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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241001BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20241001BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60W30/02
B60L9/18 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021064448
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159951
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井野崎 崇
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-106390(JP,A)
【文献】特開2016-111777(JP,A)
【文献】特開2014-236590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0211678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪をそれぞれ独立に駆動させることができる複数の電動機と、
前記左右の車輪の回転速度差に基づいて前記電動機の出力トルクを制御する制御部と、
を備えた車両の制御装置であって、
前記制御部は、
前記回転速度差の変化量が所定値以下である場合、前記左右の車輪の両方を対象に前記電動機の出力トルクを補正し、
前記回転速度差の変化量が前記所定値よりも大きい場合、前記左右の車輪のうち、相対的に回転速度が大きい方の車輪のみを対象に前記電動機の出力トルクを補正する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記回転速度が大きい車輪のみを対象に前記電動機の出力トルクを補正する際、当該電動機の出力トルクを減算する補正を行なう
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記左右の車輪の両方を対象に前記電動機の出力トルクを補正する際、相対的に回転速度が小さい方の車輪について前記電動機の出力トルクを加算する補正を行ない、かつ相対的に回転速度が大きい方の車輪について前記電動機の出力トルクを減算する補正を行なう
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記回転速度差の変化量は、前記回転速度差の変化速度を含む
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、左右の車輪を独立して駆動するモータを搭載した車両において、直進中の外乱によって左右の車輪に回転速度差が生じた場合、この回転速度差が小さくなるように、制御装置により、左右両方の車輪についてトルクを補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-242506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、左右の車輪の回転速度差を小さくする際、常に左右両方の車輪についてトルクを補正する。しかしながら、常に両輪を補正する制御では、仮に片側の車輪が空転した場合に走行が不安定になってしまう。片側の車輪が空転すると当該車輪の回転速度が上昇するため、特許文献1に記載の構成によれば、この片側の車輪の回転速度が低下するようにトルクを補正するとともに、反対側の車輪の回転速度が上昇するようにトルクを補正する。ところが、この反対側の車輪は地面に接地した車輪である。そのため、地面に接地した車輪に入力されるトルクが大きくなるように補正を行なうと、この車輪で生じる駆動力が大きくなり、車両が意図せず加速してしまう。その結果、運転者に違和感を与える虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、運転者に違和感を与えない安定制御を実現することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右の車輪をそれぞれ独立に駆動させることができる複数の電動機と、前記左右の車輪の回転速度差に基づいて前記電動機の出力トルクを制御する制御部と、を備えた車両の制御装置であって、前記制御部は、前記回転速度差の変化量が所定値以下である場合、前記左右の車輪の両方を対象に前記電動機の出力トルクを補正し、前記回転速度差の変化量が前記所定値よりも大きい場合、前記左右の車輪のうち、相対的に回転速度が大きい方の車輪のみを対象に前記電動機の出力トルクを補正することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、左右の車輪の回転速度差の変化量に応じて、左右の車輪を両方ともトルク補正する制御と、左右の車輪のうち一方のみをトルク補正する制御とを切り替える。これにより、運転者に違和感を与えない安定制御を実現することができる。
【0008】
また、前記制御部は、前記回転速度が大きい車輪のみを対象に前記電動機の出力トルクを補正する際、当該電動機の出力トルクを減算する補正を行なってもよい。
【0009】
この構成によれば、左右の車輪のうち一方のみをトルク補正する際、片輪のトルクを減算させる補正を行なうことにより、トータルトルクを下げるように制御することが可能である。これにより、車両が意図せず加速することを防止でき、運転者の負担軽減と操安性の向上につながる制御を実現することができる。
【0010】
また、前記制御部は、前記左右の車輪の両方を対象に前記電動機の出力トルクを補正する際、相対的に回転速度が小さい方の車輪について前記電動機の出力トルクを加算する補正を行ない、かつ相対的に回転速度が大きい方の車輪について前記電動機の出力トルクを減算する補正を行なってもよい。
【0011】
この構成によれば、左右の車輪の両方をトルク補正する際、一方の車輪のトルクを加算し、他方の車輪のトルクを減算する補正を行なうことにより、トータルトルクを超過しないように制御することが可能である。そのため、運転者に違和感を与えない安定制御を実現することができる。
【0012】
また、前記回転速度差の変化量は、前記回転速度差の変化速度を含んでもよい。
【0013】
この構成によれば、左右の車輪の回転速度差の変化速度に基づいて、左右両輪をトルク補正する制御と、左右のうち片輪のみをトルク補正する制御とを切り替えることができる。そのため、多様な外乱に対して、運転者の負担軽減と操安性の向上につながる制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、左右の車輪の回転速度差の変化量に応じて、左右の車輪を両方ともトルク補正する制御と、左右の車輪のうち一方のみをトルク補正する制御とを切り替える。これにより、運転者に違和感を与えない安定制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態における車両を模式的に示すスケルトン図である。
図2図2は、モータ制御フローを示すフローチャート図である。
図3図3は、左右の車輪の回転速度差が生じる場合を説明するための図である。
図4図4は、片輪が段差に乗り上げた場合について実施例と比較例とを比較するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における車両の制御装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、実施形態における車両を模式的に示すスケルトン図である。車両1は、モータ10を動力源とする電動車両であって、左右の駆動輪を独立して駆動することができる複数のモータ10を備えている。
【0018】
図1に示すように、車両1は、前輪駆動車であって、前方左輪2Lと前方右輪2Rとを独立に駆動することが可能な一対のモータ11,12を備えている。モータ10は、第1モータ11と、第2モータ12とを含む。前方左輪2Lには、左輪駆動用の第1モータ11が連結されている。前方右輪2Rには、右輪駆動用の第2モータ12が連結されている。そして、第1モータ11から出力されたトルクによって前方左輪2Lが駆動する。第2モータ12から出力されたトルクによって前方右輪2Rが駆動する。車両1では、前輪2が駆動輪であり、後輪3が従動輪である。なお、前方左輪2Lと前方右輪2Rとについて左右を区別しない場合には、前輪2と記載する場合がある。後方左輪3Lと後方右輪3Rとについても同様である。
【0019】
第1モータ11と第2モータ12とは、電動機および発電機として機能することが可能なモータ・ジェネレータ(MG)である。各モータ11,12は無負荷回転で電圧が出力されるモータ(例えばPMモータ)により構成されている。また、車両1には、左右のモータ11,12をそれぞれ独立に駆動する一対のインバータが設けられている。インバータは、第1モータ11を駆動する第1インバータと、第2モータ12を駆動する第2インバータとを含む。なお、第1モータ11と第2モータ12とを区別しない場合には、モータ10と記載する場合がある。
【0020】
また、車両1は、車両1を制御するコントローラとしての電子制御装置20を備えている。電子制御装置20は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースなどを備えたマイクロコンピュータを含んで構成されているECUである。この電子制御装置20は、車両1の制御装置である。
【0021】
電子制御装置20には、車両1に搭載された各種センサからの信号が入力される。各種センサとして、車速を検出する車速センサ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ30、モータ10の回転角を検出するレゾルバセンサ、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキストロークセンサなどが挙げられる。車輪速センサ30は、前方左輪2Lの回転速度を検出する左輪用の第1車輪速センサ31と、前方右輪2Rの回転速度を検出する右輪用の第2車輪速センサ32とを含む。電子制御装置20には、第1車輪速センサ31と第2車輪速センサ32からそれぞれ信号が入力される。
【0022】
この電子制御装置20は各種センサからの入力信号に基づいて、モータ10の駆動制御などを実行して車両1を制御する。つまり、電子制御装置20は、モータ10の出力トルクを制御する制御部を含んで構成されている。この制御部は、モータ10の駆動制御を実行する。その際、電子制御装置20からは車両1に搭載された制御対象の各装置に指令信号が出力される。
【0023】
モータ10の駆動制御を実行する際、電子制御装置20から各インバータに、第1モータ11および第2モータ12の出力トルクを制御するための指令信号が出力される。第1インバータは電子制御装置20からの指令信号に基づいて第1モータ11を駆動させる。第2インバータは電子制御装置20からの指令信号に基づいて第2モータ12を駆動させる。各モータ11,12は出力トルクや回転速度や回転方向などが電子制御装置20によって電気的に制御される。
【0024】
そして、各モータ11,12の出力トルクを制御する際、電子制御装置20は、アクセル開度と車速とに基づいて要求駆動トルクを算出し、この要求駆動トルクを目標トルク(トータルトルク)に設定する。そして、電子制御装置20は、その目標トルクが得られるように各モータ11,12の出力トルクを制御する。この場合、電子制御装置20は、要求駆動トルクに基づいて左輪要求駆動トルクを決定し、この左輪要求駆動トルクとなるトルク指令を生成し、そのトルク指令を左輪駆動用の第1モータ11に出力する。さらに、電子制御装置20は、要求駆動トルクに基づいて右輪要求駆動トルクを決定し、この左輪要求駆動トルクとなるトルク指令を生成し、そのトルク指令を右輪駆動用の第2モータ12に出力する。
【0025】
また、電子制御装置20は、直進時の外乱に対して安定した走行を実現するための制御を実行する。つまり、車両1が直進走行中、電子制御装置20は、直進時の外乱に対して安定した走行を実現するための制御を実行する。具体的には、外乱によって車両1の直進走行が妨げられた際、電子制御装置20は、左右の車輪の回転速度差に基づいてモータ10の出力トルクを補正するトルク補正制御を実行する。その際、電子制御装置20は、左右の車輪の回転速度差をトルクに換算し、モータ10の出力トルクを補正する。
【0026】
トルク補正制御は、左右の車輪の両方を対象にしてトルクを補正する両輪補正制御と、左右の車輪のうちの一方の車輪のみを対象にしてトルクを補正する片輪補正制御とを含む。
【0027】
両輪補正制御は、左右の車輪の回転速度差をトルクに換算し、一方の車輪にトルクを加算し、他方の車輪にトルクを減算して、車両1のトータルトルクを超過しないようにする制御モードである。両輪補正制御では、左右の車輪のうち、相対的に回転速度が大きい方の車輪についてはトルクが小さくなるように補正し、相対的に回転速度の小さい方の車輪についてはトルクが大きくなるように補正する。
【0028】
片輪補正制御は、左右の車輪の回転速度差をトルクに換算し、一方の車輪のみにトルクを減算して、トータルトルクを下げる制御モードである。片輪補正制御では、左右の車輪のうち、相対的に回転速度が大きい方の車輪のみトルクが小さくなるように補正する。片輪補正制御によれば、相対的に回転速度が小さい方の車輪についてはトルクが補正されない。
【0029】
そして、電子制御装置20は、車両1の走行状態に応じて両輪補正制御と片輪補正制御とを切り替える。車両1の走行状態は、走行中の車両1に作用する外乱によって変化する。電子制御装置20は各種センサからの入力信号に基づいて外乱の種類を判別することができる。この電子制御装置20は、外乱による走行状態の変化を検出すると、外乱の種類に応じて両輪補正制御と片輪補正制御とのうちのいずれか一方を選択する。そして、電子制御装置20では、多様な外乱に対して車輪速情報を用いて2つの制御モードを切り替える。
【0030】
図2は、モータ制御フローを示すフローチャート図である。なお、図2に示す制御は、車両1が走行中、電子制御装置20の制御部によって繰り返し実施される。
【0031】
車両1が走行中に、電子制御装置20は、現在の左右の車輪における車輪速情報を取得する(ステップS101)。ステップS101では、左右の車輪速センサ30である第1車輪速センサ31と第2車輪速センサ32とから入力された信号に基づいて現在の車輪速情報が取得される。
【0032】
電子制御装置20は、左右の車輪における回転速度差を算出する(ステップS102)。ステップS102では、ステップS101で取得された車輪速情報を用いて前方左輪2Lの回転速度と前方右輪2Rの回転速度との差が算出される。
【0033】
電子制御装置20は、左右の車輪における回転速度差をトルクに換算する(ステップS103)。ステップS103では、ステップS102で算出された回転速度差がトルクに換算される。電子制御装置20は、例えば比例積分制御によって回転速度差をトルクに換算する。電子制御装置20は、左右の車輪における回転速度差を減らすことができる補正トルクを算出する。なお、左右の車輪における回転速度差をトルクに換算する計算方法は特に限定されない。
【0034】
電子制御装置20は、左右の車輪における回転速度差の変化速度が閾値以下であるか否かを判定する(ステップS104)。電子制御装置20は、左右の車輪における回転速度差の変化速度を算出する。ステップS104では、この算出された回転速度差の変化速度が閾値と比較される。この閾値は予め所定値に定められている。例えば、閾値は、左右の車輪のうち片側の車輪が空転しているか否かを判定することができる値に設定される。この場合、その閾値は、走行中に横風が車両1に作用する場合に生じる回転速度差の変化速度よりも大きい値、かつ走行中に片輪が空転した場合に生じる回転速度差の変化速度よりも小さい値に設定される。すなわち、ステップS104において、電子制御装置20は、左右の車輪の回転速度差の変化速度に基づいて外乱の種類を判定する。
【0035】
左右の車輪における回転速度差の変化速度が閾値以下である場合(ステップS104:Yes)、電子制御装置20は、左右の車輪の両方を対象にしてトルクを補正する(ステップS105)。ステップS104で肯定的に判定された場合、外乱はカント路や横風によるものと判定されたことになる。すなわち、片輪の空転は生じていないと判定されたことになる。そして、ステップS105では、両輪補正制御が実行される。電子制御装置20は、左右の車輪のうち、相対的に回転速度が小さい方の車輪については、ステップS103で換算されたトルクに応じてトルクを加算する補正を行ない、相対的に回転速度が大きい方の車輪については、ステップS103で換算されたトルクに応じてトルクを減算する補正を行なう。つまり、左右の車輪について、一方の車輪にはトルク指令に補正トルクを加算し、他方の車輪にはトルク指令に補正トルクを減算し、トータルトルクを超過しないように制御する。
【0036】
左右の車輪における回転速度差の変化速度が閾値よりも大きい場合(ステップS104:No)、電子制御装置20は、左右の車輪のうち、一方の車輪のみを対象にしてトルクを補正する(ステップS106)。ステップS104で否定的に判定された場合、外乱により片輪の空転が生じたと判定されたことになる。そして、ステップS106では、片輪補正制御が実行される。電子制御装置20は、左右の車輪のうち、相対的に回転速度が大きい方の車輪についてのみ、ステップS103で換算されたトルクに応じてトルクを減算する補正を行なう。回転速度差の変化速度が閾値よりも大きいと判定した際、回転速度が小さい方の車輪は、地面に接地した車輪と判断して補正トルクを加えない。そのうえで、回転速度が大きい方の車輪は、空転した車輪と判断して補正トルクを減算する。つまり、左右の車輪のうち、一方の車輪のみにトルク指令に補正トルクを減算し、他方の車輪はトルク指令を補正せず、トータルトルクを下げるように制御する。
【0037】
そして、電子制御装置20は、補正したトルクとなるようにトルク指令を出力し、モータ10を駆動する(ステップS107)。ステップS107では、補正されたトルクとなるようにトルク指令を生成し、このトルク指令によりモータ10が駆動される。ステップS107の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0038】
図3は、左右の車輪の回転速度差の変化速度と制御モードとの関係を示す説明図である。図3に示すように、外乱として、左右に傾斜した道路(カント路)、横風、段差が挙げられる。
【0039】
車両1がカント路を走行する場合、車両1はカント路の勾配に起因する横力を受けることによって左右の車輪の回転速度に差が生じる。図3に示すように、左側が高く右側が低いカント路の場合、左輪の回転速度が右輪の回転速度よりも大きくなる。しかしながら、カント路に起因する左右の車輪の回転速度差では、その変化速度が小さい。そのため、電子制御装置20は、回転速度差の変化速度により、カント路に起因する外乱と判断した場合、制御モードを両輪補正制御に設定し、左右の車輪を両方ともトルク補正する。
【0040】
直進中の車両1が横風を受ける場合、車両1は横風に起因する横力を受けることによって左右の車輪の回転速度に差が生じる。図3に示すように、車両1が左側から横風を受ける場合、左側の車輪の回転速度が右側の車輪の回転速度よりも大きくなる。しかしながら、横風に起因する左右輪の回転速度差は、その変化速度が小さい。そのため、電子制御装置20は、回転速度差の変化速度により、横風に起因する外乱と判断した場合、制御モードを両輪補正制御に設定し、左右の車輪を両方ともトルク補正する。
【0041】
車両1が走行中に段差に乗り上げた場合、車両1は一方の車輪が空転して片輪走行となるため左右の車輪の回転速度に差が生じる。図3に示すように、車両1の左輪が段差に乗り上げて左側の車輪が空転した場合、左輪の回転速度が右輪の回転速度よりも大きくなる。そして、この空転に起因する左右輪の回転速度差は、その変化速度が大きい。そのため、電子制御装置20は、回転速度差の変化速度により、段差に起因する外乱と判断した場合、制御モードを片輪補正制御に設定し、左右の車輪のうちの一方の車輪のみをトルク補正する。
【0042】
以上説明した通り、実施形態によれば、左右の車輪の回転速度差の変化速度に基づいて、両輪補正制御と片輪補正制御とに制御モードを切り替えることができる。その結果、片輪空転時の意図しない急加速を抑制し、運転者の負担軽減と操安性の向上につながる制御を実現することができる。このように、左右の車輪についてトルクを適切に制御することが可能なため、運転者に違和感を与えない安定制御を実現することができる。
【0043】
例えば、図4に示すように、車両1の片輪が空転した場合、比較例では左右の車輪を両方ともトルクを補正し、地面に接地した右輪に補正トルクが加算されてトルクが増大するので、運転者の意図とずれて加速してしまう。一方、実施例では、片輪が空転していると判断した場合、片輪補正制御を実施することにより、意図しない加速を防止することができる。
【0044】
なお、上述した実施形態では、左右の車輪の回転速度差の変化速度について説明したがこれに限定されない。例えば、変化速度に限らず、変化量を用いてもよい。つまり、左右の車輪の回転速度差の変化量が閾値よりも大きい場合には、片輪補正制御を実施する。一方、左右の車輪の回転速度差の変化量が閾値以下である場合には、両輪補正制御を実施する。言い換えれば、変化量は変化速度を含んでもよい。
【0045】
また、電子制御装置20は、アクセル開度と車速とに基づいて要求駆動トルクを算出する第1電子制御装置と、左右の車輪の回転速度から回転速度差を算出し、制御モードを選択するとともに、左右輪の要求駆動トルクを各輪のモータ10に指令する第2電子制御装置とを含んで構成されてもよい。第1電子制御装置はメインECUであり、第2電子制御装置はモータECUである。この場合、第1電子制御装置には、アクセル開度センサおよび車速センサからの信号が入力される。第1電子制御装置から第2電子制御装置に要求駆動トルクが入力される。第2電子制御装置には車輪速センサ30からの信号が入力される。
【0046】
また、左右の車輪の回転速度差を算出方法は特に限定されない。車輪速情報に限らず、モータ10の回転速度の情報を用いて、外乱の判定すなわち制御モードの選択を行なってもよい。例えば、電子制御装置20はモータ10のレゾルバセンサからの入力信号に基づいてモータ10の回転速度を算出し、そのモータ10の回転速度を減速比で割ることにより、左右の車輪の回転速度差を算出してもよい。この減速比は、モータ10と駆動輪との間の減速比である。なお、モータ10と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられる構成は特に限定されない。モータ10から出力されたトルクを駆動輪に伝達する動力伝達装置は減速機を含んでもよく、その構成は限定されない。加えて、モータ10をインホイールモータにより構成することも可能である。
【0047】
また、車両1は、左右の車輪を独立して駆動させることが可能な複数のモータ10を搭載していればよく、前輪駆動車に限定されない。さらに、車両1が備えるモータ10の個数は2つ以上であってもよい。
【0048】
例えば、車両1は、後方左輪3Lに第1モータ11が連結され、後方右輪3Rに第2モータ12が連結された2モータ式の後輪駆動車により構成することができる。また、車両1は、前方左輪2Lと前方右輪2Rとに第1モータ11と第2モータ12とがそれぞれ連結されているとともに、後方左輪3Lと後方右輪3Rとには第3モータが連結された3モータ式の四輪駆動車により構成することができる。この場合、主駆動輪は前輪2である。また、車両1は、後方左輪3Lと後方右輪3Rとに第1モータ11と第2モータ12とがそれぞれ連結されているとともに、前方左輪2Lと前方右輪2Rとには第3モータが連結された3モータ式の四輪駆動車により構成することができる。この場合、主駆動輪は後輪3である。また、車両1は、前方左輪2Lと前方右輪2Rとに第1モータ11と第2モータ12とがそれぞれ連結されているとともに、後方左輪3Lと後方右輪3Rとに第3モータと第4モータとがそれぞれ連結された4モータ式の四輪駆動車により構成することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 車両
2 前輪
2L 前方左輪
2R 前方右輪
3 後輪
10 モータ
11 第1モータ
12 第2モータ
20 電子制御装置
30 車輪速センサ
31 第1車輪速センサ
32 第2車輪速センサ
図1
図2
図3
図4