(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】応力-ひずみ関係推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/22 20060101AFI20241001BHJP
G01N 3/24 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01N3/22
G01N3/24
(21)【出願番号】P 2023080530
(22)【出願日】2023-05-16
【審査請求日】2024-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
(72)【発明者】
【氏名】玉城 史彬
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-234991(JP,A)
【文献】特開2009-192391(JP,A)
【文献】国際公開第2012/141170(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105445122(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/22
G01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の応力とひずみの関係を推定する応力-ひずみ関係推定方法であって、
第1の半径R
1の丸棒状の平行部を有する第1の丸棒試験片の軸心回りにねじりトルクT
1を負荷することにより前記平行部をせん断変形させる第1のねじり試験を行い、ねじりトルクT
1とねじれ角Φ
1の関係を取得する、第1のねじり試験工程と、
前記第1の半径R
1よりも小さい第2の半径R
2の丸棒状の平行部を有する第2の丸棒試験片の軸心回りにねじりトルクT
2を負荷することにより前記平行部をせん断変形させる第2のねじり試験を行い、ねじりトルクT
2とねじれ角Φ
2の関係を取得する、第2のねじり試験工程と、
前記第1のねじり試験工程で取得したねじりトルクT
1とねじれ角Φ
1の関係と、前記第2のねじり試験工程で取得したねじりトルクT
2とねじれ角Φ
2の関係と、を用いて、前記第1の丸棒試験片の前記平行部の表面におけるせん断応力τと表面せん断ひずみγの関係を求めるせん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程と、
該せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において取得した前記せん断応力τと表面せん断ひずみγを単純引張の応力σとひずみεに変換し、該単純引張の応力σとひずみεの関係を推定する応力-ひずみ関係推定工程と、を含み、
前記せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において、
前記せん断応力τは、前記第1のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ
1におけるねじりトルクT
1と、前記第2のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ
2を第1のねじり試験工程で取得したねじれ角Φ
1に揃えたときのねじりトルクT
2'と、を用いて求め、
前記表面せん断ひずみγは、前記第1のねじり試験工程で取得したねじれ角Φ
1を用いて求めること
とし、
前記せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において、前記せん断応力τは式(1)により算出し、前記表面せん断ひずみγは式(2)により算出し、
前記応力-ひずみ関係推定工程において、単純引張のひずみεは式(3)により算出し、単純引張の応力は式(4)により算出することを特徴とする応力-ひずみ関係推定方法。
【数1】
【請求項2】
前記第1の丸棒試験片及び前記第2の丸棒試験片は、前記平行部の両端から徐変部を介して長手方向外方に延出する掴み部を有し、
前記第1のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ
1と、前記第2のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ
2は、
弾性域においては、ねじりトルクの測定値T
eに比例するとして推定されるねじれ角Φ
eとし、
弾塑性域においては、ねじれ角の測定値φ
a(Φ
1又はΦ
2)を、弾性域と弾塑性域の境界である弾性限界点におけるねじれ角の測定値Φ
0と推定値Φ
sの差(=Φ
0-Φ
s)と、前記第1の丸棒試験片又は前記第2の丸棒試験片の徐変部のねじれ角Θ(T)の弾性限界点におけるねじれ角Θ(T
s)からの変化量(Θ(T)-Θ(T
s))と、を用いて補正したねじれ角φ
t(=φ
a-(Φ
0-Φ
s)-(Θ(T)-Θ(T
s)))、とすることを特徴とする請求項
1に記載の応力-ひずみ関係推定方法。
【請求項3】
前記第1のねじり試験工程及び前記第2のねじり試験工程においては、前記第1の丸棒試験片及び前記第2の丸棒試験片にねじりトルクを負荷するために試験片ホルダーにより前記各試験片の長手方向両端部の掴み部を把持する際に、前記掴み部と前記試験片ホルダーとの間に間隙を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の応力-ひずみ関係推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力-ひずみ関係推定方法に関し、特に、金属材料の一様伸びを超えた高ひずみ域における応力とひずみの関係を精度よく推定することができる応力-ひずみ関係推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属薄板材のプレス成形では、材料の単軸引張における一様伸びを超える変形を受ける場合があり、高精度なFEM解析によるプレス成形解析の実施には、単軸引張における一様伸び以降の加工硬化特性(応力-ひずみ関係)を把握することが重要である。特に、超ハイテン材は一様伸びが非常に小さいため(例えば1180MPa鋼の一様伸びは6~7%)、一様伸び以降の応力とひずみの関係(例えば、伸び20%程度まで)を把握することが重要である。
【0003】
これまでに、液圧バルジ試験(非特許文献1)、圧縮試験(非特許文献2)、せん断試験(非特許文献3、特許文献1)等により応力-ひずみ関係を取得する方法が提案されている。これらの試験方法は、通常の単軸引張試験よりもくびれが生じにくく大変形を付与できる変形形態であるため、単軸引張における一様伸び以降の応力とひずみの関係を取得することができる。
また、単軸引張試験により、くびれ発生以降の高ひずみ域における応力とひずみの関係を推定する方法も提案されている(非特許文献4、特許文献2)。当該方法は、デジタル画像相関(DIC)法(Digital Image Correlation)等により測定したひずみ分布から引張試験片に作用する引張荷重を理論計算により求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5910803号公報
【文献】特許6669290号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nasser, A. et al.: J. Mater. Proc. Technol., 210(2010), 429-436.
【文献】岩田ほか:塑性と加工, 54-632(2013), 836-840.
【文献】澄川ほか:塑性と加工, 62-727(2021), 103-108
【文献】白神ほか:鉄と鋼, 103-10(2017), 589-595.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の液圧バルジ試験では、等二軸状態(面内に等方的に付加される状態)の応力とひずみの関係が得られるものであり、非特許文献2の圧縮試験では、圧縮状態の応力-ひずみ関係が得られるものである。これらの試験により得られた結果をFEM解析によるプレス成形解析で使用するためには、単軸引張相当の応力とひずみの関係に変換する必要があり、その変換の際に用いる異方性降伏関数によっては誤差が生じる可能性があった。
【0007】
また、液圧バルジ試験では、試験片の頂点部におけるひずみ及び応力がそれぞれ方向によらず等しいと仮定して求めている場合が多い。近年、ひずみの測定はDICを用いて測定することにより、ひずみの方向による影響も考慮できるようになっているものの、応力は従来通りに液体の圧力から方向によらず一定であるものとして推定としていた。そのため、このように推定した応力には誤差があると考えられ、得られる応力とひずみの関係は十分な精度とは言えなかった。
さらに、上記の液圧バルジ試験の実施には特殊な試験機が必要になるため、汎用性という面で実用的ではなかった。その上、液圧バルジ試験においても最終的には試験片にくびれが生じて破断に至るため、くびれが生じる高ひずみ域付近までの応力-ひずみ関係は取得することはできなかった。
【0008】
一方、非特許文献2の圧縮試験では、試験片に負荷されるひずみが大きくなってもくびれが発生することはないものの、試験片を押し付けている治具との摩擦及び治具の影響が大きく、FEM解析を用いて補正することが必要となっていた。また、薄鋼板に圧縮試験を適用するには、板厚方向のひずみを測定する観点から薄鋼板を積層する必要があり、積層による誤差もあると考えられた。
【0009】
また、非特許文献3及び特許文献1の方法では、引張試験片に作用する荷重の理論計算における前提条件(例えば、塑性ひずみ増分と応力状態との関係を表した関係式である関連流動則、異方性降伏関数など)を仮定する必要があった。さらに、引張試験片にくびれを生じる問題や、くびれが生じ始めた場合、幅方向にひずみ比の分布が異なるため、事前に仮定した降伏関数の精度の影響が大きく、前提条件が実際と乖離する場合に誤差の生じる恐れがあった。特に、引張試験片の板厚方向にくびれが生じた以降は板厚方向のせん断の影響を受けるが、降伏関数は板厚方向のせん断を考慮していないため、誤差がさらに大きくなる場合があった。また、当該方法は、カメラを用いてひずみを測定するため、引張荷重の作用開始から均一伸びを超えたひずみ域まで連続的にデータを採取するには向かず、離散的なひずみの時系列データから応力とひずみの関係の回帰曲線を求めることが前提となっていた。
【0010】
さらに、非特許文献4及び特許文献2のせん断試験では、せん断変形を負荷するものであるため試験片にくびれが生じず、破断に至るまでの応力とひずみの関係を測定することができるという利点があった。しかしながら、矩形の試験片の幅方向両側の表裏面をチャックで挟み固定してチャックを相対方向に沿って動かし、試験片の面内にせん断変形を生じさせるための大がかりな特殊な試験機を必要とするものであった。また、試験片の端部が引張変形となるために純粋なせん断変形とはならず、試験片端部の板厚減少が大きくなり、誤差を生じるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、くびれの生じない変形形態において直接的に金属材料の高ひずみ域における応力とひずみの関係を高精度に推定することができる応力-ひずみ関係推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る応力-ひずみ関係推定方法は、金属材料の応力とひずみの関係を推定するものであって、
第1の半径R1の丸棒状の平行部を有する第1の丸棒試験片の軸心回りにねじりトルクT1を負荷することにより前記平行部をせん断変形させる第1のねじり試験を行い、ねじりトルクT1とねじれ角Φ1の関係を取得する、第1のねじり試験工程と、
前記第1の半径R1よりも小さい第2の半径R2の丸棒状の平行部を有する第2の丸棒試験片の軸心回りにねじりトルクT2を負荷することにより前記平行部をせん断変形させる第2のねじり試験を行い、ねじりトルクT2とねじれ角Φ2の関係を取得する、第2のねじり試験工程と、
前記第1のねじり試験工程で取得したねじりトルクT1とねじれ角Φ1の関係と、前記第2のねじり試験工程で取得したねじりトルクT2とねじれ角Φ2の関係と、を用いて、前記第1の丸棒試験片の前記平行部の表面におけるせん断応力と表面せん断ひずみの関係を求めるせん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程と、
該せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において取得した前記せん断応力τと表面せん断ひずみγを単純引張の応力σとひずみεに変換し、該単純引張の応力σとひずみεの関係を推定する応力-ひずみ関係推定工程と、を含み、
前記せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において、
前記せん断応力τは、前記第1のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ1におけるねじりトルクT1と、前記第2のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ2を第1のねじり試験工程で取得したねじれ角Φ1に揃えたときのねじりトルクT2'と、を用いて求め、
前記表面せん断ひずみγは、前記第1のねじり試験工程で取得したねじれ角Φ1を用いて求めることを特徴とするものである。
【0013】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程において、前記せん断応力τは式(1)により算出し、前記表面せん断ひずみγは式(2)により算出することを特徴とするものである。
【数1】
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記第1の丸棒試験片及び前記第2の丸棒試験片は、前記平行部の両端から徐変部を介して長手方向外方に延出する掴み部を有し、
前記第1のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ1と、前記第2のねじり試験工程において取得したねじれ角Φ2は、
弾性域においては、ねじりトルクの測定値Teに比例するとして推定されるねじれ角Φeとし、
弾塑性域においては、ねじれ角の測定値φa(Φ1又はΦ2)を、弾性域と弾塑性域の境界である弾性限界点におけるねじれ角の測定値Φ0と推定値Φsの差(=Φ0-Φs)と、前記第1の丸棒試験片又は前記第2の丸棒試験片の徐変部のねじれ角Θ(T)の弾性限界点におけるねじれ角Θ(Ts)からの変化量(Θ(T)-Θ(Ts))と、を用いて補正したねじれ角φt(=φa-(Φ0-Φs)-(Θ(T)-Θ(Ts)))、とすることを特徴とするものである。
【0015】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、
前記第1のねじり試験工程及び第2のねじり試験工程においては、前記第1の丸棒試験片及び前記第2の丸棒試験片にねじりトルクを負荷するために試験片ホルダーにより前記各試験片の長手方向両端部の掴み部を把持する際に、前記掴み部と前記試験片ホルダーとの間に間隙を設けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、金属材料の単軸引張における一様伸びを超えた高ひずみ域における応力とひずみの関係を直接的かつ高精度に取得することができる。
また、従来の液圧バルジ試験、圧縮試験又はせん断試験のように大掛かりな試験装置を必要とせず、比較的規模の小さいコンパクトな試験機で高ひずみ域における応力とひずみの関係を連続的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法における処理の流れを説明するフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法において、ねじりトルクを負荷してせん断変形させるねじり試験に用いる丸棒試験片の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法に用いる微小丸棒ねじり試験機を説明する図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法において、平行部の半径が異なる丸棒試験片を用いたねじり試験により取得したねじれ角とねじりトルクの関係を示すグラフであり、ねじれ角の補正の有無によるねじれ角とねじりトルクの関係を説明する図である。
【
図5】実施例において、引張強度980MPa級、板厚1.2mm鋼板から作成した丸棒試験片を用いてねじり試験を行って単軸引張の応力とひずみの関係を推定した結果(発明例1、発明例2)と、従来の液圧バルジ試験により取得した応力とひずみの関係(従来例1)を示すグラフである((a)ねじれ角の補正なし(発明例1)、(b)ねじれ角の補正あり(発明例2))。
【
図6】実施例において、引張強度590MPa級、板厚1.2mm鋼板から作成した丸棒試験片を用いてねじり試験を行って単軸引張の応力とひずみの関係を推定した結果(発明例3)と、従来の液圧バルジ試験により取得した応力とひずみの関係(従来例2)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法を説明するに先立ち、発明に至った経緯と、本発明の実施に用いる丸棒試験片及び微小丸棒ねじり試験機について説明する。
【0019】
<発明に至った経緯>
発明者らは、通常の単軸引張試験による引張変形よりもくびれが生じにくく、一様伸びを超えた高ひずみ域における大変形を付与できる変形形態として、丸棒試験片を用いたねじり試験によるせん断変形に着目した。しかし、丸棒試験片のせん断ひずみは、丸棒試験片の断面中心(軸心)から半径方向外側に向けて線形的に増加して軸心から同心円状に分布するため、断面内のせん断ひずみは均一ではない。
【0020】
そこで、発明者らは、丸棒試験片を用いたねじり試験によりせん断応力とせん断ひずみを求める方法を鋭意検討した。その結果、わずかに径が異なる微小な丸棒試験片(例えば、直径1mmと1.1mm)のねじり試験において、丸棒試験片の表面に発生するせん断応力τはわずかな径の違いにより大きな差がないと仮定できることに着目した。このように仮定すれば、各丸棒試験片のねじり試験におけるねじりトルクの差から、丸棒試験片の表面に働くせん断応力τを算出できることを見い出した。
【0021】
そして、せん断変形した丸棒試験片のせん断ひずみに関しては、わずかに径が異なる丸棒試験片のねじり試験により発生した表面せん断ひずみの平均値で近似することを想起した。そのため、わずかに径が異なる2種類の丸棒試験片のねじり試験により、せん断応力と表面せん断ひずみの関係を求めることを着想するに到った。
【0022】
さらに、材料の等方性を仮定し、実際の金属材料の異方性を単軸引張試験の結果に基づいて補正することで、径が異なる2種類の丸棒試験片のねじり試験により求めたせん断応力と表面せん断ひずみの単軸引張の応力とひずみに変換することを想起した。これにより、一様伸びを超えた高ひずみ域における単軸引張の応力とひずみの関係を推定することをできるという知見を得るに至った。
【0023】
<丸棒試験片>
丸棒試験片10は、金属板(例えば、板厚1.2mmの鋼板)より切り出した微小な金属片を長手方向に沿った回転軸で回転させながら切削加工したものである。
丸棒試験片10は、
図2に示すように、丸棒状の平行部11と、平行部11の長手方向両端から徐変部13を介して長手方向外方に延出する掴み部15を有するものである。
【0024】
平行部11は、金属板の板厚よりも小さい所定の直径の丸棒状に切削加工されたものである。平行部11の直径は、せん断変形させる観点から可能な限り小さい方が好ましいが、寸法精度の観点から1mm程度が好ましい。また、平行部11の長手方向長さは、特に限定はなくて適宜設定すればよく、例えば、2~3mm程度とするとよい。
徐変部13は、平行部11と掴み部15との間に形成され、緩やかに径が変化する部位である。
掴み部15は、後述する微小丸棒ねじり試験機100の試験片ホルダー111、113により把持されて固定される平板状の部位(固定領域)である。掴み部15の厚みは、例えば、丸棒試験片10に供した金属板と同じ板厚とするとよい。
【0025】
<微小丸棒ねじり試験機>
丸棒試験片10を用いたねじり試験を行う微小丸棒ねじり試験機100の一例を
図3に示す。
微小丸棒ねじり試験機100は、
図3に示すように、ステップモーター101、減速機103、回転側ねじり軸105、カップリング107、固定側ねじり軸109、試験片ホルダー111、113、トルク計115及びアンプ117を備えたものである。
【0026】
回転側ねじり軸105はカップリング107と減速機103を介してステップモーター101に接続されている。一方、固定側ねじり軸109はトルク計115に連結されており、トルク計115にはアンプ117が接続されている。そして、ステップモーター101の指令値とアンプ117からの出力は、計測レコーダー(図示なし)に収集される。
そして、回転側ねじり軸105と固定側ねじり軸109には、丸棒試験片10にねじりトルクを負荷するため、丸棒試験片10の長手方向両端部の掴み部15を把持する試験片ホルダー111、113がそれぞれ設けられている。
【0027】
微小丸棒ねじり試験機100により丸棒試験片10のねじり試験を行うにあたっては、まず、回転側ねじり軸105側の試験片ホルダー111と、固定側ねじり軸109側の試験片ホルダー113と、により、丸棒試験片10の掴み部15を把持する。
【0028】
そして、ステップモーター101に所定の指令値を入力することで、減速機103、カップリング107、回転側ねじり軸105及び試験片ホルダー111を介し丸棒試験片10の掴み部15にねじりトルクTを負荷し、平行部11をせん断変形させる。
ねじりトルクを負荷した丸棒試験片10のねじれ角Φは、ステップモーター101の指令値と減速機103の減速比から推定してもよいし、減速機103の回転軸の回転角度を測定可能なポテンションメーター等を設置して直接測定してもよい。
【0029】
なお、微小丸棒ねじり試験機100においては、回転側ねじり軸105と固定側ねじり軸109の軸芯が一致していることが、ねじりトルク測定の精度上、重要である。そこで、微小丸棒ねじり試験機100には、両側の試験片ホルダー111、113間の芯出し用の調整機構が設けられていることが好ましい。
【0030】
<応力-ひずみ関係推定方法>
本発明の実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法は、金属材料の応力とひずみの関係を取得するものである。そして、応力-ひずみ関係推定方法は、
図1に示すように、第1のねじり試験工程S1と、第2のねじり試験工程S3と、せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程S5と、応力-ひずみ関係推定工程S7と、を含むものである。
以下、
図3に示す微小丸棒ねじり試験機100を用いて本実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法を実施するものとし、上記の各工程について説明する。
【0031】
≪第1のねじり試験工程≫
第1のねじり試験工程S1においては、第1の半径R1の丸棒状の平行部11を有する第1の丸棒試験片10の軸心回りにねじりトルクT1を負荷することより平行部11をせん断変形させる第1のねじり試験を行う。そして、第1のねじり試験において第1の丸棒試験片に負荷したねじりトルクT1と、第1の丸棒試験片10のねじれ角Φ1と、の関係を取得する。
第1のねじり試験工程S1においては、第1の丸棒試験片10の平行部11にき裂が生じる最大ねじれ角までのねじりトルクT1とねじれ角Φ1との関係を取得するとよい。
【0032】
≪第2のねじり試験工程≫
第2のねじり試験工程S3においては、第1の半径R1よりも小さい第2の半径R2の丸棒状の平行部11を有する第2の丸棒試験片10の軸芯回りにねじりトルクT2を負荷することにより平行部11をせん断変形させる第2のねじり試験を行う。そして、第2のねじり試験において第2の丸棒試験片10に負荷したねじりトルクT2と、第2の丸棒試験片10のねじれ角Φ2と、の関係を取得する。
【0033】
第2のねじり試験工程S3においては、第2の丸棒試験片10の平行部11にき裂が生じる最大ねじれ角までのねじりトルクT2とねじれ角Φ2との関係を取得するとよい。
【0034】
≪せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程≫
せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程S5においては、第1の丸棒試験片10の平行部11の表面におけるせん断応力τと表面せん断ひずみγの関係を求める。そして、せん断応力τと表面せん断ひずみγの関係を求めるには、第1のねじり試験工程S1で取得したねじりトルクT1とねじれ角Φ1の関係と、第2のねじり試験工程S3で取得したねじりトルクT2とねじれ角Φ2の関係と、を用いる。
【0035】
せん断応力τは、第1のねじり試験工程S1において取得したねじれ角Φ1におけるねじりトルクT1と、第2のねじり試験工程S3において取得したねじれ角Φ2をねじれ角Φ1に揃えたときのねじりトルクT2'と、を用いて求める。
一方、表面せん断ひずみγは、第1のねじり試験工程S1で取得したねじれ角Φ1を用いて求める。
【0036】
せん断応力τ及び表面せん断ひずみγは、それぞれ、以下の式(1)及び式(2)より求めることができる。
【数2】
【0037】
ここで、式(1)に示すせん断応力τは、以下のように導出したものである。丸棒状の平行部11(
図2)の半径が異なる第1の丸棒試験片10(半径R
1)及び第2の丸棒試験片(半径R
2、R
1>R
2)において、単位長さあたりのねじり角が等しい場合に、平行部11の半径方向断面における軸中心からR
2までの双方のせん断ひずみ分布は等しい。その結果、第1及び第2の丸棒試験片10それぞれのトルクを発生する応力分布も等しくなる。したがって、第1の丸棒試験片10のトルクT
1と第2の丸棒試験片10のトルクT
2’の差(T
1-T
2’)は、「第1の丸棒試験片10において半径R
2より外側の半径R
1までの円環状の部分(円環部)」に発生するトルクということになる。また、平行部11に生じるせん断ひずみは軸中心からの距離に比例することを考慮すれば、第1の丸棒試験片10と第2の丸棒試験片10の半径の差(R
1-R
2)が非常に小さい条件では、第1の丸棒試験片10の円環部におけるトルク及びせん断ひずみは一定であると仮定することができる。この仮定より、平行部11の表面におけるせん断応力τは式(1)により表すことができる。
また、式(2)に示す表面せん断ひずみγは、第1と第2の丸棒試験片10それぞれのねじり試験により平行部11の表面に生じたせん断ひずみの平均値で近似したものである。
【0038】
≪応力-ひずみ関係推定工程≫
応力-ひずみ関係推定工程S7においては、せん断応力-表面せん断ひずみ関係取得工程S5において取得したせん断応力τと表面せん断ひずみγをそれぞれ単純引張の応力σとひずみεに変換し、単純引張の応力σとひずみεの関係を推定する。
【0039】
単軸引張の応力σとひずみεは、それぞれ、以下の式(3)及び(4)により変換することができる。式(3)は、等方性材料(Mises材料)での等塑性ひずみ状態を仮定して、単軸引張のひずみεをせん断ひずみγとせん断応力τを用いて導出したものである。当該導出では、塑性域における単軸引張のひずみとせん断ひずみ及び応力とせん断応力の各関係と、弾性域における縦弾性係数Eを用いた単軸引張の応力とひずみの関係、及び、横弾性係数Gを用いたせん断応力とせん断ひずみの関係、を用いている。さらに、式(3)の導出では、弾塑性ひずみ成分(単軸引張のひずみ、せん断ひずみ)の定義を用いている。
また、式(4)は、等方性材料(Mises材料)での等塑性ひずみ状態を仮定したときの、単軸引張の応力σとせん断応力τの関係式を、金属材料の異方性を考慮して補正したものである。
【数3】
【0040】
式(3)及び式(4)において、Aは金属材料の異方性を考慮する補正係数である。
金属材料に異方性がない場合(等方性)は、A=1とする。これに対し、金属材料に異方性がある場合は、単軸引張試験における一様伸びまでの応力-ひずみ曲線に基づいて決定したAの値を与えればよい。
金属材料に異方性がある場合として、特に圧延で製造される金属材料は、圧延方向(L方向)、その直角方向(C方向)、45°方向(D方向)に、特性変化があることが知られている。そのため、例えば金属材料から引張試験片を採取する際に、引張試験片の長手方向を金属材料の異方性に対応させて複数採取し、単軸引張試験を行ってAの値を決定するとよい。
また、式(3)において、Eは縦弾性係数であり、金属材料の単軸引張試験により測定した値を用いればよい。さらに、Gは横弾性係数であり、単軸引張試験により測定した縦弾性係数Eと金属材料のポアソン比(金属材料が鋼板の場合、0.28-0.30の値)を元に算出すればよい。
【0041】
以上、本実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法によれば、金属材料の単軸引張における一様伸びを超えた高ひずみ域における応力-ひずみ関係を推定することができる。
また、本実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法においては、直径1mm程度の丸棒試験片を用いたねじり試験を行うものである。そのため、従来の液圧バルジ試験、圧縮試験又はせん断試験のような大がかりな装置を必要とせず、比較的規模の小さいコンパクトな微小丸棒ねじり試験機100を用いたねじり試験により、高ひずみ域における応力とひずみの関係を推定することができる。
【0042】
なお、本実施の形態に係る応力-ひずみ関係推定方法においては、前述したように、第1及び第2の丸棒試験片10における平行部11の表面に働くせん断応力τは、平行部11の径の違いにより大きな差がないことを仮定して求めている(式(1)参照)。そのため、第1の丸棒試験片10の平行部11の第1の半径R1と第2の丸棒試験片10の平行部11の第2の半径R2の差が小さいほどせん断応力τを高精度に推定することができる。もっとも、丸棒試験片10の加工精度の制約から、第1の半径R1と第2の半径R2の差は0.1mm程度が好ましく、より好ましくは0.05mm程度である。
【0043】
また、上記の説明は、第1のねじり試験工程S1と第2のねじり試験工程S3において、微小丸棒ねじり試験機100を用いてねじり試験を行い、径の異なる2種類の丸棒試験片10におけるねじりトルクとねじれ角の関係を取得するものであった。もっとも、微小丸棒ねじり試験機100の機械的ガタ(減速機103のバックラッシュ、試験片ホルダー111、113のチャッキング部と丸棒試験片10の掴み部15との間のガタ)が存在する。そのため、丸棒試験片10の軸芯回りにねじりトルクの負荷を開始した直後の弾性域において取得されるねじれ角は誤差が大きい。
【0044】
そこで、第1のねじり試験工程S1及び第2のねじり試験工程S3において取得したねじれ角(Φ1、Φ2)は、以下のように補正することが好ましい。
【0045】
まず、ねじり試験において丸棒試験片10のせん断変形が弾性域又は弾塑性域であるかを判別する。弾性域と弾塑性域は、例えば、以下の式(5)に基づいて判別することができる。
【数4】
ここで、T
eは第1及び第2の丸棒試験片10に負荷したねじりトルクの測定値(T
1又はT
2)、T
sは弾性域と弾塑性域の境界(弾性限界点)におけるねじりトルクである。また、Rは丸棒試験片10の平行部11の半径(R
1又はR
2)、Y
sは丸棒試験片10に用いた金属材料の単軸降伏応力である。さらに、Aは金属材料の異方性を考慮する補正係数であり、式(3)及び式(4)と同様である。
【0046】
そして、ねじり試験におけるねじりトルクの測定値TeがTsよりも小さい場合、丸棒試験片10の平行部11におけるせん断変形は弾性域であると判別する。これに対し、ねじりトルクの測定値TeがTs以上の場合、丸棒試験片10の平行部11におけるせん断変形は弾塑性域であると判別する。
【0047】
弾性域であると判別された場合、丸棒試験片10のねじれ角は、ねじりトルクの測定値T
eに比例するとし、以下の式(6)により推定されるねじれ角Φ
eとする。
【数5】
ここで、Gは丸棒試験片の横弾性係数(MPa)、Rは丸棒試験片10の平行部11の半径(mm)である。
【0048】
一方、弾塑性域であると判別された場合、ねじり試験により取得したねじれ角は、弾性限界点におけるねじれ角の測定値Φ0とねじれ角の推定値Φsの差(=Φ0-Φs)をオフセットさせることにより補正する。ここで、Φsは式(6)においてねじりトルクの測定値Teが弾性限界点におけるねじりトルクTsであるときに推定されるねじり角である。
【0049】
さらに、丸棒試験片10においては、掴み部15から平行部11に至るまでの徐変部13の半径は長手方向に沿って変化している。そこで、式(7)により与えられる徐変部13のねじれ角Θに基づき、徐変部13のねじれ角Θの弾性限界点からの変化量(=Θ(T)-Θ(T
s))により丸棒試験片10のねじれ角をさらに補正する。ここで、Θ(T)は、ねじりトルクTにおける徐変部13のねじれ角、Θ(T
s)は、弾性限界点(ねじりトルクT
s)における徐変部13のねじれ角とする。
【数6】
【0050】
すなわち、弾塑性域であると判別された場合、以下の式(8)を用いてねじれ角の測定値φ
aを補正した値φ
tを丸棒試験片10のねじれ角とする。
【数7】
【0051】
図4に、平行部11の径が異なる2種類の丸棒試験片10を用いたねじり試験において、ねじれ角の補正の有無による単位ねじれ角とねじりトルクの関係を取得したグラフを示す。
図4に示すグラフは、引張強度980MPa級、板厚1.2mmの鋼板から作製した丸棒試験片10を用いた結果であり、第1の丸棒試験片10の平行部11の直径は1.1mm、第2の丸棒試験片10の平行部11の直径は1mmである。また、
図4の横軸は、第1の丸棒試験片10と第2の丸棒試験片10それぞれのねじれ角Φ
1、Φ
2を平行部11の長手方向長さLで除した単位ねじれ角θ
1、θ
2である。
【0052】
図4に示すように、ねじれ角の小さい領域においては、前述したように、微小丸棒ねじり試験機100の機械的ガタによりねじれ角の誤差が大きいため、ねじれ角の補正の有無によりねじりトルクに差が生じていることが分かる。
【0053】
通常の丸棒ねじり試験機では、丸棒試験片10の掴み部15を試験片ホルダー111、113により完全にチャッキングするのが一般的である。しかし、平行部11の直径がφ1mm程度の丸棒試験片10を用いる微小丸棒ねじり試験機100では、微小丸棒ねじり試験機100の回転側ねじり軸105と固定側ねじり軸109の極僅かな軸心のずれがねじりトルクの測定精度に影響する。
【0054】
そこで、第1のねじり試験工程S1及び第2のねじり試験工程S3においては、試験片ホルダー111、113により各丸棒試験片10の長手方向両端部の掴み部15を把持する際に、掴み部15と試験片ホルダー111、113との間に間隙を設けるとよい。そして、この間隙は、10~20μm程度が好ましい。これにより、各丸棒試験片10へのねじりトルクの負荷開始時において掴み部15は試験片ホルダー111、113により固定されずに自由に動くことができる。その結果、回転側ねじり軸105と固定側ねじり軸109の軸心のずれにより丸棒試験片10に生じるねじりトルクの脈動等の異常を緩和し、ねじりトルクの測定精度を向上させることができる。
【実施例】
【0055】
本発明に係る応力-ひずみ関係推定方法の作用効果を検証するための実験を行ったので、以下、これについて説明する。
【0056】
本実施例では、前述した実施の形態に係る方法により、金属材料として引張強度980MPa級と引張強度590MPa級の鋼板の応力とひずみの関係を推定した。
【0057】
まず、板厚1.2mmの鋼板から、
図3に示す、平行部11の直径が異なる2種類の第1及び第2の丸棒試験片10を作製した。第1の丸棒試験片10の平行部11の直径は1.1mm、第2の丸棒試験片10の平行部11の直径は1.0mmとした。
【0058】
次に、作製した第1及び第2の丸棒試験片10のそれぞれについて、
図2に示す微小丸棒ねじり試験機100を用いてねじり試験を行い、各丸棒試験片10に負荷したねじりトルクと各丸棒試験片10のねじれ角の関係を取得した。
【0059】
そして、第1及び第2の丸棒試験片10のそれぞれについて取得したねじりトルクとねじれ角の関係から、第1の丸棒試験片10の平行部11の表面に働くせん断応力と表面せん断ひずみを算出した。せん断応力と表面せん断ひずみの算出には、前述した式(1)及び式(2)を用いた。
【0060】
続いて、前述した式(3)及び式(4)により算出したせん断応力と表面せん断ひずみを単軸引張の応力(相当応力)とひずみ(相当ひずみ)に変換し、応力とひずみの関係を推定した。
【0061】
さらに、本実施例では、実施の形態で説明したように、第1及び第2の丸棒試験片10それぞれのねじり試験において取得したねじれ角を補正してせん断応力と表面せん断ひずみを算出した場合についても、応力とひずみを推定した。なお、ねじれ角の補正において、単軸降伏応力Ysと横弾性係数Gは、各引張強度の鋼板の単軸引張試験により測定した値を用いた。
【0062】
また、本実施例では、比較対象として、液圧バルジ試験により応力とひずみの関係を取得した。液圧バルジ試験においても、引張強度980MPa級及び590MPa級、板厚1.2mmの鋼板から作製した試験片を供試材とした。
【0063】
図5に、980MPa級の鋼板について、本発明に係る方法により単軸引張の応力とひずみの関係(相当応力と相当ひずみ)を推定した結果と、液圧バルジ試験により取得した相当応力と相当ひずみの関係の結果と、を比較したグラフを示す。なお、980MPa級の鋼板の単軸引張試験における一様伸びは7.0%(真ひずみ0.068)であった。
【0064】
図5において、発明例1及び発明例2、丸棒試験片10を作製して応力とひずみの関係の推定を実施したN数=2回分の応力-ひずみ曲線であり、
図5(a)に示す発明例1はねじれ角Φの補正なし、
図5(b)に示す発明例2はねじれ角Φの補正ありの結果である。また、従来例1は、液圧バルジ試験により取得した応力-ひずみ曲線である。
【0065】
図5に示すように、発明例1と従来例1は良好に一致し、発明例1においては従来例1によりも35%広い高ひずみ領域まで推定できることが分かる。また、
図5(a)の発明例1と
図5(b)の発明例2を比較すると、ねじり試験により取得したねじれ角Φを補正することにより、特に、弾性域のばらつきが低減できることが示されている。
【0066】
図6に、590MPa級の鋼板について、本発明に係る方法により単軸引張の応力とひずみの関係(相当応力と相当ひずみ)を推定した結果(発明例3)と、液圧バルジ試験により取得した相当応力と相当ひずみ関係の結果(従来例2)と、を比較したグラフを示す。なお、590MPa級の鋼板の単軸引張試験における一様伸びは15.1%(真ひずみ0.141)であった。
図6において、発明例3は、丸棒試験片10を作製して応力とひずみの関係の推定を実施したN数=1回分の応力-ひずみ曲線であり、従来例2は、液圧バルジ試験により取得した応力-ひずみ曲線である。また、発明例3は、ねじれ試験により取得したねじれ角を補正した結果である。
【0067】
図6に示すように、引張強度590MPa級の鋼板について推定した発明例3においては、液圧バルジ試験の従来例2よりも4倍以上の高ひずみ域までの応力とひずみの関係を推定することができた。
【符号の説明】
【0068】
10 丸棒試験片
11 平行部
13 徐変部
15 掴み部
100 微小丸棒ねじり試験機
101 ステップモーター
103 減速機
105 回転側ねじり軸
107 カップリング
109 固定側ねじり軸
111 試験片ホルダー
113 試験片ホルダー
115 トルク計
117 アンプ
【要約】
【課題】金属材料の単軸引張における一様伸びを超えた高ひずみ域における応力とひずみの関係を精度よく推定することができる応力-ひずみ関係推定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る応力-ひずみ関係推定方法は、第1の丸棒試験片10のねじり試験を行い、ねじりトルクとねじれ角の関係を取得する工程(S1)と、第1の丸棒試験片10よりも半径が小さい平行部11を有する第2の丸棒試験片10のねじり試験を行い、ねじりトルクとねじれ角の関係を取得する工程(S3)と、第1の丸棒試験片10及び第2の丸棒試験片10それぞれのねじり試験により取得したねじりトルクとねじれ角の関係に基づいて、せん断応力と表面せん断ひずみの関係を求める工程(S5)と、せん断応力と表面せん断ひずみを単純引張の応力とひずみに変換し、応力とひずみの関係を推定する工程(S7)と、を含むものである。
【選択図】
図1