(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】潤滑油用エステル基油
(51)【国際特許分類】
C10M 105/34 20060101AFI20241001BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241001BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20241001BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20241001BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
C10M105/34
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:20
C10N40:08
(21)【出願番号】P 2021046507
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】大槻 直登
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-42185(JP,A)
【文献】特開2020-94160(JP,A)
【文献】特開2014-189555(JP,A)
【文献】特開昭59-152524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記エステル(A)及びエステル(B)からなり、エステル(A):エステル(B)で表される質量比が99:1~70:30であることを特徴とする、潤滑油用エステル基油。
エステル(A):炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとオレイン酸とのエステル
エステル(B):炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとエライジン酸とのエステル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油に使用されるエステル基油に関し、詳細には様々な荷重領域において摩擦低減性に優れるエステル基油に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工油、油圧作動油などに用いられる潤滑油は、基油と様々な機能を持つ添加剤から成り立っている。エステルは構造中に極性基であるエステル基を有することにより、高潤滑性、高耐熱性、低揮発性といった性質を有しているため、潤滑油用の基油として広く利用されている。金属加工の分野で使用される潤滑油として、例えば、特許文献1ではトランス型不飽和脂肪酸からなるモノエステルを用いた潤滑油が、また特許文献2ではオレイン酸モノエステルからなる潤滑油がそれぞれ開示されている。
近年、省エネルギー化や廃棄量削減の観点から、大量に潤滑油を使用する従来の工法から、極微量の潤滑油を使用するセミドライ加工と呼ばれる新たな工法が実用化されている。本工法に適した潤滑油として、例えば特許文献3ではポリオールオレイン酸エステルからなる潤滑油が開示されている。しかしながら、セミドライ加工は極微量の潤滑油をミストにして加工点だけに塗布する方法であることから、従来の大量に潤滑油を使用する工法に比べ、摺動面にて潤滑油の不足が起こりやすくなる恐れがある。その結果、加工具と加工材との間に摩擦が発生しやすくなり、工具寿命や加工精度が低下する恐れがあることから、摩擦低減性の更なる向上が望まれている。また、加工形状の精細化により摺動部にかかる荷重が変化しやすくなることから、様々な荷重領域でも優れた摩擦低減性を示す潤滑油が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-9482号公報
【文献】特開2013-100397号公報
【文献】特開2010-280916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の有する課題を解決するためのものであり、詳しくは、様々な荷重領域において摩擦低減性に優れるエステル基油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、特定のエステル(A)と特定のエステル(B)を特定の比率で含むエステル基油が上記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記〔1〕のとおり特定される潤滑油用エステル基油である。
〔1〕 下記エステル(A)及びエステル(B)からなり、エステル(A):エステル(B)で表される質量比が99:1~70:30であることを特徴とする、潤滑油用エステル基油。
エステル(A):炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとオレイン酸とのエステル
エステル(B):炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとエライジン酸とのエステル
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑油用エステル基油は、様々な荷重領域において摩擦低減性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は「2以上、5以下」を表す。
〔潤滑油用エステル基油〕
本発明の潤滑油用エステル基油は、以下に説明するエステル(A)とエステル(B)からなる基油である。
【0009】
〔エステル(A)〕
エステル(A)は、炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとオレイン酸との反応により得られるモノエステルである。
炭素数4~22の脂肪族モノアルコールは飽和または不飽和、直鎖状または分岐状のいずれの形態であっても良い。また、これらアルコールのうち1種を単独で、または2種類以上を混合して用いても良い。
脂肪族モノアルコールの炭素数が23以上の場合、十分な摩擦低減性が得られない。脂肪族モノアルコールは、摩擦低減性の観点から、好ましくは炭素数8~18の直鎖あるいは分岐状飽和または不飽和脂肪族モノアルコールであり、より好ましくは炭素数8~18の分岐状飽和脂肪族モノアルコールまたは炭素数16~18の不飽和脂肪族モノアルコールである。例えば、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソオクタデカノール、パルミトオレイルアルコール、オレイルアルコールが挙げられる。
これらの中でも、さらに好ましくは炭素数10~14の分岐状飽和脂肪族モノアルコールであり、特に好ましくは、炭素数13の分岐状飽和脂肪族モノアルコールである。
【0010】
炭素数4~22の脂肪族モノアルコールと反応させるオレイン酸としては、工業的に入手可能なものを使用することができるが、摩擦低減性の観点から主成分純度が95%以上のオレイン酸が好ましい。
【0011】
〔エステル(B)〕
エステル(B)は、炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとエライジン酸との反応により得られるモノエステルである。
炭素数4~22の脂肪族モノアルコールは飽和または不飽和、直鎖状または分岐状のいずれの形態であっても良い。また、これらアルコールのうち1種を単独で、または2種類以上を混合して用いても良い。
脂肪族モノアルコールの炭素数が23以上の場合、十分な摩擦低減性が得られない。脂肪族モノアルコールは、摩擦低減性の観点から、好ましくは炭素数8~18の直鎖あるいは分岐状飽和または不飽和脂肪族モノアルコールであり、より好ましくは炭素数8~18の分岐状飽和脂肪族モノアルコールまたは炭素数16~18の不飽和脂肪族モノアルコールである。例えば、イソオクタノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソオクタデカノール、パルミトオレイルアルコール、オレイルアルコールが挙げられる。
これらの中でも、さらに好ましくは炭素数10~14の分岐状飽和脂肪族モノアルコールであり、特に好ましくは、炭素数13の分岐状飽和脂肪族モノアルコールである。
【0012】
炭素数4~22の脂肪族モノアルコールと反応させるエライジン酸としては、工業的に入手可能なオレイン酸を公知の技術で異性化して使用することができる。異性化の方法として例えば、特開2017-2261号の段落0043に開示されるHoldeの方法などが挙げられる。様々な荷重領域における摩擦低減性の観点から主成分純度が90%以上のエライジン酸が好ましい。
【0013】
上記のエステル(A)及びエステル(B)は、通常のエステル化反応およびエステル交換反応など狭義及び広義のエステル化反応によって製造することができる。
炭素数4~22の脂肪族モノアルコールとオレイン酸またはエライジン酸(カルボン酸)との当量比は、アルコールに対し、カルボン酸が好ましくは0.8~1.5当量であり、生産効率と経済性の点からさらに好ましくは0.9~1.2当量であり、このような当量比に調整し、必要に応じて触媒を加えて反応を行なう。触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのブレンステッド酸、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、亜鉛等のルイス酸触媒を使用できる。
エステル化反応は、窒素気流下、160℃以上で行い、反応液の酸価または水酸基価の1時間あたりの下がり幅が2.0mgKOH/g以下となるまで行う。過剰の脂肪酸やアルコールの除去を効率よく行うために、1時間あたりの下がり幅が1.0mgKOH/g以下となるまで行うのが好ましい。
反応終了後のエステル粗生成物中に存在する余剰のアルコールや反応時に生成した副生成物を除去するために、窒素気流下、減圧条件で留去することが好ましい。アルコールの除去は、液温160℃以上で、100Torr以下の真空度で行うのが好ましい。
また、エステル粗生成物中の余剰のカルボン酸を除去するために、アルカリによるカルボン酸の中和精製を行うことが好ましい。用いるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましく、5~15質量%の水溶液で用いるのが好ましい。中和精製に際しては、エステル粗生成物に上記のアルカリ水溶液を加えて攪拌して静置し、分離した下層のカルボン酸石鹸水溶液を除去する。その後、エステル粗生成物中のカルボン酸石鹸をさらに除去するために、水洗い(温水洗い)を行うことが好ましい。水洗いは、エステル粗生成物に60~90℃の温水を加え、攪拌して静置し、下層の水層を除去して行う。
アルカリによるカルボン酸の中和、水洗いを行った後、活性白土、酸性白土および合成系の吸着剤を用いた吸着処理やスチーミングなどの操作を単独または組み合わせて行うことによって、本発明の潤滑油用エステル基油に用いられるエステル(A)及びエステル(B)を得ることができる。
【0014】
本発明の潤滑油用エステル基油におけるエステル(A)とエステル(B)の質量比(エステル(A):エステル(B))は、99:1~70:30の範囲であるが、摩擦低減性の観点から好ましくは97:3~80:20の範囲であり、より好ましくは95:5~90:10の範囲である。
【0015】
本発明の潤滑油用エステル基油に他の潤滑油や添加剤を配合し、潤滑油組成物とすることができる。
本発明の潤滑油用エステル基油には、本発明の効果を損なわない範囲において、エステル(A)、エステル(B)以外のエステル(以下、エステル(C)ともいう)を含んでいてもよい。エステル(C)としては例えば、炭素数4~22の脂肪族モノアルコールと炭素数12~22の飽和脂肪酸またはリノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸とのエステルが挙げられる。
本発明の潤滑油用エステル基油には、公知の添加剤、例えば、フェノール系、アミン系、キノリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾ-ル、チアジアゾールまたはジチオカーバメートなどの金属不活性化剤、エポキシ化合物またはカルボジイミドなどの酸捕捉剤、リン系の極圧剤などの添加剤を目的に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
〔合成例1〕オレイン酸イソトリデシル
温度計、窒素導入管、攪拌機、ジムロート冷却管および容量10mLの油水分離管を取り付けた100mLの4つ口フラスコに、オレイン酸(日油(株)製、EXTRA OLEIN 99)を41.4gと、イソトリデシルアルコール(KHネオケム(株)製、トリデカノール)を28.6g仕込んだ(カルボン酸/アルコールの当量比=1.03)。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸を0.1g仕込んだ。
油水分離器に溜まる反応水を抜き取りながら、反応液を220℃まで加熱して反応液の酸価を1時間ごとに測定し、1時間あたりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となるまで反応を行なった。
その後、反応液を220℃で30Torrまで減圧し、アルコールと揮発性の反応副生成物を除去した。
85℃まで反応器を冷却した後、酸価から算出される水酸化ナトリウム量の1.5当量分の水酸化ナトリウムをイオン交換水で希釈して10質量%の水溶液を調製し、それを反応液に加えて1時間撹拌した。撹拌を止めた後、30分静置して下層に分離した水層を除去した。
次に、反応液に対して20質量%に相当する量のイオン交換水を加えて85℃で10分撹拌し、15分静置し、分離した水層を除去する操作を5回繰り返した。その後、100℃、30Torrで1時間撹拌することで脱水した。
最後に、反応液に対して2質量%に相当する量の活性白土を加え、80℃、30Torrの条件で1時間撹拌し、ろ過して吸着剤を除去することでオレイン酸イソトリデシルを得た。
【0017】
〔合成例2〕エライジン酸イソトリデシル
温度計、窒素導入管、攪拌機、ジムロート冷却管および容量10mLの油水分離管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、エライジン酸(富士フイルム和光純薬(株)、エライジン酸)を40.5gと、イソトリデシルアルコール(KHネオケム(株)製、トリデカノール)を29.1g仕込んだ(カルボン酸/アルコールの当量比=1.03)。その後、触媒としてp-トルエンスルホン酸0.1gを仕込んだ。以降の工程は合成例1と同様にして行いエライジン酸イソトリデシルを得た。
【0018】
〔実施例1~3、比較例1~2〕
〔潤滑油用エステル基油の調製〕
表1に記載の質量比となるよう合成例1のオレイン酸イソトリデシル及び合成例2のエライジン酸イソトリデシルを計量し、フラスコに入れ、80℃で加温し、30分撹拌することで、潤滑油用エステル基油1~5をそれぞれ調製した。
【0019】
〔摩擦低減性試験〕
SRV試験機(OPTIMOL社製、Schwingungs Reihungundund Verschleiss試験機4型)にて摩擦低減性を評価した。SRV試験はシリンダー/ディスクで行い、試験片はそれぞれSUJ-2鋼材(JIS G 4805:2019 高炭素クロム軸受鋼鋼材)を用いた。試験条件は試験温度28℃、荷重50Nまたは100N、振幅1mm、振動数50Hzであり、試験時間25min経過後の摩擦係数を測定した。測定は3回行い、その平均値を測定結果とした。評価は、◎:0.110未満、○:0.110以上から0.130未満、×:0.130以上とした。
【0020】
【0021】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に係る潤滑油用エステル基油1~3は、様々な荷重領域にて摩擦低減性に優れることがわかる。
一方、エステル(A)とエステル(B)の質量比が範囲外の潤滑油用エステル基油4~5は、低荷重領域では摩擦低減性は良好なものもあったが、高荷重での摩擦低減性が劣っていた。