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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】建物の傾斜異常検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/10 20060101AFI20241001BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01C9/10
G08B21/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021190781
(22)【出願日】2021-11-25
(65)【公開番号】P2023077499
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 恵太
(72)【発明者】
【氏名】山田 和宏
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-101638(JP,A)
【文献】特開2017-203628(JP,A)
【文献】特開2013-315044(JP,A)
【文献】特開平11-241919(JP,A)
【文献】特開2007-101502(JP,A)
【文献】特開昭63-176571(JP,A)
【文献】特開2004-147374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
G08B 21/02
G01H 17/00
G01M 99/00
G01V 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の高所に装着し前記建物の傾斜の程度を検知する傾斜検知部と、前記傾斜検知部からの信号を受信して前記建物の傾斜異常を表示する識別表示部と、を備えた建物の傾斜異常検査システムであって、
前記傾斜検知部には、上下一対の電極と両電極間に挿入された導体球とを有し、前記建物が傾斜異常の状態に傾斜して前記導体球が前記両電極と接触したときオン信号を出力する傾斜センサと、
前記傾斜センサに接続され前記オン信号出力時に傾斜異常信号を、前記オン信号非出力時に傾斜正常信号を、それぞれ所定の時間間隔で前記識別表示部へ送信する送信部と、を備え、
前記傾斜センサは、保護ケースに収納された状態で前記建物に固設された固定台の受板に水平状に配置され、前記保護ケースは、前記固定台にヒンジを介して上下方向へ回動可能に連結されていることを特徴とする建物の傾斜異常検査システム。
【請求項2】
請求項1に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記傾斜検知部には、前記建物が傾斜異常の状態に傾斜して前記導体球と前記両電極とが接触したとき点灯する照明具を前記保護ケースの外面側に備えていることを特徴とする建物の傾斜異常検査システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記傾斜センサは、前記導体球と、当該導体球が転がり移動する上端面が円錐状に凹形成された下電極と、当該下電極と対向して配置され前記下電極が前記建物の傾斜異常となる角度に傾斜したときに前記導体球と接触する上電極とから成り、前記下電極を支持する電極支持板に水準器を設置したこと、
前記電極支持板は、前記保護ケースの下部に角度調整可能に連結されていることを特徴とする建物の傾斜異常検査システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記識別表示部には、前記送信部から送信された前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号を受信する受信部と、前記受信部に接続され前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号に基づいて前記建物の傾斜異常を表示する表示部と、を備えていることを特徴とする建物の傾斜異常検査システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記建物には、複数の支柱部に対してそれぞれ前記傾斜検知部を装着し、各傾斜検知部の前記送信部から送信する前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号には、前記建物における前記支柱部の所在地を表す位置信号が含まれていること、
前記識別表示部は、前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号に基づいて、前記支柱部の所在地毎の前記建物の傾斜異常及び前記傾斜センサの良否を表示することを特徴とする建物の傾斜異常検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の傾斜異常検査システムに関し、詳しくは、建物に装着した傾斜センサによって、建物に傾斜異常が生じているか否かを検査する建物の傾斜異常検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大きな地震が発生した場合には、被災した建物内に残された人々の救済や、建物の使用を安全に行えるか否か等の判断をするため、建物の傾斜異常を検査する必要がある。しかし、このような大きな地震が、いつ起こるかを予測することは困難であり、建物は、経年変化によって傾斜異常が生じる場合もある。そのため、建物の傾斜異常を継続的に検査するため、建物に傾斜センサを設置して、傾斜センサから送信される信号を継続的に受信して、傾斜異常を検査する建物の傾斜異常検査システムが導入されていることがある。
【0003】
上記建物の傾斜異常検査システムの一例として、特許文献1には、電柱(建物)の傾斜異常検査装置の発明が開示されている。この傾斜異常検査装置100は、図8に示すように、傾斜検知部100aを電柱上部に固定配置し、識別表示部100bを携帯可能に構成して個々の電柱毎に傾斜異常を識別検知する装置である。傾斜検知部100aは、上に向いて開いた半球状容器101内に導体球102を有し、半球状容器101の底部中央に一つの検出コイル103を有する。検出コイル103は、発振回路104に接続され、発振回路104は、動作させるための電池105に接続されている。半球状容器101の中には、導体球102の動きにダンピングを与えるオイル106が封入されている。携帯可能に構成された識別表示部100bは、検出コイル103から発信する微弱電磁波107の受信部108、識別制御部109、表示部110、電池111、GPS受信部112、メモリ113等とより構成されている。
【0004】
上記傾斜異常検査装置100は、以下のように作動する。すなわち、傾斜検知部100aが傾斜すると、導体球102は半球状容器101内を転がり、検出コイル103との距離が大となるので、検出コイル103のインダクタンスは大となる。発振回路104は、電池105から電流供給が有る間は常に発振を続ける。その発振周波数は、検出コイル103のインダクタンスに依存するので、傾斜検知部100aの傾斜に対応して発振周波数は低くなる。発振回路104による発振出力は検出コイル103を流れ、検出コイル103から微弱電磁波107として電柱下方に漏洩させる。そして、識別表示部100bの受信部108は、その微弱電磁波107を受けてパルス化する。識別制御部109は、受信部108からのパルス出力を受けてパルス間隔を微小時間間隔のパルス列で計数して周波数を識別し、電柱の傾斜異常の有無を識別して表示部110に表示して保守管理者に認識せしめる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された電柱の傾斜異常検査装置100では、上述したように、傾斜検知部100aが傾斜すると、導体球102は半球状容器101内を転がり、検出コイル103のインダクタンスが変化することによって、電柱の傾斜異常の有無を識別する。そのため、上記傾斜異常検査装置100における検査の信頼性を維持するためには、傾斜検知部100aの傾斜に応じて、導体球102が半球状容器101内を確実に転がることを、定期的に点検する必要がある。ところが、傾斜検知部100aは、電柱上部(建物の高所)に固設されているため、上記点検には、危険性を伴い、手間と時間が掛かるという問題があった。
【0007】
また、上記傾斜異常検査装置100は、発振回路104が電池105から電流供給が有る間は常に発振を続け、傾斜検知部100aの傾斜の程度に関わらず、検出コイル103から漏洩する微弱電磁波107を受信部108が受信し、識別制御部109が、受信部108からの微弱電磁波107のパルス出力を受けてパルス間隔を微小時間間隔のパルス列で計数して周波数を識別し、電柱の傾斜異常の有無を識別して表示部110に表示する。そのため、傾斜異常検査装置100の回路が複雑となり、設備コストが高く、消費電力も増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、建物の傾斜異常及び傾斜センサの良否を、安全かつ簡単で、低コストに検査できる建物の傾斜異常検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る建物の傾斜異常検査システムは、次のような構成を有している。
(1)建物の高所に装着し前記建物の傾斜の程度を検知する傾斜検知部と、前記傾斜検知部からの信号を受信して前記建物の傾斜異常を表示する識別表示部と、を備えた建物の傾斜異常検査システムであって、
前記傾斜検知部には、上下一対の電極と両電極間に挿入された導体球とを有し、前記建物が傾斜異常の状態に傾斜して前記導体球が前記両電極と接触したときオン信号を出力する傾斜センサと、
前記傾斜センサに接続され前記オン信号出力時に傾斜異常信号を、前記オン信号非出力時に傾斜正常信号を、それぞれ所定の時間間隔で前記識別表示部へ送信する送信部と、を備え、
前記傾斜センサは、保護ケースに収納された状態で前記建物に固設された固定台の受板に水平状に配置され、前記保護ケースは、前記固定台にヒンジを介して上下方向へ回動可能に連結されていることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、傾斜検知部には、上下一対の電極と両電極間に挿入された導体球とを有し、建物が傾斜異常の状態に傾斜して導体球が両電極と接触したときオン信号を出力する傾斜センサと、傾斜センサに接続されオン信号出力時に傾斜異常信号を、オン信号非出力時に傾斜正常信号を、それぞれ所定の時間間隔で識別表示部へ送信する送信部と、を備えているので、傾斜センサの構造と送信部の回路構成を単純で簡素化して、設備費を低減することができる。また、送信部による傾斜異常信号又は傾斜正常信号の送信を所定の時間間隔で間欠的に行うことによって、消費電力を低減することができる。
【0011】
また、傾斜センサは、保護ケースに収納された状態で建物に固設された固定台の受板に水平状に配置されているので、傾斜センサにおける導体球と電極とが湿気や粉塵、汚染物質等に触れて、作動不良が生じる可能性を低減できると共に、建物の傾斜異常を検出し易い位置に対して傾斜センサを水平状に配置できる。そのため、傾斜センサの信頼性を高めて、建物の傾斜異常を確実に検知することができる。
【0012】
また、保護ケースは、固定台にヒンジを介して上下方向へ回動可能に連結されているので、傾斜検知部を建物の高所に設置した場合でも、床面にいる点検作業者が、点検用の棒等を用いて保護ケースを下方から押上げて、傾斜センサを建物の傾斜異常となる角度まで傾斜させることによって、傾斜センサの作動不良の有無を確認する点検を、簡単に行うことができる。そのため、傾斜センサの良否に対する上記点検を、安全かつ短時間で手間を掛けずに行うことができる。
【0013】
よって、本発明によれば、建物の傾斜異常及び傾斜センサ良否を、安全かつ簡単で、低コストに検査できる建物の傾斜異常検査システムを提供することができる。
【0014】
(2)(1)に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記傾斜検知部には、前記建物が傾斜異常の状態に傾斜して前記導体球と前記両電極とが接触したとき点灯する照明具を前記保護ケースの外面側に備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、傾斜検知部には、建物が傾斜異常の状態に傾斜して導体球と両電極とが接触したとき点灯する照明具を保護ケースの外面側に備えているので、点検作業者は、傾斜センサの上記点検時において、傾斜センサの良否を確認するのに、照明具の点灯の有無を確認すれば良い。そのため、所定の時間間隔で送信する送信部からの傾斜異常信号を識別表示部が受信して建物の傾斜異常を表示するまで、待つ必要がない。その結果、傾斜センサの上記点検をより一層短時間で行うことができる。
【0016】
(3)(1)又は(2)に記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記傾斜センサは、前記導体球と、当該導体球が転がり移動する上端面が円錐状に凹形成された下電極と、当該下電極と対向して配置され前記下電極が前記建物の傾斜異常となる角度に傾斜したときに前記導体球と接触する上電極とから成り、前記下電極を支持する電極支持板に水準器を設置したこと、
前記電極支持板は、前記保護ケースの下部に角度調整可能に連結されていることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、傾斜センサは、導体球と、当該導体球が転がり移動する上端面が円錐状に凹形成された下電極と、当該下電極と対向して配置され下電極が建物の傾斜異常となる角度に傾斜したときに導体球と接触する上電極とから成り、下電極を支持する電極支持板に水準器を設置し、電極支持板は、保護ケースの下部に角度調整可能に連結されているので、水準器を確認しながら傾斜センサを水平状態となるように電極支持板を角度調節して保護ケースに設置することができる。そのため、建物に対する固定台の水平度にバラツキがあっても、建物に対して傾斜センサを精度よく設置できる。その結果、建物の傾斜異常及び傾斜センサの良否の検査を、より一層簡単かつ精度よく行うことができる。
【0018】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記識別表示部には、前記送信部から送信された前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号を受信する受信部と、前記受信部に接続され前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号に基づいて前記建物の傾斜異常を表示する表示部と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、識別表示部には、送信部から送信された傾斜異常信号及び傾斜正常信号を受信する受信部と、受信部に接続され傾斜異常信号及び傾斜正常信号に基づいて建物の傾斜異常を表示する表示部と、を備えているので、送信部から送信された傾斜異常信号及び傾斜正常信号をパルス化等の複雑な信号変換を行うことなく、表示部にて表示することができる。そのため、受信部と表示部の回路構成を単純で簡素化することができると共に、表示部の表示を迅速に行うことができる。その結果、建物の傾斜異常検査システム全体の回路構成を単純化でき、イニシャルコスト及びランニングコストの両方で低コスト化できると共に、点検時間も節約することができる。
【0020】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された建物の傾斜異常検査システムにおいて、
前記建物には、複数の支柱部に対してそれぞれ前記傾斜検知部を装着し、各傾斜検知部の前記送信部から送信する前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号には、前記建物における前記支柱部の所在地を表す位置信号が含まれていること、
前記識別表示部は、前記傾斜異常信号及び前記傾斜正常信号に基づいて、前記支柱部の所在地毎の前記建物の傾斜異常及び前記傾斜センサの良否を表示することを特徴とする。
【0021】
本発明においては、建物には、複数の支柱部に対してそれぞれ傾斜検知部を装着し、各傾斜検知部の送信部から送信する傾斜異常信号及び傾斜正常信号には、建物における支柱部の所在地を表す位置信号が含まれ、識別表示部は、傾斜異常信号及び傾斜正常信号に基づいて、支柱部の所在地毎の建物の傾斜異常及び傾斜センサの良否を表示するので、建物における何処の所在地の支柱部に傾斜異常が生じているかを、迅速かつ正確に判断することができる。また、支柱部に装着した傾斜検知部の傾斜センサの良否を、建物における所在地毎に正確に判断することができる。そのため、建物の所在地毎の傾斜異常や傾斜センサの良否を、安全かつ簡単で、より正確に検査できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、建物の傾斜異常及び傾斜センサの良否を、安全かつ簡単で、低コストに検査できる建物の傾斜異常検査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システムを工場建物の支柱に装着した例の概略配置図である。
図2図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、傾斜センサの点検を行うため所定の傾斜角度に傾斜させている状態の概略構成図である。
図3図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおける傾斜検知部の詳細断面図である。
図4図3に示す傾斜検知部の説明図であって、(A)は水平状に配置されているときの傾斜センサの模式断面図を示し、(B)は傾斜センサが水平に配置されているときの傾斜検知部の回路構成図を示す。
図5図3に示す傾斜検知部の説明図であって、(A)は建物の傾斜異常の状態に傾斜されているときの傾斜センサの模式断面図を示し、(B)は傾斜センサが建物の傾斜異常の状態に傾斜されているときの傾斜検知部の回路構成図を示す。
図6図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、識別表示部の概略構成図である。
図7図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、識別表示部の変形例の概略構成図である。
図8】特許文献1に記載された電柱の傾斜異常検査装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を具体化した実施形態に係る建物の傾斜異常検査システムの好適な事例について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システムの具体例における構成と動作方法について説明する。また、上記具体例における識別表示部の変形例について簡単に説明する。
【0025】
<本建物の傾斜異常検査システムの具体例>
まず、本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システムの具体例における構成と動作方法を、図1図7を用いて説明する。図1に、本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システムを工場建物の支柱に装着した例の概略配置図を示す。図2に、図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、傾斜センサの点検を行うため所定の傾斜角度に傾斜させている状態の概略構成図を示す。図3に、図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおける傾斜検知部の詳細断面図を示す。図4に、図3に示す傾斜検知部の説明図を示し、(A)は水平状に配置されているときの傾斜センサの模式断面図を示し、(B)は傾斜センサが水平に配置されているときの傾斜検知部の回路構成図を示す。図5に、図3に示す傾斜検知部の説明図を示し、(A)は建物の傾斜異常の状態に傾斜されているときの傾斜センサの模式断面図を示し、(B)は傾斜センサが建物の傾斜異常の状態に傾斜されているときの傾斜検知部の回路構成図を示す。図6に、図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、識別表示部の概略構成図を示す。図7に、図1に示す建物の傾斜異常検査システムにおいて、識別表示部の変形例の概略構成図を示す。
【0026】
図1図6に示すように、本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システム10は、建物TMの高所に装着し建物TMの傾斜の程度を検知する傾斜検知部1と、傾斜検知部1からの信号を受信して建物TMの傾斜異常を表示する識別表示部2と、を備えた建物の傾斜異常検査システム10である。
【0027】
ここでは、図1に示すように、建物TMの屋根部TMYを支える支柱部TMSの所定高さに固定台KDを固設し、当該固定台KDの上に傾斜検知部1を装着する。本建物の傾斜異常検査システム10では、傾斜検知部1を装着した支柱部TMSの座屈強度等に基づいて、建物TMの傾斜異常となる傾斜角度を算定して、その傾斜角度以上に支柱部TMSが傾斜しているときに、建物TMが傾斜異常の状態であると判定する仕組みとなっている。
【0028】
なお、傾斜検知部1を装着する高さは、床面FLから2~3メートル程度の高さが、好ましい。建物TMの傾斜異常を検知するためには、床面FLからの一定の高さが必要であり、建物TM内の装置や運搬車等の邪魔になりにくく設置しやすい等の理由からである。また、識別表示部2は、点検作業者Mが携帯できること、又は台車3等に乗せて簡単に移動できることが好ましい。
【0029】
また、図2図5に示すように、傾斜検知部1には、上下一対の電極11bと両電極11b間に挿入された導体球11aとを有し、建物TMが傾斜異常の状態に傾斜して導体球11aが両電極11bと接触したときオン信号を出力する傾斜センサ11と、傾斜センサ11に接続され傾斜センサ11からオン信号が出力されたときに傾斜異常信号S2を所定の時間間隔で識別表示部2へ送信し、傾斜センサ11からオン信号が出力されていないときに傾斜正常信号S1を所定の時間間隔で識別表示部2へ送信する送信部12と、を備えている。
【0030】
ここで、傾斜センサ11は、上下一対の電極11bと、両電極11b間に挿入された導体球11aと、両電極11bに接続された出力部18と、出力部18に電力を供給する電源部19とを有し、建物TMが傾斜異常の状態に傾斜して導体球11aが両電極11bと接触したとき、出力部18からオン信号を出力する簡単な構成であるため、検出コイル等を有する特許文献1の例に比較して、安価であり、耐久性にも優れている。
【0031】
また、図5に示すように、送信部12は、傾斜センサ11からオン信号が出力されたときに傾斜異常信号S2を所定の時間間隔で送信し、図4に示すように、傾斜センサ11からオン信号が出力されていないときに傾斜正常信号S1を所定の時間間隔で送信する構成であるため、電池等で構成する電源部19から供給する電力の消費が少なく、長期間継続して検査する必要がある本建物の傾斜異常検査システム10にとって好適である。
【0032】
なお、建物TMは、一般に、大きな地震等による変形を除き、長い期間を経て徐々に変形していくことがあるので、建物TMの傾斜異常か否かを、常に連続して検査している必要性は少ない。したがって、送信部12の送信サイクル(所定の時間間隔)は、大きな地震等による変形を考慮しても、1~2分程度で良く、その方が消費電力の節約の点で好ましい。
【0033】
このように、本建物の傾斜異常検査システム10によれば、傾斜センサ11の構造と送信部12の回路構成を単純で簡素化して、イニシャルコストとしての設備費を低減することができると共に、送信部12による傾斜異常信号S2又は傾斜正常信号S1の送信を所定の時間間隔で間欠的に行うことによって、ランニングコストとしての消費電力を低減することができる。
【0034】
また、図2図3に示すように、傾斜センサ11は、保護ケース14に収納された状態で建物TMに固設された固定台KDの受板KD1に水平状に配置されている。ここでは、保護ケース14は、略矩形状に形成され、傾斜センサ11を収容するケース本体142とケース本体142を封止する透明な樹脂から成る上蓋143とからなり、上蓋143はケース本体142に対して着脱可能に形成されている。また、ケース本体142の下端部には、平坦な支持板141が連結され、保護ケース14に収納された傾斜センサ11は、支持板141を介して固定台KDの受板KD1に水平状に配置されている。
【0035】
したがって、傾斜センサ11における導体球11aと電極11bとが湿気や粉塵、汚染物質等に触れて、作動不良が生じる可能性を低減できると共に、傾斜センサ11を、建物TMに対して簡単に水平状に配置できる。そのため、傾斜センサ11の信頼性を高めて、点検周期を長期化させることができる。
【0036】
また、図1図3に示すように、保護ケース14は、固定台KDにヒンジHJを介して上下方向へ回動可能に連結されている。ここでは、固定台KDは、保護ケース14の支持板141を水平状に載置させる受板KD1と、支柱部TMSに固定する固定部KD2とから成り、受板KD1には、支持板141との当接領域の中央部に点検用の棒TBを挿通できる貫通孔KD11が形成されている。ヒンジHJは、支持板141の一端側と受板KD1の一端側とを接続している。
【0037】
したがって、傾斜検知部1を建物TMの高所に設置した場合でも、床面FLにいる点検作業者Mが、点検用の棒TB等を用いて保護ケース14を下方から押上げて、傾斜センサ11を建物TMの傾斜異常となる角度θ2まで傾斜させることによって、傾斜センサ11の作動不良の有無を確認する点検を、簡単に行うことができる。そのため、傾斜センサ11の上記点検を、安全かつ短時間で手間を掛けずに行うことができる。
【0038】
よって、本建物の傾斜異常検査システム10によれば、建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否を、安全かつ簡単で、低コストに検査できる建物の傾斜異常検査システム10を提供することができる。
【0039】
また、図3図5に示すように、傾斜検知部1には、建物TMが傾斜異常の状態に傾斜して導体球11aと両電極11bとが接触したとき点灯する照明具17を保護ケース14の外面側に備えていることが好ましい。ここでは、照明具17は、例えば、ケース本体142の側壁面に装着され、床面FLにいる点検作業者Mが照明具17の点灯状況を簡単に確認することができる位置に装着されている。また、照明具17は、寿命が長く、消費電力の少ないLED(Light emitting diode)の照明具が好ましい。
【0040】
上記照明具17を備えたことによって、点検作業者Mは、傾斜センサ11の上記点検時において、傾斜センサ11の良否を確認するのに、照明具17の点灯の有無を確認すれば良い。そのため、所定の時間間隔で送信する送信部12からの傾斜異常信号S2を受信部21が受信し、表示部22が傾斜異常を表示するまで、待つ必要がない。その結果、傾斜センサ11の上記点検をより一層短時間で行うことができる。
【0041】
また、図2図3に示すように、傾斜センサ11は、導体球11aと、当該導体球11aが転がり移動する上端面112bsが円錐状に凹形成された下電極112bと、当該下電極112bと対向して配置され下電極112bが建物TMの傾斜異常となる角度θ2に傾斜したときに導体球11aと接触する上電極111bとから成り、下電極112bを支持する電極支持板13に水準器16を設置し、電極支持板13は、保護ケース14の下部144に角度調整可能に連結されていることが好ましい。
【0042】
ここでは、図3図5に示すように、上電極111bの外周縁には下方へ突出する環状凸部111btが形成され、環状凸部111btが、建物TMの傾斜異常となる角度θ2に傾斜したときに導体球11aと接触する。また、電極支持板13は、保護ケース14の下部144に対して、バネ部材152にて上方へ付勢した状態で複数のネジ部材151によって締結され、角度調節可能に装着されている。
【0043】
この場合、水準器16を確認しながら傾斜センサ11を水平状態となるように電極支持板13を角度調節して保護ケース14に設置することができる。そのため、建物TMに対する固定台KDの水平度にバラツキがあっても、建物TMに対して傾斜センサ11を精度よく設置できる。その結果、建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否の検査を、より一層簡単かつ精度よく行うことができる。
【0044】
なお、円錐状に凹形成された上端面112bsの傾斜角θ1は、建物TMの傾斜異常となる角度θ2より僅かに小さく形成されていることが好ましい。建物TMの傾斜異常となる角度θ2に傾斜したときには、導体球11aが、下電極112bの円錐状に凹形成された上端面112bsを、転がり摩擦抵抗に打ち勝って移動できるためである。また、導体球11aと電極11bには、腐食又は電食しにくいように同一材質の表面処理(例えば、金+ニッケル等の表面処理)がされていることが好ましい。導体球11aの作動不良を低減させるためである。
【0045】
また、図2図6に示すように、識別表示部2には、送信部12から送信された傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1を受信する受信部21と、受信部21に接続され傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1に基づいて建物TMの傾斜異常を表示する表示部22と、を備えていることが好ましい。
【0046】
ここでは、図6に示すように、受信部21が受信した傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1を演算部23にて建物TMの所在地毎の一覧表に変換して表示部22で表示している。この場合、建物TMの傾斜が「正常」か「異常」かの2択であるため、複雑な計算処理を必要としない。これによって、送信部12から送信された傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1を、特許文献1の例に記載されたように、パルス化等の複雑な信号変換を行うことなく、表示部22にて表示することができる。
【0047】
したがって、受信部21と表示部22の回路構成を単純で簡素化することができると共に、表示部22の表示を迅速に行うことができる。その結果、建物の傾斜異常検査システム10全体の回路構成を単純化でき、イニシャルコスト及びランニングコストの両方で低コスト化できると共に、点検時間も節約することができる。
【0048】
また、大きな工場の建物TMでは、多数の支柱部TMSが、碁盤の目のように配置されている場合が多い。この場合、傾斜検知部1を装着した支柱部TMSの所在地と、傾斜異常のデータや傾斜センサ11の良否のデータとを相関付けて表示部22に表示すると便利である。
【0049】
そこで、図1図6図7に示すように、建物TMには、複数の支柱部TMSに対してそれぞれ傾斜検知部1を装着し、各傾斜検知部1の送信部12から送信する傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1には、建物TMにおける支柱部TMSの所在地を表す位置信号が含まれ、識別表示部2は、傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1に基づいて、支柱部TMSの所在地毎の建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否を表示することが好ましい。ここでは、図6に示すように、識別表示部2の表示部22において、支柱部TMSの所在地と建物TMの傾斜と傾斜センサの良否とを一覧表にして表示している。
【0050】
この場合、建物TMの傾斜が「正常」か「異常」かの2択であり、傾斜センサの良否が「良」か「否」の2択であるため、複雑な計算処理を必要とせず、点検作業者Mの確認も迅速に行うことができる。また、建物TMにおける何処の所在地の支柱部TMSに傾斜異常が生じているかを、正確に判断することができ、支柱部TMSに装着した傾斜検知部1の傾斜センサ11の良否を、建物TMにおける所在地毎に正確に判断することができる。そのため、建物TMの所在地毎の傾斜異常や傾斜センサ11の良否を、安全かつ簡単で、より正確に検査できる。
【0051】
(変形例)
なお、図6に示すように、識別表示部2の表示部22において、支柱部TMSの所在地と建物TMの傾斜と傾斜センサ11の良否とを一覧表にして表示するが、これに限定される必要はない。例えば、図7に示すように、識別表示部2の表示部22Bにおいて、支柱部TMSの所在地をX軸番地とY軸番地とによって表示し、X軸番地とY軸番地とで決まる碁盤の目の位置に、建物TMの傾斜異常の表示と傾斜センサ11の良否の表示とをマップ化して表示しても良い。
【0052】
このように、建物TMの傾斜異常の表示をマップ化して表示することによって、例えば、大きな地震が発生した場合に、被災した建物TM内に残された人々の救済を何処から行うことがより安全であるのか、や、建物TMの使用を安全に行えるために、どのような範囲において建物TMの改修が必要であるか等を、迅速に判断することができる。
【0053】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る建物の傾斜異常検査システム10によれば、傾斜検知部1には、上下一対の電極11bと両電極11b間に挿入された導体球11aとを有し、建物TMが傾斜異常の状態に傾斜して導体球11aが両電極11bと接触したときオン信号を出力する傾斜センサ11と、傾斜センサ11に接続されオン信号出力時に傾斜異常信号S2を、オン信号非出力時に傾斜正常信号S1を、それぞれ所定の時間間隔で識別表示部2へ送信する送信部12と、を備えているので、傾斜センサ11の構造と送信部12の回路構成を単純で簡素化して、設備費を低減することができる。また、送信部12による傾斜異常信号S2又は傾斜正常信号S1の送信を所定の時間間隔で間欠的に行うことによって、消費電力を低減することができる。
【0054】
また、傾斜センサ11は、保護ケース14に収納された状態で建物TMに固設された固定台KDの受板KD1に水平状に配置されているので、傾斜センサ11における導体球11aと電極11bとが湿気や粉塵、汚染物質等に触れて、作動不良が生じる可能性を低減できると共に、建物TMの傾斜異常を検出し易い位置に対して傾斜センサ11を水平状に配置できる。そのため、傾斜センサ11の信頼性を高めて、建物TMの傾斜異常を確実に検知することができる。
【0055】
また、保護ケース14は、固定台KDにヒンジHJを介して上下方向へ回動可能に連結されているので、傾斜検知部1を建物TMの高所に設置した場合でも、床面FLにいる点検作業者Mが、点検用の棒TB等を用いて保護ケース14を下方から押上げて、傾斜センサ11を建物TMの傾斜異常となる角度θ2まで傾斜させることによって、傾斜センサ11の作動不良の有無を確認する点検を、簡単に行うことができる。そのため、傾斜センサ11の良否に対する上記点検を、安全かつ短時間で手間を掛けずに行うことができる。
【0056】
よって、本実施形態によれば、建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否を、安全かつ簡単で、低コストに検査できる建物の傾斜異常検査システム10を提供することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、傾斜検知部1には、建物TMが傾斜異常の状態に傾斜して導体球11aと両電極11bとが接触したとき点灯する照明具17を保護ケース14の外面側に備えているので、点検作業者Mは、傾斜センサ11の上記点検時において、傾斜センサ11の良否を確認するのに、照明具17の点灯の有無を確認すれば良い。そのため、所定の時間間隔で送信する送信部12からの傾斜異常信号S2を識別表示部2が受信して建物TMの傾斜異常を表示するまで、待つ必要がない。その結果、傾斜センサ11の上記点検をより一層短時間で行うことができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、傾斜センサ11は、導体球11aと、当該導体球11aが転がり移動する上端面112bsが円錐状に凹形成された下電極112bと、当該下電極112bと対向して配置され下電極112bが建物TMの傾斜異常となる角度θ2に傾斜したときに導体球11aと接触する上電極111bとから成り、下電極112bを支持する電極支持板13に水準器16を設置し、電極支持板13は、保護ケース14の下部144に角度調整可能に連結されているので、水準器16を確認しながら傾斜センサ11を水平状態となるように電極支持板13を角度調節して保護ケース14に設置することができる。そのため、建物TMに対する固定台KDの水平度にバラツキがあっても、建物TMに対して傾斜センサ11を精度よく設置できる。その結果、建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否の検査を、より一層簡単かつ精度よく行うことができる。
【0059】
また、実施形態によれば、識別表示部2には、送信部12から送信された傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1を受信する受信部21と、受信部21に接続され傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1に基づいて建物TMの傾斜異常を表示する表示部22と、を備えているので、送信部12から送信された傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1をパルス化等の複雑な信号変換を行うことなく、表示部22にて表示することができる。そのため、受信部21と表示部22の回路構成を単純で簡素化することができると共に、表示部22の表示を迅速に行うことができる。その結果、建物の傾斜異常検査システム10全体の回路構成を単純化でき、イニシャルコスト及びランニングコストの両方で低コスト化できると共に、点検時間も節約することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、建物TMには、複数の支柱部TMSに対してそれぞれ傾斜検知部1を装着し、各傾斜検知部1の送信部12から送信する傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1には、建物TMにおける支柱部TMSの所在地を表す位置信号が含まれ、識別表示部2は、傾斜異常信号S2及び傾斜正常信号S1に基づいて、支柱部TMSの所在地毎の建物TMの傾斜異常及び傾斜センサ11の良否を表示するので、建物TMにおける何処の所在地の支柱部TMSに傾斜異常が生じているかを、迅速かつ正確に判断することができる。また、支柱部TMSに装着した傾斜検知部1の傾斜センサ11の良否を、建物TMにおける所在地毎に正確に判断することができる。そのため、建物TMの所在地毎の傾斜異常や傾斜センサ11の良否を、安全かつ簡単で、より正確に検査できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、建物に装着した傾斜センサによって、建物に傾斜異常が生じているか否かを検査する建物の傾斜異常検査システムとして利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 傾斜検知部
2 識別表示部
10 傾斜異常検査システム
11 傾斜センサ
11a 導体球
11b 電極
12 送信部
13 電極支持板
14 保護ケース
16 水準器
17 照明具
21 受信部
22 表示部
111b 上電極
112b 下電極
112bs 上端面
144 下部
HJ ヒンジ
KD 固定台
KD1 受板
TM 建物
TMS 支柱部
S1 傾斜正常信号
S2 傾斜異常信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8