更制御の一例を示す平面図である。
【
図4】(A)及び(B)のそれぞれは、本発明の比較例に係る車線変更制御を示す平面図である。
【
図5】
図1の走行制御装置に含まれる車線変更制御ユニットの一例を示すブロック図である。
【
図6】(A)は、
図5の車線変更区間特定部及び仮想停止位置設定部で実行される処理例を示す図であり、(B)は、
図5の対象車両特定部で実行される処理例を示す平面図である。
【
図7】(A)及び(B)のそれぞれは、
図5の車線変更実行判断部で実行される処理例(その1)を示す平面図である。
【
図8】
図5の車線変更実行判断部で実行される処理例(その2)を示す平面図である。
【
図9】
図5の車線変更実行判断部及び減速度選択部で実行される処理例を示す平面図(上図)と、自車両の減速度を示すグラフ(下図、位置に対する速度)である。
【
図10】(A)~(D)のそれぞれは、
図5のコスト設定部に記憶される走行パターン変数を示す平面図と車線変更コストの一例を示すグラフである。
【
図11】(A)~(C)のそれぞれは、
図5のコスト設定部に記憶される走行パターン変数を示す平面図と車線変更コストの他例を示すグラフである。
【
図12】
図5のコスト設定部に記憶される走行パターンと変数の一例を示す図である。
【
図13】(A)及び(B)のそれぞれは、
図10(B)~(D)の走行パターン変数を適用する走行シーンの一例を示す平面図である。
【
図14】(A)及び(B)のそれぞれは、
図11(A)~(C)の走行パターン変数を適用する走行シーンの一例を示す平面図である。
【
図15】
図5の車線変更制御ユニットで実行される制御処理例を示すフローチャートである。
【
図16】
図5のコスト設定部及び仮想停止位置設定部で実行される制御処理例を示すフローチャート(
図15のステップS5のサブルーチン)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《走行制御装置の構成》
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る車両の走行制御装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態の走行制御装置1は、本発明に係る車両の走行制御方法を実施する一実施の形態でもある。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の走行制御装置1は、センサ11、自車位置検出装置12、地図データベース13、車載機器14、ナビゲーション装置15、提示装置16、入力装置17、駆動制御装置18、及び制御装置19を備える。これらの装置は、たとえばCAN(Controller Area Network)その他の車載LANにより接続され、相互に情報の送受信を行うことができる。
【0011】
センサ11は、自車両の走行状態を検出する。たとえば、センサ11として、自車両の前方を撮像する前方カメラ、自車両の左右の側方をそれぞれ撮像する側方カメラ、自車両の後方を撮像する後方カメラ、自車両の前方の障害物を検出する前方レーダー、自車両の後方の障害物を検出する後方レーダー、自車両の左右の側方に存在する障害物を検出する側方レーダー、自車両の車速を検出する車速センサ、ドライバーがハンドルを持っているか否かを検出するタッチセンサ(静電容量センサ)およびドライバーを撮像する車内カメラなどが挙げられる。なお、センサ11として、上述した複数のセンサのうち1つを用いる構成としてもよいし、2種類以上のセンサを組み合わせて用いる構成としてもよい。センサ11の検出結果は、所定時間間隔で制御装置19に出力される。
【0012】
自車位置検出装置12は、GPSユニット、ジャイロセンサ、および車速センサ等を備える。自車位置検出装置12は、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両の位置情報を周期的に取得する。また、自車位置検出装置12は、取得した自車両の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速とに基づいて、自車両の現在位置を検出する。自車位置検出装置12により検出された自車両の位置情報は、所定時間間隔で制御装置19に出力される。
【0013】
地図データベース13は、各種施設や特定の地点の位置情報を含む三次元高精度地図情報を格納し、制御装置19からアクセス可能とされたメモリである。三次元高精度地図情報は、データ取得用車両を用いて実際の道路を走行した際に検出された道路形状に基づく三次元地図情報である。三次元高精度地図情報は、地図情報とともに、カーブ路及びそのカーブの大きさ(たとえば曲率又は曲率半径)、道路の合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置などの詳細かつ高精度の位置情報が、三次元情報として関連付けられた地図情報である。ただし、本発明の地図データベースに格納される地図情報は、三次元高精度地図情報にのみ限定されず、それ以外の地図情報であってもよい。
【0014】
車載機器14は、車両に搭載された各種機器であり、ドライバーの操作により動作する。このような車載機器としては、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、方向指示器、ワイパー、ライト、クラクション、その他の特定のスイッチなどが挙げられる。車載機器14は、ドライバーにより操作された場合に、その操作情報を制御装置19に出力する。
【0015】
ナビゲーション装置15は、自車位置検出装置12から自車両の現在の位置情報を取得し、誘導用の地図情報に自車両の位置を重ね合わせてディスプレイなどに表示する。また、ナビゲーション装置15は、ドライバーが目的地を入力すると、その目的地までのルートを演算し、設定されたルートをドライバーに案内するナビゲーション機能を備える。このナビゲーション機能により、ナビゲーション装置15は、ディスプレイの地図上に目的地までのルートを表示するとともに、音声等によってルート上の走行推奨行動をドライバーに知らせる。
【0016】
提示装置16は、ナビゲーション装置15が備えるディスプレイ、ルームミラーに組み込まれたディスプレイ、メーター部に組み込まれたディスプレイ、フロントガラスに映し出されるヘッドアップディスプレイ等の各種ディスプレイを含む。また、提示装置16は、オーディオ装置のスピーカー、振動体が埋設された座席シート装置など、ディスプレイ以外の装置を含む。提示装置16は、制御装置19の制御に従って、各種の提示情報をドライバーに報知する。
【0017】
入力装置17は、たとえば、ドライバーの手動操作による入力が可能なボタンスイッチ、ディスプレイ画面上に配置されたタッチパネル、又はドライバーの音声による入力が可能なマイクなどの装置である。本実施形態では、ドライバーが入力装置17を操作することで、提示装置16により提示された提示情報に対する設定情報を入力することができる。
図2は、本実施形態の入力装置17の一部を示す正面図であり、ステアリングホイールのスポーク部などに配置されたボタンスイッチ群からなる一例を示す。
【0018】
図示する入力装置17は、制御装置19が備える自律走行制御機能(自律速度制御機能及び自律操舵制御機能)のON/OFF等を設定する際に使用するボタンスイッチである。自律速度制御機能及び自律操舵制御機能を含む自律走行制御機能の詳細は、後述する。本実施形態の入力装置17は、メインスイッチ171、リジューム・アクセラレートスイッチ172、セット・コーストスイッチ173、キャンセルスイッチ174、車間調整スイッチ175、及び車線変更支援スイッチ176を備える。
【0019】
メインスイッチ171は、制御装置19の自律速度制御機能及び自律操舵制御機能を実現するシステムの電源をON/OFFするスイッチである。リジューム・アクセラレートスイッチ172は、自律速度制御機能を一旦OFFしたのちOFF前の設定速度で自律速度制御機能を再開したり、先行車両(自車両と同じ車線の前方を走行する他車両。以下、本明細書において同じ。)に追従して停車したのち制御装置19によって再発進したりするリジューム操作や、設定速度を上げるアクセラレート操作をするためのスイッチである。セット・コーストスイッチ173は、走行時の速度で自律速度制御機能を開始するセット操作や、設定速度を下げるコースト操作をするためのスイッチである。キャンセルスイッチ174は、自律速度制御機能をOFFするスイッチである。車間調整スイッチ175は、先行車両との車間距離を設定するためのスイッチであり、たとえば短距離・中距離・長距離といった複数段の設定から1つを選択するスイッチである。車線変更支援スイッチ176は、制御装置19が車線変更の開始をドライバーに確認した場合に車線変更の開始を承諾するためのスイッチである。なお、車線変更の開始を承諾した後に、車線変更支援スイッチ176を所定時間よりも長く押すことで、制御装置19による車線変更の提案の承諾を取り消すことができる。
【0020】
図2に示すボタンスイッチ群以外にも、方向指示器の方向指示レバーやその他の車載機器14のスイッチを入力装置17として用いることができる。たとえば、制御装置19から自律制御により車線変更を行うか否かを提案された場合に、ドライバーが方向指示器のスイッチをオンにすることで、車線変更の承諾又は許可を入力する構成とすることもできる。また、制御装置19から自律制御により車線変更を行うか否かを提案された場合に、ドライバーが方向指示レバーを操作すると、提案された車線変更ではなく、方向指示レバーが操作された方向に向かって車線変更を行う構成とすることもできる。入力装置17により入力された設定情報は、制御装置19に出力される。
【0021】
駆動制御装置18は、種々の態様で自車両の走行を制御する。たとえば、駆動制御装置18は、自律速度制御機能により自車両が設定速度で定速走行する場合には、自車両が設定速度となるように、加速および減速、並びに走行速度を維持するために、駆動機構の動作(エンジン自動車にあっては内燃機関の動作、電気自動車系にあっては走行用モータの動作を含み、ハイブリッド自動車にあっては内燃機関と走行用モータとのトルク配分も含む)およびブレーキ動作を制御する。また、駆動制御装置18は、自律速度制御機能により自車両が先行車両に追従走行する場合には、自車両と先行車両との車間距離が一定距離となるように、加減速度および走行速度を実現するための駆動機構の動作およびブレーキ動作を制御する。
【0022】
また、駆動制御装置18は、自律操舵制御機能により、上述した駆動機構とブレーキの動作制御に加えて、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、自車両の操舵制御を実行する。たとえば、駆動制御装置18は、自律操舵制御機能によりレーンキープ制御を実行する場合に、自車線(自車両が走行する車線。以下、本明細書において同じ。)のレーンマーカを検出し、自車両が自車線内の所定位置を走行するように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。また、駆動制御装置18は、後述する車線変更支援機能により車線変更支援を実行する場合に、自車両が車線変更を行うように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。さらに、駆動制御装置18は、自律操舵制御機能により右左折支援を実行する場合には、交差点などにおいて右折又は左折する走行制御を行う。なお、駆動制御装置18は、後述する制御装置19の指示により自車両の走行を制御する。また、駆動制御装置18による走行制御方法として、その他の公知の方法を用いることもできる。
【0023】
制御装置19は、自車両の走行を制御するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)等を備える。なお、動作回路としては、CPU(Central Processing Unit)に代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0024】
《制御装置19により実現される機能》
制御装置19は、ROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、自車両の走行状態に関する情報を取得する走行情報取得機能と、自車両の走行シーンを判定する走行シーン判定機能と、自車両の走行速度及び/又は操舵を自律制御する自律走行制御機能とを実現する。以下、制御装置19が備える各機能について説明する。
【0025】
制御装置19の走行情報取得機能は、制御装置19が自車両の走行状態に関する走行情報を取得するための機能である。たとえば、制御装置19は、センサ11の前方カメラ、後方カメラ及び側方カメラにより撮像された自車両外部の画像情報を走行情報として取得する。また、制御装置19は、前方レーダー、後方レーダー及び側方レーダーによる検出結果を、走行情報として取得する。さらに、制御装置19は、センサ11の車速センサにより検出された自車両の車速情報、ジャイロセンサにより検出された自車両の姿勢角・ヨーレート、車内カメラにより撮像されたドライバーの顔の画像情報なども走行情報として取得する。
【0026】
さらに、制御装置19は、自車両の現在の位置情報を走行情報として自車位置検出装置12から取得する。また、制御装置19は、設定された目的地及び目的地までのルートを走行情報としてナビゲーション装置15から取得する。さらに、制御装置19は、カーブ路及びそのカーブの大きさ(たとえば曲率又は曲率半径)、合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置などの位置情報を走行情報として地図データベース13から取得する。加えて、制御装置19は、ドライバーによる車載機器14の操作情報を、走行情報として車載機器14から取得する。以上が、制御装置19により実現される走行情報取得機能である。
【0027】
制御装置19の走行シーン判定機能は、制御装置19のROMに記憶されたテーブルを参照して、自車両が走行している走行シーンを判定する機能である。制御装置19のROMに記憶されたテーブルには、たとえば車線変更や追い越しに適した走行シーンとその判定条件が、走行シーンごとに記憶されている。制御装置19は、ROMに記憶されたテーブルを参照して、自車両の走行シーンが、たとえば車線変更や追い越しに適した走行シーンであるか否かを判定する。
【0028】
たとえば、「先行車両への追いつきシーン」の判定条件として、「前方に先行車両が存在」、「先行車両の車速<自車両の設定車速」、「先行車両への到達が所定時間以内」、および「車線変更の方向が車線変更禁止条件になっていない」の4つの条件が設定されているとする。この場合、制御装置19は、たとえば、センサ11に含まれる前方カメラや前方レーダーによる検出結果、車速センサにより検出された自車両の車速、および自車位置検出装置12による自車両の位置情報などに基づいて、自車両が上記条件を満たすか否かを判断する。上記条件を満たす場合には、制御装置19は、自車両が「先行車両への追いつきシーン」であると判定する。以上が、制御装置19により実現される走行シーン判定機能である。
【0029】
制御装置19の自律走行制御機能は、制御装置19が自車両の走行をドライバーの操作に依ることなく自律制御するための機能である。制御装置19の自律走行制御機能は、自車両の走行速度を自律制御する自律速度制御機能と、自車両の操舵を自律制御する自律操舵制御機能とを含む。なお、ドライバーの操作に依ることなく自律制御することには、一部の操作をドライバーにより行うことも含まれる。また、自律速度制御機能と自律操舵制御機能は、互いに独立した機能であってもよく、互いに関連した機能であってもよい。以下、本実施形態の自律速度制御機能と自律操舵制御機能について説明する。
【0030】
自律速度制御機能は、先行車両を検出しているときは、ドライバーが設定した車速を上限にして、車速に応じた車間距離を保つように車間制御を行いつつ先行車両に追従走行する一方、先行車両を検出していない場合には、ドライバーが設定した車速で定速走行する機能である。前者を車間制御、後者を定速制御ともいう。なお、自律速度制御機能は、センサ11により道路標識から走行中の道路の制限速度を検出し、あるいは地図データベース13の地図情報から制限速度を取得して、その制限速度を自動的に設定車速にする機能を含んでもよい。
【0031】
自律速度制御機能を作動するには、まずドライバーが、
図2に示す入力装置17のリジューム・アクセラレートスイッチ172又はセット・コーストスイッチ173を操作して、所望の走行速度を入力する。たとえば、自車両が70km/hで走行中にセット・コーストスイッチ173を押すと、現在の走行速度がそのまま設定されるが、ドライバーが所望する速度が80km/hであるとすると、リジューム・アクセラレートスイッチ172を複数回押して、設定速度を上げればよい。リジューム・アクセラレートスイッチ172に付された「+」の印は、設定値を増加させるスイッチであることを示している。逆にドライバーが所望する速度が60km/hであるとすると、セット・コーストスイッチ173を複数回押して、設定速度を下げればよい。セット・コーストスイッチ173に付された「-」の印は、設定値を減少させるスイッチであることを示している。また、ドライバーが所望する車間距離は、
図2に示す入力装置17の車間調整スイッチ175を操作し、たとえば短距離・中距離・長距離といった複数段の設定から1つを選択すればよい。
【0032】
ドライバーが設定した車速で定速走行する定速制御は、センサ11の前方レーダー等により、自車線の前方に先行車両が存在しないことが検出された場合に実行される。定速制御では、設定された走行速度を維持するように、車速センサによる車速データをフィードバックしながら、駆動制御装置18によりエンジンやブレーキなどの駆動機構の動作を制御する。
【0033】
車間制御を行いつつ先行車両に追従走行する車間制御は、センサ11の前方レーダー等により、自車線の前方に先行車両が存在することが検出された場合に実行される。車間制御では、設定された走行速度を上限にして、設定された車間距離を維持するように、前方レーダーにより検出した車間距離データをフィードバックしながら、駆動制御装置18によりエンジンやブレーキなどの駆動機構の動作を制御する。なお、車間制御で走行中に先行車両が停止した場合は、先行車両に続いて自車両も停止する。また、自車両が停止した後、たとえば30秒以内に先行車両が発進すると、自車両も発進し、再び車間制御による追従走行を開始する。自車両が30秒を超えて停止している場合は、先行車両が発進しても自動で発進せず、先行車両が発進した後、リジューム・アクセラレートスイッチ172を押すか又はアクセルペダルを踏むと、再び車間制御による追従走行を開始する。
【0034】
一方、自律操舵制御機能は、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、自車両の操舵制御を実行するための機能である。本実施形態の自律操舵制御機能には、(1)車線のたとえば中央付近を走行するようにステアリングを制御して、ドライバーのハンドル操作を支援するレーンキープ機能(車線幅員方向維持機能)、(2)ドライバーがウィンカーレバーを操作するとステアリングを制御し、車線変更に必要なハンドル操作を支援する車線変更支援機能、(3)設定車速よりも遅い車両を前方に検出すると、表示によりドライバーに追い越し操作を行うか確認し、ドライバーが承諾スイッチを操作した場合、ステアリングを制御し追い越し操作を支援する追い越し支援機能、(4)ドライバーがナビゲーション装置などに目的地を設定している場合には、ルートに従って走行するために必要な車線変更地点に到達すると、表示によりドライバーに車線変更を行うか確認し、ドライバーが承諾スイッチを操作した場合、ステアリングを制御し車線変更を支援するルート走行支援機能などが含まれる。なお、自律操舵制御を実行する場合、自律速度制御も同時に実行するが、速度制御はドライバーのアクセル・ブレーキ操作によって実行してもよい。
【0035】
ここで、自律操舵制御機能のうちの車線変更支援機能について説明する。なお、車線変更支援とともに、自律速度制御も同時に実行される。
図3は、本実施形態の制御装置19が実行する車線変更制御(車線変更支援機能)の一例を示す平面図である。
図3に示すように、ドライバーが自車両V1のウィンカーレバーを操作すると、制御装置19は方向指示器を点灯し、予め設定された車線変更開始条件を満たすと車線変更操作LCP(Lane Change Process、自律車線変更の一連の処理をいう。)を開始する。制御装置19は、センサ11により取得した各種の走行情報に基づいて、車線変更開始条件が成立するか否かを判断する。車線変更開始条件としては、特に限定されないが、(1)レーンキープモードであること、(2)ドライバーがステアリングホイールを保持していること、(3)速度60km/時以上で走行していること、(4)車線変更方向に車線があること、(5)車線変更先の車線に車線変更可能なスペースがあること、(6)レーンマーカの種別が車線変更可能であること、(7)道路の曲率半径が250m以上であること、(8)ドライバーが方向指示レバーを操作してから1秒以内であること、といった全ての条件(1)~(8)が成立することを例示できる。なお、制御装置19は、ドライバーの指示がなくても、車線変更支援機能により車線変更開始条件が成立すると判断した場合には、提示装置16によってドライバーに報知することで、ドライバーに車線変更を提案してもよい。
【0036】
車線変更開始条件を満たすと、制御装置19は、車線変更操作LCPを開始する。本実施形態の車線変更操作LCPは、
図3に示すように、自車両V1が自車線L1内において隣接車線L2の方へ移動する横移動と、自車両V1が自車線L1からレーンマーカを跨いで隣接車線L2へ移動する車線変更操縦LCM(Lane Change Manipulation)とを含む。制御装置19は、車線変更操作LCPを実行中に、自律制御により車線変更を行っていることを表す情報を、提示装置16を介してドライバーに提示し、周囲へ注意を払うよう喚起する。制御装置19は、車線変更操縦LCMが完了すると、方向指示器を消灯し、隣接車線L2でのレーンキープ機能の実行などを開始する。なお、車線変更操作LCPは、ウィンカーレバーの操作による方向指示器の点灯から消灯までの期間をいい、車線変更操縦LCMは、自車両V1が自車線L1と隣接車線L2との境界線を踏み始めてから踏み終わるまでの期間をいう。
【0037】
さて、自律操舵制御機能のうちの車線変更支援機能を用いて車線変更を実行する場合、目標車線(自車両が車線変更する車線変更先の車線。以下、本明細書において同じ。)に自車両を進入させるためのスペースが十分に確保されている必要がある。その際、目標車線に複数の他車両が走行している場合には、複数の車間スペースの中から自車両を進入させるための車間スペースを特定した上で、当該車間スペースの前後を走行する他車両の走行状態を注視し、自車両の速度を制御しながら車線変更を実行する必要がある。
【0038】
図4(A)及び(B)は、自車両V1が、現在走行中の自車線L1から他車両V2,V3が走行する目標車線L2へ車線変更を実行する、本発明の比較例に係る走行シーンを示す平面図である。
図4(B)は、同図(A)に示す状態から自車両V1が進行方向に沿って前進した状態を示している。
【0039】
図4(A)に示す走行シーンの場合、自車両V1は、自車両を進入させるための車線変更スペースとして、他車両V2,V3の車間スペース(斜線枠内)を特定し、減速しながら他車両V2の後方に進入するための車線変更制御を実行する。この際、目標車線L2を走行する他車両V2,V3は、進行方向にある交差点で左折するため減速するので、交差点に向かうにつれて、他車両V2,V3の車間スペースが徐々に狭くなる。同図(B)に示すように、自車両V1が減速しながら他車両V2の後方につき、目標車線L2に進入しようとしたときに、車線変更スペースが十分に確保できない場合には、車線変更を中断せざるを得ない。したがって、自車両V1が自車線L1と目標車線L2を跨いで停車するような状況が発生する。このように一時停車すると、自車線L1と目標車線L2との間のレーンマーカに沿って走行してきた二輪車など、後続車両(自車両の後方を走行する他車両。以下、本明細書において同じ。)の交通流の妨げになる。
【0040】
このように、右左折のある交差点付近や、赤信号により目標車線L2を走行する他車両が減速する場合、青信号であっても歩行者が横断しているため交差点手前で他車両が停車しなければならない場合など、車線変更スペースが検出された当初は十分であった車間スペースが、他車両の走行状況によって確保できなくなることも少なくない。
【0041】
そこで、本実施形態に係る車両の走行制御装置1では、車線変更区間LC(
図6(A)破線枠内参照)の自車線L1上に、自車両V1を停車させる仮想停止位置SP(同図(A)黒矢印参照)を設定する。そして、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができない場合には、自車両V1を目標車線L2に進入させずに仮想停止位置SPで停車させる。より好ましくは、ウィンカーレバーの操作による方向指示器の点灯は実行したとしても、自車両V1が自車線L1内において目標車線L2の方へ移動する横移動をさせずに、仮想停止位置SPで停車させる。以下、制御装置19の車線変更制御ユニット190を用いた車線変更制御の実施形態について、
図5~
図9を参照しながら説明する。なお、以下においては、日本の交通法規のように、車両は左側通行、人間は右側通行と規定された交通法規に従う走行シーンに、本発明を適用した例を説明する。ただし、車両は右側通行と規定された交通法規に従う走行シーンに対しても、以下の説明において左右を入れ替えた読み替えを行うことにより、本発明を適用することができる。
【0042】
図5は、制御装置19に含まれる車線変更制御ユニット190の一例を示すブロック図である。車線変更制御ユニット190に、地図データベース13と、自車位置検出装置12と、物体検出部112、対象車両特定部113、車両状態取得部114、静止構造物検出部115、信号認識部116としてのセンサ11と、目的地設定部151、ルート設定部152としてのナビゲーション装置15からの信号又は情報が読み込まれ、さらに最終的な指令値は駆動制御装置18に出力される。これらの車線変更制御ユニット190を構成する各部は、便宜的に表現したものであり、実際にはROMに格納したプログラムにより実現される。
【0043】
まず、目的地設定部151が、自車両V1の走行ルートを設定するために必要な目的地情報をドライバーから受け付けし、ルート設定部152に出力する。ルート設定部152は、自車位置検出装置12から出力された自車両V1の現在位置情報と、目的地設定部151で取得した目的地情報に基づいて、目的地までの走行ルートを演算する。このとき、目的地設定部151は、自車両V1の走行ルートにおいて車線変更が必要となる地点の情報を検出する。車線変更が必要となる地点とは、右左折のある交差点、合流路、分岐路など、自車両V1が車線変更を完了できなければ目的地までの走行ルートから外れる地点をいう。ルート設定部152は、自車両V1の走行ルートとともに、車線変更が必要となる地点の情報を車線変更区間特定部191に出力する。
【0044】
車線変更区間特定部191は、自車位置検出装置12から取得した自車両V1の現在位置情報と、ルート設定部152から取得した自車両V1の走行ルート及び車線変更が必要となる地点の情報から、自車両V1の車線変更を実行する車線変更区間LCを特定する。具体的には、車線変更が必要となる地点、たとえば
図6(A)に示す、自車両V1が左折する必要がある交差点の停止線から、自車両V1が車線変更を実行するのに必要な所定距離、たとえば交差点の停止線から自車両V1の進行方向に対し150m手前までを、車線変更区間LCとして設定する。自車両V1は、この車線変更区間LCにおいて減速を開始し、現在走行している自車線L1から目標車線L2に進入して車線変更を実行する。
【0045】
自車両V1が車線変更を実行するのに必要な所定距離は、特に限定されないが、自車両V1が車線変更を完了するまでに要する時間と自車線L1,目標車線L2の制限速度から設定してもよいし、自車両V1と目標車線L2を走行する他車両との相対位置、相対速度及び車線変更時間から設定してもよい。
【0046】
車線変更区間特定部191は、自車位置検出装置12から取得した自車両V1の現在位置情報と、ルート設定部152から取得した自車両V1の走行ルート情報から、自車両V1が車線変更区間LCに到達したか否かを判定する。そして、自車両V1が車線変更区間LCに到達すると、車線変更制御の開始信号が車線変更実行判断部192及びコスト設定部193に出力される。
【0047】
車線変更制御の開始信号が入力されると、コスト設定部193は、車線変更コストを演算し、仮想停止位置設定部194に出力する。車線変更コストとは、車線変更区間LCにおいて、自車両V1が車線変更を実行する位置に対する、車線変更の適合性の指標である。自律走行制御を実行する場合に、コンピュータによる判断を容易にするためのパラメータの一つであり、予め走行状況に応じた車線変更コストの値を決めておき、現在の走行状況にこれらの値を当て嵌める。本実施形態において、車線変更コストが「低い」場合とは、車線変更の適合性が高い走行状況であることを示す。すなわち、自車両V1が車線変更を実行しやすい走行状況であるか、または自車両V1が停車しても後続車両に違和感を与え難いとされる走行状況である。一方、車線変更コストが「高い」場合とは、車線変更の適合性が低い走行状況であることを示し、自車両V1が車線変更を実行し難い走行状況であるか、または自車両V1が停車すると後続車両に違和感を与えやすい走行状況である。コスト設定部193は、後述する走行パターン変数に基づいて車線変更コストの値を演算する。そして、仮想停止位置設定部194は、
図6(A)に示すように、自車線L1上の車線変更コストが最小となる位置、すなわち車線変更の適合性が高い位置に仮想停止位置SPを設定する。
【0048】
図5に戻り、
図1のセンサ11の一つである物体検出部112は、側方レーダー等により、自車両V1の周囲を走行する移動物体、たとえば、自車両以外の自動車(他車両)を検出する。そして、これらの移動物体の自車両に対する位置、姿勢、速度、ヨーレート等の走行情報を検出し、検出結果を対象車両特定部113に出力する。車両状態取得部114は、自車両V1の姿勢、速度、ヨーレート等の走行情報を検出し、検出結果を対象車両特定部113に出力する。
【0049】
対象車両特定部113は、自車両V1が車線変更区間LCに到達すると、物体検出部112から取得した自車両V1の周囲を走行する移動物体の走行情報と、車両状態取得部114から取得した自車両V1の走行情報とから、自車両V1が車線変更を実行する際に後方に進入するための対象車両を特定する。具体的には、
図6(B)に示すように、目標車線L2において自車両V1と並走する他車両V2、又は自車両V1の後方を走行する他車両V3のうち、後方の車両との車間距離Dが所定値以上である他車両V2を対象車両とする。車間距離Dの所定値は、特に限定されないが、少なくとも自車両V1の全長より長く、自車両V1が進入して車線変更を完了することができる距離である。対象車両特定部113は、特定した対象車両V2の走行情報を車線変更実行判断部192に出力する。
【0050】
車線変更実行判断部192は、対象車両特定部113で特定した対象車両V2と、物体検出部112で検出された他車両V3と、車両状態取得部114で取得した自車両V1との相対位置、相対速度に基づいて、自車両V1が対象車両V2,他車両V3に干渉する可能性を演算する。自車両V1が対象車両V2,他車両V3に干渉する可能性が所定の閾値より低い場合には、自車両V1が仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定する。
【0051】
自車両V1が車線変更を完了することができると判定した場合には、
図8に示すように、車線変更実行判断部192は、仮想停止位置解除部195を制御し、仮想停止位置SPの設定を解除した上で、駆動制御装置18のアクチュエータを制御して自車両V1を自車線L1から目標車線L2に進入させ、車線変更を実行する。物体検出部112により、自車両V1の周囲を走行する移動物体(他車両)が検出されない場合も同様に、仮想停止位置SPの設定を解除し、駆動制御装置18のアクチュエータを制御して自車両V1を自車線L1から目標車線L2に進入させ、車線変更を実行する。なお、仮想停止位置解除部195は、本発明に必須の構成ではなく、必要に応じて省略してもよい。
【0052】
一方、自車両V1が対象車両V2,他車両V3に干渉する可能性が所定の閾値より高く、現在の減速度では、自車両V1が仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができないと判定した場合には、車線変更実行判断部192は、自車両V1が車線変更を完了するための減速度を演算する。
図9は、車線変更実行判断部192及び減速度選択部196で実行される処理例を示す平面図(上図)と、自車両の減速度を示すグラフ(下図)である。自車線L1を走行する自車両V1が、目標車線L2を走行する対象車両V2の後方に進入して車線変更を実行しようとする走行シーンである。
【0053】
図9(下図)に示す自車両V1の減速度に対応するグラフは、縦軸が自車両V1の速度を表し、自車両V1が仮想停止位置SPで停車する速度プロファイルをVh1、対象車両V2の減速に合わせて自車両V1が減速した場合の速度プロファイルをVh2,Vh3とする。車線変更禁止車速は、予め定めた所定車速であり、特に限定されないが、たとえば20km/hなどである。グラフ横軸は、車線変更区間LCにおける自車両V1の位置を表し、車線変更区間LCに自車両V1が進入を開始する位置をP1、自車両V1と対象車両V2が並走する位置をP2、自車両V1の仮想停止位置SPをP3、車線変更区間LCの前端となる交差点の停止線の位置をP4とする。
【0054】
車線変更区間LCに到達すると、P1において自車両V1aは対象車両V2aの後方に進入するために減速を開始する。この減速度は予め設定された減速度の初期値である。自車両V1が減速を継続すると、P2において自車両V1bと対象車両V2bが並走状態となる。ここで、進行方向に交差点が迫っているため、対象車両V2bも減速を開始したとすると、自車両V1cと対象車両V2cが互いに減速したまま並走状態が継続することになる。
【0055】
そこで、自車両V1bが対象車両V2bの後方に進入するため、対象車両V2bの減速に合わせて初期値よりさらに減速する速度プロファイルVh2を実行するものとすると、交差点の近傍ではない位置で車線変更禁止車速(20km/h)を下回る。このように、自車両V1が急激な減速をすると、後続車両の交通流の妨げとなったり、車線変更を実行できずに停車したりする虞がある。これに対して、仮想停止位置SPで停車する速度プロファイルVh1を実行すると、自車両V1は、車線変更の適合性が高い位置P3、すなわち、自車両V1が車線変更を実行しやすい走行状況であるか、または自車両V1が停車しても後続車両に違和感を与え難い走行状況で停車することができる。
【0056】
車線変更実行判断部192は、対象車両V2の減速に合わせ、初期値よりさらに減速する速度プロファイルVh2を実行すると、自車両V1の車速が車線変更禁止車速(20km/h)を下回るか否かを判定し、判定結果を減速度選択部196に出力する。車線変更禁止車速(20km/h)を下回る場合には、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができない可能性がある。そのため、対象車両V2の後方に進入することを断念し、仮想停止位置SPで停車する速度プロファイルVh1を実行するように出力する。車線変更禁止車速(20km/h)を下回らない場合には、対象車両V2の後方に進入するよう、対象車両V2の減速に合わせて初期値よりさらに減速する速度プロファイルVh2を実行するように出力する。
【0057】
減速度選択部196は、対象車両V2の後方に進入することを断念し、仮想停止位置SPで停止する速度プロファイルVh1を実行するとした場合には、駆動制御装置18のアクチュエータを制御して自車両V1を再加速する(速度プロファイルVh3)。そして、仮想停止位置SPで停止する速度プロファイルVh1の減速度となるように制御したのち、
図7(A)に示すように、自車両V1を仮想停止位置SPで停車させる。車線変更実行判断部192は、同図(B)に示すように、対象車両V2が仮想停止位置SPの側方を通過し、自車両V1が対象車両V2,他車両V3に干渉する可能性が所定の閾値より低いと判定した場合には、駆動制御装置18のアクチュエータを制御して自車両V1を自車線L1から目標車線L2に進入させ、車線変更を実行する。
【0058】
これに対して、対象車両V2の減速に合わせて初期値よりさらに減速する速度プロファイルVh2を実行する場合には、減速度選択部196は、対象車両V2の後方に進入するため、自車両V1の減速を継続する。そして、車線変更実行判断部192は、自車両V1が対象車両V2,他車両V3に干渉する可能性が所定の閾値より低いと判定した場合には、仮想停止位置解除部195を制御し、仮想停止位置SPの設定を解除したのち、駆動制御装置18のアクチュエータを制御して自車両V1を自車線L1から目標車線L2に進入させ、車線変更を実行する。なお、本実施形態では、
図9に示す位置P2において、自車両V1の車速が車線変更禁止車速(20km/h)を下回るか否か判定しているが、車線変更区間LCの位置P1~P4のいずれにおいて当該判定をしてもよく、また、所定間隔で当該判定を繰り返し実行してもよい。
【0059】
続いて、本実施形態のコスト設定部193における車線変更コストの演算処理について、
図10(A)~
図14(B)を参照しながら説明する。コスト設定部193で演算された車線変更コストは、仮想停止位置設定部194に出力され、車線変更コストが最小となる位置に自車両V1の仮想停止位置SPが設定される。
図10(A)~(D)、
図11(A)~(C)のそれぞれは、車線変更区間LCにおける走行パターン変数を示す平面図と車線変更コストの例を示すグラフである。
図12は、コスト設定部193に記憶される走行パターンと変数の例を示す。
図13(A)及び(B)、
図14(A)及び(B)のそれぞれは、走行パターン変数を適用する走行シーンの一例を示す平面図である。
【0060】
まず、コスト設定部193は、車線変更区間LCの前端から所定距離の位置に対して、車線変更コストが最小となるように初期コストを設定する。初期コストが設定される所定距離の位置は、特に限定されないが、車線変更の適合性が高く、自車両V1が目標車線L2に進入を開始するのに適した位置である。たとえば、
図10(A)に示すように、自車線L1と目標車線L2の車線境界線を基準とし、車線境界線が破線から実線に変わる位置(たとえば交差点の停止線から30m手前)である。車線境界線が破線から実線に変わる位置は、通常、車線変更するために車両が停車する位置であるから、車線変更を実行しやすく、自車両V1が停車しても後続車両に違和感を与え難いため、車線変更の適合性が高い。このように、車線変更の適合性が高い所定距離の位置に対して、車線変更コストが最小となるように初期コストを設定する。
【0061】
次に、コスト設定部193は、自車両V1の実際の走行状況に応じた車線変更コストを演算するため、走行パターン変数を用いて車線変更コストの値を更新する。走行パターン変数は、
図12に示すように、走行パターンと対応した変数が予めコスト設定部193に記憶されている。これを、物体検出部112から取得した自車両V1の周囲を走行する移動物体の走行情報と、車両状態取得部114から取得した自車両V1の走行情報と、自車両V1の走行環境とから判定した、自車両V1の現在の走行状況に適用し、走行パターン変数を設定する。自車両V1の走行環境は、静止構造物検出部115により検出される、自車両V1の周囲の路面標示や駐車車両を含む静止物体情報と、信号認識部116により検出される、車線変更区間LCの前方にある信号機TLの情報等を反映する。
【0062】
図10(A)に示すように、コスト設定部193は、車線変更コストの初期コストを設定した「交差点の停止線から30m手前」の走行シーンを、走行パターン変数0として初期化する。走行パターン変数0のとき、車線変更コストが最小となる位置は、「交差点の停止線から30m手前」である。この位置を初期設定位置IPとする。なお、本実施形態において、走行パターン変数は0~6の連続した整数を用いて加算式に車線変更コストの値に反映しているが、走行パターン変数は任意の離散値や負の数を用いてもよく、減算式に車線変更コストの値に反映してもよい。
【0063】
図10(B)~(D)に示す走行パターン変数は、車線変更コストが最小となる位置が、初期設定位置IPから、自車両V1の進行方向に対し手前側となる走行パターンである。このため、仮想停止位置SPは、初期コストを設定した「交差点の停止線から30m手前」より、更に手前側に設定される。
図13(A)は、
図10(B)及び同(C)の走行パターン変数に対応する走行シーンである。目標車線L2を走行する他車両V2の車速が、自車両V1の車速より遅い場合の走行シーンを示している。
【0064】
目標車線L2が渋滞しているなどの理由により、他車両V2の車速が自車両V1の車速より遅い場合には、初期設定位置IPから奥側に向かうほど、車線変更をし難くなる。言い換えると、初期設定位置IPから手前側に向かうほど、車線変更を実行できる可能性が高くなる。そこで、コスト設定範囲VR1,VR2に車線変更コストを加算し、初期設定位置IPから手前側の車線変更コストの値が大きくなるように走行パターン変数を設定する。このとき、信号認識部116により検出された、車線変更区間LCの前方にある信号機TLが赤信号SRの場合には、他車両V2の車速が更に遅くなり、自車両V1が奥側に進むにつれて車線変更し難くなる。そのため、青信号SGの場合に比べて、仮想停止位置SPを更に手前側に設定したほうが良い。したがって、信号機TLが青信号SGの場合には、車線変更コストがコスト設定範囲VR1まで大きい値となる、走行パターン変数1とし(
図10(B)を参照)、信号機TLが赤信号SRの場合には、車線変更コストがコスト設定範囲VR1に加えてコスト設定範囲VR2まで大きい値となる、走行パターン変数2(
図10(C)を参照)とする。
【0065】
図13(B)は、
図10(D)の走行パターン変数に対応する走行シーンである。
図13(A)と同様に、目標車線L2を走行する他車両V2の車速が、自車両V1の車速より遅い場合の走行シーンを示している。同図(A)と異なる点は、初期設定位置IPの奥側が車線変更禁止区間LPとなっている点である。静止構造物検出部115により、車線変更区間LCが車線変更禁止区間LPであると検出された場合には、上述した走行パターン変数1,2より更に手前側に仮想停止位置SPを設定したほうが良い。そこで、コスト設定範囲VR1,VR2に加えてコスト設定範囲VR3まで車線変更コストの値を大きくする、走行パターン変数3とする(
図10(D)を参照)。
【0066】
これに対し、
図11(A)~(C)に示す走行パターン変数は、車線変更コストが最小となる位置が、初期設定位置IPから、自車両V1の進行方向に対し奥側となる走行パターンである。このため、仮想停止位置SPは、初期コストを設定した「交差点の停止線から30m手前」より、奥側に設定される。
図14(A)は、
図11(A)及び同(B)の走行パターン変数に対応する走行シーンである。目標車線L2を走行する他車両V2の車速が、自車両V1の車速より速い場合の走行シーンを示している。
【0067】
この場合、上述した
図13(A)及び同(B)の走行シーンとは異なり、目標車線L2を走行する車両はスムーズに走行している可能性が高く、初期設定位置IPより奥側であっても車線変更を実行できる可能性がある。そこで、コスト設定範囲VR4,VR5において、手前側に車線変更コストを加算し、初期設定位置IPより奥側に行くほど車線変更コストが小さくなる走行パターン変数を設定する。このとき、信号認識部116により検出された、車線変更区間LCの前方にある信号機TLが青信号SGの場合には、他車両V2の車速が更に速くなり、自車両V1が奥側に進んでも車線変更できる可能性が高い。そのため、赤信号SRの場合に比べて、更に奥側に仮想停止位置SPを設定したほうが良い。したがって、信号機TLが赤信号SRの場合は、車線変更コストの値がコスト設定範囲VR4まで徐々に小さくなる、走行パターン変数4とし(
図11(A)を参照)、信号機TLが青信号SGの場合は、車線変更コストの値がコスト設定範囲VR4に加えてコスト設定範囲VR5まで徐々に小さくなる、走行パターン変数5(
図11(B)を参照)とする。
【0068】
なお、目標車線L2を走行する他車両V2の車速が、自車両V1の車速より速い場合であっても、車速差の絶対値が所定値以上であるときは、必ずしも仮想停止位置SPを「交差点の停止線から30m手前」より、奥側に設定する必要はない。この場合には、走行パターン変数を更新する必要がないので、初期化されたままの走行パターン変数0とする。
【0069】
図14(B)は、
図11(C)の走行パターン変数に対応する走行シーンである。
図14(A)と同様に、目標車線L2を走行する他車両V2の車速が、自車両V1の車速より速い場合の走行シーンを示している。同図(A)と異なる点は、目標車線L2に静止物体(駐車車両PV)が存在する点である。物体検出部112により、目標車線L2に駐車車両PVが検出された場合には、駐車車両PVの前端より奥側に仮想停止位置SPを設定したほうが良い。駐車車両PVより手前に仮想停止位置SPを設定すると、自車両V1が車線変更を繰り返し実行しなければならないからである。そこで、コスト設定範囲VR6の全体に車線変更コストを加算し、他の走行シーンより車線変更コストの値を大きくする、走行パターン変数6とする(
図11(C)を参照)。
【0070】
このように、自車両V1の実際の走行状況に応じて走行パターン変数を設定する。コスト設定部193は、走行パターン変数に基づいて、車線変更区間LCにおける車線変更コストの値を演算し、仮想停止位置設定部194に出力する。走行パターン変数が0の場合には、車線変更区間LCの車線変更コストを演算する必要がないので、初期コストの値のまま仮想停止位置設定部194に出力する。そして、上述した通り、仮想停止位置設定部194は、自車線L1上の車線変更コストが最小となる位置に、自車両V1の仮想停止位置SPを設定する。
【0071】
《車線変更制御処理》
次に、
図15及び
図16を参照して、本実施形態に係る車線変更制御処理について説明する。
図15は、本実施形態の制御装置19が実行する車線変更制御処理の一例を示すフローチャートである。
図16は、
図15に示すステップS5のサブルーチンの一例を示す。
【0072】
以下に説明する車線変更制御処理は、制御装置19により所定の時間間隔で実行される。また、以下においては、制御装置19の自律走行制御機能により、自律速度制御と自律操舵制御が実行され、自車両がドライバーの設定した速度で車線内を走行するように、自車両の幅員方向における走行位置を制御するレーンキープ制御が行われているものとする。
【0073】
まず、ステップS1において、目的地設定部151から取得した情報に基づいて目的地を設定し、続くステップS2において、目的地までの自車両V1の走行ルートを演算する。次に、ステップS3で、自車両V1の走行ルートにおける、車線変更が必要となる地点を検出し、車線変更区間LCを特定する。
【0074】
ステップS4では、車線変更区間特定部191により、自車両V1が車線変更区間LCに到達したか否かを判定する。自車両V1が車線変更区間LCに到達したと判定されるまで、予め定められた時間内でステップS4を繰り返す。これに対して、自車両V1が車線変更区間LCに到達したと判定された場合には、ステップS5に進む。ステップS5では、車線変更区間LCの自車線L1上に、自車両V1を停止させる仮想停止位置SPを設定する。
【0075】
続いて、ステップS6において、目標車線L2を走行する他車両がいるか否かを検出する。目標車線L2を走行する他車両がいない場合には、ステップS10へ進む。これに対して、目標車線L2を走行する他車両がいる場合には、ステップS7に進み、自車両V1が車線変更を実行する際、後方に進入できる対象車両V2を特定し、ステップS8に進む。
【0076】
ステップS8において、対象車両V2の後方に進入するため、減速度の初期値にて自車両V1の減速を開始する。続くステップS9で、仮想停止位置SPに到達するまでに自車両V1の車線変更を完了することができるか否かを判定する。仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定した場合には、ステップS10へ進む。これに対して、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができないと判定した場合には、ステップS12進む。
【0077】
ステップS9の判定の結果、減速度の初期値では仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができないと判定した場合には、ステップS12において、自車両V1を更に減速する。そして、ステップS13で再度、仮想停止位置SPに到達するまでに自車両V1の車線変更を完了することができるか否かを判定する。
【0078】
ステップS13の判定の結果、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定した場合には、ステップS10へ進む。これに対して、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができないと判定した場合には、ステップS14に進む。
【0079】
ステップS14では、自車両V1が車線変更を完了するために所定速度(車線変更禁止車速)以下に減速する必要があるか否かを判定する。車線変更を完了するために所定速度(車線変更禁止車速)以下に減速する必要があると判定した場合には、仮想停止位置SPで停止する速度プロファイルを選択し、ステップS15に進む。これに対して、車線変更を完了するために所定速度(車線変更禁止車速)以下に減速する必要がないと判定した場合には、対象車両V2の減速に合わせて初期値よりさらに減速する速度プロファイルを選択し、ステップS10へ進む。
【0080】
ステップS14の判定の結果、車線変更を完了するために所定速度(車線変更禁止車速)以下に減速する必要があると判定した場合には、仮想停止位置SPで停止する速度プロファイルを実行するため、自車両V1を再加速し、ステップS16に進む。
【0081】
ステップS16において、仮想停止位置SPに到達するまでに自車両V1の車線変更を完了することができるか否かを再度判定し、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定した場合には、ステップS10に進む。仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができないと判定した場合には、ステップS17に進み、自車両V1を仮想停止位置SPで停車させ、ステップS18に進む。
【0082】
続くステップS18において、自車両V1が目標車線L2に進入することができるか否かを判定する。自車両V1が、目標車線L2を走行する対象車両V2や、他の移動物体(他車両V3)と干渉する可能性が所定の閾値より低い場合には、自車両V1が目標車線L2に進入することができると判定し、ステップS10へ進む。これに対して、自車両V1が、目標車線L2を走行する対象車両V2や、他の移動物体(他車両V3)と干渉する可能性が所定の閾値より高い場合には、自車両V1が目標車線L2に進入することができないと判定してステップS17に戻り、これ以降の処理を繰り返す。
【0083】
ステップS6の判定の結果、目標車線L2を走行する他車両がいないと判定した場合、ステップS13の判定の結果、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定した場合、ステップS14の判定の結果、車線変更を完了するために所定速度(車線変更禁止車速)以下に減速する必要がないと判定した場合、ステップS16の判定の結果、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更を完了することができると判定した場合及びステップS18の判定の結果、自車両V1が目標車線L2に進入することができると判定した場合には、ステップS10において仮想停止位置SPを解除する。そして、ステップS11で自車両V1を目標車線L2進入させたら、車線変更制御を終了する。
【0084】
図15のステップS5では、コスト設定部193及び仮想停止位置設定部194の実行処理として、
図16に示す処理が実行される。ステップS4の判定の結果、自車両V1が車線変更区間LCに到達したと判定されると、ステップS501において、車線変更区間LCの前端から所定距離の位置、たとえば
図10(A)に示す「交差点の停止線から30m手前」の位置に対して、車線変更コストが最小となるよう、初期コストを設定する。
【0085】
続くステップS502において、車線変更コストの初期コストを設定した「交差点の停止線から30m手前」の走行シーンを走行パターン変数0として初期化し、S503に進む。このとき、初期コストが設定された位置を初期設定位置IPとする。
【0086】
ステップS503において、車両状態取得部114により自車両V1の車速を検出し、物体検出部112により目標車線L2を走行する他車両V2の車速を検出する。続くステップS504では、信号認識部116により車線変更区間LCの前方にある信号機TLの情報を取得する。
【0087】
次に、ステップS505において、自車両V1の車速と目標車線L2を走行する他車両V2の車速を比較する。
図13(A)及び(B)に示すように、自車両V1の車速より目標車線L2を走行する他車両V2の車速のほうが遅い場合には、ステップS506へ進む。これに対し、
図14(A)及び(B)に示すように、自車両V1の車速より目標車線L2を走行する他車両V2の車速のほうが速い場合には、ステップS512へ進む。
【0088】
ステップS505の判定の結果、自車両V1の車速より目標車線L2を走行する他車両V2の車速のほうが遅いと判定された場合には、目標車線L2では渋滞などの理由により車両がスムーズに走行していない可能性がある。そのため、ステップS506~ステップS507では、仮想停止位置SPを、初期設定位置IP(交差点の停止線から30m手前)より更に手前側にするための走行パターン変数が設定される。
【0089】
ステップS506において、車線変更区間LCの前方にある信号機TLが赤信号SRであるか否かを判定する。信号機TLが赤信号SRであると判定された場合には、ステップS507に進む。車線変更区間LCの前方にある信号機TLが赤信号SRでないと判定された場合には、ステップS508に進み、
図10(B)に示す走行パターン変数1を設定する。
【0090】
ステップS506の判定の結果、信号機TLが赤信号SRであると判定された場合には、続くステップS507において、車線変更区間LCが車線変更禁止区間LPであるか否かを判定する。車線変更禁止区間LPでないと判定された場合には、ステップS08にて、
図10(C)に示す走行パターン変数2を設定する。この場合、走行パターン変数1を設定したときよりも、車線変更コストが最小となる位置が手前側になる。これに対して、車線変更禁止区間LPであると判定された場合には、ステップS508に進み、車線変更コストが最小となる位置を、走行パターン変数2を設定したときよりも更に手前側にするため、
図10(D)に示す走行パターン変数3を設定する。
【0091】
これに対し、ステップS505の判定の結果、自車両V1の車速より目標車線L2を走行する他車両V2の車速のほうが速いと判定された場合には、目標車線L2では車両がスムーズに走行している可能性が高い。そのため、ステップS512~ステップS514では、仮想停止位置SPを、初期設定位置IP(交差点の停止線から30m手前)より奥側にするための走行パターン変数が設定される。
【0092】
S512において、自車両V1の車速と目標車線L2を走行する他車両V2の車速の車速差の絶対値が所定値以下であるか否かを判定する。車速差の絶対値が所定値以下であると判定された場合には、ステップS513へ進む。車速差の絶対値が所定値以下でないと判定された場合には、初期化された走行パターン変数0の設定のまま、ステップS509に進む。
【0093】
S512の判定の結果、車速差の絶対値が所定値以下であると判定された場合には、続くステップS513において、車線変更区間LCの前方にある信号機TLが青信号SGであるか否かを判定する。信号機TLが青信号SGであると判定された場合には、ステップS514に進む。これに対して、車線変更区間LCの前方にある信号機TLが青信号SGでないと判定された場合には、ステップS508へ進み、
図11(A)に示す走行パターン変数4を設定する。
【0094】
ステップS513の判定の結果、信号機TLが青信号SGであると判定された場合には、続くステップS514において、車線変更区間LCの目標車線L2に静止物体(駐車車両PV)があるか否かを判定する。車線変更区間LCに静止物体(駐車車両PV)がないと判定された場合には、ステップS508にて、
図11(B)に示す走行パターン変数5を設定する。この場合、走行パターン変数4を設定したときよりも、車線変更コストが最小となる位置が奥側になる。これに対して、静止物体(駐車車両PV)があると判定された場合には、ステップS508へ進み、車線変更コストが最小となる位置を、静止物体(駐車車両PV)の前端より奥側に設定するため、
図11(C)に示す走行パターン変数6を設定する。
【0095】
このように、自車両V1の実際の走行状況から設定された走行パターン変数に基づいて、ステップS509にて車線変更区間LCにおける車線変更コストを演算し、更新する。そして、ステップS510において、車線変更コストが最小となる位置を探索し、ステップS511において車線変更コストが最小となる位置に仮想停止位置SPを設定する。
【0096】
上述した実施形態では、本発明を
図6~
図8に示す交差点に適用した例を説明したが、本発明の車両の走行制御方法及び走行制御装置は交差点のみに限定されず、合流路や分岐路といった、自車両を自律走行制御し車線変更する一般的な走行シーンに適用することができる。
【0097】
以上のとおり、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、自車両V1が走行経路に沿って走行中に、自車線L1から目標車線L2へ、自律走行制御により車線変更を実行する場合において、走行経路上に車線変更を実行する車線変更区間LCを特定し、車線変更区間LCの自車線L1上に、自車両V1を停止させる仮想停止位置SPを設定し、仮想停止位置SPまで自車両V1を減速して走行させ、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更が完了するか否かを判定する。そして、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更が完了しないと判定した場合には、仮想停止位置SPで自車両V1を停止させたのち、車線変更を実行するので、自車両が自車線と他車線を跨いだ状態で停止することを抑制することができる。
【0098】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、仮想停止位置SPに到達するまでに車線変更が完了すると判定した場合には、車線変更を実行するので、不要な減速や停止制御を抑制することができ、円滑に車線変更を実行することができる。
【0099】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、仮想停止位置SPまで自車両V1を減速して車線変更が完了するか否かを判定する場合に、自車両V1が車線変更禁止車速以下に減速しなければ車線変更が完了しないときは、車線変更が完了しないと判定するので、他車両の減速に起因する自車両の急激な減速や停止制御を抑制することができる。
【0100】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、車線変更区間LCにおいて、車線変更を実行する位置に対して、車線変更の適合性の指標としての車線変更コストを算出し、仮想停止位置SPを車線変更コストが最小となる位置に設定するので、車線変更を実行しやすく、自車両が停止しても後続車両に違和感を与え難い位置で自車両を停車させることできる。
【0101】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、車線変更コストが最小となる位置を、車線変更区間LCの前端から手前方向に所定距離の位置に設定するので、車線変更を実行するための一定の距離を確保した位置で自車両を停車させることができる。
【0102】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、目標車線L2を走行する他車両V2の速度を検出し、他車両V2の速度が自車両V1の速度より遅ければ遅いほど、車線変更コストが最小となる位置を、車線変更区間LCの前端から手前方向に所定距離の位置に対して、自車両V1の進行方向の手前側に設定するので、車線変更先の車線の走行環境に応じた位置で自車両を停車させることができる。
【0103】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、車線変更区間LCの前方にある信号機TLを検出し、信号機TLが赤信号SRの場合には、青信号SGの場合に比べて、車線変更コストが最小となる位置を、自車両V1の進行方向の手前側に設定するので、自車両が車線変更を実行できる可能性を高めることができる。
【0104】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、車線変更区間LCが車線変更禁止区間LPであるか否かを検出し、車線変更禁止区間LPである場合には、車線変更禁止区間LPでない場合に比べて、車線変更コストが最小となる位置を、自車両V1の進行方向の手前側に設定するので、自車両が車線変更を実行できる可能性を更に高めることができる。
【0105】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、目標車線L2を走行する他車両V2の速度を検出し、他車両V2の速度が自車両V1の速度より速ければ速いほど、車線変更コストが最小となる位置を、車線変更区間LCの前端から手前方向に所定距離の位置に対して、自車両V1の進行方向の奥側に設定するので、車線変更先の車線の走行環境に応じた位置で自車両を停車させることができる。
【0106】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、車線変更区間LCの前方にある信号機TLを検出し、信号機TLが青信号SGの場合には、赤信号SRの場合に比べて、車線変更コストが最小となる位置を、自車両V1の進行方向の奥側に設定するので、自車両が車線変更を実行できる可能性を高めることができる。
【0107】
また、本実施形態の車両の走行制御方法及び走行制御装置によれば、目標車線L2上の静止物体を検出し、静止物体が検出された場合には、車線変更コストが最小となる位置を、自車両V1の進行方向の、静止物体の奥側に設定するので、不要な車線変更を繰り返すことを抑制することができる。
【符号の説明】
【0108】
1…走行制御装置
11…センサ
12…自車位置検出装置
13…地図データベース
14…車載機器
15…ナビゲーション装置
16…提示装置
17…入力装置
18…駆動制御装置
19…制御装置
V1…自車両
V2,V3…他車両
L1…自車線
L2…目標車線
LC…車線変更区間
LP…車線変更禁止区間
SP…仮想停止位置
IP…初期設定位置
TL…信号機
PV…駐車車両
VR1,VR2,VR3,VR4,VR5,VR6…コスト設定範囲