(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20241001BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20241001BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F02D29/00 G
F02D41/12
F02D41/30
(21)【出願番号】P 2021070009
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】久田 真之
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0174461(US,A1)
【文献】特開平01-035171(JP,A)
【文献】特開2007-239724(JP,A)
【文献】特開平06-094122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20- 6/547
B60W 10/00-60/00
F02D 29/00-29/06、41/00-45/00
F16H 61/14、61/38-61/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジン及び駆動輪の間に配設され且つロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、を備えた車両に適用され、前記エンジンのフューエルカットを実行している場合にエンジンストールが発生するおそれがあると判定されると、前記ロックアップクラッチを完全解放状態にする解放制御を開始した後にフューエルリカバリーを実行する、車両の制御装置であって、
前記フューエルリカバリーの実行タイミングを所定の第1時点に予め設定する設定部と、
前記設定部による前記実行タイミングの設定後の所定期間における前記エンジンの回転速度の低下量が所定量以上であると判定された場合、前記実行タイミングを前記所定の第1時点よりも早い所定の第2時点に補正する補正部と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、そのエンジン及び駆動輪の間に配設され且つロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、を備えた車両の、制御装置に関し、特にエンジンへの燃料供給を再開するフューエルリカバリーに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、そのエンジン及び駆動輪の間に配設され且つロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、を備えた車両において、燃料消費を抑制するために、例えばアクセルペダルが踏み込まれていないコースト走行(惰性走行)中にエンジンへの燃料供給を停止するフューエルカットを実行する技術が知られている。そして、ロックアップクラッチが非係合(OFF)状態である場合において、エンジン回転速度とロックアップクラッチの非係合状態用の予め定められた閾値とを比較して、エンジン回転速度が前記閾値よりも低くなると、エンジンへの燃料供給を再開するフューエルリカバリーを実行する車両の制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の車両の制御装置では、エンジン回転速度が前記閾値未満である場合にフューエルリカバリーが実行されるが、エンジン回転速度が想定よりも急激に低下するとエンジンストール(エンジンの停止)が発生するおそれがある。このエンジンストールの発生を抑制するために前記閾値を高く設定すると、エンジン回転速度が高い時点で早期にフューエルリカバリーが実行されるために燃費が低下してしまう。
【0005】
F 本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、耐エンジンストール性を向上させつつ燃費の低下を抑制できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、エンジンと、前記エンジン及び駆動輪の間に配設され且つロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、を備えた車両に適用され、前記エンジンのフューエルカットを実行している場合にエンジンストールが発生するおそれがあると判定されると、前記ロックアップクラッチを完全解放状態にする解放制御を開始した後にフューエルリカバリーを実行する、車両の制御装置であって、(a)前記フューエルリカバリーの実行タイミングを所定の第1時点に予め設定する設定部と、(b)前記設定部による前記実行タイミングの設定後の所定期間における前記エンジンの回転速度の低下量が所定量以上であると判定された場合、前記実行タイミングを前記所定の第1時点よりも早い所定の第2時点に補正する補正部と、を備えることにある。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、(a)前記フューエルリカバリーの実行タイミングを所定の第1時点に予め設定する設定部と、(b)前記設定部による前記実行タイミングの設定後の所定期間における前記エンジンの回転速度の低下量が所定量以上であると判定された場合、前記実行タイミングを前記所定の第1時点よりも早い所定の第2時点に補正する補正部と、が備えられる。エンジンの回転速度の低下量が所定量以上である場合すなわちエンジンストールが発生するおそれがある状況においては、そうでない状況に比較してフューエルリカバリーの実行タイミングが早い時点(=第2時点)に補正されるため、耐エンジンストール性が向上させられる。エンジンの回転速度の低下量が所定量未満である場合すなわちエンジンストールが発生するおそれがない状況においては、そうでない状況に比較してフューエルリカバリーの実行タイミングが遅い時点(=第1時点)とされるため、燃費の低下が抑制される。したがって、耐エンジンストール性が向上させられつつ燃費の低下が抑制される。
【0008】
第2発明によれば、第1発明において、前記フューエルリカバリーが前記所定の第2時点で実行される場合に前記車両で発生するショックが許容範囲内であると予測されると、前記補正部は、前記実行タイミングを前記所定の第2時点に補正する。このように、車両で発生するショックが許容範囲内であると予測される所定の第2時点でフューエルリカバリーが実行されるため、補正部により補正された実行タイミングでのフューエルリカバリーの実行による車両でのショックの発生が抑制される。
【0009】
第3発明によれば、第2発明において、前記所定の第2時点において前記ロックアップクラッチが解放中であり且つ前記トルクコンバータの回転速度差が所定差以上であると予測されると、前記フューエルリカバリーが前記所定の第2時点で実行される場合に前記車両で発生するショックが許容範囲を超過すると予測される。このように、ロックアップクラッチが解放中(完全係合状態から完全解放状態への切替途中である半係合中)であり且つトルクコンバータの回転速度差が所定差以上である場合には、車両で発生するショックが許容範囲を超過すると予測されることで、補正部により補正されるフューエルリカバリーの実行タイミングが車両でのショックの発生が抑制されたタイミングとされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係る電子制御装置を搭載した車両の概略構成図であるとともに、電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【
図2】
図1に示す電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
【
図3】
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例に係る電子制御装置90を搭載した車両10の概略構成図であるとともに、電子制御装置90の制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。
【0013】
車両10は、エンジン12、動力伝達装置14、一対の駆動輪32、油圧制御回路38、及び電子制御装置90を備える。
【0014】
エンジン12は、車両10の駆動源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン12は、電子制御装置90によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置40が制御されることによりエンジン12の作動状態(始動、運転、停止)が制御される。
【0015】
動力伝達装置14は、非回転部材としてのトランスミッションケース16内において、エンジン12側から順番に、トルクコンバータ18及び自動変速機22等を備える。また、動力伝達装置14は、自動変速機22の出力回転部材である出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、プロペラシャフト26に連結されたディファレンシャルギヤ28、及びディファレンシャルギヤ28に連結された一対の車軸30等を備える。
【0016】
トルクコンバータ18は、周知の流体式動力伝達装置である。トルクコンバータ18において、ポンプ翼車18pはエンジン12に連結され、タービン翼車18tはトルクコンバータ18の出力側部材に相当する入力軸20を介して自動変速機22に連結されている。トルクコンバータ18は、ポンプ翼車18pとタービン翼車18tとの間を直結する公知のロックアップクラッチ18cを備える。ロックアップクラッチ18cは、例えば油圧式摩擦クラッチ(湿式クラッチ)であり、エンジン12と駆動輪32との間の動力伝達経路を機械的に直結した状態とすることが可能である。トルクコンバータ18は、ロックアップクラッチ18cを係合する油圧が供給される係合側油室18onと、ロックアップクラッチ18cを解放する油圧が供給される解放側油室18offと、を備える。係合側油室18on及び解放側油室18offは、ロックアップクラッチ18cを断接制御する油圧アクチュエータとして機能する。ポンプ翼車18pには、オイルポンプ36が連結されている。オイルポンプ36は、エンジン12により回転駆動されることによって、自動変速機22の変速制御やロックアップクラッチ18cの断接制御などを実行するための作動油を油圧制御回路38へ圧送する機械式のオイルポンプである。ロックアップクラッチ18cは、オイルポンプ36が発生する油圧を元圧とし車両10に設けられた油圧制御回路38によって断接制御される。このように、本発明は、エンジン12と、エンジン12及び駆動輪32の間に配設され且つロックアップクラッチ18cを有するトルクコンバータ18と、を備えた車両10に適用される。
【0017】
自動変速機22は、トルクコンバータ18と駆動輪32との間の動力伝達経路上に配設され、エンジン12からの動力を駆動輪32へ伝達する変速機である。自動変速機22は、例えば変速比γ(=入力軸回転速度Nin[rpm]/出力軸回転速度Nout[rpm])が異なる複数のギヤ段が選択的に成立可能な公知の遊星歯車式多段変速機である。例えば、自動変速機22内の各断接装置(クラッチやブレーキの油圧式摩擦係合装置)の断接状態の組合せによって選択されたギヤ段が、自動変速機22において選択的に成立させられる。なお、入力軸回転速度Ninは入力軸20の回転速度であり、出力軸回転速度Noutは出力軸24の回転速度である。
【0018】
ディファレンシャルギヤ28は、一対の駆動輪32のそれぞれに連結された一対の車軸30に適宜差回転を与えつつ駆動力を伝達する周知のディファレンシャルギヤである。
【0019】
エンジン12から出力された動力は、トルクコンバータ18、入力軸20、自動変速機22、出力軸24、プロペラシャフト26、ディファレンシャルギヤ28、及び一対の車軸30を介して一対の駆動輪32に伝達される。車両10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車である。
【0020】
油圧制御回路38は、例えば電子制御装置90から入力された油圧制御信号Spに基づいて、自動変速機22内に設けられた断接装置であるクラッチやブレーキを断接させる制御油圧を生成して、各断接装置のアクチュエータにそれぞれ出力する。また、油圧制御回路38は、例えば電子制御装置90から入力された油圧制御信号Spに基づいて、トルクコンバータ18のロックアップクラッチ18cを断接させる制御油圧であるクラッチ油圧Plu[Pa]を生成して、ロックアップクラッチ18cのアクチュエータに出力する。例えば、クラッチ油圧Pluは、係合側油室18onに供給される係合圧と、解放側油室18offに供給される解放圧と、の差圧(=係合圧-解放圧)である。
【0021】
電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置90は、エンジン12の作動状態の制御、ロックアップクラッチ18cの断接制御、自動変速機22の変速制御(例えば、自動変速機22のギヤ段を選択的に成立させる断接装置の断接制御)等を実行する。なお、電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0022】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば、エンジン回転速度センサ50、入力軸回転速度センサ52、出力軸回転速度センサ54、アクセル開度センサ56、スロットル弁開度センサ58、油圧センサ60など)による検出値に基づく各種信号等(例えば、エンジン回転速度Ne[rpm]、タービン翼車18tの回転速度であるタービン回転速度Nt[rpm]と同値となる入力軸回転速度Nin[rpm]、車速V[km/h]に対応する出力軸24の回転速度である出力軸回転速度Nout[rpm]、運転者による加速操作の大きさを表す加速操作量としてのアクセル開度θacc[%]、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth[%]、ロックアップクラッチ18cのアクチュエータに供給されているクラッチ油圧Plu[Pa]など)が、それぞれ入力される。入力軸回転速度センサ52は、タービン回転速度センサとしても機能する。
【0023】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えば、エンジン制御装置40、油圧制御回路38など)に各種指令信号(例えば、エンジン12を制御するためのエンジン制御信号Se、自動変速機22の変速制御やロックアップクラッチ18cの断接制御のための油圧制御信号Spなど)が、それぞれ出力される。例えば、エンジン制御信号Seには燃料供給停止信号が含まれ、電子制御装置90は、燃料供給停止信号をオンとすることにより燃料噴射装置にエンジン12への燃料の供給を停止させ、燃料供給停止信号をオフとすることにより燃料噴射装置にエンジン12への燃料の供給を行わせる。すなわち、燃料供給停止信号がオンとされることにより燃料噴射を停止するフューエルカットが実行されてフューエルカットオン状態とされ、燃料供給停止信号がオフとされることによりフューエルカットが不実行とされてフューエルカットオフ状態とされる。
【0024】
電子制御装置90は、復帰決定部90a、設定部90b、低下判定部90c、ショック予測部90d、補正部90e、及び復帰実行部90fを機能的に備える。
【0025】
復帰決定部90aは、エンジンストールが発生するおそれがあるとしてフューエルリカバリーを実行するか否か、すなわちフューエルカットオン状態からフューエルカットオフ状態へ復帰させるか否かを決定する。例えば、エンジン回転速度Neが所定の回転速度値Ne_jdg未満である場合や車速Vが所定の車速値V_jdg[km/h]未満である場合には、エンジンストールが発生するおそれがあるとしてフューエルリカバリーを実行することが決定される。所定の回転速度値Ne_jdg及び所定の車速値V_jdgのそれぞれは、エンジン12のフューエルカットを実行している場合においてエンジンストールが発生するおそれがあるとして実験的に或いは設計的に予め定められた値である。
【0026】
ここで、所定の特定状態を、フューエルカットの実行中において時間の経過とともに予め定められて想定されるトルクコンバータ18の回転速度差ΔLU(=Nt-Ne)[rpm]よりも実際の回転速度差ΔLUが大きくなる車両状態をいうこととする。例えば、フューエルカットの実行中における運転者によるブレーキ操作やロックアップクラッチ18cの断接制御のクラッチ油圧Pluによる制御の応答性に起因して、車両10が所定の特定状態となり得る。フューエルリカバリーは、電子制御装置90による燃料供給を再開させる制御信号に対して応答性良く実行される。一方、ロックアップクラッチ18cの解放制御は油圧制御であるため、フューエルリカバリーに比較してロックアップクラッチ18cの解放制御は、電子制御装置90による解放制御の制御信号に対して応答性が悪い。そのため、ロックアップクラッチ18cの実際の作動状態(完全係合状態、半係合状態、完全解放状態)は、電子制御装置90により制御されて想定された状態とは異なる場合がある。なお、所定の通常状態を、前述の所定の特定状態ではない車両状態をいうこととする。
【0027】
復帰決定部90aによりフューエルリカバリーを実行することが決定されると、設定部90bは、ロックアップクラッチ18cを半係合状態(スリップ状態)を経て完全解放状態にする解放制御の開始時刻及びその解放制御の終了時刻を設定するとともに、フューエルリカバリーの実行タイミングを所定の第1時点txに設定する。フューエルリカバリーの実行タイミングである所定の第1時点txは、ロックアップクラッチ18cの解放制御の開始よりも後の時刻に設定される。フューエルリカバリーの実行タイミングは、フューエルカットオン状態からフューエルカットオフ状態への復帰タイミングであって、エンジン12への燃料供給の再開タイミングである。例えば、設定部90bは、車両10の減速度(車速Vの単位時間当たりの減少量)に応じて、ロックアップクラッチ18cの解放制御の開始時刻からその解放制御の終了時刻までのクラッチ油圧Pluの低下速度を設定する。なお、好適には、フューエルリカバリーの実行タイミングである所定の第1時点txは、ロックアップクラッチ18cの解放制御の終了時刻と同じに設定される。これにより、フューエルリカバリーの実行時のトルク段差に起因したショックの発生が抑制されるとともに、フューエルリカバリーの実行前におけるエンジン回転速度Neの低下が抑制されることで耐エンジンストール性(エンジンストールの発生しにくさ)の低下が抑制される。例えば、所定の第1時点txは、車速V、変速比γ、及び減速度と、所定の第1時点txと、の通常状態における関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに基づいて算出される。
【0028】
設定部90bで設定された解放制御の開始時刻になると、復帰実行部90fは、ロックアップクラッチ18cの解放制御を開始する。また、復帰実行部90fは、設定部90bで設定された解放制御の終了時刻にロックアップクラッチ18cの解放制御が完了するようにロックアップクラッチ18cを制御する。
【0029】
低下判定部90cは、設定部90bによる実行タイミングの設定後の所定期間T[ms]におけるエンジン回転速度Neの低下量であるエンジン回転速度低下量ΔNe[rpm]が所定の低下量ΔNe_jdg[rpm]以上であるか否かを判定する。所定期間Tは、設定部90bによる実行タイミングの設定後の予め定められた期間であって、所定期間Tの始期は、設定部90bで実行タイミングが設定された時点以後であり、所定期間Tの終期は、所定の第1時点txよりも前である。所定の低下量ΔNe_jdgは、エンジン12のフューエルカットを実行している場合において特定状態によりエンジンストールが発生するおそれがあるものとして実験的に或いは設計的に予め定められた、所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeの下限値である。なお、車両10が通常状態であれば、所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeは所定の低下量ΔNe_jdg[rpm]未満である。
【0030】
ショック予測部90dは、フューエルリカバリーが所定の第1時点txよりも早い所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かを予測する。なお、所定の第2時点tyの詳細については後述する。例えば、所定の第2時点tyにおいてロックアップクラッチ18cが解放中(完全係合状態から完全解放状態への切替途中である半係合中)であり且つ所定の第2時点tyにおいてトルクコンバータ18の回転速度差ΔLUが所定差ΔLU_jdg[rpm]以上であると予測されると、フューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックは許容範囲を超過すると予測される。一方、所定の第2時点tyにおいてロックアップクラッチ18cが解放中でないと予測される場合及び所定の第2時点tyにおいてトルクコンバータ18の回転速度差ΔLUが所定差ΔLU_jdg未満であると予測される場合のいずれかであると、フューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックは許容範囲内であると予測される。例えば、クラッチ油圧Pluと、ロックアップクラッチ18cの作動状態と、の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに所定の第2時点tyで予測されるクラッチ油圧Pluを適用することで、所定の第2時点tyでロックアップクラッチ18cが解放中であるか否かが判定される。例えば、所定の第2時点tyで予測されるクラッチ油圧Pluは、予測時における実際のクラッチ油圧Pluとクラッチ油圧Pluの低下率とに基づいて算出される。所定差ΔLU_jdgは、フューエルリカバリーが実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かを予測するための、実験的に或いは設計的に予め定められた所定の第2時点tyにおけるトルクコンバータ18の回転速度差ΔLUの判定値である。
【0031】
設定部90bによる実行タイミングの設定後の所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上であると低下判定部90cにより判定され、且つ、フューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であるとショック予測部90dにより予測されると、補正部90eは、設定部90bにより設定された所定の第1時点txから所定の第2時点tyに実行タイミングを補正(再設定)する。例えば、所定の第2時点tyは、エンジン回転速度低下量ΔNeと、所定の第2時点tyと、の関係が実験的に或いは設計的に予め定められたマップに基づいて算出される。このマップでは、エンジン回転速度低下量ΔNeが大きいほど、所定の第2時点tyは早い時刻とされる。
【0032】
復帰実行部90fは、設定部90b及び補正部90eのいずれかで設定された実行タイミングになったか否かを判定する。設定部90b及び補正部90eのいずれかで設定された実行タイミングになったと判定されると、復帰実行部90fは、フューエルリカバリーを実行する、すなわちエンジン12への燃料供給を再開する。
【0033】
図2は、
図1に示す電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図2のフローチャートは、例えば車両10でフューエルカットが実行されている場合に、所定の時間毎に繰り返して実行される。
【0034】
まず、復帰決定部90aの機能に対応するステップS10において、フューエルリカバリーを実行するか否かが決定される。ステップS10の決定が肯定された場合は、ステップS20が実行される。ステップS10の決定が否定された場合は、リターンとなる。
【0035】
設定部90bの機能に対応するステップS20において、ロックアップクラッチ18cの解放制御の開始時刻及び終了時刻が設定されるとともに、フューエルリカバリーの実行タイミングが所定の第1時点txに設定される。そしてステップS30が実行される。
【0036】
復帰実行部90fの機能に対応するステップS30において、ロックアップクラッチ18cの解放制御が開始される。そしてステップS40が実行される。
【0037】
低下判定部90cの機能に対応するステップS40において、所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上であるか否かが判定される。ステップS40の判定が肯定された場合は、ステップS50が実行される。ステップS40の判定が否定された場合は、ステップS90が実行される。
【0038】
ショック予測部90dの機能に対応するステップS50において、後述のステップS60において車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かを予測する時点である所定の第2時点tyが設定される。そしてステップS60が実行される。
【0039】
ショック予測部90dの機能に対応するステップS60において、フューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かが予測される。ステップS60の判定が肯定された場合は、ステップS80が実行される。ステップS60の判定が否定された場合は、ステップS70が実行される。
【0040】
ショック予測部90dの機能に対応するステップS70において、所定の第2時点tyが所定時間tstepだけ早い時刻に変更される。所定時間tstepは、車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かを予測する時点である所定の第2時点tyを設定し直すために予め定められた時間であって、ステップS40においてエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上であるか否かが判定された時刻と、ステップS20において設定されたロックアップクラッチ18cの解放制御の終了時刻と、の間の期間よりも短い時間である。そして、ステップS50が再度実行される。
【0041】
補正部90eの機能に対応するステップS80において、ステップS20で設定された所定の第1時点txから所定の第2時点tyに実行タイミングが補正される。そしてステップS90が実行される。
【0042】
復帰実行部90fの機能に対応するステップS90において、ステップS20及びステップS80のいずれかで設定された実行タイミングになったか否かが判定される。ステップS90の判定が肯定された場合は、ステップS100が実行される。ステップS90の判定が否定された場合は、ステップS90が再度実行される。
【0043】
復帰実行部90fの機能に対応するステップS100において、フューエルリカバリーが実行される、すなわちエンジン12への燃料供給が再開される。そしてリターンとなる。
【0044】
図3は、
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
図3の横軸は、時間t[ms]である。
図3に示すエンジン回転速度Ne及び燃料供給停止信号では、
図2のフローチャートのステップS40の判定が肯定されて実行タイミングが所定の第2時点tyに補正される本実施例の場合が実線で示され、ステップS40の判定が肯定されたにもかかわらず実行タイミングが所定の第1時点txに維持される比較例の場合が一点鎖線で示されている。
【0045】
時刻t1以前においては、コースト走行中に燃料供給停止信号がオンとされてフューエルカットが実行され、ロックアップクラッチ18cが完全係合状態にある。
【0046】
時刻t1において、エンジン回転速度Neが所定の回転速度値Ne_jdg未満となり、フューエルリカバリーを実行することが決定される。
【0047】
時刻t1において、時刻t3からロックアップクラッチ18cを半係合状態を経て完全解放状態にする解放制御(すなわちクラッチ油圧Pluを低下させる制御)を開始し、時刻t7(>t3)においてロックアップクラッチ18cの解放制御が完了するようにクラッチ油圧Pluを制御することが決定される。また、時刻t1において、フューエルリカバリーの実行タイミングがロックアップクラッチ18cの解放制御が完了する時刻t7に設定される。なお、時刻t1において、フューエルリカバリーの実行タイミングとされた時刻t7は、本発明における「所定の第1時点」に相当する。
【0048】
時刻t4において、時刻t2(>t1)から時刻t4(t7>t4>t2)までの期間すなわち所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上であると判定され、且つ、フューエルリカバリーが時刻t5(<t7)で実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であると予測される。これにより、時刻t4において、フューエルリカバリーの実行タイミングが時刻t7から時刻t5に変更される(すなわち、燃料供給停止信号がオンからオフへ切り替えられる時刻が、時刻t7から時刻t5に変更される)。なお、時刻t4において、フューエルリカバリーの実行タイミングとして変更された時刻t5は、本発明における「所定の第2時点」に相当する。
【0049】
時刻t5において、燃料供給停止信号がオンからオフへ切り替えられてフューエルリカバリーが実行され、時刻t6(>t5)においてエンジン回転速度Neが上昇を開始してエンジン回転速度Neがタービン回転速度Ntに近づいていく。このように、比較例に比べて本実施例では、時刻t5以降におけるエンジン回転速度Neの低下が抑制されることで耐エンジンストール性が向上させられる。
【0050】
本実施例の電子制御装置90によれば、(a)フューエルリカバリーの実行タイミングを所定の第1時点txに予め設定する設定部90bと、(b)設定部90bによる実行タイミングの設定後の所定期間Tにおけるエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上であると判定され、且つ、フューエルリカバリーが所定の第1時点txよりも早い所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であると予測されると、実行タイミングを所定の第2時点tyに補正する補正部90eと、が備えられる。エンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上である場合すなわち特定状態によりエンジンストールが発生するおそれがある状況においては、そうでない状況に比較してフューエルリカバリーの実行タイミングが早い時点(=所定の第2時点ty)に補正されるため、耐エンジンストール性が向上させられる。エンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg未満である場合すなわちエンジンストールが発生するおそれがない状況においては、そうでない状況に比較してフューエルリカバリーの実行タイミングが遅い時点(=所定の第1時点tx)とされるため、燃費の低下が抑制される。したがって、耐エンジンストール性が向上させられつつ燃費の低下が抑制される。また、このように、車両10で発生するショックが許容範囲内であると予測される所定の第2時点tyでフューエルリカバリーが実行されるため、補正部90eにより補正された実行タイミングでのフューエルリカバリーの実行による車両10でのショックの発生が抑制される。
【0051】
本実施例の電子制御装置90によれば、所定の第2時点tyにおいてロックアップクラッチ18cが解放中であり且つトルクコンバータ18の回転速度差ΔLUが所定差ΔLU_jdg以上であると予測されると、フューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲を超過すると予測される。このように、ロックアップクラッチ18cが解放中であり且つトルクコンバータ18の回転速度差ΔLUが所定差ΔLU_jdg以上であると予測されると、車両10で発生するショックが許容範囲を超過すると予測されることで、補正部90eにより補正されるフューエルリカバリーの実行タイミングが車両10でのショックの発生が抑制されたタイミングとされる。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0053】
前述の実施例では、車両10はFR車であったが、これに限らない。例えば、車両10はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車であっても良い。
【0054】
前述の実施例では、ショック予測部90dによりフューエルリカバリーが所定の第2時点tyで実行される場合に車両10で発生するショックが許容範囲内であると予測されると、補正部90eは、所定の第1時点txから所定の第2時点tyに実行タイミングを補正する態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、低下判定部90cによりエンジン回転速度低下量ΔNeが所定の低下量ΔNe_jdg以上である場合には、ショック予測部90dにより車両10で発生するショックが許容範囲内であるか否かの予測をすることなく、補正部90eが所定の第1時点txから所定の第2時点tyに実行タイミングを補正する態様であっても良い。
【0055】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
10:車両
12:エンジン
18:トルクコンバータ
18c:ロックアップクラッチ
32:駆動輪
90:電子制御装置(制御装置)
90b:設定部
90e:補正部
Ne:エンジン回転速度(エンジンの回転速度)
T:所定期間
tx:所定の第1時点
ty:所定の第2時点
ΔNe:エンジン回転速度低下量(低下量)
ΔNe_jdg:所定の低下量(所定量)