(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】連系インバータシステムおよび連系インバータシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241001BHJP
【FI】
H02M7/48 R
(21)【出願番号】P 2021047344
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 和仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 育弘
(72)【発明者】
【氏名】朝川 幸二朗
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-023512(JP,A)
【文献】特開2014-110665(JP,A)
【文献】特開2011-019378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの直流電力を交流電力に変換して交流電力線に出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路の前記直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサと、
前記インバータ回路の前記直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサと、
前記インバータ回路を制御する制御ユニットと、
前記直流電源からの直流電力を昇圧する昇圧回路とを備え、
前記制御ユニットは、
前記電圧センサによって検出された電圧値と、前記直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、
前記インバータ回路の素子損失の補償分の少なくとも一部として、前記昇圧回路の素子損失の補償分を、前記直流電流センサによって検出された電流値を用いて算出し、
前記インバータ回路の素子損失の補償分を考慮して、算出した前記実電力が外部からの電力指令値に追従するよう前記インバータ回路を制御する、連系インバータシステム。
【請求項2】
前記インバータ回路の前記交流電力線の側の交流電力の3相のうちの少なくとも2相の電流を検出する交流電流センサをさらに備え、
前記制御ユニットは、前記補償分の少なくとも一部を、前記交流電流センサによって検出された電流値を用いて算出する、請求項
1に記載の連系インバータシステム。
【請求項3】
連系インバータシステムの製造方法であって、
前記製造方法は、
直流電源からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の前記直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサと、前記インバータ回路の前記直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサと、前記インバータ回路からの交流電力を用いて駆動力を発生するモータと、前記インバータ回路を制御する制御ユニットと
、前記直流電源からの直流電力を昇圧する昇圧回路とを備えるシステムを転用する方法であり、
前記インバータ回路への直流電力の入力を
前記直流電源に接続するための端子を設ける工程と、
前記インバータ回路からの交流電力の出力を交流電力線に接続するための端子を設ける工程と、
前記電圧センサによって検出された電圧値と、前記直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、前記インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、
前記インバータ回路の素子損失の補償分の少なくとも一部として、前記昇圧回路の素子損失の補償分を、前記直流電流センサによって検出された電流値を用いて算出し、前記インバータ回路の素子損失の補償分を考慮して、算出した前記実電力が外部からの電力指令値に追従するよう前記インバータ回路を制御するように、前記制御ユニットによる制御方法を変更する工程とを含む、連系インバータシステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、連系インバータシステムおよび連系インバータシステムの製造方法に関し、特に、直流電力を交流電力の電力線に連系させるのに適した連系インバータシステムおよび連系インバータシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統と負荷との間の電力ラインに流れる電力に関する計測値を取得する計測値取得部と、蓄電装置から電力ラインに入出力すべき電力を示す指示値を取得する指示値取得部と、指示値に従い蓄電装置から入出力される電力が制御されて電力ラインに入出力されたとき、計測値が、対応する指示値になるように、指示値を補正する補正係数を算出する算出部とを備える装置があった(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置においては、電力制御は、系統電圧値の測定センサがあり、その電圧と電力ラインに入出力する電流値とを用いて、電力ラインに入出力される電力値を換算することで行われる。ここで、車両に搭載されたインバータシステムを系統連系に転用することを考える。車載インバータシステムはモータのトルクを制御するものであるため、3相電流センサは備えられているが、3相電圧センサは備えられていない。そのため、車載インバータシステムを系統連系に使用する場合には、3相電圧センサなどの回路構成の追加が必要となり、コストが増大するといった問題が生じる。
【0005】
この開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムおよび連系インバータシステムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示に係る連系インバータシステムは、直流電源からの直流電力を交流電力に変換して交流電力線に出力するインバータ回路と、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサと、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサと、インバータ回路を制御する制御ユニットとを備える。制御ユニットは、電圧センサによって検出された電圧値と、直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、算出した実電力が外部からの電力指令値に追従するようインバータ回路を制御する。
【0007】
電圧センサは車載インバータシステムに搭載されており、場合によっては、直流電流センサも車載インバータシステムに搭載されている。このような構成によれば、これらのセンサを用いて実電力を算出できるため、車載インバータシステムからの転用の際に、実電力を算出するために3相電圧センサを追加しなくてもよい。その結果、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムを提供することができる。
【0008】
制御ユニットは、インバータ回路の素子損失の補償分をさらに考慮してインバータ回路を制御するようにしてもよい。
【0009】
インバータ回路には素子損失があるため、インバータ回路への入力の側の電圧値を用いて算出した電力と、インバータ回路から出力される電力とには差が生じる。このような構成によれば、インバータ回路の素子損失の分を補償することで、より精度の高い電力制御を行うことができる。
【0010】
インバータ回路の交流電力線の側の交流電力の3相のうちの少なくとも2相の電流を検出する交流電流センサをさらに備え、制御ユニットは、補償分の少なくとも一部を、交流電流センサによって検出された電流値を用いて算出するようにしてもよい。
【0011】
インバータ回路の素子損失は、インバータ回路への入力の側の電圧と、インバータ回路を流れる電流とで推測できる。インバータ回路を流れる電流は、インバータ回路からの出力の側の3相の電流と相関がある。3相のうちの2相の電流値が分かれば、残りの1相の電流値も分かる。このような構成によれば、インバータ回路の素子損失を推測して補償できる。
【0012】
直流電源からの直流電力を昇圧する昇圧回路をさらに備え、制御ユニットは、補償分の少なくとも一部として、昇圧回路の素子損失の補償分を、直流電流センサによって検出された電流値を用いて算出するようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、インバータ回路に昇圧回路が含まれる場合に、昇圧回路の素子損失を補償できる。
【0014】
この開示の他の局面によれば、連系インバータシステムの製造方法は、直流電源からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサと、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサと、インバータ回路からの交流電力を用いて駆動力を発生するモータと、インバータ回路を制御する制御ユニットとを備えるシステムを転用する方法である。
【0015】
連系インバータシステムの製造方法は、インバータ回路への直流電力の入力を直流電源に接続するための端子を設ける工程と、インバータ回路からの交流電力の出力を交流電力線に接続するための端子を設ける工程と、電圧センサによって検出された電圧値と、直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、算出した実電力が外部からの電力指令値に追従するようインバータ回路を制御するように、制御ユニットによる制御方法を変更する工程とを含む。
【0016】
このような構成によれば、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムの製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
この開示によれば、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムおよび連系インバータシステムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この実施の形態における車載時のインバータシステムの構成の概略を示す図である。
【
図2】系統連系に使用するインバータシステムを制御するための電流指令を得る従来の流れを示すブロック線図である。
【
図3】系統連系に使用するインバータシステムから出力される実電力を得る従来の流れを示すブロック線図である。
【
図4】この開示の実施の形態における系統連系に使用するインバータシステムを制御するための電流指令を得る流れを示すブロック線図である。
【
図5】第1実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステムの構成の概略を示す図である。
【
図6】第2実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステムの構成の概略を示す図である。
【
図7】第3実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステムの構成の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、この開示の実施の形態は説明される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰り返されない。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、この実施の形態における車載時のインバータシステムの構成の概略を示す図である。
図1を参照して、車両1は、蓄電装置20と、モータジェネレータ30と、レゾルバ31と、電流センサ32V,32Wと、コイル60U,60V,60Wおよびコンデンサ70U,70V,70Wで構成される3相の各相のLCフィルタと、モータECU100と、インバータ回路120と、昇圧コンバータ回路130と、レゾルバデジタルコンバータ(以下「RDC」という)140と、平滑コンデンサ150と、電圧センサ151と、直流電流センサ161と、HV-ECU200とを含む。
【0021】
モータECU100およびHV-ECU200は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む。モータECU100は、インバータ回路120および昇圧コンバータ回路130を制御する。HV-ECU200は、モータECU100を含む車両1のシステムの全体を制御する。
【0022】
蓄電装置20は、複数のセルを含む組電池を含む。各セルは、たとえば、リチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの二次電池である。蓄電装置20は、車両1の駆動力を発生させるための電力をモータジェネレータ30に供給するとともに、モータジェネレータ30により発電された電力を蓄える。
【0023】
昇圧コンバータ回路130は、リアクトル162と、スイッチング部131,132とを含み、蓄電装置20の側の電圧を昇圧して、インバータ回路120の側に供給する。スイッチング部131,132は、それぞれ、電力用半導体スイッチング素子(以下「スイッチング素子」という)と逆並列ダイオードとを含む。スイッチング素子は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ、または、電力用バイポーラトランジスタで構成される。スイッチング素子のオンオフは、モータECU100からの制御信号によって制御される。
【0024】
直流電流センサ161は、昇圧コンバータ回路130に入力される直流電力の電流を検出し、検出した電流値を示す信号をモータECU100に出力する。平滑コンデンサ150は、両端の電圧を平滑化する。電圧センサ151は、平滑コンデンサ150の両端の電圧を検出し、検出した電圧値を示す信号をモータECU100に出力する。
【0025】
インバータ回路120は、U相上アーム121と、V相上アーム122と、W相上アーム123と、U相下アーム126と、V相下アーム127と、W相下アーム128とを含み、昇圧コンバータ回路130からの直流電力を3相交流電力に変換し、変換した3相交流電力をモータジェネレータ30に出力する。U相上アーム121、V相上アーム122、W相上アーム123、U相下アーム126、V相下アーム127、および、W相下アーム128は、それぞれ、電力用半導体スイッチング素子(以下「スイッチング素子」という)と逆並列ダイオードとを含む。スイッチング素子は、たとえば、IGBT、電力用MOSトランジスタ、または、電力用バイポーラトランジスタで構成される。HV-ECU200は、必要なトルクを示す信号をモータECU100に送信する。スイッチング素子のオンオフは、HV-ECU200からの信号に応じたモータECU100からの制御信号によって制御される。
【0026】
電流センサ32V,32Wは、それぞれ、インバータ回路120から出力された3相交流のV相、W相の電流を検出し、検出した電流値を示す信号をモータECU100に出力する。
【0027】
モータジェネレータ30は、インバータ回路120から供給された交流電力に応じて回転することによって車両1の車輪を駆動する一方、車輪からの減速力を回生することによって回生された3相交流電力をインバータ回路120に供給する。インバータ回路120は、3相交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を昇圧コンバータ回路130に供給する。昇圧コンバータ回路130は、インバータ回路120からの回生された直流電力を降圧して、蓄電装置20に充電する。
【0028】
レゾルバ31は、ロータの回転角度を2相の交流電圧(アナログ信号)として出力する角度センサであり、励磁コイルと、中継コイルを含むロータと、ロータの回転軸を中心として90度をなすように配置される2相の出力コイルとを含む。この実施においては、レゾルバ31のロータは、モータジェネレータ30の回転軸に接続されているため、レゾルバ31は、モータジェネレータ30の角度センサとして機能する。
【0029】
レゾルバ31において、一次側の励磁コイルに励磁信号を印加すると、モータジェネレータ30の軸に接続されたロータが回転し、励磁信号が回転するロータの中継コイルに誘導起電力を発生させ、中継コイルの誘導起電力が、出力コイルに誘導起電力を発生させることで、ロータの角度に対応したsin信号およびcos信号が、二次側の2相の出力コイルからそれぞれ出力される。
【0030】
RDC140は、レゾルバ31から入力された信号を用いてレゾルバ31のロータの回転角度(以下「レゾルバ角」という。)を算出し、回転角度を示すデジタル信号をモータECU100に出力するIC(Integrated Circuit)である。この実施の形態においては、レゾルバ31のロータは、モータジェネレータ30の回転軸に接続されているため、RDC140は、モータジェネレータ30の回転角度を算出する。
【0031】
ここで、車両1に搭載されたインバータシステムを系統連系に転用することを考える。
図2は、系統連系に使用するインバータシステムを制御するための電流指令を得る従来の流れを示すブロック線図である。
図2を参照して、電圧型のインバータシステムでは、通常、出力される電流を制御している。系統連系に使用するインバータシステムにおいて出力電力を制御する際には、電力指令が電流指令に置換えられる。具体的には、
図2で示されるように、電力指令から実電力を減算したものにゲインを乗算することで電流指令が得られる。この電流指令にしたがって公知の方法を用いてモータECU100がインバータ回路120を制御する。これにより、インバータ回路120から出力される実電力が外部からの電力指令に追従する。
【0032】
図3は、系統連系に使用するインバータシステムから出力される実電力を得る従来の流れを示すブロック線図である。
図3を参照して、インバータシステムから系統への出力電力のU相の、電圧センサによって得られる電圧値および電流センサによって得られる電流値から、U相の実電力が算出される。同様に、インバータシステムから系統への出力電力のV相およびW相それぞれの、電圧センサによって得られる電圧値および電流センサによって得られる電流値から、V相およびW相の実電力が算出される。算出されたU相、V相およびW相の実電力から、系統への3相電力の実電力が算出される。
【0033】
車載のインバータシステムはモータジェネレータ30のトルクを制御するものであるため、3相交流電力の電流センサは備えられているが、3相交流電力の電圧センサは備えられていない。そのため、車載のインバータシステムを系統連系に使用する場合には、3相交流電力の電圧センサなどの回路構成の追加が必要となり、コストが増大するといった問題が生じる。
【0034】
そこで、この開示においては、系統連系に転用するインバータシステム10は、直流電源である蓄電装置20からの直流電力を交流電力に変換して交流電力線に出力するインバータ回路120と、インバータ回路120の直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサ151と、インバータ回路120の直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサ161と、インバータ回路120を制御するモータECU100とを備える。モータECU100は、電圧センサ151によって検出された電圧値と、直流電流センサ161によって検出された電流値との積を用いて、インバータ回路120から出力される交流電力の実電力を算出し、算出した実電力が外部からの電力指令値に追従するようインバータ回路120を制御するようにする。
【0035】
電圧センサ151は車載インバータシステムに搭載されており、場合によっては、直流電流センサ161も車載インバータシステムに搭載されている。これにより、これらのセンサを用いて実電力を算出できるため、車載インバータシステムからの転用の際に、実電力を算出するために3相交流電力の電圧センサを追加しなくてもよい。その結果、コストの増加を抑えて車載のインバータシステムから転用することが可能な連系用のインバータシステム10を提供することができる。
【0036】
図1を再び参照して、転用するために、まず、車載のインバータシステムにおいて、昇圧コンバータ回路130の蓄電装置20の側の電線に、端子51P,51Mが設けられる工程が実行され、インバータ回路120の出力側の3相の電線に、それぞれ、端子61U,61V,61Wが設けられる工程が実行される。
【0037】
次に、モータECU100のメモリに記憶されている、電流指令を得るためのプログラムが、
図2で示した演算をするプログラムから、
図4で示す演算をするプログラムに変更される工程が実行される。これらの工程を経て、系統用のインバータシステム10が得られる。
【0038】
図4は、この開示の実施の形態における系統連系に使用するインバータシステム10を制御するための電流指令を得る流れを示すブロック線図である。
図4を参照して、
図2で示される従来の方法と異なり、電力指令に、インバータ回路120および昇圧コンバータ回路130等の回路の損失電力を補償して、実電力を減算したものにゲインを乗算することで電流指令が得られる。また、実電力は、電圧センサ151によって検出されるインバータ回路120に入力される直流電力の電圧値VHに、直流電流センサ161によって検出されるインバータ回路120に入力される直流電力の電流値ILを掛けることで算出される。
【0039】
【0040】
表1は、昇圧コンバータ回路130の素子損失を演算するためのマップの例を示す。表1を参照して、このようなマップを用いることで、直流電流センサ161によって検出される直流電力の電流値IL(A)を引数として、昇圧コンバータ回路130の上素子のオン損失(W)を特定することができる。たとえば、ILが50(A)の場合、損失は200(W)である。なお、表1の数字は架空値である。
【0041】
【0042】
表2は、インバータ回路120の素子損失を演算するためのマップの例を示す。表2を参照して、このようなマップを用いることで、電圧センサ151によって検出される直流電力の電圧値VHと、電流センサ32Vによって検出される3相交流電力のV相の電流値の直流換算値Iv(Arms(root mean square))とを引数として、V相の上下素子の損失(W)を特定することができる。素子損失は、電圧値VHと素子を流れる電流とで決めることができる。素子を流れる電流は、LCフィルタの素子と反対側の電流Ivと相関関係がある。このため、V相の上下素子の素子損失は、電圧値VHと電流Ivとを用いて算出できる。たとえば、VHが400(V)でIvが75(Arms)である場合、V相の上下素子の損失は1600(W)である。なお、表2の数字は架空値である。
【0043】
同様に、表2のようなマップを用いることで、電圧センサ151によって検出される直流電力の電圧値VHと、電流センサ32Wによって検出される3相交流電力のW相の電流値の直流換算値Iw(Arms)とを引数として、W相の上下素子の損失(W)を特定することができる。
【0044】
また、3相交流電力のU相の電流値の直流換算値Iu(Arms)は、電流センサ32V,32Wによってそれぞれ検出される3相交流電力のV相,W相の電流値の直流換算値Iv,Iwから求めることができる。表2のようなマップを用いることで、電圧センサ151によって検出される直流電力の電圧値VHと、3相交流電力のU相の電流値の直流換算値Iu(Arms)とを引数として、U相の上下素子の損失(W)を特定することができる。
【0045】
図5は、第1実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステム10の構成の概略を示す図である。
図5を参照して、系統連系用のインバータシステム10の端子51P,51Mと端子61U,61V,61Wとの間の回路およびモータECU100は、
図1で説明した車載用のインバータシステムと同様であるので、重複する説明は繰り返さない。
【0046】
宅内制御装置300は、住宅またはビルなどの建物内の電力系統90を制御するための装置であり、CPUおよびメモリを含む。この実施の形態においては、車載用から系統連系用にシステムを転用するときに、宅内制御装置300は、モータECU100とLAN(Local Area Network)で接続される。宅内制御装置300は、LANを経由してモータECU100に電力指令を出力する。
【0047】
転用時には、端子51P,51Mに電池50が接続され、端子61U,61V,61Wに3相交流の電力系統90が接続される。電池50は、一次電池、二次電池、太陽電池および燃料電池などのどのような電池であってもよい。なお、昇圧コンバータ回路130の上のスイッチング部131はオン状態とされ、下のスイッチング部132はオフ状態とされる。
【0048】
[第2実施形態]
第1実施形態においては、昇圧コンバータ回路130を備える車載用のインバータシステムを系統連系用のインバータシステム10に転用する場合について説明した。第2実施形態においては、昇圧コンバータ回路130を備えない車載用のインバータシステムを系統連系用のインバータシステム10Aに転用する場合について説明する。
【0049】
図6は、第2実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステム10Aの構成の概略を示す図である。
図6を参照して、第1実施形態においては、昇圧コンバータ回路130に含まれていた直流電流センサ161が無いため、新たに、直流電流センサ161Aが設けられる。
【0050】
直流電流センサ161Aは、インバータ回路120Aに入力される直流電力の電流を検出し、検出した電流値IHを示す信号をモータECU100に出力する。これにより、第1実施形態と同様に、インバータ回路120Aから出力される実電力が、電圧センサ151Aによって検出されるインバータ回路120Aに入力される直流電力の電圧値VHに、直流電流センサ161Aによって検出されるインバータ回路120Aに入力される直流電力の電流値IHを掛けることで算出される。
【0051】
インバータ回路120Aの損失電力は、第1実施形態の表2の説明と同様に算出することができる。昇圧コンバータ回路は備えられないので、昇圧コンバータ回路の損失電力は考慮する必要がない。
【0052】
この第2実施形態のように直流電流センサ161Aを設ける場合は、従来のように3相交流電力の電圧センサを新たに設ける場合と比較して、コストを小さくすることができる。
【0053】
[第3実施形態]
第1実施形態においては、直流電流センサ161を含む比較的新しいタイプの昇圧コンバータ回路130を備える車載用のインバータシステムを系統連系用のインバータシステム10に転用する場合について説明した。第3実施形態においては、直流電流センサ161を含まない比較的古いタイプの昇圧コンバータ回路130Bを備える車載用のインバータシステムを系統連系用のインバータシステム10Bに転用する場合について説明する。
【0054】
図7は、第3実施形態における車載用から系統連系用に転用した後のインバータシステム10Bの構成の概略を示す図である。
図7を参照して、第1実施形態においては、昇圧コンバータ回路130に含まれていた直流電流センサ161が無いため、新たに、直流電流センサ161Bが設けられる。
【0055】
直流電流センサ161Bは、インバータ回路120Bに入力される直流電力の電流を検出し、検出した電流値IHを示す信号をモータECU100に出力する。これにより、第1実施形態と同様に、インバータ回路120Bから出力される実電力が、電圧センサ151Bによって検出されるインバータ回路120Bに入力される直流電力の電圧値VHに、直流電流センサ161Bによって検出されるインバータ回路120Bに入力される直流電力の電流値IHを掛けることで算出される。
【0056】
インバータ回路120Bの損失電力は、第1実施形態の表2の説明と同様に算出することができる。昇圧コンバータ回路130Bは備えられているが、バイパスされているので、昇圧コンバータ回路130Bの損失電力は考慮する必要がない。
【0057】
この第3実施形態のように直流電流センサ161Bを設ける場合は、従来のように3相交流電力の電圧センサを新たに設ける場合と比較して、コストを小さくすることができる。
【0058】
[その他の変形例]
(1) 前述した実施の形態においては、
図4で説明したように、損失電力を補償するようにした。しかし、これに限定されず、損失電力を補償しないようにしてもよい。
【0059】
(2) 前述した実施の形態においては、
図4および
図5で説明したように、インバータ回路120および昇圧コンバータ回路130の両方の損失電力を補償するようにした。しかし、これに限定されず、インバータ回路120および昇圧コンバータ回路130のいずれかの損失電力を補償するようにしてもよい。
【0060】
(3) 前述した実施の形態においては、
図1および
図5から
図7で示したように、交流電力の電流センサとして、V相およびW相の電流センサ32V,32Wが備えられるようにした。しかし、これに限定されず、3相のうちの2相の電流を検出する交流電力の電流センサが備えられるようにすればよく、たとえば、U相およびV相の電流センサが備えられるようにしてもよいし、U相およびW相の電流センサが備えられるようにしてもよい。
【0061】
(4) 前述した実施の形態においては、
図1および
図4から
図7で示したように、インバータ回路120からの出力電力の実電力、ならびに、インバータ回路120および昇圧コンバータ回路130の損失電力を算出するために必要なセンサについて説明した。しかし、これに限定されず、他のセンサが備えられるようにしてもよく、たとえば、系統電圧の周波数または位相に同期するために用いる3相交流のいずれかの電圧を検出するセンサが設けられるようにしてもよい。
【0062】
(5) 前述した実施の形態においては、
図5で示したように、車載用のインバータシステムが建物内の系統連系用のインバータシステム10として転用される場合について示した。しかし、これに限定されず、電力会社の電力系統との系統連系用として転用されるようにしてもよい。この場合は、宅内制御装置300に替えて、電力会社のサーバに、モータECU100が接続されるようにしてもよい。
【0063】
(6) 前述した実施の形態においては、
図5で示したように、電力系統90に連系する場合について説明した。しかし、これに限定されず、電力系統から独立した交流電力線に連系するようにしてもよい。
【0064】
(7) 前述した実施の形態においては、
図5で示したように、電池50の直流電力を、インバータシステム10で交流電力に変換して、電力系統90の交流の電力線に交流電力を供給することを説明した。しかし、電力系統90の交流電力を、インバータシステム10で直流電力に変換して、電池50に充電するようにしてもよい。
【0065】
(8) 前述した実施の形態を、
図5から
図7で示したような連系用のインバータシステム10,10A,10Bの開示と捉えてもよいし、車載用のインバータシステムを連系用のインバータシステム10,10A、10Bに転用することにより連系用のインバータシステム10,10A、10Bを製造する方法の開示と捉えてもよいし、車載用のインバータシステムを連系用のインバータシステム10,10A,10Bに転用する方法の開示と捉えてもよいし、連系用のインバータシステム10,10A,10Bにより電力系統または独立電力線に連系する方法の開示と捉えてもよい。
【0066】
[まとめ]
(1)
図1および
図5から
図7に示したように、連系インバータシステム(たとえば、連系インバータシステム10,10A,10B)は、直流電源からの直流電力を交流電力に変換して交流電力線に出力するインバータ回路(たとえば、インバータ回路120,120A,120B)と、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサ(たとえば、電圧センサ151,151A,151B)と、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサ(たとえば、直流電流センサ161,161A,161B)と、インバータ回路を制御する制御ユニット(たとえば、モータECU100,100A,100B)とを備える。
図4で説明したように、制御ユニットは、電圧センサによって検出された電圧値と、直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、算出した実電力が外部からの電力指令値に追従するようインバータ回路を制御する。
【0067】
電圧センサは車載インバータシステムに搭載されており、場合によっては、直流電流センサも車載インバータシステムに搭載されている。これにより、これらのセンサを用いて実電力を算出できるため、車載インバータシステムからの転用の際に、実電力を算出するために3相電圧センサを追加しなくてもよい。その結果、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムを提供することができる。
【0068】
(2)
図4および表2で示したように、制御ユニットは、インバータ回路の素子損失の補償分をさらに考慮してインバータ回路を制御する。
【0069】
インバータ回路には素子損失があるため、インバータ回路への入力の側の電圧値を用いて算出した電力と、インバータ回路から出力される電力とには差が生じる。これにより、インバータ回路の素子損失の分を補償することで、より精度の高い電力制御を行うことができる。
【0070】
(3)
図1および
図5から
図7に示したように、連系インバータシステムは、インバータ回路の交流電力線の側の交流電力の3相のうちの少なくとも2相の電流を検出する交流電流センサ(たとえば、電流センサ32V,32W)をさらに備える。
図4および表2で示したように、制御ユニットは、補償分の少なくとも一部を、交流電流センサによって検出された電流値を用いて算出する。
【0071】
インバータ回路の素子損失は、インバータ回路への入力の側の電圧と、インバータ回路を流れる電流とで推測できる。インバータ回路を流れる電流は、インバータ回路からの出力の側の3相の電流と相関がある。3相のうちの2相の電流値が分かれば、残りの1相の電流値も分かる。これにより、インバータ回路の素子損失を推測して補償できる。
【0072】
(4)
図1および
図5に示したように、連系インバータシステムは、直流電源からの直流電力を昇圧する昇圧回路(たとえば、昇圧コンバータ回路130,130B)をさらに備える。
図4および表1で示したように、制御ユニットは、補償分の少なくとも一部として、昇圧回路の素子損失の補償分を、直流電流センサによって検出された電流値を用いて算出する。
【0073】
これにより、インバータ回路に昇圧回路が含まれる場合に、昇圧回路の素子損失を補償できる。
【0074】
(5)
図1および
図5から
図7に示したように、連系インバータシステムの製造方法は、直流電源からの直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電圧を検出する電圧センサと、インバータ回路の直流電源の側の直流電力の電流を検出する直流電流センサと、インバータ回路からの交流電力を用いて駆動力を発生するモータと、インバータ回路を制御する制御ユニットとを備えるシステムを転用する方法である。
【0075】
図1、
図4、および、
図5で説明したように、連系インバータシステムの製造方法は、インバータ回路への直流電力の入力を直流電源に接続するための端子(たとえば、端子51P,51M,51PA,51MA,51PB,51MB)を設ける工程と、インバータ回路からの交流電力の出力を交流電力線に接続するための端子(たとえば、端子61U,61V,61W,61UA,61VA,61WA,61UB,61VB,61WB)を設ける工程と、電圧センサによって検出された電圧値と、直流電流センサによって検出された電流値との積を用いて、インバータ回路から出力される交流電力の実電力を算出し、算出した実電力が外部からの電力指令値に追従するようインバータ回路を制御するように、制御ユニットによる制御方法を変更(たとえば、モータECU100のメモリに記憶されている、電力指令を得るためのプログラムを、
図2で示した演算をするプログラムから、
図4で示す演算をするプログラムに変更)する工程とを含む。
【0076】
これにより、コストの増加を抑えて車載インバータシステムから転用することが可能な連系インバータシステムの製造方法を提供することができる。
【0077】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 車両、10,10A,10B インバータシステム、20 蓄電装置、30 モータジェネレータ、31 レゾルバ、32V,32W 電流センサ、50 電池、51M,51P,61U,61UA,61UB,61V,61VA,61VB,61W,61WA,61WB 端子、60U,60V,60W コイル、70U,70V,70W コンデンサ、90 電力系統、100,100A,100B モータECU、120,120A,120B インバータ回路、121 U相上アーム、122 V相上アーム、123 W相上アーム、126 U相下アーム、127 V相下アーム、128 W相下アーム、130,130B 昇圧コンバータ回路、131,132 スイッチング部、140 RDC、150 平滑コンデンサ、151,151A,151B 電圧センサ、161,161A,161B 直流電流センサ、162 リアクトル、200 HV-ECU、300 宅内制御装置。