(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】動力伝達装置の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20241001BHJP
F16H 57/027 20120101ALI20241001BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/027
F16H57/04 N
(21)【出願番号】P 2021057677
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐山 啓
(72)【発明者】
【氏名】大石 綾子
(72)【発明者】
【氏名】葦名 右京
(72)【発明者】
【氏名】村松 拓也
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153420(JP,A)
【文献】特開2015-68490(JP,A)
【文献】特開2020-186763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、回転することで前記オイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、前記回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、
前記被潤滑部位に供給するオイルを貯留する第1貯留部と第2貯留部とを有するオイルタンクと、
前記オイル貯留空間のオイルを圧送するオイルポンプと、を有し、
前記第1貯留部は、前記オイル貯留空間から前記オイルポンプによって油路を通じて圧送されたオイルを貯留し、
前記第2貯留部は、開口部を有し、前記回転体によって掻き揚げられたオイルを前記開口部で捕集して貯留し、
前記回転体はギヤを含み、
前記オイルタンクは、前記ギヤの外周側に配置され、かつ、前記ギヤの外周に沿う形状に形成され、
前記第1貯留部と前記第2貯留部とが一体に形成されていることを特徴とする動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記第2貯留部は、前記オイル貯留空間におけるオイルの油面位置よりも上方に、前記ケース内の空間と連通するオイル排出口を有し、
前記オイル排出口は、前記ギヤの径方向に開口していることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項3】
前記第1貯留部は、
前記油路からオイルを受け入れるオイル流入口と、
前記オイル流入口よりも上方に延びるオイル通路部と、
前記オイル通路部の上方に形成されたオイル吐出口と、を有し、
前記オイル吐出口は、前記ギヤの軸方向と平行に開口し、かつ、略水平方向に延びており、
前記オイル流入口から前記オイルタンクに流れ込んだオイルが、前記オイル通路部を上昇して前記オイル吐出口から吐出されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項4】
前記ケースは、前記ギヤの軸方向から見て、前記オイルタンクにおける前記第1貯留部と前記第2貯留部との間の部位の周縁部に、前記ケースの外部と内部とに連通するブリーザ室を有し、
前記オイルタンクは、前記ギヤの外周面と前記ブリーザ室の入口とに対向する部分に、前記ギヤの外周面と前記ブリーザ室とを連通させるように切り欠かれた切り欠き部を有していることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項5】
前記オイルタンクは、前記ギヤの軸方向から見て、前記切り欠き部が設けられている部位に、前記ギヤの径方向に延びる壁部を有していることを特徴とする請求項4に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【請求項6】
前記ケースは、前記オイル貯留空間にオイルを充填するオイル充填孔を有し、
前記ケースにおける前記オイル充填孔の周縁部と前記オイルタンクとの間に間隙が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両に搭載される動力伝達装置にあっては、被潤滑部位の潤滑不良を回避しつつオイルの撹拌抵抗を低減することが求められている。
【0003】
従来の動力伝達装置の潤滑構造として特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のものは、動力伝達装置としてのトランスファの内部に複数の仕切り壁を設け、トランスファの内部を仕切り壁によって複数のオイル貯留空間に区画し、かつ、ギヤに連れ回るオイルの量を仕切り壁によって制限している。これにより、特許文献1に記載のものは、低速回転時には潤滑が不足しない程度に油面位置を高く保つことができ、高速回転時には油面位置が下がることでオイルの撹拌抵抗を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、オイルの撹拌抵抗は、油面位置の高さだけでなくオイル粘度も影響する。このため、冷機状態からの駆動開始直後における低速回転時は、油面位置が高いことに加えてオイル粘度が高いことにもよって撹拌抵抗が大きい。したがって、低速回転時の撹拌抵抗をさらに低減することが望ましい。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達装置は、低速回転時の油面位置が高く保たれるため、低速回転時には撹拌抵抗を十分に低減することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、低速回転時を含む広い回転速度範囲で撹拌抵抗を低減できる動力伝達装置の潤滑構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オイルを貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、回転することで前記オイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、前記回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、前記被潤滑部位に供給するオイルを貯留する第1貯留部と第2貯留部とを有するオイルタンクと、前記オイル貯留空間のオイルを圧送するオイルポンプと、を有し、前記第1貯留部は、前記オイル貯留空間から前記オイルポンプによって油路を通じて圧送されたオイルを貯留し、前記第2貯留部は、開口部を有し、前記回転体によって掻き揚げられたオイルを前記開口部で捕集して貯留し、前記回転体はギヤを含み、前記オイルタンクは、前記ギヤの外周側に配置され、かつ、前記ギヤの外周に沿う形状に形成され、前記第1貯留部と前記第2貯留部とが一体に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように上記の本発明によれば、低速回転時を含む広い回転速度範囲で撹拌抵抗を低減できる動力伝達装置の潤滑構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の右側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の第1ケースの右側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の第2ケースの左側面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す動力伝達装置のIV-IV方向の矢視断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す動力伝達装置のV-V方向の矢視断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備えた動力伝達装置のオイルタンクを左後方から見た斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備えた動力伝達装置のオイルタンクを右前方から見た斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例に係る潤滑構造を備える動力伝達装置の内部のオイルの流れを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造は、オイルを貯留するオイル貯留空間が底部に形成されたケースと、回転することでオイル貯留空間のオイルを掻き上げる回転体と、を有し、回転体を含む複数の被潤滑部位にオイルを供給する動力伝達装置の潤滑構造であって、被潤滑部位に供給するオイルを貯留する第1貯留部と第2貯留部とを有するオイルタンクと、オイル貯留空間のオイルを圧送するオイルポンプと、を有し、第1貯留部は、オイル貯留空間からオイルポンプによって油路を通じて圧送されたオイルを貯留し、第2貯留部は、開口部を有し、回転体によって掻き揚げられたオイルを開口部で捕集して貯留し、回転体はギヤを含み、オイルタンクは、ギヤの外周側に配置され、かつ、ギヤの外周に沿う形状に形成され、第1貯留部と第2貯留部とが一体に形成されていることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造は、低速回転時を含む広い回転速度範囲で撹拌抵抗を低減できる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の一実施例に係る動力伝達装置の潤滑構造について、図面を用いて説明する。
図1から
図8は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置の潤滑構造を示す図である。
図1から
図8において、上下前後左右方向の表示は、車両に搭載した状態における上下前後左右を示している。
【0013】
まず、構成を説明する。
図1において、動力伝達装置1は、図示しない車両の前部のエンジンルームに図示しないエンジン、変速機およびフロントディファレンシャル装置と一体で搭載されている。詳しくは、動力伝達装置1は、FF(Front Engine Front Drive)式の車両の前部にいわゆる横置きの姿勢で搭載されている。
【0014】
動力伝達装置1は、トランスファとして構成されており、図示しないフロントディファレンシャル装置の図示しないリングギヤから受け取った動力を、車両後部の図示しないリヤディファレンシャル装置に伝達している。
【0015】
動力伝達装置1は、リダクションドライブ軸6と、ピニオン軸11とを備えている。リダクションドライブ軸6は、車両幅方向に延びており、左端部においてフロントディファレンシャル装置のデフケースにスプラインで連結されている。
【0016】
ピニオン軸11は車両前後方向に延びており、その後端部に取付けられたフランジを介してプロペラシャフトが連結されている。プロペラシャフトはリヤディファレンシャル装置に連結されており、ピニオン軸11から受け取った動力を、車両後部のリヤディファレンシャル装置に伝達している。動力伝達装置1は、リダクションドライブ軸6に入力された回転を増速し、ピニオン軸11から出力している。
【0017】
図2において、動力伝達装置1は、ケース2と、リダクションドリブン軸8と、を備えている。ケース2は、リダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、および、ピニオン軸11等の回転要素を収納し、これらの回転要素を回転可能に支持している。なお、リダクションドライブ軸6は中空の筒状に形成されており、その中空部分には右前輪用のインタミシャフト5が挿通されている。
【0018】
リダクションドリブン軸8は、リダクションドライブ軸6の後上方に配置され、リダクションドライブ軸6と平行に車両幅方向に延びている。リダクションドライブ軸6の外周にはリダクションドライブギヤ7が形成されている。リダクションドリブン軸8の外周にはリダクションドリブンギヤ9が形成されている。リダクションドリブンギヤ9は、リダクションドライブギヤ7と噛み合っている。
【0019】
図3において、車両の前進時は、リダクションドライブ軸6およびリダクションドライブギヤ7は矢印R1で示す反時計回りの方向に回転し、リダクションドリブン軸8およびリダクションドリブンギヤ9は、矢印R2で示す時計回りの方向に回転する。本実施例では、車両の前進時のリダクションドライブギヤ7の矢印R1の回転方向、および、車両の前進時のリダクションドリブンギヤ9の矢印R2の回転方向を、各ギヤの正転方向としている。
【0020】
図4において、リダクションドリブン軸8にはベベルギヤ10が一体回転可能に固定されている。ベベルギヤ10の歯面は
図4における左方を向いている。ベベルギヤ10は、リダクションドリブン軸8におけるリダクションドリブンギヤ9の左側の位置に固定されている。
【0021】
図3において、動力伝達装置1はピニオンギヤ12を備えている。ピニオンギヤ12は、ピニオン軸11(
図1参照)の先端に形成されている。ピニオンギヤ12はベベルギヤ10と噛み合っている。ピニオン軸11は、その軸心がリダクションドリブン軸8の軸心よりも高い位置で車両前後方向に延びるように配置されている。
【0022】
つまり、動力伝達装置1におけるギヤの配置は、軸方向(左右方向)で右側から、リダクションドライブギヤ7とリダクションドリブンギヤ9、ベベルギヤ10、ピニオンギヤ12の順に配置されている。そして、前後方向で前からリダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、ピニオン軸11の順に配置され、リダクションドライブ軸6、リダクションドリブン軸8、ピニオン軸11の順に高い位置となるように配置されている。
【0023】
動力伝達装置1において、リダクションドライブ軸6に入力された回転は、リダクションドライブギヤ7とリダクションドリブンギヤ9との噛み合いによる動力伝達、およびベベルギヤ10とピニオンギヤ12との噛み合いによる動力伝達によって、ピニオン軸11に伝達され、ピニオン軸11から出力される。
【0024】
図4において、ケース2は、第1ケース3と第2ケース4とから構成されている。第1ケース3はケース2の左側の部分を構成し、第2ケース4はケース2の右側の部分を構成している。
【0025】
リダクションドリブン軸8の左端部は、軸受8Aを介して第1ケース3に支持されており、リダクションドリブン軸8の右端部は、軸受8Bを介して第2ケース4に支持されている。なお、リダクションドライブ軸6(
図2、
図3参照)の左右の端部も同様に、図示しない軸受によって第1ケース3および第2ケース4に支持されている。また、ピニオン軸11(
図1参照)は、図示しない軸受を介して第1ケース3に支持されている(
図5参照)。
【0026】
図2、
図4に示すように、ケース2の底部には、オイルを貯留するオイル貯留空間2Aが形成されている。車両の停車時において、オイル貯留空間2Aには、所定の油面位置OLまでオイルが貯留される。
【0027】
オイル貯留空間2Aのオイルの一部は、回転体としてのリダクションドライブギヤ7、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10の回転によって上方に掻き上げられ、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10を含む複数の被潤滑部位に供給される。
【0028】
また、オイル貯留空間2Aのオイルの一部は、後述するオイルポンプ22によって複数の被潤滑部位に供給される。そして、掻き上げおよび圧送により被潤滑部位に供給されたオイルは、被潤滑部位を潤滑しながら流下し、オイル貯留空間2Aに戻る。
【0029】
図5において、ケース2は、オイル貯留空間2Aにオイルを充填するオイル充填孔13Aを有している。そして、ケース2におけるオイル充填孔13Aの周縁部とオイルタンク30との間に間隙Tが設けられている。これにより、オイル充填孔13Aからオイル貯留空間2Aにオイルを充填する際に、オイルがオイルタンク30に勢いよく当たってオイル充填孔13A側に逆流することを防止できる。
【0030】
なお、本実施例では、オイルタンク30の一方側の端部(第1貯留部33)を油面位置OLより下方に位置することにより、第1貯留部33の内周壁を、リダクションドリブンギヤ9とオイルとを隔てるオイルスペーサとして機能させているが、第1貯留部33に熱源となる機能(ヒーター等)を持たせるようにしてもよい。この場合、外気温が低いときであっても油温が高くオイル粘度が低い状態を維持できるので、外気温が低いときにおいても、オイルの撹拌抵抗による大きな動力損失を抑制できる。
【0031】
オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油量、つまり油面位置OL(車両の停車時の油面位置)は、第2ケース4の右側面に形成されたオイル充填孔13Aの位置により決定される。オイル充填孔13Aの下端縁の位置が、油面位置OLとなっている。
【0032】
オイル充填孔13Aは、フィラープラグ13が装着されて閉じられている。フィラープラグ13は、整備等でケース2内へのオイルの充填時に取り外される。そして、フィラープラグ13が塞いでいたオイル充填孔13Aから規定量のオイルの充填が行われる。
【0033】
また、このオイル充填孔13Aから溢れ出るまでオイルを充填することで規定量のオイルが充填されたこととなるため、必要以上の量のオイルを充填することが抑制され、オイルが規定量の充填状態となったことの確認を容易に行うことができる。
【0034】
オイルの油面位置OL(オイル量)は、高負荷時のオイルの最高温度、耐久試験での潤滑不足の有無等を考慮して決定されている。また、車両の駐車状態が長期に及んでも軸受にオイルが達する位置に設定される。これは、少なくとも軸受の一部に常にオイルを供給しておくことにより、走行開始時により早く潤滑できるように準備しておくことにより軸受の焼付きを抑制してその耐久性を向上させるためである。
【0035】
図4において、動力伝達装置1は、オイル貯留空間2Aのオイルを被潤滑部位に圧送するオイルポンプ22を備えている。ケース2には、オイルポンプ22から圧送されたオイルが流通する図示しない油路が形成されている。オイルポンプ22は第2ケース4に配置されている。ケース2の油路は、第1ケース3および第2ケース4に形成されており、複数の被潤滑部位まで分岐して延びている。
【0036】
オイルポンプ22は、トロコイドポンプからなり、リダクションドリブン軸8の右端部側の軸線上に配置されている。オイルポンプ22は、図示しないハウジングと、このハウジングの内部に回転可能に保持された図示しないインナロータおよびアウタロータとを有している。
【0037】
オイルポンプ22のハウジングは、アウタロータを収納する凹部を有し、第2ケース4に取付けられてオイルポンプ22の収納空間を隔成する。また、ハウジングは、開口を有し、この開口にてインナロータを回転可能に軸支している。インナロータは、リダクションドリブン軸8の左端部に連結されており、リダクションドリブン軸8とともに回転する。したがって、オイルポンプ22は、リダクションドリブン軸8の回転によって駆動される。
【0038】
オイルポンプ22が配置される個所の第2ケース4には、吸入ポートと排出ポート、および、それらに連通している油路が形成されており、オイルポンプ22へのオイルの出入り経路が形成されている。なお、車両が後進する時は、リダクションドリブン軸8が逆転(正転の反対)するので、オイルポンプ22の吸入と吐出しの関係が逆となる。
【0039】
第2ケース4には、ストレーナ21が取付けられている。そして、第2ケース4に形成されたオイルポンプ22の吸入側の油路はストレーナ21に連通している。ストレーナ21は、オイル貯留空間2Aの底部に配置されており、オイルポンプ22がオイル貯留空間2Aから吸い上げるオイルを濾過する。オイルポンプ22は、吐出口を有しており、ストレーナ21を介してオイル貯留空間2Aから吸い上げたオイルを、吐出口に吐出する。
【0040】
ケース2の油路は、オイルポンプ22の吐出口に連通している。ケース2の油路は、オイルポンプ22の吐出口から第2ケース4および第1ケース3の各部に延びており、ピニオン軸11の軸受等の被潤滑部位にオイルを供給している。
【0041】
このように、本実施例の動力伝達装置1は、リダクションドリブンギヤ9とベベルギヤ10によるオイルの掻き上げと、オイルポンプ22によるオイルの圧送とによって、複数の被潤滑部位にオイルを供給している。
【0042】
動力伝達装置1にあっては、オイルポンプ22によるオイルの圧送と併用して、いわゆる掻き上げ式の潤滑手法も用いているため、被潤滑部位の潤滑不足を回避しつつ、オイルの掻き上げによる撹拌抵抗を低減することが望ましい。
【0043】
また、本実施例の動力伝達装置1において、ピニオン軸11の軸心が、リダクションドリブン軸8の軸心よりも高い位置に配置されており、ピニオン軸11の軸受やオイルシールがケース2内の高い位置に配置されている。このため、ピニオン軸11の軸受やオイルシールの潤滑を維持するためにオイルの油面位置OLを高い位置に設定しつつ、オイルの撹拌抵抗を低減することが望ましい。
【0044】
したがって、ケース2内のオイルの総量を維持したまま、リダクションドリブンギヤ9およびベベルギヤ10と連れ回るオイルの量、つまりオイル貯留空間2Aのオイルの量を低減することが好ましい。
【0045】
また、動力伝達装置1の冷機状態からの回転開始直後は、オイル貯留空間2Aには油面位置OLまでオイルが貯留されており、オイル粘度も高い。このため、冷機状態からの回転開始後の低速回転時に、速やかに油面位置OLを低下させて、オイルの撹拌抵抗を低減することが望ましい。
【0046】
そこで、本実施例の動力伝達装置1は、
図2、
図3に示すように、被潤滑部位に供給するオイルを貯留するオイルタンク30を備えている。オイルタンク30は、第1貯留部33と第2貯留部37とを有している。
【0047】
第1貯留部33は、オイル貯留空間2Aからオイルポンプ22によって導入油路32(
図6参照)を通じて圧送されたオイルを貯留する。第2貯留部37は、開口部37Bを有し、リダクションドリブンギヤ9等によって掻き揚げられたオイルを開口部37Bで捕集して貯留する。オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周側に配置され、かつ、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に形成されている。また、第1貯留部33と第2貯留部37とが一体に形成されている。本実施例では、オイルポンプ22は、オイルを所定の被潤滑部位へ直接供給するためだけでなく、オイルをオイルタンク30の第1貯留部33に圧送して貯留させるためにも用いられている。
【0048】
図8に示すように、リダクションドリブンギヤ9の側面(軸方向の平面)に連れ回って掻き上げられたオイルは、ケース2とオイルタンク30の隙間と、ベベルギヤ10とオイルタンク30の隙間と、を通って第2貯留部37に運ばれ、開口部37Bから第2貯留部37に流入する。
【0049】
図6において、オイルタンク30は、筒状の導入管31を有しており、導入管31には、油路としての導入油路32が形成されている。導入油路32はケース2の油路に連通している。導入油路32は、その右端部側の開口部であるオイル入口32Aを有している。
【0050】
オイル入口32Aは、ケース2の油路に連通する図示しない接続孔に連結されている。そして、ケース2の油路を通過したオイルは、オイル入口32Aを通って導入油路32に導入される。オイルタンク30の導入油路32の左端にはオイル流入口32Bが形成されている。
【0051】
オイルタンク30は、ケース2の油路から導入油路32に導入されたオイルを、オイル流入口32Bからオイルタンク30の内部空間に受け入れるようになっている。オイル流入口32Bは、フィラープラグ13よりも上側であって、オイルタンク30における上下方向の概ね中間位置に配置されている。
【0052】
図5、
図6、
図7において、オイルタンク30におけるオイル流入口32Bよりも下方の部位は、オイルが貯留される第1貯留部33となっている。第1貯留部33には、内部空間が拡張された膨出部33Aが形成されている。
【0053】
膨出部33Aは、その内部空間を拡張するように、軸方向の右方およびラジアル方向の外方(ケース2の内面に近づく方向)に膨出している。膨出部33Aは、リダクションドリブン軸8の軸方向で、軸受8Bよりも右方に膨出している。
【0054】
つまり、膨出部33Aは、リダクションドリブン軸8の軸受8Bの側方(詳細には後下方)を横切るように、右方に膨出している。オイルタンク30により大きな膨出部33Aを形成するために、第2ケース4には膨出部33Aを収容する膨出形状が形成されている。
【0055】
なお、オイルタンク30の第1貯留部33の大部分は、車両の停止中の油面位置OLよりも下方に配置されている。このため、車両の停止中は、第1貯留部33はオイルの中に沈んでおり、オイルタンク30の内部には少なくとも油面位置OLまでオイルが貯留される。
【0056】
オイルタンク30におけるリダクションドリブン軸8と対向する内周面は、オイルタンク30内のオイルがリダクションドリブン軸8に接触して連れ回ることを防止するための隔壁として機能する。
【0057】
なお、第1貯留部33の内壁または外壁にヒータ等の熱源を設けるようにしてもよい。これにより、外気温の低い場合であってもオイルの油温を所望の高温に維持できる。油温が上がるとオイル粘度が下がるので、外気温の低い場合であっても撹拌抵抗を低減できる。
【0058】
図2に示すように、ストレーナ21は、オイル貯留空間2Aの下部でケース2の凹部内に配置されている。詳しくは、ストレーナ21の前後には第1ケース3と第2ケース4を結合する為の締め付け箇所が配置されており、ストレーナ21は、これらの締め付け箇所の間に配置されている。
【0059】
図6において、第1貯留部33の左側面の下部には、第1貯留部33の内部空間をオイル貯留空間2Aと連通させる連通孔34が形成されている。連通孔34は、オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油面位置OLよりも下方に配置されている。
【0060】
連通孔34は、オイルタンク30のオイル貯留機能を損なうことがないように、導入油路32およびケース2内の油路よりも小径に形成されている。このため、オイルポンプ22の駆動中は、オイルタンク30から連通孔34を通ってオイル貯留空間2Aへ流出するオイルの量は導入油路32から流入するオイルの量に比較して少なくなり、オイルタンク30内のオイルの量が増加する。
【0061】
そして、オイルポンプ22の停止中は、オイルタンク30から連通孔34を通ってオイル貯留空間2Aへ流出するオイルの量は、導入油路32およびケース2の油路から流出するオイルの量と比較して少なくなり、オイルタンク30内のオイルは主に導入油路32を通ってケース2の油路に流出することになる。
【0062】
また、オイルタンク30に連通孔34が設けられていることにより、オイルタンク30とオイル貯留空間2Aとの間で、連通孔34を通してオイルが行き来することができる。このため、整備等で動力伝達装置1のオイルを抜く場合は、オイルタンク30内のオイルも連通孔34、および、図示せぬドレン孔から排出することができる。
【0063】
一方、逆に動力伝達装置1にオイルを注入する場合は、車両の長期の停止時のように、ギヤによるオイルの掻き上げがされておらずオイルポンプ22も作動していない。しかし、オイルポンプ22が作動していないときであっても、オイル貯留空間2Aのオイルは、連通孔34を通ってオイルタンク30内に流入し、オイルタンク30に貯留される。このため、ケース2内のオイルの総量を維持したまま、オイル貯留空間2Aのオイルの量が低減される。
【0064】
第1貯留部33は、導入油路32からオイルを受け入れるオイル流入口32Bと、オイル流入口32Bよりも上方に延びるオイル通路部35と、オイル通路部35の上方に形成されたオイル吐出口36と、を有している。
【0065】
また、オイル吐出口36は、リダクションドリブンギヤ9の軸方向と平行に開口し、かつ、略水平方向に延びている。本実施例では、オイル吐出口36は、略水平方向に円弧状に延びている。このように構成されたオイルタンク30において、オイル流入口32Bからオイルタンク30に流れ込んだオイルは、オイル通路部35を上昇してオイル吐出口36から吐出される。
【0066】
オイル通路部35は、リダクションドリブンギヤ9の周囲に配置され、リダクションドリブンギヤ9の外径に沿って円弧状に形成されている。円弧状に上方に延びるオイル通路部35の最上部は、リダクションドリブンギヤ9の最上部の上方に配置されている。
【0067】
オイル吐出口36はオイル通路部35の最上部に形成されている。オイル流入口32Bからオイルタンク30に流れ込んだオイルは、まず、オイル流入口32Bよりも下方の第1貯留部33に流れ落ちて貯留され、第1貯留部33を満たした後にオイル通路部35を下部から満たしてその液面(油面)が上昇し、上端部に達してオイル通路部35を満たした後にオイル吐出口36から吐出される。
【0068】
ここで、オイル通路部35の流路断面積(流れ方向に直交する断面積)は、オイル流入口32Bの流路断面積と比較して十分に大きく形成されている。つまり、オイル通路部35が比較的長く円弧状に上方に延び形状を有することもあり、オイル通路部35は比較的大きな内部空間を有している。
【0069】
このため、オイル通路部35は、単なる油路としての機能だけでなく、オイルを貯留する機能も有している。そして、オイル通路部35は、ケース2の油路よりも高い位置に配置されている。
【0070】
したがって、オイル通路部35に貯留されているオイルは、車両の停車中(オイルポンプ22の停止中)に、自重によってオイル流入口32Bから導入油路32を逆流してケース2の油路に排出され、油路を通って被潤滑部位(例えば、ピニオン軸11の軸受)に供給される。そして、被潤滑部位を潤滑したオイルは、ケース2内の空間を流下してオイル貯留空間2A内に戻る。
【0071】
図2、
図3、
図4に示すように、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外側に、リダクションドリブンギヤ9の後側を取り囲む様に配置されている。そして、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に形成されている。
【0072】
本実施例では、オイルタンク30は、円弧状に形成されており、その内側面はリダクションドリブンギヤ9の外径に近接配置されてその外径形状に沿い、その外周面はベベルギヤ10の外径寸法とほぼ同じ寸法に形成されている。
【0073】
また、オイルタンク30の左右方向の幅は、膨出部33Aの部分を除き、リダクションドリブンギヤ9とほぼ同じ寸法となっている。くわしくは、リダクションドリブン軸8の軸方向で、オイルタンク30の左側面はリダクションドリブンギヤ9の左側端縁(左側面)とほぼ同じ位置からやや右側となる位置に位置しており、オイルタンク30の右側面はリダクションドリブンギヤ9の右側端縁(右側面)とほぼ同じ位置からやや右側となる位置に位置している。
【0074】
図4に示すように、ベベルギヤ10は、その外径がリダクションドリブンギヤ9よりも大径に形成されている。また、ベベルギヤ10は、リダクションドリブンギヤ9の左側面に隣り合う位置で、リダクションドリブン軸8に固定されている。このように、ベベルギヤ10はリダクションドリブンギヤ9と軸方向に隣接している。
【0075】
本実施例では、オイルタンク30は、従来使用されていなかったデッドスペースに配置されている。これにより、オイルタンク30を設けたことによる動力伝達装置1の大型化を防止できる。詳しくは、動力伝達装置1において、ベベルギヤ10がリダクションドリブンギヤ9よりも大径に形成されていることにより、ベベルギヤ10の右方には、リダクションドリブンギヤ9の周囲にデッドスペース(余剰の空間)が存在していた。このデッドスペースは、リダクションドリブンギヤ9の外周とベベルギヤ10とケース2の内面とに囲まれた空間である。
【0076】
なお、リダクションドリブンギヤ9の軸方向(リダクションドリブン軸8の軸方向)から見て、ベベルギヤ10とオイルタンク30とは重なっている。言い換えれば、オイルタンク30は、ベベルギヤ10の軸方向(リダクションドリブン軸8の軸方向)で、ベベルギヤ10の背面と対向している。
【0077】
図3、
図4に示すように、ベベルギヤ10の歯面側(オイルタンク30が配置されない側)には空間が確保されており、オイルはベベルギヤ10の歯に連れ回ることができる。ベベルギヤ10の歯に連れ回るオイルによって、ベベルギヤ10とピニオンギヤ12との噛み合い箇所の潤滑を良好に行うことができる。特に、当該噛み合い箇所に上方からオイルが供給されるので、潤滑性能を向上させることができる。
【0078】
図6、
図7において、オイルタンク30には2つの固定部30Aが設けられている。2つの固定部30Aの一方は、第1貯留部のオイル通路部35の外周部における導入管31の基部に配置されている。2つの固定部30Aの他方は、第2貯留部37の外周部に設けられている。オイルタンク30は、これらの固定部30Aに差し通したボルト14を第2ケース4に締結することにより固定されている。したがって、オイルタンク30、ストレーナ21、オイルポンプ22および主要な油路は、第2ケース4に集約して設けられている。
【0079】
図6において、第2貯留部37はオイル排出口38を有している。オイル排出口38は、オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油面位置OLよりも上方に形成されており、ケース2内の空間と連通している。オイル排出口38は、リダクションドリブンギヤ9の径方向に開口している。ケース2の油路の一部は、オイル排出口38の近傍からリダクションドリブンギヤ9の軸心に向かって延びている。
【0080】
図2、
図3において、ケース2は、ケース2の外部と内部とに連通するブリーザ室2Bを有している。ブリーザ室2Bは、リダクションドリブンギヤ9の軸方向から見て、オイルタンク30における第1貯留部33と第2貯留部37との間の部位の周縁部に形成されている。ブリーザ室2Bは、オイルの流入を抑制するためにラビリンス構造を有している。
【0081】
図7において、第2貯留部37は、円弧状の湾曲面である捕集部39を備えており、この捕集部39は、オイル貯留空間2Aから掻き上げられたオイルを捕集し、捕集したオイルを第2貯留部37の開口部37Bに案内している。捕集部39は、第1貯留部33のオイル通路部35の周方向の端部35Aに連結されており、第1貯留部33と第2貯留部37とを連結して一体化させる機能も有している。なお、オイル通路部35の端部35Aは閉じられており、オイル通路部35を上昇したオイルがオイル通路部35の端部35Aから流出することはない。
【0082】
捕集部39には、領域39Cで示す領域に切り欠き部39Aを有している。切り欠き部39Aは、捕集部39を構成していた領域39Cの部分を切り欠くことにより形成されている。切り欠き部39Aは、リダクションドリブンギヤ9の外周面とブリーザ室2Bの入口2Cとに対向する部分に、リダクションドリブンギヤ9の外周面とブリーザ室2Bとを連通させるように設けられている。
【0083】
第2貯留部37には、リダクションドリブンギヤ9の軸方向に膨出する膨出部37Aが形成されている。膨出部37Aは、リダクションドリブンギヤ9の軸方向で捕集部39よりも右方に膨出している。これにより、第2貯留部37の容積を大きくすることができ、より多くのオイルを第2貯留部37に貯留させることができるので、撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0084】
図6、
図7、
図8において、オイルタンク30は壁部39Bを有している。壁部39Bは、リダクションドリブンギヤ9の軸方向で切り欠き部39Aと重なる位置に設けられている。壁部39Bは、リダクションドリブンギヤ9の径方向(本実施例では上方)に延びている。
【0085】
図3において、壁部39Bは、リダクションドリブンギヤ9の軸方向から見て、切り欠き部39A(
図6参照)の設けられた部位39Dに配置されている。この壁部39Bは、リダクションドリブンギヤ9に連れまわったオイルがブリーザ室2Bに飛散することを抑制するための遮蔽部として機能する。
【0086】
図8において、壁部39Bは、リダクションドリブンギヤ9の軸方向で、オイルタンク30におけるブリーザ室2Bの入口2C(
図3参照)から遠い側の端部(左端部)に設けられている。詳しくは、壁部39Bは、捕集部39の左端部に設けられている。これにより、壁部39Bの遮蔽部としての機能の向上が図られている。
【0087】
第1貯留部33の連通孔34は、オイルタンク30における、ブリーザ室2Bから遠く、壁部39Bのある面に設けられている。これにより、連通孔34からオイル貯留空間2Aに排出されたオイルがリダクションドリブンギヤ9に捕捉されてブリーザ室2Bに浸入することを防止できる。
【0088】
以上説明したように、本実施例の動力伝達装置1は、被潤滑部位に供給するオイルを貯留する第1貯留部33と第2貯留部37とを有するオイルタンク30と、オイル貯留空間2Aのオイルを圧送するオイルポンプ22と、を有する。第1貯留部33は、オイル貯留空間2Aからオイルポンプ22によって導入油路32を通じて圧送されたオイルを貯留する。第2貯留部37は、開口部37Bを有し、リダクションドリブンギヤ9等によって掻き揚げられたオイルを開口部37Bで捕集して貯留する。回転体はリダクションドリブンギヤ9、リダクションドライブギヤ7、ベベルギヤ10を含む。オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周側に配置され、かつ、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に形成されている。また、第1貯留部33と第2貯留部37とが一体に形成されている。
【0089】
これにより、低速回転時は、オイルポンプ22により第1貯留部33にオイルが貯留されるので、オイル貯留空間2Aにおける油面位置を、停車時の油面位置OLから速やかに低下させることができる。また、中速回転時および高速回転時においては、第1貯留部33へのオイルの貯留に加えて、リダクションドリブンギヤ9の掻き上げによって第2貯留部37にもオイルが貯留されるので、オイル貯留空間2Aにおける油面位置をさらに低くすることができる。したがって、動力伝達装置1内で撹拌されるオイル量を、リダクションドリブンギヤ9の回転速度に応じて適切に調節することができる。
【0090】
また、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周側に配置され、かつ、リダクションドリブンギヤ9の外周に沿う形状に一体に形成されているので、オイルタンク30を仕切り板等のオイルセパレータとしても機能させることができる。このため、低速回転時の初期の油面位置OLが高く設定されている場合であっても、リダクションドリブンギヤ9の外周側で連れ回るオイルの量を減らすことができ、撹拌抵抗を低減できる。この結果、低速回転時を含む広い回転速度範囲で撹拌抵抗を低減できる。
【0091】
また、本実施例の動力伝達装置1において、第2貯留部37は、オイル貯留空間2Aにおけるオイルの油面位置OLよりも上方に、ケース2内の空間と連通するオイル排出口38を有し、オイル排出口38は、リダクションドリブンギヤ9の径方向に開口している。
【0092】
このように、オイル排出口38がリダクションドリブンギヤ9の径方向に開口しているため、オイル排出口38は、リダクションドリブンギヤ9によって掻き上げられたオイルの流入口としても機能することができ、早期にオイルの撹拌抵抗を低減できる。
【0093】
また、本実施例の動力伝達装置1において、第1貯留部33は、導入油路32からオイルを受け入れるオイル流入口32Bと、オイル流入口32Bよりも上方に延びるオイル通路部35と、オイル通路部35の上方に形成されたオイル吐出口36と、を有する。また、オイル吐出口36は、リダクションドリブンギヤ9の軸方向と平行に開口し、かつ、略水平方向に延びており、オイル流入口32Bからオイルタンク30に流れ込んだオイルが、オイル通路部35を上昇してオイル吐出口36から吐出される。
【0094】
これにより、オイル流入口32Bよりも上方にオイル吐出口36が形成されているので、オイルポンプ22の作動中は、オイルがオイル通路部35に一時的に貯留された後にオイル吐出口36から吐出される。このため、オイル通路部35に、オイルの通路としての機能だけでなく、オイルを貯留する機能を持たせることができる。これによりオイルの撹拌抵抗を低減できる。
【0095】
また、第1貯留部33は、オイルを貯留する機能だけでなく、オイル通路部35の上方のオイル吐出口36にオイルを導く油路の機能も持っているので、ケース2内の高い位置にオイルを供給できる。
【0096】
また、オイル吐出口36がリダクションドリブンギヤ9の軸方向と平行に開口しているので、リダクションドリブンギヤ9によって掻き上げられたオイルがオイル吐出口36からオイルタンク30に流入することを防ぎつつ、オイル吐出口36からオイルを吐出させることができる。また、オイル吐出口36が略水平方向に延びているので、広い範囲にオイルを供給することができる。本実施例では、オイル吐出口36がベベルギヤ10側である車両左方に向かって開口しているので、オイルが低温で粘度が高い場合であっても、オイルタンク30とベベルギヤ10との間隙の広い範囲にオイルを供給できる。
【0097】
また、本実施例の動力伝達装置1において、ケース2は、リダクションドリブンギヤ9の軸方向から見て、オイルタンク30における第1貯留部33と第2貯留部37との間の部位の周縁部に、ケース2の外部と内部とに連通するブリーザ室2Bを有している。オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の外周面とブリーザ室2Bの入口2Cとに対向する部分に、リダクションドリブンギヤ9の外周面とブリーザ室2Bとを連通させるように切り欠かれた切り欠き部39Aを有している。
【0098】
これにより、リダクションドリブンギヤ9の掻き上げによってブリーザ室2Bに浸入したオイルを、切り欠き部39Aによって形成された空間を通して容易にリダクションドリブンギヤ9の外周面側に排出できる。特に、オイルが低粘度のためにダマになりやすい場合であっても、オイルの排出性能を向上させることができる。
【0099】
また、ブリーザ室2Bから排出されたオイルは、切り欠き部39Aの下方にあるリダクションドリブンギヤ9との連れ回りによってブリーザ室2Bの近傍から除去されるので、よりブリーザ性能を高めることができる。
【0100】
また、本実施例の動力伝達装置1において、オイルタンク30は、リダクションドリブンギヤ9の軸方向から見て、切り欠き部39Aが設けられている部位に、リダクションドリブンギヤ9の径方向に延びる壁部39Bを有している。
【0101】
これにより、オイルタンク30の壁部39Bをオイルの遮蔽部として機能させることができ、リダクションドリブンギヤ9に連れまわったオイルがブリーザ室2B側に飛散することを抑制できる。このため、ブリーザ室2Bのブリーザ性能を向上させることができる。本実施例では、壁部39Bは、ブリーザ室2Bの入口2Cから離れている側(左側)に設けられているので、よりオイルの遮蔽性能を高めることができる。
【0102】
また、本実施例の動力伝達装置1において、ケース2は、オイル貯留空間2Aにオイルを充填するオイル充填孔13Aを有している。また、ケース2におけるオイル充填孔13Aの周縁部とオイルタンク30との間に間隙Tが設けられている。
【0103】
これにより、オイル充填孔13Aからオイル貯留空間2Aにオイルを充填する際に、オイルがオイルタンク30に勢いよく当たってオイル充填孔13A側に逆流することを防止できる。
【0104】
本発明の本実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0105】
1...動力伝達装置、2...ケース、2A...オイル貯留空間、2B...ブリーザ室、2C...入口、7...リダクションドライブギヤ(回転体、ギヤ)、8A、8B...軸受(被潤滑部位)、9...リダクションドリブンギヤ(回転体、ギヤ)、10...ベベルギヤ(回転体、ギヤ)、13A...オイル充填孔、22...オイルポンプ、30...オイルタンク、32...導入油路(油路)、32B...オイル流入口、33...第1貯留部、35...オイル通路部、36...オイル吐出口、37...第2貯留部、37B...開口部、38...オイル排出口、39A...切り欠き部、39B...壁部、OL...油面位置、T...間隙