(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】電池監視装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20241001BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20241001BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H02J7/02 H
H01M10/48 P
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2021071858
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】倉知 大祐
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕基
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-185823(JP,A)
【文献】特開2018-151194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/02
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル電池(B)の直列接続体を有する電池パック(93)を監視する電池監視装置(96)において、
前記電池パックの蓄電量が時間経過に伴い変化するパック蓄電量変化時において、複数の前記セル電池のインピーダンス(Z)を検出するインピーダンス検出部(31)と、
検出されている前記セル電池のインピーダンスの変化傾向(Zd)の変化(Zdd)に基づいて、前記セル電池の蓄電量(Q)が特定蓄電量(QL,QU)になったと特定する蓄電量特定部(32)と、
前記セル電池どうしの間での、蓄電量が前記特定蓄電量になったと特定された特定タイミング(tP,tS)の違いに基づいて、前記セル電池どうしの間での蓄電量(Q)のバラツキ(ΔQ)を演算するバラツキ演算部(33)と、
を有する電池監視装置。
【請求項2】
演算された前記バラツキに基づいて、前記バラツキを小さくするための均等化を実施するか否か判定する均等化要否判定部(36)を有する、請求項1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
演算された前記バラツキに基づいて、前記電池パックが故障しているか否かを判定する故障判定部(37)を有する、請求項1又は2に記載の電池監視装置。
【請求項4】
演算された前記バラツキに基づいて、前記バラツキを小さくするための均等化において前記バラツキを小さくする量である均等化量を、演算する均等化量演算部(38)を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項5】
前記バラツキ演算部は、特定タイミング以降における前記セル電池の電流(I)又は電力の積算値(∫Idt)に基づいて、前記バラツキを演算する、請求項1~4のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項6】
前記インピーダンスは、交流抵抗を含み、
前記電池パックに交流電圧を印加する交流印加回路(40)を有し、
前記インピーダンス検出部は、前記電池パックに前記交流電圧が印加されているときの前記セル電池のインピーダンスを検出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項7】
前記セル電池の蓄電量の変化に対する前記セル電池の電圧の変化が所定基準よりも小さいプラトー領域時に、前記蓄電量特定部により、前記インピーダンスの変化傾向の変化に基づいて前記セル電池の蓄電量が前記特定蓄電量になったと特定して、前記バラツキ演算部により前記バラツキを演算し、
前記プラトー領域時以外の時に、前記セル電池の電圧に基づいて前記セル電池の蓄電量を演算して前記バラツキを演算する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項8】
前記セル電池は、負極に黒鉛を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項9】
前記セル電池は、正極にオリビン構造を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項10】
前記バラツキの大きさを示すバラツキ量(ΔQ)が均等化判定バラツキ量(ΔQE)よりも大きいことを条件に、前記バラツキを小さくするための均等化を実施すると判定する均等化要否判定部(36)を有し、
初期の蓄電容量に対する現在の蓄電容量の割合をSOHとして、
均等化要否判定部は、前記セル電池どうしの間での前記セル電池の前記SOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、前記均等化判定バラツキ量を大きく設定する、
請求項1~9のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項11】
前記バラツキの大きさを示すバラツキ量(ΔQ)が故障判定バラツキ量(ΔQX)よりも大きいことを条件に、前記電池パックが故障していると判定する故障判定部(37)を有し、
初期の蓄電容量に対する現在の蓄電容量の割合をSOHとして、
故障判定部は、前記セル電池どうしの間での前記セル電池の前記SOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、前記故障判定バラツキ量を大きく設定する、
請求項1~10のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項12】
前記バラツキの大きさを示すバラツキ量(ΔQ)が均等化判定バラツキ量(ΔQE)よりも大きいことを条件に、前記バラツキを小さくするための均等化を実施すると判定する均等化要否判定部(36)を有し、
初期の蓄電容量に対する現在の蓄電容量の割合をSOHとして、
均等化要否判定部は、前記電池パックのSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、前記均等化判定バラツキ量を小さく設定する、
請求項1~11のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項13】
前記バラツキの大きさを示すバラツキ量(ΔQ)が故障判定バラツキ量(ΔQX)よりも大きいことを条件に、前記電池パックが故障していると判定する故障判定部(37)を有し、
初期の蓄電容量に対する現在の蓄電容量の割合をSOHとして、
故障判定部は、前記電池パックのSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、前記故障判定バラツキ量を小さく設定する、
請求項1~12のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項14】
各前記セル電池について、当該セル電池の蓄電量から蓄電量が最小の前記セル電池の蓄電量を減じたものを、当該セル電池のバラツキ量(ΔQ)として、
前記バラツキ演算部は、前記電池パックの充電時において、蓄電量が前記特定蓄電量になったと特定されない前記セル電池があった場合、当該セル電池の前記バラツキ量を、演算された前記バラツキ量が最大の前記セル電池の前記バラツキ量以上に演算する、請求項1~13のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【請求項15】
各前記セル電池について、当該セル電池の蓄電量から蓄電量が最小の前記セル電池の蓄電量を減じたものを、当該セル電池のバラツキ量(ΔQ)として、
前記バラツキ演算部は、前記電池パックの放電時において、蓄電量が前記特定蓄電量になったと特定されない前記セル電池があった場合、当該セル電池の前記バラツキ量をゼロ以下に演算する、請求項1~14のいずれか1項に記載の電池監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセル電池の直列接続体を有する電池パックを監視する電池監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池監視装置の中には、セル電池の電圧に基づいて蓄電量等を演算するものがある。そのような技術を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池パックの充電中や電力使用中においては、セル電池の内部抵抗に電流が流れるため、セル電池の真の電圧、すなわちOCV(開回路電圧)を検出することができない。そのため、電池パックの充電中や電力使用中においては、セル電池の電圧に基づいて蓄電量を演算するのが難しい。
【0005】
さらにセル電池の中には、蓄電量変化に対する電圧変化が小さいプラトー領域を含むものがある。そのプラトー領域においては、セル電池の電圧に基づいて蓄電量を演算するのがさらに難しい。そして、セル電池の蓄電量を演算するのが難しい場合には、当然、セル電池どうしの間での蓄電量のバラツキを演算するのも難しい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、セル電池の電圧に基づいて蓄電量を演算するのが難しい状況下においても、セル電池どうしの間での蓄電量のバラツキを演算できるようにすることを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電池監視装置は、複数のセル電池の直列接続体を有する電池パックを監視する。前記電池監視装置は、インピーダンス検出部と蓄電量特定部とバラツキ演算部とを有する。
【0008】
前記インピーダンス検出部は、前記電池パックの蓄電量が時間経過に伴い変化するパック蓄電量変化時において、複数の前記セル電池のインピーダンスを検出する。前記蓄電量特定部は、検出されている前記インピーダンスの変化傾向の変化に基づいて、前記セル電池の蓄電量が特定蓄電量になったと特定する。前記バラツキ演算部は、前記セル電池どうしの間での、蓄電量が前記特定蓄電量になったと特定された特定タイミングの違いに基づいて、前記セル電池どうしの間での蓄電量のバラツキを演算する。
【0009】
本発明では、以下の効果が得られる。電池パックの充電時や電力使用時等のパック蓄電量変化時には、各セル電池において、蓄電量が特定蓄電量になった時にインピーダンスの変化傾向が変化する。そこで、本発明では、当該変化傾向の変化に基づいてセル電池の蓄電量が特定蓄電量になったと特定する。その特定タイミングの違いに基づいて、セル電池どうしの間での蓄電量のバラツキを演算する。そのため、セル電池の電圧に基づいて蓄電量を演算するのが難しい状況下においても、セル電池のインピーダンスに基づいて、セル電池どうしの間での蓄電量のバラツキを演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の電池監視装置及びその周辺を示す回路図
【
図2】電池パックに交流電圧が印加された時の電池電流の波形を示すグラフ
【
図3】セル電池の蓄電量の増加に伴う各値の推移を示すグラフ
【
図4】充電時間の経過に伴う各値の推移を示すグラフ
【
図7】第2実施形態において、放電時間の経過に伴う各値の推移を示すグラフ
【
図8】電力使用時における制御を示すフローチャート
【
図9】第3実施形態において、充電時における制御を示すフローチャート
【
図10】電力使用時における制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電池監視装置96及びその周辺を示す回路図である。電動車両90には、走行用モータや車載機器等の負荷91と、負荷91に給電する電池パック93と、電池パック93を監視する電池監視装置96とが搭載されている。電動車両90は、エンジンを備ないものであってもよいし、エンジンを備えるプラグインハイブリッド車等であってもよい。以下では、「電気的に接続」されていることを、単に「接続」されているという。
【0013】
電池パック93は、セル電池Bの直列接続体を有する。各セル電池Bは、LFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)である。電池パック93は負荷91に接続されている。そして、電池パック93を充電する充電時には、電池パック93に外部電源80が接続される。外部電源80は、電池パック93が満充電になる直前までCC充電(定電流充電)を行い、当該直前にCV充電(定電圧充電)に切り替える。
【0014】
以下では、電池パック93に流れる電流を「電池電流I」という。よって、電池電流Iは、各セル電池Bに流れる電流でもある。また以下では、電池電流Iを時間積分したものを「電流積算値∫Idt」いう。そして、セル電池Bの電圧を「セル電圧V」といい、セル電池Bに蓄えられている電荷(Ah:アンペアアワー)を「セル蓄電量Q」という。そして、セル蓄電量Qが最小のセル電池Bの当該セル蓄電量Qを「最小セル蓄電量Qmin」という。そして、セル蓄電量Qから最小セル蓄電量Qminを減じたもの(Q-Qmin)を「バラツキ量ΔQ」という。
【0015】
また以下では、満充電時のセル蓄電量Qを「セル蓄電容量Qf」といい、セル蓄電容量Qfに対するセル蓄電量Qの割合(Q/Qf)を「セルSOC」という。なお、SOCは、「State Of Charge」の略である。そして、初期(新品時)のセル蓄電容量Qfを「初期セル蓄電容量Qfo」といい、初期セル蓄電容量Qfoに対する現在のセル蓄電容量Qfの割合(Qf/Qfo)を「セルSOH」という。なお、SOHは、「State Of Health」の略である。
【0016】
また以下では、電池パック93に蓄えられている電荷を「パック蓄電量ΣQ」といい、満充電時のパック蓄電量ΣQを「パック蓄電容量ΣQf」といい、初期(新品時)のパック蓄電容量ΣQfを「初期パック蓄電容量ΣQfo」という。そして、初期パック蓄電容量ΣQfoに対する現在のパック蓄電容量ΣQfの割合(ΣQf/ΣQfo)を「パックSOH」という。
【0017】
また以下では、交流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」という。そのセルインピーダンスZは、セル電池Bの内部に存在する抵抗や容量成分やインダクタ成分等による。そして、セルインピーダンスZを時間微分したものを「インピーダンス変化Zd」といい、そのインピーダンス変化Zdをさらに時間微分したものを「インピーダンス2回微分Zdd」という。つまり、インピーダンス2回微分Zddは、セルインピーダンスZの変化傾向の変化を示すものである。
【0018】
電池監視装置96は、電流センサ10と電圧センサ20とBMU30とを有する。なお、BMUは、「Battery Management Unit」の略である。電流センサ10は、電池パック93に対する配線の電流を計測することにより、電池電流Iを計測する。電圧センサ20は、電池パック93の両端子と、電池パック93内において直列に隣り合う各2つのセル電池Bどうしの間とに接続されている。つまり、電圧センサ20は、各セル電池Bの両端子に接続されている。電圧センサ20は、マルチプレクサ等を有しており、各セル電池Bの電圧を計測可能に構成されている。
【0019】
BMU30は、CPU、ROM、RAM等を有するECU(電子制御ユニット)であって、電流センサ10により計測された電池電流Iと、電圧センサ20により計測されたセル電圧Vとに基づいて、電池パック93を監視する。
【0020】
次に、
図3、
図4を参照しつつ、本実施形態で解決すべき課題とその解決手段の概要とについて説明する。
【0021】
図3(a)は、セル蓄電量Q(横軸)とセル電圧V(縦軸)との関係を示すグラフである。前述の通り、各セル電池Bは、LFPバッテリーである。その特性上、各セル電池Bには、セル蓄電量Q(横軸)の変化に対するセル電圧V(縦軸)の変化が所定基準よりも小さいプラトー領域が存在する。以下では、セル蓄電量Qがプラトー領域内である時を「プラトー領域時」といい、セル蓄電量Qがプラトー領域外である時を「非プラトー領域時」という。プラトー領域時には、セル電圧V(縦軸)に基づいてセル蓄電量Q(横軸)を演算することが難しい。そのため、バラツキ量ΔQを演算するのも難しい。
【0022】
そこで、本実施形態では、プラトー領域時には、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算する。そのメカニズムについて以下に説明する。以下では、セル電池Bでの発熱を「セル発熱」といい、セル電池Bの温度を「セル温度T」といい、セル電圧Vをセル温度Tで微分したもの「発熱係数dV/dT」という。
【0023】
セル発熱は、電池電流Iにより発生するジュール発熱と、次に示す反応熱との和になる。その反応熱は、セル温度Tと電池電流Iと発熱係数dV/dTとの積(T×I×dV/dT)である。そのことから、発熱係数dV/dTが大きいほど、セル発熱が大きくなる。
【0024】
図3(b)は、セル蓄電量Q(横軸)と発熱係数dV/dT(縦軸)との関係を示すグラフである。セル蓄電量Qが所定の高発熱区間(QL~QU)内の時に、発熱係数dV/dTが大きくなり、セル発熱が大きくなる。以下では、その高発熱区間(QL~QU)の下限となる蓄電量を「区間下限量QL」といい、高発熱区間(QL~QU)の上限となる蓄電量を「区間上限量QU」という。
【0025】
そして、LFPバッテリーであるセル電池Bでは、セル温度Tが高いほどセルインピーダンスZが小さくなる。そのため、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内の時は、セル発熱が大きくなりセル温度Tの上昇が大きくなることなり、セルインピーダンスZの減少が大きくなる。
【0026】
図4(a)は、電池パック93の充電時におけるセルインピーダンスZの推移を示すグラフであり、
図4(b)は、充電時におけるセル蓄電量Qの推移を示すグラフである。
図4(b)に示すように、セル電池Bが略空の状態から充電を開始した場合、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達するまでの間は、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)外であるので、セル発熱は小さくセル温度Tの上昇は緩やかである。そのため、
図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少は緩やかである。
【0027】
その後、
図4(b)に示すように、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入ることにより、
図3(b)に示す発熱係数dV/dTが急増してセル発熱が急増する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に促進されて、
図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に促進される。以下では、このようにセルインピーダンスZの減少が急激に促進されるタイミングを「促進タイミングtP」という。その促進タイミングtPで、セル蓄電量Qが
図4(b)に示す区間下限量QLになったと特定できる。
【0028】
その後、
図4(b)に示すように、充電によりセル蓄電量Qが区間上限量QUに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、
図3(b)に示す発熱係数dV/dTが急減する。それにより、セル発熱が急減して、セル温度Tの上昇が急激に抑制されることにより、
図4(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。以下では、このようにセルインピーダンスZの減少が急激に抑制されるタイミングを「抑制タイミングtS」という。その抑制タイミングtSで、セル蓄電量Qが
図4(b)に示す区間上限量QUになったと特定できる。
【0029】
そのため、セル蓄電量Qを例えば電流積算値∫Idt等に基づいて演算する場合、セル蓄電量Qの誤差を、セル蓄電量Qが区間下限量QLに達したタイミングと、区間上限量QUに達したタイミングとでリセットすることができる。つまり、プラトー領域時等においても、セル蓄電量Qを特定することができる。そして、セル電池Bどうしの間での、それらの特定のタイミングの違いに基づいて、バラツキ量ΔQを演算できる。
【0030】
以下では、促進タイミングtPと抑制タイミングtSとを、まとめて「特定タイミング(tP,tS)といい、区間下限量QLと区間上限量QUとを、まとめて「特定蓄電量(QL,QU)」という。
【0031】
次に、再び
図1を参照しつつ、以上に示したセルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算のための構成について説明する。当該構成として、電池監視装置96は、さらに交流印加回路40を有すると共に、BMU30内に、インピーダンス検出部31と蓄電量特定部32とバラツキ演算部33とを有する。そしてさらに、各セル電池Bが、負極に黒鉛を有すると共に、正極にオリビン構造を有する。なお、オリビン構造は、六方密充填酸素骨格を持つ結晶構造である。
【0032】
セル電池Bが負極に黒鉛を有するのは、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内の時に、発熱係数dV/dTが顕著に大きくなるからである。他方、正極にオリビン構造を有するのは、正極での発熱係数dV/dTの変化が抑制されるからである。つまり、負極での発熱係数dV/dTの変化に対して、正極での発熱係数dV/dTの変化がノイズとして重畳するのを抑制できるからである。
【0033】
交流印加回路40の一方の端子は、電池パック93の正極端子に接続され、交流印加回路40の他方の端子は、電池パック93の負極端子に接続されている。そして、交流印加回路40は、電池パック93のCC充電(定電流充電)中に電池パック93に対して交流電圧を印加する。
【0034】
図2は、CC充電中における電池電流Iの波形を示すグラフである。CC充電中に電池パック93に対して交流電圧が印加されると、充電電流であるCC電流(定電流)に交流電流が重畳される。なお、このようにCC充電中に交流電圧を印加するのは、CC充電中なら充電電流が一定なので、充電電流の変化による交流ノイズが、交流電流に重畳する心配がないからである。
【0035】
図1に示すインピーダンス検出部31は、電池パック93のCC充電中において交流印加回路40により交流電圧が印加されているときの、各セル電圧V及び電池電流Iに基づいて、各セルインピーダンスZを演算する。具体的には、例えば、セル電圧Vにおける交流成分の実効値を、電池電流Iにおける交流成分の実効値で割った値(交流抵抗)を、セルインピーダンスZとして演算する。
【0036】
蓄電量特定部32は、セル蓄電量Qについて、特定タイミング(tP,tS)で特定蓄電量(QL,QU)になったと特定する。なお、本実施形態では、少なくとも特定蓄電量(QL,QU)の一方である区間上限量QUが、プラトー領域に含まれている。
【0037】
具体的には、蓄電量特定部32は、開始時及び終了時を除くCC充電中において、検出されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に促進されるタイミングを、促進タイミングtPと特定する。より具体的には、開始時及び終了時を除くCC充電中において、インピーダンス2回微分Zddが、負の促進判定値ZddPを下回ったことを条件に、促進タイミングtPであると判定する。その促進タイミングtPで、セル蓄電量Qが区間下限量QLになったと特定する。
【0038】
また、蓄電量特定部32は、開始時及び終了時を除くCC充電中において、演算されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に抑制されるタイミングを、抑制タイミングtSと特定する。より具体的には、開始時及び終了時を除くCC充電中において、インピーダンス2回微分Zddが、正の抑制判定値ZddSを上回ったことを条件に、抑制タイミングtSであると判定する。その抑制タイミングtSで、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定する。
【0039】
バラツキ演算部33は、各セル電池Bについて、特定タイミング(tP,tS)以降における電流積算値∫Idtをバラツキ量ΔQとして演算する。よって、具体的には、促進タイミングtP以降においては、その促進タイミングtP以降における電流積算値∫Idtをバラツキ量ΔQとして演算し、抑制タイミングtS以降においては、その抑制タイミングtS以降における電流積算値∫Idtをバラツキ量ΔQとして演算する。以上により、バラツキ演算部33は、セル電池Bどうしの間での特定タイミング(tP,tS)の違いに基づいて、バラツキ量ΔQを演算する。
【0040】
なお、以上には、セルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算について説明したが、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な状況下では、BMU30は、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算して、それらのセル蓄電量Qに基づいてバラツキ量ΔQを演算する。その演算手法自体については、公知のものでよいため、詳細な説明は省略する。
【0041】
なお、本実施形態では、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算する際には、セル電圧Vに基づくバラツキ量ΔQの演算を無効にする。ただし、これに代えて、セルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算及びセル電圧Vに基づくバラツキ量ΔQの演算の両方を、試みるようにしてもよい。
【0042】
次に、以上により演算されたバラツキ量ΔQの活用について説明する。その活用のための構成として、BMU30は、さらに均等化要否判定部36と、故障判定部37と、均等化量演算部38とを有する。
【0043】
均等化要否判定部36は、各セル電池Bに対して、均等化が必要か否かの均等化要否判定を実施する。その均等化要否判定では、バラツキ量ΔQが所定の均等化判定バラツキ量ΔQEよりも大きいことを条件に均等化要と判定する。
【0044】
このとき、均等化要否判定部36は、セル電池Bどうしの間でのセルSOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを大きく設定する。さらにこのとき、均等化要否判定部36は、パックSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを小さく設定する。これらの理由については後述する。
【0045】
故障判定部37は、電池パック93が故障しているか否かの故障判定を実施する。その故障判定では、バラツキ量ΔQが所定の故障判定バラツキ量ΔQXよりも大きいことを条件に故障と判定する。
【0046】
このとき、故障判定部37は、セル電池Bどうしの間でのセルSOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを大きく設定する。さらにこのとき、故障判定部37は、パックSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを小さく設定する。これらの理由についても後述する。
【0047】
均等化量演算部38は、各セル電池Bについて、バラツキ量ΔQに基づいて均等化量を演算する。具体的には、例えばバラツキ量ΔQ自体を均等化量として設定してもよいし、バラツキ量ΔQに1未満の所定値を乗じたものを均等化量としてもよいし、バラツキ量ΔQから所定値を減じたものを均等化量としてもよい。
【0048】
そして、電池監視装置96は、演算された均等化量に基づいて、セル蓄電量Qの均等化を行う。つまり、各セル電池Bについて、それぞれ演算された均等化量だけ放電する。その放電手法自体については、公知のものでよいため、詳細な説明は省略する。
【0049】
図5は、電池パック93のCC充電時における電池監視装置96による制御を示すフローチャートである。このフローはセル電池B毎に実施され、且つ所定周期毎に繰り返し実施される。
【0050】
まず、S101において、インピーダンス検出部31により、セルインピーダンスZを検出する。次くS102において、蓄電量特定部32により、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されているか否かを判定する。急激に促進されていると判定した場合(S102:YES)、S103に進み、セル蓄電量Qが区間下限量QLになったと特定してから、S106に進む。なお、このとき、セル蓄電量Qの演算値自体についても、区間下限量QLに更新することが好ましいが、更新しなくてもよい。他方、S102で急激に促進されていると判定しない場合(S102:NO)、S104に進む。
【0051】
そのS104では、蓄電量特定部32により、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されているか否かを判定する。急激に抑制されていると判定した場合(S104:YES)、S105に進み、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定してから、S106に進む。なお、このとき、セル蓄電量Qの演算値自体についても、区間上限量QUに更新することが好ましいが、更新しなくてもよい。他方、S104で急激に抑制されていると判定しない場合(S104:NO)、そのままS106に進む。
【0052】
S106では、バラツキ演算部33により、各セル電池Bのセル蓄電量Qについて特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できたか否か判定する。つまり、各セル電池Bのセル蓄電量Qについて区間下限量QLになったと特定すること、及び各セル電池Bのセル蓄電量Qについて区間上限量QUになったと特定することのうちのいずれかを達成できたか否か判定する。いずれかのセル電池Bについて、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できていないと判定した場合(S106:NO)、フローを終了する。他方、各セル電池Bについて、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できたと判定した場合(S106:YES)、S107に進む。
【0053】
そのS107では、特定タイミング(tP,tS)以降における電流積算値∫Idtを、バラツキ量ΔQとして演算する。
【0054】
続くS108では、均等化要否判定部36により、バラツキ量ΔQが均等化判定バラツキ量ΔQEよりも大きいか否か判定する。均等化判定バラツキ量ΔQEよりも小さいと判定した場合(S108:NO)、S109に進み、均等化不要と判定してから、フローを終了する。他方、S108で、バラツキ量ΔQが均等化判定バラツキ量ΔQEよりも大きいと判定した場合(S108:YES)、S110に進む。
【0055】
そのS110では、故障判定部37により、バラツキ量ΔQが故障判定バラツキ量ΔQXよりも小さいか否か判定する。故障判定バラツキ量ΔQXよりも大きいと判定した場合(S110:NO)、S112に進み、故障と判定してから、フローを終了する。他方、S110で、バラツキ量ΔQが故障判定バラツキ量ΔQXよりも小さいと判定した場合(S110:YES)、S111に進む。
【0056】
そのS111では、均等化量演算部38により、バラツキ量ΔQに基づいて均等化量を演算すると共に、BMU30により、その均等化量に基づいて均等化を実施してから、フローを終了する。
【0057】
図6は、電池パック93のCC充電時における各値の推移をグラフである。以下では、所定のタイミング(t1~t4)を、時系列順に「第1タイミングt1」「第2タイミングt2」「第3タイミングt3」「第4タイミングt4」という。
【0058】
ここでは、
図6(a)に示すように、第1タイミングt1から第3タイミングt3までCC充電が実施されたものとする。そして、そのCC充電により、各セル蓄電量Qが、プラトー領域外から
図6(b)に示すプラトー領域内になり、且つ、
図6(c)に示す高発熱区間(QL~QU)内から高発熱区間(QL~QU)外になるまで、電池パック93が充電されたものとする。
【0059】
このとき、
図6(b)に示すように、充電開始時である第1タイミングt1以降、しばらくの間、セル蓄電量Qがプラトー領域外であるため、時間tの経過に伴いセル電圧Vが大きくなる。しかし、第2タイミングt2で、セル蓄電量Qがプラトー領域に差し掛かると、それ以降はセル電圧Vが略横ばいになる。
【0060】
また、
図6(c)に示すように、充電開始時である第1タイミングt1以降、しばらくの間、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内であるため、セル発熱が顕著になることにより、セルインピーダンスZが減少が顕著になる。しかし、所定のタイミング(tS(B))でセル蓄電量Qが区間上限量QUに達すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、セル発熱が急減し、セルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。このとき、
図6(d)に示すように、インピーダンス2回微分Zddが一瞬大きくなり、抑制判定値ZddSを上回ることにより、抑制タイミングtS(B)であると判定される。
【0061】
この抑制タイミングtS(B)から、
図6(e)に示すように、演算されるバラツキ量ΔQが増加していく。この抑制タイミングtS(B)から、当該抑制タイミングtS(B)以降の電流積算値∫Idtが増加していくからである。そして、このバラツキ量ΔQの増加は、最小電圧セル電池Bminの抑制タイミングtS(Bmin)が特定された時点で止まる。これにより、バラツキ量ΔQが特定される。
【0062】
このとき、
図6(e)に示すように、バラツキ量ΔQが、均等化判定バラツキ量ΔQEよりも大きく、且つ故障判定バラツキ量ΔQXよりも小さいと、その後の第4タイミングt4で、
図6(a)に示すように、均等化が開始される。これにより、
図6(e)に示すように、バラツキ量ΔQが減少していく。
【0063】
以下に本実施形態の効果をまとめる。
【0064】
電池パック93の充電時には、電池パック93の充電時には、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になった時にインピーダンスの変化傾向が変化する。そこで、インピーダンス検出部31は、電池パック93の充電時に各セルインピーダンスZを演算する。蓄電量特定部32は、それらのセルインピーダンスZの変化傾向の変化であるインピーダンス2回微分Zddに基づいて、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定する。バラツキ演算部33は、セル電池Bどうしの間でのそれらの特定タイミング(tP,tS)の違いに基づいて、バラツキ量ΔQを演算する。そのため、プラトー領域時等、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい状況下においても、特定タイミング(tP,tS)の違いに基づいて、バラツキ量ΔQを演算できる。
【0065】
その演算されたバラツキ量ΔQに基づいて、均等化要否判定部36が均等化要否判定を実施し、故障判定部37が故障判定を実施し、均等化量演算部38が均等化量を演算する。そのため、プラトー領域時等であっても、問題なく均等化要否判定や故障判定や均等化量演算を実施できる。
【0066】
また、バラツキ演算部33は、特定タイミング(tP,tS)以降における電流積算値∫Idtに基づいてバラツキ量ΔQを演算する。そのため、単に特定タイミング以降の経過時間に基づいてバラツキ量ΔQを演算する場合に比べて、精度よくバラツキ量ΔQを演算できる。
【0067】
また、交流印加回路40は、電池パック93に交流電圧を印加する。そのため、セル電池Bが有する交流抵抗を、セルインピーダンスZとして計測できる。さらに、交流印加回路40は、CC充電中に交流電圧を電池パック93に印加する。そのため、その交流電圧による交流電流に、充電電流の変化による交流ノイズが重畳する心配がない。そのため、インピーダンス検出部31は、精度良くセルインピーダンスZを検出できる。そのため、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定して、精度よくバラツキ量ΔQを演算できる。
【0068】
また、バラツキ演算部33は、CC充電時におけるプラトー領域時等に、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算するだけでなく、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時にも、セル電圧Vに基づいてバラツキ量ΔQを演算する。そのため、CC充電中のみならず、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時においても、バラツキ量ΔQを演算できる。
【0069】
また、セル電池Bは、負極に黒鉛を有する。その黒鉛により、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)内になった時の発熱係数dV/dTが顕著に大きくなる。そのため、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入った時のセルインピーダンスZの減少の促進や、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱した時のセルインピーダンスZの減少の抑制が顕著になる。そのため、この点でも、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定して、精度よくバラツキ量ΔQを演算できる。
【0070】
しかも、セル電池Bは、正極にオリビン構造を有する。そのオリビン構造により、正極での発熱係数dV/dTの変化が抑制される。それにより、負極での発熱係数dV/dTの変化に対して、正極での発熱係数dV/dTの変化がノイズとして重畳するのを抑制できる。そのため、この点でも、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定して、精度よくバラツキ量ΔQを演算できる。
【0071】
また、均等化要否判定部36は、セルSOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを大きく設定する。なぜなら、セルSOHのバラツキが大きければ、セルSOCのバラツキがさほど大きくなくても、セル蓄電量Qのバラツキ、つまりバラツキ量ΔQは大きくなってしまう。このような状況で、単にバラツキ量ΔQが均等化判定バラツキ量ΔQEよりも大きいことに基づいて、均等化を実施すれば、セル蓄電量Qのバラツキは収まっても、逆にセルSOCのバラツキが大きくなるといった弊害が起こり得る。その点、均等化要否判定部36は、このようにセルSOHのバラツキが大きい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを大きく設定するので、その分だけ均等化要と判定され難くして、このような弊害を抑制できる。
【0072】
また、故障判定部37は、セルSOHのバラツキが所定基準よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを大きく設定する。なぜなら、前述の通り、セルSOHのバラツキが大きければ、セルSOCのバラツキがさほど大きくなくても、セル蓄電量Qのバラツキであるバラツキ量ΔQは大きくなってしまう。このような状況で、単にバラツキ量ΔQが故障判定バラツキ量ΔQXよりも大きいことに基づいて、故障と判定すれば、セルSOCのバラツキがさほど大きくなくても、故障と判定してしまうといった弊害が起こり得る。その点、故障判定部37は、このようにセルSOHのバラツキが大きい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを大きく設定するので、その分だけ故障と判定され難くして、このような弊害を抑制できる。
【0073】
また、均等化要否判定部36は、パックSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを小さく設定する。なぜなら、電池パック93が劣化してパックSOH(ΣQf/ΣQfo)が小さくなれば、パック蓄電容量ΣQfが小さくなることにより、セル蓄電量Qのバラツキであるバラツキ量ΔQも小さくなり易くなる。そのため、バラツキ量ΔQが均等化判定バラツキ量ΔQEを超え難くなり、均等化要と判定され難くなるといった弊害が起こり得る。その点、均等化要否判定部36は、このようにパックSOHが小さい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEを小さく設定するので、その分だけ均等化要と判定され易くして、このような弊害を抑制できる。
【0074】
さらに、故障判定部37は、パックSOHが所定基準よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを小さく設定する。なぜなら、前述の通り、電池パック93が劣化してパックSOH(ΣQf/ΣQfo)が小さくなれば、パック蓄電容量ΣQfが小さくなることにより、セル蓄電量Qのバラツキであるバラツキ量ΔQも小さくなり易くなる。そのため、バラツキ量ΔQが故障判定バラツキ量ΔQXを超え難くなり、故障と判定され難くなるといった弊害が起こり得る。その点、故障判定部37は、このようにパックSOHが小さい場合の方が、故障判定バラツキ量ΔQXを小さく設定するので、その分だけ故障と判定され易くして、このような弊害を抑制できる。
【0075】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。以下の実施形態においては、それ以前の実施形態のものと同一の又は対応する部材等について同一の符号を付する。本実施形態については、第1実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同一又は類似の部分については、適宜説明を省略する。
【0076】
本実施形態では、CC充電時のみならず電力使用時(放電時)にも、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算する。そのメカニズムについて以下に説明する。
【0077】
図7(a)は、電池パック93の電力使用時におけるセルインピーダンスZの推移を示すグラフであり、
図7(b)は、電力使用時におけるセル蓄電量Qの推移を示すグラフである。
図7(b)に示すように、セル電池Bが略満充電の状態から電力使用を開始した場合、セル蓄電量Qが区間上限量QUに減少するまでの間は、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)外であるので、セル発熱は小さい。そのため、
図7(a)に示すセルインピーダンスZの減少は緩やかである。
【0078】
その後、
図7(b)に示すように、電力使用によりセル蓄電量Qが区間上限量QUにまで減少すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)に入ることにより、発熱係数dV/dTが急増してセル発熱が急増する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に促進されて、
図7(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に促進される。その促進タイミングtPで、セル蓄電量Qが
図7(b)に示す区間上限量QUになったと特定できる。よって、前述の充電時には、促進タイミングtPで、セル蓄電量Qが区間下限量QLになったと特定できるのに対して、電力使用時には、促進タイミングtPで、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定できる点で相違している。
【0079】
その後、
図7(b)に示すように、電力使用によりセル蓄電量Qが区間下限量QLにまで減少すると、セル蓄電量Qが高発熱区間(QL~QU)から脱することにより、発熱係数dV/dTが急減してセル発熱が急減する。それにより、セル温度Tの上昇が急激に抑制されて、
図7(a)に示すセルインピーダンスZの減少が急激に抑制される。その抑制タイミングtSで、セル蓄電量Qが
図7(b)に示す区間下限量QLになったと特定できる。よって、前述の充電時には、抑制タイミングtSで、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定できるのに対して、電力使用時には、抑制タイミングtSで、セル蓄電量Qが区間下限量QLなったと特定できる点で相違している。
【0080】
そのため、セル蓄電量Qの誤差を、セル蓄電量Qが区間上限量QUにまで減少したタイミングと、区間下限量QLにまで減少したタイミングとでリセットすることができる。つまり、プラトー領域時等においても、セル蓄電量Qを特定することができる。そして、セル電池Bどうしの間での、それらの特定のタイミングの違いに基づいて、バラツキ量ΔQを演算することができる。
【0081】
次に、第1実施形態と同じ
図1を参照しつつ、電力使用時におけるバラツキ量ΔQの演算のための構成について説明する。
【0082】
交流印加回路40は、CC充電中のみならず電力使用中にも、電池パック93に対して交流電圧を印加する。インピーダンス検出部31は、各セル電池Bについて、その電力使用中における交流電圧が印加されているときの、セル電圧V及び電池電流Iに基づいて、セルインピーダンスZを演算する。
【0083】
蓄電量特定部32は、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、検出されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に促進されるタイミングを、促進タイミングtPと特定する。より具体的には、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、インピーダンス2回微分Zddが、負の促進判定値ZddPを下回ったことを条件に、促進タイミングtPであると判定する。その促進タイミングtPに、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定する。
【0084】
また、蓄電量特定部32は、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、検出されているセルインピーダンスZの減少が所定基準以上急激に抑制されるタイミングを、抑制タイミングtSと特定する。より具体的には、電力使用量が所定基準以上安定している状態において、インピーダンス2回微分Zddが、正の抑制判定値ZddSを上回ったことを条件に、抑制タイミングtSであると判定する。その抑制タイミングtSに、セル蓄電量Qが区間下限量QLになったと特定する。
【0085】
図8は、電池パック93の電力使用時における電池監視装置96による制御を示すフローチャートである。このフローはセル電池B毎に実施され、且つ所定周期毎に繰り返し実施される。このフローは、
図5に示すCC充電時のフローと比較して、S203で、セル蓄電量Qが、区間下限量QLではなく区間上限量QUになったと特定し、S205で、セル蓄電量Qが、区間上限量QUではなく区間下限量QLになったと特定する点で相違している。
【0086】
具体的には、まず、S201において、セルインピーダンスZを演算する。次くS202において、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に促進されていると判定した場合(S202:YES)、S203に進み、セル蓄電量Qが区間上限量QUになったと特定してから、S206に進む。他方、S202で急激に促進されていると判定しない場合(S202:NO)、S204に進む。
【0087】
そのS204で、セルインピーダンスZの減少が所定基準以上、急激に抑制されていると判定した場合(S204:YES)、S205に進み、セル蓄電量Qが区間下限量QLになったと特定してから、S206に進む。他方、S204で急激に抑制されていると判定しない場合(S204:NO)、そのままS206に進む。S206~S212については、
図5に示すCC充電時のフローのS106~S112と同様である。
【0088】
本実施形態によれば、充電中のみならず電力使用中においても、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算できる。
【0089】
[第3実施形態]
次に第3実施形態について説明する。本実施形態については、第2実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明し、第2実施形態と同一又は類似の部分については、説明を適宜省略する。
【0090】
図9は、電池パック93のCC充電時における電池監視装置96の制御を示すフローチャートである。この
図9のフローチャートは、
図5のフローチャートと比較して、S106のみが相違している。すなわち、第1,第2実施形態のS106では、各セル電池Bについてセル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できたことを条件に、次のS107に進んでいる。それに対して、本実施形態のS106では、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できないセル電池Bがあっても、所定時間経過した場合には、次のS107に進む。
【0091】
以下では、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できたセル電池Bを、「特定可能なセル電池B」といい、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できなかったセル電池Bを「特定不能なセル電池B」という。そして、特定可能なセル電池Bの中でバラツキ量ΔQが最大のものの当該バラツキ量ΔQを「特定可能な最大のバラツキ量ΔQ」という。
【0092】
S107でのバラツキ量ΔQの演算では、特定不能なセル電池Bのバラツキ量ΔQを、特定可能な最大のバラツキ量ΔQ以上と判定する。なぜなら、特定不能なセル電池Bについては、CC充電の開始時点で既に、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)を超えていたと考えられるからである。具体的にはこの場合、例えば特定不能なセル電池Bのバラツキ量ΔQについては、特定可能な最大のバラツキ量ΔQと同じに設定する。それによれば、S111での均等化において、特定不能なセル電池Bの均等化量は、特定可能な最大のバラツキ量ΔQに係るセル電池Bの均等化量と同じに設定される。
【0093】
図10は、電池パック93の電力使用時における電池監視装置96の制御を示すフローチャートである。この
図10のフローチャートは、
図8のフローチャートと比較して、S206のみが相違している。すなわち、第2実施形態のS206では、各セル電池Bについてセル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できたことを条件に、次のS207に進んでいる。それに対して、本実施形態のS206では、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できないセル電池Bがあっても、所定時間経過した場合には、次のS207に進む。
【0094】
そのS207でのバラツキ量ΔQの演算では、特定不能なセル電池Bのバラツキ量ΔQを、ゼロ以下と判定する。なぜなら、特定不能なセル電池Bについては、電力使用の開始時点で既に、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)を切っていたと考えられる。そのため、特定不能なセル電池Bについては、セル蓄電量Qが、演算される最小セル蓄電量Qmin以下であると考えられるからである。具体的にはこの場合、例えば特定不能なセル電池Bのバラツキ量ΔQについては、ゼロと設定する。それによれば、S209での均等化要否判定において、特定不能なセル電池Bは、均等化不要(S210)と判定されることになる。
【0095】
以上の通り、本実施形態によれば、セル蓄電量Qが特定蓄電量(QL,QU)になったと特定できないセル電池Bがあった場合においても、バラツキ量ΔQを演算できる。
【0096】
[他の実施形態]
以上に示した実施形態は、例えば次のように変更して実施できる。
【0097】
第1~第3実施形態では、セル電池BがLFPバッテリーであるが、これに代えて、その他の、プラトー領域を有するバッテリーにしてもよいし、プラトー領域を有しないバッテリーにしてもよい。すなわち、セル電池Bがプラトー領域を有しない場合であっても、充電中や電力使用中はOCVを取得できないので、プラトー領域時ほどではないにしろ、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい。よって、セル電池Bがプラトー領域を有しない場合であっても、セル電圧Vに基づいてセル蓄電量Qを演算するのが難しい際に、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算できるといった効果は奏する。
【0098】
第1~第3実施形態では、セル蓄電量Qの変化に対するセル電圧Vの変化が所定基準以上小さい領域を「プラトー領域」とし、セル蓄電量Qがプラトー領域内の蓄電量である時を「プラトー領域時」としている。これに代えて、セル電圧Vが所定範囲内にあるときや、セル蓄電量Qが所定範囲内にあるときを、「プラトー領域時」としてもよい。
【0099】
第1~第3実施形態では、セルインピーダンスZを時間微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに時間微分したのもを「インピーダンス2回微分Zdd」としている。これに代えて、セルインピーダンスZを電流積算値∫Idtで微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに電流積算値∫Idtで微分を「インピーダンス2回微分Zdd」としてもよい。この態様によれば、電流が一定でない状況下においても、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを判定できる。
【0100】
第1~第3実施形態では、セル電池Bに蓄えられている蓄電荷(Ah:アンペアアワー)を「セル蓄電量Q」としている。これに代えて、セル電池Bに蓄えられている蓄電エネルギー(Wh:ワットアワー)を「セル蓄電量」としてもよい。その場合には、バラツキ演算部33は、電流積算値∫Idtを用いて電荷換算のバラツキ量ΔQ(Ah)を演算する代わりに、電力積算値(Wh)を用いてエネルギー換算のバラツキ量(Wh)を演算するようにすればよい。なお、電力積算値は、セル電圧Vと電池電流Iとの積の時間積分値である。
【0101】
また、この場合において、セルインピーダンスZを電力積算値で微分したものを「インピーダンス変化Zd」とし、そのインピーダンス変化Zdをさらに電力積算値で微分したものを「インピーダンス2回微分Zdd」としてもよい。この態様によれば、電力が一定でない状況下においても、精度良く促進タイミングtPや抑制タイミングtSを特定できる。
【0102】
第1~第3実施形態では、電池監視装置96は、均等化要否判定部36と故障判定部37と均等化量演算部38とを有する。これに代えて、電池監視装置96は、これら3つのうちのいずれか2つのみを有していてもよし、いずれか1つのみを有していてもよいし、いずれも有していなくてもよい。
【0103】
第1~第3実施形態では、各セル電池Bを最小セル蓄電量Qminを基準に放電することにより均等化を実施している。これに代えて、相対的にセル蓄電量Qが高いセル電池Bの電力により、相対的にセル蓄電量Qが低いセル電池Bを充電することにより均等化を実施してもよい。
【0104】
第1~第3実施形態では、バラツキ演算部33は、特定タイミング(tP,tS)以降における電流積算値∫Idtに基づいて、バラツキ量ΔQを演算している。これに代えて、例えばCC充電中において、単に特定タイミング(tP,tS)以降における時間tに基づいて、バラツキ量ΔQを演算してもよい。
【0105】
第1~第3実施形態では、電池監視装置96は、交流印加回路40を有する。これに代えて、例えば、セル電池Bごとに放電スイッチをON、OFFすることにより、セル電池Bごとに特定の電流変化を発生させるようにしてもよい。そして、そのときのセル電池Bのインピーダンス(交流抵抗)をセルインピーダンスZとして検出するようにしてもよい。
【0106】
第1~第3実施形態では、交流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」としている。これに代えて、直流に対するセル電池Bのインピーダンスを「セルインピーダンスZ」としてもよい。
【0107】
第1、第2実施形態では、外部電源80は、CC充電とCV充電とを実施するものであり、交流印加回路40は、CC充電中に交流電圧を電池パック93に印加する。これに代えて、例えば外部電源80を、CP充電(定電力充電)とCV充電とを実施するものにして、交流印加回路40を、CP充電中に交流電圧を電池パック93に印加するものにしてもよい。
【0108】
第1~第3実施形態では、セルインピーダンスZに基づいてバラツキ量ΔQを演算しているのに加え、非プラトー領域時且つOCVを計測可能な時には、セル電圧Vにも基づいてバラツキ量ΔQを演算している。これに代えて、セルインピーダンスZにのみ基づいてバラツキ量ΔQを演算するようにしてもよい。
【0109】
第1実施形態では、セルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算を、CC充電中にのみ実施し、第2実施形態では、CC充電中と電力使用中との両方に実施している。これらに代えて、セルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算を、電力使用中にのみ実施するようにしてもよい。また、第3実施形態においては、セルインピーダンスZに基づくバラツキ量ΔQの演算を、CC充電中と電力使用中との両方に実施している。これに代えて、CC充電中にのみや電力使用中にのみ実施するようにしてもよい。
【0110】
第1~第3実施形態では、セルSOHのバラツキが大きい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEや故障判定バラツキ量ΔQXを大きく設定している。これに代えて、セルSOHのバラツキが違っても、均等化判定バラツキ量ΔQEや故障判定バラツキ量ΔQXを同じに設定するようにしてもよい。
【0111】
第1~第3実施形態では、パックSOHが小さい場合の方が、均等化判定バラツキ量ΔQEや故障判定バラツキ量ΔQXを小さく設定している。これに代えて、パックSOHが違っても、均等化判定バラツキ量ΔQEや故障判定バラツキ量ΔQXを同じに設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0112】
31…インピーダンス検出部、32…蓄電量特定部、33…バラツキ演算部、93…電池パック、96…電池監視装置、B…セル電池、tP…促進タイミング(特定タイミング)、tS…抑制タイミング(特定タイミング)、Q…セル蓄電量、QL…区間下限量(特定蓄電量)、QU…区間上限量(特定蓄電量)、Z…セルインピーダンス、Zd…インピーダンス変化、Zdd…インピーダンス2回微分、ΔQ…バラツキ量。