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  • 特許-正極活物質およびフッ化物イオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】正極活物質およびフッ化物イオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241001BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20241001BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/36 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021032581
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133724
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】當寺ヶ盛 健志
【審査官】岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187942(WO,A1)
【文献】特開2017-084506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 10/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン電池に用いられる正極活物質であって、
前記正極活物質は、CuLa(Mは、Ca、SrおよびBaの少なくとも一種であり、x、y、zは、0<x、0<y、0.01≦z≦0.1、x+y+z=1.0およびx/y=2.0~4.0を満たす)で表される組成を有する合金であることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
前記x/yは2.0である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するフッ化物イオン電池であって、
前記正極活物質層が、請求項1または請求項2に記載の正極活物質を含有する、フッ化物イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質およびフッ化物イオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧かつ高エネルギー密度な電池として、例えばLiイオン電池が知られている。Liイオン電池は、Liイオンと正極活物質との反応、および、Liイオンと負極活物質との反応を利用したカチオンベースの電池である。一方、アニオンベースの電池として、フッ化物イオン(フッ化物アニオン)の反応を利用したフッ化物イオン電池が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Au、Pt、S、Ag、Co、Mo、Cu、W、V、Sb、Bi、Sn、Ni、Pb、Fe及びCrのうち1以上の元素を含む正極活物質をフッ化物イオン電池に用いることが開示されており、正極活物質は好ましくはCuやCuFを含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-084506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ化物イオン電池に用いられる正極活物質は、ハイレート時における容量特性に向上の余地がある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ハイレート時における容量特性が良好な正極活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示においては、フッ化物イオン電池に用いられる正極活物質であって、上記正極活物質は、CuLa(Mは、Ca、SrおよびBaの少なくとも一種であり、x、y、zは、0<x、0<y、0.01≦z≦0.1、x+y+z=1.0およびx/y=2.0~4.0を満たす)で表される組成を有する合金であることを特徴とする正極活物質を提供する。
【0007】
本開示によれば、正極活物質が所定の金属元素を所定の範囲で含有する合金であるため、ハイレート時における容量特性が良好な正極活物質とすることができる。
【0008】
上記開示においては、上記x/yは2.0であってもよい。
【0009】
本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された電解質層とを有するフッ化物イオン電池であって、上記正極活物質層が、上述した正極活物質を含有する、フッ化物イオン電池を提供する。
【0010】
本開示によれば、上述した正極活物質を用いることで、ハイレート時における容量特性が良好なフッ化物イオン電池とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示においては、ハイレート時における容量特性が良好な正極活物質を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。
図2】実施例1~8および比較例で得られた評価用電池における容量維持率の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示における正極活物質およびフッ化物イオン電池について、詳細に説明する。
【0014】
A.正極活物質
本開示における正極活物質は、フッ化物イオン電池に用いられる正極活物質であって、
CuLa(Mは、Ca、SrおよびBaの少なくとも一種であり、x、y、zは、0<x、0<y、0.01≦z≦0.1、x+y+z=1.0およびx/y=2.0~4.0を満たす)で表される組成を有する合金である。
【0015】
本開示によれば、正極活物質が所定の金属元素を所定の範囲で含有する合金であるため、ハイレート時における容量特性が良好な正極活物質とすることができる。
【0016】
上述したように、フッ化物イオン電池の正極活物質として、Cu等の第4周期に属する遷移金属を用いることが知られている。ところが、Cu等を用いると、充電過程において絶縁性の遷移金属フッ化物が発生する。この遷移金属フッ化物が活物質の表面を覆うと、イオン伝導が阻害されるため、活物質の中心までイオンを供給することが困難となる。その結果、充電反応が完結せずに理論容量通りの容量が得られない場合がある。このような場合には、活物質の粒子径をナノサイズにまで調整(微細化)する必要が生じる。また、微細化した活物質の比率が高い電極を作製する場合には、電解質(固体電解質)も活物質と同等の微細化処理行う必要がある。電解質の微細化処理を行わない場合、電子伝導パスとイオン伝導パスとが両立する電極の作製が困難となり、電池の高エネルギー密度化が困難となる場合があるからである。しかしながら、電解質を微細化処理した場合には、イオン伝導度が悪化する場合がある。
【0017】
これに対し、本出願人は、金属元素M(金属元素Mは、Cu、FeおよびMnの少なくとも一種である)および金属元素M(金属元素Mは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Ybの少なくとも一種である)を主成分として含有する合金である正極活物質であれば、容量特性が良好な正極活物質となることを見出している。これは、正極活物質がこのような合金であれば、初回充電時に金属元素Mがフッ化され、固体電解質として作用できるフッ化物(例えば、LaF)が合金内部に形成され、このMのフッ化物の相を、フッ化物イオンが拡散することで、活物質中心(合金中心)までフッ化物イオンを供給することができるためと推察される。一方で、このような金属元素Mの単純フッ化物(例えば、LaF)では、イオン伝導度が十分ではなく、ハイレート時における容量特性に向上の余地がある。
【0018】
本開示における正極活物質は、Cuに加えて、La(フッ化物イオン伝導性を発現し得る)を含有し、更に、アルカリ土類金属に属するMを所定の範囲で含有する合金であるため、正極活物質として金属元素Mおよび金属元素Mを主成分として含有する合金(例えば、CuLa)を使用した場合と比較し、ハイレート時における容量特性が良好な正極活物質となる。これは、3価のLaに加え、2価のMを含むことで、初回充電時に、固体電解質として作用できる複合フッ化物La(1―z)3-zが合金内部に形成されるためと推察される。このLa(1―z)3-zは、上述したLaFと比較し、フッ化物イオンに欠陥が導入されたものであるため、フッ化物イオンが欠陥を伝導することで、イオン伝導度が向上し、容量特性が良好となると推察される。
【0019】
1.合金
本開示における合金は、CuLa(Mは、Ca、Sr、およびBaの少なくとも一種であり、x、y、zは、0<x、0<y、0.01≦z≦0.1、x+y+z=1.0およびx/yは2.0~4.0を満たす)で表される組成を有する合金である。
【0020】
上記Mは、Ca、Sr、およびBaの少なくとも一種である。本開示における合金は、上記Mとして、1種のみを含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0021】
上記zは、本開示における合金の、Cu、La、およびMの合計に対する、Mのモル比(原子比)を示し、通常、0.01以上であり、0.02以上であってもよく、0.04以上であってもよい。一方、上記zは、通常、0.1以下であり、0.08以下であってもよく、0.05以下であってもよい。金属元素Mが多すぎると、アルカリ土類元素が錆びやすいために合金の取扱いが難しくなる可能性がある。すなわち、本開示における合金は、通常、Mを1at%以上10at%以下含む。
【0022】
上記xは、本開示における合金の、Cu、La、およびMの合計に対する、Cuのモル比(原子比)を示し、通常、0より大きく、0.50以上であってもよく、0.60以上であってもよく、0.63以上であってもよい。一方、上記xは、通常、1.0より小さく、0.73以下であってもよく、0.66以下であってもよい。
【0023】
上記yは、本開示における合金の、Cu、La、およびMの合計に対する、Laのモル比(原子比)を示し、通常、0より大きく、0.30以上であってもよく、0.31以上であってもよい。一方、上記yは、通常、1.0より小さく、0.40以下であってもよく、0.33以下であってもよい。
【0024】
また、本開示における合金は、Cuに対するLaのモル比(x/y)が、通常、2.0以上、4.0以下であり、2.0以上、3.1以下であってもよく、2.0であってもよい。
【0025】
本開示において、正極活物質の組成は、例えば、正極活物質を酸に溶解させ、ICP発光分光分析法(ICP-OES)で測定することにより決定することができる。
【0026】
2.正極活物質
本開示における正極活物質は、上述した合金である。
【0027】
本開示における正極活物質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば0.1μm以上であり、0.3μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。一方、平均粒子径(D50)は、例えば20μm以下であり、15μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよい。平均粒子径が小さすぎると、正極活物質層において正極活物質の割合を高くした場合に、電解質間のイオン伝導パスが十分に形成されない可能性がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、活物質内部までイオンおよび電子が拡散しにくくなる可能性がある。なお、正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。
【0028】
本開示における正極活物質を製造する方法は、目的とする正極活物質を得ることができる方法であれば特に限定されないが、例えば、アーク溶解法、焼結法、およびメカニカルアロイング法等を挙げることができる。
【0029】
B.フッ化物イオン電池
図1は、本開示におけるフッ化物イオン電池の一例を示す概略断面図である。図1に示されるフッ化物イオン電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。本開示においては、正極活物質層1が、上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質を含有することを大きな特徴とする。本開示によれば、上述した正極活物質を用いることで、容量特性が良好なフッ化物イオン電池とすることができる。
【0030】
1.正極活物質層
本開示における正極活物質層は、少なくとも上述した正極活物質を含有する層である。正極活物質については、上記「A.正極活物質」に記載した内容と同様である。正極活物質層は、上述した正極活物質のみを含有していてもよく、他の活物質も含有していてもよい。後者の場合、活物質全体における上述した正極活物質の割合は、例えば85重量%以上であり、90重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよく、99重量%以上であってもよい。
【0031】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば、10重量%以上、90重量%以下であり、20重量%以上、80重量%以下であってもよい。
【0032】
また、正極活物質層は、必要に応じて導電材、バインダーおよび電解質の少なくとも一つをさらに含有していてもよい。導電材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。正極活物質層における導電材の含有量は、例えば1重量%以上であり、5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。一方、導電材の含有量は、例えば20重量%以下であり、15重量%以下であってもよい。導電材の割合が少なすぎると良好な電子伝導パスが形成されない可能性があり、導電材の割合が多すぎると、相対的に活物質の割合が少なくなり、エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0033】
バインダーとしては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0034】
電解質については、後述する「3.電解質層」に記載する内容と同様である。正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0035】
2.負極活物質層
本開示における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極活物質層は、必要に応じて、導電材、電解質およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。
【0036】
負極活物質としては、正極活物質よりも低い電位を有する任意の活物質が選択され得る。負極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、および、これらのフッ化物を挙げることができる。負極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、La、Ca、Al、Eu、Li、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、Ce、Mg、Pb等を挙げることができる。中でも、負極活物質は、Mg、MgFx、Al、AlFx、La、LaFx、Ce、CeFx、Ca、CaFx、Pb、PbFxであることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。
【0037】
導電材およびバインダーについては、上述した「1.正極活物質層」に記載した材料と同様の材料を用いることができる。電解質については、「3.電解質層」に記載する内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0038】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましく、例えば30重量%以上であり、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0039】
3.電解質層
本開示における電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層である。電解質層を構成する電解質は、液体電解質(電解液)であってもよく、ポリマー電解質であってもよく、無機固体電解質であってもよい。
【0040】
電解液は、例えば、フッ化物塩および溶媒を含有する。フッ化物塩としては、例えば、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、イオン液体が挙げられる。無機フッ化物塩としては、例えば、XF(Xは、Li、Na、K、RbまたはCsである)が挙げられる。有機フッ化物塩のカチオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアルキルアンモニウムカチオンが挙げられる。電解液におけるフッ化物塩の濃度は、例えば0.1mol/L以上であり、0.3mol/L以上であってもよく、0.5mol/L以上であってもよい。一方、フッ化物塩の濃度は、例えば6mol/L以下であり、3mol/L以下であってもよい。
【0041】
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネート、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシメタン、1,3-ジメトキシプロパン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル、スルホラン等の環状スルホン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の鎖状スルホン、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、アセトニトリル等のニトリル、および、これらの任意の混合物が挙げられる。ポリマー電解質は、例えば液体電解質にポリマーを添加し、ゲル化することで、得ることができる。
【0042】
一方、無機固体電解質としては、例えば、La、Ce等のランタノイド元素のフッ化物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属元素のフッ化物、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素のフッ化物が挙げられる。また、無機固体電解質は、La、Ba、Pb、Sn、CaおよびCeの少なくとも一種の金属元素を含有するフッ化物であることが好ましい。無機固体電解質は、上記金属元素を一種のみ有していてもよく、二種以上有していてもよい。無機固体電解質の具体例としては、La1-xBa3-x(0≦x≦1)、Pb2-xSn(0≦x≦2)、Ca2-xBa(0≦x≦2)およびCe1-xBa3-x(0≦x≦1)が挙げられる。上記xは、それぞれ、0よりも大きくてもよく、0.3以上であってもよく、0.5以上であってもよく、0.9以上であってもよい。また、上記xは、それぞれ、1よりも小さくてもよく、0.9以下であってもよく、0.5以下であってもよく、0.3以下であってもよい。無機固体電解質の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。
【0043】
4.その他の構成
本開示におけるフッ化物イオン電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および電解質層を少なくとも有する。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質層の集電を行う負極集電体、また、上述した部材を収納する電池ケースを有する。正極集電体、負極集電体および電池ケースの材料は、従来公知の材料とすることができる。なお、集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状が挙げられる。また、フッ化物イオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に、セパレータを有していてもよい。セパレータを設けることで、より安全性の高い電池が得られる。
【0044】
5.フッ化物イオン電池
本開示におけるフッ化物イオン電池は、液系電池であってもよく、全固体電池であってもよいが、全固体電池であることが好ましい。また、本開示におけるフッ化物イオン電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。また、本開示におけるフッ化物イオン電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【0045】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0046】
[実施例1]
(正極活物質の作製)
組成がCu0.653La0.327Ca0.02(x=0.653、y=0.327、z=0.02、x/y=2.0、CuLaの合計とCaとの原子比率が98:2となる組成)となるように、Cu、La、Ca金属を秤量した。即ち、合金におけるアルカリ土類金属M(Ca)の含有量が2at%となるように秤量した。そして、アーク溶解法にて、上記全ての元素を溶解して合金化した。その後、液体急冷法にて合金リボンを作製した。そして、合金リボンを乳鉢で粉砕して合金粉末(正極活物質)を得た。
【0047】
(評価用電池の作製)
作製したCu0.653La0.327Ca0.02粉末と、固体電解質(La0.9Ba0.12.9)と、導電材(VGCF)とを、30:60:10の重量比で、ボールミル(回転数100rpm)で混合することで、正極活物質合材を得た。得られた合材(作用極)と、固体電解質層を形成する固体電解質(La0.9Ba0.12.9)と、PbFと導電材(アセチレンブラック)を95:5で混合した対極と、Pb箔とを圧粉成型した。これにより、評価用電池を作製した。
【0048】
[実施例2~9]
合金の組成を、表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0049】
[比較例]
正極活物質として、CuLaを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0050】
[評価]
(充放電試験)
実施例1~9および比較例で得られた評価用電池に対して充放電試験を行った。充放電試験は、温度140℃、作用極の終止電位を-1.5V(vs Pb/PbF)~3V(vs Pb/PbF)とし、電流を50μA/cmまたは300μA/cmとして行い、以下の容量維持率を求めた。結果を表1に示す。
容量維持率(%)=(300μA/cmで充放電した際の放電容量)÷(50μA/cmで充放電した際の放電容量)×100
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、実施例1~9の全ての正極活物質において、比較例1のCuLa合金と比較して、容量維持率が増加し、ハイレート時の電池特性向上が確認された。
【0053】
図2に、実施例1~8および比較例で得られた評価用電池における容量維持率の結果をまとめて示す。実施例1~8は、Cu:Laの組成比が、比較例と同じ2:1である。実施例1~8では、添加するアルカリ土類元素種によらず、添加量の増加と共にハイレート時の放電容量特性が向上することが確認された。3価のLaに2価のMを加えることで、初回充電時に、複合フッ化物La(1―z)3-zが形成されるためと推察される。La(1―z)3-zは、上述したLaFと比較し、フッ化物イオンに欠陥が導入されたものであるため、フッ化物イオンが欠陥を伝導することで、イオン伝導度が向上し、容量特性が良好となると推察される。また、Mの元素種によらず、欠陥量によりイオン伝導が向上したメカニズムが推定される。
【0054】
実施例9は、Cu:Laの組成比が2:1ではなく比較例と異なるが、実施例1~8と同様にハイレート時の容量特性が良好であった。
【符号の説明】
【0055】
1 …正極活物質層
2 …負極活物質層
3 …電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …電池ケース
10 …フッ化物イオン電池
図1
図2