(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-30
(45)【発行日】2024-10-08
(54)【発明の名称】回転電機のステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20241001BHJP
【FI】
H02K3/04 J
H02K3/04 E
(21)【出願番号】P 2023504989
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2021009620
(87)【国際公開番号】W WO2022190288
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 洋三
(72)【発明者】
【氏名】姫野 友克
(72)【発明者】
【氏名】野口 陽平
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-166945(JP,A)
【文献】特開2013-162721(JP,A)
【文献】特開2010-124659(JP,A)
【文献】特開2010-239798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに挿入される複数のスロットコイルと、
前記スロットコイルの、前記スロットを貫通して前記ステータコアから突出する部位に接続される別体コイルエンドと、
を備える回転電機のステータにおいて、
前記スロットコイルの前記ステータコアから突出する部位に対して前記ステータコアの周方向への荷重である周方向荷重を印加する荷重印加機構を備え、
前記スロットコイルが、前記荷重印加機構により印加された周方向荷重によって前記スロットに押し付けられ、これにより生じる摩擦力によって前記スロットに固定されている回転電機のステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機のステータにおいて、
前記荷重印加機構は、前記別体コイルエンドに設けられる変形部であり、
前記変形部は、前記別体コイルエンドが前記スロットコイルに接続された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を前記周方向荷重として前記スロットコイルに対して印加する、回転電機のステータ。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機のステータにおいて、
前記スロットコイルの前記ステータコアから突出する部分及び前記別体コイルエンドを覆う絶縁カバーをさらに備え、
前記荷重印加機構は、前記絶縁カバーに設けられる弾性変形部であり、
前記弾性変形部は、前記絶縁カバーが装着された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を前記周方向荷重として前記スロットコイルに対して印加する、回転電機のステータ。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機のステータにおいて、
前記スロットコイルの前記ステータコアから突出する部分及び前記別体コイルエンドを覆う絶縁カバーをさらに備え、
前記荷重印加機構は、前記絶縁カバーと前記スロットコイルとの間に介装される弾性部材であり、
前記弾性部材は、前記絶縁カバーが装着された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を前記周方向荷重として前記スロットコイルに対して印加する、回転電機のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
JP2017-208924Aには、複数のスロットを有するステータコアと、ステータコアに取り付けられるコイルとを備える回転電機のステータが開示されている。このコイルは、スロットに挿入される複数のスロットコイルと、ステータコアの軸方向端面よりも軸方向外側においてスロットコイル間を接続する接続コイルとを有している。そして、スロットコイルは、平板状の導体が絶縁材で被覆されたものであり、絶縁材の外周に設けられた突起がスロットの内周面と係合することでスロット内に固定されている。
【発明の概要】
【0003】
上記文献のステータには、スロットコイルをスロットに挿入する際に、絶縁材の突起とスロットの内周面との間に生じる摩擦力よりも大きな力が必要となるという製造上の問題がある。
【0004】
そこで本発明は、スロットコイルをスロットに挿入するために必要な力がより小さく、かつスロットコイルがスロット内に確実に固定されるステータを提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、複数のスロットを有するステータコアと、スロットに挿入される複数のスロットコイルと、スロットコイルの、スロットを貫通してステータコアから突出する部位に接続される別体コイルエンドと、を備える回転電機のステータが提供される。この回転電機のステータは、スロットコイルに対してステータコアの周方向への荷重である周方向荷重を印加する荷重印加機構を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態にかかるステータの分解斜視図である。
【
図3】
図3は、別体コイルエンドの概略構成図である。
【
図4】
図4は、一つの接続部材の接続状態を示す平面図である。
【
図6】
図6は、別体コイルエンドとスロットコイルとの接続部分の拡大図である。
【
図7A】
図7Aは、スロットコイルに対して径方向の荷重を印加する構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1変形例における別体コイルエンドとスロットコイルとの接続部分の拡大図である。
【
図9】
図9は、第2変形例における別体コイルエンドとスロットコイルとの接続部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0008】
図1は、本実施形態にかかるステータ1の分解斜視図である。ステータ1は、ステータコア2と、スロットコイル3と、別体コイルエンド4とを備える。
【0009】
以下の説明において、径方向、軸方向、周方向とは、それぞれステータコア2の径方向、軸方向、周方向を意味する。
【0010】
ステータコア2は、複数の板状の電磁鋼板がその厚み方向に積層されたものであり、その径方向内側に突出する複数のティース2Aと、隣り合うティース2Aの間に形成されるスロットとを備える。
【0011】
スロットコイル3は、複数の略U字形状のコイル素子3Aの集合体であり、全体として円筒形状を有する。コイル素子3Aは複数の平角線で構成されている。平角線は、例えば銅やアルミ等といった導体素材で構成されている。また、各平角線は、後述する接続部材6が接続される両端部を除いて、例えばエナメル等の絶縁体により被覆されている。スロットコイル3はステータコア2の一方の端部側からスロット5に挿入される。なお、各スロット5には絶縁紙が挿入されており、これによりスロットコイル3とティース2Aとは電気的に絶縁状態となる。
【0012】
別体コイルエンド4は、スロット5を貫通してステータコア2から突出したスロットコイル3の特定の端部同士を電気的に接続する接続部材6の集合体であり、全体として円環形状を有する。ここで、接続部材6及び別体コイルエンド4について
図2、
図3を参照して説明する。
【0013】
図2は接続部材6の形状を示す図であり、
図3は別体コイルエンド4の概略構成図である。
【0014】
接続部材6は、導体素材で構成されており、脚部6Aと、脚部6Aの両端に設けられた接続部6Bとを有する。脚部6Aは、例えば
図2に示すように中間部分で折り曲げられた板バネ形状を有する。一方の接続部6Bから他方の接続部6Bまでの距離は、それぞれの接続部材6が接続されるスロットコイル3の端部の間の距離よりも長い。すなわち、接続部材6は、2つの接続部6Bが近づく方向に弾性変形した状態でスロットコイル3に接続される。換言すると、接続部材6は、接続されたスロットコイル3の端部に対し、弾性力を印加する。
【0015】
なお、脚部6Aの形状はこれに限られるわけではなく、弾性変形可能な形状であればよい。また、
図2では接続部6Bが折り曲げられた湾曲形状となっているが、これに限られるわけではない。
【0016】
別体コイルエンド4は、複数の接続部材6を円環状に並べたものである。別体コイルエンド4は、治具を用いて複数の接続部材6を円環状に仮組した状態で、スロットコイル3に組み合わされる。なお、
図3は簡単のためコイル素子3Aが1本の平角線で構成される場合の別体コイルエンド4を示している。平角線が複数の場合には、後述する
図6に示すように、
図3のそれぞれの接続部材6が平角線の数だけ積層されることとなる。
【0017】
次に、別体コイルエンド4とスロットコイル3との接続状態について
図4から
図6を参照して説明する。
【0018】
図4は、一つの接続部材6の接続状態を示す平面図であり、
図5は
図4と同じ部分の斜視図である。ここでは、スロット5Aに挿入されるコイル素子3AAとスロット5Bに挿入されるコイル素子3ABとを接続する接続部材6について示している。
図6は別体コイルエンド4とスロットコイル3との接続部分の拡大図である。
【0019】
本実施形態のコイル素子3Aは、ステータコア2の端部からの突出量が相対的に大きい3本の平角線と、相対的に小さい3本の平角線とが交互に並ぶ構成となっている。そして、スロット5Aのコイル素子3AAの径方向内側から2番目の端部と、スロット5Bのコイル素子3ABの径方向最内側の端部とが接続部材6により接続される。コイル素子3Aと接続部材6の接続部6Bとは、溶接、はんだ、接触式接続、固相接合、導電性接着剤による接着等の方法により電気的に接続される。
【0020】
上述した接続部材6からコイル素子3Aに印加される弾性力は、コイル素子3AAとコイル素子3ABに対して互いに遠ざかる方向(つまり、略周方向)に作用する。これにより、コイル素子3AAとコイル素子3ABは、それぞれスロット5に押し付けられ、これにより生じる摩擦力によってスロットコイル3がスロット5に固定される。
【0021】
他の端部についても同様であり、スロット5Aのコイル素子3AAの径方向内側から4番目の端部と、スロット5Bのコイル素子3ABの径方向内側から3番目の端部とが接続される。また、スロット5Aのコイル素子3AAの径方向最外側の端部と、スロット5Bのコイル素子3ABの径方向内側から5番目の端部とが接続される。
【0022】
そして、他のスロット5についても同様に接続される。その結果、
図6に示す接続状態になる。なお、接続部材6の接続部6B付近の形状は、他の接続部材6との干渉を避けるため適宜変更されている。
【0023】
別体コイルエンド4とスロットコイル3とを接続したら、ステータコア2から突出するスロットコイル3の端部と別体コイルエンド4とを、絶縁体で構成されるカバーで覆う。
【0024】
上記のように本実施形態のステータ1においては、別体コイルエンド4の弾性力によってスロットコイル3がスロット5に固定される。したがって、スロットコイル3をスロット5に挿入する際のスロットコイル3とスロット5の内周面との間の摩擦抵抗を大幅に低減できる。さらに言えば、スロットコイル3やスロット5の形状が設計通りであれば、スロットコイル3とスロット5の内周面との間に摩擦力は生じない。すなわち、上述した構成にすることで、スロットコイル3をスロット5に挿入するために必要な力が小さくなるので、簡易な装置で挿入することができる。
【0025】
また、上述した構成では、スロットコイル3を被覆する絶縁体に突起等の形状を施すことなくスロットコイル3をスロット5に固定できる。したがって、ロール素材として製造される安価な絶縁材料を用いることが可能となる。また、スロットコイル3の固定にワニスや接着剤等を用いる必要がなくなる。これらにより、製造コストの削減、製造工程の簡素化が可能となる。
【0026】
さらに、別体コイルエンド4の弾性力による荷重方向が周方向なので、別体コイルエンド4、スロットコイル3及びステータコア2の間で荷重が釣り合う。これにより、スロットコイル3を固定するための荷重を支えるための部品を追加する必要がない。
【0027】
ここで、荷重方向が径方向の場合について
図7A、
図7Bを参照して説明する。
図7Aに示すように、接続部材6の接続部6Bからコイル素子3Aへの荷重方向が径方向外向きの場合でも、スロットコイル3をスロット5の内周面に押し付けて固定することができる。しかし、この場合には別体コイルエンド4、スロットコイル3及びステータコア2の間で荷重が釣り合わないので、荷重を支えるための構成が必要になる。例えば、
図7Bに示すように、外周側リング部品10と、内周側リング部品11と、これらリング部品10、11と絶縁カバー7とを接続する複数の弾性部材12とが必要になる。このため、本実施形態の構成に比べて構造が複雑になる。
【0028】
ところで、本実施形態では、スロットコイル3をスロット5の内周面に固定するための荷重として、接続部材6が発生する弾性力を利用する構成について説明したが、以下に説明する変形例のように、当該荷重を他の構成で発生させても構わない。なお、以下の第1変形例及び第2変形例のいずれも、本実施形態と同様に本発明の技術的範囲に含まれる。
【0029】
[第1変形例]
図8は、第1変形例にかかる構成における、コイル素子3Aと接続部材6との接続部分の拡大図である。3本の接続部材6は、上記実施形態と同様に、それぞれ径方向内側から2番目、4番目、6番目の各コイル素子3Aに接続される。しかし、本変形例の接続部材6はコイル素子3Aに接続された状態で弾性力を発生しない。その代わりに、絶縁カバー7に弾性変形部7A、7B、7Cが設けられており、これらが絶縁カバー7を装着した状態において弾性変形する。そして、弾性変形部7A、7B、7Cで発生した弾性力がコイル素子3Aと接続部材6との接続部分に対して周方向に作用する。
【0030】
[第2変形例]
図9は、第2変形例にかかる構成における、コイル素子3Aと接続部材6との接続部分の拡大図である。第1変形例では絶縁カバー7の一部が弾性変形部7A、7B、7Cとして形成されていたのに対し、本変形例では絶縁カバー7とは別体の、バネ等の弾性部材8A、8B、8Cを用いる。これら弾性部材8A、8B、8Cは絶縁カバー7が装着された状態で圧縮方向に弾性変形する。そして、この弾性変形により生じた弾性力がコイル素子3Aと接続部材6との接続部分に対して周方向に作用する。
【0031】
[効果のまとめ]
以上の通り、本実施形態及び変形例によれば、複数のスロット5を有するステータコア2と、スロット5に挿入される複数のスロットコイル3と、スロットコイル3の、スロット5を貫通してステータコア2から突出する部位に接続される別体コイルエンド4と、を備える回転電機のステータ1が提供される。このステータ1は、スロットコイル3に対してステータコア2の周方向への荷重である周方向荷重を印加する荷重印加機構を備える。これによれば、スロットコイル3は周方向荷重によってスロット5に押し付けられて固定される。また、スロットコイル3に突起等を設ける必要がないので、スロットコイルをスロットに挿入するために必要な力を小さくできる。
【0032】
本実施形態では、荷重印加機構は、別体コイルエンド4に設けられる脚部(変形部)6Aであり、脚部6Aは、別体コイルエンド4がスロットコイル3に接続された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を周方向荷重としてスロットコイル3に対して印加する。これによれば、スロットコイル3をスロット5に挿入する段階では周方向荷重が印加されないので、より小さい力でスロットコイル3をスロット5に挿入することができる。
【0033】
本実施形態の第1変形例では、スロットコイル3のステータコア2から突出する部分及び別体コイルエンド4を覆う絶縁カバー7をさらに備え、荷重印加機構は、絶縁カバー7に設けられる弾性変形部7A-7Cであり、弾性変形部7A-7Cは、絶縁カバー7が装着された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を周方向荷重としてスロットコイル3に対して印加する。これにより、上述した本実施形態と同様の効果が得られる。また仮組した別体コイルエンド4とスロットコイル3とを組み合わせる際に接続部材6が変形しないので、当該組み合わせの行程がより容易になる。
【0034】
本実施形態の第2変形例では、荷重印加機構は、絶縁カバー7とスロットコイル3との間に介装される弾性部材8A-8Cであり、弾性部材8A-8Cは、絶縁カバー7が装着された状態で弾性変形し、当該弾性変形により生じる弾性力を前記周方向荷重としてスロットコイル3に対して印加する。これにより、第1変形例と同様の効果が得られる。また、第1変形例に比べて絶縁カバー7の形状が単純になるので、絶縁カバー7の成形が容易になる。形状をなして弾性変形可能に形成されている。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。