(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ステータの製造方法及びステータの製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2022052602
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】恩田 一志
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-014828(JP,A)
【文献】特開2021-090323(JP,A)
【文献】特開2021-197797(JP,A)
【文献】特開2014-023183(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0254733(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/085
H02K 15/10
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押付部材が押し付けて保持する保持工程と、
前記保持工程の後、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記絶縁紙の内側に挿入する第1の挿入工程と、
前記第1の挿入工程の後、前記スロットから前記押付部材を抜き出して退避させる退避工程と、を備える
ことを特徴とするステータの製造方法。
【請求項2】
前記退避工程の後、前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入する第2の挿入工程を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面のそれぞれに、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記保持工程は、前記ステータコアの径方向における前記スロットの開口側において、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する
ことを特徴とする請求項3に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面の端を連結する溝底面に、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のステータの製造方法。
【請求項6】
軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押し付けて保持する押付部材と、
前記押付部材が前記絶縁紙を保持した状態で、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記一端部とは反対側の他端部側へ向けて前記絶縁紙の内側に挿入させる第1の挿入部と、を備える
ことを特徴とするステータの製造装置。
【請求項7】
前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入させる第2の挿入部を更に備える
ことを特徴とする請求項6に記載のステータの製造装置。
【請求項8】
前記押付部材は、軸部と、前記軸線方向の前記一端部側から前記他端部側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部及び第2延出部を有し且つ前記第1延出部及び前記第2延出部が前記軸部を中心にそれぞれ回転可能な回転部と、を備え、
前記押付部材が前記軸線方向に移動して前記第1延出部の先端部が前記ステータコアの前記一端部に接触すると、前記第2延出部が回転して前記第2延出部の先端部が前記絶縁紙を前記スロットの内面に押し付ける
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のステータの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアのスロット内に配置された絶縁紙の内側にセグメントコイルを挿入するステータの製造方法及びステータの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアのスロット内に配置された絶縁紙の内側にセグメントコイルを挿入するステータの製造方法が知られている。例えば、特許文献1に記載されたステータの製造方法がそれである。特許文献1に記載のステータの製造方法では、絶縁紙の位置ずれの発生を抑制するため、絶縁紙の両端がテーパー状に拡開された後に、セグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される。また、セグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合には、両端がテーパー状に拡開された絶縁紙は、セグメントコイルが挿入されるのとは反対側の端部が支持板により支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたステータの製造方法であっても、セグメントコイルを絶縁紙の内側に挿入する場合において絶縁紙の厚さを薄くすると、絶縁紙の位置ずれ(座屈により絶縁紙がスロット内に引き込まれる位置ずれを含む)が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、セグメントコイルをスロット内に配置された絶縁紙の内側に挿入する場合における絶縁紙の位置ずれの発生を抑制できるステータの製造方法及びステータの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、ステータの製造方法であって、(a)軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押付部材が押し付けて保持する保持工程と、(b)前記保持工程の後、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記絶縁紙の内側に挿入する第1の挿入工程と、(c)前記第1の挿入工程の後、前記スロットから前記押付部材を抜き出して退避させる退避工程と、を備えることにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記退避工程の後、前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入する第2の挿入工程を更に備えることにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面のそれぞれに、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持することにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第3発明において、前記保持工程は、前記ステータコアの径方向における前記スロットの開口側において、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持することにある。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面の端を連結する溝底面に、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持することにある。
【0011】
第6発明の要旨とするところは、ステータの製造装置であって、(a)軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押し付けて保持する押付部材と、(b)前記押付部材が前記絶縁紙を保持した状態で、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記一端部とは反対側の他端部側へ向けて前記絶縁紙の内側に挿入させる第1の挿入部と、を備えることにある。
【0012】
第7発明の要旨とするところは、第6発明において、前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入させる第2の挿入部を更に備えることにある。
【0013】
第8明の要旨とするところは、第6発明又は第7発明において、(a)前記押付部材は、軸部と、前記軸線方向の前記一端部側から前記他端部側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部及び第2延出部を有し且つ前記第1延出部及び前記第2延出部が前記軸部を中心にそれぞれ回転可能な回転部と、を備え、(b)前記押付部材が前記軸線方向に移動して前記第1延出部の先端部が前記ステータコアの前記一端部に接触すると、前記第2延出部が回転して前記第2延出部の先端部が前記絶縁紙を前記スロットの内面に押し付けることにある。
【発明の効果】
【0014】
第1発明のステータの製造方法によれば、(a)軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押付部材が押し付けて保持する保持工程と、(b)前記保持工程の後、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記絶縁紙の内側に挿入する第1の挿入工程と、(c)前記第1の挿入工程の後、前記スロットから前記押付部材を抜き出して退避させる退避工程と、が備えられる。軸線方向のステータコアの一端部におけるスロットの内面に押付部材が絶縁紙を押し付けることで、絶縁紙と押付部材との間や絶縁紙とスロットの内面との間に摩擦力が発生する。これにより、第1のセグメントコイルがステータコアの一端部側から絶縁紙の内側に挿入される場合には、絶縁紙の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0015】
第2発明のステータの製造方法によれば、第1発明において、前記退避工程の後、前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入する第2の挿入工程が更に備えられる。押付部材がスロット内から抜き出された位置に第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合には、第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されない場合に比較して、同一のスロット内に挿入されるセグメントコイルの個数を多くすることが可能となる。なお、第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されていない場合に比較して、第1の挿入工程により第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されている場合には、絶縁紙と第1のセグメントコイルとの間の摩擦力の分だけ絶縁紙の位置ずれが発生しにくい。これにより、退避工程の後に、押付部材がスロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される第2の挿入工程では、絶縁紙の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0016】
第3発明のステータの製造方法によれば、第1発明又は第2発明において、前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面のそれぞれに、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する。第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合には、ステータコアの周方向における両側のそれぞれにおいて、絶縁紙は、第1のセグメントコイルから位置ずれを発生させる力を受ける。押付部材が絶縁紙をスロットの内面に押し付けて保持するのがステータコアの周方向における両側のそれぞれである場合には、絶縁紙が第1のセグメントコイルから位置ずれを発生させる力を受けるステータコアの周方向における両側において絶縁紙がそれぞれ保持される。そのため、第1のセグメントコイルがステータコアの一端部側から絶縁紙の内側に挿入される場合には、絶縁紙の位置ずれの発生がステータコアの周方向における両側においてそれぞれ抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0017】
第4発明のステータの製造方法によれば、第3発明において、前記保持工程は、前記ステータコアの径方向における前記スロットの開口側において、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する。絶縁紙におけるステータコアの径方向におけるスロットの開口側は、スロットの開口とは反対側に比較して、絶縁紙はステータコアの周方向に移動しやすいすなわち閉じやすい。ステータコアの径方向におけるスロットの開口側で絶縁紙が保持されて第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合、絶縁紙におけるステータコアの径方向の開口側は、押付部材によりステータコアの周方向に拡げられた状態で保持される。一方、ステータコアの径方向におけるスロットの開口とは反対側の位置で絶縁紙が保持されて第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合、絶縁紙におけるステータコアの径方向の開口側は、押付部材によりステータコアの周方向に拡げられた状態で保持されていない。したがって、ステータコアの径方向におけるスロットの開口側で絶縁紙が周方向に拡げられた状態で保持されて第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合、そうでない場合に比較して、第1のセグメントコイルが絶縁紙に引っ掛かりにくく、第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に円滑に挿入され得る。
【0018】
第5発明のステータの製造方法によれば、第1発明又は第2発明において、前記保持工程は、前記スロットの内面のうち前記ステータコアの周方向に対向する一対の溝側面の端を連結する溝底面に、前記押付部材が前記絶縁紙を押し付けて保持する。溝底面に押付部材が絶縁紙を押し付けて保持した状態で第1のセグメントコイルがステータコアの一端部側から絶縁紙の内側に挿入される場合には、スロットの内面に押付部材が絶縁紙を押し付けて保持していない状態で第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合に比較して、絶縁紙の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0019】
第6発明のステータの製造装置によれば、ステータの製造装置であって、(a)軸線を中心とする筒状のステータコアに設けられたスロット内に配置された絶縁紙を、前記軸線方向の前記ステータコアの一端部における前記スロットの内面に押し付けて保持する押付部材と、(b)前記押付部材が前記絶縁紙を保持した状態で、前記押付部材が配置されていない位置に、第1のセグメントコイルを前記一端部側から前記一端部とは反対側の他端部側へ向けて前記絶縁紙の内側に挿入させる第1の挿入部と、が備えられる。軸線方向のステータコアの一端部におけるスロットの内面に絶縁紙を押し付けて保持する押付部材により、絶縁紙と押付部材との間や絶縁紙とスロットの内面との間に摩擦力が発生する。これにより、ステータの製造装置により第1のセグメントコイルがステータコアの一端部側から絶縁紙の内側に挿入される場合には、絶縁紙の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0020】
第7発明のステータの製造装置によれば、第6発明において、前記押付部材が前記スロット内から抜き出された位置に、第2のセグメントコイルを前記絶縁紙の内側に挿入させる第2の挿入部が更に備えられる。ステータの製造装置により押付部材がスロット内から抜き出された位置に第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合には、第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されない場合に比較して、同一のスロット内に挿入されるセグメントコイルの個数を多くすることが可能となる。なお、第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されていない場合に比較して、第1の挿入部により第1のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入されている場合には、絶縁紙と第1のセグメントコイルとの間の摩擦力の分だけ絶縁紙の位置ずれが発生しにくい。これにより、押付部材がスロット内から抜き出された位置に、第2の挿入部により第2のセグメントコイルが絶縁紙の内側に挿入される場合には、絶縁紙の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイルとステータコアとの間の絶縁性の低下が抑制される。
【0021】
第8発明のステータの製造装置によれば、第6発明又は第7発明において、(a)前記押付部材は、軸部と、前記軸線方向の前記一端部側から前記他端部側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部及び第2延出部を有し且つ前記第1延出部及び前記第2延出部が前記軸部を中心にそれぞれ回転可能な回転部と、を備え、(b)前記押付部材が前記軸線方向に移動して前記第1延出部の先端部が前記ステータコアの前記一端部に接触すると、前記第2延出部が回転して前記第2延出部の先端部が前記絶縁紙を前記スロットの内面に押し付ける。押付部材が軸線方向に移動させられて第1延出部の先端部がステータコアの一端部に接触すると、回転部は、第2延出部が回転して第2延出部の先端部が絶縁紙を自動的にスロットの内面に押し付ける。ステータの製造装置がこのように簡易な構成の回転部を備えることにより、絶縁紙を自動的にスロットの内面に押し付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明により製造された回転電機のステータの概略構成を説明する斜視図である。
【
図2】
図1に示す回転電機のステータコアにコイルを巻回する方法の概略を説明する図である。
【
図3】
図1に示す回転電機のステータコアにコイルを巻回する方法の概略を説明する図である。
【
図4】本発明の実施例1に係るステータを製造する方法の各工程を説明する図である。
【
図6】
図5に示す押付部材の構成を説明する図である。
【
図7】
図4に示す第1の挿入工程及び退避工程を説明する図である。
【
図8】
図4に示す第2の挿入工程を説明する図である。
【
図9】本発明の実施例2に係るステータを製造する方法の各工程を説明する図である。
【
図11】
図9に示す保持工程、第1の挿入工程、及び退避工程を説明する図である。
【
図12】
図9に示す第2の挿入工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の各実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。以下、本明細書では、「軸線C1に平行な方向」、「ステータコア12の周方向」、及び「ステータコア12の径方向」を、それぞれ単に「軸線C1方向」、「周方向」、及び「径方向」と記す。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明により製造された回転電機MGのステータ10の概略構成を説明する斜視図である。
【0025】
回転電機MGは、例えばハイブリッド車両や電気自動車に搭載された電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電機機械であって、所謂モータジェネレータである。回転電機MGは、例えば車両の走行用駆動源である。回転電機MGは、軸線C1を中心とする筒状のステータ10と、ステータ10の内周側に配された不図示のロータと、を備える。ロータは、ステータ10が発生する回転磁界により回転可能とされる。
【0026】
ステータ10は、ステータコア12、コイル50、及び動力線90を備える。ステータコア12は、複数枚の電磁鋼板が積層された、軸線C1を中心とする筒状である。好適には、ステータコア12は円筒状であるが、その外形は円筒状に限られず筒状であれば良い。
【0027】
コイル50は、軸線C1を中心とする円筒状である。筒状のステータコア12の内周面12iには、径方向の外周側に向かう方向の深さを有し且つ軸線C1方向に貫通する複数本の溝部すなわちスロット14が軸線C1周りに等角度間隔で設けられている。スロット14は、径方向の内周側に開口14oを有する(
図5参照)。隣接するスロット14間には、歯部18が軸線C1周りに等角度間隔で形成されている。後述するように、スロット14にセグメントコイル52(
図2,
図3参照)が挿入されてそれら複数のセグメントコイル52同士が連結されることにより、歯部18にコイル50が巻回される。ステータコア12のうち歯部18以外の部位であって、電磁石となった歯部18同士の磁力線の経路となる部位がヨーク20である。なお、ステータコア12は、必ずしも電磁鋼板に限られず、例えば磁性体の粉体、固体等を成形加工したものであっても良い。
図1では、いくつかのスロット14をまたいで1個のコイルを巻く分布巻となっている。
【0028】
コイル50は、例えばU相、V相、及びW相の3相巻線である。コイル50の各相の端部が動力線90と電気的に接続されている。動力線90の先端には、インバータ等との接続のための外部端子92が装着されている。
【0029】
図2及び
図3は、
図1に示す回転電機MGのステータコア12にコイル50を巻回する方法の概略を説明する図である。
図2は、スロット14にセグメントコイル52を挿入した状態を周方向に展開して内周側から外周側に見た図である。
図2では、挿入されたセグメントコイル52の1つを代表して図示している。各スロット14には、例えば複数個(本実施例では8個)のセグメントコイル52が径方向に並べられて挿入される。
図3は、セグメントコイル52同士を溶接で接続した状態を周方向に展開して内周側から外周側に見た図である。
【0030】
スロット14に挿入されるセグメントコイル52は、例えば長手状導体板のような断面が長方形である所謂平角導体にエナメルなどの絶縁被膜が表面に形成されたものである。セグメントコイル52は、略U字状に曲げ加工されている。セグメントコイル52は、U字の左右で同じ方向に直線状に延びている一対の腕部54と、一対の腕部54の根元部同士を接続している接続部56と、を有する。一対の腕部54の先端部54tは、いずれも絶縁被膜が取り除かれている。
【0031】
まず、
図2に示すように、一対の腕部54がステータコア12の一端部12a側から他端部12b側に向けてスロット14内に挿入される。ステータコア12の一端部12aは、軸線C1方向におけるステータコア12の一方の端部であり、ステータコア12の他端部12bは、軸線C1方向におけるステータコア12の他方の端部である。これにより、接続部56が一端部12aに接触した状態とされる。また、一対の腕部54の先端部54tが他端部12bからそれぞれ突出した状態となる。
【0032】
次に、
図3に示すように、他端部12bから突出した先端部54tが周方向に曲げられる。そして、一のセグメントコイル52における他端部12bから突出した先端部54tと、他のセグメントコイル52における他端部12bから突出した先端部54tと、が溶接されて溶接部58が形成される。このように複数のセグメントコイル52同士が溶接部58によって電気的に接続されることにより、歯部18に巻回されたコイル50が形成される。溶接部58は、例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接によって形成される。
【0033】
なお、
図2及び
図3ではコイル50を巻回する方法を概念的に説明しているが、例えば実際には同一形状である複数のセグメントコイル52がスロット14に筒状に組み合わされた状態で挿入され、これら複数のセグメントコイル52が互いに溶接されることによって円筒状のコイル50が形成される。
【0034】
ここから、ステータ10の製造方法、特にセグメントコイル52の挿入方法について詳細に説明する。
【0035】
図4は、本発明の実施例1に係るステータ10を製造する方法の各工程を説明する図である。ステータ10の製造方法は、順に組付工程P10、保持工程P12、第1の挿入工程P14、退避工程P16、第2の挿入工程P18、及び接続工程P20の各工程を備える。後述するコイル挿入装置80によって、スロット14内に配置された絶縁紙28の内側にセグメントコイル52が挿入されたステータ10が製造される。
【0036】
組付工程P10は、それぞれのスロット14内に絶縁紙28を挿入して組み付ける工程である。スロット14は、周方向に対向する一対の溝側面16s(
図5参照)と、それら一対の溝側面16sの外周側の端を連結する溝底面16b(
図5参照)と、を含む内壁面16を有する。内壁面16は、ステータコア12においてスロット14を区画する側面である。なお、内壁面16は、本発明における「スロットの内面」に相当する。一対の溝側面16sは、内壁面16のうち周方向に対向する両側の側面である。絶縁紙28は、例えば内壁面16に接触可能な溝形のシート状の絶縁部材である。すなわち、絶縁紙28は、内壁面16に対向して配設される。絶縁紙28は、その溝形である絶縁紙28の内側に挿入されるセグメントコイル52とステータコア12との絶縁を確保するためのものである。
【0037】
保持工程P12は、スロット14内に挿入した押付部材30が、絶縁紙28を内壁面16に押し付けて保持する工程である。第1の挿入工程P14は、同一スロット14内に最終的に挿入する8個のセグメントコイル52のうち、4個の外周側セグメントコイル52oを絶縁紙28の内側に挿入する工程である。退避工程P16は、押付部材30による絶縁紙28への押し付けを解放し、押付部材30をスロット14内から抜き出して退避させる工程である。第2の挿入工程P18は、同一スロット14内に最終的に挿入する8個のセグメントコイル52のうち、4個の内周側セグメントコイル52iをスロット14に挿入する工程である。接続工程P20は、セグメントコイル52同士を溶接により電気的に接続してコイル50を形成する工程である。なお、本実施例において「外周側セグメントコイル52o」及び「内周側セグメントコイル52i」は、本発明における「第1のセグメントコイル」及び「第2のセグメントコイル」にそれぞれ相当する。
【0038】
図5は、
図4に示す保持工程P12を説明する図である。
図6は、
図5に示す押付部材30の構成を説明する図である。
図6は、
図5に示す切断線VI-VIの断面図である。
【0039】
コイル挿入装置80は、押付部材30、外周側挿入部60、及び内周側挿入部62を備える(
図7,
図8参照)。コイル挿入装置80は、本発明における「製造装置」に相当する。なお、
図5、
図6、及び後述する
図7、
図8における軸線C1方向は、鉛直線の方向と同じである。
【0040】
押付部材30は、環状支持部32と、各スロット14の位置のそれぞれに対応して二組の軸部34及び回転部40と、を有する。環状支持部32は、例えばステータコア12の内周面12iよりも内側において環状である。二組の軸部34及び回転部40のそれぞれは略同じ構成であるが、周方向において絶縁紙28を内壁面16に押さえる方向のみが異なる。以下では、一方の軸部34及び回転部40についてのみ説明する。
【0041】
軸部34は、それぞれ各スロット14の位置に対応して環状支持部32から径方向の外周側に突出している。回転部40は、軸部34の軸線C2を中心にそれぞれ回転可能である。
【0042】
押付部材30は、鉛直線の方向において上下方向に移動可能である。軸部34は、例えば不図示のアクチュエータにより、環状支持部32から径方向の外周側に伸ばしたり、引き戻したりすることが可能である。軸部34は、環状支持部32により支持されている。回転部40は、軸線C1方向において一端部12a側から他端部12b側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部42及び第2延出部44を有する。第1延出部42及び第2延出部44の根元部同士が連結部46で連結されている。好適には、第1延出部42よりも第2延出部44の方が一端部12a側から他端部12b側に向かう方向に長く延びている。連結部46は、軸部34により支持されている。
【0043】
外周側挿入部60は、鉛直線の方向において上下方向に移動可能であるとともに、外周側セグメントコイル52oを掴んだり離したりすることが可能である。これにより、外周側挿入部60は、外周側セグメントコイル52oを掴んだ状態で一端部12a側から絶縁紙28の内側に挿入することが可能である。内周側挿入部62は、鉛直線の方向において上下方向に移動可能であるとともに、内周側セグメントコイル52iを掴んだり離したりすることが可能である。これにより、内周側挿入部62は、内周側セグメントコイル52iを掴んだ状態で一端部12a側から絶縁紙28の内側に挿入することが可能である。なお、本実施例における「外周側挿入部60」及び「内周側挿入部62」は、本発明における「第1の挿入部」及び「第2の挿入部」にそれぞれ相当する。
【0044】
まず、鉛直線の方向における一端部12aよりも上方において、
図5の矢印A1に示すように、軸部34が環状支持部32から外周側に伸ばされる。これにより、鉛直線の方向の上側から下側を見た場合、第1延出部42が歯部18の直上に位置し、第2延出部44がスロット14内における開口14o側の直上に位置する。ここで、開口14o側とは、径方向において溝底面16bよりも開口14oに近い位置であることを意味する。次に、
図6の矢印A2に示すように、押付部材30が鉛直線の方向の下向きに移動させられ。これにより、第2延出部44の先端部44tがスロット14内に挿入されるとともに第1延出部42の先端部42tが歯部18における一端部12aに接触する。先端部42tが一端部12aに接触すると、回転部40が回転して先端部44tが絶縁紙28を一対の溝側面16sのそれぞれに押し付ける。なお、先端部42t及び先端部44tは、本発明における「第1延出部の先端部」及び「第2延出部の先端部」にそれぞれ相当する。
【0045】
図7は、
図4に示す第1の挿入工程P14及び退避工程P16を説明する図である。
図7は、
図5に示す切断線VII-VIIの断面図である。
【0046】
第1の挿入工程P14では、押付部材30が絶縁紙28を保持した状態で、押付部材30が配置されていない位置すなわち径方向におけるスロット14内の外周側に、
図7の矢印A3に示すように、外周側挿入部60は、4個の外周側セグメントコイル52oを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる。
【0047】
第1の挿入工程P14の後、退避工程P16では、
図7の矢印A4に示すように、押付部材30が鉛直線の方向の上向きに移動させられる。そして、
図7の矢印A5に示すように、鉛直線の方向における一端部12aよりも上方において、軸部34が径方向の内周側(=環状支持部32側)に引き戻される。このように、後述する4個の内周側セグメントコイル52iを絶縁紙28の内側に挿入する位置から押付部材30が退避させられる。
【0048】
図8は、
図4に示す第2の挿入工程P18を説明する図である。退避工程P16の後、第2の挿入工程P18では、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、
図8の矢印A6に示すように、内周側挿入部62は、4個の内周側セグメントコイル52iを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる。
【0049】
本実施例のステータ10の製造方法によれば、(a)軸線C1を中心とする筒状のステータコア12に設けられたスロット14内に配置された絶縁紙28を、一端部12aにおける一対の溝側面16sのそれぞれに押付部材30が押し付けて保持する保持工程P12と、(b)保持工程P12の後、押付部材30が配置されていない位置に、外周側セグメントコイル52oを一端部12a側から絶縁紙28の内側に挿入する第1の挿入工程P14と、(c)第1の挿入工程P14の後、スロット14から押付部材30を抜き出して退避させる退避工程P16と、が備えられる。一端部12aにおける一対の溝側面16sのそれぞれに押付部材30が絶縁紙28を押し付けることで、絶縁紙28と押付部材30との間や絶縁紙28と一対の溝側面16sのそれぞれとの間に摩擦力が発生する。外周側セグメントコイル52oが挿入される場合には、周方向における両側のそれぞれにおいて、絶縁紙28は、外周側セグメントコイル52oから位置ずれを発生させる力を受ける。押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持するのが周方向における両側の一対の溝側面16sのそれぞれである場合には、絶縁紙28が外周側セグメントコイル52oから位置ずれを発生させる力を受ける周方向における両側において絶縁紙28がそれぞれ保持される。そのため、外周側セグメントコイル52oが一端部12a側から挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が周方向における両側においてそれぞれ抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0050】
本実施例のステータ10の製造方法によれば、退避工程P16の後、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、内周側セグメントコイル52iを絶縁紙28の内側に挿入する第2の挿入工程P18が更に備えられる。押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に内周側セグメントコイル52iが挿入される場合には、内周側セグメントコイル52iが挿入されない場合に比較して、同一のスロット14内に挿入されるセグメントコイル52の個数を多くすることが可能となる。なお、外周側セグメントコイル52oが挿入されていない場合に比較して、第1の挿入工程P14により外周側セグメントコイル52oが挿入されている場合には、絶縁紙28と外周側セグメントコイル52oとの間の摩擦力の分だけ絶縁紙28の位置ずれが発生しにくい。これにより、退避工程P16の後に、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、内周側セグメントコイル52iが挿入される第2の挿入工程P18では、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0051】
本実施例のステータ10の製造方法によれば、保持工程P12は、径方向におけるスロット14内の開口14o側において、一対の溝側面16sのそれぞれに押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持する。絶縁紙28における径方向のスロット14内の開口14o側は、スロット14内の開口14oとは反対側の溝底面16b側に比較して、絶縁紙28は周方向に移動しやすいすなわち閉じやすい。径方向におけるスロット14の開口14o側で絶縁紙28が保持されて外周側セグメントコイル52oが挿入される場合、絶縁紙28における径方向の開口14o側は、押付部材30により周方向に拡げられた状態で保持される。一方、例えば径方向におけるスロット14内の開口14oとは反対側の位置で絶縁紙28が保持されて内周側セグメントコイル52iが挿入される場合、絶縁紙28における径方向の開口14o側は、押付部材30により周方向に拡げられた状態で保持されていない。したがって、径方向におけるスロット14内の開口14o側で絶縁紙28が周方向に拡げられた状態で保持されて外周側セグメントコイル52oが挿入される場合、そうでない場合に比較して、挿入されるセグメントコイル52が絶縁紙28に引っ掛かりにくく、セグメントコイル52が絶縁紙28の内側に円滑に挿入され得る。
【0052】
本実施例のコイル挿入装置80によれば、(a)軸線C1を中心とする筒状のステータコア12に設けられたスロット14内に配置された絶縁紙28を、一端部12aにおける一対の溝側面16sに押し付けて保持する押付部材30と、(b)押付部材30が絶縁紙28を保持した状態で、押付部材30が配置されていない位置に、外周側セグメントコイル52oを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる外周側挿入部60と、が備えられる。一端部12aにおける一対の溝側面16sに絶縁紙28を押し付けて保持する押付部材30により、絶縁紙28と押付部材30との間や絶縁紙28と一対の溝側面16sとの間に摩擦力が発生する。これにより、コイル挿入装置80により外周側セグメントコイル52oが一端部12a側から挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0053】
本実施例のコイル挿入装置80によれば、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、内周側セグメントコイル52iを絶縁紙28の内側に挿入させる内周側挿入部62が更に備えられる。コイル挿入装置80により押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に内周側セグメントコイル52iが挿入される場合には、内周側セグメントコイル52iが挿入されない場合に比較して、同一のスロット14内に挿入されるセグメントコイル52の個数を多くすることが可能となる。なお、外周側セグメントコイル52oが挿入されていない場合に比較して、外周側挿入部60により外周側セグメントコイル52oが挿入されている場合には、絶縁紙28と外周側セグメントコイル52oとの間の摩擦力の分だけ絶縁紙28の位置ずれが発生しにくい。これにより、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、内周側挿入部62により内周側セグメントコイル52iが挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0054】
本実施例のコイル挿入装置80によれば、(a)押付部材30は、軸部34と、軸線C1方向において一端部12a側から他端部12b側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部42及び第2延出部44を有し且つ第1延出部42及び第2延出部44が軸部34を中心にそれぞれ回転可能な回転部40と、を備え、(b)押付部材30が軸線C1方向に移動して先端部54tが歯部18における一端部12aに接触すると、回転部40が回転して先端部44tが絶縁紙28を一対の溝側面16sに押し付ける。押付部材30が軸線C1方向に移動させられて先端部54tが一端部12aに接触すると、回転部40が回転して先端部44tが絶縁紙28を自動的に一対の溝側面16sに押し付ける。コイル挿入装置80がこのような簡易な構成の回転部40を備えることにより、絶縁紙28を自動的に一対の溝側面16sに押し付けて保持することが可能となる。
【実施例2】
【0055】
図9は、本発明の実施例2に係るステータ10を製造する方法の各工程を説明する図である。本実施例に係るステータ10の製造方法は、前述の実施例1に係るステータ10の製造方法と略同じであるが、保持工程P12、第1の挿入工程P14、退避工程P16、及び第2の挿入工程P18の替わりに、保持工程P112、第1の挿入工程P114、退避工程P116、及び第2の挿入工程P118となっている点が異なる。また、本実施例では、実施例1に係るコイル挿入装置80の替わりに、コイル挿入装置180によって、スロット14内に配置された絶縁紙28の内側にセグメントコイル52が挿入されたステータ10が製造される点が異なる。そのため、本実施例においては、実施例1と異なる部分を中心に説明することとし、実施例1と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0056】
保持工程P112は、実施例1に係る保持工程P12と略同じであるが、押付部材130がスロット14内に配置された絶縁紙28を溝底面16bに押し付けて保持する点が異なる。これに伴い、本実施例に係る押付部材130は、実施例1に係る押付部材30の構成と異なっている。第1の挿入工程P114は、実施例1に係る第1の挿入工程P14と略同じであるが、同一スロット14内に最終的に挿入する8個のセグメントコイル52のうち、4個の内周側セグメントコイル52iを絶縁紙28の内側に挿入する点が異なる。退避工程P116は、実施例1に係る退避工程P16と同じであるが、押付部材130の構成が実施例1に係る押付部材30の構成と異なることに伴って具体的な退避の方法が異なる。第2の挿入工程P118は、実施例1に係る第2の挿入工程P18と略同じであるが、同一スロット14内に最終的に挿入する8個のセグメントコイル52のうち、4個の外周側セグメントコイル52oを絶縁紙28の内側に挿入する点が異なる。なお、本実施例において「内周側セグメントコイル52i」及び「外周側セグメントコイル52o」は、本発明における「第1のセグメントコイル」及び「第2のセグメントコイル」にそれぞれ相当する。
【0057】
図10は、
図9に示す保持工程P112を説明する図である。
図11は、
図9に示す保持工程P112、第1の挿入工程P114、及び退避工程P116を説明する図である。
図11は、
図10に示す切断線XI-XIの断面図である。
【0058】
コイル挿入装置180は、実施例1に係るコイル挿入装置80の構成と略同じであるが、押付部材30の替わりに、押付部材130を備える点が異なる。コイル挿入装置180は、本発明における「製造装置」に相当する。なお、
図10、
図11、及び後述する
図12における軸線C1方向は、鉛直線の方向と同じである。
【0059】
押付部材130は、環状支持部132と、各スロット14の位置に対応して環状支持部132から径方向の内周側にそれぞれ突出している軸部134と、それら軸部134の軸線C3を中心にそれぞれ回転可能な回転部140と、を有する。環状支持部132は、例えばステータコア12の外周面12oよりも外側において環状である。
【0060】
押付部材130は、鉛直線の方向において上下方向に移動可能である。軸部134は、例えば不図示のアクチュエータにより、環状支持部132から径方向の内周側に伸ばしたり、引き戻したりすることが可能である。回転部140は、軸線C1方向において一端部12a側から他端部12b側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部142及び第2延出部144を有する。第1延出部142及び第2延出部144の根元部同士が連結部146で連結されている。好適には、第1延出部142よりも第2延出部144の方が一端部12a側から他端部12b側に向かう方向に長く延びている。連結部146は、軸部134により支持されている。このように、軸部134は、周方向に延びて回転部140を支持する部分と、その支持する部分の両端部が径方向にそれぞれ折り曲げられて環状支持部132により支持される部分と、を備える。
【0061】
本実施例における「内周側挿入部62」及び「外周側挿入部60」は、本発明における「第1の挿入部」及び「第2の挿入部」にそれぞれ相当する。
【0062】
まず、鉛直線の方向における一端部12aよりも上方において、
図10,
図11の矢印A7に示すように、軸部134が環状支持部132から内周側に伸ばされる。これにより、鉛直線の方向の上側から下側を見た場合、第1延出部142がヨーク20の直上に位置し、第2延出部144がスロット14内における溝底面16b側の直上に位置する。次に、
図11の矢印A8に示すように、押付部材130が鉛直線の方向の下向きに移動させられる。これにより、第2延出部144の先端部144tがスロット14内に挿入されるとともに第1延出部142の先端部142tがヨーク20における一端部12aに接触する。先端部142tが一端部12aに接触すると、回転部140が回転して先端部144tが絶縁紙28を溝底面16bに押し付ける。なお、先端部142t及び先端部144tは、本発明における「第1延出部の先端部」及び「第2延出部の先端部」にそれぞれ相当する。
【0063】
第1の挿入工程P114では、押付部材130が絶縁紙28を保持した状態で、押付部材130が配置されていない位置すなわち径方向におけるスロット14内の内周側に、
図11の矢印A9に示すように、内周側挿入部62は、4個の内周側セグメントコイル52iを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる。
【0064】
第1の挿入工程P114の後、退避工程P116では、
図11の矢印A10に示すように、押付部材130が鉛直線の方向の上向きに移動させられる。そして、
図11の矢印A11に示すように、鉛直線の方向における一端部12aよりも上方において、軸部134が径方向の外周側(=環状支持部132側)に引き戻される。このように、後述する4個の外周側セグメントコイル52oを絶縁紙28の内側に挿入する位置から押付部材130が退避させられる。
【0065】
図12は、
図9に示す第2の挿入工程P118を説明する図である。退避工程P116の後、第2の挿入工程P118では、押付部材130がスロット14内から抜き出された位置に、
図12の矢印A12に示すように、外周側挿入部60は、4個の外周側セグメントコイル52oを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる。
【0066】
本実施例のステータ10の製造方法によれば、(a)軸線C1を中心とする筒状のステータコア12に設けられたスロット14内に配置された絶縁紙28を、一端部12aにおける溝底面16bに押付部材130が押し付けて保持する保持工程P112と、(b)保持工程P112の後、押付部材130が配置されていない位置に、内周側セグメントコイル52iを一端部12a側から絶縁紙28の内側に挿入する第1の挿入工程P114と、(c)第1の挿入工程P114の後、スロット14から押付部材130を抜き出して退避させる退避工程P116と、が備えられる。一端部12aにおける溝底面16bに押付部材130が絶縁紙28を押し付けることにより、内周側セグメントコイル52iが一端部12a側から挿入される場合における絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0067】
本実施例のステータ10の製造方法によれば、退避工程P116の後、押付部材130がスロット14内から抜き出された位置に、外周側セグメントコイル52oを絶縁紙28の内側に挿入する第2の挿入工程P118が更に備えられる。押付部材130がスロット14内から抜き出された位置に外周側セグメントコイル52oが挿入される場合には、外周側セグメントコイル52oが挿入されない場合に比較して、同一のスロット14内に挿入されるセグメントコイル52の個数を多くすることが可能となる。
【0068】
本実施例のコイル挿入装置180によれば、(a)軸線C1を中心とする筒状のステータコア12に設けられたスロット14内に配置された絶縁紙28を、一端部12aにおける溝底面16bに押し付けて保持する押付部材130と、(b)押付部材130が絶縁紙28を保持した状態で、押付部材130が配置されていない位置に、内周側セグメントコイル52iを一端部12a側から他端部12b側へ向けて絶縁紙28の内側に挿入させる内周側挿入部62と、が備えられる。コイル挿入装置180では、一端部12aにおける溝底面16bに絶縁紙28を押し付けて保持する押付部材130により、内周側セグメントコイル52iが一端部12a側から挿入される場合における絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0069】
本実施例のコイル挿入装置180によれば、押付部材130がスロット14内から抜き出された位置に、外周側セグメントコイル52oを絶縁紙28の内側に挿入させる外周側挿入部60が更に備えられる。これにより、外周側セグメントコイル52oが挿入されない場合に比較して、同一のスロット14内に挿入されるセグメントコイル52の個数を多くすることが可能となる。
【0070】
本実施例のコイル挿入装置180によれば、(a)押付部材130は、軸部134と、軸線C1方向において一端部12a側から他端部12b側に向かう方向にそれぞれ延びる第1延出部142及び第2延出部144を有し且つ第1延出部142及び第2延出部144が軸部134を中心にそれぞれ回転可能な回転部140と、を備え、(b)押付部材130が軸線C1方向に移動して先端部142tがヨーク20における一端部12aに接触すると、回転部140が回転して先端部144tが絶縁紙28を溝底面16bに押し付ける。押付部材130が軸線C1方向に移動させられて先端部142tが一端部12aに接触すると、回転部140が回転して先端部144tが絶縁紙28を自動的に溝底面16bに押し付ける。コイル挿入装置180がこのような簡易な構成の回転部140を備えることにより、絶縁紙28を自動的に溝底面16bに押し付けて保持することが可能となる。
【0071】
以上、本発明の各実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0072】
前述の実施例1,2では、第1の挿入工程P14,P114において4個の外周側セグメントコイル52o又は内周側セグメントコイル52iがそれぞれ挿入される態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、本発明は、第1の挿入工程P14,P114において1個或いは4個以外の複数のセグメントコイル52が挿入される態様であっても良い。同様に、本発明は、第2の挿入工程P18,P118において1個或いは4個以外の複数のセグメントコイル52が挿入される態様であっても良い。
【0073】
前述の実施例1,2では、退避工程P16,P116の後に、第2の挿入工程P18,P118を備える態様であったが、例えば第2の挿入工程P18,P118を備えない態様であっても良い。このような態様においても、実施例1に係る外周側セグメントコイル52oや実施例2に係る内周側セグメントコイル52iが一端部12a側から挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0074】
前述の実施例1では、保持工程P12は、一対の溝側面16sのそれぞれに押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持する態様であったが、例えば保持工程P12は、一対の溝側面16sの少なくとも一方に押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持する態様であれば良い。このような態様においても、保持工程P12がない場合に比較して、外周側セグメントコイル52oが一端部12a側から挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0075】
前述の実施例1では、保持工程P12は、径方向における開口14o側において押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持する態様であったが、例えば保持工程P12は、径方向における溝底面16b側において押付部材30が絶縁紙28を押し付けて保持し、第1の挿入工程P14は、内周側セグメントコイル52iが一端部12a側から挿入される態様であっても良い。このような態様においても、保持工程P12がない場合に比較して、内周側セグメントコイル52iが一端部12a側から挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0076】
前述の実施例1では、コイル挿入装置80は、押付部材30がスロット14内から抜き出された位置に、内周側セグメントコイル52iを挿入させる内周側挿入部62を備える態様であり、前述の実施例2では、コイル挿入装置180は、押付部材130がスロット14内から抜き出された位置に、外周側セグメントコイル52oを挿入させる外周側挿入部60を備える態様であった。しかし、実施例1において内周側挿入部62を備えない態様であったり、実施例2において外周側挿入部60を備えない態様であったりしても良い。このような態様においても、実施例1に係る外周側セグメントコイル52oや実施例2に係る内周側セグメントコイル52iがコイル挿入装置80,180により一端部12a側からそれぞれ挿入される場合には、絶縁紙28の位置ずれの発生が抑制されるため、挿入されたセグメントコイル52とステータコア12との間の絶縁性の低下が抑制される。
【0077】
前述の実施例1,2では、コイル挿入装置80,180における押付部材30,130は、軸部34,134と、回転部40,140と、をそれぞれ備える構成であったが、押付部材30,130は、このような構成に限らず、スロット14内に配置された絶縁紙28を、一端部12aにおける内壁面16に押し付けて保持することができるのであれば、どのような構成であっても良い。
【0078】
前述の実施例1,2における
図5~
図8や
図10~12では、軸線C1方向は鉛直線の方向と同じであったが、これに限らない。例えば、軸線C1方向が水平方向である態様であっても良い。このような態様では、軸線C1方向において押付部材30,130からステータコア12に向かう方向に見た場合、第1延出部42,142がステータコア12の歯部18やヨーク20にそれぞれ重なるように位置し且つ第2延出部44,144がスロット14内にそれぞれ重なるように位置するように、例えば一端部12aに接触する前の回転部40が不図示のバネ等で付勢されていれば良い。
【0079】
前述の実施例1,2では、コイル50は分布巻であったが、本発明は集中巻のステータ10にも適用可能である。
【0080】
前述の実施例では、回転電機MGはインナーロータ型であったが、アウターロータ型であっても良い。回転電機MGがアウターロータ型である場合には、実施例1,2における径方向の「内周側」「外周側」、ステータコア12の「内周面」「外周面」は、それぞれ径方向の「外周側」「内周側」、ステータコア12の「外周面」「内周面」にそれぞれ読み替えられる。
【0081】
前述の実施例では、回転電機MGは、車両の走行用駆動源であるモータジェネレータであったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、回転電機MGは、発電機機能を有さず電動機機能のみを有する車両駆動用の電動機であっても良いし、電動機機能を有さず発電機機能のみを有する回生用の発電機であっても良い。
【0082】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0083】
10:ステータ
12:ステータコア
12a:一端部
14:スロット
14o:開口
16:内壁面(スロットの内面)
16b:溝底面
16s:一対の溝側面
28:絶縁紙
30,130:押付部材
34,134:軸部
40,140:回転部
42,142:第1延出部
42t,142t:先端部(第1延出部の先端部)
44,144:第2延出部
44t,144t:先端部(第2延出部の先端部)
52i:内周側セグメントコイル(第1のセグメントコイル、第2のセグメントコイル)
52o:外周側セグメントコイル(第1のセグメントコイル、第2のセグメントコイル)
60:外周側挿入部(第1の挿入部、第2の挿入部)
62:内周側挿入部(第1の挿入部、第2の挿入部)
80,180:コイル挿入装置(製造装置)
C1:軸線(軸線)
P12,P112:保持工程
P14,P114:第1の挿入工程
P16,P116:退避工程
P18,P118:第2の挿入工程