(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04007 20160101AFI20241001BHJP
H01M 8/04111 20160101ALI20241001BHJP
B60L 58/30 20190101ALI20241001BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241001BHJP
【FI】
H01M8/04007
H01M8/04111
B60L58/30
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022148081
(22)【出願日】2022-09-16
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 孝忠
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 大智
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-020924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0075971(US,A1)
【文献】特開2020-118354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
前記燃料電池の排気によりタービンを回転させて前記燃料電池の吸気を昇圧させる過給機と、
所定の熱源から吸熱し、前記タービンに供給される前記排気を昇温させるヒートポンプ装置と、
を備え、
前記ヒートポンプ装置は、冷凍車の冷凍設備を冷却するための熱交換システムの冷媒から吸熱する第5熱交換器と、前記
冷媒に吸熱させる第6熱交換器と、
前記排気に吸熱させる第2熱交換器と、を有している、
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項
1に記載の燃料電池システムを搭載する、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池が発電した電力を用いて走行する燃料電池システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の酸素と燃料ガス(水素など)とを反応させて発電し、発電した電力を用いて駆動力を発生させる燃料電池システムが開発されている。このような燃料電池システムにおいて、燃料電池の排気により回転するタービンを有する過給機(ターボチャージャ)を備え、排気から動力を回収する技術が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、過給機からの過給吸気を冷却して燃料電池に供給する燃料電池車両の冷却システムであって、冷却部が高温となりすぎることを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の種類によっては、作動温度および排気温度が100℃前後と低いことがある。このような燃料電池を採用した場合、排気と大気との温度差が小さいため、過給機において十分な動力回収を行うことが困難なことがある。
【0006】
本開示は、燃料電池車両の過給機における動力回収効率を向上させることができる燃料電池システムおよび車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池の排気によりタービンを回転させて前記燃料電池の吸気を昇圧させる過給機と、所定の熱源から吸熱し、前記タービンに供給される前記排気を昇温させるヒートポンプ装置と、を備え、前記ヒートポンプ装置は、冷凍車の冷凍設備を冷却するための熱交換システムの冷媒から吸熱する第5熱交換器と、前記冷媒に吸熱させる第6熱交換器と、前記排気に吸熱させる第2熱交換器と、を有している。
【0008】
本開示の一態様に係る車両は、上記の燃料電池システムを搭載する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、燃料電池車両の過給機における動力回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態に係る燃料電池システムの構成について説明するための図
【
図2】変形例1に係る燃料電池システムの構成について説明するための図
【
図3】変形例2に係る燃料電池システムの構成について説明するための図
【
図4】変形例3に係る燃料電池システムの構成について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。
【0012】
<燃料電池システムの構成>
図1は、本開示の実施の形態に係る燃料電池システム100の構成について説明するための図である。
図1に示すように、燃料電池システム100は、燃料電池1と、過給機2と、ヒートポンプ装置3と、インタークーラ4と、を備える。
図1では、空気の流れが比較的細い実線の矢印で、ヒートポンプ装置3における冷媒の流れが比較的太い実線の矢印で、それぞれ示されている。
【0013】
燃料電池1は、圧縮された空気と、燃料ガスである水素とを反応させて発電を行う。燃料電池1は、セルを積層した燃料電池スタックを有している。本開示において、燃料電池1としては、比較的作動温度が低い、固体高分子膜形燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)が想定されている。本実施の形態における燃料電池1の作動温度は、90℃~100℃程度である。燃料電池1は、圧縮空気中の酸素と水素とが反応して生成された水蒸気を含む空気を排気として排出する。本実施の形態では、排気温度が95℃であるとして以下の説明を行う。燃料電池1に対し、空気は、吸気配管5を通って供給される。また、燃料電池1の排気は、排気配管6を通って排気される。
【0014】
燃料電池1は、冷却回路10としてポンプ11および冷却配管12を有する。ポンプ11は、冷却配管12内に冷却水(水以外の冷媒でもよい)を循環させる。燃料電池1の反応によって生じた熱は、冷却配管12内の冷却水により後述の第1熱交換器31に運ばれ、ヒートポンプ装置3内の冷媒との熱交換により排熱される。
【0015】
過給機2は、燃料電池1の排気のエネルギーを用いて、燃料電池1へ供給する空気を圧縮することで、燃料電池1の排気が持つエネルギーの回収を行う。過給機2は、コンプレッサ21と、タービン22と、を有する。コンプレッサ21は、吸気配管5の途中に配置される。また、タービン22は、排気配管6の途中に配置される。
【0016】
コンプレッサ21と、タービン22とは、同軸上に接続されている。このため、タービン22が燃料電池1の排気により回転すると、コンプレッサ21も一体的に回転するので、コンプレッサ21による空気の圧縮が行われる。これにより、排気が持つエネルギーを回収することができる。なお、コンプレッサ21とタービン22とを接続する軸には図示しない過給機用モータが配置され、燃料電池1が発電した電力を用いて過給機用モータが回転することによりコンプレッサ21が空気の圧縮を行ってもよい。
【0017】
吸気配管5を通って燃料電池システム100に供給される空気(例えば外気)は、コンプレッサ21により圧縮されて高温となり、燃料電池1に供給される。本実施の形態では、外気温が20℃であるとき、コンプレッサ21により150℃まで昇温されるとする。吸気配管5の途中にはインタークーラ4が配置されており、150℃まで昇温された空気は80℃程度まで冷却されて燃料電池1に供給される。
【0018】
ヒートポンプ装置3は、第1熱交換器31と、第2熱交換器32と、第1配管33と、第2配管34と、圧縮機35と、膨張弁36と、を有する。ヒートポンプ装置3の内部には、低温で蒸発可能な冷媒が循環している。
【0019】
第1熱交換器31は、燃料電池1における反応熱を吸熱する蒸発器である。第1熱交換器31において、燃料電池1の冷却配管12内の冷却水と冷媒との間で熱交換が行われ、冷媒が吸熱して機体となる。
【0020】
第1熱交換器31の出口と第2熱交換器32の入口とは、第1配管33を介して接続されている。第1配管33の途中には圧縮機35が設けられている。圧縮機35は、第1熱交換器31で蒸発した冷媒を圧縮して第2熱交換器32に送る。
【0021】
第2熱交換器32は、凝縮器である。第2熱交換器32は、排気配管6を通って排出される燃料電池1からの排気と冷媒との間で熱交換を行い、排気を昇温させる。ここで冷媒は熱を放出して液体に戻る。
【0022】
第2熱交換器の出口と第1熱交換器31の入口とは、第2配管34を介して接続されている。第2配管34の途中には膨張弁36が設けられている。膨張弁36により冷媒は膨張し、減圧されて第1熱交換器31に送られる。
【0023】
このように、ヒートポンプ装置3は、燃料電池1の排熱を熱源として排気配管6を通る排気を昇温させる。これにより、第2熱交換器32を通過した燃料電池1の排気は、100℃以上、例えば120℃程度まで昇温される。
【0024】
第2熱交換器32により昇温された排気は、過給機2のタービン22に供給される。タービン22は、排気により回転し、同軸上に配置されたコンプレッサ21を回転させる。タービン22を回転させた排気は、膨張して低温低圧となる。本実施の形態では、タービン22を通過後の排気は、0℃付近まで温度が下がることが想定される。
【0025】
<作用、効果>
本開示の実施の形態に係る燃料電池システム100では、以上の構成により、過給機2のタービン22に供給される燃料電池1の排気温度を昇温させることができる。これにより、過給機2における排気エネルギーの回収効率を増大させることができる。
【0026】
上述した実施の形態では、一例として外気温が20℃、燃料電池1に供給される空気温度が95℃、燃料電池1の排気温度が95℃である場合について説明した。このような温度条件下において、本開示の燃料電池システム100によれば、ヒートポンプ装置3の第2熱交換器32により排気温度が120℃まで昇温されるので、第2熱交換器32がない場合と比較して、排気がより大きなエネルギーを有するようになる。これにより、タービン22においてより効率よく動力回収を行うことができる。
【0027】
また、タービン22に供給される排気温度の上昇に伴い、タービン22を通過後の排気温度も上昇する。燃料電池1からの排気には、発電時の化学反応により発生した水蒸気が多く含まれているため、タービン22通過後の排気温度が低いと、排気中の水分が結露し、凍結して排気配管6内に付着してしまうことがある。本実施の形態に係る燃料電池システム100では、タービン22通過後の排気温度上昇により、排気中の水分が排気配管6内に凍結する事態を防止することができる。例えば第2熱交換器32がない場合、すなわち排気温度が95℃である場合、タービン22通過後の排気温度が-15℃であるとすると、本開示のように第2熱交換器32によりタービン22に供給される前の排気を昇温することで、タービン22通過後の排気の温度を0℃付近まで上昇させることができる。これにより、タービン22通過後の排気における水分凍結を防止できるので、排気中の水分を分離して除去する分離機のような装置を新たに設ける必要がなくなり、燃料電池システム100を安価に設置することができる。
【0028】
また、燃料電池システム100を車両に搭載することを考慮すると、燃料電池1の反応による発熱はラジエータにより排熱されるのが一般的である。しかしながら、上記のように作動温度が比較的低い(100℃程度の)燃料電池の場合、大気との温度差が小さいため、放熱の効率が低く、ラジエータを大型化する必要がある。ラジエータの大型化は、車両のデザインや車両の搭載部品のレイアウトなどに大きな制限を与えるため、小型化が所望されている。
【0029】
本開示の実施の形態に係る燃料電池システム100では、燃料電池1の排熱を排気に与えているため、その分燃料電池1の放熱効率が向上しており、ラジエータを小型化する、またはなくすことが可能となる。これにより、車両のデザインや部品レイアウトの自由度を向上させることができる。
【0030】
なお、上述した実施の形態における燃料電池システム100の各部における温度は一例であり、本開示はこれに限定されるものではない。例えば燃料電池1の作動温度がより高い場合でも、タービン22に供給される前の排気を昇温することにより、動力回収効率の向上を見込むことができる。
【0031】
<変形例>
上記説明した実施の形態に係る燃料電池システム100では、燃料電池1からの排気温度を昇温させるために、燃料電池1の反応熱を熱源としていたが、本開示はこれに限定されない。本開示の範囲には、以下のような種々の変形例が含まれうる。
【0032】
[変形例1]
図2は、変形例1に係る燃料電池システム100Aの構成について説明するための図である。燃料電池システム100Aでは、タービン22に供給される燃料電池1の排気温度を昇温させるための熱源として、過給機2のコンプレッサ21により高温高圧に圧縮された空気を用いている。
図2では、
図1に示す燃料電池システム100と同様の構成には同じ符号を付し、異なる構成の符号に「A」を付して示している。
【0033】
図2に示す燃料電池システム100Aでは、吸気配管5Aの途中にヒートポンプ装置3Aの第1熱交換器31Aが配置されている。第1熱交換器31Aは、
図1に示されるインタークーラ4の代わりに、コンプレッサ21により高温となった空気から吸熱する。第1熱交換器31Aは、第1配管33Aおよび第2配管34Aにより第2熱交換器32Aと接続されている。
【0034】
このような構成により、第1熱交換器31Aは、コンプレッサ21で高温となった空気(例えば、150℃)から吸熱し、その熱を第2熱交換器32Aにおいてタービン22に供給される前の燃料電池1の排気に吸熱させる。これにより、上述した実施の形態と同様に、タービン22に供給される前の排気の温度が上昇し(例えば、120℃)、過給機2における動力回収効率を向上させることができるとともに、タービン22での動力回収後の排気における水分凍結を防止することができる。
【0035】
[変形例2]
図3は、変形例2に係る燃料電池システム100Bの構成について説明するための図である。燃料電池システム100Bでは、燃料電池1からの排気温度を昇温させるための熱源として、燃料電池1の反応熱と過給機2のコンプレッサ21により圧縮され高温となった空気の両方を用いている。
【0036】
図3に示すように、燃料電池システム100Bは、
図1と同様のヒートポンプ装置3に加えて、吸気配管5Bの途中に設けられた第3熱交換器71Bと排気配管6Bの途中に設けられた第4熱交換器72Bとを有する第2ヒートポンプ装置7Bを備える。
【0037】
外気は過給機2のコンプレッサ21により圧縮されて高温高圧となった後、第3熱交換器71Bにおいて吸熱される。第2ヒートポンプ装置7Bの第3熱交換器71Bと第4熱交換器72Bとを接続する配管内にはヒートポンプ装置3と同様の冷媒が封入されており、第3熱交換器71Bで吸収された熱は第4熱交換器72Bにてタービン22に供給される前の燃料電池1の排気に吸熱される。
【0038】
一方で、上述した実施の形態と同様に、ヒートポンプ装置3の第2熱交換器32により、燃料電池1の反応熱もタービン22に供給される前の燃料電池1の排気に吸熱される。
【0039】
このような構成により、タービン22に供給される前の排気の温度が上昇し、過給機2における動力回収効率を向上させることができるとともに、タービン22での動力回収後の排気における水分凍結を防止することができる。
【0040】
なお、
図3に示す例では、排気配管6Bにおいて、ヒートポンプ装置3の第2熱交換器32よりも第2ヒートポンプ装置7Bの第4熱交換器72Bの方が燃料電池1に近い位置に配置されている。本開示はこのような配置に限定されるものではなく、例えば第4熱交換器72Bよりも第2熱交換器32の方が燃料電池1に近い位置に配置されていてもよい。このような場合でも、
図3に示す例と同様に、過給機2における動力回収効率を向上させることができるとともに、タービン22での動力回収後の排気における水分凍結を防止することができる。
【0041】
[変形例3]
図4は、変形例3に係る燃料電池システム100Cの構成について説明するための図である。変形例3では、燃料電池システム100がトラックなどの車両、特に冷凍車のように他の熱交換システムを有する車両に搭載されることが想定されている。燃料電池システム100Cでは、燃料電池1からの排気温度を昇温させるための熱源として、車両に搭載されており燃料電池1から独立した熱交換システム200を用いている。
【0042】
熱交換システム200は、第5熱交換器201と第6熱交換器202とを有する。第5熱交換器201と第6熱交換器202とは、配管203,204により互いに接続されている。配管203の途中には冷媒を循環させるポンプ205が設置されている。また、第5熱交換器201は、
図1におけるヒートポンプ装置3の第1熱交換器31の代わりに、ヒートポンプ装置3Cにおいて、第1配管33Cおよび第2配管34Cを介して第2熱交換器32Cと接続されている。
【0043】
このような構成により、第6熱交換器202で吸収された熱が、第5熱交換器201においてヒートポンプ装置3Cの冷媒に吸熱され、第2熱交換器32Cにおいてタービン22に供給される前の燃料電池1の排気に与えられる。これにより、上述した実施の形態と同様に、タービン22に供給される前の排気温度を上昇させることができるとともに、タービン22での動力回収後の排気における水分凍結を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示は、過給機を有する燃料電池システムに有用である。
【符号の説明】
【0045】
100,100A,100B,100C 燃料電池システム
1 燃料電池
10 冷却回路
11 ポンプ
12 冷却配管
2 過給機
21 コンプレッサ
22 タービン
3,3A,3B ヒートポンプ装置
31,31A 第1熱交換器
32,32A,32C 第2熱交換器
33,33A,33C 第1配管
34,34A,34C 第2配管
35 圧縮機
36 膨張弁
4 インタークーラ
5,5A,5B 吸気配管
6,6B 排気配管
7B 第2ヒートポンプ装置
71B 第3熱交換器
72B 第4熱交換器
200 熱交換システム
201 第5熱交換器
202 第6熱交換器
203 配管
204 配管
205 ポンプ