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特許7563408遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 5/00 20060101AFI20241001BHJP
   B25J 3/00 20060101ALI20241001BHJP
   B25J 5/06 20060101ALI20241001BHJP
   B25J 9/06 20060101ALI20241001BHJP
   B25J 9/12 20060101ALI20241001BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20241001BHJP
   B25J 19/06 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B25J5/00
B25J3/00 A
B25J5/00 A
B25J5/06
B25J9/06 A
B25J9/12
B25J13/08
B25J19/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022033958
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023129147
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
(72)【発明者】
【氏名】石田 匡平
(72)【発明者】
【氏名】徳元 勇太
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-300880(JP,A)
【文献】特開昭60-249519(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001569(WO,A1)
【文献】特開昭62-178108(JP,A)
【文献】特開平08-229858(JP,A)
【文献】特開平08-300277(JP,A)
【文献】特開平08-338197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部を備えるマスタ操作装置と、
作業対象物に対して反力を伴う作業を行う作業用ツールを備えるマニピュレータと、
前記マニピュレータから張り出すように前記マニピュレータに取り付けられ、前記作業対象物に接触する接触部材と、
前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力を前記マスタ操作装置へフィードバックし、前記操作部の動きに対応するように前記マニピュレータを遠隔操作する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
カメラ画像又は距離センサによる位置制御によって、前記マニピュレータが搭載された移動台を前記作業対象物に接近させる接近させる第1制御と、
前記第1制御の後に、前記操作部の動きに対応するように前記マニピュレータを遠隔操作し、前記マニピュレータから張り出すように前記マニピュレータに取り付けられた接触部材を前記作業対象物に接触させる第2制御と、
前記第2制御の後に、前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力を前記マスタ操作装置へフィードバックする第3制御と、を実行する、遠隔操作システム。
【請求項2】
前記反力を伴う作業は、前記作業用ツールから前記作業対象物に対して噴射物を噴射する噴射作業である、請求項1に記載の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記接触部材はダンパー構造を有する、請求項1又は2に記載の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記接触部材の先端には、前記作業対象物に吸着する吸着体が設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記接触部材の先端には、前記作業対象物に沿って摺動する摺動体が設けられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項6】
前記接触部材は、前記接触部材と前記作業対象物とが接触した状態で前記作業用ツールが少なくとも2軸方向に移動可能となる位置に取り付けられている、請求項1から5のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記作業用ツールで前記反力を伴う作業が行われる場合に、前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力が、前記反力を伴う作業によって生じる反力より大きくなるように制御する、請求項1から6のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項8】
前記マニピュレータは、移動自在な移動台に搭載されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【請求項9】
作業対象物に対して反力を伴う作業を行う作業用ツールを備えるマニピュレータの遠隔操作方法であって、
カメラ画像又は距離センサによる位置制御によって、前記マニピュレータが搭載された移動台を前記作業対象物に接近させる接近させる第1工程と、
前記第1工程の後に、マスタ操作装置の操作部の動きに対応するように前記マニピュレータを遠隔操作し、前記マニピュレータから張り出すように前記マニピュレータに取り付けられた接触部材を前記作業対象物に接触させる第2工程と、
前記第2工程の後に、前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力を前記マスタ操作装置へフィードバックする第3工程と、を含む、マニピュレータの遠隔操作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法に関する。本開示は、特に、マニピュレータを遠隔操作する遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法に関する。遠隔操作は、いわゆるバイラテラル制御によるマスタスレーブシステムとして、マスタ操作装置の操作部によってマニピュレータを制御する技術を含む。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットのようなマニピュレータ(ロボットアーム)は、固定面又は安定した台座に設置されて、事前のティーチングにて教示された軌道でアーム先端を位置制御されている。このようなロボットアームの作業対象物は、ティーチングのときと位置が変わらないことが前提となっている。そのため、作業対象物の位置が変化する作業又は非定常な作業への適用は困難である。ここで、作業を自動化することが困難な非定常又は非定型の作業について、いわゆるマスタスレーブ遠隔操作によって、マスタ操作装置を手動操作して、スレーブマニピュレータを遠隔制御する事例がある。
【0003】
例えば特許文献1の技術は、スレーブマニピュレータの先端などにあるエンドエフェクタが剛性の高い物体と接触した場合に、入力グリップ(マスタ操作装置)に大きなスレーブ反力が発生しないように、あらかじめ設定した上限値以上になると上限値を入力グリップに帰還する。
【0004】
また、例えば特許文献2の技術は、車両から伸びるブ-ムの上端に搭載されたスレ-ブマニピュレータに作用する外力を反力として、車両側に搭載されたマスタマニピュレータにフイ-ドバック制御を行う。特許文献2の技術では、作業ポイントに至る経路上の障害物を検出し、障害物を避けるために回避点を設けて、スレーブマニピュレータが回避点を越えると反力を増加させるため、接触を未然に防止できる。
【0005】
また、例えば特許文献3は、劣化部の剥離を行うために、車両部に搭載された作業アームの先端に回転ローラーとウォータジェットノズルとを備える装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平08-229858号公報
【文献】特開平08-300277号公報
【文献】特開平08-338197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1の技術では、スレーブマニピュレータに伝わる反力を検知するが、着目している物体との接触による反力を対象とする。したがって、特許文献1の技術は、想定外の障害物に接触した場合の急な反力に対応できない。また、マスタ操作装置へ伝える反力に上限値が設けられているため、例えば想定外の大きな反力を受けた場合などに上限値以上の反力を感じ取ることができない。
【0008】
特許文献2の技術では、作業ポイントに至る経路上の障害物までの距離を視覚装置により判定する。しかし、視野角、視覚装置の画質(解像度)、撮影から投影まで時間遅れなどの影響によって、距離を見誤る可能性がある。
【0009】
特許文献3の技術では、マニピュレータで支持されたウォータジェットノズルで強制的に剥離する加工が施されるが、トンネルでの作業を前提としており、作業中に大きな反力が生じる。したがって、スレーブアームの操作には熟練を要する。
【0010】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、マニピュレータを容易に遠隔操作可能にする遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムは、
操作部を備えるマスタ操作装置と、
作業対象物に対して反力を伴う作業を行う作業用ツールを備えるマニピュレータと、
前記マニピュレータから張り出すように前記マニピュレータに取り付けられ、前記作業対象物に接触する接触部材と、
前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力を前記マスタ操作装置へフィードバックし、前記操作部の動きに対応するように前記マニピュレータを遠隔操作する制御装置と、を備える。
【0012】
本開示の一実施形態に係るマニピュレータの遠隔操作方法は、
作業対象物に対して反力を伴う作業を行う作業用ツールを備えるマニピュレータの遠隔操作方法であって、
マスタ操作装置の操作部の動きに対応するように前記マニピュレータを遠隔操作する工程と、
前記マニピュレータから張り出すように前記マニピュレータに取り付けられた接触部材を前記作業対象物に接触させる工程と、
前記接触部材が前記作業対象物から受ける反力を前記マスタ操作装置へフィードバックする工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、マニピュレータを容易に遠隔操作可能にする遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムを示す図である。
図2図2は、図1の遠隔操作システムの部分拡大図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムの部分拡大図である。
図4図4は、図3の遠隔操作システムの別の部分拡大図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係る遠隔操作システムの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示の実施形態に係る遠隔操作システム及びマニピュレータの遠隔操作方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0016】
<第1実施形態>
(システム構成)
図1に示すように、本実施形態に係る遠隔操作システム1は、作業対象物としての構造体51に対して反力を伴う作業を行う際に用いられるものであり、マニピュレータ(ロボットアーム)の一例であるスレーブアーム21と、マスタ操作装置22と、制御装置2と、接触部材と、を備えている。スレーブアーム21は、高所作業車11のブーム12の先端にある移動台13に搭載されている。移動台13は移動自在であるように構成されている。ここで、遠隔操作システム1は、反力を伴う作業を行うために、移動自在な台に搭載されるマニピュレータを遠隔操作するシステムであることが好ましいが、高所作業車11としての構成に限定されない。
【0017】
スレーブアーム21は、一例として6軸方向に自由度を有する垂直多関節型のロボットアームである。図2は、図1の遠隔操作システム1の部分拡大図である。図2に示すように、スレーブアーム21は、先端から順にa1、a2、a3、b3、b2及びb1の6つの軸(関節)を有しており、それぞれの軸周りに回転することで、6軸方向に移動可能となっている。ただし、マニピュレータは、マスタ操作装置22によって遠隔操作されるものであれば、ロボットアームに限定されず、任意の構造及び形状を有するものであってよい。
【0018】
マスタ操作装置22は、スレーブアーム21を操作する操作部を備えている。図1に示すように、マスタ操作装置22(制御装置2)とスレーブアーム21とはケーブル23によって接続されており、マスタ操作装置22によってスレーブアーム21の遠隔制御(マスタスレーブ遠隔制御)が実行される。操作部は、特定の構成に限定されないが、一例として、スレーブアーム21と同じ垂直多関節型のロボットアームとなっていてよい。マスタ操作装置22の操作部とスレーブアーム21とを同一形状とすることで、マスタスレーブ制御システムである遠隔操作システム1を組むのが比較的容易となる。ただし、マスタとスレーブについて、必ずしも相似形である必要はない。また、マスタとスレーブについて、同じ自由度である必要はない。また、操作部は、他の一例として、ジョグシャトルのような回転型のコントローラであってよい。
【0019】
制御装置2は、マスタ操作装置22を制御するとともに、スレーブアーム21の位置(角度)と反力をマスタ操作装置22へフィードバックする。具体的には、アームの角度から軌道計算されるスレーブアーム21の位置と、スレーブアーム21に作用する反力とを、バイラテラル制御で双方向に伝達可能となっている。スレーブアーム21が垂直多関節型のロボットアームの場合、各関節に設けられた駆動モータのトルクを、反力としてマスタ操作装置22に伝達する構成とすることが好ましい。マスタ操作装置22及び制御装置2は、操作室14に設けられてよい。操作室14には、スレーブアーム21に設置されたカメラからの画像を表示するモニターなどがさらに設けられていてよい。
【0020】
スレーブアーム21の先端には、構造体51に対して反力を伴う作業を行うための作業用ツール4が取り付けられている。作業用ツール4としては、例えば高所作業で使われるウォータジェット装置、サンドブラスト装置、高圧洗浄装置などの噴射装置が挙げられる。「反力を伴う作業」としては、作業用ツール4から構造体51に対して高圧水、洗浄水、サンドなどの噴射物を噴射する噴射作業などが挙げられる。作業用ツール4はエンドエフェクタとも称される。また、作業対象物である構造体51としては、例えば橋梁の桁下構造などの鋼構造物が挙げられるが、鋼構造物に限定されない。
【0021】
また、スレーブアーム21には、スレーブアーム21から張り出すように接触部材が取り付けられている。接触部材は作業対象物に接触する部材である。接触部材は、接触時の衝撃をやわらげるために緩衝性能を有することが好ましい。本実施形態において、接触部材は緩衝性能を備えるダンパー(吸着ダンパー7)である。緩衝性能は、本実施形態のようにダンパーを備えることで実現されてよいし、例えばゴムなどの伸縮する素材を用いることによって実現されてよい。接触部材は、スレーブアーム21から張り出してスレーブアーム21よりも先に構造体51に接触(当接)する大きさ、形状であればよく、例えば棒状のロッド、プローブ、湾曲した盾状のカバー(図2の接触カバー5参照)、クッション状のブロックなどでよい。接触部材(吸着ダンパー7)が構造体51に接触した際の反力は、スレーブアーム21へ伝わり、制御装置2を介してマスタ操作装置22へ伝達される。また、構造体51に接触する接触部材(吸着ダンパー7)によって、スレーブアーム21で作業を行う際に、構造体51に対してスレーブアーム21の姿勢を安定させることができる。ここで、接触部材(吸着ダンパー7)の先端(構造体51に接触する部分)に接触センサなどのセンサが取り付けられて、センサの検知結果が制御装置2へ伝えられる構成であってよい。
【0022】
本実施形態において、接触部材である吸着ダンパー7は、先端に吸着体が設けられている。吸着体は、例えば電磁石による磁着又は吸引機による真空吸着などの方法によって構造体51に吸着する部材である。吸着体の吸着力は、作業用ツール4による噴射作業の際に、スレーブアーム21に生じる反力よりも十分に大きくなるよう設定される。吸着体によって吸着ダンパー7を構造体51に吸着させることで、作業用ツール4による噴射作業の際に、噴射の反力によって作業用ツール4の姿勢が不安定になることを抑制することができ、構造体51に対してスレーブアーム21を安定して支持することができる。
【0023】
また、本実施形態において、吸着ダンパー7は図2に示すようにスレーブアーム21の先端から3つ目の関節に取り付けられている。そのため、接触部材(吸着ダンパー7)が構造体51に接触した状態で、スレーブアーム21の先端に取り付けられた作業用ツール4を3軸方向(a1、a2及びa3の方向)に移動させることが可能である。これにより、接触部材(吸着ダンパー7)によってスレーブアーム21を支持した状態で、作業用ツール4を自在に動かして作業を行うことが可能となる。ここで、3軸方向の「方向」は、回転方向に限らず、直線方向も含まれる。作業用ツール4は、接触部材が構造体51に接触した状態で、少なくとも2軸方向に移動可能となっていることが好ましい。作業用ツール4は、接触部材が構造体51に接触した状態で、4軸方向以上に移動可能となっていてよい。具体的に述べると、図2に示される軸b3、b2を有する関節などに接触部材が取り付けられてよい。
【0024】
このように、スレーブアーム21(マニピュレータ)から張り出す接触部材を設け、接触部材を構造体51(作業対象物)に接触させながらマスタ操作装置22で操作することによって、作業中の反力によって移動台13が移動したり揺れたりして不安定になり得る場合であっても、スレーブアーム21の姿勢を安定させることができる。また、接触部材が受ける反力がマスタ操作装置22にフィードバックされるため、カメラ画像又は距離センサによる位置制御だけに頼らずに、スレーブアーム21を容易に遠隔操作することが可能となる。ここで、作業中の反力の影響が生じないように、スレーブアーム21の重量を増加させる対応も一般にはあり得るが、スレーブアーム21が移動台13に搭載される構成において自由な移動を阻害してしまうために現実的でない。したがって、本実施形態に係る遠隔操作システム1の構成は、高所作業などで用いられるマニピュレータに対して特に有用である。
【0025】
また、本実施形態において、接触部材は、吸着ダンパー7に加えて、接触カバー5を含む。接触カバー5はスレーブアーム21に複数取り付けられている。接触カバー5は盾状の湾曲した接触面を有している。また、接触カバー5は、スレーブアーム21の複数の関節にそれぞれ取り付けられており、接触カバー5が構造体51に接触した際の反力がアームの関節部分に伝わるようになっている。ここで、接触カバー5は、1つの関節に対して複数が取り付けられていることが好ましく、アームの関節の外側(屈曲方向外側)に接触面が向くように取り付けられることが好ましい。また、接触カバー5は、関節の屈曲に合わせて回転するように移動してよい。また、複数の接触カバー5を1つの関節に取り付ける場合に、複数の接触カバー5が互いに間隔を空けたまま移動してよいし、関節の屈曲に合わせて接触カバー5同士が重なり合うことが可能であってよい。
【0026】
さらに、接触部材は、吸着ダンパー7と同様に緩衝機能を備えるダンパー構造を有する接触カバー5で構成されてよい。
【0027】
スレーブアーム21に複数の接触部材を取り付け、特に関節部分を接触カバー5で保護することにより、構造体51の形状が複雑で作業箇所が狭い場合などであっても、スレーブアーム21が構造体51の作業箇所以外の部分にぶつかってスレーブアーム21に急な反力が生じることを防ぐことができるとともに、スレーブアーム21を複数の接触部材によって安定した姿勢で支持することができる。
【0028】
(遠隔操作方法)
本実施形態に係る遠隔操作システム1によって作業を行う際の手順(マニピュレータの遠隔操作方法)が以下に説明される。本実施形態において、マニピュレータの遠隔操作方法は第1操作工程、第2操作工程及び第3操作工程を含む。
【0029】
第1操作工程では、高所作業車11のブーム12によって移動台13全体を上昇させ、スレーブアーム21を構造体51に接近させる。このとき、スレーブアーム21の先端をできるだけ曲げて、スレーブアーム21がコンパクトであるようにする。第1操作工程では、スレーブアーム21の先端を伸ばせば構造体51へ接触できる程度にまで、移動台13を構造体51へ接近させる。ここで、第1操作工程において、カメラ画像又は距離センサによる位置制御が実行されてよい。
【0030】
第2操作工程では、マスタ操作装置22の操作部が操作員によって操作されて、操作部の動きに対応するようにスレーブアーム21が遠隔操作される。また、第2操作工程では、スレーブアーム21から張り出すようにスレーブアーム21に取り付けられた吸着ダンパー7が、スレーブアーム21を伸ばすことによって徐々に伸ばされる。そして、吸着ダンパー7は作業対象物である構造体51に接触して吸着体が吸着する。吸着ダンパー7の構造体51への接触(吸着)によって、スレーブアーム21が支持される。
【0031】
第3操作工程では、吸着ダンパー7が構造体51から受ける反力がマスタ操作装置22にフィードバックされる。すなわち、操作員は、吸着ダンパー7が受ける反力を操作部で感じとる。操作員は、例えば反力が一定の範囲内になるよう力の調整を行いながらスレーブアーム21を遠隔操作して、作業用ツール4を構造体51の目標位置(作業位置)へ移動させることができる。つまり、第3操作工程では、反力がフィードバックされたマスタ操作装置22の操作部の動きに対応して、スレーブアーム21の遠隔操作がさらに実行される。ここで、スレーブアーム21が作業位置に到達した後も、吸着ダンパー7を構造体51に接触させたまま、スレーブアーム21の自重を構造体51で支えるように寄り掛けておくことで、スレーブアーム21の先端を安定させることができる。操作員は、スレーブアーム21先端の作業用ツール4の構造体51に対する位置を決定して、安定した状態で、反力を伴う作業を行うことができる。
【0032】
上記の手順によれば、接触部材(吸着ダンパー7)の先端に吸着体が設けられているため、接触部材を構造体51に吸着させた状態で作業を行うことができ、高所作業台に風圧などの外力が生じた場合でも構造体51との相対位置を安定させることができる。また、噴射による反力に対して吸着力で対抗することができる。また、本実施形態のように、スレーブアーム21の先端から3つ目の関節に接触部材を取り付けることによって、接触部材を構造体51に吸着させた状態で、スレーブアーム21の先端に取り付けられている作業用ツール4を3軸方向に操作することができる。
【0033】
ここで、マニピュレータの遠隔操作方法において、構造体51までの接近、接触は、ブーム12による移動台13の移動並びにスレーブアーム21の軸b1、b2及びb3に関する関節の操作で行ってよい。そして、接触部材を接触させた後の構造体51との距離の調整は、先端側の軸a1、a2及びa3に関する関節の操作で行ってよい。スレーブアーム21の6自由度(6軸)のうち、先端側の3自由度(3軸)とそれ以外の3自由度(3軸)とで役割が分かれてよい。
【0034】
<第2実施形態>
図3及び図4は、本開示の第2実施形態に係る遠隔操作システム1の部分拡大図である。図3及び図4で省略されている高所作業車11の部分は図1と同じである。本実施形態に係る遠隔操作システム1は、接触部材が、吸着体が設けられていない接触ダンパー3であることが第1実施形態と異なる。重複説明を回避するため、第1実施形態と異なる構成が以下に説明される。
【0035】
本実施形態において、吸着体による構造体51への吸着がないため、作業用ツール4からの噴射による反力で、スレーブアーム21が構造体51から離れることがないように、構造体51に対する接触ダンパー3の押し付け力を適切に調整する。つまり、本実施形態において、制御装置2は、作業用ツール4で「反力を伴う作業」が行われる場合に、接触部材が作業対象物である構造体51から受ける反力が、「反力を伴う作業」によって生じる反力より大きくなるように制御する。「反力を伴う作業」は、作業用ツール4から構造体51に対して噴射物を噴射する噴射作業である。
【0036】
作業用ツール4で作業を行う際に、まず、スレーブアーム21の接触ダンパー3を取り付けた関節よりも先端側の関節角度が固定される。そして、接触ダンパー3を取り付けた関節よりもスレーブアーム21の本体側(先端側の反対側)で、接触ダンパー3がストロークエンドまで収縮するように、噴射による反力以上の押し付け力を接触ダンパー3に与えながら接触ダンパー3を構造体51に押し付ける。ここで、スレーブアーム21の本体側の関節であれば、噴射による反力より十分に大きな関節トルクを持たせることができる。このとき、接触ダンパー3より鉛直下方のスレーブアーム21を構造体51に寄り掛からせることで、重力を利用して、接触ダンパー3が構造体51に押し付けられるようにしてよい。このように、接触ダンパー3の収縮ストローク範囲内で接触ダンパー3を構造体51に押し付けることで、接触ダンパー3が構造体51から受ける反力を噴射による反力よりも大きくすることができる。そして、噴射による反力によってスレーブアーム21が構造体51から離れることを抑制することができる。
【0037】
本実施形態では、吸着体のない接触ダンパー3を用いるため、構造体51に対して直ちに接触ダンパー3の位置をずらすことができ、作業用ツール4を平行移動させたり、任意の方向へ向けたりすることが可能である。つまり、本実施形態の構成によって、作業用ツール4の移動自由度を高めることができる。
【0038】
<第3実施形態>
図5は、本開示の第3実施形態に係る遠隔操作システム1の部分拡大図である。図5で省略されている高所作業車11の部分は図1と同じである。本実施形態に係る遠隔操作システム1は、スレーブアーム21における作業用ツール4及び接触部材の取り付け位置が第1実施形態及び第2実施形態と異なる。重複説明を回避するため、第1実施形態及び第2実施形態と異なる構成が以下に説明される。
【0039】
本実施形態において、スレーブアーム21の先端の部分に吸着体を備える接触部材(吸着ダンパー7)が取り付けられており、スレーブアーム21の先端から3つ目の関節に作業用ツール4が取り付けられている。この構成によって、作業用ツール4は接触部材に対して3軸方向(a1、a2及びa3の方向)に移動可能である。また、吸着ダンパー7は、それ自体が2つの可動部(図5のc1及びc2)を有しており、スレーブアーム21の先端に対して2軸方向に移動可能である。
【0040】
本実施形態において、接触部材を構造体51に接触させて吸着体を構造体51に吸着させてから、スレーブアーム21の先端から3つ目の関節に取り付けた作業用ツール4の方向を決定する手順が実行される。そして、スレーブアーム21の各関節の角度を固定した状態で作業用ツール4から噴射物が噴射される。このとき、作業用ツール4は、構造体51に対して、3軸方向の自由度に加えて接触部材の2軸方向の自由度を有するため、合計で5軸方向の自由度を有している。つまり、本実施形態の構成によって、作業用ツール4は5軸方向に移動自在であって、移動自由度がさらに高まる。
【0041】
本実施形態の構成は、制御装置2がスレーブアーム21の先端の反力しか得ることができない(中間の関節からの反力を得ることができない)場合などに特に有用である。ここで、作業用ツール4の取り付け位置は、先端から3つ目の関節に限定されない。ただし、作業用ツール4が接触部材に対して少なくとも2軸方向に移動可能であることが好ましいため、軸a2に関する関節か、それより本体側の関節に取り付けられる。作業用ツール4が例えば軸b3に関する関節に取り付けられる場合に、作業用ツール4は、構造体51に対して6軸方向の自由度を有する。また、接触部材が3つ以上の可動部を有してよい。さらに、作業用ツール4とスレーブアーム21の関節との間に自由度を設けて、作業用ツール4が関節に対して移動可能な構成としてよい。
【0042】
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例)
本実施例において、図3及び図4の遠隔操作システム1が用いられた。スレーブアーム21として、6自由度の関節を有する垂直多関節型のロボットアームが使用された。スレーブアーム21として使用された垂直多関節型のロボットアームは、本体重量が40kg、最大リーチ長さが1300mm、最大可搬重量が12kgである。
【0044】
マスタ操作装置22として、6自由度の関節を有する垂直多関節型のロボットアームが使用された。
【0045】
高所作業車11は、製鉄所の保守点検、清掃作業などで使われる一般的な作業車が使用された。ブーム12の最大高さは50mであった。また、高所作業車11の最大載荷重量は200kgであった。
【0046】
作業用ツール4として、100MPaの水圧の高圧洗浄機(洗浄ノズル)がスレーブアーム21の先端に取り付けられた。高圧洗浄機は、手持ちも可能な5kgの重量である。通常の人手作業でも、この高圧洗浄機を用いて1時間程度の作業が問題なく行われる。スレーブアーム21の先端に取り付けられた高圧洗浄機を用いて、鋼構造物のダスト洗浄及び表面の錆びを落とすケレン作業が行われた。
【0047】
比較のために、同じ高圧洗浄機を用いて人手作業が行われた。高圧洗浄機を手持ちする人手作業では、高所作業車11の移動台13を高さ40mの位置まで上げたところで、風の影響を受けて±100mm程度の揺れが生じて、洗浄及びケレンにムラが生じた。
【0048】
実施例として、接触ダンパー3が取り付けられたスレーブアーム21を、同じ移動台13に搭載して、高さ40mの位置まで上げた。移動台13が揺れる中で、マスタ操作装置22でスレーブアーム21を伸ばして、関節にある接触カバー5を鋼構造物に押し当てるように接触させたところ、スレーブアーム21の揺れを抑えることができた。
【0049】
移動台13の高さはそのままで、接触カバー5によってスレーブアーム21を鋼構造物に寄り掛けて、移動台13を水平方向へ1m移動させた。このとき、マスタ操作装置22の操作において、スレーブアーム21からの反力が一定の範囲内になるように力が調整された。
【0050】
目標とする作業エリアで移動台13の移動が止められた。目標とする作業エリアにおいて、スレーブアーム21の遠隔操作だけによって、鋼構造物の50cm×50cmの面積の洗浄及びケレン作業が行われた。
【0051】
スレーブアーム21に取り付けたカメラからの映像は操作室14のモニターに表示されていたが、作業中において、高圧洗浄機の水膜によって鋼構造物がほとんど見えなかった。しかし、接触ダンパー3からの反力を一定にしながらの遠隔操作によって、高圧洗浄機と鋼構造物の距離を一定に保つことができ、洗浄作業及びケレン作業を安定して行うことができた。
【0052】
以上のように、本開示の実施形態に係る遠隔操作システム1及びマニピュレータの遠隔操作方法は、上記の構成及び工程によって、マニピュレータを遠隔操作する際に、作業対象物に対してマニピュレータの姿勢を安定させて、マニピュレータに急激な力が作用することがないようにできる。そのため、本開示の実施形態に係る遠隔操作システム1及びマニピュレータの遠隔操作方法は、マニピュレータを容易に遠隔操作可能にする。
【0053】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0054】
上記の実施形態において、接触部材として、先端に吸着体を備える吸着ダンパー7を例示したが、接触部材の先端に別の部材が用いられてよい。例えば接触部材の先端には、構造体51に沿って摺動する摺動体が設けられていてよい。また、例えば接触部材の先端には、構造体51に係止する懸架フック等の係止体が設けられていてよい。また、接触部材の先端に異なる複数の部材が組み合わされて使用されてよい。また、先端に複数の機能を有する部材を備える接触部材が用いられてよい。例えば第1実施形態において、吸着体と摺動体を組み合わせて、吸着体を車輪(ローラー)又はクローラ等の摺動体で構成することができる。この場合に、吸着体を構造体51に吸着させた状態で吸着ダンパー7を構造体51に沿って摺動させて移動させることが可能となるため、接触部材が受ける反力を滑らかに精度よく伝えることができる。また、接触部材を安定して移動させることができる。
【0055】
上記の実施形態において主に高所作業を例に説明したが、本開示の実施形態に係る遠隔操作システム1及びマニピュレータの遠隔操作方法は、高所のみならず、難所、高温環境下、粉塵環境下、アクセスが困難な建築物又は構造物などで行われる作業の全般で使用され得る。
【符号の説明】
【0056】
1 遠隔操作システム
2 制御装置
3 接触ダンパー(接触部材)
4 作業用ツール(エンドエフェクタ)
5 接触カバー(接触部材)
7 吸着ダンパー(接触部材)
11 高所作業車
12 ブーム
13 移動台(高所作業台)
14 操作室
21 スレーブアーム(マニピュレータ)
22 マスタ操作装置
23 ケーブル
51 構造体(作業対象物)
図1
図2
図3
図4
図5