(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】光干渉断層撮像装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20241001BHJP
G01N 21/39 20060101ALI20241001BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G01N21/39
G01N21/17 630
(21)【出願番号】P 2022545001
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032367
(87)【国際公開番号】W WO2022044204
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】中村 滋
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/100626(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0171503(US,A1)
【文献】特開2018-086272(JP,A)
【文献】特開2010-167253(JP,A)
【文献】特開2014-025953(JP,A)
【文献】特表2009-523574(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002693(WO,A1)
【文献】特表2019-533839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0259265(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0276523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長掃引レーザ光源と、
前記波長掃引レーザ光源から出射された光をそれぞれ物体光と参照光とに分岐する
第1の分岐手段と、
前記
第1の分岐手段から出力された前記物体光を測定対象物に照射させ所定の範囲を走査する照射手段と、
前記測定対象物に照射され散乱された物体光と前記参照光との干渉光の強度比の波長依存性に関する情報を生成する光スペクトルデータ生成手段と、
前記光スペクトルデータ生成手段によって生成された前記干渉光の強度比の波長依存性に関する情報に対し、前記物体光の光路と前記参照光の光路の波長分散の相違に基づいて乗算処理による補償を行う波長分散補償処理手段と、
前記補償を行った結果に基づき前記測定対象物の断層構造情報を生成する断層構造情報生成手段と、
前記波長掃引レーザ光源から出射された光を複数に分岐する第2の分岐手段と、
を備え、
前記第1の分岐手段は前記第2の分岐手段において分岐された複数の光のそれぞれを前記物体光と前記参照光とに分岐し、
前記照射手段は、マルチコア光ファイバを用いて前記物体光を前記測定対象物に照射させ前記所定の範囲を走査する、
ことを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【請求項2】
前記光スペクトルデータ生成手段は、前記測定対象物に照射され散乱された物体光と前記参照光の強度比に関する情報を生成するバランス型受光器を含む、
請求項
1に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項3】
前記光スペクトルデータ生成手段は、前記測定対象物に照射され散乱された物体光と前記参照光とを干渉させるコヒーレント受光器を含む、
請求項
1に記載の光干渉断層撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の表面近傍の断層撮像を行う技術として、光コヒーレンス・トモグラフィー(Optical Coherence Tomography: OCT)技術がある。当該OCT技術では、光ビームを測定対象物に照射した際の測定対象物の内部からの散乱光(以下、「後方散乱光」とも称する)と参照光との干渉を利用して、測定対象物の表面近傍の断層撮像を行う。近年、当該OCT技術の医療診断や工業製品検査への適用が拡大している。
【0003】
OCT技術では、測定対象物に照射され散乱されてくる物体光と参照光との干渉を利用して、測定対象物において物体光が散乱される部分(光散乱点)の光軸方向すなわち深さ方向における位置を特定することにより、測定対象物の内部の深さ方向に空間分解した構造データを得る。OCT技術には、Time Domain(TD-OCT)方式、Fourier Domain(FD-OCT)方式があるが、高速・高感度という点でFD-OCT方式の方が有望である。FD-OCT方式では、物体光と参照光とを干渉させる際に、広い波長帯域の干渉光スペクトルを測定し、これをフーリエ変換することで深さ方向の構造データを得る。干渉光スペクトルを得る方式として、分光器を用いるSpectral Domain(SD-OCT)方式と、波長を掃引する光源を用いるSwept Source(SS-OCT)方式がある。
【0004】
さらに、測定対象物を当該測定対象物の深さ方向に垂直な面内方向に物体光ビーム照射位置を走査することにより、当該面内方向に空間分解し、且つ、深さ方向に空間分解した断層構造データ、すなわち、測定対象物の三次元の断層構造データを得ることが可能になる。
【0005】
OCT技術は、これまでに、眼科診断における眼底の断層撮像装置として実用化されると共に、生体の様々な部位に対する非侵襲の断層撮像装置として適用検討が進められている。
【0006】
図6に、SS-OCT方式の光干渉断層撮像装置の典型的な構成を示す。波長掃引レーザ光源501から、波長掃引された光パルスが生成される。波長掃引レーザ光源501から出射された光は、サーキュレータ502を経由して光分岐合流器503において物体光R111と参照光R121に分岐される。物体光R111はファイバコリメータ504、走査ミラーとレンズから成る照射光学系505を経て、測定対象物520に照射される。そして、測定対象物520において散乱された物体光R131は、光分岐合流器503へ戻る。他方、参照光R121は参照光ミラー506を経て、光分岐合流器503へ戻る。したがって、光分岐合流器503では、測定対象物520から散乱された物体光R131と参照光ミラー506から反射された参照光R141とが干渉し、干渉光R151、R161が生成される。すなわち、物体光R131と参照光R141との位相差によって干渉光R151と干渉光R161との強度比が決定される。干渉光R151はサーキュレータ502を経て、干渉光R161は直接に、二入力のバランス型受光器507へ入力される。
【0007】
波長掃引レーザ光源501から出射される光の波長変化に伴う干渉光R151と干渉光R161との強度比の変化を測定することにより、干渉光スペクトルデータが得られる。バランス型受光器507の光電変換出力の波長依存性が干渉光スペクトルを表すことになる。この干渉光スペクトルを測定しフーリエ変換することによって、深さ方向(Z方向)の異なる位置における後方散乱光(物体光)の強度を示すデータを得ることができる(以下、測定対象物520のある位置の深さ方向(Z方向)の後方散乱光(物体光)の強度を示すデータを得る動作を、「Aスキャン」と称する)。
【0008】
波長λ、波数k(=2π/λ)の物体光と参照光の干渉を、考える。参照光が光分岐合流器503で分岐されてから参照光ミラー506で反射されて光分岐合流器503へ戻るまでの光路長がPRであり、物体光が光分岐合流器503で分岐されてから測定対象物520の光散乱点1ケ所で後方散乱されて光分岐合流器503へ戻るまでの光路長がPS=PR+z0である場合、光分岐合流器503で干渉する物体光R131と参照光R141は、位相差kz0+φで干渉する。ここでφはkやz0に依存しない定数である。光分岐合流器503で干渉する物体光R131の振幅をES、参照光R141の振幅をERとすると、
【0009】
【0010】
で表される干渉光R151と干渉光R161の強度差がバランス型受光器507で光電変換される。光スペクトルデータ生成部508は、波長掃引レーザ光源501からの出射光の波長変化に関する情報と、バランス型受光器507からの干渉光R151と干渉光R161の強度差に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルデータを生成する。波数k0-Δk/2からk0+Δk/2まで測定して得られた干渉光スペクトルデータI(k)には、周期2π/z0の変調が現れることになる。得られた干渉光スペクトルデータは、光スペクトルデータ生成部508からAスキャン波形生成部509へ送られる。
【0011】
Aスキャン波形生成部509は、干渉光スペクトルデータに対するフーリエ変換を行う。I(k)のフーリエ変換の振幅J(z)は
【0012】
【0013】
となり、光散乱点位置z0を反映してz=z0(およびz=-z0)でδ関数状のピークを示すことになる。
【0014】
測定対象物がミラーの場合には光散乱点位置は1ケ所である。しかし、通常、測定対象物に照射された物体光はある程度内部まで減衰しながら伝搬しつつ順次後方散乱され、物体光の光散乱点は表面からある深さまでの範囲に分布することになる。光散乱点が深さ方向にz0-Δzからz0+Δzまで分布している場合には、干渉光スペクトルにおいて周期2π/(z0-Δz)から2π/(z0+Δz)までの変調が重なって現れる。
【0015】
さらに、照射光学系505によって物体光ビームR111の照射位置が測定対象物520上で走査される。照射光学系505によって物体光ビームR111の照射位置を走査線方向(X方向)に移動させながらAスキャン動作を繰り返し行って、その測定結果を接続することにより、走査線方向と深さ方向との二次元の後方散乱光(物体光)の強度のマップが断層構造データとして得られる(以下、走査線方向(X方向)にAスキャン動作を繰り返し行って、その測定結果を接続する動作を、「Bスキャン」と称する)。
【0016】
さらに、照射光学系505によって物体光ビームR111の照射位置を走査線方向だけでなく走査線に垂直な方向(Y方向)にも移動させながらBスキャン動作を繰り返し行って、その測定結果を接続することにより、三次元の断層構造データが得られる(以下、走査線に垂直な方向(Y方向)にBスキャン動作を繰り返し行って、その測定結果を接続する動作を、「Cスキャン」と称する)。
【0017】
生体が測定対象物である場合には、通常、生体を完全に固定して測定することは困難であるため、測定を高速で行う必要がある。広範囲の測定が必要とされる場合には、1本の物体光ビームを高速で走査するだけで広範囲を高速に測定することは困難になることから、複数の物体光ビームを照射する構成が提案されている(特許文献1)。複数の物体光ビームが測定対象物の異なる複数の領域を同時に走査することによって測定を行うことにより、広範囲の高速測定が可能となる。
【0018】
特許文献2は光学的測定方法に関するものであり、光プローブを備えるOCT装置が提案されている。特許文献3は内視鏡顕微鏡検査法を使用してデータを生成するシステムに関するものであり、マルチモードファイバを含むOCT装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2010-167253号公報
【文献】特開2014-025953号公報
【文献】特表2009-523574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
発明者は、照射光学系の前段に置かれるファイバコリメータにマルチコア光ファイバを接続することで、単一の物体光ビーム照射に用いる照射光学系に変更を加えることなく複数の物体光ビーム照射に用いる照射光学系を実現することが可能であることを、見出した。また発明者は、マルチコア光ファイバ(MCF)を用いた物体光の光路とスタンダードシングルモード光ファイバ(SMF)を用いた参照光の光路とで波長分散が異なることが深さ方向の空間分解能を劣化させているという課題を、見出した。特許文献1乃至特許文献3には、この課題への着眼や、課題を解決する手段についての記載は見当たらない。
【0021】
本発明の目的は、光干渉断層撮像装置において、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散とが異なる構成となる場合に、空間分解能の劣化を抑制する構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明に係る光干渉断層撮像装置は、
波長掃引レーザ光源と、
上記波長掃引レーザ光源から出射された光をそれぞれ物体光と参照光とに分岐する分岐手段と、
上記分岐手段から出力された上記物体光を測定対象物に照射させ所定の範囲を走査する照射手段と、
上記測定対象物に照射され散乱された物体光と上記参照光との干渉光の強度比の波長依存性に関する情報を生成する光スペクトルデータ生成手段と、
上記光スペクトルデータ生成手段によって生成された上記干渉光の強度比の波長依存性に関する情報に対し、上記物体光の光路と上記参照光の光路の波長分散の相違に基づいて乗算処理による補償を行う波長分散補償処理手段と、
上記波長分散補償処理を行った結果に基づき上記測定対象物の断層構造情報を生成する断層構造情報生成手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明による光干渉断層撮像装置では、複数の物体光ビームを測定対象物に照射する際にマルチコア光ファイバを用いるなどの、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散とが異なる場合であっても、空間分解能の劣化を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の上位概念の実施形態による光干渉断層撮像装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明に係る光干渉断層撮像装置の実施の形態1の一例の構成を示す図である。
【
図3】本発明に係る光干渉断層撮像装置で得られるAスキャン波形における波長分散補償処理の効果を説明する図である。
【
図4】本発明に係る光干渉断層撮像装置の実施の形態2の一例の構成を示す図である。
【
図5】本発明に係る光干渉断層撮像装置の実施の形態2に用いられるコヒーレント受光器の構成例を示す図である。
【
図6】関連する光干渉断層撮像装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。具体的な実施形態について説明する前に、本発明の上位概念の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の上位概念の実施形態による光干渉断層撮像装置を示す構成図である。
図1の光干渉断層撮像装置は、波長掃引レーザ光源51、光分岐器52、複数のサーキュレータ54、複数の光分岐合流器55、複数のシングルモードファイバ(SMF)と単一のマルチコア光ファイバ(MCF)との光接続部56を含む。さらに
図1の光干渉断層撮像装置は、MCF57、ファイバコリメータ58、照射光学系59、参照光経路に用いる複数のSMF61、参照光ミラー62、バランス型受光器63、光スペクトルデータ生成手段64を備える。さらに
図1の光干渉断層撮像装置は、波長分散補償処理手段65、制御手段66を含む。なお
図1の光干渉断層撮像装置の照射光学系59は、単一の物体光ビーム照射に用いる構成を、少なくとも有していればよい。なお
図1の光干渉断層撮像装置では、複数のサーキュレータ54は、光分岐器52と、複数の光分岐合流器55との間に配置されているがこれには限られず、複数の光分岐合流器55と、光接続部56との間に配置されることもできる。
【0027】
図1の光干渉断層撮像装置のうち、波長掃引レーザ光源51、光分岐器52、複数のサーキュレータ54、複数の光分岐合流器55、光接続部56、MCF57、ファイバコリメータ58、照射光学系59、参照光経路に用いる複数のSMF61、参照光ミラー62、バランス型受光器63については、後述の実施の形態で詳細に説明する。
【0028】
図1の光干渉断層撮像装置の光スペクトルデータ生成手段64は、光分岐器52へ入射されるレーザ光の波長変化に関する情報と、バランス型受光器63からの、干渉光R51とR61との強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルを生成する。同様に、光スペクトルデータ生成手段64は、光分岐器52へ入射される光の波長変化に関する情報と、干渉光R52とR62との強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルを生成する。また、光スペクトルデータ生成手段64は、生成した干渉光スペクトルを接続して、測定対象物に関する干渉光スペクトルデータを生成する。
【0029】
制御手段66は、物体光R11、R12を測定対象物の一平面において走査線方向及び走査線に垂直な方向に移動させるよう、照射光学系59を制御する。好ましくは、制御手段66は、照射光学系59が測定対象物をスキャンする周期及び速度を制御する。
【0030】
さらに波長分散補償処理手段65は、複数の物体光ビームR11、R12を測定対象物に照射する際にMCF57を用いていることなどに起因する、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散との相違を補償する。
【0031】
図1の光干渉断層撮像装置によれば、単一の物体光ビーム照射に用いる照射光学系に変更を加えることなく複数の物体光ビーム照射に用いる照射光学系を実現することができる。さらに波長分散補償処理手段65によって、複数の物体光ビームR11、R12を測定対象物に照射する際にMCF57を用いていることなどに起因する、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散との相違を補償しているので、この波長分散の相違に起因する位置分解能の劣化を抑制することができる。以下、具体的な実施の形態について説明する。
【0032】
〔実施の形態1〕
図2は、本発明に係る光干渉断層撮像装置の実施の形態1を示す構成図である。
図2に示すように、光干渉断層撮像装置100は、波長掃引レーザ光源101、光分岐器102、複数の光遅延器103、複数のサーキュレータ104、複数の光分岐合流器105、複数のシングルモードファイバ(SMF)と単一のマルチコア光ファイバ(MCF)との光接続部106を備える。さらに光干渉断層撮像装置100は、MCF107、ファイバコリメータ108、照射光学系109、参照光経路に用いる複数のSMF111、参照光ミラー112、バランス型受光器113、光スペクトルデータ生成部114を備える。さらに光干渉断層撮像装置100は、波長分散補償処理部115、Aスキャン波形生成部116、断層画像生成部117、物体光ビーム照射位置設定部118等を備える。
【0033】
波長掃引レーザ光源101は、波長掃引された光パルスを生成する。具体的には、波長掃引レーザ光源101は、持続時間10μsの間に波長が1250nmから1350nmまで増加する光パルスを生成する。また、波長掃引レーザ光源101は、当該光パルスを、20μs毎に50kHz繰り返しで生成する。
【0034】
波長掃引レーザ光源101から出射された光は、光分岐器102で複数の光R01、R02に分岐された後、複数の光遅延器103、複数のサーキュレータ104を経由して、複数の光分岐合流器105によって物体光R11、R12と参照光R21、R22とに分岐される。
【0035】
光分岐合流器105から出力された複数の物体光R11、R12は、光接続部106、MCF107、ファイバコリメータ108、照射光学系109を経て、測定対象物120に照射され、走査される。より具体的には、照射光学系109は、スキャンミラーとレンズからなり、複数の物体光ビーム110a、110bを測定対象物120のX-Y平面においてそれぞれ異なる位置に照射させ、一定範囲を走査する。
【0036】
測定対象物120に照射された物体光ビーム110a、110bは、測定対象物120から後方(物体光ビームの照射方向と反対の方向)に散乱される。そして、測定対象物120から散乱された物体光(後方散乱光)R31、R32は、照射光学系109、MCF107を経て、光分岐合流器105へ戻る。
【0037】
光分岐合流器105から出力された複数の参照光R41、R42は、参照光ミラー112によって反射され、光分岐合流器105へ戻る。
【0038】
したがって、光分岐合流器105において、測定対象物120から散乱された物体光R31と参照光ミラー112から反射された参照光R41とが干渉し、干渉光R51及び干渉光R61が得られる。同様に、光分岐合流器105において、測定対象物120から散乱された物体光R32と参照光ミラー112から反射された参照光R42とが干渉し、干渉光R52及び干渉光R62が得られる。そのため、物体光R31と参照光R41との位相差によって干渉光R51と干渉光R61との強度比が決定され、物体光R32と参照光R42との位相差によって干渉光R52と干渉光R62との強度比が決定される。
【0039】
干渉光R51、R52はサーキュレータ104を経て、干渉光R61、R62は直接に、対応するバランス型受光器113へ入力される。そして、バランス型受光器113からそれぞれ、干渉光R51と干渉光R61との強度比の変化に関する情報、干渉光R52と干渉光R62との強度比の変化に関する情報が、光スペクトルデータ生成部114に入力される。
【0040】
なお、バランス型受光器113は2つのフォトダイオードが直列に接続され、その接続が出力(差動出力)となっている受光器である。また、バランス型受光器113の帯域は1GHz以下である。
【0041】
光スペクトルデータ生成部114は、波長掃引レーザ光源101からの出射光の波長変化に関する情報と、干渉光R51とR61との強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルデータを生成する。同様に、光スペクトルデータ生成部114は、波長掃引レーザ光源101からの出射光の波長変化に関する情報と、干渉光R52とR62との強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルを生成する。光スペクトルデータ生成部114で生成された干渉光スペクトルデータは波長分散補償処理部115を経由してAスキャン波形生成部116に入力される。
【0042】
波長分散補償処理部115の効果を説明するため、まずこれを経由させずに生成されたAスキャン波形に関して、光散乱点1ケ所の場合に得られた波形を
図3に示す。
図3の(a)~(e)は、光散乱点が異なる位置にある場合のAスキャン波形を示している。光散乱点位置は1ケ所であるが、Aスキャン波形には広がりがあり、深さ方向の位置分解能の劣化を示している。
【0043】
波長分散補償処理部115を経由させずに生成されたAスキャン波形において位置分解能が劣化する原因を、下記に説明する。参照光が光分岐合流器105で分岐されてから参照光ミラー112で反射されて光分岐合流器105へ戻り物体光と干渉するまでの光路にはSMFを用いており、この光路長はPRである。これに対し、物体光が光分岐合流器105で分岐されてから測定対象物120の光散乱点1ケ所で後方散乱されて光分岐合流器105へ戻り参照光と干渉するまでの光路は、長さL1、光路長P1のSMFと長さL2、光路長P2のMCFを用いており、この光路長はPS=P1+P2+z0である。ここで、ある波長λ0、波数k0ではP2=PR-P1であったが、波長掃引範囲の任意の波長λ、波数kでP2=PR-P1は必ずしも成り立たない。これは光路長P2を形成するMCFの波長分散と光路長PR-P1を形成するSMFの波長分散が異なるためである。波長λ0、波数k0では、光分岐合流器105で干渉する物体光と参照光の位相差はk0z0+φであるが、任意の波長λ、波数kではkz0+k(P1+P2-PR)+φとなる。ここでφはkやz0に依存しない定数である。MCFの等価屈折率nM、SMFの等価屈折率nS、その差Δnを用いて
P1+P2-PR=nML1-nS(L2-LR)=ΔnL
と表され、Δnがk依存性を持つためであるとして考えることができる。波長1250nmから1350nmまでの範囲ではΔnは短波長ほど増加しており、k依存性として近似的にはΔn~αk(α>0)で表せる。以上より、光分岐合流器105で干渉する物体光の振幅をES、参照光の振幅をERとすると、生成される干渉光スペクトルは
【0044】
【0045】
で表され、その位相項にはkΔnLで表される項が現れ、これはkに比例しない。これをフーリエ変換したAスキャン波形には、
図3の(a)~(e)に示すような位置分解能の劣化が生じる。
【0046】
そこで本発明の実施の形態では、波長分散補償処理部115を経由させてAスキャン波形を生成する。波長分散補償処理部115では、あらかじめ把握されているΔnのk依存性を用いて乗算処理
【0047】
【0048】
が行われる。後段のAスキャン波形生成部116で行われるフーリエ変換で
【0049】
【0050】
となり、
図3の(f)~(j)に示すようなz=z
0(およびz=-z
0)でδ関数状のピークを示し、位置分解能の劣化なく光散乱点位置1ケ所のAスキャン波形が得られる。
【0051】
なお、通常、測定対象物に照射された物体光はある程度内部まで減衰しながら伝搬しつつ順次後方散乱され、物体光の光散乱点は表面からある深さまでの範囲に分布することになる。光散乱点が深さ方向にz0-Δzからz0+Δzまで分布している場合には、干渉光スペクトルにおいて周期2π/(z0-Δz)から2π/(z0+Δz)までの変調が重なって現れ、これがAスキャン波形を形成する。
【0052】
Aスキャン波形生成部116は、Aスキャン波形生成を行う。Aスキャン波形生成では、物体光ビーム照射位置設定部118による制御に基づき照射光学系109によって物体光ビームR11、R12の照射位置を走査線方向(X方向)に移動させながら繰り返し行われ、その測定結果を接続することにより、走査線方向と深さ方向との二次元の後方散乱光(物体光)の強度のマップがBスキャン断層構造データとして得られる。
【0053】
さらに、物体光ビーム照射位置設定部118による制御に基づき、物体光ビームR11、R12の照射位置を走査線方向及び走査線に垂直な方向に移動させながらBスキャン動作を繰り返し行うことによって得られた測定結果を接続することにより、断層画像生成部117はX,Y,Z方向の三次元の断層構造データを生成する(Cスキャン)。
【0054】
(実施形態の効果)
図2の光干渉断層撮像装置100では、光分岐合流器105から出力された複数の物体光R11、R12は光接続部106でMCF107に結合され、照射光学系109を経て、測定対象物120に照射され、走査される。これにより、単一の物体光ビーム照射に用いる照射光学系に変更を加えることなく、複数の物体光ビーム照射に用いる照射光学系を実現することができる。
【0055】
波長分散補償処理部115は、複数の物体光ビームR11、R12を測定対象物120に照射する際にMCF107を用いていることなどに起因する、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散との相違を補償しているので、この波長分散の相違に起因する位置分解能の劣化を抑制することができる。複数の物体光ビームR11、R12を測定対象物120に照射する際にMCF107を用いるなど、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散とが異なる場合であっても、この波長分散の相違を補償することによって、スキャン波形について空間分解能の劣化を抑制することができる。
【0056】
〔実施の形態2〕
本発明の実施の形態2に係る光干渉断層撮像装置300について、説明する。
図4は、実施の形態2に係る光干渉断層撮像装置300の一例を示す図である。
【0057】
図4に示すように、光干渉断層撮像装置300は、波長掃引レーザ光源301、第一の光分岐器302、複数の光遅延器303、複数の第二の光分岐器305、複数のサーキュレータ304、複数のシングルモードファイバ(SMF)と単一のマルチコア光ファイバ(MCF)との光接続部306を備える。さらに光干渉断層撮像装置300は、MCF307、ファイバコリメータ308、照射光学系309、コヒーレント受光器311、光スペクトルデータ生成部312を備える。さらに光干渉断層撮像装置300は、波長分散補償処理部313、Aスキャン波形生成部314、断層画像生成部315、物体光ビーム照射位置設定部316等を備える。
【0058】
波長掃引レーザ光源301は、波長掃引された光パルスを生成する。具体的には、波長掃引レーザ光源301は、持続時間10μsの間に波長が1250nmから1350nmまで増加する光パルスを生成する。また、波長掃引レーザ光源301は、当該光パルスを、20μs毎に50kHz繰り返しで生成する。
【0059】
波長掃引レーザ光源301から出射された光は、第一の光分岐器302で複数の光R01、R02に分岐された後、複数の光遅延器303を経由して、複数の第二の光分岐器305によって物体光R11、R12と参照光R21、R22とに分岐される。
【0060】
第二の光分岐器305から出力された複数の物体光R11、R12は、複数のサーキュレータ304、光接続部306、MCF307、ファイバコリメータ308、照射光学系309を経て、測定対象物320に照射され、走査される。より具体的には、照射光学系309は、複数の物体光ビーム310a、310bを測定対象物320のX-Y平面においてそれぞれ異なる位置に照射させ、一定範囲を走査する。
【0061】
測定対象物320に照射された物体光ビーム310a、310bは、測定対象物320から後方(物体光ビームの照射方向と反対の方向)に散乱される。そして、測定対象物320から散乱された物体光(後方散乱光)R31、R32は、照射光学系309、MCF307、複数のサーキュレータ304を経て、コヒーレント受光器311へ入力される。
【0062】
また、第二の光分岐器305から出力された複数の参照光R21、R22は、コヒーレント受光器311へ入力される。
【0063】
物体光と参照光を干渉させるコヒーレント受光器311の内部の構成例を、
図5に示す。物体光は分岐器331で物体光R71とR72に分岐され、各々、合流器341と342に導かれる。また、参照光は分岐器332で参照光R81とR82に分岐され、各々、合流器341と342に導かれる。合流器341では、物体光R71と参照光R81が干渉し、合流器342では、物体光R72と参照光R82が干渉する。分岐器332から合流器341までの光路長と分岐器332から合流器342までの光路長は、その差が半波長となるよう設定される。したがって、合流器341で干渉する物体光R71と参照光R81の位相差と、合流器342で干渉する物体光R72と参照光R82の位相差はπ異なる。合流器341の2本の光出力をバランス型受光器351へ入力し、2本の光の強度差の光電変換出力を得る。また、合流器342の2本の光出力をバランス型受光器352へ入力し、2本の光の強度差の光電変換出力を得る。バランス型受光器351、352の出力は光スペクトルデータ生成部312に入力される。
【0064】
光スペクトルデータ生成部312は、波長掃引レーザ光源301からの出射光の波長変化に関する情報と、コヒーレント受光器からの物体光R31と参照光R21の干渉光強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルデータを生成する。同様に、光スペクトルデータ生成部312は、波長掃引レーザ光源301からの出射光の波長変化に関する情報と、コヒーレント受光器からの物体光R32と参照光R22の干渉光強度比の変化に関する情報とに基づいて、干渉光スペクトルデータを生成する。
【0065】
光スペクトルデータ生成部312で生成される干渉光スペクトルデータは、参照光が第二の光分岐器305で分岐されコヒーレント受光器311の内部の光合流器に到達するまでの光路長と、物体光が第二の光分岐器305で分岐され測定対象物320に照射されて後方散乱されコヒーレント受光器311の内部の光合流器に到達するまでの光路長との差を、反映するものとなる。参照光が第二の光分岐器305で分岐されてからコヒーレント受光器311の内部の光合流器に到達するまでの光路はSMFを用いており、光路長はPRである。これに対し、物体光が第二の光分岐器305で分岐されてから測定対象物320の光散乱点1ケ所で後方散乱されてコヒーレント受光器311の内部の光合流器に到達するまでの光路は、長さL1、光路長P1のSMFと長さL2、光路長P2のMCFを用いており、光路長はPS=P1+P2+z0である。MCFの等価屈折率nM、SMFの等価屈折率nS、その差Δnを用いて
P1+P2-PR=nML1-nS(L2-LR)=ΔnL
と表されるとし、干渉する物体光の振幅をES、参照光の振幅をERとすると、
【0066】
【0067】
で表される干渉光スペクトルデータが光スペクトルデータ生成部312で生成される。コヒーレント受光器を用いることで、物体光と参照光の干渉において位相差πだけ異なる(直交位相)状態を検出することが可能となっている。干渉光スペクトルデータの位相項にはkΔnLで表される項が現れ、kに比例しないが、波長分散補償処理部313を経由させ、乗算処理
【0068】
【0069】
が行われる。したがってAスキャン波形生成部314で行われるフーリエ変換で
【0070】
【0071】
となり、z=z0でδ関数状のピークを示し、位置分解能の劣化なく光散乱点位置1ケ所のAスキャン波形が得られる。
【0072】
Aスキャン波形生成は、物体光ビーム照射位置設定部316による制御に基づき照射光学系309によって物体光ビームR11、R12の照射位置を走査線方向(X方向)に移動させながら繰り返し行われ、その測定結果を接続することにより、走査線方向と深さ方向との二次元の後方散乱光(物体光)の強度のマップがBスキャン断層構造データとして得られる。
【0073】
さらに、物体光ビーム照射位置設定部316による制御に基づき、物体光ビームR11、R12の照射位置を走査線方向及び走査線に垂直な方向に移動させながらBスキャン動作を繰り返し行うことによって得られた測定結果を接続することにより、X,Y,Z方向の三次元の断層構造データを生成する(Cスキャン)。
【0074】
(実施形態の効果)
図4の光干渉断層撮像装置300では、上述した実施の形態1と同様に、第二の光分岐器305から出力された複数の物体光R11、R12は光接続部306でMCF307に結合され、照射光学系309を経て、測定対象物320に照射され、走査される。これにより、単一の物体光ビーム照射に用いる照射光学系に変更を加えることなく、複数の物体光ビーム照射に用いる照射光学系を実現することができる。
【0075】
また上述した実施の形態1と同様に、物体光の光路の波長分散と参照光の光路の波長分散とが異なる場合であっても、この波長分散の相違を補償することによって、スキャン波形について空間分解能の劣化を抑制することができる。
【0076】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0077】
100、300 光干渉断層撮像装置
101、301 波長掃引レーザ光源
102 光分岐器
103、303 光遅延器
104、304 サーキュレータ
105 光分岐合流器
106、306 光接続部
107、307 MCF
108、308 ファイバコリメータ
109、309 照射光学系
110a、110b、310a、310b 物体光ビーム
111 SMF
112 参照光ミラー
113 バランス型受光器
114、312 光スペクトルデータ生成部
115、313 波長分散補償処理部
116、314 Aスキャン波形生成部
117、315 断層画像生成部
118、316 物体光ビーム照射位置設定部
120、320 測定対象物
311 コヒーレント受光器
302 第一の光分岐器
305 第二の光分岐器