(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ジルコニウム含有窒化物粉末及び黒色紫外線硬化型有機組成物
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20241001BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241001BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C01G25/00
C09D7/61
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2022559266
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2021040057
(87)【国際公開番号】W WO2022092274
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020183603
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】軽部 允也
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 佑
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-203599(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107777673(CN,A)
【文献】国際公開第2019/059359(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/124100(WO,A1)
【文献】MARTINEZ META, N. J. et al.,Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie,2007年04月10日,Vol.633,pp.790-794,<DOI:10.1002/zaac.200600397>
【文献】YAMASAKI, K. et al.,Fabrication of Lanthanide Nitride Pellets and Simulated Burnup Fuels,Proceedings of the Symposium on Nitride Fuel Cycle Technology,2004年07月28日,JAERI-Conf 2004-015,pp.43-48,<DOI:10.11484/jaeri-conf-2004-015>
【文献】MEYER, S. et al.,Zeitschrift fur anorganische und allgemeine Chemie,2009年07月31日,Vol.635,pp.2470-2473,<DOI:10.1002/zaac.200900245>
【文献】YANG,M. et al.,Inorganic Chemistry,2009年11月13日,Vol.48,pp.11498-11500,<DOI:10.1021/ic902020r>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/076
C01G 25/00
C09D 7/61
C09D 17/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線透過性を有する絶縁性黒色顔料として用いられるジルコニウム含有窒化物粉末であって、
組成が下記の一般式(I)で表される
とともに、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にあるジルコニウム含有窒化物粉末。
(Zr,X,Y)(N,O)・・・(I)
ただし、上記の一般式(I)において、Xは、Dy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb及びTmからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yは、イットリウムの元素記号を表し、Zr,X,Yの合計含有量1モルに対して
Xの含有量が0.05モル以上0.30モル以下の範囲内であり、Yの含有量は0モル以上であり、Nは、窒素を表し、Oは酸素を表し、窒素と酸素の合計含有量1モルに対して酸素の含有量は0モル以上である。
【請求項2】
下記の方法により測定される消散係数において、波長365nmの紫外光の消散係数に対する波長550nmの可視光の消散係数の比が、1.4以上100以下の範囲内にある
請求項1に記載のジルコニウム含有窒化物粉末。
(消散係数の測定方法)
ジルコニウム含有窒化物粉末を質量濃度で50ppm含む分散液を、光路長d(単位:m)のセルに入れる。分散液を入れたセルに光を照射して、セルを透過した光の透過光強度を測定する。光路長dと、セルに照射した光の入射光強度I0と、セルを透過した光の透過光強度Iとを下記の式(1)に代入して、αをセルに照射した光の消散係数として算出する。
I=I
0exp(-α×d)・・・(1)
【請求項3】
波長550nmの可視光の消散係数が600m
-1以上である
請求項2に記載のジルコニウム含有窒化物粉末。
【請求項4】
紫外線硬化型有機物と、前記紫外線硬化型有機物に分散された黒色顔料とを含み、
前記黒色顔料が、
請求項1~3のいずれか1項に記載のジルコニウム含有窒化物粉末である黒色紫外線硬化型有機組成物。
【請求項5】
前記紫外線硬化型有機物は、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、エポキシモノマー、エポキシオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機物である
請求項4に記載の黒色紫外線硬化型有機組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム含有窒化物粉末及び黒色紫外線硬化型有機組成物に関する。
本願は、2020年11月2日に、日本に出願された特願2020-183603号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性黒色顔料は、例えば、ディスプレイ用のカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材を構成する黒色パターンの材料として利用されている。黒色パターンを形成する方法としては、紫外線硬化型有機物と絶縁性黒色顔料とを含む黒色感光性組成物を用いたフォトリソグラフィー法が知られている。フォトリソグラフィー法では、黒色感光性組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を成膜する。次いで、このフォトレジスト膜に紫外光をパターン状に露光することにより、露光されて硬化した硬化部分と露光されていない未硬化部分とからなるパターンを作製する。そして、未硬化部分を除去して黒色パターンを形成する。このフォトリソグラフィー法により黒色パターンを形成する際に用いる絶縁性黒色顔料は、フォトレジスト膜を硬化させる紫外光を透過すること、すなわち紫外光透過性を有することが必要となる。
【0003】
紫外光透過性を有する絶縁性黒色顔料として、窒化ジルコニウム粉末が知られている。窒化ジルコニウム粉末の紫外光透過性を向上させるために、窒化ジルコニウムに、マグネシウム及び/又はアルミニウムを添加することが検討されている(特許文献1)。
【0004】
近年のディスプレイの高解像度化やCMOSカメラモジュールの小型化に伴って、黒色パターンの高精細化が要求されている。高精細な黒色パターンを、フォトリソグラフィー法を用いて形成するためには、黒色顔料の紫外光透過性を向上させること、特に、紫外光露光装置で一般的に利用されている波長365nmの紫外光(i線)の透過性を向上させることが有効である。しかしながら、黒色顔料の紫外光の透過性を向上させると、可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とに優れた粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末は、紫外線透過性を有する絶縁性黒色顔料として用いられるジルコニウム含有窒化物粉末であって、
組成が下記の一般式(I)で表されるとともに、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にあるジルコニウム含有窒化物粉末。
(Zr,X,Y)(N,O)・・・(I)
ただし、上記の一般式(I)において、Xは、Dy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb及びTmからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、Yは、イットリウムの元素記号を表し、Zr,X,Yの合計含有量1モルに対してXの含有量が0.05モル以上0.30モル以下の範囲内であり、Yの含有量は0モル以上であり、Nは、窒素を表し、Oは酸素を表し、窒素と酸素の合計含有量1モルに対して酸素の含有量は0モル以上である。
【0008】
上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末は、上記の一般式(I)で表される組成を有するので、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を540nm以上600nm以下の範囲内とすることができる。このため、短波長側(例えば、波長400nm)から長波長側(例えば、波長800nm)までの可視光を遮蔽することができる。よって、上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末は、紫外光の透過性と、可視光の遮蔽性とに優れたものとなる。
【0009】
ここで、本発明の第1の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末においては、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、ジルコニウム含有窒化物粉末においては、平均粒子径が上記の範囲内にあって微細であるので、可視光によるジルコニウム含有窒化物粒子のプラズマ振動が減衰しにくい。このため、可視光の遮蔽性がより向上する。また、粒子サイズが光の波長に対して十分に小さいために光散乱が起こりにくくなるので、波長365nmの紫外光の透過性が向上する。
【0010】
また、本発明の第1の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末においては、下記の方法により測定される消散係数において、波長365nmの紫外光の消散係数に対する波長550nmの可視光の消散係数の比が、1.4以上100以下の範囲内にあることが好ましい。
(消散係数の測定方法)
ジルコニウム含有窒化物粉末を質量濃度で50ppm含む分散液を、光路長d(単位:m)のセルに入れる。分散液を入れたセルに光を照射して、セルを透過した光の透過光強度を測定する。光路長dと、セルに照射した光の入射光強度I0と、セルを透過した光の透過光強度Iとを下記の式(1)に代入して、αをセルに照射した光の消散係数として算出する。
I=I0exp(-α×d)・・・(1)
この場合、波長365nmの紫外光の消散係数に対する波長550nmの可視光の消散係数の比が1.4以上100以下の範囲内にあるので、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とがバランスよく向上する。このため、上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末を用いることによって、高精細で可視光の遮蔽性に優れる黒色パターンを形成することができる。
【0011】
また、本発明の第1の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末においては、波長550nmの可視光の消散係数が600m-1以上であることが好ましい。
この場合、波長550nmの可視光の消散係数が600m-1以上であるので、可視光の遮蔽性がより向上する。このため、上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末を用いて形成した黒色パターンは、ディスプレイのカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材として有用である。
【0012】
また、本発明の第2の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末は、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にあって、下記の方法により測定される消散係数において、波長365nmの紫外光の消散係数に対する波長550nmの可視光の消散係数の比が、1.4以上100以下の範囲内にある。
(消散係数の測定方法)
ジルコニウム含有窒化物粉末を質量濃度で50ppm含む分散液を、光路長d(単位:m)のセルに入れる。分散液を入れたセルに光を照射して、セルを透過した光の透過光強度を測定する。光路長dと、セルに照射した光の入射光強度I0と、セルを透過した光の透過光強度Iとを下記の式(1)に代入して、αをセルに照射した光の消散係数として算出する。
I=I0exp(-α×d)・・・(1)
【0013】
上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末によれば、平均粒子径が上記の範囲内にあって微細であるので、可視光によるジルコニウム含有窒化物粒子のプラズマ振動が減衰しにくい。このため、可視光の遮蔽性が向上する。また、粒子サイズが光の波長に対して十分に小さいために光散乱が起こりにくくなるので、波長365nmの紫外光の透過性が向上する。さらに、上記の方法によって測定された波長365nmの紫外光の消散係数に対する波長550nmの可視光の消散係数の比が1.4以上100以下の範囲内にあるので、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とがバランスよく向上する。このため、上記の構成のジルコニウム含有窒化物粉末を用いることによって、高精細で可視光の遮蔽性に優れる黒色パターンを形成することができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る黒色紫外線硬化型有機組成物は、紫外線硬化型有機物と、前記紫外線硬化型有機物に分散された黒色顔料とを含み、前記黒色顔料が、本発明の第1,2の態様に係るジルコニウム含有窒化物粉末である。
【0015】
本発明の第3の態様に係る黒色紫外線硬化型有機組成物においては、前記紫外線硬化型有機物は、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、エポキシモノマー、エポキシオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1,2の態様によれば、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とに優れた粉末を提供することが可能となる。
本発明の第3の態様によれば、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とに優れた黒色紫外線硬化型有機組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】試験例1で算出した平均粒子径が20nm、40nm、60nm、80nm、100nmの5種の窒化ジルコニウム粉末の波長-消散係数曲線である。
【
図2】試験例2で算出したDy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb、Tm又はY+Dyで置換したジルコニウム含有窒化物粉末の波長-消散係数曲線である。
【
図3】試験例1で想定した窒化ジルコニウム粉末と、試験例2で想定したDy、Er、Ho、Tb、Tm又はY+Dyで置換したジルコニウム含有窒化物粉末において、粒子径と波長365nmの紫外光の消散係数α
365に対する波長550nmの可視光の消散係数α
550の比(α
550/α
365)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係るジルコニウム含有窒化物粉末について説明する。
本実施形態に係るジルコニウム含有窒化物粉末は、例えば、ディスプレイのカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材を構成する黒色パターンの材料として用いられる黒色の粉末である。黒色パターンは、例えば、本実施形態に係るジルコニウム含有窒化物粉末と紫外線硬化型有機物とを含む黒色紫外線硬化型有機組成物を用いたフォトリソグラフィー法によって形成される。
【0019】
(ジルコニウム含有窒化物粉末)
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にある。ジルコニウム含有窒化物粉末は、平均粒子径がこの範囲内にあり、微細であるので、可視光によるジルコニウム含有窒化物粒子のプラズマ振動が減衰しにくい。このため、可視光の遮蔽性が向上する。また、粒子サイズが光の波長に対して十分に小さいために光散乱が起こりにくくなるので、紫外光露光装置で一般的に利用されている波長365nmの紫外光(i線)の透過性が高くなる。ただし、ジルコニウム含有窒化物粉末の平均粒子径が小さくなりすぎると、プラズモン共鳴の波長が短くなりすぎて、可視光領域での消散係数ピークの位置が短波長側に過度に移行することがある。可視光領域での消散係数ピークの位置が短波長側に過度に移行すると、長波長側の可視光の消散係数が低下して、長波長側の可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。このため、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲とされている。ジルコニウム含有窒化物粉末は、平均粒子径は、20nm以上70nmの範囲内にあることが好ましく、30nm以上60nmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0020】
ジルコニウム含有窒化物粉末の平均粒子径とは、BET径であり、以下の方法で測定される。
ジルコニウム含有窒化物粉末の粒子表面に窒素分子を液体窒素の温度で吸着させ、吸着等温線(吸着量)を測定する。BETプロットを作成し、BETの式を用いて、窒素分子の単分子層吸着量を求める。そして、窒素分子の単分子層吸着量からジルコニウム含有窒化物粉末粒子の比表面積を算出する。ジルコニウム含有窒化物粉末の粒子が球形であると仮定し、BET1点法により測定された比表面積(BET比表面積)から以下の式でBET径は算出される。
BET径=6/(密度×BET比表面積)
本明細書におけるBET径は、マウンテック社製のMacsorb HM model-1210を用いて測定された。
【0021】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、組成が下記の一般式(I)で表される。
(Zr,X,Y)(N,O)・・・(I)
ただし、上記の一般式(I)において、Xは、Dy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb及びTmからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表す。Yは、イットリウムの元素記号を表し、Zr,X,Yの合計含有量1モルに対してYの含有量は0モル以上である。Nは、窒素を表す。Oは酸素を表し、窒素と酸素の合計含有量1モルに対して酸素の含有量は0モル以上である。ジルコニウム含有窒化物粉末1モル中において、Zr,X,Yの合計モル数は、N,Oの合計モル数と同じである。
一般式(I)は、ジルコニウム含有窒化物粉末の全体の組成を表しており、ジルコニウム含有窒化物粉末は、窒化物又は酸窒化物の単相であってもよく、窒化物と酸化物の混合物、酸窒化物と酸化物の混合物、窒化物と酸窒化物の混合物、及び窒化物と酸窒化物と酸化物の混合物のいずれかであってもよい。
【0022】
上記の一般式(I)において、Xで表される元素はいずれも第3族元素である。Xで表される元素は、ジルコニウム含有窒化物粉末の可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を長波長側に移行させる作用がある。Xで表される元素は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。Xで表される元素の中で好ましいのは、Dy、Er、Ho、Tmである。Xで表される元素の含有量は、ジルコニウムとXで表される元素とイットリウムの合計含有量を1モルとして、0.05モル以上0.30モル以下の範囲内にあることが好ましい。Xで表される元素の含有量がこの範囲内にあることによって、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を540nm以上600nm以下の範囲内に維持することができる。Xで表される元素の含有量は、0.07モル以上0.25モル以下の範囲内にあることがより好ましく、0.10モル以上0.20モル以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0023】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、イットリウムを含まない場合、組成が下記の一般式(II)で表されることが好ましい。
Zr1-aXaN1-cOc・・・(II)
ただし、上記の一般式(II)において、Xは、上記の一般式(I)の場合と同じである。aは、0.05以上0.30以下の範囲内にある数を表す。aは、0.07以上0.25以下の範囲内にあることがより好ましく、0.10以上0.20以下の範囲内にあることが特に好ましい。
cは、0以上0.5以下の範囲内にあることが好ましく、0以上0.45以下の範囲内にあることがより好ましく、0以上0.4以下の範囲内にあることが特に好ましい。
ジルコニウム含有窒化物粉末中の金属元素(後述するYも含む)の量は、X線光電子分光法により測定される。ジルコニウム含有窒化物粉末中の窒素量は、不活性ガス融解-熱伝導度法により測定される。ジルコニウム含有窒化物粉末中の酸素量(一般式(II)中のc)は、JIS Z2613“金属材料の酸素定量方法通則”に準拠した方法により測定される。
【0024】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、さらに、Y(イットリウム)を含んでいてもよい。この場合、ジルコニウム含有窒化物粉末の組成は、下記の一般式(III)で表されることが好ましい。
Zr1-a-bXaYbN1-cOc・・・(III)
ジルコニウムとXで表される元素とYの合計含有量を1モルとして、Yの含有量(一般式(III)中のb)は、0.05モル以上0.30モル以下の範囲内にあることが好ましく、0.07モル以上0.25モル以下の範囲内にあることがより好ましく、0.10モル以上0.20モル以下の範囲内にあることが特に好ましい。一般式(III)中のa,cの数値範囲は、一般式(II)中のa,cの数値範囲と同じである。
【0025】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、波長365nmの紫外光の消散係数α365に対する波長550nmの可視光の消散係数α550の比(α550/α365)が、1.4以上100以下の範囲内とされている。比(α550/α365)がこの範囲内にあることによって、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とがバランスよく向上する。比(α550/α365)は、2以上80以下の範囲内にあることがより好ましく、2.5以上60以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0026】
波長550nmの可視光の消散係数α550は600m-1以上であることが好ましく、700m-1以上であることがより好ましく、750m-1以上であることが特に好ましい。消散係数α550は1000m-1以下であってもよい。
【0027】
波長365nmの紫外光の消散係数α365は300m-1以下であることが好ましく、250m-1以下であることがより好ましく、200m-1以下であることが特に好ましい。消散係数α365は1m-1以上であってもよい。
【0028】
消散係数は、ジルコニウム含有窒化物粉末を含む分散液を透過する光の強度が、分散液中のジルコニウム含有窒化物粒子により散乱及び吸収されることよって、距離と共に減衰する割合である。本実施形態において、ジルコニウム含有窒化物粉末の消散係数は、下記の方法によって測定した値である。
ジルコニウム含有窒化物粉末を質量濃度で50ppm含む分散液を、光路長d(単位:m)のセルに入れる。この分散液を入れたセルに光を照射して、セルを透過した光の透過光強度を測定する。光路長dと、セルに照射した光の入射光強度I0と、セルを透過した光の透過光強度Iとを下記の式(1)に代入して、αをセルに照射した光の消散係数として算出する。
I=I0exp(-α×d)・・・(1)
【0029】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、例えば、下記の第1の製造方法及び第2の製造方法によって製造することができる。
<第1の製造方法>
先ず、一般式(I)において、Xで表される元素(X元素)の酸化物粉末と、イットリウムの酸化物粉末と、二酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末とを含むX元素酸化物及びY酸化物を含有する二酸化ジルコニウム粉末(原料酸化物粉末)を用意する。
二酸化ジルコニウム粉末としては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム等の粉末を用いることができる。これらの二酸化ジルコニウム粉末の中では、窒化ジルコニウム粉末の生成率が高くなる観点から、単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末が好ましい。二酸化ジルコニウム粉末は、その平均一次粒径が10nm以上500nm以下の範囲内にあることが好ましい。二酸化ジルコニウム粉末の好ましい平均一次粒径を上記の範囲内としたのは、以下の理由による。10nm未満では、反応により得られるジルコニウム含有窒化物の粒子径が小さくなりすぎて可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。一方、500nmを超えると、反応により得られるジルコニウム含有窒化物の粒子径が大きくなりすぎて可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。
【0030】
X元素酸化物粉末は、その平均一次粒径が10nm以上500nm以下であることが好ましい。X元素酸化物粉末の好ましい平均一次粒径を上記の範囲内としたのは、以下の理由による。10nm未満では、反応により得られるジルコニウム含有窒化物の粒子径が小さくなりすぎて可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。一方、500nmを超えると、反応により得られるジルコニウム含有窒化物の粒子径が大きくなりすぎて可視光の遮蔽性が低下するおそれがある。
イットリウムの酸化物粉末としては、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム、酸化イットリウム(Y2O3)の粉末を用いることができる。イットリウム安定化二酸化ジルコニウムは、前述した二酸化ジルコニウム粉末でもある。イットリウムの酸化物粉末の平均一次粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、粉末の取扱い易さから10nm以上500nm以下であることがより好ましい。
イットリウムを含まないジルコニウム含有窒化物を製造する場合には、イットリウムの酸化物粉末を添加しない。
なお、二酸化ジルコニウム粉末、X元素酸化物粉末、及びイットリウムの酸化物粉末の平均一次粒径は、BET法により測定された比表面積の測定値からの球形換算により算出した換算値(BET径)である。
【0031】
上記のX元素酸化物及びY酸化物を含有する二酸化ジルコニウム粉末(原料酸化物粉末)は、例えば、X元素酸化物粉末と、イットリウムの酸化物粉末と、二酸化ジルコニウム粉末とを混合することによって得ることができる。また、X元素酸化物及びY酸化物を含有する二酸化ジルコニウム粉末は、以下の方法によって得ることもできる。ジルコニウムの無機塩又は有機塩と、X元素の無機塩又は有機塩と、イットリウムの無機塩又は有機塩と、を含む水溶液をアルカリ性にすることにより、X元素の水酸化物と、水酸化イットリウムと、水酸化ジルコニウムとを共沈させる。得られた共沈生成物を回収して、乾燥し、焼成する。
【0032】
次に、窒素含有ガス雰囲気中にて、上記のX元素酸化物及びY酸化物を含有する二酸化ジルコニウム粉末(原料酸化物粉末)と、酸化マグネシウム粉末又は窒化マグネシウム粉末のいずれか一方又は双方と、金属マグネシウム粉末とを混合して混合粉末を調製する。窒素含有ガスとしては、例えば、N2ガス、N2とArの混合ガス、N2とH2の混合ガス、あるいはN2とNH3の混合ガスを用いることができる。
【0033】
酸化マグネシウム粉末や窒化マグネシウム粉末は、混合粉末の焼成によって生成する窒化ジルコニウムの焼結を防止する作用がある。酸化マグネシウム粉末及び窒化マグネシウム粉末は、平均一次粒径が1000nm以下であることが好ましく、粉末の取扱い易さから、平均一次粒径が500nm以下で10nm以上であることが特に好ましい。なお、平均一次粒径は、BET法により測定された比表面積の測定値からの球形換算により算出した換算値である。酸化マグネシウム及び窒化マグネシウム中のマグネシウム原子の合計量は、ジルコニウム、X元素、及びイットリウムの合計1モルに対する量として、好ましくは0.3倍モル以上3.0倍モル以下の範囲内、さらに好ましくは0.4倍モル以上2.0倍モル以下の範囲内となる量である。酸化マグネシウム及び窒化マグネシウムの好ましい添加量を上記の範囲内としたのは、以下の理由による。0.3倍モル未満では、窒化ジルコニウム粉末の焼結を防止する作用が不十分となる可能性がある。一方、3.0倍モルを超えると、焼成後の酸洗浄時に要する酸溶液の使用量が増加するおそれがあるためである。
【0034】
金属マグネシウム粉末は、X元素酸化物とイットリウムの酸化物と二酸化ジルコニウムの還元を促進してジルコニウム含有窒化物を生成させやすくする作用がある。金属マグネシウム粉末は、粒径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなる。このため、金属マグネシウム粉末は、篩のメッシュパスで粒径が100μm以上1000μm以下の粒状のものが好ましく、特に粒径が200μm以上500μm以下の粒状のものが好ましい。但し、金属マグネシウムの粒径は、全てが上記の範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上の粒子の粒径が上記の範囲内にあればよい。金属マグネシウムの添加量が少なくなりすぎると、還元不足で目的とする窒化ジルコニウム粉末が得られにくくなるおそれがある。一方、多くなりすぎると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こすおそれがあると共に不経済となる。金属マグネシウム粉末の添加量は、ジルコニウム、X元素、及びイットリウムの合計1モルに対する量として、好ましくは2.0倍モル以上6.0倍モル以下の範囲内、さらに好ましくは3.0倍モル以上5.0倍モル以下の範囲内となる量である。金属マグネシウムの好ましい添加量を上記の範囲内としたのは、以下の理由による。2.0倍モル未満では、二酸化ジルコニウムの還元力が不足するおそれがある。一方、6.0倍モルを超えると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こすおそれがあると共に不経済となるおそれがある。
【0035】
次いで、上記の混合粉末を、窒素含有ガス雰囲気中にて焼成することによって、X元素酸化物とイットリウムの酸化物と二酸化ジルコニウムとを還元させて、窒化反応させることにより、ジルコニウム含有窒化物粉末を製造する。
窒素含有ガスとしては、例えば、N2ガス、N2とArの混合ガス、N2とH2の混合ガス、あるいはN2とNH3の混合ガスを用いることができる。N2ガスは、X元素酸化物、イットリウムの酸化物及び二酸化ジルコニウムと反応してジルコニウム含有窒化物粉末を生成させる役割と、金属マグネシウムやジルコニウム含有窒化物粉末と酸素との接触を防ぎ、それらの酸化を抑制する役割を有する。また、H2ガス又はNH3ガスは、金属マグネシウムと共に、二酸化ジルコニウムを還元させる役割を有する。N2とH2の混合ガス中のH2ガスの濃度は、0体積%を超え40体積%以下の範囲内にあることが好ましく、10体積%以上30体積%以下の範囲内にあることがさらに好ましい。またN2とNH3の混合ガス中のNH3ガスの濃度は、0体積%を超え50体積%以下の範囲内にあることが好ましく、0体積%以上40体積%以下の範囲内にあることがさらに好ましい。この還元力のある窒素含有ガスを使用することにより、最終的に低次酸化ジルコニウム及び低次酸窒化ジルコニウムを含まない窒化ジルコニウム(ジルコニウム含有窒化物)粉末を製造することができる。一方、N2とH2の混合ガスのH2ガスの濃度及びN2とNH3の混合ガスのNH3ガスの濃度が、高くなりすぎると、還元は進むものの窒素源が少なくなるため、低次酸化ジルコニウム又は低次酸窒化ジルコニウムが生成するおそれがある。また、H2ガスよりもNH3ガスの方が最大濃度(好ましい濃度範囲の上限値)が高いのは、NH3ガスは窒素を含み、X元素酸化物及び二酸化ジルコニウムを窒化物とする能力がH2ガスより高いためである。
【0036】
上記の混合粉末の焼成温度は、好ましくは650℃以上900℃以下の範囲内、さらに好ましくは700℃以上800℃以下の範囲内にある。混合粉末の好ましい焼成温度を上記の範囲内としたのは、以下の理由による。650℃は金属マグネシウムの溶融温度であることから、焼成温度が650℃より低いと、X元素酸化物とイットリウムの酸化物と二酸化ジルコニウムの還元が十分に生じないおそれがある。一方、焼成温度を900℃より高くしても、その効果は増加せず、熱エネルギーの無駄になるおそれがあると共に、生成したジルコニウム含有窒化物粒子の焼結が進行するおそれがある。
なお、上記混合粉末の焼成時間は、30分以上90分以下の範囲内にあることが好ましく、30分以上60分以下の範囲内にあることがさらに好ましい。また、上記混合粉末の焼成を行う際の反応容器は、反応時に原料や生成物が飛散しないように、蓋を有するものが好ましい。これは、金属マグネシウムの溶融が開始すると、X元素酸化物とイットリウムの酸化物と二酸化ジルコニウムの還元が急激に進行し、それに伴って温度が上昇して、容器内部の気体が膨張し、それによって、容器の内部のものが外部に飛散するおそれがあるためである。
【0037】
次に、上記窒化反応で得られたジルコニウム含有窒化物粉末を酸溶液で洗浄し、次いで中和する。具体的には、上記窒化反応で得られたジルコニウム含有窒化物粉末を反応容器から取出し、最終的には室温まで冷却する。次いで、塩酸水溶液などの酸溶液で洗浄する。これによって、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや、生成物の焼結防止のために反応当初から含まれていた酸化マグネシウムや窒化マグネシウムを除去する。この酸洗浄に関しては、酸溶液のpHが0.5以上、特にpH1.0以上で、酸溶液の温度が90℃以下の条件で行なうことが好ましい。これは酸溶液の酸性が強くなりすぎたり、液温が高くなりすぎたりすると、ジルコニウム含有窒化物粉末中のジルコニウム、X元素、イットリウムまでが溶出するおそれがあるためである。そして、その酸洗浄後、アンモニア水などでpHを5~6に調整して黒色スラリーを得る。さらに、この黒色スラリーから固形分を分離して乾燥することにより黒色材料を得る。具体的には、黒色スラリーをろ過又は遠心分離することにより固形分を分離する。この固形分を乾燥し、次いで粉砕することにより、黒色材料(黒色顔料、ジルコニウム含有窒化物粉末)が得られる。
【0038】
<第2の製造方法>
この製造方法は、熱プラズマ法により、ジルコニウム含有窒化物粉末(黒色材料)を製造する方法である。上記熱プラズマ法を実施する装置としては、例えば、高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置(日本電子株式会社製、TP40020NPS)等の熱プラズマ装置を挙げることができる。この熱プラズマ装置は、原料をプラズマトーチに供給する原料供給機と、この原料供給機に接続され原料を熱プラズマ法により合成窒化反応させるプラズマトーチと、このプラズマトーチの外周に巻回された誘導コイルと、この誘導コイルに電気的に接続され誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電源と、プラズマトーチに接続され内部にN2ガスやArガス等の冷却ガスが流通するチャンバーと、このチャンバーに接続されジルコニウム含有窒化物粉末を回収するバグフィルターとを備える。
【0039】
上記熱プラズマ装置を用いてジルコニウム含有窒化物粉末を作製するには、先ず、原料供給機に、原料である金属ジルコニウム粉末とX元素の金属粉末と金属イットリウム粉末を含む原料金属粉末を供給する。
なお、イットリウムを含まないジルコニウム含有窒化物を製造する場合には、金属イットリウム粉末を含まない原料金属粉末を用いる。
金属ジルコニウム粉末は、純度が98%以上であることが好ましく、平均一次粒径が30μm以下であることが好ましい。金属ジルコニウム粉末の好ましい平均一次粒径を30μm以下としたのは、高い純度のジルコニウム含有窒化物粉末が得られやすくなるためである。一方、平均一次粒径が30μmを超えると、金属ジルコニウム粉末の溶解及びガス化が不十分となり、窒化されない金属ジルコニウム粉末のまま回収され、十分な特性を発現するジルコニウム含有窒化物粉末が得られないおそれがある。
【0040】
また、X元素の金属粉末は、純度が98%以上であることが好ましく、平均一次粒径が1000μm以下であることが好ましい。ここで、X元素の金属粉末の好ましい純度を98%以上としたのは、純度が98%未満では、得られるジルコニウム含有窒化物の純度が低下し、十分な特性が得られないおそれがあるからである。また、X元素の金属粉末の好ましい平均一次粒径を1000μm以下としたのは、平均一次粒径が1000μmを超えると、均一な組成のジルコニウム含有窒化物粉末を得るのが困難となるおそれがあるためである。
金属イットリウム粉末は、純度が98%以上であることが好ましく、平均一次粒径が1μm以上1000μm以下であることが好ましい。金属イットリウム粉末の平均一次粒径が1000μmを超えると、均一な組成のジルコニウム含有窒化物粉末を得るのが困難となるおそれがある。
なお、金属ジルコニウム粉末、X元素の金属粉末、及び金属イットリウム粉末の平均一次粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)を用いて測定した粒径(体積基準のメディアン径(D50))であり、体積基準の平均一次粒径である。
【0041】
次いで、原料供給機に供給された上記原料金属粉末は、N2ガスやArガス等のキャリアガスと共にプラズマトーチに導入される。プラズマトーチ内は、N2ガス雰囲気、N2とH2の混合ガス雰囲気、N2とArの混合ガスの雰囲気、あるいはN2及びNH3の混合ガス雰囲気であってもよい。これらのN2を含むガスは、高周波電源から誘導コイルに高周波電力を供給することにより、N2ガスの熱プラズマ、N2とH2の混合ガスの熱プラズマ、N2とArの混合ガスの熱プラズマ、あるいはN2とNH3の混合ガスの熱プラズマ(プラズマ炎)を発生する。そして、プラズマトーチに導入された原料金属粉末は、プラズマトーチ内で発生した数千度の高温のN2ガスの熱プラズマ等により揮発してガス化する。即ち熱プラズマ法により合成窒化反応する。次に、上記ガス化した原料金属は、N2ガスやArガス等の冷却ガスの流通するチャンバー内で急冷される。即ちプラズマトーチの下方のチャンバー内でN2ガスやArガス等の冷却ガスにより瞬時に冷却・凝縮される。これにより、ジルコニウム含有窒化物粉末が生成する。生成したジルコニウム含有窒化物粉末は、バグフィルターにより回収される。このようにして、ジルコニウム含有窒化物粉末が得られる。上記のようにして得られるジルコニウム含有窒化物粉末は、平均一次粒径が10nm以上50nm以下の範囲内にあるナノサイズの黒色材料であってもよい。
なお、黒色材料(黒色顔料、ジルコニウム含有窒化物粉末)の平均一次粒径は、BET法により測定された比表面積の測定値からの球形換算により算出した換算値(BET径)である。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末によれば、上記の一般式(I)で表される組成を有し、Xで表される特定の第3族元素を含有するので、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を540nm以上600nm以下の範囲内とすることができる。このため、短波長側(例えば、波長400nm)から長波長側(例えば、波長800nm)までの可視光を遮蔽することができる。よって、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、紫外光の透過性と、可視光の遮蔽性とに優れたものとなる。また、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末において、平均粒子径が10nm以上70nm以下の範囲内にある場合は、可視光によるジルコニウム含有窒化物粒子のプラズマ振動が減衰しにくい。このため、可視光の遮蔽性がより向上する。また、粒子サイズが光の波長に対して十分に小さいために光散乱が起こりにくくなるので、波長365nmの紫外光の透過性が向上する。
【0043】
また、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末において、上記の方法により測定される消散係数において、波長365nmの紫外光の消散係数α365に対する波長550nmの可視光の消散係数α550の比(α550/α365)が、1.4以上100以下の範囲内にある場合は、紫外光の透過性と、可視光の遮蔽性とがバランスよく向上する。このため、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末を用いることによって、高精細で可視光の遮蔽性に優れる黒色パターンを形成することができる。さらに、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末においては、波長550nmの可視光の消散係数が600m-1以上である場合は、可視光の遮蔽性がより向上する。このため、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末を用いて形成した黒色パターンは、ディスプレイのカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材として有用である。
【0044】
なお、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末において、上記の比(α550/α365)が、1.4以上100以下の範囲内にある場合は、組成は、上記の一般式(I)で表される組成である必要は必ずしもない。
【0045】
(黒色紫外線硬化型有機組成物)
例えば、画像形成素子のブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材として黒色パターンが用いられる。この黒色パターン形成用の黒色紫外線硬化型有機組成物の原料として上述のジルコニウム含有窒化物粉末を用いることができる。
黒色紫外線硬化型有機組成物は、紫外線硬化型有機物と、この紫外線硬化型有機物に分散された黒色顔料とを含む。黒色顔料としては、上述のジルコニウム含有窒化物粉末が用いられる。
紫外線硬化型有機物としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、グリシジルエーテル、グリシジルアミン、グリシジルエステル等を用いることができる。また紫外線硬化型有機物としては、紫外線が照射されることによって重合してポリマーを生成するモノマーあるいはオリゴマーを用いることができる。これらの例としては、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、エポキシモノマー、エポキシオリゴマーを挙げることができる。これらの有機物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基とメタアクリロイル基を含む。アクリルモノマーは、1つ分子中に(メタ)アクリル基を1つ有する単官能アクリルモノマーであってもよいし、1つの分子中に(メタ)アクリル基を2つ以上有する多官能アクリルモノマーであってもよい。単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。二官能(メタ)アクリルモノマーとしては、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0047】
アクリルオリゴマーは、アクリルモノマーが重合した低分子量の重合体であり、アクリルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどが挙げられる。アクリルオリゴマーの分子量は、例えば、数平均分子量で1000以上10000以下の範囲内にあってもよい。これらの(メタ)アクリレートモノマーおよびオリゴマーは1種を単独あるいは2種以上を併用して使用できる。また、(メタ)アクリルモノマーおよびオリゴマーは上記に記載されるものに限定されるものではなく、一般的に流通している(メタ)アクリルモノマーおよびオリゴマーを使用することができる。
【0048】
エポキシモノマーは、エポキシ基を有するものである。エポキシモノマーは、1つの分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシモノマーであってもよいし、1つの分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシモノマーであってもよい。エポキシモノマーとしては、グリシジルエーテル、脂環式エポキシなどが挙げられる。
【0049】
エポキシオリゴマーは、エポキシモノマーが重合した低分子量の重合体である。エポキシオリゴマーの分子量は、例えば、数平均分子量で1000以上10000以下の範囲内にあってもよい。
【0050】
黒色紫外線硬化型有機組成物は、他の紫外線硬化型有機物を含んでいてもよい。他の紫外線硬化型有機物としては、例えば、スチレン系モノマー、ビニル系モノマー、カチオン硬化性モノマーなどを用いることができる。スチレン系モノマーの例としては、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンを挙げることができる。ビニル系モノマーの例としては、塩化ビニル、酢酸ビニルを挙げることができる。カチオン硬化性モノマーの例としては、オキセタンを挙げることができる。
【0051】
黒色紫外線硬化型有機組成物は、光重合開始剤を含んでいてもよい。光重合開始剤は、紫外線、具体的には100~400nmの波長の光を吸収し、重合反応を開始できる化合物が好ましい。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アゾビスイソブチルエーテル、過酸化ベンゾイル、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、トリ-p-トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート等を用いることができる。
【0052】
紫外線硬化型有機物の含有量は、黒色紫外線硬化型有機組成物の固形分に対して、50質量%以上90質量%以下の範囲内にあることが好ましい。紫外線硬化型有機物の含有量がこの範囲内にあることによって、得られる黒色パターンの遮蔽性が向上する傾向がある。紫外線硬化型有機物の含有量は、55質量%以上85質量%以下の範囲内にあることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化型有機物に対して、0.5質量%以上15質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
ジルコニウム含有窒化物粉末の含有量は、黒色紫外線硬化型有機組成物の固形分に対して、0.1質量%以上50質量%以下の範囲内にあることが好ましい。ジルコニウム含有窒化物粉末の含有量がこの範囲内にあることによって、可視光の遮蔽性と紫外線の透過性とをバランスよく向上させることができる。ジルコニウム含有窒化物粉末の含有量の下限値は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上が好ましく、20質量%以上が特に好ましい。ジルコニウム含有窒化物粉末の含有量の上限値は、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0053】
黒色紫外線硬化型有機組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)、エタノール、トルエン、水等を用いることができる。溶媒の含有量は、黒色紫外線硬化型有機組成物に対して、0質量%以上60質量%以下の範囲内にあることが好ましい。溶媒の含有量がこの範囲内にあることによって、黒色紫外線硬化型有機組成物の塗布性が向上し、基板の上に形成されるフォトレジスト膜の膜厚が均一となる傾向がある。溶媒の含有量は、5質量%以上50質量%以下の範囲内にあることがより好ましく、10質量%以上40質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0054】
黒色紫外線硬化型有機組成物は、例えば、ジルコニウム含有窒化物粉末と、紫外線硬化型有機物と、溶媒とを混合することによって調製することができる。混合の順序は、ジルコニウム含有窒化物粉末と紫外線硬化型有機物と溶媒とを同時に混合してもよいし、ジルコニウム含有窒化物粉末と紫外線硬化型有機物の混合物に溶媒を加えて混合してもよいし、ジルコニウム含有窒化物粉末と溶媒の混合物に紫外線硬化型有機物を加えて混合してもよいし、紫外線硬化型有機物と溶媒の混合物にジルコニウム含有窒化物粉末を加えて混合してもよい。
【0055】
以上のような構成とされた黒色紫外線硬化型有機組成物は、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末を含むので、紫外光の透過性と、可視光の遮蔽性とに優れたものとなる。このため、上記の黒色紫外線硬化型有機組成物を用いることにより、紫外光を用いたフォトリソグラフィー法によって、高精細な黒色パターンを形成することが可能となる。そして、得られた黒色パターンは、可視光の遮蔽性に優れたものとなる。
【0056】
(黒色パターンの形成方法)
上述の黒色紫外線硬化型有機組成物を用いた黒色パターンの形成方法としては、紫外光を用いたフォトリソグラフィー法を用いることができる。フォトリソグラフィー法を用いた黒色パターンの形成方法は、例えば、塗布工程、露光工程、洗浄工程、加熱工程を含む。
【0057】
塗布工程は、基板の上に、黒色紫外線硬化型有機組成物を塗布してフォトレジスト膜を成膜する工程である。黒色紫外線硬化型有機組成物が溶媒を含む場合は、黒色紫外線硬化型有機組成物を塗布し、次いで加熱して溶媒を除去してもよい。基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどを用いることができる。またこの基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施してもよい。黒色紫外線硬化型有機組成物の塗布方法は、スピンコート法、流延塗布法、ロール塗布法、ディップ法などを用いることができる。フォトレジスト膜の厚さは、通常、0.1μm以上10μm以下の範囲内にあり、好ましくは0.2μm以上7.0μm以下の範囲内にあり、特に好ましくは0.5μm以上6.0μm以下の範囲内にある。
【0058】
露光工程は、フォトレジスト膜に対して紫外光をパターン状に露光して、露光された硬化部分と露光されていない未硬化部分とからなるパターンを作成する工程である。紫外光をパターン状に露光する方法としては、フォトマスクを用いる方法、パターン状に紫外光を放射する方法を用いることができる。紫外光としては、波長365nmの紫外光(i線)を用いることができる。
【0059】
洗浄工程は、洗浄液を用いて露光されていない未硬化部分を除去する工程である。洗浄液としては、アルカリ性水溶液を用いることができる。洗浄方法としては、例えば、浸漬方法、シャワー洗浄、スプレー洗浄、超音波洗浄を用いることができる。
【0060】
加熱工程は、洗浄工程の後、乾燥した後に、硬化部分を加熱して、硬化部分をより硬化させる工程である。加熱温度は、例えば、100℃以上300℃以下の範囲内にある。なお、露光工程によって形成された硬化部分が十分な硬度を有する場合には、加熱工程は省略してもよい。
【0061】
以上のような構成とされた黒色パターンの形成方法は、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末を含む黒色材料を用いるので、高精細な黒色パターンを形成することが可能となる。そして、得られた黒色パターンは、可視光の遮蔽性に優れたものとなる。
【実施例】
【0062】
[試験例1]
窒化ジルコニウム(ZrN)粉末について、粒子径が20nm、40nm、60nm、80nm、100nmの5種のサンプルを想定した。想定した各ジルコニウム含有窒化物粒子について、第一原理計算を行って、誘電率を算出した。得られた誘電率を用いて、各ジルコニウム含有窒化物粒子のMie散乱計算を行って、1つの粒子の消光力Q
extを算出した。そして、各ジルコニウム含有窒化物粒子を50質量ppmで含む分散液の波長-消散係数曲線を算出した。その結果を、
図1に示す。また、下記の表1に波長365nmの紫外光の消散係数α
365に対する波長550nmの可視光の消散係数α
550の比(α
550/α
365)を示す。
【0063】
【0064】
図1の波長-消散係数曲線から、窒化ジルコニウム粉末の粒子径が100nmから40nmに減少するに伴って、可視光領域での最大消散係数値が大きくなり、粒子径が40nmと20nmでは可視光領域での最大消散係数値がほぼ同等となることがわかる。また、粒子径の減少と共に、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長が短くなり、長波長側の可視光の消散係数が低下することがわかる。これは、粒子径の減少と共にプラズモン共鳴の波長が短くなるためである。
【0065】
[試験例2]
窒化ジルコニウム(ZrN)のZr原子の8分の1を他の元素Xで置換したジルコニウム含有窒化物(Zr0.875X0.125N)粒子を想定した。元素Xは、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Po、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとした。また、窒化ジルコニウム(ZrN)のZr原子の一部をYとDyで置換したジルコニウム含有窒化物(Zr0.875Y0.0625Dy0.0625N)粒子を想定した。ジルコニウム含有窒化物粒子の粒子径は、20nm、40nm、60nm、80nm、100nmの5種とした。
【0066】
想定した各ジルコニウム含有窒化物粒子について、試験例1と同様にして波長-消散係数曲線を算出した。その結果、第3族元素であるDy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb、Tm、Y+Dyは、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を長波長側に移行させる作用があることがわかった。Zrの一部をDy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb、Tm又はY+Dyで置換したジルコニウム含有窒化物(粒径:100nm)の波長-消散係数曲線を
図2に示す。
図2の波長-消散係数曲線から、Zrの一部をDy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb、Tm又はY+Dyで置換したジルコニウム含有窒化物は、いずれも可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長が580nm以上であり、窒化ジルコニウムと比較して、可視光領域での消散係数の最大ピークを示す波長を長波長側に移行していることがわかる。
【0067】
以上の試験例1及び試験例2の結果から、窒化ジルコニウム粉末の平均粒子径を小さくし、さらにZrの一部を、Dy、Er、Gd、Ho、Lu、Nd、Pr、Sc、Sm、Tb、Tm及びY+Dyなどの第3族元素で置換することによって、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とに優れたジルコニウム含有窒化物粉末を得ることができることがわかる。
【0068】
[試験例3]
試験例2で想定したジルコニウム含有窒化物粒子(粒子径:20nm、40nm、60nm、80nm、100nm)について、波長365nmの紫外光の消散係数α
365に対する波長550nmの可視光の消散係数α
550の比(α
550/α
365)を算出した。そのジルコニウム含有窒化物粒子の粒子径と比(α
550/α
365)との関係を、試験例1で得られた窒化ジルコニウム(ZrN)粉末の結果と共に
図3に示す。
【0069】
図3のグラフにおいて、横軸は粒子径を示し、縦軸は比(α
550/α
365)を示す。
図3の結果から、粒子径が70nm以下となると、ジルコニウム含有窒化物粉末の比(α
550/α
365)は、窒化ジルコニウム粉末と比較して大きくなることがわかる。
【0070】
[本発明例1]
二酸化ジルコニウム粉末と、酸化ジスプロシウム粉末とを、ジルコニウムとジスプロシウムのモル比が0.875:0.125であって、合計質量が10gとなるように秤量した。秤量した二酸化ジルコニウム粉末と酸化ジスプロシウム粉末とを、ミキサーを用いて均一に混合した。得られた酸化ジスプロシウム含有酸化ジルコニウム粉末7.86gと、金属マグネシウム粉末5.83gと、酸化マグネシウム粉末3.39gとを窒素雰囲気中で混合して、混合粉末を調製した。得られた混合粉末では、金属マグネシウム粉末の含有量が、酸化ジスプロシウム含有酸化ジルコニウム粉末中の金属原子の物質量比で4.0倍モルであった。また、酸化マグネシウム粉末中のマグネシウム原子の含有量が、酸化ジスプロシウム含有酸化ジルコニウム粉末中の金属原子の物質量比で1.4倍モルであった。上記混合粉末を窒素ガス雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。得られた焼成物を、1リットルの水に分散し、17.5%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した。次いで、25%アンモニア水にてpH7~8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした。次いで、濾過した。このように酸洗浄-アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した。次いで、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした。次いで、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度が120℃の熱風乾燥機にて乾燥した。得られた乾燥粉末について、X線回折パターンを測定し、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)を用いて元素分析を行なった。またJIS Z2613“金属材料の酸素定量方法通則”に準拠した方法により酸素量を測定した。不活性ガス融解-熱伝導度法により窒素量を測定した。その結果、得られた乾燥粉末は、一般式(II)で表されるジスプロシウムを含むジルコニウム含有窒化物粉末であることが確認された。得られたジルコニウム含有窒化物粉末の平均粒子径は、50nmであった。
【0071】
[本発明例2]
酸化ジスプロシウム粉末の代わりに、酸化エルビウム粉末、酸化ガドリニウム粉末、酸化ホルミウム粉末、酸化ルテチウム粉末、酸化ネオジム粉末、酸化プラセオジム粉末、酸化スカンジウム粉末、酸化サマリウム粉末、酸化テルビウム粉末、酸化ツリウム粉末を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、ジルコニウム含有窒化物粉末を製造した。得られたジルコニウム含有窒化物粉末はそれぞれ用いた第3族元素を含んでいた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、紫外光の透過性と可視光の遮蔽性とに優れる。このため、本実施形態のジルコニウム含有窒化物粉末は、ディスプレイ用のカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材を構成する黒色パターンの材料として好適に適用される。