(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2021102696
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檀原 佑太
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特許第2948887(JP,B2)
【文献】特開平10-295092(JP,A)
【文献】特開平09-057314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータを備えて、前記モータの回転速度を制御するモータ制御装置において、
前記モータの速度基準となる速度指令に基づいて、前記モータのトルク基準を出力することにより、前記インバータを介して前記モータの回転速度を制御する速度制御部と、
前記速度制御部が出力したトルク基準に基づいて、前記モータに対するトルク指令を出力することにより、前記インバータを介して前記モータのトルクを制御するトルク制御部と、
前記トルク制御部が出力したトルク指令に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電力の周波数を制御するように、前記インバータに対する電流指令を出力する電流制御部と、
前記トルク制御部が出力したトルク指令に対して
第1のドルーピングゲインを掛ける補正を行うことにより、前記速度制御部に対する速度指令を補正するトルク指令補正部と、
前記速度制御部が出力したトルク基準に対して第2のドルーピングゲインを掛ける補正を行うことにより、前記速度制御部に対する速度指令を補正する演算トルク補正部と
を有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記トルク指令補正部は、
前記モータの動作状況に応じて前記
第1のドルーピングゲインを増減させるように、前記
第1のドルーピングゲインに対して係数掛けを行う可変係数部を有すること
を特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鋼プラントなどで用いられる圧延装置には、モータ(同期電動機)に供給する電力の周波数を制御することにより、モータの回転速度を制御するインバータが多く用いられている。
【0003】
また、速度制御器によって速度基準とモータの実速度との差である速度偏差をトルク基準に変換し、トルク基準に基づいてインバータを制御する同期電動機の駆動システムは公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、速度基準とモータの実速度との差である速度偏差をトルク基準に変換した結果に対して、垂下率(ドルーピングゲイン)を設定されたドルーピング(Drooping)制御を行うことにより、速度偏差がなくなる方向に調整する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、近年は、モータの回転速度を制御するために、トルク系の制御を含む速度制御が実用化されている。しかしながら、慣性補償・メカロス補正・液中補償などのトルク系補正が過補償であった場合、速度制御ではトルクをマイナス方向に下げる働きをしてしまう。
【0007】
つまり、従来のモータの回転速度制御では、速度偏差を変換したトルク基準のみに対してドルーピング制御が作用するため、最終的にプラス極性のトルクを制御しているにもかかわらず、増速方向(逆の極性)にドルーピングが働いてしまうことがあった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、トルク系に外乱の影響がある場合にも、速度基準に対して正しい極性に補正を行ってモータの回転速度を制御することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様にかかるモータ制御装置は、モータを駆動するインバータを備えて、前記モータの回転速度を制御するモータ制御装置において、前記モータの速度基準となる速度指令に基づいて、前記モータのトルク基準を出力することにより、前記インバータを介して前記モータの回転速度を制御する速度制御部と、前記速度制御部が出力したトルク基準に基づいて、前記モータに対するトルク指令を出力することにより、前記インバータを介して前記モータのトルクを制御するトルク制御部と、前記トルク制御部が出力したトルク指令に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電力の周波数を制御するように、前記インバータに対する電流指令を出力する電流制御部と、前記トルク制御部が出力したトルク指令に対してドルーピングゲインを掛ける補正を行うことにより、前記速度制御部に対する速度指令を補正するトルク指令補正部とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様にかかるモータ制御装置は、好適には、前記トルク指令補正部が、前記モータの動作状況に応じて前記ドルーピングゲインを増減させるように、前記ドルーピングゲインに対して係数掛けを行う可変係数部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トルク系に外乱の影響がある場合にも、速度基準に対して正しい極性に補正を行ってモータの回転速度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】圧延システムの構成例を模式的に示す図である。
【
図2】一実施形態にかかるモータ制御装置の構成、及びその周辺を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を用いて一実施形態にかかるモータ制御装置について、圧延システムに用いられるモータ制御装置を例として説明する。
図1は、圧延システム1の構成例を模式的に示す図である。
図1に示すように、圧延システム1は、例えば熱間圧延ライン2、コントローラ3、及び圧延制御装置4を有する。
【0014】
熱間圧延ライン2は、例えば加熱炉20、粗圧延機21、仕上圧延機22、水冷却装置23、切断機24、及び巻取機25などを有する。
【0015】
熱間圧延ライン2は、加熱炉20が出力するスラブに対して粗圧延機21が粗圧延を行って、素材(圧延材)を仕上圧延機22へ送る。そして、熱間圧延ライン2は、粗圧延された圧延材を仕上圧延機22がさらに所定の仕様まで圧延し、水冷却装置23が冷却させた後に、切断機24が所定の長さに切断して、巻取機25が巻き取る。
【0016】
例えば、粗圧延機21には、後述するモータ制御装置5によってそれぞれ回転速度を制御される複数の同期電動機21aが設けられている。
【0017】
コントローラ3は、例えばPLC(programmable logic controller)などであり、圧延制御装置4に対する制御を行う。
【0018】
圧延制御装置4は、例えばモータ制御装置5を備え、コントローラ3による制御に応じて、熱間圧延ライン2を構成する各部を制御する。モータ制御装置5は、ドルーピング補正部6を備えて、同期電動機21aの回転速度を制御する。
【0019】
次に、
図2~
図6を用いて、モータ制御装置5についてさらに説明する。
図2は、一実施形態にかかるモータ制御装置5の構成、及びその周辺を例示するブロック図である。
【0020】
図2に示すように、モータ制御装置5は、速度基準出力部50、速度制御部51、トルク制御部52、電流制御部53、インバータ54、及びドルーピング補正部6を有し、インバータ54を制御することにより、同期電動機(モータ)21aの回転速度を制御する。
【0021】
速度基準出力部50は、同期電動機21aの回転速度に関する速度指令を速度制御部51に対して出力する。
【0022】
速度制御部51は、
図3にも示すように、速度基準出力部50が出力した速度指令と、同期電動機21aの実速度として検出された速度フィードバックとの差分を速度偏差として算出する。そして、速度制御部51は、速度偏差に対する速度制御AMPによるPI制御を行って、速度制御最終演算トルク(PI制御結果)をトルク制御部52に対して出力する。
【0023】
速度制御最終演算トルクは、同期電動機21aのトルクに関するトルク基準である。つまり、速度制御部51は、同期電動機21aの速度基準となる速度指令に基づいて、同期電動機21aのトルク基準を出力することにより、インバータ54を介して同期電動機21aの回転速度を制御する。
【0024】
トルク制御部52は、
図4にも示すように、速度制御部51が出力した速度制御最終演算トルクと、例えばコントローラ3から入力される外部トルク補助基準とに基づいて、トルク指令を電流制御部53に対して出力する。
【0025】
つまり、トルク制御部52は、速度制御部51が出力したトルク基準に基づいて、同期電動機21aに対するトルク指令を出力することにより、インバータ54を介して同期電動機21aのトルクを制御する。
【0026】
電流制御部53は、トルク制御部52が出力したトルク指令に基づいて、インバータ54が同期電動機21aに供給する電力の周波数を制御するように、インバータ54に対して電流指令を出力する。
【0027】
インバータ54は、同期電動機21aに供給する電力の周波数を制御することにより、回転速度を制御しつつ同期電動機21aを駆動する。
【0028】
ドルーピング補正部6は、演算トルク補正部60及びトルク指令補正部62を有し、ドルーピング補正を行う。
【0029】
具体的には、演算トルク補正部60は、
図5にも示すように、速度制御部51が出力する速度制御最終演算トルクに対し、コントローラ3から入力されるトルクに関するドルーピングゲインを乗じた後に反転させて、ドルーピング指令を算出する。
【0030】
例えば、演算トルク補正部60に対してマイナスとなる速度制御最終演算トルクが入力された場合、プラスのドルーピング指令が算出される。
【0031】
また、演算トルク補正部60は、コントローラ3から入力される速度基準に対して所定のレートを乗じ、算出したドルーピング指令を加算して得た速度指令を速度基準出力部50に対して出力する。
【0032】
トルク指令補正部62は、
図6に示すように、インバータ54の動作状況に応じてドルーピングゲインを増減させるように、ドルーピングゲインに対して係数掛けを行う可変係数部620を有する。
【0033】
例えば、可変係数部620は、同期電動機21aの起動時にはドルーピングゲインを小さくするように係数掛けを行い、同期電動機21aの通常運転時にはドルーピングゲインを大きくするように係数掛けを行う。
【0034】
そして、トルク指令補正部62は、トルク制御部52が出力するトルク指令に対し、コントローラ3から入力されるトルクに関するドルーピングゲインに可変係数部620が係数掛けしたドルーピングゲインを乗じた後に反転させて、ドルーピング指令を算出する。また、トルク指令補正部62は、コントローラ3から入力される速度基準に対して所定のレートを乗じ、算出したドルーピング指令を加算して得た速度指令を速度基準出力部50に対して出力する。
【0035】
つまり、トルク指令補正部62は、トルク制御部52が出力したトルク指令に対してドルーピングゲインを掛ける補正を行うことにより、速度制御部51に対する速度指令を補正する。
【0036】
このように、モータ制御装置5は、トルク制御部52が出力したトルク指令に対してドルーピングゲインを掛ける補正を行うことにより、トルク系に外乱の影響がある場合にも、速度基準に対して正しい極性に補正を行ってモータの回転速度を制御することができる。
【0037】
なお、モータ制御装置5が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・圧延システム、2・・・熱間圧延ライン、3・・・コントローラ、4・・・圧延制御装置、5・・・モータ制御装置、6・・・ドルーピング補正部、20・・・加熱炉、21・・・粗圧延機、21a・・・同期電動機(モータ)、22・・・仕上圧延機、23・・・水冷却装置、24・・・切断機、25・・・巻取機、50・・・速度基準出力部、51・・・速度制御部、52・・・トルク制御部、53・・・電流制御部、54・・・インバータ、60・・・演算トルク補正部、62・・・トルク指令補正部、620・・・可変係数部