(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】電極または配線、電極対、および、電極または配線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20241001BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241001BHJP
B22F 5/12 20060101ALI20241001BHJP
B22F 7/00 20060101ALI20241001BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20241001BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20241001BHJP
C01B 32/921 20170101ALI20241001BHJP
C01B 21/082 20060101ALI20241001BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
H01B1/22 Z
H01B13/00 501Z
B22F5/12
B22F7/00 L
C22C1/05 A
C22C1/10 J
C01B32/921
C01B21/082 K
B22F5/00 J
(21)【出願番号】P 2022550582
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033929
(87)【国際公開番号】W WO2022059704
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020156698
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】日置 泰典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一存
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 俊
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109238522(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111447968(CN,A)
【文献】特開2017-076739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 13/00
B22F 5/12
B22F 7/00
C22C 1/05
C22C 1/10
C01B 32/921
C01B 21/082
B22F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含む電極または配線であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含
み、電極間の距離が0mm超、6mm以下である、または配線間の距離が0mm超、1mm以下である、電子部品または回路基板の電極または配線。
【請求項2】
前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、前記金属粒子と、樹脂とを含む複合材料で形成された、請求項1に記載の電極または配線。
【請求項3】
前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、前記焼結金属とを含む焼結体で形成された、請求項1に記載の電極または配線。
【請求項4】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれかに記載の電極または配線。
【請求項5】
前記層本体が、Ti
3C
2、Ti
3CN、およびTi
2Cからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~4のいずれかに記載の電極または配線。
【請求項6】
前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子の含有率が、金属粒子または焼結金属に対して0.1質量%以上、20質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の電極または配線。
【請求項7】
前記金属粒子または焼結金属は、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む、請求項1~6のいずれかに記載の電極または配線。
【請求項8】
アノードとカソードを有する電極対であって、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方が、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含み、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、電子部品または回路基板の電極対。
【請求項9】
前記アノードとカソードの間の距離が0mm超、6mm以下である、請求項
8に記載の電極対。
【請求項10】
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方は、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素を含む、請求項
8または
9に記載の電極対。
【請求項11】
(a1)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子と、樹脂とを混錬して混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、および
(b1)前記混合物を乾燥させて電極または配線を得ること
を含
み、電極間の距離が0mm超、6mm以下である、または配線間の距離が0mm超、1mm以下である、電子部品または回路基板の電極または配線の製造方法。
【請求項12】
(a2)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子とを含む配合物を、混錬して混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、
(b2)前記混合物を成形し、乾燥させて成形物を得ること、および
(c)前記成形物を、焼結可能な温度で焼成させること
を含む、電子部品または回路基板の電極または配線の製造方法。
【請求項13】
電極間の距離が0mm超、6mm以下である、請求項
12に記載の電極の製造方法。
【請求項14】
配線間の距離が0mm超、1mm以下である、請求項
12に記載の配線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極または配線、電極対、および、電極または配線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ等の電子部品では、該電子部品を構成する材料のイオン化、高湿度下での外部からの水分等に起因して、イオンマイグレーションが生じるという問題がある。イオンマイグレーションが生じると、短絡等の不良が生じる。外部からの水分に起因する不良を抑止することを目的に、例えば特許文献1には、無機陰イオン交換体およびそれを用いた電子部品封止用エポキシ樹脂組成物が示されている。特には所定のハイドロタルサイト化合物を、金属酸化物で処理被覆することにより、吸湿性が少なく陰イオン交換性能に優れた無機陰イオン交換体が得られることが示されている。また特許文献2には、有機系の化合物であるトリアジン化合物を、所定のポリマー中に溶解または均一に分散させることにより、電子部品等のマイグレーション防止を図ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-1902号公報
【文献】特開2014-210732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記電子部品を構成する電極または配線には、上記イオンマイグレーションの抑制とともに、高い導電性も求められる。しかし、特許文献1に示された無機系の化合物と特許文献2に示された有機系の化合物は、いずれも絶縁性を示すため、電極に配合した場合に導電率が低下する。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高湿度下においてイオンマイグレーションが抑制され、かつ導電性に優れた電極または配線、電極対、および電極または配線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの要旨によれば、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含む電極または配線であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、電極または配線が提供される。
【0006】
本発明のもう1つの要旨によれば、
アノードとカソードを有する電極対であって、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方が、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含み、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、電極対が提供される。
【0007】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a1)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子と、樹脂とを混錬して混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、および
(b1)前記混合物を乾燥させて電極または配線を得ること
を含む、電極または配線の製造方法が提供される。
【0008】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a2)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子とを含む配合物を、混錬して混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、
(b2)前記混合物を成形し、乾燥させて成形物を得ること、および
(c)前記成形物を、焼結可能な温度で焼成させること
を含む、電極または配線の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極または配線が、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含んでおり、これにより、MXeneを含み、高湿度下においてもイオンマイグレーションが抑制され、かつ、導電性に優れた電極または配線が提供される。また本発明によれば、所定の層状材料の粒子(MXeneの粒子)と、金属粒子と、樹脂とを、混錬して混合物を調製することであって、前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率を、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下とし、前記混合物を乾燥させることにより、上記電極または配線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の1つの実施形態における電極または配線を示す概略模式断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態における電極または配線を示す概略模式断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態における導電性複合材料に利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図である。
【
図4】Agイオンマイグレーションの発生機構を説明した模式図である。
【
図5】比較例のイオンマイグレーション評価結果を示す写真である。
【
図6】実施例のイオンマイグレーション評価結果を示す写真である。
【
図7】別の比較例のイオンマイグレーション評価結果を示す写真である。
【
図8】別の実施例のイオンマイグレーション評価結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1:電極または配線)
本発明の実施形態における電極または配線は、所定の層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含んでおり、それにより、高湿度下においてもイオンマイグレーションが抑制され、かつ導電性に優れた電極または配線を実現することができる。
【0012】
以下、本発明の実施形態における電極または配線について詳述するが、本発明の電極または配線はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1を参照して、本実施形態の1つの電極または配線として、所定の層状材料の粒子10と、金属粒子11Aと、樹脂12とを含む複合材料で形成された電極または配線20Aが挙げられる。また、
図2を参照して、本実施形態の他の電極または配線として、所定の層状材料の粒子10と、焼結金属11Bとを含む焼結体で形成された電極または配線20Bが挙げられる。上記複合材料または焼結体は、電極または配線を形成しやすい材料である。
【0014】
電極または配線20Aと電極または配線20Bのいずれにも含まれる、所定の層状材料の粒子について、まず説明する。
【0015】
本実施形態における所定の層状材料の粒子とは、MXene(粒子)であり、次のように規定される。
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子であって、該層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTx」とも表され、xは任意の数であり、従来、xに代えてzまたはsが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得る。
【0016】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0017】
MXeneの上記式中、MはTi、Xが炭素原子、または、炭素原子および窒素原子であることが更に好ましい。上記層本体として、Ti3C2、Ti3CN、およびTi2Cからなる群より選択される少なくとも1つがより更に好ましく、特には、上記Ti3C2が好ましい。該層本体を有するMXeneを用いれば、高い導電性を確保することができる。
【0018】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、F-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理や、ハンドシェイクなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。
【0019】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3、(Mo2.7V1.3)C3(上記式中、「2.7」および「1.3」は、それぞれ約2.7(=8/3)および約1.3(=4/3)を意味する。)
【0020】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Txである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0021】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、ペースト(およびそれによって得られる導電性フィルム)の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0022】
このようにして合成されるMXene(粒子)10は、
図3に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料(MXene(粒子)10の例として、
図3(a)中に1つの層のMXene10aを、
図3(b)中に2つの層のMXene10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
x」とも表され、xは任意の数である。MXene10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(
図3(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(
図3(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene10は、単層MXene10aおよび/または多層MXene10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。本実施形態において、MXene10は、その大部分が単層MXene10aから構成される粒子(ナノシートとも称され得る)であることが好ましい。多層MXeneである場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0023】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上、200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図3(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上であればよいが、例えば50以上100,000以下、特に1,000以上、20,000以下であり、積層方向の厚さは、例えば0.1μm以上、200μm以下、特に1μm以上40μm以下であり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上100μm以下、特に1μm以上、20μm以下である。なお、これら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)写真または原子間力顕微鏡(AFM)写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められる。
【0024】
前記金属粒子11Aまたは焼結金属11Bを構成する金属の種類は特に問わない。本実施形態の電極または配線は、金属粒子11Aまたは焼結金属11Bとして、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素を含みうる。これらの元素は、イオンマイグレーションを生じうる元素である。これらの元素が含まれる場合、特にAgが含まれる場合に、イオンマイグレーション抑制効果が十分発揮される。金属粒子11Aまたは焼結金属11Bが、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素で形成されている場合、特にAgで形成されている場合、イオンマイグレーション抑制効果が存分に発揮される。
【0025】
前記金属粒子11Aのサイズは、特に限定されないが、例えばレーザー回折・散乱法で測定した平均粒径(D50)が0.1μm以上、100μm以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
前記1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子の含有率は、金属粒子または焼結金属に対して0.1質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。前記層状材料の粒子の含有率を、金属粒子または焼結金属に対して0.1質量%以上とすることで、上記イオンマイグレーション抑制効果がより発揮されるため好ましい。上記含有率は、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。一方、電極または配線への加工のしやすさ、導電性の確保の観点から、上記含有率は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0027】
前記電極または配線20Aにおける樹脂12は限定されず、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル等が挙げられる。
【0028】
電極または配線20Aを構成する複合材料に占める樹脂の割合は、例えばバインダーとしての機能を発揮させるため、0質量%超、好ましくは2質量%以上であることが好ましく、一方、導電性確保の観点から25質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
前記「電極」として、上記イオンマイグレーション故障の生じる可能性のある、電子部品や回路基板中の、内部電極、外部電極、パッド電極、配線状電極、グランド(基準電位)電極、シールドパターン等が挙げられる。前記「配線」として、回路パターンを形成する信号ライン、コイルパターン、層間接続導体(ビア導体)等が挙げられる。
【0030】
上記イオンマイグレーションが生じうる態様として、湿度等の雰囲気にもよるが、電極間の距離が、0mm超であって、例えば6mm以下の場合、配線間の距離が、0mm超であって、例えば1mm以下の場合が挙げられる。これら電極間、配線間には、液体が存在しうる。すなわち、上記電極、配線は、液体中に存在する他、液体が少量存在する大気中に存在していてもよい。液体が少量存在する大気中とは、例えば、大気中の湿度が高い場合や、人の皮膚表面に液体である汗が存在する場合が挙げられる。本実施形態の電極または配線は、液体が少量存在する大気中で、イオンマイグレーションをより効果的に抑制できる。
【0031】
(実施形態2:電極対)
本発明の実施形態における電極対は、本発明の実施形態に係る電極を、アノードおよびカソードの少なくとも一方として用いており、それにより、高湿度下においてもイオンマイグレーションを効果的に抑制でき、かつ導電性に優れた電極対を実現することができる。
【0032】
本発明の実施形態における電極対は、詳細には、
アノードとカソードを有する電極対であって、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方が、
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子と、金属粒子または焼結金属とを含み、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む。
【0033】
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方には、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素が含まれうる。これらの元素は、イオンマイグレーションを生じうる元素である。これらの元素が含まれる場合、特にAgが含まれる場合に、イオンマイグレーション抑制効果が十分発揮される。アノードおよびカソードの少なくとも一方が、Ag、Sn、Pt、Ni、Cu、AuおよびZnからなる群より選択される1種以上の元素で形成されている場合、特にはAgで形成されている場合、イオンマイグレーション抑制効果が存分に発揮される。前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方に、MXene粒子が含まれる場合、併せて含まれる金属粒子または焼結金属は、特に限定されない。よって、アノードとカソードに含まれうる金属粒子または焼結金属は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
例えば、Agイオンマイグレーションは、
図4に模式的に示す通り発生すると考えられる。すなわち、
図4中Aの通り、アノード31から金属イオンであるAg
+が溶出し、
図4中Bの通り、Ag
+がアノード(正極)31からカソード(負極)33へ電極間を移動する。矢印35は電界の方向を示す。そして、
図4中Cの通り、金属イオンAg
+がカソード33に到着し、金属Ag37として析出する。析出時には、
図4中Dの通り、遮蔽効果により枝の先端に析出しやすい。またカソードから電子が供給されながら、
図4中Eの通り結晶が枝状に成長し、枝が成長すると、
図4中Fの通り枝の途中からも析出しうると考えられる。
【0035】
本実施形態における電極対では、
図4中Aの通り、アノード(正極)で金属が電子を抜き取られて上記金属イオンに変化することを、MXeneにより抑制するため、イオンマイグレーションの原因となる金属イオンが発生せず、イオンマイグレーションが抑制される。これは、金属の代わりにMXeneの電子が抜き取られる、すなわちMXeneが還元剤として機能することによると考えられる。
【0036】
また本実施形態における電極対では、上記
図4中Cの通り、カソード(負極)33まで移動した金属イオンが電子を受け取ることを、MXeneにより抑制するため、カソード33で金属(
図4では金属Ag37)が析出せず、イオンマイグレーションが抑制される。これは、金属イオンの代わりにMXeneが電子を受け取る、すなわち酸化剤として機能することによると考えられる。
【0037】
本実施形態における電極対で、イオンマイグレーションが抑制される理由は、これらに限られず、金属イオンをアノードからカソードへ移動させないことなど、他の機構も考えられうる。
【0038】
二次元層状化合物であるMXeneは、導電率が高いとの特長を持ち、かつ、酸化還元作用(電子の授受)を併せ持つ。この酸化還元作用が、イオンマイグレーションの抑制に効いていると考えられる。
【0039】
よって、アノードとカソードを有する電極対の、アノードとカソードを構成する電極の少なくとも一方に、上記MXeneを含むようにするのがよい。
【0040】
上記アノードとカソードの間の距離は、例えば上記イオンマイグレーションが生じうる態様として、湿度等の雰囲気にもよるが、0μm超であって、例えば6mm以下の場合が挙げられる。これらアノードとカソードは、液体中に存在する他、液体が少量存在する大気中に存在していてもよい。液体が少量存在する大気中とは、例えば、大気中の湿度が高い場合や、人の皮膚表面に液体である汗が存在する場合が挙げられる。本実施形態の電極または配線は、液体が少量存在する大気中で、イオンマイグレーションをより効果的に抑制できる。
【0041】
(実施形態3:電極または配線の製造方法)
以下、本発明の実施形態における電極または配線の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態の1つの電極または配線の製造方法(第1製造方法)は、
(a1)所定の層状材料の粒子と、金属粒子と、樹脂とを混錬して混合物を調製することであって、前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、および
(b1)前記混合物を乾燥させて電極または配線を得ること
を含む。
【0043】
本実施形態のもう1つの電極または配線の製造方法(第2製造方法)は、
(a2)所定の層状材料の粒子と、金属粒子とを含む配合物を、混錬して混合物を調製することであって、前記混合物における前記層状材料の粒子の配合比率が、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下であること、
(b2)前記混合物を成形し、乾燥させて成形物を得ること、および
(c)前記成形物を、焼結可能な温度で焼成させること
を含む。以下、第1製造方法と第2製造方法の各工程について詳述する。
【0044】
・第1製造方法の工程(a1)
所定の層状材料の粒子、すなわち1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子として、前記実施形態1で述べた粒子を用いる。また、金属粒子と樹脂も前記実施形態1で述べた材料を使用することができる。前記金属粒子および樹脂として、これらがあらかじめ混合された金属ペーストを用いることができる。
【0045】
混合物における層状材料の粒子の配合比率は、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下となるようにする。上下限値設定の理由、および好ましい上下限値は、前記実施形態1で述べた通りである。
【0046】
前記混錬の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、遠心撹拌機での撹拌、3本ロールミルを用いた混錬及び分散処理が挙げられる。前記混錬において、流動性が低下した場合には、後工程の乾燥工程で除去可能な有機溶剤、例えば実施例で用いたジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加してもよい。
【0047】
・第1製造方法の工程(b1)
前記混合物を乾燥させて電極または配線を得る。混合物は、乾燥前に、電極または配線の形状の成形物に成形することができるが、成形方法は特に問わない。例えば、基板のような塗布対象物に混合物を塗布してもよい。塗布方法は限定されず、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下による塗布方法が挙げられる。上記塗布対象物は、用途に応じて、プリント基板、金属基板、樹脂基板、積層型電子部品、金属ピン、金属ワイヤ等、適宜採用すればよい。
【0048】
次いで乾燥を行う。乾燥の条件は、成形された混合物の形状・サイズにもよるが、例えば60℃以上、200℃以下の範囲で、10分間以上、120分間以下行うことが挙げられる。
【0049】
上記塗布および乾燥は、所望の厚みの膜が得られるまで、必要に応じて複数回繰り返し行ってもよい。
【0050】
・第2製造方法の工程(a2)
所定の層状材料の粒子、すなわち1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子として、前記実施形態1で述べた粒子を用いる。また、金属粒子も前記実施形態1で述べた材料を使用することができる。前記金属粒子として、例えばレーザー回折・散乱法で測定した平均粒径(D50)が1nm以上、200μm以下の金属粒子を用いることができる。混合物には、容易に混錬できるように、後工程の焼成で除去可能なバインダーを含めてもよい。
【0051】
混合物における層状材料の粒子の配合比率は、前記金属粒子に対して0.1質量%以上、20質量%以下となるようにする。前記配合比率の上下限値設定の理由、および好ましい上下限値は、前記実施形態1で述べた通りである。
【0052】
前記混錬の方法は、特に限定されるものではなく、例えば、3本ロールミルを用いた混合及び分散を行う方法が挙げられる。
【0053】
・第2製造方法の工程(b2)
前記混合物を成形し、乾燥させて成形物を得る。成形方法は特に限定されず、成形は、例えば、基板のような塗布対象物に混合物を塗布して行ってもよい。塗布方法は限定されず、例えば、1流体ノズル、2流体ノズル、エアブラシ等のノズルを用いて、スプレー塗布を行う方法、テーブルコーター、コンマコーター、バーコーターを用いたスリットコート、スクリーン印刷、メタルマスク印刷等の方法、スピンコート、ディップコート、滴下による塗布方法が挙げられる。上記塗布対象物は、用途に応じて、プリント基板、金属基板、樹脂基板、積層型電子部品、金属ピン、金属ワイヤ等、適宜採用すればよい。
【0054】
乾燥の条件は、成形物の形状・サイズにもよるが、例えば60℃以上、200℃以下の範囲で、10分間以上、120分間以下行うことが挙げられる。
【0055】
・第2製造方法の工程(c)
前記成形物を、焼結可能な温度で焼成させる。焼結可能な温度は、例えば、おおよそ、150℃以上、800℃以下の範囲内において、金属種に応じて決定すればよい。また、焼成時間は成形物の形状・サイズにあわせて決定すればよい。焼成時の雰囲気は特に限定されない。上記バインダーの除去等を目的に、焼成時の雰囲気を不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気に適宜調整することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態における電極または配線、電極対、および電極または配線の製造方法について詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明の電極または配線は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよいことに留意されたい。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
・MAX粒子の調製
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼結体(ブロック状のMAX相)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、MAX粒子としてTi3AlC2粒子を得た。
【0058】
・MXeneクレイおよびMXene粉体の調製
上記方法で調製したTi3AlC2粒子(粉末)を1g秤量し、1gのLiFと共に9モル/Lの塩酸10mLに添加して35℃にてスターラーで24時間撹拌して、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄み液の分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物は再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施し、沈降物として粘土状物質(クレイ)を得た。これにより、MXeneクレイとして、Ti3C2Tx-水分散体クレイを得た。該水分散体クレイを凍結乾燥させ、IKA社製ミルを用い粉砕してMXene粉体を得た。
【0059】
Agペースト(太陽インキ製,商品名:ELEPASTE TR70901、樹脂として共重合樹脂を10%以上20%以下含む)に、上記MXene粉体を、金属粒子に対して7質量%(乾燥時)を配合し、遠心撹拌機で、9000rpmの条件で90秒間撹拌した。粘度が高くなり、流動性が無くなった場合は、適宜、溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)を加えた。
【0060】
その後、3本ロール機を用いて、MXene配合Agペーストの分散処理を行った。ロールの回転数は230rpm、分散条件は、ギャップが50μmのロール間を2回通し、次にギャップが20μmのロール間を2回通し、最後に、ギャップが10μmのロール間を2回通しして、混合物のペーストを得た。
【0061】
メタルマスクとゴムスキージを使用して、前記混合物のペーストを2つの基板上にそれぞれ手塗り印刷し、1mm間隔の空いたアノードとカソードの一対の対向電極の成形物を得た。該成形物を140℃、30分間乾燥させて、アノードとカソードの一対の対向電極を、イオンマイグレーション評価用サンプルとして得た。同じ製造方法で作製したイオンマイグレーション評価用サンプルを合計2つ用意した。なお、本実施例ではアノードとカソードの両方にMXeneを含む混合物のペーストを印刷したが、アノードとカソードの一方にMXeneを含む混合物のペーストを印刷した場合であっても同様の効果が得られる。
【0062】
比較例として、MXeneを加えなかった以外は、上記と同様にして作製したアノードとカソードの一対の対向電極を、イオンマイグレーション評価用サンプルとして得た。同じ製造方法で作製した一対の対向電極を合計2つ用意した。
【0063】
[導電性の評価]
上記対向電極の抵抗値をテスターで測定した。具体的に、テスター端子を一定間隔に保ち、各対向電極に接触させて2点間の抵抗を測定した。間隔距離によって抵抗値が変化するため、いずれの測定も間隔が一定となるようにした。実施例の2つの対向電極と比較例の2つの対向電極の電極抵抗値の結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
上記表1から、AgペーストとMXeneを含む混合物を用いて形成された実施例の電極の抵抗値は、Agペーストのみで形成された比較例の電極の抵抗値と同じであり、Agのみの場合と同じ導電率を維持していた。
【0066】
[イオンマイグレーション抑制効果の評価]
上記対向電極にDC電源の正極と負極をそれぞれワニ口クリップで挟んで評価回路を形成した。対向電極の1mm間隔の部分に、加速試験のためのイオン交換水を滴下後、評価回路に3Vを印加し、7分後の様子を写真に撮影した。その結果を
図5および
図6に示す。
図5は、Agペーストのみ(MXeneなし、比較例)の場合の写真であり、
図6はAgペースト+MXeneの場合の写真である。この
図5に示される通り、Agペーストのみ(MXeneなし)の場合、カソード(負極)に銀色のデンドライトが発生し、イオンマイグレーションが発生した。一方、
図6に示される通り、Agペースト+MXeneの場合は、デンドライトが見られず、イオンマイグレーションは発生しなかった。なお、
図6のアノード(正極)の先端が黒くなっており、別途確認したところ、この黒い物質は酸化銀であった。このことから、アノード(正極)に含まれる銀は、銀イオンとして溶出していることがわかった。この銀イオンが負極側に移動するものの、カソードにMXeneが存在することにより、イオンマイグレーション故障を防止できたと考えられる。
【0067】
[実施例2]
上記実施例1と同様にTi3C2Tx-水分散体クレイを凍結乾燥し、IKA社製ミルを用い粉砕して得られたMXene粉体、Ag粉末(サイズ:1μm)、およびアクリル樹脂ワニスを、それぞれ1.9質量%、55.7質量%、42.4質量%の割合になるように調合し、すり鉢で混合した。その後、3本ロールミルで混錬した。3本ロールミルで混錬の条件は、ロール間のギャップを10μm、ロールの周速を230rpmとした。得られたペーストを、電極形状に合わせたメタルマスクを介して基材に印刷し、80℃にて30分間オーブンで加熱し、乾燥させた。その後、Ar雰囲気の炉で、昇温速度10℃/minで750℃まで加熱した。750℃で1時間の保温を行った後、冷却して、本発明の電極を得た。なお、上記炉内の雰囲気は、樹脂成分を十分除去するため、加熱中に、Ar雰囲気から、酸化性雰囲気または還元性雰囲気に変更した。
【0068】
本実施例で得られた電極も、前記実施例1の実施例に係る電極と同様に、所定のMXeneを含んでいるため、導電性が高く、かつイオンマイグレーション故障を防止できると考えられる。
【0069】
[実施例3]
・MAX粒子の調製およびMXene粉体の調製
実施例1と同様にしてMAX粒子の調製およびMXene粉体の調製を行った。
【0070】
Cuペースト(日油製、商品名:CP-100D、樹脂として熱硬化性樹脂を10%以上20%以下含む)に、上記MXene粉体を、金属粒子に対して0.75質量%(乾燥時)を配合し、手動で攪拌して混合物のペーストを得た。
【0071】
メタルマスクとゴムスキージを使用して、前記混合物のペーストをあらかじめ150℃、30分間アニール処理した2つのPETフィルム上にそれぞれ手塗り印刷し、1mm間隔の空いたアノードとカソードの一対の対向電極の成形物を得た。該成形物を150℃、30分間乾燥させて、アノードとカソードの一対の対向電極を、イオンマイグレーション評価用サンプルとして得た。
【0072】
実施例3の比較例として、MXeneを加えなかった以外は、上記と同様にして作製したアノードとカソードの一対の対向電極を、イオンマイグレーション評価用サンプルとして得た。
【0073】
[導電性の評価]
上記対向電極の抵抗値をテスターで測定した。具体的に、テスター端子を一定間隔に保ち、各対向電極に接触させて2点間の抵抗を測定した。間隔距離によって抵抗値が変化するため、いずれの測定も間隔が一定となるようにした。実施例と比較例の電極抵抗値の結果はいずれも0.000Ωであった。
【0074】
上記導電性の評価の結果から、CuペーストとMXeneを含む混合物を用いて形成された実施例の電極の抵抗値は、Cuペーストのみで形成された比較例の電極の抵抗値と同じであり、Cuのみの場合と同じ導電率を維持していた。
【0075】
[イオンマイグレーション抑制効果の評価]
上記対向電極にDC電源の正極と負極をそれぞれワニ口クリップで挟んで評価回路を形成した。対向電極の1mm間隔の部分に、加速試験のためのイオン交換水を滴下後、評価回路に3Vを印加し、8分後の様子を写真に撮影した。その結果を
図7および
図8に示す。
図7は、Cuペーストのみ(MXeneなし、比較例)の場合の写真であり、
図8はCuペースト+MXeneの場合の写真である。
図7に示される通り、Cuペーストのみ(MXeneなし)の場合、カソード(負極)に黒色のデンドライトが発生し、8分後にアノード(正極)に到達して短絡した。一方、
図8に示される通り、Cuペースト+MXeneの場合は、デンドライトが発生するが成長速度が抑制されており、イオンマイグレーションの進行を抑制する効果を示した。なお、アノードへの到達時間は24分45秒であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の電極または配線は、任意の適切な用途に利用され得、例えば電子部品の電極対におけるアノードとカソードのうちの1以上に特に好ましく使用され得る。
【0077】
本出願は、日本国特許出願である特願2020-156698号を基礎出願とする優先権主張を伴う。特願2020-156698号は参照することにより本明細書に取り込まれる。
【符号の説明】
【0078】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene粒子(層状材料の粒子)
11A 金属粒子
11B 焼結金属
12 樹脂
20A、20B 電極または配線
31 アノード
33 カソード
35 電界の方向
37 金属Ag