(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】固体電解質、固体電解質の製造方法および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241001BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241001BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241001BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241001BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021214182
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和也
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194769(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167813(WO,A1)
【文献】特開2020-194777(JP,A)
【文献】特開2020-194772(JP,A)
【文献】特開2021-86720(JP,A)
【文献】特開2021-131979(JP,A)
【文献】特開2021-141026(JP,A)
【文献】特表2023-501435(JP,A)
【文献】特開2020-64832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
H01B 1/00- 1/24
H01B 13/00-13/016
H01B 13/34
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、
金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する固体電解質であって、
前記固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有し、
前記X線回折測定において観察される全ピークの中で、前記ピークAの強度
が最も大きく、前記ピークBの強度が
2番目に大きい、固体電解質。
【請求項2】
ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、
金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する固体電解質であって、
前記固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有し、
前記ピークAの強度をI
Aとし、前記ピークBの強度をI
Bとし、基準位置における強度をI
Sとした場合に、以下の条件(i)および条件(ii)
を満たす、固体電解質。
条件(i):(I
A-I
S)/I
Sが、2.69より大きい。
条件(ii):(I
B-I
S)/I
Sが、0.73より大きい。
【請求項3】
前記X線回折測定において観察される全ピークの中で、前記ピークAの強度
が最も大きく、前記ピークBの強度が
2番目に大きい、請求項2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記(I
A-I
S)/I
Sが、7.74以上である、請求項2または請求項3に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記(I
B-I
S)/I
Sが、3.16以上である、請求項2から請求項4までのいずれかの請求項に記載の固体電解質。
【請求項6】
前記金属塩における前記アニオンが、ホウ素クラスターアニオンである、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の固体電解質。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の固体電解質を製造する固体電解質の製造方法であって、
前記ピロリジニウム系有機カチオンおよび前記ホウ素クラスターアニオンを含有する前記マトリックスと、前記金属カチオンおよび前記アニオンを含有する前記金属塩と、を含有する前駆体を準備する、準備工程と、
前記前駆体を、前記マトリックスの融解温度以上の温度で加熱し、前記前駆体の溶融物を得る、加熱工程と、
前記溶融物を急冷して固化させることで前記固体電解質を得る、急冷工程と、を有する固体電解質の製造方法。
【請求項8】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも1つが、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の固体電解質を含有する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質、固体電解質の製造方法および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。固体電解質層に用いられる固体電解質として、有機固体電解質および無機固体電解質が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、固体電解質として、有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を含有する電解質組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池の電池性能は、固体電解質のイオン伝導度に大きく影響される。そのため、イオン伝導性が良好な固体電解質が望まれている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が良好な固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示においては、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する固体電解質であって、上記固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有し、上記X線回折測定において観察される全ピークの中で、上記ピークAの強度または上記ピークBの強度が最も大きい、固体電解質を提供する。
【0007】
また、本開示においては、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する固体電解質であって、上記固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有し、上記ピークAの強度をIAとし、上記ピークBの強度をIBとし、基準位置における強度をISとした場合に、以下の条件(i)および条件(ii)の少なくとも一方を満たす、固体電解質を提供する。
条件(i):(IA-IS)/ISが、2.69より大きい。
条件(ii):(IB-IS)/ISが、0.73より大きい。
【0008】
本開示によれば、所定のピークAおよびピークBを有するため、イオン伝導性が良好な固体電解質となる。
【0009】
上記開示においては、上記X線回折測定において観察される全ピークの中で、上記ピークAの強度または上記ピークBの強度が最も大きくてもよい。
【0010】
上記開示においては、上記(IA-IS)/ISが、7.74以上であってもよい。
【0011】
上記開示においては、上記(IB-IS)/ISが、3.16以上であってもよい。
【0012】
上記開示においては、上記金属塩における上記アニオンが、ホウ素クラスターアニオンであってもよい。
【0013】
また、本開示においては、上述した固体電解質を製造する固体電解質の製造方法であって、上記ピロリジニウム系有機カチオンおよび上記ホウ素クラスターアニオンを含有する上記マトリックスと、上記金属カチオンおよび上記アニオンを含有する上記金属塩と、を含有する前駆体を準備する、準備工程と、上記前駆体を、上記マトリックスの融解温度以上の温度で加熱し、上記前駆体の溶融物を得る、加熱工程と、上記溶融物を急冷して固化させることで上記固体電解質を得る、急冷工程と、を有する固体電解質の製造方法を提供する。
【0014】
本開示によれば、急冷工程を有することで、イオン伝導性が良好な固体電解質を製造できる。
【0015】
また、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも1つが、上述した固体電解質を含有する、全固体電池。
【0016】
本開示によれば、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層の少なくとも1つが、上述した固体電解質を含有するため、入力特性および出力特性が良好な全固体電池となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示においては、イオン伝導性が良好な固体電解質を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示における固体電解質の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【
図3】実施例1および比較例1におけるX線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示における固体電解質、固体電解質の製造方法および全固体電池について、詳細に説明する。
【0020】
A.固体電解質
本開示における固体電解質は、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する固体電解質であって、上記固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有する。また、本開示における固体電解質は、上記X線回折測定において観察される全ピークの中で、上記ピークAの強度または上記ピークBの強度が最も大きいことが好ましい。また、本開示における固体電解質は、上記ピークAの強度をIAとし、上記ピークBの強度をIBとし、基準位置における強度をISとした場合に、所定の条件を満たすことが好ましい。
【0021】
本開示によれば、所定のピークAおよびピークBを有するため、イオン伝導性が良好な固体電解質となる。
【0022】
上述のように、イオン伝導性が良好な固体電解質が望まれている。本発明者は、有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を含有する電解質組成物(固体電解質)について、鋭意検討を重ねた結果、所定の製造方法よって新規の結晶相を有した固体電解質が得られることを見出し、この固体電解質が良好なイオン伝導性を有していることを見出した。
【0023】
本開示における固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=15.7°±0.5°の位置に現れるピークAおよび2θ=18.2°±0.5°の位置に現れるピークBを有している。ピークAおよびピークBの位置は、それぞれ、±0.3°の範囲で前後していてもよく、±0.1°の範囲で前後していてもよい。
【0024】
本開示においては、X線回折測定において観察される全ピークの中で、ピークAの強度またはピークBの強度が最も大きいことが好ましい。
【0025】
また、本開示においては、ピークAの強度をIAとし、ピークBの強度をIBとし、基準位置における強度をISとした場合に、以下の条件(i)および条件(ii)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
条件(i):(IA-IS)/ISが、2.69より大きい。
条件(ii):(IB-IS)/ISが、0.73より大きい。
なお、本開示においては、(IA-IS)/ISで算出される値を規格値1、(IB-IS)/ISで算出される値を規格値2とも称する場合がある。
【0026】
ここで、本開示において、「基準位置」とは、X線回折測定においてピークが観察されない位置を意味する。基準位置は、最も低角度側に観察されるピークの位置から、-2°以上離れた位置、または、最も高角度側に観察されるピークの位置から、+2°以上離れた位置とすることが好ましい。具体的な基準位置としては、例えば2θ=12.0°を挙げることができる。
【0027】
(IA-IS)/ISは、3.00以上であってもよく、5.00以上であってもよく、7.00以上であってもよく、7.74以上であってもよい。一方、(IA-IS)/ISの上限は特に限定されないが、例えば、13.00以下である。また、(IB-IS)/ISは、1.00以上であってもよく、2.00以上で当ってもよく、3.00以上であってもよく、3.16以上であってもよい。一方、(IB-IS)/ISの上限は特に限定されないが、例えば、8.00以下である。
【0028】
また、IAとIBとは、同じであってもよく、異なっていてもよく。IAとIBとが「同じ」とは、IAに対するIBの比(IB/IA)が、0.95以上、1.05以下の場合をいう。IAとIBとが異なる場合、IB/IAは、例えば、0.5以上であり、0.7以上であってもよく、0.9以上であってもよい。一方、IB/IAは、例えば、1.5以下であり、1.3以下であってもよく、1.1以下であってもよい。
【0029】
また、本開示における固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、ピークAおよびピークBのみを有していてもよく、ピークAおよびピークB以外のピークを有していてもよい。後者の場合、ピークAおよびピークB以外のピークの位置としては、例えば、2θ=15.0±0.5°、16.8°±0.5°および17.4°±0.5°の少なくとも一つを挙げることができる。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.3°の範囲で前後していてもよい。本開示においては、上記位置に得られるピークを、ピークXと称する場合がある。
【0030】
また、本開示における固体電解質は、X線回折測定において2θ=16.1±0.5°の位置にピークYを有さないことが好ましい。ピークYは、上述したピークA、BおよびX以外のピークである。「ピークYを有さない」とは、2θ=16.1±0.5°の位置における、ピークA、BおよびX以外のピークの強度をIYとした場合に、IY/IAが、0.1以下であること、または、IY/IBが、0.1以下であることをいう。
【0031】
1.マトリックス
本開示におけるマトリックスは、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有する。固体電解質は、1種のマトリックスを含有していてもよく、2種以上のマトリックスを含有していてもよい。
【0032】
ピロリジニウム系有機カチオンは、通常、ピロリジニウム骨格を有する有機カチオンであり、下記構造で示されることが好ましい。
【0033】
【0034】
式中、RおよびR’は、それぞれ独立に下記のいずれかの群に属する置換基である。
群(i):直鎖、分岐鎖または環状の、炭素数が1から8のアルキル基またはフルオロアルキル基。
群(ii):炭素数が6から9のアリール基またはフルオロアリール基。
群(iii):直鎖、分岐鎖また環状の、炭素数が1から8のアルコキシ基またはフルオロアルコキシ基。
群(iV):炭素数が6から9のアリールオキシ基またはフルオロアリールオキシ基。
群(v):アミノ基。
群(vi):群(i)~(v)のいずれか2つ以上によって定義される2以上の部分を有する置換基。
【0035】
具体的なピロリジニウム系有機カチオンとしては、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(Pyr13)、N-メチル-N-(2-メトキシエチル)-ピロリジニウム(Pyr12ol)、N-メチル-N-エチルピロリジニウム(Pyr12)およびN-メチル-N-ブチルピロリジニウム(Pyr14)を挙げることができる。
【0036】
ホウ素クラスターアニオンとは、ホウ素原子を6個から12個有し実効電荷が-2であるボラン;クラスタ構造中に、炭素原子を1個およびホウ素原子を5個から11個有し、実効電荷が-1であるカルボラン;および、クラスタ構造中に、炭素原子を2個およびホウ素原子を4個から10個有し、実効電荷が-1または-2であるカルボランのうち、いずれかのアニオン形態を意味する。
【0037】
ホウ素クラスターアニオンは非置換であってよく、ホウ素原子および炭素原子の他には水素原子のみを有してよい。また、ホウ素クラスターアニオンは水素原子が置換されていてもよい。この場合、水素原子がハロゲン原子および有機置換基の少なくとも一方で置き換えられてもよい。置換される水素原子数は1であってもよく、2以上であってもよい。ハロゲン原子および有機置換基の種類は、それぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0038】
ホウ素クラスターアニオンは、例えば、以下の一般式(i)~(v)のいずれかで表すことができる。
一般式(i):[ByH(y-z-i)R1
zXi]2-
一般式(ii):[CB(y-1)H(y-z-i)R1
zXi]-
一般式(iii):[C2B(y-2)H(y-t-j-1)R1
tXj]-
一般式(iv):[C2B(y-3)H(y-t-j)R1
tXj]-
一般式(v):[C2B(y-3)H(y-t-j-1)R1
tXj]2-
式中、yは、6≦y≦12を満たす整数であり、z+iは、0≦z+i≦yを満たす整数であり、t+jは、0≦t+j≦y-1を満たす整数であり、Xは、F、Cl、BrおよびIの内少なくとも1以上である。また、R1は、有機置換基または水素である。
【0039】
ホウ素クラスターアニオンとしては、例えば、[B6H6]2-、[B12H12]2-、[CB9H10]-、[CB11H12]-、[C2B10H11]-が挙げられる。また、ホウ素クラスターアニオンは、いわゆるcloso構造を有していてもよい。
【0040】
2.金属塩
本開示における金属塩は、金属カチオンおよびアニオンを含有する。固体電解質は、1種の金属塩を含有していてもよく、2種以上の金属塩を含有していてもよい。
【0041】
金属カチオンとしては、例えばLi+およびNa+等のアルカリ金属カチオン、Mg2+およびCa2+等のアルカリ土類金属カチオンが挙げられる。
【0042】
金属塩におけるアニオンは、上述したホウ素クラスターアニオンであってもよく、ホウ素クラスターアニオンでなくてもよい。後者の場合、上記アニオンとしては、例えば、(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、およびテトラフルオロボレート(BF4)を挙げることができる。
【0043】
3.固体電解質
本開示における固体電解質は、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を有する。
【0044】
固体電解質は、カチオンとして、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを有する。ピロリジニウム系有機カチオンおよび金属カチオンの合計に対する、ピロリジニウム系有機カチオンの割合は、例えば、1mol%以上50mol%以下であり、5mol%以上30mol%以下であってもよい。固体電解質は、カチオンとして、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム(Pyr14)およびLiを少なくとも含有することが好ましい。すなわち、ピロリジニウム系有機カチオンとしてPyr14を含有するマトリックスと、金属カチオンとしてLiを含有する金属塩とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0045】
固体電解質は、アニオンとして、ホウ素クラスターアニオンを少なくとも有する。固体電解質におけるアニオンは、ホウ素クラスターアニオンのみであってもよい。また、固体電解質は、アニオンとして、1種、2種または3種以上のホウ素クラスターアニオンを有していてもよい。固体電解質は、アニオンとして、[B6H6]2-、[B12H12]2-、[CB9H10]-、[CB11H12]-、[C2B10H11]-の少なくとも一種を含有することが好ましい。中でも、固体電解質は、アニオンとして、[CB9H10]-および[CB11H12]-を少なくとも含有することが好ましい。例えば、固体電解質が、アニオンとして、[CB9H10]-および[CB11H12]-を含有する場合、[CB9H10]-および[CB11H12]-の合計に対する[CB9H10]-の割合は、例えば、30mol%以上90mol%以下であり、40mol%以上80mol%以下であってもよく、50mol%以上、70mol%以下であってもよい。
【0046】
本開示における固体電解質は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば0.3mS/cm以上であり、0.6mS/cm以上であってもよく、0.9mS/cm以上であってもよい。一方、25℃におけるイオン伝導度は、例えば7mS/cm以下であり、5mS/cm以下であってもよく、3mS/cm以下であってもよく、2mS/cm以下であってもよく、1.2mS/cm以下であってもよい。
【0047】
固体電解質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。固体電解質の粒子径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。なお、粒子径D50とは、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径をいう。また、固体電解質の弾性率は低いことが好ましい。弾性率は、例えば、10GPa未満であり、1GPa未満であってもよく、0.5GPa未満であってもよい。また、固体電解質は、単一の結晶相を備える単相材料であってもよく、複数の結晶相を備える複相材料であってもよい。
【0048】
B.固体電解質の製造方法
図1は、本開示における固体電解質の製造方法の一例を示すフロー図である。
図1に示すように、本開示における固体電解質の製造方法は、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を含有する前駆体を準備する、準備工程と、上記前駆体を、上記マトリックスの融解温度以上の温度で加熱し、上記前駆体の溶融物を得る、加熱工程と、上記溶融物を急冷して固化させることで上記固体電解質を得る、急冷工程と、を有する。
【0049】
本開示によれば、急冷工程を有することで、イオン伝導性が良好な固体電解質を製造できる。
【0050】
1.準備工程
準備工程は、ピロリジニウム系有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスと、金属カチオンおよびアニオンを含有する金属塩と、を含有する前駆体を準備する工程である。
【0051】
準備工程では、前駆体を購入して準備してもよく、自ら調製して準備してもよい。後者の場合、例えば、上述したマトリックスの材料および金属塩の材料を、混合して準備することができる。各材料の割合は、目的とする固体電解質の組成を考慮して、適宜調整することが好ましい
【0052】
2.加熱工程
加熱工程は、前駆体を、マトリックスの融解温度以上の温度で加熱し、前駆体の溶融物を得る工程である。
【0053】
加熱工程における加熱温度は、上記マトリックスの融点以上であれば限定されないが、例えば、150℃以上、200℃以下とすることができる。また、加熱工程の時間(加熱時間)は、短いことが好ましい。加熱時間は、例えば、12時間以下であり、9時間以下であってもよく、6時間以下であってもよい。一方、加熱時間は、例えば2時間以上であり、4時間以上であってもよい。
【0054】
3.急冷工程
急冷工程は、溶融物を急冷して固化させることで上述した固体電解質を得る工程である。
【0055】
急冷方法においては、通常、溶融物を、直接的または間接的に冷媒に接触させる方法が用いられる。溶融物の温度と、冷媒の温度との差は、例えば80℃以上であり、100℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。例えば、溶融物の温度が160℃であり、その溶融物を室温(冷媒温度25℃)に曝した場合、両者の温度差は、135℃である。
【0056】
また、急冷工程における冷却速度は、例えば3℃/min以上であり、10℃/min以上であってもよく、100℃/min以上であってもよい。ここで、冷却速度とは、急冷前の溶融物の温度と、急冷後の固体電解質の温度(例えば50℃)との温度との差を、急冷時間(例えば50℃に達するまでの時間)で除して求められる平均冷却速度をいう。冷却速度が遅すぎると、イオン伝導に寄与できない結晶相が形成されてしまうと推察される。また、急冷は、溶融物が固化する温度にまで冷却できればよいが、例えば、50℃以下にまで冷却してもよく、室温(25℃)にまで冷却してもよい。急冷工程における急冷時間は、例えば1秒間以上、45分間以下である。具体的な急冷方法としては、例えば、溶融物を室温に曝す方法、溶融物が入った容器を水、氷水等の液体に接触させる方法、溶融物を回転する金属ロールに接触させる方法が挙げられる。
【0057】
C.全固体電池
図2は、本開示における全固体電池一例を示す概略断面図である。
図2に示される全固体電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に配置された固体電解質層3とを有し、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも1つが上述した固体電解質を含有する。また、全固体電池10は、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5とを有している。
【0058】
本開示によれば、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層の少なくとも1つが、上述した固体電解質を含有するため、入力特性および出力特性が良好な全固体電池となる。
【0059】
1.正極活物質層
本開示における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有し、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0060】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4等のスピネル型活物質、LiFePO4等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0061】
固体電解質としては、全固体電池に用いられる従来公知の固体電解質を用いることができるが、上述した本開示における固体電解質であることが好ましい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等の炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0062】
2.負極活物質層
負極活物質層は、負極活物質を少なくとも含有し、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0063】
負極活物質としては、例えば、Si、Sn、Li、In、Al等の金属活物質(単体または合金)、グラファイト等のカーボン活物質、チタン酸リチウム等の酸化物活物質が挙げられる。
【0064】
固体電解質としては、全固体電池に用いられる従来公知の固体電解質を用いることができるが、上述した本開示における固体電解質であることが好ましい。導電材およびバインダーについては、「1.正極活物質層」に記載したと同様であるので、ここでの記載は省略する。負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0065】
3.固体電解質層
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じてバインダーを含有していてもよい。
【0066】
固体電解質としては、全固体電池に用いられる従来公知の固体電解質を用いることができるが、上述した本開示における固体電解質であることが好ましい。バインダーについては、「1.正極活物質層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0067】
4.正極集電体および負極集電体
本開示における全固体電池は、通常、正極活物質層の集電を行う正極集電体と、負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する。正極集電体および負極集電体は特に限定されず、全固体電池に用いられる従来公知の正極集電体および負極集電体とすることができる。正極集電体としては、例えばAlおよびSUS等が挙げられる。負極集電体としては、例えばCuおよびNi等が挙げられる。なお、正極集電体および負極集電体の厚さ、形状については、全固体電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0068】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、典型的には全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0069】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
(固体電解質の合成)
有機カチオンおよびホウ素クラスターアニオンを含有するマトリックスとして、Pyr14CB9H10を準備した。また、金属塩として、LiCB9H10およびLiCB11H12を準備した。これらを、Pyr14CB9H10:LiCB9H10:LiCB11H12=2:4:4のモル比となるように秤量し、混合した。次に、混合物を、160℃で、6時間加熱混合した。その後、30分経過してから融液を加熱装置からおろし、室温まで急冷した。これにより、固体電解質を合成した。
【0071】
(評価用セルの作製)
合成した固体電解質を20kNのプレス圧でペレット形成した。これをAl箔で挟み評価用セルを作製した。
【0072】
[比較例1]
加熱混合の時間を15時間とし、その後、加熱装置のスイッチを切り、加熱装置上で2時間かけて室温まで徐冷したこと以外は、実施例1と同様にして、固体電解質および評価用セルを作製した。
【0073】
[評価]
(X線回折測定)
実施例1および比較例1で得られた固体電解質に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。XRD測定の結果を
図3に示す。また、XRD測定の結果から、規格値1((I
A-I
S)/I
S)および規格値2((I
B-I
S)/I
S)を算出した。結果を表1に示す。なお、I
Sとしては、2θ=12.0°における強度を用いた。
【0074】
(イオン伝導度測定)
実施例1および比較例1で得られた評価用セルに対して、交流インピーダンス法により、25℃におけるイオン伝導度を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
表1に示すように、比較例1よりも実施例1のイオン伝導度が高かった。また、表1および
図3に示すように、実施例1では、規格値1および規格値2ともに比較例1よりも大きかった。また、
図3に示すように、実施例1では、2θ=15.7°の位置に得られたピークAの強度が最も大きく、2θ=18.2°の位置に得られたピークBの強度が次に大きかった。一方、比較例1では、2θ=17.4°の位置に得られたピークの強度が最も大きかった。また、比較例1では、2θ=16.1°付近に、実施例1では確認されなかったピークが確認された。この結果から、実施例1の固体電解質は、比較例1の固体電解質とは異なる結晶相を有していることが確認された。
【符号の説明】
【0077】
1 …正極活物質層
2 …負極活物質層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池