(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20241001BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241001BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20241001BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/32 101
B32B27/34
B32B27/36
(21)【出願番号】P 2021503937
(86)(22)【出願日】2021-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2021000129
(87)【国際公開番号】W WO2021145237
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2020005650
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020135725
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 美唯妃
(72)【発明者】
【氏名】龍田 真佐子
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】寺本 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勝也
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-183098(JP,A)
【文献】特開2019-171805(JP,A)
【文献】特開2001-131318(JP,A)
【文献】特開2014-156256(JP,A)
【文献】特表2018-506622(JP,A)
【文献】特開2009-221518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
C08J7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に少なくとも1層のコーティング層が積層された積層フィルムであって、前記コーティング層が酸変性ポリオレフィンと疎水性酸化物粒子を含んでなり、
前記疎水性酸化物微粒子が、表面にトリメチルシリル基を導入した疎水性シリカ微粒子であり、X線光電子分光装置(ESCA)による10nm深さ領域の炭素原子の比率が8at%以上であり、前記酸変性ポリオレフィンの酸価が1.0mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である積層フィルム。
【請求項2】
前記疎水性酸化物粒子の1次粒子平均径が5nm~300nmである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記コーティング層の固形分に対する疎水性酸化物粒子の固形分含有量が10~90質量%である請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記酸変性ポリオレフィンが、酸変性ポリプロピレンである請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記コーティング層表面の水に対する接触角が100度以上である請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、またはポリイミドフィルムである請求項1~5のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。更に詳しくは、撥水・撥油性を持つコーティング積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面において撥水・撥油性を示す材料は、防汚性が必要とされる分野において工業的に重要である。防汚性を達成するためには、汚染物質と材料表面の相互作用を低下させる必要があり、通常、材料表面の撥水化や撥油化により達成されることが一般的である。
【0003】
従来、撥水性を発現するための撥水処理方法としては、水よりも表面エネルギーが低いフッ素系樹脂やシリコン系樹脂などをフィルム表面に付与する方法や、これらに加えて微細な凹凸をフィルム表面に形成する方法などが知られている(例えば。特許文献1~4参照)。
【0004】
しかしながら、一般的に、フィルム表面に撥水性を付与するためのコーティング方法は基材との接着性が低く、容易にコーティング層が脱落してしまうという問題があった。また、一般的に、撥水かつ撥油性を示す表面を持つフィルムが形成できたとしてもフィルムの透明性が保ちにくいなど、フィルム材料としての特性が必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-284102号公報
【文献】特開2002-113805号公報
【文献】特開2018-103534号公報
【文献】特開2007-138027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、優れた撥水・撥油性を示し、かつ基材フィルムとコーティング層の接着性が良好な積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. 基材フィルム上に少なくとも1層のコーティング層が積層された積層フィルムであって、前記コーティング層が酸変性ポリオレフィンと疎水性酸化物粒子を含んでなり、前記酸変性ポリオレフィンの酸価が1mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である積層フィルム。
2. 前記疎水性酸化物粒子の1次粒子平均径が5nm~300nmである上記第1に記載の積層フィルム。
3. 前記コーティング層の固形分に対する疎水性酸化物粒子の固形分含有量が10~90質量%である上記第1又は第2に記載の積層フィルム。
4. 前記酸変性ポリオレフィンが、酸変性ポリプロピレンである上記第1~第3のいずれかに記載の積層フィルム。
5. 前記コーティング層表面の水に対する接触角が100度以上である上記第1~第4のいずれかに記載の積層フィルム。
6. 基材フィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、またはポリイミドフィルムである上記第1~第5のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層フィルムは、少なくとも基材層とコーティング層を備え、前記コーティング層中に酸変性ポリオレフィンを含むことにより基材フィルムとの接着性が良好である。また、コーティング層中に疎水性酸化物粒子や、特定の低い酸価を有する酸変性ポリオレフィンを含ませることにより、積層フィルムのコーティング層表面における撥水・撥油性が良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。本発明は、優れた防汚性を示す有用な撥水・撥油性を持つ積層フィルムを提供するものである。すなわち、基材フィルム上にコーティング層が積層された積層フィルムであって、前記コーティング層が酸価が1mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の酸変性ポリオレフィンと疎水性酸化物粒子を含むコーティング層であることにより、フィルム最表面において優れた撥水性および撥油性を示し、基材フィルムとの強固な接着も可能であり、さらに高い透明性を有する積層フィルムを提供することができる。
【0010】
(基材フィルム)
本発明における積層フィルムは、基材フィルムを有する。この基材フィルムの材質は特に限定されないが、可撓性など取り扱い性の観点から樹脂フィルムであることが好ましい。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーなどのポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6、10、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系炭化水素系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリドなどのフッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。これらのうち、透明性と寸法安定性の観点から、ポリエステル樹脂やアクリレート樹脂からなるフィルムであることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。これらのうち、物性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリイミドが好ましく、物性とコストのバランスという観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0011】
基材フィルムは、単層であっても良く、二種以上の層が積層されていても良い。二種以上の層が積層される場合には、同種または異種のフィルムを積層することができる。また、基材フィルムに樹脂組成物を積層させてもよい。さらに、本発明の効果を奏する範囲内であれば、必要に応じて基材フィルム中に各種の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられる。基材フィルムが二種以上の層から構成される場合には、各層の機能に応じて添加物を含有させることもできる。基材フィルムの滑り性や巻き性などのハンドリング性を向上させるために、基材フィルム中に不活性粒子を含有させても良い。
【0012】
本発明において、基材フィルムの厚さは特に限定されないが、5μm以上300μm以下であることが好ましい。10μm以上280μm以下であることがより好ましく、12μm以上260μm以下であることがさらに好ましい。5μm以上であるとコーティング層の積層時に塗工しやすく、300μm以下であるとコスト的に有利である。
【0013】
基材フィルムの表面は未処理の状態で用いても良いが、コーティング層との接着性を向上させるため、表面処理を施したものであっても良い。具体的には、アンカーコート層を設けたり、プラズマ処理、コロナ処理、火炎処理などの表面処理を行ったものを用いることができる。
【0014】
(疎水性酸化物粒子)
本発明における積層フィルムのコーティング層は、疎水性酸化物粒子を含有する。この疎水性酸化物粒子は、疎水性を有するものであれば特に限定されず、例えば、親水性酸化物粒子を表面処理によって疎水化したものであっても良い。すなわち、親水性酸化物粒子に対してシランカップリング剤などの任意の試薬で表面処理を行い、その表面を疎水化したものを用いることができる。
【0015】
酸化物の種類は特に限定されない。例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの少なくとも1種類を用いることができる。これらは、任意の化合物を経由して合成したものであっても良く、公知または市販のものを使用しても良い。特にシリカ(二酸化ケイ素)の粒子は、後述の疎水化が容易であり好ましい。
【0016】
シリカ粒子に代表される酸化物粒子の疎水化方法は、シリコンオイル、シランカップリング剤およびシラザンなど公知の各種試薬による表面処理が好適に用いられる。特に、優れた撥水・撥油性を示すという観点から、表面に1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチル基、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシル基、1H,1H,2H,2H-パーフルオロヘキシル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などに代表されるフッ素系官能基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、オクチル基などに代表されるアルキル基や、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、シクロヘキシル基、スチリル基、フェニル基、トリメチルシリル基などを導入することがより好ましい。この中でも、より優れた撥水・撥油性を示すことから、トリメチルシリル基を導入した疎水性酸化物粒子が好ましく、トリメチルシリル基を導入した疎水性シリカが特に好ましい。これに対応する市販品としては、前記「AEROSIL(登録商標) R812」、「AEROSIL(登録商標) R812S」(いずれもエボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0017】
本発明における疎水性酸化物粒子の大きさは、一次粒子平均径が5nm以上300nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは5nm以上150nm以下、特に好ましくは5nm以上100nm以下、最も好ましくは5nm以上75nm以下である。一次粒子平均径を上記の範囲とすることにより、基材フィルムにコーティング層を積層した場合であっても、積層フィルムとしての透明性が保持されて好ましい。また、本発明において粒径の異なる複数種の疎水性酸化物粒子を混合して用いても良い。なお、本発明において、一次粒子平均径の大きさは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などを用いた顕微鏡による形態観察の結果、決定することができる。具体的には、これらの顕微鏡観察において任意に選んだ20個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とする。不定形の粒子の一次粒子平均径は円相当径として計算することができる。円相当径は、観察された粒子の面積をπで除し、平方根を算出し2倍した値である。
【0018】
本発明においては、疎水性酸化物粒子表面における撥水・撥油性を有する官能基による修飾率の指標として、X線光電子分光装置(ESCA)による測定結果を利用することができる。具体的には、10nm程度の深さ領域について原子組成比率を求め、撥水・撥油性を有する官能基を構成する特定の原子、例えば炭素原子の比率について比較することができる。本発明において、優れた撥水・撥油性を示すという観点から、例えば、トリメチルシリル基を導入した疎水性シリカの場合には、炭素原子の比率は8at%以上であることが好ましい。
【0019】
(酸変性ポリオレフィン)
本発明における酸変性ポリオレフィンは特に限定されず、前駆体のポリオレフィンとして好ましくは、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)等 のポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体等が挙げられる。
【0020】
前記のようなポリオレフィンの少なくとも一部がポリオレフィンや不 飽和カルボン酸変性ポリオレフィンであるものが挙げられ、好ましくは酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリエチレン、さらに好ましくは、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン、不飽和カルボン酸変性ポリエチレンである。不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸とをグラフト反応させてポリオレフィンを変性させたものであり、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、これらの酸無水物などが挙げられ、中でも無水マレイン酸、マレイン酸 が好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であり、より好ましくは1mgKOH/g以上35mgKOH/g以下、更に好ましくは1mgKOH/g以上25mgKOH/g以下、特に好ましくは1mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である。前記の酸価を満たす酸変性ポリオレフィンを用いることで、基材フィルムへの塗工性を維持しつつ、適当な疎水性を確保できる。
【0021】
(コーティング層中の成分)
本発明におけるコーティング層には、上記疎水性酸化物粒子以外の成分を含んでいても良い。具体的には、バインダー成分、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などが挙げられ、これらの成分を必要に応じて適宜含有させることができる。
【0022】
バインダー成分は、基材フィルムとよく接着させることができる成分であれば、特に限定されない。例えば、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などを用いることが好ましい。もちろん、バインダー成分の1種として酸変性ポリオレフィンが含まれていることは特に好ましい態様である。
【0023】
コーティング層中の疎水性酸化物粒子は、積層フィルムの撥水・撥油性を発現することができる任意の割合で使用することができるが、固形分としてコーティング層の10~90質量%とすることが好ましい。さらに好ましくは20~80質量%、特に好ましくは30~70質量%である。疎水性酸化物粒子を前記の割合で使用することにより、積層フィルムにおいて優れた撥水・撥油性を発現することができる。
【0024】
(コーティング液)
本発明においては、基材フィルム上に直接又は他の層を介してコーティング層を積層することにより、積層フィルムを得る。このコーティング層を形成するためのコーティング液は、疎水性酸化物粒子の分散液が酸変性ポリオレフィンを含んでいる場合には、そのまま用いることもできるが、他のバインダー成分など、前記のコーティング層を形成する各種成分や、適当な溶媒を単独または複数種類含んでいても良い。
【0025】
(積層フィルムの製造工程)
本発明の積層フィルムの製造において、コーティングの方法は特に制限されない。例えば、ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコート、ドクターブレードコート、スピンコート、スプレーコート、刷毛塗工などの公知の方法に従って作製することができる。これらの方法でコーティングを行う際に使用する溶媒は特に限定されず、例えば、水、アルコール類、ケトン類、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、酢酸ブチル、グリコール類などの有機溶媒を適宜選択して使用することができる。これらの溶媒は単独で用いても良く、複数を混合して用いても良い。溶媒に対する疎水性酸化物粒子の分散量は、均一な分散液が得られる任意の割合で選択することができる。コーティング後に乾燥する方法は、自然乾燥または加熱乾燥のいずれであっても良いが、工業的な製造という観点からは、加熱乾燥がより好ましい。乾燥温度は、基材フィルムやコーティング層の含有成分に影響を与えない範囲であれば特に限定されないが、通常は200°C以下が好ましく、50°C以上160°C以下がより好ましい。乾燥方法は特に限定されず、ホットプレートや熱風オーブン等、フィルムを乾燥させる公知の方法を用いることができる。乾燥時間については、乾燥温度等の他の条件により適宜選択されるが、基材フィルムやコーティング層の含有成分に影響を与えない範囲であれば良い。
【0026】
(撥水・撥油性)
本発明による積層フィルムの撥水・撥油性は公知の方法で評価することができる。具体的には、撥水性は水を用いた接触角測定により評価することができ、また撥油性はジヨードメタンを用いた接触角測定により評価することができる。本発明における好ましい水に対する接触角の範囲は100度以上、より好ましくは120度以上である。水の接触角が100度以上であると優れた撥水性を示すことから好ましく、120度以上であると、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に代表される従来のフッ素系樹脂シートと同等以上の撥水性を示すことからより好ましい。水に対する接触角の上限は以下のジヨードメタンに対する接触角に関連するが、180度以下が好ましい。また、本発明における好ましいジヨードメタンの接触角の範囲は60度以上、より好ましくは90度以上である。ジヨードメタンの接触角が60度以上であると、油汚れ等を抑制することができる撥油性を付与できる観点から好ましく、90度以上であると、従来のフッ素系樹脂シートと同等以上の撥油性を示すことからより好ましい。上限は、水に対する接触角の程度に関連するが、180度以下が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、具体的実施例を挙げて更に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。まず、本発明において採用した評価方法を説明する。
【0028】
(接触角測定)
作製した積層フィルムのコーティング層表面について、溶剤に対する接触角を測定した。接触角測定には、協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM-701を用いた。測定溶剤には純水とジヨードメタンを用いた。水の接触角(以下、WCAと省略する場合がある)は水滴を1.8μL滴下し、60秒後に測定した。ジヨードメタンの接触角(以下、DCAと省略する場合がある)はジヨードメタンの液滴を0.9μL滴下し、30秒後に測定した。
【0029】
(接着性測定)
フィルムとコーティング層の接着性は剥離強度を測定することで確認した。剥離強度は日本計測システム社のJSV-H1000を用いて測定した(単位:N/cm)。なお、本発明の実施例においては、2N/cm以上を合格とした。
【0030】
(一次粒子平均径の測定)
疎水性酸化物粒子の一次粒子平均径は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡による観察の結果、決定した。具体的には、これらの顕微鏡観察において任意に選んだ20個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とした。不定形の粒子の一次粒子平均径は円相当径として計算することができる。円相当径は、観察された粒子の面積をπで除し、平方根を算出し2倍した値である。
【0031】
(酸価の測定方法)
本発明における酸価(mgKOH/g-resin)は、1gの酸変性ポリオレフィンを中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、酸変性ポリオレフィン1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0032】
(疎水性酸化物粒子のESCA測定)
疎水性酸化物粒子分散液を清浄なアルミホイル上に滴下、乾燥させ、アルミホイル上に疎水性酸化物粒子薄膜を形成させた。この時、極力表面汚染が生じないよう速やかに乾燥させ、直ちにサンプリングして表面組成分析に供した。
装置にはK-Alpha+(Thermo Fisher Scientific社製)を用いた。測定条件の詳細は以下に示した。なお、解析の際、バックグラウンドの除去はshirley法にて行った。また、表面組成比は、基材のAlが検出されない部位3箇所以上の測定結果の平均値とした。
・測定条件
励起X線 : モノクロ化AlKα線
X線出力: 12kV、6mA
光電子脱出角度 : 90度
スポットサイズ : 400μmΦ
パスエネルギー: 50eV
ステップ : 0.1eV
【0033】
<無水マレイン酸変性ポリプロピレンA-1の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、ポリプロピレン100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸3質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド1質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に1時間撹拌した。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。得られた樹脂を減圧乾燥することにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸価6mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm80℃)を得た。
【0034】
<無水マレイン酸変性ポリプロピレンB-1の製造例>
1Lオートクレーブに、ポリプロピレン100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸8.5質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド4質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に1時間撹拌した。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。得られた樹脂を減圧乾燥することにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸価12.7mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm80℃)を得た。
【0035】
<無水マレイン酸変性ポリプロピレンC-1の製造例>
1Lオートクレーブに、ポリプロピレン100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸22質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド4質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に1時間撹拌した。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。得られた樹脂を減圧乾燥することにより、酸変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸価22.9mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm80℃)を得た。
【0036】
<無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液A-2、B-2、C-2の製造例>
反応容器に無水マレイン酸変性ポリプロピレンA-1を25g量り取り、そこへシクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比=9:1)を475g加え、1時間以上撹拌することで、固形分濃度が5質量%の無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液A-2を得た。同様に無水マレイン酸変性ポリプロピレンB-1、C-1についても、同様にして固形分濃度が5質量%の溶液を作製し、それぞれ無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液B-2、C-2とした。
【0037】
<シリカ粒子分散液Dの製造例>
疎水性シリカとして、表面にトリメチルシリル基を有する、市販のAEROSIL(登録商標)R812S(エボニック社製、一次粒子平均径7nm)を用いた。反応容器にR812Sを25g量り取り、そこへシクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比=9:1)を475g加え、12時間以上撹拌した。その後超音波ホモジナイザーを10分間当てることで、固形分濃度が5質量%のシリカ粒子分散液Dを得た。
【0038】
<シリカ粒子分散液Eの製造例>
疎水性シリカとして、ジメチルジクロロシランで変性した、市販のシリカ粒子AEROSIL(登録商標)R972(エボニック社製、一次粒子平均径60nm)を用いた。反応容器にR972を25g量り取り、そこへシクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比=9:1)を475g加え、12時間以上撹拌した。その後超音波ホモジナイザーを10分間当てることで、固形分濃度が5質量%のシリカ粒子分散液Eを得た。
【0039】
<シリカ粒子分散液Fの製造例>
反応容器1にテトラエトキシシラン100質量部及びエタノール339質量部を混合した。反応容器2にエタノール179質量部、アンモニア水(25%)14質量部、脱イオン水125質量部を混合したのち、反応容器2の内容物を反応容器1へ滴下して移した。この際、急激な反応を防ぐために10分かけて滴下した。滴下終了後、反応溶液を20℃下で48時間放置した。その後、アンモニアと水を蒸留で留去し、シリカ粒子分散液(平均一次粒子径260nm)を作製した。その後、ヘキサメチルジシラザン150質量部を添加し、65℃で2日間加熱することで、トリメチルシリル基で修飾されたシリカ微粒子分散液を作製した。シリカ微粒子分散液の固形分濃度を確認するために、アルミニウムカップ(1.3グラム)にシリカ微粒子分散液5グラムを測り取り、150℃のオーブン中で24時間以上加熱することで残留溶媒のエタノールと水を除去した。除去後のアルミカップを計量すると1.55グラムであったため、シリカ微粒子分散液5グラム中の固形分は0.25グラムと計算でき、シリカ微粒子分散液の固形分濃度は5質量%と確認した。その後、コーティング液を作製するために、シリカ微粒子分散液のエタノールを除去し、除去したエタノールと同量のシクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比=9:1)を追加し、シクロヘキサン/メチルエチルケトン=9/1を溶剤とする固形分濃度が5質量%のシリカ粒子分散液Fを得た。
【0040】
<コーティング液の製造例>
反応容器に無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液A-2 40質量部、シリカ粒子分散液E40質量部、シクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶媒(混合質量比=9:1)20質量部を加え、室温で1時間攪拌することでコーティング液を作製した。
【0041】
<コーティングフィルムの作製>
(実施例1)
前記コーティング液をポリエチレンテレフタレート(以下、PETフィルムと記載する場合がある)製のフィルムである東洋紡エステル(登録商標)フィルム(品番:E5100、厚み:75μm)のコロナ処理面に、バーコーター#3を用いてバーコート方式で塗布した後、120℃で1分間乾燥させることにより、コーティングフィルムを得た。
【0042】
(実施例2~12)
以下、コーティング液中の酸変性ポリプロピレン溶液の種類や配合量、シリカ粒子分散液の種類や配合量を表1のように変更することにより、実施例2~12のコーティングフィルムを得た。
【0043】
【0044】
(比較例1)
PETフィルムE5100のコロナ処理面に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液A-2(固形分5質量%)をバーコーター#3を用いて塗布した後、120℃で1分間乾燥させることにより、コーティングフィルムを得た。
【0045】
(比較例2)
実施例1における無水マレイン酸変性ポリプロピレン溶液A-2を、同濃度の無変性ポリプロピレン系溶液に変更し、シリカ微粒子分散液を配合しなかった以外は、実施例1と同様にしてコーティングフィルムを得た。比較例1、2の評価結果を表2に記載する。
【0046】
【0047】
ここで、上記のシリカ粒子分散液D~Fに含まれるシリカ粒子表面をESCAで分析した結果を表3に示す。
【0048】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、優れた撥水・撥油性を有し、防汚性を示す積層フィルムを提供することができる。本発明による積層フィルムは、包装、被覆、離型素材などの用途への応用が期待できるため、有用である。