(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】電動機起動システム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241001BHJP
H02P 1/30 20060101ALI20241001BHJP
H02P 1/28 20060101ALI20241001BHJP
H02P 21/34 20160101ALI20241001BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P1/30
H02P1/28
H02P21/34
(21)【出願番号】P 2021064350
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 哲也
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-146381(JP,A)
【文献】特開平08-182386(JP,A)
【文献】特開昭61-150680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 1/30
H02P 1/28
H02P 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ装置と出力開閉器と商用開閉器と制御部を有し、
前記出力開閉器は前記インバータ装置の出力と三相誘導電動機の入力の間に設けられ、
前記商用開閉器は三相交流電源と前記三相誘導電動機の入力との間に設けられ、
前記制御部は、前記出力開閉器の開閉状態を制御し、
前記制御部は、前記商用開閉器の開閉状態を制御し、
前記制御部は、前記三相誘導電動機を静止時から起動する時に、前記出力開閉器を閉状態かつ前記商用開閉器を開状態とし、前記インバータ装置の出力により前記三相誘導電動機を駆動するように制御し、
前記制御部は、前記インバータ装置の出力電圧が前記三相交流電源の電圧より低く、前記三相誘導電動機が定格回転速度より低い第1の回転速度に達したと判定した場合に、前記インバータ装置の出力電圧の位相と前記三相交流電源の位相差が許容位相差の範囲内で前記商用開閉器が閉じるように、前記出力開閉器を開状態とする開放信号を与えるとともに、前記商用開閉器を閉状態とする投入信号を与え、前記投入信号を与えるタイミングは、前記商用開閉器の投入動作遅れ時間を考慮し決定され
、
前記制御部は、前記三相誘導電動機が前記第1の回転速度に達したと判定した場合に、前記インバータ装置の出力電圧振幅を維持したまま、前記インバータ装置の出力電圧の周波数を増加させ、前記インバータ装置の出力電圧の周波数が第1の周波数以上になった場合に、前記インバータ装置の出力周波数を一定に保ち、前記インバータ装置の出力電圧の位相と前記三相交流電源の位相差が前記許容範囲内で前記商用開閉器が閉じるように、前記商用開閉器を閉状態とする前記投入信号を与えること、
を特徴とする電動機起動システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記商用開閉器の前記投入信号と、前記出力開閉器の前記開放信号を同時に出力すること、
を特徴とする請求項1に記載の電動機起動システム
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機起動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機が結合されるポンプ、ファン、又はコンプレッサ等の機械は、プラント運用に応じて運転パターンが決定される。このとき、電動機は、機械の運転パターンに応じた起動頻度が要求される。つまり、何度も起動を繰り返して使用される機械においては、電動機も繰り返し起動が可能(多起動頻度仕様)であることが必要である。
【0003】
一般的に、誘導電動機は、起動時に大電流が流れて熱が発生する。以下特別な記述がない場合は、3相誘導電動機を電動機と略して記す。また、電動機は、起動を繰り返すと熱上昇(起動時の温度上昇)が大きくなる。この熱上昇を許容するために、従来の電動機は、多起動頻度指定がある場合には、枠番を上げて用いられていた。
【0004】
また、特許文献1には、電動機の始動に用いる電力変換装置のインバータ容量を低減できるように改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電動機の枠番を大きくしてしまうと、必要な連続出力に対応する電動機に対し、使用する電動機の体格が大きくなってしまい、広い設置スペースが必要となったり、コストが高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、小容量のインバータ装置で電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる電動機起動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる電動機起動システムは、インバータ装置と出力開閉器と商用開閉器と制御部を有し、前記出力開閉器は前記インバータ装置の出力と三相誘導電動機の入力の間に設けられ、前記商用開閉器は三相交流電源と前記三相誘導電動機の入力との間に設けられ、前記制御部は、前記出力開閉器の開閉状態を制御し、前記制御部は、前記商用開閉器の開閉状態を制御し、前記制御部は、前記三相誘導電動機を静止時から起動する時に、前記出力開閉器を閉状態かつ前記商用開閉器を開状態とし、前記インバータ装置の出力により前記三相誘導電動機を駆動するように制御し、前記制御部は、前記インバータ装置の出力電圧が前記三相交流電源の電圧より低く、前記三相誘導電動機が定格回転速度より低い第1の回転速度に達したと判定した場合に、前記インバータ装置の出力電圧の位相と前記三相交流電源の位相差が許容位相差の範囲内で前記商用開閉器が閉じるように、前記出力開閉器を開状態とする開放信号を与えるとともに、前記商用開閉器を閉状態とする投入信号を与え、前記投入信号を与えるタイミングは、前記商用開閉器の投入動作遅れ時間を考慮し決定され、前記制御部は、前記三相誘導電動機が前記第1の回転速度に達したと判定した場合に、前記インバータ装置の出力電圧振幅を維持したまま、前記インバータ装置の出力電圧の周波数を増加させ、前記インバータ装置の出力電圧の周波数が第1の周波数以上になった場合に、前記インバータ装置の出力周波数を一定に保ち、前記インバータ装置の出力電圧の位相と前記三相交流電源の位相差が前記許容範囲内で前記商用開閉器が閉じるように、前記商用開閉器を閉状態とする前記投入信号を与えること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小容量のインバータ装置で電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態にかかる電動機起動システム及びその周辺を例示する図である。
【
図2】本発明の実施形態の制御部が有する機能を例示する機能ブロック図である。
【
図3】第1実施形態の切替タイミング例を示す図である。
【
図4】第2実施形態の切替タイミング例を示す図である。
【
図5】切替タイミング例を電動機の回転数及びトルク出力として示すグラフである。
【
図6】電動機起動システムの第1実施形態の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】電動機起動システムの第2実施形態の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下に、図面を用いて電動機起動システムの実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態にかかる電動機起動システム1及びその周辺を例示する図である。電動機起動システム1は、例えば50Hzの三相交流電源(商用電源)2から入力される電力を変換して、電動機(IM)3に電力を供給する。電動機3は、三相交流誘導機であり、図示しない負荷を駆動する。
【0012】
電動機起動システム1は、インバータ装置4、入力開閉器5、出力開閉器6、商用開閉器7、及び制御部8を有し、例えば図示しない上位装置からの起動指令に応じて電動機3を起動させる。インバータ装置4は、コンバータ41、コンデンサ42、及びインバータ43を有する周波数可変速装置である。
【0013】
コンバータ41は、三相交流電源2から入力された三相電圧を直流電圧に変換し、コンデンサ42に対して出力する。コンデンサ42は、コンバータ41から入力された直流電圧を平滑化し、インバータ43に対して出力する。インバータ43は、コンデンサ42から入力された直流電圧を電動機3の定格周波数よりも低い周波数の三相電圧、及び定格電圧よりも低い三相電圧の少なくともいずれかの交流に変換し、電動機3を駆動する。
【0014】
入力開閉器5は、三相交流電源2とインバータ装置4の入力との間に設けられ、3相交流電源2のインバータ装置4の入力のオンオフを切り替えるように開閉する。
【0015】
出力開閉器6は、インバータ装置4の3相出力と電動機3の入力との間に設けられ、インバータ装置4の3相出力に対して、電動機3の入力のオンオフを切り替えるように開閉する。
【0016】
商用開閉器7は、三相交流電源2と電動機3の入力との間に設けられ、三相交流電源2が電動機3の入力に対して直接入力される三相電力のオンオフを切り替えるように開閉する。
【0017】
制御部8は、電動機起動システム1を構成する各部を制御する。また、制御部8は、インバータ装置4の入力側及び出力側における電圧それぞれの位相(及び周波数)を検出する機能、並びに電動機3の回転数を計測する機能などを備えている。
【0018】
図2は、制御部8が有する機能を例示する機能ブロック図である。
図2に示すように、制御部8は、例えば駆動開閉制御部80、第1検出部82、第2検出部84、及び判定部86を有する。
【0019】
駆動開閉制御部80は、例えば駆動制御部800及び開閉制御部802を有し、図示しない上位装置からの指令に応じて、電動機起動システム1を構成する各部を制御する。また、駆動開閉制御部80は、電動機3の回転数などを計測する機能を備える。
【0020】
駆動制御部800は、インバータ43(
図1)が電動機3を静止状態から徐々に回転数を上昇し、定格周波数よりも低い周波数の三相電圧、及び定格電圧よりも低い三相電圧の少なくともいずれかによって電動機3を駆動するように、インバータ装置4に対して制御信号を出力する。
【0021】
開閉制御部802は、上位装置から駆動開閉制御部80に対して入力される指令などに基づいて、入力開閉器5、出力開閉器6、及び商用開閉器7の開閉を制御する。また、開閉制御部802は、後述する判定部86が出力する判定結果に応じて、入力開閉器5、出力開閉器6、及び商用開閉器7の開閉を制御する機能を備えている。
【0022】
第1検出部82は、三相交流電源2からインバータ装置4に対して入力される三相電圧の位相(三相交流電源2のU相電圧、V相電圧、W相電圧)をそれぞれ検出し、検出した位相それぞれを判定部86に対して出力する。
【0023】
第2検出部84は、インバータ装置4が電動機3に対して出力する三相電圧のインバータ装置4の出力U相電圧、出力V相電圧、出力W相電圧)をそれぞれ検出し、検出したそれぞれを判定部86に対して出力する。尚、第2検出部84の出力の替わりに、インバータ43を制御するための電圧制御信号や位相信号を使用してもよい。
【0024】
例えば判定部86はPLL回路などを含み、入力された電圧から位相および周波数を検出する。判定部86は、電動機3が所定の回転速度(第1の回転速度)に達したと判断したタイミングT(速度判定タイミングと呼ぶ)の後、第1検出部82が検出した三相交流電源2の電圧のいずれかの基準相(例えば三相交流電源2のU相電圧)と第2検出部84が検出した基準相と同相電圧(例えばインバータ装置4の出力のU相電圧)の位相が一致しているか否かを判定し、判定結果を駆動開閉制御部80に対して出力する。尚、以下位相が一致しているとは、比較する電圧の位相差が第1の許容位相差(判定値)以内であることも含む。尚、PLLなど等により位相の検出を行えば三相交流の場合、三相の位相差は120度であるため、周波数が異なっても、三相のうち1相でも同相の位相が一致したタイミングは、他の相の位相も一致したタイミングである。あるいはPLLによる位相判定に替えて判定部86は、第1検出部82が検出した三相交流電源2の電圧のいずれか(例えば三相交流電源2のU相電圧)と、第2検出部84が検出した同相(例えばインバータ装置4の出力のU相電圧)とが0に近い所定の範囲となり、かつ、第1検出部82が検出した他の位相(例えば三相交流電源2のV相電圧、W相電圧)と、第2検出部84が検出した他の位相(例えばインバータ装置4の出力V相電圧、出力W相電圧)の正負がそれぞれ一致しているか否かを判定し、判定結果を駆動開閉制御部80に対して出力する。
【0025】
例えば、判定部86は、位相それぞれが上述したように一致していると判定した場合、一致していると判定したタイミングを、開閉制御部802が電動機3の電源を三相交流電源2へ切替える切替タイミングT1とする判定結果として駆動開閉制御部80へ出力する。
【0026】
図3は、電動機起動システム1の第1実施形態の動作例として、判定部86が位相の一致(位相関係の一致)を判定したタイミング(切替タイミングT1)を示す図である。
図3(a)は、三相交流電源2のU相電圧100、V相電圧200、及びW相電圧300と切替タイミングT1とを示す図である。
図3(b)は、インバータ装置4の出力U相電圧110、出力V相電圧210、及び出力W相電圧310と切替タイミングT1とを示す図である。
【0027】
図3においては、例えば、判定部86は、三相交流電源2のU相電圧(値A)とインバータ装置4の出力U相電圧(値a)とが0となり、かつ、三相交流電源2のV相電圧(値B)とインバータ装置4の出力V相電圧(値b)のいずれも負(-)であり、三相交流電源2のW相電圧(値C)とインバータ装置4の出力W相電圧(値c)のいずれも正(+)となっているか否かを判定する。このとき、出力U相電圧110、出力V相電圧210、及び出力W相電圧310の振幅はXであるとする。
【0028】
なお、上述した開閉制御部802(
図2)は、例えばインバータ装置4及び入力開閉器5を順に閉じた後、インバータ装置4が駆動する電動機3の回転数が所定の回転数を超えて、第1検出部82が検出した位相のいずれかと、第2検出部84が検出した位相のいずれかとが0となり、かつ、第1検出部82が検出した他の位相と、第2検出部84が検出した他の位相の正負がそれぞれ一致していると判定部86が判定した場合、切替タイミングT1において出力開閉器6を開いて、商用開閉器7を閉じるように、出力開閉器6および商用開閉器7の遅延時間を考慮して制御を行うように構成されている。
【0029】
このように、第1検出部82が検出する位相と、第2検出部84が検出する位相とがそれぞれ近い値となっているため、電動機起動システム1は、切替タイミングT1において商用開閉器7を閉じるときのショックを軽減させることができる。また、電動機3の定格周波数よりも低い周波数の三相電圧、及び定格電圧よりも低い三相電圧の少なくともいずれかによって電動機3を駆動するインバータ43(
図1)は、従来用いられていたインバータ(電動機定格と略同等)よりも小容量であり、熱上昇も小さい。つまり、電動機起動システム1は、小容量のインバータ装置で電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる。即ち、切り替えタイミングT1におけるインバータ装置4の出力電圧振幅Xは三相交流電源2の振幅より小さいので小容量でよい。
【0030】
図5は、電動機起動システム1の動作例として、速度判定タイミングTにおける電動機3の回転数及びトルク出力と負荷トルクの関係を示すグラフである。第1実施形態においては、速度判定タイミングTにおける運転点は後述の点jであるが、第1検出部82が検出した位相それぞれと、第2検出部84が検出した位相それぞれが所定の位相関係となっているか否かを判定部86が判定した場合の切替タイミングT1における運転点も点jが維持される。
【0031】
図5において、dは、負荷トルクカーブの1例を示す。eは、三相交流電源2によって駆動する場合の電動機3のトルクカーブを示す。fは、インバータ装置4が定トルクで起動させる場合の電動機3のトルクカーブを示す。gは、電動機3が三相交流電源2と同期した場合(滑り周波数ゼロ)の回転数を示す。交点hは、負荷トルクと、三相交流電源2によって電動機3を直接駆動した場合に、トルクとがつりあっている状態を示しており、電動機3の定格回転数を示している。交点jはインバータ装置4にて電動機2を駆動した場合に電動機出力が負荷トルクとつりあう点となり、速度判定タイミングTの電動機3の回転速度を示す。すなわち、点jで示される回転速度が、第1の回転速度に相当する。
電動機起動システム1は、切替タイミングT1まで電流が抑えられる(f参照)。また、電動機起動システム1は、始動から切替タイミングT1至るまでの、dとeの差が加速トルクとなる。切替タイミングT1の直後では電動機3の回転数は交点hよりも低い回転数であり滑りが大きい状態である。しかし、dとeとの差により電動機3は加速され最終的には交点hで示される回転速度まで上昇する。切替タイミングT1で三相交流電源2により電動機3は駆動されるので、切替時の電動機3の入力電流は、静止状態で三相交流電源2により電動機3を始動した場合より小さくすることができる。
【0032】
図6は、本発明の第1実施形態による電動機起動システム1の動作例を示すフローチャートである。
【0033】
ステップ102(S102)において、制御部8(
図1,2)は、図示しない通信インターフェースを介して上位装置からの信号を受信する。
【0034】
ステップ104(S104)において、駆動開閉制御部80は、上位装置から受信した信号に電動機3を起動させる起動指令があるか否かを判定する。駆動開閉制御部80は、起動指令があると判定した場合(S104:Yes)にはS106の処理に進み、起動指令がないと判定した場合(S104:No)にはS102の処理に進む。
【0035】
ステップ106(S106)において、開閉制御部802は、入力開閉器5に対して入力開閉器投入指令を出力して入力開閉器5を閉じさせた後、出力開閉器6に対して出力開閉器投入指令を出力して出力開閉器6を閉じさせる。
【0036】
ステップ108(S108)において、駆動制御部800は、インバータ装置4の運転を開始させる。インバータ装置4は、電動機3への電力の供給を開始する。
【0037】
ステップ110(S110)において、駆動制御部800は、インバータ装置4を後述する第1運転モードで駆動する。インバータ装置4は、第1運転モードで運転する。電動機3は、インバータ装置4から供給された電力により回転する。
【0038】
ステップ112(S112)において、判定部86は、後述する第1条件が満たされたか否かを判定する。駆動開閉制御部80では、判定部86が、第1条件が満たされたと判定した場合(S112:Yes)にはS116の処理に進み、第1条件が満たされていないと判定した場合(S112:No)にはS110の処理に戻る。
【0039】
ステップ116(S116)において、判定部86は、後述する第2条件が満たされたか否かを判定する。駆動開閉制御部80は、判定部8が、第2条件が満たされたと判定した場合(S116:Yes)にはS118の処理に進み、第2条件が満たされていないと判定した場合(S116:No)にはS110の処理に戻る。
【0040】
ステップ118(S118)において、開閉制御部802は、出力開閉器6に対して出力開閉器開放指令を出力して出力開閉器6を開き、商用開閉器7に対して商用開閉器投入指令を出力して商用開閉器7を閉じさせる。なお、開閉制御部802は、出力開閉器6が開いてから商用開閉器7が閉じるように、指令から開閉動作までの遅延を考慮して、開放指令及び投入指令の出力タイミングを調整する。そして、電動機3は、三相交流電源2からの電力によって回転する。
【0041】
ステップ120(S120)において、駆動制御部800は、インバータ装置4に対して運転停止命令を出力することにより、インバータ装置4を停止させる。
【0042】
ステップ122(S122)において、開閉制御部802は、入力開閉器5に対して入力開閉器開放命令を出力することにより、入力開閉器5を開く。
【0043】
ここで、上述した第1運転モード、第1条件及び第2条件について説明する。
【0044】
第1運転モードは、例えばV/F一定制御である。周波数指令は、予め設定された最低周波数から徐々に増加するように設定される。例えば、ベクトル制御(定トルク制御)である。回転速度指令(速度指令)は予め設定される。速度指令は、低速から徐々に増加させられてもよい(予め設定されていても、一般的にインバータ装置内の制御回路では徐々に増加するように設定されている)。また、インバータ装置4の周波数が、三相交流電源2の周波数と異なる場合には、原理的に位相が一致するタイミングは発生する。
【0045】
第1条件は、電動機3が所定の回転速度に達したか否かを判定する条件である。所定の回転速度とは、
図5に示した速度判定タイミングTにおける回転速度である。制御部8は、電動機3に設けられた図示しない回転速度計から電動機3の回転速度を直接計測して計測してもよい。
【0046】
また、制御部8は、インバータ装置4の出力電圧の周波数とセンサレスベクトル制御等によってすべり周波数を演算し、差分から電動機3の回転数を算出してもよい。また、制御部8は、V/F一定制御やベクトル制御においてインバータ周波数が所定の周波数に達した後に、所定の時間が経過したときを速度判定タイミングTとしてもよい。
【0047】
また、制御部8は、電動機3に接続された負荷が予め定まっている場合には、インバータ装置4を起動した後に、所定の時間が経過したときを速度判定タイミングTとしてもよい。ここで、所定の時間は、例えば試運転等で実測することによって設定可能である。また、制御部8は、インバータ装置4の電流を測定して速度判定タイミングTを定めてもよい。
【0048】
第2条件は、インバータ装置4の出力電圧の位相と三相交流電源2の位相の位相差が第1の許容位相差の範囲内に入ったか判定する条件である。尚、商用開閉器7の開閉器の投入時の動作遅れ(投入遅延時間)ΔT7Cを考慮した場合、インバータ装置4の出力電圧の位相と、三相交流電源2の位相とが一致すると想定されるように、商用開閉器7に対して指令するタイミングを設定する。例えば、6.6kVクラスの真空遮断器の場合、投入遅れ時間は略35ms程度であり、開放遅延時間は約11ms程度である。すなわち、商用開閉器7の投入指令と出力開閉器6の開放指令を同時に出力した場合、出力開閉器6の開放後に、商用開閉器7が投入されることを意味している。したがって、商用開閉器7の投入遅延時間ΔT7Cをあらかじめ実測し、これを考慮して出力開閉器6の開放指令および商用開閉器7への投入指令を出力することがよい。具体的には切替タイミングT1にてインバータ装置4の出力電圧の位相と三相交流電源2の位相の位相差が第1の許容位相差内に入ると判明した場合は、T1-ΔT7Cが第2条件の成立タイミング、すなわち出力開閉装置6の開放指令と商用開閉器7への投入指令とすることもできる。さらに、開閉器の動作遅延時間はその操作電源電圧で変動する場合がある。このような場合は操作電源電圧と動作遅延時間の関係をあらかじめ求めて置き、それをルックアップテーブル等のデータとして制御部8内に保管しておき、操作電源電圧に対応して商標開閉器7の投入遅延時間ΔT7Cを補正して用いる様にしてもよい。
【0049】
例えば、時刻t0に於ける三相交流電源2の周波数をfs、電圧の位相をθs、インバータ装置4の出力周波数をfi、出力電圧の位相をθiとした場合、位相差が無くなるまで周波数が変化しないとすれば、位相差が無くなるタイミングtxは時刻t0から式(1)で示される時刻が経過したタイミングである。尚位相は特記なき場合はラジアンで示すものとする。
【0050】
tx=(θi―θs)/{2π(fs-fi)}・・・・・(1)
【0051】
したがって、商用開閉器7の投入時の第1の許容位相差をΔφとすると、時刻t0から商用開閉器7の投入指令を出力するタイミングT7cはまでの経過時間は以下の式(2)から(5)の範囲として決定することができる。
【0052】
(θi―θs―Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c≧0の場合
(θi―θs+Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c
≧T7c≧
(θi―θs―Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c・・・・・(2)
【0053】
(θi―θs+Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c
>0>
(θi―θs―Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7cの場合
(θi―θs+Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c
≧T7c≧0・・・・・(3)
または
1/(fs-fi)
≧T7c≧
(θi―θs―Δφ+2π)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c・・・・・(4)
【0054】
(θi―θs+Δφ)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c≦0の場合
(θi―θs+Δφ+2π)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c
≧T7c≧
(θi―θs―Δφ+2π)/{2π(fs-fi)}―ΔT7c・・・・・(5)
【0055】
第2条件が成立したのち式(2)から(5)に示す様に、インバータ装置4の出力電圧の位相と周波数、3相交流電源の位相と周波数および商用開閉器7の投入遅延時間に関連する値を使用することにより開閉制御部802が商用開閉器7へ投入指令を出力するタイミングを適切に判断することが出来る。また、出力開閉器6への開放指令タイミングは商用開閉器7への投入指令タイミングと同時でもよい。
【0056】
このように、第1実施形態にかかる電動機起動システム1は、入力開閉器5及び出力開閉器6を閉じた後、インバータ装置4が駆動する電動機3の回転数が所定の回転数を超えて、第1検出部82が検出した位相それぞれと、第2検出部84が検出した位相それぞれが所定の位相関係となっていると判定部86が判定した場合、出力開閉器6を開いて商用開閉器7を閉じるように制御するので、電動機3が定格回転より低い回転数で、インバータ装置4による電力供給から、三相交流電源2による電力供給に切り替えることから、小容量のインバータ装置で電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる。
【0057】
また、第1実施形態にかかる電動機起動システム1は、回転数を第1条件まで上昇させてから、三相交流電源2と電動機3を接続することにより、起動時熱量を抑えて、電動機の枠番を大きくすることなく多起動頻度に対応することができる。また、一実施形態にかかる電動機起動システム1は、インバータ装置4による電動機3の可変速範囲を小さくすることにより、必要なインバータ装置4の容量も低減することができる。
【0058】
例えば、50Hzでの電動機3の定格運転に対し、可変速範囲を20Hzまで(又は20Hz以下:すなわち定格周波数の40%以下)とすると、負荷の反抗トルクは(20/50)2=16%となり、これに加速トルク分10%を加えた26%相当の電流のみをインバータ装置4から出力することになる。つまり、電動機起動システム1は、小容量のインバータ装置で電流を少なくして熱上昇を抑えて、電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の電動機起動システムの基本的な構成は第1実施形態と同様である。以下では、相違点について説明する。第1実施形態では、駆動制御部800がインバータ43を制御し、電動機3を静止状態から徐々にその回転数を上昇させ、判定部86は、電動機3が所定の回転速度に達したと判断した後、駆動制御部800は、インバータ43の出力周波数をさらに上昇させ、三相交流電源2の周波数と近接させる様に、さらに、インバータ43の出力電圧位相が三相交流電源2の電圧位相と一致するように制御する。
【0060】
例えば、判定部86は、インバータ42の出力周波数が第2の所定周波数以上となると、周波数を一定に保ち、位相差が所定の範囲内になる切替タイミングT2にて、開閉制御部802が電動機3の電源を三相交流電源2へ切替る切替タイミングT2とする判定結果として駆動開閉制御部80へ出力する。駆動開閉器制御部80は、判定部86からの信号を受信すると、開閉器等の遅延時間を考慮して、切替タイミングT2において出力開閉器6を開いて、商用開閉器7を閉じるように制御を行なえるよう、開制御部802が出力開閉器6および商標開閉器7へ指令を出力するように構成されている。
【0061】
図4は、本発明の第2実施形態の切替タイミング例を示す図である。第2実施形態の動作例として、第1検出部82が検出した位相それぞれと、第2検出部84が検出した位相それぞれが所定の位相関係となっているか否かを判定部86が判定した場合の切替タイミングT2を示すグラフである。
図4(a)は、三相交流電源2のU相電圧100、V相電圧200、及びW相電圧300と切替タイミングT2とを示す図である。
図4(b)は、インバータ装置4の出力U相電圧110、出力V相電圧210、及び出力W相電圧310と切替タイミングT2とを示す図である。
【0062】
図4においては、例えば、判定部86は、第1検出部82が検出した電圧の周波数と第2検出部84が検出した電圧の周波数が所定の範囲に近接し、第1検出部82が検出した電圧の位相と、第2検出部84が検出した電圧の位相が一致する位相関係となっているか否かを判定する。このとき、出力U相電圧110、出力V相電圧210、及び出力W相電圧310の振幅はYであり、交流電源2の振幅より小さい。ここで周波数の近接は比較する電圧の周波数の差が所定の判定値以内であることを意味し、比較する電圧の位相差が所定の判定値以内であることも含む。
【0063】
図4では、三相交流電源2の三相電圧の周波数と、インバータ装置4の出力電圧の周波数がほぼ一致しているため、インバータ装置4の出力電圧も例えば50Hzである。そのため、電動機3は、電動機3の定格電圧よりも低い出力電圧で駆動され、すべりが大きい状態で回転する。
図4に示す状態は、前述の駆動制御部800がインバータ43を制御し、電動機3を静止状態から徐々にその回転数を上昇させ、判定部86は、電動機3が所定の回転速度に達したと判断した時点(この時点は、インバータ装置4の出力周波数は低く滑りは小さい)に比べ、インバータ装置4の出力するトルクは小さくなる。しかし、出力周波数を速やかに上昇させ、インバータ装置4の出力電圧と、三相交流電源2の三相電圧の周波数差と位相差を速やかに所定の範囲内とし、電動機3に供給する電力の供給をインバータ装置4から三相交流電源2に切り替えることにより、電動機3および負荷の慣性の効果があるので、電動機3の回転速度の低下は抑制できる。尚、周波数の差が極端に近接している場合は、位相差を小さくするのに時間がかかるので切り替えを早く実施するには好ましくない。周波数差の許容値は電動機と負荷の慣性モーメント等による切り替え時の回転速度低下に応じて決定することが望ましい。
【0064】
図7は、本発明の第2実施形態による電動機起動システム1の第1動作例を示すフローチャートである。
図6との相違点についてのみ説明する。ステップS110までは第1実施形態と同様である
【0065】
ステップS112において、制御部8は、第1条件が満たされたと判定した場合(S112:Yes)にはS113の処理に進み、第1条件が満たされていないと判定した場合(S112:No)にはS110の処理に戻る。第1条件の判定基準は第1実施形態と同様である。
【0066】
ステップ113(S113)において、駆動制御部800は、インバータ装置4を後述する第2運転モードで駆動する。インバータ装置4は、第2運転モードで運転する。電動機3は、インバータ装置4から供給された電力により回転する。第2運転モードでは、インバータ装置4の出力電圧の振幅を第1運転モードの最終値のままとし、インバータ装置4の出力周波数を増加させて三相交流電源2と近接させ、さらにインバータ装置4の位相を三相交流電源2と一致させる様に制御する。そして次のステップ114に進む。
【0067】
ステップ114(S114)において、判定部86は、後述する第3条件が満たされたか否かを判定する。駆動開閉制御部80では、判定部86が、第3条件が満たされたと判定した場合(S114:Yes)にはS115の処理に進み、第3条件が満たされていないと判定した場合(S114:No)にはS113の処理に戻る。第3条件はインバータ装置4の出力電圧の周波数が所定の周波数以上であるか否かという条件である。所定の周波数は三相交流電源2の周波数以下である。
【0068】
ステップS115では駆動制御部800はインバータ装置4の出力電圧の振幅と周波数を一定に保つ様に制御する。そしてステップS117に進む。
【0069】
ステップ117(S117)において、判定部86は、後述する第4条件が満たされたか否かを判定する。駆動開閉制御部80は、判定部86が、第1動作例においては、第4条件が満たされたと判定した場合(S117:Yes)にはS118の処理に進み、第4条件が満たされていないと判定した場合(S117:No)にはS115の処理に戻る。
第4条件では、インバータ装置4の出力電圧の位相と三相交流電源2の位相の位相差が第2の許容位相差の範囲内に入ったか判定する条件である。第2の許容位相差は第1の許容位相差と同じでも良いし、異なっていてもよい。
【0070】
ステップ118以降は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。また、商用開閉器7等の遅延時間を考慮した場合の考え方は、Δφを第2の許容位相差と読み替えることにより、前述の式(2)から(5)が適用でき、第1実施形態と同様な手法が可能である。さらに、切替タイミングT2におけるインバータ装置4の出力周波数fiを第1実施形態の場合より高くすることにより、式(2)から(5)におけるfs-fiの値が小さくなるので、商用開閉器7の投入における遅延時間のばらつきに対しても対応し易いことがわかる。
【0071】
このように、第2実施形態にかかる電動機起動システムは、入力開閉器5及び出力開閉器6を閉じた後、インバータ装置4が駆動する電動機3の回転数が所定の回転数を超えると、インバータ装置4の出力電圧の周波数を3相交流電源の電圧の周波数を近接させ、その位相差が小さい状態で、出力開閉器6を開いて商用開閉器7を閉じるように制御するので、電動機3が定格回転より低い回転数で、インバータ装置4による電力供給から、三相交流電源2による電力供給に切り替えることから、小容量のインバータ装置で電動機の多起動頻度と小型化を両立させることができる。
【0072】
また、第2実施形態にかかる電動機起動システム1は、回転数を第1条件まで上昇させてから、三相交流電源2と電動機3を接続することにより、起動時熱量を抑えて、電動機の枠番を大きくすることなく多起動頻度に対応することができる。また、一実施形態にかかる電動機起動システム1は、インバータ装置4による電動機3の可変速範囲を小さくすることにより、必要なインバータ装置4の容量も低減することができる。
【0073】
以上、本発明によれば、電動機定格に比較し、小容量のインバータで、電動機の外形を大きくすることなく、電動機の多頻度起動を実施することができる電動機起動システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1・・・電動機起動システム、2・・・三相交流電源、3・・・電動機、4・・・インバータ装置、5・・・入力開閉器、6・・・出力開閉器、7・・・商用開閉器、8・・・制御部、80・・・駆動開閉制御部、82・・・第1検出部、84・・・第2検出部、86・・・判定部、800・・・駆動制御部、802・・・開閉制御部