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特許7563217ワイピングユニット及び缶ボディメーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ワイピングユニット及び缶ボディメーカー
(51)【国際特許分類】
   B21D 51/26 20060101AFI20241001BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20241001BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B21D51/26 X
F16J15/18 A
G21F9/28 581A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021020967
(22)【出願日】2021-02-12
(65)【公開番号】P2022123575
(43)【公開日】2022-08-24
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 智仁
(72)【発明者】
【氏名】舟槻 洋光
(72)【発明者】
【氏名】寒川 京一
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-190032(JP,A)
【文献】特開平07-185683(JP,A)
【文献】特開昭50-074644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 51/26
F16J 15/18
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動するラム用のワイピングユニットであって、
前記ワイピングユニットは、缶ボディメーカーのラムに装着され、
ラムの外周面を押圧するリップ部が形成された環状のワイプ部材と、前記ワイプ部材の外周上に配置されて前記リップ部をラムの外周面に押圧するための弾性リングと、前記ワイプ部材及び前記弾性リングをその中心軸方向片側から収納する収納段部を設けた環状の枠部と、を有するサブユニットを、その中心軸方向に沿って複数配列して備えると共に、
前記ワイプ部材及び前記弾性リングをその中心軸方向片側から収納する収納段部、及び、複数の前記枠部を重ねて収納する枠収納部を有する環状のハウジング体と、
前記ハウジング体に取り付けられ、複数の前記枠部が収納された前記枠収納部に蓋をする環状のキャップ体と、を備え、
隣接する前記ワイプ部材間に、前記ワイプ部材により回収された回収物を排出するドレン経路を有し、
前記ドレン経路として、
前記枠部に、その中心軸に対して放射状にドレン孔を設けると共に、前記ハウジング体における前記枠収納部の内側に、前記ドレン孔に連通する環状のドレン溝を設けており、
前記ワイプ部材は、硬質樹脂で形成されている
ことを特徴とするワイピングユニット。
【請求項2】
前記硬質樹脂は、硬質ポリウレタンである
ことを特徴とする請求項1に記載のワイピングユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワイピングユニットを備えた缶ボディメーカーであって、
前記ワイピングユニットは、ラムの外周面に缶成形用の水溶性潤滑剤を供給する側と、潤滑油を供給して前記ラムの往復動を駆動する駆動機構側との境界に配置される
ことを特徴とする缶ボディメーカー。
【請求項4】
前記ワイピングユニットにおける前記水溶性潤滑剤を供給する側に位置する前記サブユニットは、複数の前記リップ部が形成された前記ワイプ部材と、複数の前記リップ部のそれぞれを前記ラムに押圧するための複数の前記弾性リングとを有する
ことを特徴とする請求項に記載の缶ボディメーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピングユニット、及び、ワイピングユニットを備えた缶ボディメーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、飲料用缶等の缶体の成形を行う缶ボディメーカーがある。通常、缶ボディメーカーは、円筒状のラムがその中心軸方向に往復動してその前端を金属製のカップ体の内底面に押し付けることでカップ体に対してしごき加工等を行い、カップ体から円筒缶を成形する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような缶ボディメーカーの多くは、往復動するラムの外周面を押圧するワイピングユニットを備えている。このワイピングユニットが備えるワイプ部材は、ラムが往復動する際に、ラムの外周面から、ラムの往復動を駆動する駆動機構で使用する脂溶性の潤滑油を掻き取る。これにより、缶ボディメーカーは、缶成形用にラムに供給する水溶性潤滑剤(クーラント)と脂溶性の潤滑油とが、互いに混合しないようにしている。
【0004】
このワイプ部材の構造としては、例えば特許文献2に記載のワイパリングや、特許文献3に記載のシールリングのような構造が一般的に知られている。特許文献2に記載のワイパリングは、チャンバディスク内に周縁ばねを介して設けられた保持装置と、その保持装置に保持されるワイパブレードとを備えたものである。このワイパリングは、ワイパブレードのブレード先端部によってピストンロッドの表面のオイルを拭き取るようにしている。
【0005】
特許文献3には、往復動する棒とこれを取り囲むケージングとの間のギャップを密閉するためのパッキンとして用いられるシールリングが、この棒に当接するシールリップを備える点について記載されている。
【0006】
特許文献2に記載のワイパリングのブレード先端部、及び、特許文献3に記載のシールリングのシールリップ先端の何れも、その断面形状がブレード状のリップ部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-523200号公報
【文献】特表2019-528397号公報
【文献】特許第2512274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、缶ボディメーカーのラムのように、比較的高速且つロングストロークで往復動するラムは細長いため、往復動する際に、様々な外乱的要因によってラムの中心軸方向だけでなく径方向にも望まない揺れ(揺動)を生じさせる。これにより、このような往復動を行うラムに装着されるワイピングユニットが、特許文献2に記載のワイパリング又は特許文献3に記載のシールリングのような構造のワイプ部材を備えたものであると、そのワイプ部材のブレード状のリップ部がラムの外周面に不均一に押圧されることで偏摩耗等が生じてしまう。そのため、このようなワイピングユニットは、長期に亘ってその機能を十分に維持し難い、といった問題があった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、長期に亘ってその機能を十分に維持することが可能なワイピングユニット及びそのワイピングユニットを備えた缶ボディメーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るワイピングユニットは、往復動するラム用のワイピングユニットであって、前記ワイピングユニットは、缶ボディメーカーのラムに装着され、ラムの外周面を押圧するリップ部が形成された環状のワイプ部材と、前記ワイプ部材の外周上に配置されて前記リップ部をラムの外周面に押圧するための弾性リングと、前記ワイプ部材及び前記弾性リングをその中心軸方向片側から収納する収納段部を設けた環状の枠部と、を有するサブユニットを、その中心軸方向に沿って複数配列して備えると共に、前記ワイプ部材及び前記弾性リングをその中心軸方向片側から収納する収納段部、及び、複数の前記枠部を重ねて収納する枠収納部を有する環状のハウジング体と、前記ハウジング体に取り付けられ、複数の前記枠部が収納された前記枠収納部に蓋をする環状のキャップ体と、を備え、隣接する前記ワイプ部材間に、前記ワイプ部材により回収された回収物を排出するドレン経路を有し、前記ドレン経路として、前記枠部に、その中心軸に対して放射状にドレン孔を設けると共に、前記ハウジング体における前記枠収納部の内側に、前記ドレン孔に連通する環状のドレン溝を設けており、前記ワイプ部材は、硬質樹脂で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期に亘ってその機能を十分に維持することが可能なワイピングユニット及びそのワイピングユニットを備えた缶ボディメーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のワイピングユニットの斜視図である。
図2】(a)は図1に示すワイピングユニットをA-A’線で切断した状態を示す斜視図であり、(b)はそのA-A’線断面図である。
図3】ハウジング体の斜視図である。
図4】(a)は図3に示すハウジング体のC-C’線断面図であり、(b)は(a)の領域Rの拡大図であり、(c)はハウジング体の底面図である。
図5】(a)は枠部の斜視図であり、(b)は(a)の枠部をD-D’線で断面した状態を示す斜視図である。
図6】ハウジング体と、ワイプ部材及び弾性リングと、複数のサブユニットとを分解して示す斜視図である。
図7】(a)、(b)は図2(b)に示すワイプ部材及び弾性リングを収納した枠部を備えたサブユニットの部分断面図である。
図8】(a)は図1に示すワイピングユニットをB-B’線で切断した状態を示す斜視図であり、(b)はそのB-B’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(ワイピングユニットの外観)
図1に示す本実施形態のワイピングユニット1は、往復動するラム用の環状のワイピングユニットであって、環状のハウジング体2と、ハウジング体2に取り付けられた環状のキャップ体3とを備える。キャップ体3は、ハウジング体2に対して着脱可能である。ワイピングユニット1は、キャップ体3が複数のネジ部材31によってハウジング体2に取り付けられることで、蓋がされる。このワイピングユニット1は、4つの環状のサブユニット5(サブユニット51~54)が、ラム201(図7参照)の長手方向(すなわちラム201の中心軸方向)に沿う、ワイピングユニット1の中心軸Oの方向に沿って配列されている。なお、図1図3図5図6図8等に示すように、ここでの「環状」とは「略円環状」であるが、これに限定されず、本実施形態において、「環状」とは「略楕円環状」等の他の環状形状であってもよい。
【0015】
(缶ボディメーカー)
ワイピングユニット1は、例えば飲料用缶等の缶体の成形を行う缶ボディメーカーが備える円筒状のラム201に装着される。具体的に、環状のワイピングユニット1は、その中空内に挿入されたラム201の外周面201aをワイプ部材6が押圧するように構成される。缶ボディメーカーにおいて、ラム201は、金属製のカップ体に対し、水溶性潤滑剤(クーラント)をラム201の外周面201aに供給しながら、その中心軸方向に往復動し、絞りしごき加工を行うことで、カップ体から円筒缶を成形する。これと同時に、ラム201は、缶ボディメーカーにおけるラム201の往復動を駆動する駆動機構に対して潤滑油が供給されながら、駆動される。
【0016】
缶ボディメーカーにおいて、ワイピングユニット1は、ラム201の外周面201aに缶成形用の水溶性潤滑剤を供給する側と、潤滑油を供給してラム201の往復動を駆動する駆動機構側との境界に配置される。缶ボディメーカーは、このように配置されるワイピングユニット1によって、水溶性潤滑剤と潤滑油とが互いに混合することを抑制している(特許文献1参照)。
【0017】
水溶性潤滑剤は、水に少量の可溶性オイルが含まれてなり、例えば水溶性潤滑剤全体に対して可溶性オイルが2~4%含まれ、残りが水であるものであってよい。
【0018】
潤滑油は、例えば鉱物油或いは化学合成油等からなる基油(ベースオイル)に、ラム201の軸受や駆動機構等の潤滑に適した油性添加剤を添加してなる脂溶性のオイルであってよい。
【0019】
缶ボディメーカーの動作条件は、特に限定されないが、ラム201が高速に往復動を行ってよい。例えば、缶ボディメーカーは、ラムストローク24~27インチ(inch)、製缶スピード400缶/min(分)、ラムストロークスピード最大12m/s(秒)で動作してよい。
【0020】
(ワイピングユニットの詳細構成)
図2(a)、(b)に示すように、ワイピングユニット1は、4つの環状のサブユニット5(サブユニット51~54)を備えた環状のハウジング体2にキャップ体3が、複数のネジ部材31により取り付けられて蓋がされている。
【0021】
図2(a)、(b)、図3及び図4(a)に示すように、ハウジング体2は、ワイプ部材61及び弾性リング81を、その(ラム201の長手方向に沿う)中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納する収納段部22を備えた枠部21を備える。環状の枠部21の収納段部22に環状のワイプ部材61及び弾性リング81が収納されて、環状のサブユニット51が構成される。また、環状の枠部521の収納段部522に環状のワイプ部材62及び弾性リング82が収納されて、環状のサブユニット52が構成される。同様に、環状の枠部531の収納段部532に環状のワイプ部材63及び弾性リング83が収納されて、環状のサブユニット53が構成され、環状の枠部541の収納段部542に環状のワイプ部材64及び弾性リング84a、84bが収納されて、環状のサブユニット54が構成される。
【0022】
図3図4(a)、(b)に示すように、ハウジング体2は、サブユニット52~54の枠部521、531、541を重ねて収納する枠収納部23を備える。
【0023】
枠部521、531、541について、図5(a)、(b)に示す枠部541を例に挙げて述べる。枠部541は、ワイプ部材64と、その外周上に配置される2つの弾性リング84a、84bとをその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納する収納段部542を備える。また、枠部541には、その中心軸Oに対して放射状に複数のドレン孔543が設けられている。なお、ドレン孔543の数は、特に限定されず、単数であってもよく、或いは2以上の何れの数であってもよい。
【0024】
枠部521、531も、この枠部541と略同一の構成を有していてよい。図2(a)、(b)に示すように、枠部521の収納段部522には、ワイプ部材62とその外周上に配置される弾性リング82とがその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。この枠部521には、その中心軸Oに対して放射状に複数のドレン孔523が設けられている。また、枠部531の収納段部532には、ワイプ部材63とその外周上に配置される弾性リング83とがその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。この枠部531には、その中心軸Oに対して放射状に複数のドレン孔533が設けられている。
【0025】
図2(b)、図4(a)に示すように、ハウジング体2における枠収納部23の内側には、ドレン孔523、533、543にそれぞれ連通する環状のドレン溝241、242、243が設けられている。ドレン溝241、242、243の詳細については、後述する。
【0026】
図6に示すように、環状のハウジング体2には、ワイプ部材61~64及びその外周上に配置された弾性リング81~83、84a、84bと、枠部521、531、541とが、その中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。具体的には、図2(a)、(b)、図4(a)及び図6に示すように、先ず、環状のワイプ部材61及び環状の弾性リング81が、ハウジング体2の枠部21の収納段部22に、ハウジング体2の中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納され、これにより、サブユニット51が構成される。
【0027】
次に、サブユニット52、すなわち、環状のワイプ部材62とその外周上に配置された環状の弾性リング82とがその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納された枠部521が、ハウジング体2の枠収納部23に、その中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。
【0028】
続いて、サブユニット53、すなわち、環状のワイプ部材63とその外周上に配置された環状の弾性リング83とがその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納された枠部531が、ハウジング体2の枠収納部23に、その中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。その後、サブユニット54、すなわち、環状のワイプ部材64とその外周上に配置された環状の2つの弾性リング84a、84bとがその中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納された枠部541が、ハウジング体2の枠収納部23に、その中心軸O方向片側(矢印のX軸方向とは反対方向)から収納される。
【0029】
ここで、ハウジング体2の枠部21の収納段部22には、環状の弾性リング81が収納されるとともに環状のワイプ部材61が環状のまま収納される。また、枠部521には、環状の弾性リング82が収納されるとともに環状のワイプ部材62が環状のまま収納される。また、枠部531には、環状の弾性リング83が収納されるとともに環状のワイプ部材63が環状のまま収納される。また、枠部541には、環状の弾性リング84a、84bが収納されるとともに環状のワイプ部材64が環状のまま収納される。ワイプ部材61~64は、このように変形することなく環状のまま収納されるため、交換時の収納を容易とすることができる。
【0030】
このようにして、図2(a)、(b)、図3及び図4(a)に示すように、ハウジング体2においては、枠部21の収納段部22に、ワイプ部材61及び弾性リング81が収納されてサブユニット51が形成された後、枠収納部23に、サブユニット52~54の枠部521、531、541が重ねて収納される。
【0031】
この状態で、環状のキャップ体3が、複数のネジ部材31によってハウジング体2に固定されて枠収納部23に蓋がされることで、図1及び図2(a)、(b)に示すワイピングユニット1が構成される。
【0032】
図2(a)、(b)に示すように、ワイピングユニット1において、サブユニット51~54は、中心軸O方向に沿って配列される。ワイピングユニット1では、このようにサブユニット51~54が配列されることで、ワイプ部材61~64によって潤滑油を掻き取り、その掻き取った潤滑油を排出する領域であるワイプセクション4(ワイプセクション41~44)が形成される。
【0033】
(ワイプ部材及び弾性リング)
次に、ワイプ部材6(ワイプ部材61~64)及び弾性リング8(弾性リング81~83、84a、84b)について説明する。図7(a)には、図2(b)に示すサブユニット54における枠部541に収納されたワイプ部材64及び弾性リング84a、84bの部分断面図が示されている。また、図7(b)には、図2(b)に示すサブユニット53における枠部531に収納されたワイプ部材63及び弾性リング83の部分断面図が示されている。なお、図2(a)、(b)に示すように、サブユニット51におけるワイプ部材61及び弾性リング81、サブユニット52におけるワイプ部材62及び弾性リング82は、サブユニット53におけるワイプ部材63及び弾性リング83と構成が同一であるため、図示及び詳細な説明を省略する。
【0034】
図7(b)に示すように、サブユニット53のワイプ部材63は、リップ部731と、溝部732と、姿勢保持部733とを有する。例えば、缶ボディメーカーが、最も市場に多く流通している211径(缶胴直径約66mm)の飲料用缶を製造する場合、リップ部731は、ラム201の外周面201aに対し、0.3~0.6mmの締め代(しめしろ)、すなわち半径寸法差を有する。サブユニット53の弾性リング83は、枠部531の収納段部532とワイプ部材63とに挟まれるように収納される。これにより、ワイプ部材63に対して押圧力(緊迫力)が発生することから、ワイプ部材63のリップ部731は、中心軸方向(X軸方向及びその反対方向)に沿って往復動するラム201の外周面201aを弾性的に押圧するので、ラム201に常に追従してラム201の外周面201a上の潤滑油を掻き取る。
【0035】
ワイプ部材63によって掻き取られた大部分の潤滑油は、溝部732に一旦溜まりつつも、姿勢保持部733とラム201の外周面201aとの間の隙間を流れ、ドレン孔533から環状のドレン溝242内へと流入し、その後外部へと排出されることで回収物として回収される。また、ワイプ部材63によって潤滑油が掻き取られる際、一部の潤滑油は、ワイプ部材63と枠部531との間の隙間を流れ、ワイプ部材63の外周面側へと流入する。この流入した潤滑油によって油圧が発生することで、ワイプ部材63のリップ部731における、ラム201の外周面201aに対する押圧力(緊迫力)は、更に高められ潤滑油の掻き取りをより確実なものとする。
【0036】
上述のように、サブユニット51のワイプ部材61及び弾性リング81、サブユニット52のワイプ部材62及び弾性リング82も、このようなサブユニット53のワイプ部材63及び弾性リング83と同様の構成を備える。そのため、ラム201がX軸方向とは反対方向に進行するとき、ワイピングユニット1のワイプセクション41、42においても、ワイプ部材61、62が、リップ部7によってラム201の外周面201a上の潤滑油を掻き取る。
【0037】
図7(a)に示すように、サブユニット54は、基本的には、サブユニット51~53と同様の構成を備える。但し、サブユニット54のワイプ部材64は、2つのリップ部741a、741b、及び溝部742を有する。サブユニット54は、缶ボディメーカーにおいて、ラム201の外周面201aに缶成形用の水溶性潤滑剤(クーラント)を供給する側に位置している。そのため、サブユニット54では、水溶性潤滑剤(クーラント)や、缶成形時に缶に起因する金属粉等のダスト等が、潤滑油を供給してラム201の往復動を駆動する駆動機構側に侵入することを防止する必要がある。
【0038】
そこで、サブユニット54のワイプ部材64は、面状のリップ部741a、741bを有し、ラム201の外周面201aにそのリップ部741a、741bの面で押圧するようになっている。ワイプ部材64は、面状のリップ部741aによって、缶成形用の水溶性潤滑剤(クーラント)や缶成形時に発生する金属粉等のダスト等がリップ部741aを超えて溝部742側に侵入することを防止する。また、万が一、水溶性潤滑剤やダスト等が溝部742に侵入した場合であっても、面状のリップ部741bによって、そのリップ部741bを超えることを防止する。また、ワイプ部材64は、リップ部741bによってラム201の外周面201a上の潤滑油を掻き取ることができる。
【0039】
サブユニット54は、このような2つの面状のリップ部741a、741bを有している。このことから、サブユニット54は、ワイプ部材64の外周上に、2つの面状のリップ部741a、741bのそれぞれをラム201の外周面201aに押圧するための2つの弾性リング84a、84bを有する。ワイプ部材64は、溝部742を有しており、これにより2つの弾性リング84a、84bの押圧力(緊迫力)がワイプ部材64に十分に伝わるようなサイズ及び形状となっている。
【0040】
弾性リング84a、84bも、枠部541の収納段部542によって押圧された状態となっている。それにより、弾性リング84a、84bは、ワイプ部材64に対する押圧力(緊迫力)を有する。この押圧力によってワイプ部材64のリップ部741a、741bは、中心軸方向に沿って往復動するラム201の外周面201aを弾性的に押圧する。これにより、ワイピングユニット1のワイプセクション44では、ワイプ部材64がラム201に追従し、リップ部741bによってラム201の外周面201a上の水溶性潤滑剤や潤滑油を掻き取る。
【0041】
ワイプ部材6(ワイプ部材61~64)は、硬質樹脂で形成されていてよい。この硬質樹脂は、特に限定されないが、十分に硬く、滑りが良い(低摩擦)等の点から、例えば硬質ポリウレタン、ポリアセタール(POM)、超高分子ポリエチレン(UHMW)、4フッ化エチレン(PTFE)等が挙げられる。
【0042】
ワイプ部材6は、このような硬質樹脂で形成されてその外周上に弾性リング8を有することにより、ラム201が高速(例えば、ラムストローク24~27インチ(inch)、製缶スピード400缶/min(分)、ラムストロークスピード最大12m/s(秒)の速さ)で、その中心軸方向に往復動する際、ラム201が揺動してもその外周面201aに追従し、周方向均一にラム201を押圧するので、確実に潤滑油を掻き取ることができ、偏摩耗も低減される。そして、ワイプ部材6は、このような硬質樹脂で形成されていることにより、エラストマーで形成されるワイプ部材に比べ、耐摩耗性及び耐劣化性に優れることから、より長期に亘ってその機能を十分に維持することができる。
【0043】
弾性リング8は、所謂「Oリング」とも称され、その材料は、特に限定されないが、例えば、通常使用されるゴムであってよい。
【0044】
このようなワイプ部材6及び弾性リング8を備えるワイピングユニット1によれば、ワイプ部材6及び弾性リング8を頻繁に交換することなく、長期に亘ってその機能を十分に維持することができる。
【0045】
なお、ワイプ部材6(61~64)及び弾性リング8(81~83、84a、84b)の構成は、ここで説明したものに限定されず、他の構成であってもよい。
【0046】
(ドレン経路)
図8(a)には、図1に示すワイピングユニット1をB-B’線で切断した状態の斜視図が示され、図8(b)には、そのB-B’線断面図が示されている。このB-B’線は、枠部531のドレン孔533と、ハウジング体2の環状のドレン溝242とを通過する。そのため、図8(a)、(b)には、枠部531のドレン孔533と、ハウジング体2のドレン溝242とが示されている。なお、枠部521のドレン孔523とハウジング体2のドレン溝241、枠部541のドレン孔543とハウジング体2のドレン溝243も、図8(a)、(b)に示す構成と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
ワイピングユニット1は、ワイプセクション41のワイプ部材61によってラム201の外周面201a上の潤滑油が完全に掻き取られ、駆動機構側へ戻るようにすることを目的としている。しかしながら、微量ではあるが、掻き取りきれなかった潤滑油がワイプセクション41を越えてしまうことがある。
【0048】
そのようなワイプセクション41を越えてしまった潤滑油を掻き取るため、ワイピングユニット1は、ワイプセクション42を有している。ワイプ部材62のリップ部7によって、ラム201の外周面201a上から掻き取られた潤滑油は、図2(a)、(b)、図4(b)、(c)に示すように、ドレン孔523に流入した後、このドレン孔523に連通する環状のドレン溝241へと流入する。そして、ドレン溝241に流入した潤滑油は、ドレン溝241の穴部251と、この穴部251に連通する流出口261とを介して流出口261に連結された排出管(図示せず)内を流れて外部へと排出され、回収物として回収される。
【0049】
このように、ワイピングユニット1は、ワイプセクション42において、ワイプ部材62により掻き取った潤滑油を排出して回収するためのドレン経路として、ドレン孔523、ドレン溝241、穴部251及び流出口261を備えたドレン経路を設けている。
【0050】
それでも、潤滑油がワイプセクション42を乗り越えてしまった場合に備え、ワイピングユニット1は、ワイプセクション43を有している。これにより、ワイピングユニット1は、ワイプ部材63のリップ部731によってラム201の外周面201a上から潤滑油をより完全に掻き取るようにする。
【0051】
掻き取られた潤滑油は、ワイプ部材63の溝部732内に一旦溜まりながらも、ワイプ部材63の姿勢保持部733とラム201の外周面201aとの間の隙間を流れる。そして、その後、潤滑油は、図8(b)の矢印T1の方向に示すように複数のドレン孔533に流入した後、ドレン孔533に連通する環状のドレン溝242へと流入する。そして、ドレン溝242に流入した潤滑油は、図4(b)、(c)、また図8(b)の矢印T2の方向に示すようにドレン溝242に設けられた穴部252へと流入し、穴部252に連通する流出口262から、この流出口262に連結される排出管(図示せず)内を流れて外部へと排出され、回収物として回収される。
【0052】
このように、ワイピングユニット1は、ワイプセクション43において、ワイプ部材63により掻き取った潤滑油を排出して回収するためのドレン経路として、ドレン孔533、ドレン溝242、穴部252及び流出口262を備えたドレン経路を設けている。
【0053】
また、ハウジング体2においては、ドレン溝243に穴部を設け、この穴部に連通する流出口を設けるようにしてよい。すなわち、ワイピングユニット1は、ワイプセクション44のワイプ部材64により掻き取った潤滑油を排出して回収するためのドレン経路として、ドレン孔543、ドレン溝243、ドレン溝243に設けられた穴部(図示せず)、この穴部に連通する流出口(図示せず)を設けるようにしてよい。そして、この流出口に、潤滑油を外部へと排出させるための排出管(図示せず)を連結してよい。
【0054】
ワイピングユニット1は、上述のように、ワイプセクション43において完全に潤滑油を掻き取るようにしている。しかしながら、万が一、潤滑油がワイプセクション43をも乗り越えてしまった場合には、このようにワイプセクション44のワイプ部材64によって潤滑油を掻き取るようにする。ワイプセクション44におけるワイプ部材64のリップ部741bによって、ラム201の外周面201a上からは、潤滑油が全て掻き取られる。リップ部741bによって潤滑油が掻き取られると、その潤滑油は、複数のドレン孔543に流入した後、ドレン孔543に連通する環状のドレン溝243へと流入する。そして、ドレン溝243に流入した潤滑油は、ドレン溝243に設けられた穴部(図示せず)へと流入し、この穴部に連通する流出口(図示せず)から、この流出口に連結される排出管(図示せず)内を流れて外部へと排出され、回収物として回収される。
【0055】
このように、ワイピングユニット1は、ワイプセクション42~44毎に、回収物である潤滑油を個別に回収するためのドレン経路を設けてよい。これにより、ワイプセクション42~44毎にそれぞれ個別に回収した潤滑油の回収量(排出量)を、センサにより検知することができる。このセンサは、ワイプセクション42~44毎に設けていてよい。或いは、複数のワイプセクション42~44からの潤滑油の回収量の合計値を1つのセンサによって検知するようにしてもよい。
【0056】
ワイピングユニット1は、ワイプセクション42~44毎の回収物である潤滑油の回収量を定期的(例えば1か月毎)に検知することで、作業者は、ワイピングユニット1の機能状況を確認でき、補充する潤滑油の量又はワイプ部材の交換のタイミングを判断することができる。
【0057】
また、ワイピングユニット1は、ワイプセクション41においても、ワイプ部材61により掻き取った潤滑油を排出して回収するために、このワイプセクション42~44が設けるドレン経路と同様に、ドレン孔、ドレン溝、ドレン溝に設けられた穴部、この穴部に連通する流出口を設けたドレン経路(図示せず)を設けるようにしてもよい。そして、この流出口に潤滑油を外部へと排出させるための排出管(図示せず)を連結してもよい。
【0058】
各ワイプセクション41~44のドレン経路の流出口は、それぞれ蓋部(図示せず)を取り付けて栓をすることができる。ここで、例えばワイプセクション42の流出口には蓋部により栓をし、そのワイプセクション42に隣接するワイプセクション43の流出口には蓋部による栓をしないようにする。すると、蓋部により流出口に栓をしたワイプセクション42内の油圧は、蓋部による流出口への栓をしないワイプセクション43の油圧よりも高くなる(油圧差が生じる)。
【0059】
これにより、ワイプセクション42内においては、向上した油圧によって、弾性リング82のワイプ部材62に対する押圧力(緊迫力)が向上する。このように、ワイピングユニット1は、隣接するワイプセクション4間で油圧差を生じさせることで、油圧を高めたワイプセクション4において、ワイプ部材6に対する押圧力(緊迫力)を向上させることができる。ワイプ部材6に対する押圧力を向上させることで、ワイプ部材6がラム201の外周面201aへの押圧力が向上することで、潤滑油を掻き取る力も向上することから、潤滑油の漏出量を低減させることができる。
【0060】
なお、ワイプセクション41~44の内の何れのワイプセクション4の流出口に栓をするかは、油圧を向上させたいそのワイプセクション4を選択することで任意に決定してよい。この場合、上述のようにワイプセクション41~44の内の1つのワイプセクション4の流出口に栓をしてもよく、或いは、ワイプセクション41~44の内の複数のワイプセクション4の流出口に栓をしてもよい。
【0061】
また、サブユニット5の数(すなわち、これに対応するワイプセクション4の数)は、4つに限定されず、他の何れの数であってもよく、ハウジング体2の接地スペースが許容される範囲で、更にその数を増やしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 ワイピングユニット、2 ハウジング体、3 キャップ体、31 ネジ部材、4 ワイプセクション、21 枠部、22 収納段部、23 枠収納部、41~44 ワイプセクション、5 サブユニット、51~54 サブユニット、61~64 ワイプ部材、81~83、84a、84b 弾性リング、241、242、243 ドレン溝、521、531、541 枠部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8